相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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友達に立候補します

「おんぶ」

 

「距離の詰め方どうなってるんだお前は……」

 

 はいどうも転生者です。

 いや、死んだ記憶が一切ないから本当に転生したのか分からないけど。もしかしたら転移っていう可能性もあるけど正直どっちでもって感じだ。

 

 SAOの世界に来てしまったのはもはや確定だろう。俺が元いた世界ではSAOゲームクリアの日を迎えたにもかかわらずフルダイブの機械なんて開発されていないし。

 

 座り込んだまま両手を上げてキリトにオネダリしてみる。我ながらクソキモイが、普通に色々と混乱しているから許して欲しい。

 少し引いたように顔を背けながらも、キリトは「やれやれ」と言うように俺の前まで歩き、背を向けてしゃがむ。さっすが主人公だぜい! 数多の女性を落としてきただけのことはある! 

 

「おおお……結構細い!」

 

「気持ち悪いこと言わないでくれるか……」

 

 コートの質感、布を越えて感じる骨や筋肉の触り心地はまさに現実そのもの。布の縫い目の細かいところまで再現されてるとかマジでこの世界のグラフィックどうなってんだ……と考えたところで、ふと疑問が生じる。

 

 あれ、SAOのグラフィックってこんなに良かったっけ? と。

 原作を読み込んだ訳では無い。所謂ライト勢であろう俺ではあるが、確かSAOのグラフィックは完璧では無いというような描写があったはず。

 だからこそアンダーワールドの世界の景観にキリトは驚きを顕にしていたわけだ。

 

「さっきも聞いたけど、パーティメンバーは? ソロか?」

 

「知らん。多分ソロ。気づいたらあそこに居たし。まじ感謝感謝」

 

「……本当におかしな奴だな」

 

 この世界は異常なまでに現実だ。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。まあ味覚はまだ何も食べてないから分からないけど、恐らく味覚もだろう。五感が正常に機能している。

 それはおかしいだろう。この世界が俺の知るSAOならばありえない事だ。

 

「なぁキリト」

 

「どうした?」

 

「この世界のグラフィックについての感想は?」

 

「急な質問だな……まあ、かなり現実に近しいとは思うぞ? まあ近くで見たら角張ってたりするし感触だって違うから本物とは呼べないだろうけど、充分凄いと思うぜ」

 

「あそう」

 

「聞いて来といてなんなんだお前……」

 

 やはり俺だけの認識のようだ。となれば、俺の仮定が現実味を帯びてくるだろう。それは俺が目覚めた時から抱き続けていたもの。

 

 俺の肉体はどうなっているのか、だ。

 

 ナーヴギアを嵌めて現実世界にいるのか、それとも直接この世界に転移したことから一部この世界の住人のように定義されているのか。まあHPが可視化出来たり、アイテムボックスを開けたりとプレイヤー要素満タンだし、NPCのタグがついてる訳でもないから一応はプレイヤーなのだろうが、ナーヴギアをつけていてこの世界観はおかしいだろう。

 

 故に、俺が今考えているのは後者。つまりはこの世界、SAOというゲーム自体に転生あるいは転移したというものだ。まあだからなんだという話ではあるが、この仮説が正しければ困ることがひとつ。

 

 ゲームで死ねば死ぬことはもちろん、ゲームクリアもゲーム崩壊イコール死ということなのではないか、と。

 

 結局死ぬしかないやんけ、ということだが、不思議とどうでもいいと感じている自分がいることに驚きだ。まだこの世界が現実になっているという実感が湧いていないのかもしれない。ランナーズハイってやつだ。違うか。

 

「そういえば、お前の名前聞いてなかったな」

 

 俺の考察が火を吹いていると、不意にキリトがそう尋ねてくる。名前、つまりはアバターネームの事だろう。俺も知りたいわそれ。名前欄??? なんだわ。

 

 といっても、俺に名前が無いのは不都合、毎度キリトに「お前」と言われると距離感が微妙過ぎて耐えられない。ということで俺は普通にリアルネームから少しもじった汎用しているユーザーネームを口にする。

 

「【レイン(rain)】」

 

 ん? と、何やら不思議な感覚が沸き起こり、ピピッと電子音が鳴ると共に今まで??? だった名前欄に新たに【rain】という記載がされていた。わお、そういうシステム? やるじゃんヒースクリフ。いや、これは茅場の仕業なのか? 

 

「レインか。レインはこれからどうするんだ?」

 

「キリトに着いてく」

 

「は?」

 

「え?」

 

 急にキリトが立ち止まったことでそのまま俺の腹がキリトの背中にぎゅっと押されて少し噎せる。ぽかんと口を丸く開き唖然とした表情でこちらを見てくるキリトはやはり童顔だった。

 

「なんで……いや、違う。俺の名前を知ってるってことは、俺が今どういう評価を受けてるのか知ってるんだろ?」

 

「イキリト」

 

「そんな評価をされてるのは聞きたくなかった」

 

「ゴキブリ」

 

「黒いだけでその評価は本当に最悪だな」

 

 一瞬曇った表情を見せていたキリトだったが、俺の受け答えが予想外だったのか、少し柔らかくなった印象を受けるような微笑を浮かべている。そうだそうだ、お前が曇るのは最愛の女が死んだと思った時と唯一の親友が死んだ時だけにしとけ。その方が曇り顔の価値が上がる。

 

「ゴキブリに失礼だぞキリト」

 

「お前が1番失礼だ」

 

「「……くはっ!」」

 

 あってまだ数分と経っていない。けれど俺はキリトに何故か親友の兆しのようなものを感じ取る。仲良くしていけそうな、人生で五回ほどしか感じないようなその感覚。キリトは原作では一度しか味わえなかったようだ、本当にぼっち。それでハーレム作ってるとかどんなだよこいつ。

 

 そう思ってきたら腹たって来た。

 

「死ね」

 

「急に!?」

 

 なんやかんやあって、俺のフレンド欄に早速一人のユーザーネームが登録された。キリトってこの時期もっとピリピリしてなかったっけ? 孤高の人みたいにキザってなかった? めちゃくちゃすんなりフレンドになれて怖いんだが。まあ嬉しいけど。

 

「「Lv24!?」」

 

「なんでレインも驚いてんだよ!!」

 

 俺の初期レベルがキリトよりも2高かった。怖い。俺なんもしてないのに。

 

「おま……そんな初期装備でLv24って……」

 

「ほんとそれな」

 

「お前のこと言ってるんだけど」

 

 所持金は恐らく初期費用であろう1000コル。パン食ったら終わりだろコレ。そして重大な事実に気付く。喉乾いてきた。やっば。

 

 もはや俺の感覚の全てが現実と遜色ないことは言うまでもない事実となってきている。金持ちになったらヒースクリフが言っていた「絶妙に違うラーメンのようなもの」を食べるとしよう。

 

「いや、確か刀が一本あった気が」

 

 ふと思い出したのは起きた時にそばにおちていた俺のものであろうバグっていた刀らしきもの。もしかしたらとメニューを開き、アイテムを確認すると驚くべき白さを見せる俺の所持品欄の中に一つだけアイテムが。

 

【y@#or&/_剣】

 

「クソ運営が」

 

「お前の情緒忙しすぎるだろ」

 

 唯一の武器らしきものは文字化けして使えず。まじ初期装備、というか多分初期装備よりも酷いであろう武器無しというやばさ加減。このまま行けば剣の世界で格闘術を極めることになる。アルゴみたいにネズミの髭が書かれること間違いなしだろう。

 

「……はぁ。仕方ないな」

 

 やれやれと首を振るキリトはどこか気分が浮き立っているように見える。俺から見るとプレイヤーの表情が細かく把握できるからな。多分リアルのキリトまんまの顔なのだろう。まじで髪伸ばしたら女子に早変わりできる顔立ち。ライネスのウンベールがアドミニストレータしそうな予感。アンダーワールドに行けば貞操喪失不可避だろう。南無三。

 

「売ろうと思ってたんだけど、この前ドロップした刀が一本だけあった気が」

 

「一生着いていくっす!」

 

「そうだそうだ、感謝したまえよ」

 

「いや、感謝を強要するのはどうかと……」

 

「殴っていいか?」

 

 刀を持った感想は、めっちゃ刀。The刀だった。街に戻ってから、防具も全部見繕ってくれたから本当に優しい。モテるなこいつは。あ、アスナという美人を引っ掛けるんでしたわこいつ。

 

 そうだ。この世界にはキリト以外にも原作キャラがいるのだ。アスナしかり、クラインしかり、茅場しかり。

 まさかのクラインと武器が被るという悲劇のようなものが起きたが、まあいいだろう。劇場版でもSAOサバイバーにもかかわらず一人だけALO枠でボス戦にあらわれ、シノンに立場を奪われるという悲しき男だ。

 

 まあそんなことを言っている場合ではない。SAOでは余裕で死人が出るデスゲームである。ということで意思表明をしておこう。

 

 救済をするつもりは全くない。

 

 うん、まあ目の前で死にそうだったら助ける気はあるが、わざわざ助けるつもりは無い……というかいつ死ぬかとか知らんし。ユナが死んだ日なんて知らないし、サチに関してはキリトが月夜の黒猫に所属してから直近だと分かるものの、俺という存在が及ぼす影響が分からん。俺も入れてくれなんて言えないし。

 

 だからまあ、救わないと言うよりは救えるか分からないから明言しないというのが正しいが。救うために動くことも無いかもしれない。

 

 この世界を悔いなく生きたい。俺は俺のしたいように生きる。だから俺はキリトの友人に立候補した。普通に仲良くなりたいという欲求が九割九分を占めているが、少しだけ別の思惑もあったりする。

 

 キリトは生涯で唯一の親友がユージオだと述べていた。そう、彼はぼっちなのである。

 まあ色々と事情はあるが、彼はぼっちなのだ。親しい人間を作ってこなかった故に、アンダーワールドでユージオを失った時、その悲しみは心にダメージを負わせ、ガブリエル率いる部隊が電力部を攻撃し破壊した影響をモロに受けた結果が植物人間状態というわけだ。

 

 SAOでキリトに親友はいなかった。クラインは腐れ縁。

 ここまで言えば分かるだろうか。そう、俺はキリトの親友になって、キリトのぼっち歴を早々に卒業させてあげたい。

 

『え……キリト先輩、友達居ないんですか……?』なんて、ロニエやティーゼに言われる未来があるかも知れない。そういった時のエピソードトークに俺の名前が出せるようになればミッションクリアだ。

 

 あとは、この世界がクリアされたら俺の存在は消えるかもしれないから、その事実を知った時に1回キリトの心へし折って強くすることも出来るかもしれない。ウィン・ウィンの関係だろう。

 

 まあ、そんな感じ。人の心はあるから安心して欲しい。

 

 これから先、約二年間この世界で過ごす。

 その先があるか分からないからこそ、俺は俺のやりたいように生きていきたい。けれどそれはこの世界を潰したいとか、運命をねじ曲げたいとかじゃないから。この世界の住人として、この世界の登場人物として、俺はデスゲームを楽しんでいきたい。

 

 本当に、これから楽しみだ。

 

「どうした?」

 

 何をしようか。やはりLv上げか。いや、その前にキリトから操作方法を教えてもらわないと……いや、感覚が現実と遜色ないからか体の動かし方も、全ての操作方法の何もかもが分かる。これが転生特典とか言うやつか? それにしては女神やらなにやらに出会った記憶はない。出てきたら一発ぶん殴ってやりたいが。文字化け不使用武器は許せん。

 

「楽しみだ」

 

「────」

 

 途中参加から始まるデスゲーム? そんなんするやつはpohくらいだろ。そう考えたらあいつ頭イカれてやがる。

 

 長いようで短い。2年という月日。そこに詰め込まれた濃密なストーリー。そこに介入していくことが楽しみで仕方がない。

 ヒースクリフとラーメン食うまでは死ねないな。

 

 キリトに買ってもらった赤いロングコートが靡く。そうして俺のSAO一日目は終わりを迎え、時間はどんどんと流れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ! レイン君も血盟騎士団に入ろうよ!」

 

「結構です」

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