相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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あけおめ、ことよろ。
これからもよろしくお願いします!


他力本願という素晴らしい言葉

『紹介するよ、アスナ。妹の直葉だ』

 

 お兄ちゃんにお願いして連れて行ってもらった病院の一室には、傾国の姫が眠っていた。

 

 眠り続ける姿は芸術品のようで。

 二年間眠ったっきりとはとても思えない肌のツヤと、サラサラと絹のように揺らめく長い髪。

 

 ほとんど毎日、時間があれば病院に向かっているお兄ちゃんから何度も聞いた女の人……結城明日奈さん。

 家で明日奈さんの話をする時は楽しそうで、恐ろしそうで、そして悲しそうな顔をしていたお兄ちゃん。

 

 二人の関係性まで聞いたことは無かったけど、きっと深い仲なんだろうということは容易に想像出来た。

 

 二年間眠り続け、つい最近目覚めたお兄ちゃん。それからしばらくして自覚した、血の繋がりの無い兄への恋心。半信半疑なこの想いを確かめるために着いていったお見舞いは、早々に「敵わない」と思ってしまうほどに明日奈さんは魅力的な人で、それでいて私の想いが決定的なものになった瞬間でもあった。

 

 けれど。

 

『ごめん────ごめん、アスナ……』

 

 お兄ちゃんが、眠り続ける明日奈さんに向ける言葉はあまりにも弱々しくて、懺悔のようで。

 

『俺はアイツの代わりになれないけど。それでもキミだけは、必ず────』

 

 花瓶の水を替えて、元あった場所へと戻す。その時に見えたお兄ちゃんの横顔は今でも思い出せる。

 

 初めて見た、兄の涙。

 ぷくっ、と浮き上がる程に小さな雫は、確かにお兄ちゃんの瞳に輝き、明日奈さんを見つめる瞳からは決して落ちていくことは無かった。

 

『違う、違うっ……レインは絶対、見つけるから……ッ』

 

 お兄ちゃんの口から出た、初めて聞く人の名前。

 SAO内のプレイヤーネームだろう。女性なのか、男性なのかは分からないけれど、その人の名前を口にするお兄ちゃんの顔はもう見ていられないくらいに、酷く歪んだ表情をしていた。

 

『……レイン、さん?』

 

 聞いちゃいけないと思った。けど、不思議と口は動いていて、手で塞ぐ前にはお兄ちゃんに尋ねてしまっていた。

 私の声が耳に入ってしまったのか。ハッとして目元を拭い、私の方を見るお兄ちゃんは作った痛々しい笑顔で私に教えてくれた。

 

『レインはな。SAOの中で出会った……俺の親友なんだ』

 

 驚いた。

 人との距離を詰めようとしない、誰とも一線を引いたような兄に友達が、ましてや親友と呼べる存在が出来ていたなんて。

 

 驚愕に目を見開き、続ける言葉が見当たらない私を見てかどうか、お兄ちゃんは明日奈さんの方へと視線を向けて、少し迷ってから口を開いてくれた。

 

『……アスナの、想い人でもある』

 

『……え?』

 

 思い返すように優しく微笑んだ兄は。

 それでも、瞳の奥に燻る後悔と懺悔の炎が見え隠れしていた。

 

 それがとても儚くて、痛々しくて耐えられない姿に見えた。

 だから、私は冗談めかしたように、事実思っていたことをお兄ちゃんに伝えてみる。

 

『そう、なんだ。てっきり私、お兄ちゃんとアスナさんは付き合ってるのかなって』

 

『馬鹿やめろ俺を殺す気かっ』

 

 花瓶を置いた直後、瞬間移動したかのように私の目の前に現れたお兄ちゃんは両肩を掴み顔を合わせてきた。『ひゃっ!?』と突然のことに驚いた声を出してしまったけど、至近距離で見つめてくるお兄ちゃんの眼差しに心臓が早く脈打ち、熱が顔に集まってくる。

 けれど、恥ずかしながらお兄ちゃんの目を見つめれば目がマジでガチだったので怯えた様子を見せるお兄ちゃんの恐怖の対象が誰なのか気付かない私は首を傾げて苦笑いした。

 

 それから少しだけ居て、そしてお兄ちゃんと一緒に病室を後にする。

 病院を出た瞬間に吹き込んでくる寒い風を顔で受け止めて、思わず目を瞑って風から逃げるように顔を背ける。

 隣を歩くお兄ちゃんが私の髪を乱雑にくしゃくしゃと撫でてくる。それが少し恥ずかしくて私は横腹を指で小突いた。

 

 いつもお兄ちゃんはバイクで病院まで来てるけど、今日は私が居るから一緒にバスで帰ってくれた。

 最後列の、窓際に私、隣にお兄ちゃん。周りに人は居ないけど、こうしてお兄ちゃんとの距離が近くなることが少し慣れない。

 

(……あ。男の人が女の人に土下座してる)

 

 お兄ちゃんはその後、レインさんについてのこと話してくれなかった。私から聞くことも無かったけど、それでも明日奈さんとは違い、レインさんについては話そうとしないお兄ちゃんの様子がとても悲しげに思える。

 

 家について、部屋に入る。ベッドに座って一息ついて、私はアミュスフィアを手に取った。

 

(歩道の真ん中で土下座するなんて……何したんだろ、あの人?)

 

 帰り道で見掛けた男女を思い浮かべながらアミュスフィアを装着して、ベッドに横になる。

 

『────リンクスタート』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「許してください」

 

「……何に対してよ」

 

「許してって言ってるじゃないですか!!」

 

「何も言ってないのに急に土下座したじゃない……」

 

 土下座界隈の一番星! どうもレインです!! 

 

 彰三さんが来るのが四時頃との事で、その短い時間で良いならと詩乃が我が家へこんにちはしたその帰り道なう。

 

 え? 家で女の子と二人きりでナニしたんだって? 決まってんだろ、勉強会だよ。

 びっくりするくらい勉強会でしたね。なーんにもなかったよ。ドキドキもハラハラも何も感じることなく、健全な高校生の模範みたいな勉強会で終わった。

 

 で、予定があることは伝えていたからスラスラと進んでいき、詩乃の家まで送っているところだ。某朝田詩乃ガチ勢の存在がチラつくから一人行動は不安が大きい。

 

 バイクで向かっても良かったけど、詩乃の家周りがバイクに向いていない道が多めだからというのと、歩く気分というのが二人で合致したために歩いて詩乃の家まで向かう。

 そしてその道中、天啓のように『謝らなければ!』という衝動が全身を駆け巡り、人目を気にすることなく俺は土下座を繰り出した。

 

「本当に心当たりがないんだけど……」

 

「いや、詩乃に対してじゃないけど」

 

「じゃあなんで私に土下座……」

 

 言語化が難しいんだけど……ん〜、誰に謝ってんだ俺? 最近好感度下がってきそうだなとか気にしちゃってんのか? 何言ってんだ俺。

 

「あんた一生彼女出来ないわよ」

 

「失敬な。ちゃんと居ないわ」

 

「凄むことじゃないでしょ」

 

 飛び上がるように土下座を解除。膝についた砂埃を軽く手で叩き落とす。

 幸いにも周りに人が少なかったから見物人はいないようだ。まあ、隣が車道だからめっちゃ見られただろうけど。

 

「それにしても、雨宮くんの家本当に大きいわよね。私も住もうかな」

 

「流石に無理に決まってんでしょうが」

 

「冗談に決まってるでしょ」

 

 この子は俺に対して遠慮が無さすぎる。詩乃は高校進学を機に、地方から上京してきている訳だが、この一年足らずでここまでの関係を築いてる俺すげぇ。

 

 意識が覚醒する前の俺。写真などが一切残っていないクソ仕様だったが、詩乃に聞く限りは今の俺と何一つ変わらない性格と口調だったらしい。記憶喪失も頻繁に言ってたらしいから俺のこれも冗談だと思っているのだろう。まあ冗談だけど。

 

「詩乃は彼氏作んないの?」

 

「誰かさんと付き合ってるって噂だけは流れてるけど。誰とも付き合う気は今のところないわね。相手もいないし」

 

「へ〜。俺の知ってる人? その噂の人は」

 

「雨宮零って言うんだけど、知らない?」

 

 俺じゃーん。

 悪戯心を含んだ笑みで下から覗き込んできた彼女のデコを指で弾く。「あうっ」と可愛らしい声が漏れ、それが恥ずかしかったのか頬を赤く染めて俺の足にローキックを叩き込んだ。

 

 あ、どうも。雨宮零って言います。本名初公開なり〜。

 

「知りすぎてて怖いまであるな。ていうか普通に痛い」

 

「じゃあ、もっと、痛い顔、しなさい、よ!」

 

「痛い痛い痛い」

 

 何回殴る蹴るをしてくるんだこの子は。ドメスティックがバイオレンスしてる。そうしてこの後に「大丈夫?」と耳元で囁いてくるんだきっと。DV彼氏の常套句だねこれ。

 

「ありがとね、雨宮くん。予定があるんだったら見送りもいらなかったのに。時間大丈夫なの?」

 

「平気平気。パパ活してくるだけだから」

 

「今すぐアンタを家に引き止めないといけない義務感が湧いてきたのだけど」

 

「ちなみに相手は友達の父親」

 

「ちょっとリアルで気持ち悪い」

 

「俺の恋愛対象は女の子オンリーだからね」

 

「宣言してくるのが怪しいわね」

 

 本当に大丈夫なの? と再三尋ねてくる詩乃の様子が面白くて、弄りがいがあるなと笑い、記憶喪失ネタを引っ張る。いつもの俺たちの会話だ。

 新川とは一度も会話したことがないけれど、この先必ず接触しなければならない時が来るはず。詩乃の拳銃に対するトラウマの程度がまだ分からないとはいえ、あいつは確実に詩乃を狙ってる。

 

 もう詩乃は俺と無関係ではない。関わってしまっている。

 これがキリトだったら新川持参の毒攻撃をわざと食らってキリトの目の前でもう一回死ぬのもアリだったんだけどね。いや、それもプランのひとつに入れとくか……? 

 

 けれど、詩乃の目の前で死ぬのはちょっと抵抗があるな。アスナも。

 

 ……一周まわってアリか? でも、ん〜……。詩乃の前で死んだとしてもメリットが互いにないしなぁ。どっちかに利点があれば死ぬのはやぶさかでは無いが。別にこれから人を失う訳でもないし。まあ俺は死ぬ可能性大ですけど。

 

 アスナは……ユウキが死ぬとしても、原作では悲しんでいたが絶望してはいなかったし、まあ前もって分かっていたっていうのは大きいんだろうけど、アスナの前で死ぬのはちょっと弱いか。

 

 よし、死ぬならキリトの前だなやっぱり。新川くん、良い采配期待してるッゼ!! 

 

「詩乃はさぁ」

 

「なに?」

 

「友達が殺されたら、どうする?」

 

 なんの意味もない質問。ただ思考が死についてだったから自然と出た場を繋ぐための言葉。

 

 けれど、俺はそれを言ってからハッとする。詩乃が過去に人を撃ち殺したことがトラウマになっているという事実を失念していた。

 慌てて詩乃を見る。俺の想定していた、トラウマが蘇ったことによる吐き気を催す様子はそこにはなく。少し真剣に俺の問いかけについて考える詩乃がそこにいた。

 

 悩んで、悩んで、悩んで。そんなに考えてくれるの? という程の時間を費やして、もう詩乃の家が目の前に近づいてきたというところで彼女は答える。

 

「悲しむ、かな? なんで! とか、誰が! ってなるかもしれないけど。それよりその子が死んじゃったことに悲しむ」

 

 至極真っ当な答えが返って来たことに少したじろぎ、よく分からん質問をしてしまったことを若干後悔。

 

 と、詩乃の家の目の前まで辿り着き、マンション内には流石について行かないためにここでお別れだと言うところで「けど」と言いながら詩乃は振り返り……その顔を見て、俺は心臓を瞬間的に凍らされたかのような悪寒を感じ取った。

 

「もし、その友達っていうのが雨宮くんだったら────」

 

 その瞳はあまりにも虚空で。

 口角が少し上がっている姿が少し不気味に思えて。

 

「────どこに隠れていても、犯人を見つけ出して、引き摺り出して……ぐちゃぐちゃにしてから殺すかな」

 

(ヒェェエエェエエエエ!?)

 

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。なんなんこの子? どしたどした??? ブリザード極寒ダイナマイトパーリナイですかここは? 寒い寒い寒い。背筋が凍りすぎて今俺世界で一番姿勢良い奴だわ。世界水準にしてもいいレベル。

 

 本当に怖い。なんでちょっと笑ってるの? さらに怖くなる技術習得しすぎでは? 

 

「……ふっ。冗談よ」

 

「……俺の事めっちゃ好きじゃん」

 

 怖すぎてそんなことしか言えなかった。いや、冗談説はまだ諦めてないけどね? 気迫が凄いんよ。

 

「は?」

 

 苦し紛れの俺の言葉は一瞬にして断ち切れた。いつもの詩乃の表情に戻っていてホッとするが、それはそうとそこまで好意を否定されたらなんか……うん、複雑ぅ。

 

 

 詩乃とはそこで別れ、そしてきっかり一時間後。

 

「事実確認が取れた……本当に、感謝してもしきれない」

 

「いえ。こちらにもメリットあっての事です。むしろ俺は情報しか提供していないのだから、それ以外を全て行ってくださった彰三さんには感謝しています」

 

「いいや。その情報がどれだけ大きなものか……須郷君を選んだのは私だ。もう少しで、私は許されざることを許容するところだったのだから」

 

 黒塗りの車で送迎され、向かった先は前のカフェなどではなく、完全個室の高級料亭。著名人が多く利用するような空間は密室で防音。秘密のやり取りをするのにはうってつけの場所だろう。

 高級感がすごすぎてジンジャーエールをちびちび飲むぐらいしかできない俺は貧乏性なのだろうか。

 

 それはそうと、大の大人に頭を下げられるのは複雑でしかない。友達の父親だし。

 

 氷が適度に入り、水滴が出来上がっていくグラスをゆっくりと置く。それだけでカランカランと音が響くほどに、この空間は俺たち二人以外何もいないのだという証明のように聞こえた。

 

「須郷伸之は既に海外へのルートを定めているはずです。まずはそこから叩きたい。外側から経路を潰していって、最後に本体を捕らえる……発言力の無い俺には出来ないことです、彰三さん」

 

「あぁ。勿論全てこちらで手配する。内密にね……私の選んだメンバーで良いのか私自身ですら疑問を抱かざるを得ないが」

 

「そこはもう信用するしかないでしょう。須郷の協力者のリストは先日渡した中に入っていますし、それ以外はよほどの事がない限り味方であるはずです」

 

 本当に茅場晶彦。あいつが最強なんだよね。その脳みそちょっと分けて欲しい。期末テストも満点取れそう。

 

「しかし、ALO内部に明日奈が囚われているとなると……一度、メンテナンスということにしてゲーム自体を停止させるべきだろうか」

 

「いいえ。俺たちが外側から対処しているように、内部では桐ヶ谷和人が救助に動いているはずです。そちらは彼に任せましょう」

 

「桐ヶ谷くんが……?」

 

「ええ。ああいう類のゲームでは彼は最強ですから。人脈もある。彰三さんはその補助も兼ねて、外側を潰しましょう」

 

「……キミは、本当にどこまで────いや、詮索はよそう」

 

 どこまで知っているのか。資料の出処も、未来視に等しい動向予想。

 とても不気味に見えるだろう。一介の高校生が自分の所在を見つけ出し、接触して知り得ない情報を提供する。

 

 今まで出会ったことがない歪な人間。娘のためという大義名分を掲げるからこそ俺の詳細を詮索することは娘を見放すに等しい。俺のことを調べることは出来ないし、身分も分からないけれど信じるしかない彼と俺の関係は正しくビジネス関係と言っていいかもしれない。

 

 互いに互いを利用する。目的は明日奈の救助という同じものではあるけれど、それ以外は何も一致していない。だからこの関係も今回限りなのだと、互いに理解しているだろう。少なくとも俺はそうだ。

 

「須郷を確実に逮捕できるタイミングがあります。その後、余罪を提示して彼を潰します」

 

「恐ろしいな君は。人員が必要かい?」

 

「いえ。普通に警察を頼るので大丈夫です」

 

「なら、私からも話を通しておこう」

 

「助かります」

 

 パパ活最高。一通りの話が納まった段階で普通にお食事タイムに突入。コース料理だからちょっとずつの品が提供されてるけどなんだこれ美味すぎんか? ああ、人の金だからか。

 

 女の子はこれプラスお金まで貰っているのか。なんだそれ俺もしたい。弟子入りさせてくれ。

 ダメだ。この思考は一部の人達を敵に回しかねないからやめておこう。世論を敵に回したくないっす。

 

「ん。これ美味しいですね!」

 

「────はははっ。年相応な姿を見れて安心したよ」

 

 決行は明日。キリトも明日にはケリをつけるだろう。それに合わせる。

 

 ALOどころかアミュスフィアすら持ってない俺は人でなしですか? いいえ、ゴミです。ゴミはゴミなりに働きましょうかね。

 自宅まで送ってもらい、そのまま俺は眠気に抗うことなくソファにもたれこんで目を閉じた。

 

 ────────カシャッ。

 




レインくんはまだ世界にとって自分は異物だという認識が抜けていないので、現実にいるにも関わらずまだ死のうと考えてるんですよね。
SAOで一回死ぬ感覚は知ってるから、何回でも死んでいいや!というゴミ倫理観になってる模様。
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