相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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『死んでもいいゲームなんて温すぎるぜ』とか言ってる奴がいるらしいけど、それは死んでもいいゲームが存在する時に言える言葉だと思います

「死にたくないだろ?」

 

 そう言って、出会ってから初めてボクの髪を撫でてくれた……もっといえば、初めて触れてくれた彼は。

 

「にい、ちゃん……」

 

 きっと。

 ボクに兄が居たのなら、こういう人なんだろうと思ったけれど。

 

「意味なんて無いだろうけどさ」

 

 どうしてか泣きそうになって、けれど目を離したら消えてしまいそうだと思ったから目を離せなくて。

 

「どうせ死んでるし────奇跡ぐらい起これよな」

 

 ────人生楽しめよ。

 

 元から誰もそこには居なかったように、それほど自然に彼は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「良い友達を持ったな。明日奈」

 

 須郷伸之による、SAO生還者の一部軟禁事件。

 

 私も巻き込まれた事件から、約一ヶ月半が経過した。

 あの後、すぐにお父さんからは謝罪の言葉が送られてきた。何度も、何度も。

 家族に無関心では無いとはいえ、仕事優先の背中を見てきた私にとって、私を本気で心配して自責の念に囚われているお父さんの姿は驚いたものだった。

 

 思うところがないとは言えない。

 須郷を選んで、信頼して、私の婚約者として推薦したのは父だ。

 父があの男に自由に動ける立場と力を与えてしまったと言っていい。けれど、結局の元凶は須郷なのだから、私が父に当たることは見当違いもいい所だし、恨んでいる訳では無いから父の謝罪は受け入れていた。

 

 母は相変わらずのお父さん以上の仕事人で。

 あの人なりに私のことを心配しているのかもしれないけれど、学業の心配が大きい。

 

 けれど、私にはやるべきことがあるから。

 早くリハビリを終えて、退院して、そしてレインくんを探さないといけない。

 

 確かに感じた彼の香りと温もりは今でも思い出せる。

 朧気な視界の中で、彼だけが光り輝いて私の傍に居てくれたことを、私は確信しているから。

 

「友達……キリトくん?」

 

 二年間寝たきり、というのは思っていた以上の影響が残っていた。

 最初は物を持つのもままならず、立ち上がろうとしただけで息切れして呼吸が乱れた。

 何度も何度もリハビリを重ねて、1ヶ月経った今でも走ることは出来ていない。けれど、支えなしで歩くことはかなり容易に出来るようになってきていた。あと数週間もすれば退院出来るだろうとはお医者さんからの言葉だ。

 

 あれからお父さんは会社が危機に陥り、かなり四苦八苦しているようだ。辞任もほとんど確定だと本人も言っていたが、その決定に後悔は無さそうだ。

 そんな忙しい中でも、毎日とはいかないけれど、かなり多い頻度で私の見舞いに来てくれる。

 ほんの数分の日が多いけれど、今まで以上に交流している父との距離がかなり縮んで親子の会話が出来ているように感じていた。

 

 そして今、いつものようにお父さんが見舞いに来てくれて、果物を差し入れしてくれて二人で食べている時。不意にお父さんから言われた『友達』という言葉は、父と関わりがあると言えばキリトくんしか思い浮かばなかったからその名前を口にする。

 

「キリトくん?」

 

「あ。ええっと、桐ヶ谷和人くん。違う?」

 

 SAOに居た時の癖で、彼の名前と言えばプレイヤーネームに「キリト」が馴染んでしまっているから無意識にそちらを口にしてしまうことに、かなりあの世界に染まってしまっているなと微笑を浮かべる。

 私の友人の中で父と関わりがあるのはキリトくんぐらいのもので、それ以外の人たちとはまだリアルでは会っていないから。

 

 けれど、私が名前を訂正して伝えたのにお父さんの反応は少し別のもので。

 

「ああ、彼か。そうだね。桐ヶ谷くんにも感謝してもしきれないな」

 

「……も?」

 

 お父さんの表現に違和感が募り、何故か喉が渇いたような感覚になった。

 じわりと、手汗が滲んで唾を飲み込む。まだ少し肌寒い季節の今だけど、病室に流れる暖房の微風が少し冷たく感じた。

 

『私は結城明日奈、17歳です! はい! レインくんの番!』

 

 いつかの誓いを思い出した。

 現実に戻ったら出会おうと、そのための儀式としての名前の開示。

 初めて行った自己紹介。どうして今、自己紹介をした時の彼の困り顔を思い出したんだろうか。

 

『あー……まぁいいか』

 

 お父さんを見ているはずなのに、私の視界にはどうしてかレインくんが浮かんでいて。

 

「ああ。私が須郷君の汚職に気付いたのも、彼が情報を提供してくれたお陰なんだ……聞いていないかい?」

 

 落ち着かないと。ベッドの上で、前のめりになって父にしがみついて言葉の続きを聞きたいという欲求を抑える。

 

 半ば確信のようなものを抱きながら。

 

「なまっ……名前、は?」

 

 父が口を開くのがやけに遅く感じる。今から聞こえてくる情報は、それほど重要なものなのだと世界から言われているかのように。

 

『俺の名前は────』

 

「────雨宮零(あまみやれい)君だ」

 

 ────みつけた。

 

 絶対に逃がさない。もう何処にも行かせない。

 

 何をしても、なんと思われようとも。

 

 ────既成事実を作れば、ずっと一緒だよね? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈

 

【明日奈から君のことを聞かれたんだが】

 

「オーマイガッシュ!!!!」

 

 口止め忘れてた☆どうも雨宮零です。

 

 開幕早々絶体絶命で草超えて死。

 

 終業式の翌日、つまり春休みの到来を喜び寝る準備万全のところで彰三さんから送られてきたメールの一文目で早速絶望しました。やっべぇ。アスナから告られた衝撃で完全に忘れてた。

 

【名前を言った時、悪寒がしたので一応誤魔化しておいたが良かったかい?】

 

「愛してるぜ!!」

 

 ナイスプレーすぎ!!! ほんと彰三さん!! マジパネェぜ!! 今度いっぱいパパ活しようね♡♡

 

 デカすぎる。名前を言ってしまったらしいけれど、まあ俺の生存が知られる分には良いんだよ。会わなければいい話だからね!! ハッハッハ!!! 

 

 彰三さんには、とりあえず俺の情報は伝えないようにという旨を送信。すぐに了承の返信が届いた。安心安全のサポートだねぇ。

 

 止まっていた息を吸い込み、大きく吐き出す。手に持つスマホがソファに落ちて身体もぐったりともたれかかった。いや〜、今世紀最大の危機だったね。気まずい気まずい! 

 

 一方的にだけど、キリトにもアスナにも現実で会ってるし、なんなら俺からしたらSAOの感覚もこっちと変わらないから大した変化もない。もう会ったから満足、という訳では無いけど再会した時の気まずさを考えれば会わない方がいいだろう。俺のためにね。

 

「耐えたえ〜」

 

 思わず鼻歌を歌うレベル。相変わらず終わってるね俺。もう俺の中ではキリトよりもアスナの方が会うの気まずいんだよね。どう接すればいいか分からんし。

 キリトと再会するのは……まあ死ぬ時でいいか。今のところ死因は新川暴走ぐらいしか思いつかんけど、しょうもないシナリオだったら全然抵抗しますよ? 

 

『愛してます』

 

 あの日からもう二ヶ月が経過しようとしている。

 それでもふとした時に思い出してしまう彼女の声と顔。

 何度も、何度も、何度も。繰り返し過ぎるアスナの叫び。あの子に会うまでこのループから逃れることは出来ないかもしれない。

 

「なんで俺なんか好きになるのかねぇ……」

 

 何度考えても答えの出ない自問自答。

 きっかけなんか無いのかもしれないし、友人を目の前で失ったことによる一種の錯覚なのかもしれないけれど。

 

 あの日、あの時のアスナの瞳から見えた彼女の心は本物だったから。

 

 指を鳴らす。

 広いけれど俺以外誰もいないこの空間で響く小さな破裂音。

 特に何も起きることなく、また静かな時間が戻ってきただけ。

 

 異物である自分には、特に与えられた力なんてない。ただの人間。

 VRMMOなんて言うフルダイブ技術という先進的技術以外は元いた世界と変わることは無いのだろうけれど、キリトを中心として動いていく世界で必要とされるレベルは高い。

 

 俺がそこに入っていくのかは分からないけれど、もし仮に俺が介入するとすればどうなるのだろうか。

 

 それは俺の立ち位置。

 SAOで最初に立てた目標である『キリトの親友』という立場は確立された。けれど、アンダーワールドに入ればユージオという親友を得るのは世界の辿る必定の道。ユージオか、それとも俺が『親友その2』の立場に追いやられるのは分かりきっていることだろう。

 

 ふと、考える。

 キリトの親友、キリトの恋人。それは原作でも埋まった枠。後者はこの世界でどうなるかは知らない。なんか知らんけど俺に矛先が向いてるので。俺がその枠に入る訳が無いし。

 

 なら、俺はどの枠に入るのだろうか。

 親友という枠をふたつに増やすのか。なんか二番煎じみたいに思われそうで嫌だ。個人的にね? 

 

 ま、今考えたところでだが。

 今のところ、彼らと再会する予定は無い。何度も言うが気まずい。一度会ったらその後は問題ないだろうって? 馬鹿が。その一度目がしんどいんだろうが! 

 

 例えるなら、友達との遊びの約束は当日になった瞬間行くのが面倒になるけれど、行ってみたら結局楽しいみたいなもんだ。俺は面倒になったら行くのやめる派閥です。本当に仲良いヤツらにはそんな事しないけど。「行けたら行く」は魔法の言葉。

 

「目ェ冴えたな」

 

 なんかめっちゃ疲れた。焦りに焦って極限の数秒は思考加速により三日に感じたね(嘘)。

 疲れたけど、なんか疲れすぎて逆に眠気が吹き飛んだな。どうするか、高校も一区切りで……と言っても体感2ヶ月も経ってない……課題も無いし。何もすることないな。

 

 そういえば、と。

 須郷の一件で信頼が落ちてしまったVRMMO。元々の株主であるレクトは別の会社にALOの所有権が移るとかなんとかの話が進んでいるらしい。

 

 ザ・シードネクサス。

 茅場が産んだ種という名の卵。どうやら彼は卵生だったようだ。人間を超越してますねぇ。

 それをキリトが受け取って、エギルさんの手で世界に羽ばたいた結果、VRMMOが再発し始めている。

 

 そのなんとも言えない微妙な時期である先日、店頭で見つけて衝動買いしたALO。

 やる気が起きずに何週間も経っていたけれど、今このクソ暇な時間にちょうどいいかもしれないと初めてのVRMMOをプレイしようと決めた。SAO? あれは俺にとったら異世界みたいなものなので。

 

 俺の部屋……と言っても、家自体が俺のものだが、その中でも基本的に寝たり勉強したりの部屋に行き、まだ肌寒い今、カーテンを閉めるぐらいの寒さ対策をしてベッドへと横になる。

 

 一度も使ったことの無いアミュスフィア。机の上から動かしたことの無い軽くホコリを纏ったそれを取り出してホコリを落とす。

 そうして、なんともシャープなデザインのデバイスを頭にはめて、謎の感動を覚えながら枕に後頭部を埋める。

 

 高揚感。読者としては使ってみたいと一度は思う夢のデバイス。この技術力だけはこの世界で発達されていて、冷静に考えて数秒と経たずに身体の身動きが取れなくなるとか組織の陰謀を感じざるを得ない機能ではあるけれどそれは無視して使っていこう。

 

 なんだかんだで初めて唱える、世界へと繋ぐための呪文のようなもの。

 

「リンクスタート」

 

 なんでここだけ音声起動なんだよ、とは思わなくは無いけれど、初めて入る妖精の世界が楽しみで、キャラデザどうしようかな? とか考えてみたりして。

 

 わくわく、わくわく、わくわく。

 チクタクとなるアナログの掛け時計の音が耳に入る。待てど暮らせどその音が止まることはなくて。

 

「……」

 

 一向に起動の予兆が見えない。

 

 え? 壊れてる? 買ってから1ヶ月近く使わずに放置していたけど、それだけで壊れてんのこれ? 欠陥品かよ。

 

 もう一度「リンクスタート」と口にする。それでもまだまだ眠れません。あんこら? 

 

 一度外してみる。電源は……着いてる。損傷も見られない。パッと見は異常は無いから内部的な故障か? 割と高かったぞこれ。カスタマーサポート無いの? 

 

 ソフトも入れているし、問題は無いはずなのに……そう思いながら、右手にアミュスフィアを握った状態でもう一度横になる。拍子抜けと言えばいいのかなんと言えばいいのか。これではひとり家で『リンクスタート』という独り言を呟いた痛いやつみたいだな。

 

 詩乃は今頃GGOをプレイし始めているかもしれない。勧めたのは前だけど、春休みに始めてみるかも、という言葉を聞いているから。俺もやっているものだと考えているかもしれないけど、まさかのアミュスフィアすら起動しないようですね、はい。

 

 ボーッと天井を見つめる。本当に暇になってしまった。目を閉じとけば眠くなるかな、と目を閉じてみる。けれど視界が暗くなっただけで眠気なんて感じない。

 

 何もすることがなくなって、やっぱりアスナの顔が浮かんでしまってなんとも言えない気持ちになった俺は、本当に気まぐれに呟いた。

 アミュスフィアを装着していない今、本当に意味の無い言葉でしかないそれを口にした。

 

「……リンクスタート────」

 

 そしてゆっくりと目を開き。

 

「────は?」

 

 世界が変わっていた。

 

 ベッドに寝ていたはずの背中から感じるのはクッションのやわらかさではなく、草のチクチクした感触と青臭い香り。

 白い壁と天井しか無かった部屋から一転、木々が生い茂ったここは森と形容してもいいだろう。微かに日光が差し込んでくるほどの隙間しかないほどに敷き詰められていた木の葉は微風に揺らめき僅かに散っていく。

 

 見た目は現実と変わりない。けれど確かな違和感が拭えなくて、俺は上体を起こしてから右手……ではなく、左手を軽く上から下へとスナップさせる。

 

「わーお……」

 

 俺の手の動きに沿うように視界に浮かんだメニュー画面。3D映像のようなそれはデザインは違うけれど見覚えがあるもので、自分の手や脚、そして顔立ちを手で触って確認した後、メニュー画面を下へと動かして存在したログアウトのボタンを押す。

 

 瞬間、世界が変わる。

 大自然の中心から人工的な部屋の中……俺の部屋。起き上がった体勢のままに帰還した俺は右手からいつの間にか離れてベッドから落ちていたアミュスフィアを軽く見つめて嘆息する。

 

「なるほどなるほど……なるほど?」

 

 感覚で分かった。あの世界はALO。それはいい。よくはないがそれはいい。問題は別だ。

 

 ────どうやら俺はVRMMOのゲームの中でも死ねるようです。

 

 確かに感じた感覚。

 

 SAO同様のそれに思わず笑いが込み上げ、苦笑を零しながら俺は考えることをやめて眠りについた。

 

 

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