相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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今年最後って言ってたけど、興が乗ったので。

今回がまじの今年最後です。良いお年を!


キリトレーダーってどこに売ってんの?

 妖精が蔓延る楽園。

 

 各々が羽を広げ、自由気ままに飛び続けるこの世界は人間の理想が詰め込まれた一種の理想郷。

 

 レベリングの概念は存在せず、生まれた時から全てが等しく平等。PK推奨、なんでもOK。しかし魅力をあげるとするならば飛翔機能だろう。

 

 アルヴヘイム・オンラインと呼ばれるその世界。

 独自の文化が進む文明に、天を貫く一本の大樹が聳え立つ。

 

 樹齢の推定は不可能。その木を一周するだけで何時間かかるのか。

 世界の中心であり象徴。不可侵の聖域。

 

 どこに居てもその大樹を見る事は出来、その全貌は雲に隠れ捉えることは叶わない。

 

 世界を貫く大樹。正しく世界樹。

 頂上へ辿り着くすべは存在せず、ありもしない攻略法に惑わされた妖精達はワールドクエストなどという幻想にとらわれる。

 

 世界樹の上に存在する妖精妃(ティターニア)に心惹かれて、上を目指すものは後を絶えない。

 

 世界樹の頂上。

 誰もが見ることの叶わない不可侵領域。そこに存在する巨大でありながら世界樹の一部でしかない鳥籠。その中には一人の少女が隔離されていた。

 

 ベッド、机、椅子。最低限度以下の設備しか用意されていないのはこの世界があくまでもゲームの世界だから。

 凄惨な現場。鳥を飼うよりも雑な扱い。ただ放置され、一人この場に取り残されている栗毛の少女はゆっくりと立ち上がり、檻の柵側へと歩く。

 

 巨大な鳥籠。しかしその柵は人が通れる間隔は空いておらず、どう頑張っても腕が通るかどうかという精巧さ。

 少女……アスナは、片手でそっと檻へと触れる。ナーヴギアを通じて脳に伝達された擬似的な感覚。若干ひんやりとした触り心地を感じ、しかしアスナの表情は変化することがない。

 

 ────死にたい。

 

 少女は思う。

 今まででは、SAOに入るまでは一度も考えたことの無い自死の選択肢。

 それは偏に、絶望、生きる意味の消失、世界への怒りが表れた結果。

 

 色のない瞳が雲を見下ろす。景色に対する感想は、飛び降りたら楽に死ねるだろう、というものだけ。

 

 死にたい。なぜ自分は生きているのか。そう考え、その思考に至った根源が蘇る。

 

『────アスナ』

 

「────ッッ!!!?」

 

 蘇る思い出。瞬間的に駆け巡る強烈な吐き気と悪寒に思わずアスナは膝から崩れ落ち、片手は柵に添えたままで口元を抑えて悶える。胃の中には何も無く、ただ栄養が点滴を通じて注入されているだけなのだから当然吐くものは無い。

 それでも、ひたすらに嗚咽を繰り返し、その気持ち悪さに涙が止まることはなく床を唾液と胃液で濡らす。

 

 這い蹲る。身体全体の震えは思考への拒絶を表し生命活動の否定へ繋がる。

 

 出るはずもない中身を吐き出したいと叫ぶ脳が嗚咽を強要する。それに抗うことも無く、アスナはただ口を開いてもがき、口周りを汚していく。

 

 ────死にたい。

 

 二度(にたび)思う。

 最愛の人物の死。世界の中心の消失。一年半という短くも濃密な時間に常に居た彼はこの先ずっと隣にいるものだと思っていた。それが当たり前に思うほどに、その男の存在はアスナの中で大きなものになっていた。

 

『SAOのクリアは、キミの死を意味する────』

 

「ァァあぁああああッッ!!!!」

 

 知らなかった。彼の境遇を何一つ理解していなかった。

 茅場晶彦だけが、あの世界での彼の唯一の理解者で。同棲し、距離が最も近いと思い込んでいた自分は彼からそんな相談を受けたことはなくて、それはつまり信頼されていなかったという結論に帰着する。

 

 彼は理解していた。この世界の終末は、自身の死を意味することを。

 それでも攻略組に加わり、SAOのクリアをめざしたのは何故なのか。そんなもの、決まっている。

 

 私達、他のプレイヤーを、守るためだ、と。

 その答えに辿り着いたアスナの乱心は見るに堪えないものだった。

 

 狂乱。その言葉が似合う程の暴動。

 世界の全てを破壊し尽くす勢いで周りにある物を殴り、投げ捨て、壊して回る。

 破壊不能の警告も無視して殴り、蹴り、殴り続けた。

 

 ガンガンと、鈍く重い音が天空に溶けて消えていく。

 一週間続いたその衝動が収まった後、彼女に訪れたのは自殺願望。

 

 死に場所を探した。ベッドの角に頭をぶつけようとした。それはシステムによって遮られた。

 柵の間から飛び降りようとした。すぐに検知した須郷の手によって改修され、脱出不可能となった。

 

 全て探した。鋭利なもの、硬いもの、全て。

 床に、食器に、机、椅子。あらゆるものを試した後に、彼女はただただ絶望した。死ねないことを理解して、大切な人は死んだことを理解したから。

 

 ────死にたい。

 

 少女は願った。ただ死を渇望した。

 彼の居ない世界に意味なんてないのだと。自分が存在することが何よりも苦痛で仕方が無かった。

 

 死にたいと願い、壊れろと世界を呪い、彼に頼られることのなかった自分を何よりも罵倒する。

 何をパートナー気取りで居たのだと。何故いつまでも一緒にいられるのだと思い込んでいたのだと。甘えたガキでしか無かった過去の自分に唾を吐き捨てる。

 

 死にたかった。消えたかった。彼のいない世界を見たくなかった。

 

『幸せになれよ』

 

 だけど。

 

 彼の最期の言葉がそれを許さない。

 

「────生きなきゃ」

 

 それは希望ではなく、呪い。

 死を渇望する少女に科せられた、不死の強制。

 少女の想いも、決意も全て無視し、ただ生きることを要求してくる傲慢極まりない祝福だった。

 

 少女は生きる。生きなければならない。明るい未来など期待しないこの世界で、死ぬことは彼の最期のお願い(呪い)を否定することになるのだから。

 

 アスナは生きる。この行動の意味など考えることなく、ただ無意味な生を続ける。

 光はない。ただ闇が広がるだけの道筋を、既に断崖絶壁で足元が崩れかけている崖沿いから、それでも一歩進むことを強制する。

 

 表情に変化はない。やつれ、光は灯らず、虚空を眺める屍でしか無い。それでも彼女は生を望む。望まされる。

 

「────しに(あい)、たい」

 

 もはや叶わぬ願いを口にして、少女はベッドへと戻り天を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「ヒャッハーッッ!!!!」

 

 ツーリング最高!! どうもレインだよ!! 

 

 家に一台置かれていたバイクの試運転がてら街を回ってます。病院のルートも把握しときたいしね。まあ免許はある訳だが教習を受けたことは無い。とりあえず怖かったから動画である程度学んでから恐る恐る跨ってみたら、ぶわぶわと溢れ出る存在しない記憶!! 俺はもしやバイク王だった……? という程に運転技術が天啓のように降り注ぎ、何一つ淀みない運転を披露することが出来た。気持ちィィ!! 寒っっっ!? 

 

 ていうか、乗る前に気づいたけど既にヘルメット二個あるのね? 目覚める前の俺詩乃乗せる気満々では? 惚気かぁ? おいおい〜。

 

 さてさて。先日某ラスボス様のやばさを痛感する事件が起こりましたが、そのおかげでゴミカスの汚職情報ゲッツ。軽く流し見してみたが、出るわ出るわ軽蔑の眼差し! 

 

 うん。思った以上にヤベェやつですねあいつ。アスナの涙舐めて「アマァイ!!!」って言うほどだから薄々は分かっていたが、俺が理解できる内容だけでも国民不栄誉賞金賞貰えちゃうレベルのゴミ。うわぁ、俺こいつと同じく二足歩行してんのかよ。恥ずかしいぜ。

 

 途中から見るのを止めたが、資料は驚きの三桁ページ。グラフやらなんやらと色々使ってこの大容量、卒論ってこんな感じなのかね? と近い未来に思いを馳せる。

 

 汚職データを入手できたのは僥倖。カヤバーンが俺のPCにアクセスできるとかいう事案には目を瞑るとしよう。

 となれば、次なるステップはこの汚職データを活用してくださる第三者への接触、そして引き渡し。まあ、アスナパパしか居ないよね。現状会える確率がいちばん高いのもその人だし。

 

 問題があるとすれば、アスナの入院している病院の名前知らないことぐらいですかね! がははは! 

 はい、自重します。キリトがバイクで通ってたという記憶だけはある。だからまあ、そこそこの距離ぐらいだろうと予想を立てる。それに、キリトがGGOにログインしている時に通っていた病院もそこだったはず。なら俺の家からは近いだろう。近辺の病院は二箇所。虱潰しに探すしかない。

 

 結城明日奈さんが入院してますか? とか聞けるわけねぇだろ。不審者でしかねぇよ。だから、キリトか、もしくはホームページに写真が載ってるアスナパパの姿を確認するまで病院を特定することは出来ない。今冬ですけど? 張り込みさせる気ですか? 

 

 結城彰三……アスナパパねぇ。なんだろう。友達の父親と話すのって謎の緊張感あるよね。まだ会ってないけど。

 父親と話すなんて結婚の挨拶かよ、ハッハッハ。バリバリ仕事の話なんですけどね。こいつ解雇してくださいっていう結構深めの話だし。

 

 バリバリの本職に対して如何に須郷がゴミカスなのかをプレゼンしないといけない。茅場さん制作の猫でも分かる須郷伸之ゴミカス説明書を持っているとはいえ、喋りが悪ければそれを見てもらうことすら出来ないだろうし。

 ん〜、練習するか。でも相手居ないし。詩乃なら付き合ってくれなくも無いかもしれないけどプレゼン内容意味わからんし。終始? 浮かべてるだろうな。よし、ソロプレイだ! 

 

 詩乃、といえばで思い出す。

 俺の記憶が正しければ詩乃は高校の同級生からいじめのようなものを受けていたような気がする。ごく一部からのものだったが、表情も暗いもので、人を殺してしまった過去に囚われているように思えた。

 

 けれど、昨日見た詩乃は割と明るくクラスの生徒と接していたし、いじめっ子からの呼び出しとかも無かったように見える。

 詩乃の事件そのものがなかったのか、と思えば調べてみればそれらしい記事はあった。小学生による射殺、なんて言うキラーワードは書かれておらず事実を隠すような、当事者を守ってくれる記事の書き方ではあったが、これだと思うものは見つけた。だから、事件自体は起きているはずだが、ふむ。

 

 まあ、事件があってもなくてもどちらでもいい。詩乃は友達、それが変わることは無いだろう。めちゃめちゃ心許してくれてるのは疑問ではあるが。天涯孤独で友達も居ないとか罰ゲームにも程があるからね。詩乃可愛いし。可愛い子バンザイ。

 

「探すか」

 

 思考の時間は終わり。これからは行動へと移る。

 ALO内はキリトと、恐らくユイが。現実ではなんか生きてる俺が。

 ふたつの方面から須郷を追い込む。

 

 俺が動いて未来が変わってしまうかもしれない。けれどそんなのはもう今更。俺がこの世界に生まれた瞬間からこの世界は原作とは別物なのだから。

 

 バイクのエンジン音は想像してるよりも大きく、何よりその速度感は車のそれよりも速い。

 冷たい風が、隠しきれない素肌を突き刺す。きっとこれはこの季節だけのもので。

 

「……寒いな」

 

 そんな言葉を漏らすのは、俺以外にもきっと大勢居るのだろう。

 事実、今のつぶやきは俺のものではなく隣で駐車場から出ようと準備をしている男の声で────

 

「スぅぅぅ────────」

 

 病院に着き、ヘルメットを外そうとした手を止めてゆっくりとバイクに跨り、真反対の駐車場まで動かす。自然に、気付かれないように。

 遠くから聞こえてくるエンジン音と、全身真っ黒の男が病院から出ていく姿を見送り、俺はヘルメットの中で盛大な溜息をついた。

 

「……ぶねぇっ」

 

 病院特定。寿命も縮みましたけどね。

 

 桐々谷和人くん、発見。バイク俺の色違いじゃねぇか。仲良しかよ。ああ仲良しですね。

 

 そして後日。

 

「────む?」

 

 ここからが俺の仕事。

「水素の音〜!!」もびっくりなセールスを見せつける。

 

 アスナパパに結婚のご挨拶が如く、全くの真逆なブラック内容の話し合いを行う。近くのカフェでじっくりと。周りの騒音が聞こえない人気のなさと、店内の隅の席で二人だけ。

 カヤバーンから貰った資料を見せ、予め決めておいたセリフを使っていく。

 けれどそんなものは必要なく、資料を見る段階に持っていけばこちらの勝利は揺るがない。それほどにこの資料は完成されているから。

 

「情報元は詮索しないようお願いします。質問はありますか?」

 

「……」

 

「情報元はお伝え出来ませんが、信用性は保証します。ただ、鵜呑みにはしないように。ご自身で調べて、この内容と吟味してから結論を出してください」

 

「何故ここまでするんだい? キミにメリットがあるとは思えないが……」

 

 流石に大企業社長なだけはある。その威圧感、その場の空気に惑わされることの無い芯を持っている。須郷を選んだこと以外は完璧だ。

 彰三さんからの問いかけに、一瞬ポカンとした顔を作る。そうしてすぐに元通りに顔を戻して、視線を逸らすことなく背筋を正す。

 

「友達を助けたい────それだけでは御不満でしょうか?」

 

 ここに損得勘定は存在しない。感情論と言えばそれまで。ただの俺の自己満でもあるだろう。

 アスナの顔はまだ見れない。気まずいし。けれど一度は顔を見たいと思う。

 

 起きた彼女の顔を見たい。ただそれだけ。明確な要求なんてそれだけ。

 感情に訴えることは無い。こんな俺の言葉でこの人は納得しない。ただ、俺の言葉を覚えてもらえればそれでいい。

 

 アスナが目覚めた後、家族間の関係を修復してくれるように動いてくれるように。

 

 半信半疑の父親は帰っていく。迎えの車に乗りこみ、窓から俺の事を見つめ続けていた。

 

 俺の戸籍を調べた。俺以外の家族の情報が驚く程に出てこない。仮初の名前。ただ居たというだけの情報。家族写真も、遺品も何もかもが存在しない。

 

 それに対して悲しいとか寂しいとかは不思議と感じてはいないけれど、アスナはそうでは無いから。

 家族がいるのなら、家族仲は良くあるべきだ。幸せになって欲しいと俺がただ願うだけ。

 

 俺は待つ。ただ事件が終わるのを待つだけ。

 結局は他人任せだけど。主役はあくまでキリトに託す。俺がやるのは後処理ぐらい。

 

 二日ほどが経過して、彰三さんから前回の件についての話し合いをしたいという連絡が届く。それに続く文面には謝罪と感謝が綴られていて、真実に辿り着いたのだという安堵を抱いた。

 

 なら、あとは詰め将棋。

 最後の一手を投入するだけだ。

 

【勉強会、雨宮くんの家で】

 

 詩乃からの連絡を見て、そして返信をした後に、俺は外出の準備を始めた。

 

「……え? 俺ん家来るの?」

 

 一人暮らしの男の家に女子が来るというイベントを控えながら、俺は迎えに来てくれる彰三さんを自宅で待った。

 

 雪が少しずつ降り始めた。

 

 




キリト「俺が出来る償いを……」

アスナ「死にたい」

ユイ「何処にいるの、パパ……」

レイン「バイク楽しぃィィ!!!」
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