相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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GGO編
【急募】友達から告られた時の対処法


 人を殺した。

 

 銀行強盗に巻き込まれて、明らかに精神異常を起こしている様子の強盗犯。

 小さかった私はそんな分析も出来ず、ただただ何が起きているのか分からずに涙を流して震えるだけだった。

 

 そして、殺した。

 

 正当防衛? そんな都合のいい言葉で守れるほど私の心は頑丈じゃない。

 

 拳銃の重さも質感も、引き金の固さも、発砲した衝撃とそれに伴う肩の痛みも、火薬の匂いも全部覚えてる。忘れさせてくれない。

 

 強盗犯の眉間に出来た風穴、噴き出す血液と生気を失った瞳。

 眠る度に蘇る。こびり着いて離れない私の大罪。

 

 ニュースに私の名前は載らなかったし、そもそも犯人の乱射による誤射での死亡ということになってたけど、地元では真相を知ってる人達が口を開いては私の話が拡大していくのは目に見えていた。

 

 銃を見るとトラウマが蘇る。我慢のできない吐き気が巻き起こって、呼吸もままならない。

 指で作るままごとのような銃のサインも例外無く、連想された時点で私はもうダメだった。

 

 後ろ指を指されて、教師からも腫れ物扱い。虐められるのは当然で、そもそも近寄られることもない。

 

 高校からは一人暮らしをして、地元から遠く離れた場所まで越してきた。入学式のワクワクなんて欠片もない。知り合いや私のことを知っている人がいないことをただただ祈って、怯えながら登校した。

 

 周りの視線が怖い。見られていないのに、話し声が聞こえるだけで私のことじゃないかなと怯えてしまう。引き篭ることがなかったのは小さくも儚い生きる気力が存在したからか。

 

 目を閉じたかった。耳を塞ぎたかった。地べたに這いつくばって動きたくない、見られたくない。きっと、こんな遠い土地でも私の話は回ってくる。知っている人が現れるのなんて時間の問題だと私は分かっていた。

 

『────キャー、遅刻遅刻〜!!』

 

『……は?』

 

『え?』

 

 狙ってはいないけれど、結果的に登校時間が迫っていたのは事実だった。

 

 それでもまだまだ余裕はあって、私の前にも何人かの生徒らしき姿は見えていて、近づくのが少し怖くてゆっくりと歩いていたところに嘘みたいにフランスパンを咥えた不審者が曲がり角から現れて時が止まった。

 

『……』

『……』

 

 同い年であろう男の子。ふざけた声で走ってきたのに私の顔を見るなり固まって、少し気まずそうに目を泳がせた彼はパンを齧って咀嚼して、ゆっくりと飲み込んでからキリッとした顔で私を見つめた。

 

『────食べる?』

 

『要らない』

 

 本当に巫山戯た男。

 この人に救われるだなんて思ってもみなかった。感謝してもしきれない大恩人。本人の前では恥ずかしくて言えないけれど、本当に尊敬している。

 

 私が薄汚い殺人鬼から、普通の高校生に戻れたのは彼のお陰で。私の大親友で、恩人で、恩返しなんて到底できない程のものを貰っているけれど。

 

 だからこそ思う。

 

「お前がぁ……お前が悪いんだよ!!」

 

 友達が沢山できた。ひとりぼっちになるはずだった私を彼が救ってくれた。

 

 毎月のように記憶喪失になったなんて言うネタを擦ってきていた彼はその前後で性格も何も変わることはなくて、私と話す切っ掛けを作ってくれているのだろうと思っているけれど。

 

「お前が居るから……朝田さんは、アサダさんは普通の女の子になった」

 

 ずっと一緒に居たかった。

 恋愛感情なんかじゃない。多分、もっと別の、重たい感情を抱き始めていたのかもしれない。

 傍に居たかった。そばにいられると思ってた。傍に居させてくれる彼だから甘えてしまっていて。

 

「だから……だからァ!! これはお前の自業自得なんだよォ!!」

 

 なんでそんな考えを抱いてしまったんだろう。

 私は所詮人殺しだったと言うのに。

 

 普通の子に戻れた気でいた。どうして犯罪者が彼の傍に居られると思ったのか。

 

 目の前で倒れる彼を見る。

 そして……嗚呼、と達観したように上を見上げた。

 

 ────私のせいで、また人が死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈

 

「死にたい」

 

「は?」

 

「こっわ」

 

 期末テスト二日目。最後の勉強会なう。どうも雨宮零です。

 

 いや〜死にたいね〜。外で歩けないっすもう。

 

「どうしたの急に」

 

「予想外の出来事があって気まずいんよね」

 

「なにそれ」

 

 例の如く俺の家での勉強会。一人暮らしとは思えないクソデカ机で対面で座って、明日のテスト科目の教材を広げて黙々と勉強、普通に喋ってるけど。

 

 先日、須郷伸之の一件が終息した。呆気ない幕引きだったのはALOで直接アスナ救出に出向いていない俺だからだろうか。須郷から意味不明のイチャモンを付けられるということがあったが、そんなことはどうでも良くて。問題はその後。

 

 アスナに告白された。

 

『────愛してます』

 

 俺の名前を口にして、俺の体を抱きしめて、俺の顔を見て告げてきた。言い逃れのできないことだ。アスナは俺のことが好きらしい。

 

 え? 

 

 うん、え? 

 

 いやいやいや……え? 

 

「どう思うよ」

 

「まずは何の話かなのか説明してから聞いてよ」

 

 キリトの正妻であるアスナ。

 歳上美人、お料理上手のお嬢様。高嶺の花すぎて花子さんがブチギレてくるレベルの天下の良妻筆頭が。

 

 キリトのことが好きなはずのアスナが。

 キリトを好きでないはずの無いアスナが。

 

 俺の事を好き……? 

 

「なんでぇ……」

 

「だから説明……」

 

 頭を抱えて項垂れる俺の前から呆れたような詩乃の声。けれど俺自身呆れるほどに取り乱してるんですよね。好意を向けられるとか経験ないっすから。しかもなんで好かれてるのか全然分からんし。

 

 と、項垂れてあーだこーだ言っている俺の頬をツンツンと突っついてくる詩乃。ひんやりとした彼女の指がこそばゆく、けれど集中が全くできていない俺はぼーっと詩乃へと視線を向ける。

 

「せ・つ・め・い!!」

 

 ああ、忘れてた。俺がなんでこんなことになってるのかを詩乃に伝えずに今に至るわけで。そりゃ意味もなく項垂れたり変な行動してる俺の姿を見たらドン引きするわけだ。

 

「友達だと思ってた子から告白されて」

 

 昨日と今日のテストも全然集中出来んかったし。まあ一年の範囲だからまあまあ満点近い点は取れてるはずだ。社会以外は。

 

 ていうか、あれって告白か? ああ全然告白ですね、愛してますって最上級の言葉言ってたし。なんならプロポーズレベル。

 

「へー」

 

「薄っ」

 

 頬杖をついて、ジトーっとなんとも言えない瞳を向けてくる詩乃。

 

「もうちょい感想ないん?」

 

「私恋愛してこなかったし。ああ、もしかして夢でそうなったって言うネタだった? だとしたらごめんね気付かなくて」

 

「違うわ」

 

 だとしたら良かったんですけどね。マジで。

 いつからだ? SAO内だよな流石に。アスナは一途なタイプだろうし、ということはキリトには一切好意を向けたことがなかったってことか? 

 そう考えたらアスナ割と俺の方にグイグイ来てた気がしないでもないな。今更だけども。

 

「現実かー。学校の人?」

 

「いや全然」

 

「同い歳? 年上? 年下?」

 

「年上」

 

「可愛い系? 美人系?」

 

「アキネーター?」

 

 こいつ特定しようとしてない? ケラケラ笑って面白そうにしてる様子を見るにゲーム感覚で弄んできてるぞこの子。恐ろしい子。

 

「これ以上は言いません」

 

「え〜。これからだったのに。ケチっ」

 

「ケチじゃないし。金ありすぎて減らないだけだし」

 

「そんな切り返し初めて聞いたわよ」

 

 どうしても、先日の一件からアスナの顔が脳裏にこべりついて離れない。ふとした時にアスナの顔が浮かんでは、悩んでもがいてる。これが、恋……? 違うか? 違うな。

 

「で?」

 

「ん?」

 

「返事は?」

 

「逃げた」

 

「うっわぁ……」

 

「ガチ声やめてもろて」

 

 しょうがないじゃん。突然過ぎて動揺世界一になってたんだから。あの時の切り返しはギネスに載ってもいいレベルだと自負してます。

 

 フリージアの花も綺麗だったからって言うのと、友達ってことで「親愛」の花言葉があったから送ったけど。なんか俺告白断ったみたいな雰囲気出てない? 大丈夫そ? 

 

「最低ね」と、結構低めの声でジト目を向けてくる詩乃に言い返す気力も起きない。なんだろうなこの感じ。後悔とかじゃないけど……ん〜。

 

「連絡取ったりしてないわけ?」

 

「そもそも連絡先知らないな」

 

「よくそれで告白されるまでの関係値築けたわね」

 

「その子の父親とこの前パパ活した」

 

「ドロッドロね」

 

 現実でアスナと会う前にその父親と何回も飯行ってるの冷静に考えてやばいか? いやいや深い深い話し合いだしノーカンということで。

 

 連絡先ねぇ。もし繋がってたら気まずすぎてブロックしてるな。幸いにも連絡先なんて持ってないから耐えまくり。父親と繋がってるけどね。

 

「雨宮くんがそんなに悩んでるの珍しいね。結構気があるとか?」

 

「どうなんだろな。ずっと友達って思ってたし、いざ告白されても……ん〜」

 

「困る?」

 

「まあね」

 

 しかもアスナの家と車だったら割とすぐなんだよな。県跨げよ、なんでこんなに密集してんだよ主要キャラ達は。

 

「どうするべきかね」

 

「恋愛相談なら人選ミスと言わざるを得ないわね」

 

「可愛い顔して何言ってんだお前は」

 

「あら。褒めてくれてありがと。この問題どう解くの?」

 

「暗記」

 

 もう話切り上げやがったこの子。友達が困ってるのよ? 

 

 まあ気にせず話を続けるんですけどね。

 

「その子ともう一人の男の三人がイツメンでさ」

 

「へー」

 

「その二人が好き合ってるって思ってたから俺はそこをくっつける恋のキューピットになろうと思ってたわけよ」

 

「ほー」

 

「で、色々あって二人の前から消えました」

 

「ゴミね」

 

「話聞いてたんかい」

 

「雨宮くんはあれだよね。人の心が無いよね」

 

「泣こうかな?」

 

 カリカリとペンを走らせてこっちを見ることなく淡々と棘を飛ばしてくる詩乃。普通に攻撃力高すぎてこれが死因になりそう。

 

「気まずい。外出たくない」

 

「付き合っちゃえば良いじゃない。嫌いなの?」

 

「全然好きだけど、そういう好きじゃないと思うし……詩乃と付き合ったていにしていい感じに断るか……?」

 

「あんた刺されても知らないわよ」

 

「大前提会わなければいいのか!」

 

「世間から刺されるわよ」

 

 ん〜、と背を反らして体を伸ばす詩乃は勉強に一区切りついたようで、目一杯上体を伸ばし逸らした後に一気に息を吐く様子はなんか艶めかしくて無料で見ていいのか気になるレベル。この子はあれだ。俺の前で警戒心無さすぎて心配になる子だ。

 俺の視線に気付いて首を傾げて見つめてくる詩乃の様子は天然な様子に見えて、何時ぞやのアスナにも重なる部分がある。

 

「ま。その時の俺に任せればいいか」

 

「ふふ。修羅場になったら教えてね」

 

「詩乃にも付いてきてもらおうかな」

 

「巻き込まないでよ!?」

 

 休憩時間はたっぷりと。お菓子をつまみながらお茶を飲んで二人で駄弁る。男女の友情は成立するのだと俺は提唱したい。此処が証明。

 

 と、なんて事ない会話の延長で詩乃が俺に尋ねてくる。

 

「何か面白いゲームとかない?」

 

 テストが終われば春休みはすぐそこだ。1ヶ月も無い位のものだけど、高校のうちでアルバイトをする生徒は少ないし、必然的に暇な時間が続くのは必定だ。

 

 ALOを思い浮かべた俺だが、やはり詩乃と言えばGGOというイメージが強い。だから俺はそれを勧めようかと思うけれど、詩乃が銃の世界に身を投げるような説明が出来るだろうか。

 いや、その前に確認が必要か。

 

「詩乃はさ」

 

「うん」

 

「銃を見たら、まだしんどいか?」

 

「────」

 

 突拍子の無い俺の質問に驚いたのだろうか。目を丸くして俺を見てくる詩乃だけど、『銃』というワードについて恐怖を抱く様子は薄く見える。

 だから俺は、少し躊躇いながらも右手の指で銃を形作って上に構えてみる。

 

「……久しぶりに見たよ、それ」

 

 今度は驚かされたのは俺の方。

 きっと驚いて、そしてトラウマが蘇ってしまうのではないかと言う心配はあったし、現状を知りたいという僅かな好奇心から行った事だったが、これに対する詩乃のリアクションがあまりにも落ち着いていて意表をつかれた形に収まる。

 

「怖くない?」

 

 尋ねられた詩乃は、ゆっくりと首を横に振る。

 

「怖い。怖いよ。私の指でも、他の人でも……モデルガンなんか見たら、今でも吐いちゃうかも」

 

 銃の形を作った俺の右手をゆっくりと両手で包み込んでくる。

 ひんやりと、けれど包まれたことで仄かな温もりを感じる小さな掌で、詩乃はそのまま俺の手を握ったまま自分の額に添えて目を瞑る。

 

「でも……雨宮くんだったら、平気」

 

 それは、詩乃から俺に向けられた信頼のように見えて、とても穏やかな顔立ちから察せられる確かな安寧であり。

 

「────キミになら、殺されても良いって思ってる」

 

「────」

 

 歪で、澱んだ感情を向けられていることに、俺は気付いてしまったから。

 

(……何やったんだよ、俺────)

 

 二人の少女を、違いはあれど歪ませてしまった俺自身が怖くて怖くて……夜に爆睡した。

 考えても分からんし! 明日の俺頑張れ!!! 

 

 とりあえず、詩乃にはGGOを勧めておいた。俺も買うとは言ってない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レインが……生きてる?」

 

「うん。絶対」

 

 リハビリを行って、ようやく支え無しで歩けるようになってきたアスナの見舞いに来た時に、彼女から告げられた言葉は想像を超えたものだった。

 

「目覚めた時、絶対居たの、此処に。間違いないよ」

 

「それは……」

 

 アスナの確信を得たような口調を聞きながら、俺はそれがアスナの幻想のように思えてならなかった。

 目覚めたてで、きっと五感が上手く機能していないはずだったアスナが正しく世界を認識できるわけは無いのだと。

 見間違えたのか、それとも心が生み出した亡霊なのか。

 

 須郷との最終決戦で、突如飛来した刀はSAO最終戦でレインが使用したあの刀にそっくりだったけれど。あれは茅場によるサポートだったと本人から明言されていた。

 

 ザ・シードともう一つの贈り物。

 まだまだやることは残っていて、確認することが出来ていないそれらは今日帰ってから見るつもりではいる。

 

 レインを諦めたつもりは無い。

 けれど、希望的観測は却って絶望を強めるだけだと知っているから、俺はアスナの現状が危うくて見てられなかった。

 

「だって」

 

 栄養食も摂取して、かなり肉付きも良くなってきているアスナは外見だけ見れば健康体そのものだ。あとは筋肉次第で、直退院できるだろう。

 

 そんな彼女は、自分の手のひらを見つめながら思い出すように手を顔に近づけて息を吸う。

 

「次の日の朝、レインくんの匂いがしたもん」

 

「は?」

 

「服に染み付いてたもん」

 

「は?」

 

 真剣な表情で言う少女の姿が、ある意味危うく感じて。

 

(もう少し入院した方がいいんじゃ……)

 

 ある種の犯罪性を感じて、俺は少女に改めて僅かな恐怖を浮かべていた。

 

 そして家に戻ってパソコンを開き、茅場から受け取ったデータを見て……時が止まる。

 

「……は?」

 

 明らかにゲームじゃない、現実の写真。

 

 とても広い一室。綺麗に掃除が行き届いていると思える空間で、ソファがひとつ。

 

 頬杖をついて目を瞑る……俺の親友らしき姿がそこに写っていた。

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