「ねぇ……見てよ、アスナ。兄ちゃんから……レインから貰ったんだ、これ」
「ユウ、キ────」
「『あげるよ』とか言わずにさ。これだけ置いて何処か行ったんだよ? 酷いよね、ほんと。いや、嬉しいんだけどさ、すっごく」
「やめて、ユウキ……」
「ボクが綺麗って言ったこと覚えてくれてたのかな? うん、きっとそうだ。だってこれはレインがずっと持ってた愛刀だもん。レインの……魂、が……宿っ……てる、もん」
「────ッ」
「……ねぇ、アスナ」
「やめて……ッ」
「どうして、ボクは生きてるの?」
「ッ」
「死ぬために生まれたボクは、なんで今も呼吸を続けてるの?」
「ユウキ……嫌、だよ……言わないで────」
「ねぇ、アスナ」
────なんでボクが生きて、兄ちゃんが死ぬの?
◇◇◇◇
「ねぇ!! 今度のB.o.B一緒に参加しようよ!!」
「しません」
GGO買ってないのに参加出来るわけなくない? どうも雨宮零です。
春と夏と秋は何処へやら。気がつけばまたまた冬が到来してました。二年生ももうすぐ終わるのか……。まだ年越ししてないけど。
今年一年の総括としては、楽しく高校生活を過ごせましたというところか。パソコンの中におっさんがいることに目を瞑ればいい生活を過ごせているだろう。
あ、キリト達とは会ってないっすよ? 当たり前じゃないっすか。
そりゃね? キリトの家が何処とか知らないし、なんならアスナの家も知らないし。出会うわけないんですよねぇ。
まあ? SAO生還者学校はよくニュースにも流れてくるから何処かは知ってるし会おうと思えば幾らでも会えるんですけどね。会おうと思ってないから会ってないんだよ。
「雨宮くんって運動神経も良いし、絶対向いてるよ!」
「だってソフト持ってないし。まだ死にたくないし」
「私にGGO勧めてきたの雨宮くんじゃない?」
「それとこれとはなんとやら」
詩乃からの熱烈な誘いをのらりくらりと避けていく。GGOねぇ。まだALO以外のフルダイブゲームに触れてないから分からんけどどうせ生身リンクスタートでしょ? 死んじゃう死んじゃう。B級映画の一人目の死亡者ぐらい雑な死に方しそうだから却下。
ゲームの中で死ぬのはもうやっちゃったからね。展開的にも次は現実で死ぬべきだと思うわけですよ。もちろんキリトの目の前で。だから今じゃないんだよなぁ。
「俺以外にも友達居るでしょうが」
「周りの子達はゲームゲームな感じじゃないし。GGOも割とコアなタイトルだから……ガチ勢? がほとんどのプレイヤー人口でしょ?」
「お金貰えるもんなアレ」
「そうそう。だから雨宮くんも始めよ?」
「俺の所持金知ってて金で釣ろうとしてるのは愚策すぎでは?」
ありゃ? 新川とかいうゴミカスその2は居ないのか? まあ学校が違うからカウントされてないのか? ん〜? 本来なら新川からGGOを勧められて始めるんだっけか? バタフライがエフェクトしちゃってるのかね?
「GGO内で仲良くしてもらってる人達もいるけど……さっ」
12月初旬。お互いに制服を着て歩いているのは下校途中。お揃いでもなんでもないマフラーを別々に巻いて歩いている様は傍から見たらカップルか何かに見えるのだろうか。
息を吐けば白く輝くほどに寒いこの季節。
詩乃は小石を軽く蹴って息を吐く。
「やっぱり、リアルの友達も居てくれた方が心強いってものじゃない?」
ええ……これ買う流れ? 明らかな死地に出向かないといけないのでございますか?
銃なんか握ったことないし。ゲーム内の詩乃なら『慣れよ!』とか言って笑顔で脳幹に弾丸ぶち込んできそうで怖いんよ。
というか詩乃と一緒に行動してたらキリトに会うの確定では? どうせアバター作成とかさせてくれないんだからSAOの見た目と一緒でしょキリトから見たら。バレるバレる。キリコちゃんと仲良くやらせてもらおうかしら。
「考えとくわ」
「もう何回も聞いたよ、それ」
何回も勧誘されてるからね? 初回みたいな説明の仕方だったけどこれもう五回目とかよ?
「セーフティゾーン内だけなら考えないこともないけどなぁ」
「何が楽しいのそれ?」
ド正論すぎて吹いたわ。
「クエストに失敗、あるいはめっちゃ頑張ったのに報酬がゴミだったプレイヤーの帰ってきた顔を見てそれをつまみにお茶飲みたい」
「報酬じゃなくてあんたがゴミね」
GGOでは問題なく銃を見る、使うことが出来ているようで内心安心した。まあそれを聞いたのは一年近く前なんだが。GGOと俺以外ではまだトラウマが残っているようだが、それでもこうやって少しずつ回復の見込みがあるのは喜ばしいことだろう。
「ていうか、いつバイクに乗せてくれるわけ?」
「この時期は寒いぞー?」
「まあ乗せてもらうような用事も出来てないし……けど、結構期待してるんだからね」
そういえばまだ詩乃と二人乗りしてなかったか。ていうか誰ものせたこと無ぇや。そんな相手詩乃以外に居ないし。クラスの奴らは友達だけど、詩乃以上には踏み込んでないし。キリト達も乗せる予定は無いしね! 今死ねって言った?
「俺としてはいつでも良いんだけどね。乗りたかったらいつでも言いなよ」
「うんっ……ところでGGOは?」
「考えとく」
「も〜!」
これがシノンだと? もっとツンツンしてるもんだと思ってたが、この一年でその認識は空の彼方へお引越ししてしまった。まあシノンじゃなくて詩乃だけど。
GGOなぁ。買ってもいいけど、生き残れる自信は欠けらも無いし。まあ買うだけ買うか? ログインしてみて、セーフティで適当に遊んでみるか。
ログインした瞬間に目の前にキリトがいたら笑う自信があるけど。
◇◇◇◇
「分かった」
「……依頼した僕が言うのも可笑しいかもしれないが、随分とあっさりと引き受けるんだね」
静かな空間。
穏やかなピアノの音がBGMとして流れ、その他にはティーカップをソーサーに置く音ぐらいだろうか。
尤も、一番煩いのは目の前の男が無遠慮に俺へと依頼の内容を話してくる声だが。
「心不全が死因なら、アミュスフィアによる影響は有り得ないからな。それに、GGOには俺も用がある」
男、菊岡誠二郎はメガネを白く光らせて俺を見つめる。
奴から告げられた死銃という存在。既に犠牲者は2名出ており、その調査に抜擢されたのは俺だった。
SAOから目覚めた時からの付き合い。
SAOの内部情報についての聞き取りが終わったかと思えば次は別のゲームの内容と、どうやらこの男は俺の事を使い勝手のいい存在だと思っている節があるが、今回に限っては好都合なのかもしれない。
「ほう? 用とは?」
「その前に……進捗は?」
俺の問いかけに、菊岡はなんとも言えない表情を浮かべる。
「全く」
「もう少し詳しく言えよ」
「前にも言ったけど、やはり『レイン』というプレイヤーはSAOには存在はしているが、明らかな子供だ。君の言うような、君よりも一つ二つ歳上の、そして攻略組として最前線に出ていたであろうプレイヤーに『レイン』という名はどこにも無かった」
それは半年前に言われたことと同じ。
SAOの死者と生還者を含めた約1万人のプレイヤーデータを菊岡が参照した結果。
「『雨宮零』の方も何も分からない。悪いが、そこまでの権限が僕にはないというのもあるが、出来得る限りのツテは使ったが」
「いや、いい。引き続き頼むよ菊岡さん」
「キリト君から何度も聞かされているが、それでも本当に居るのか疑わしいと思ってしまうよ」
「居るに決まってるだろ。二度とそんな事言うなよ菊岡さん」
鋭い目を向ける。対面する菊岡は軽く両手を上げて降参を表すように首を小さく横に振った。
「キリト君にそこまでの顔をさせる男だ。会ってみたいものだね」
思い出す。俺がGGOに用がある理由。
『あ。そういえばお兄ちゃん』
つい最近、家でスグから言われたこと。
『お兄ちゃんの知り合いでALOのアバターが人間のレアスキンの人居る?』
『そんなアバターがあるのか? ……俺の知り合いには居ないけどな。それが?』
『ん〜と。もう随分前なんだけどね。「キリトにGGO練習しとけって伝えて」って、私のプレイヤーネームも言い当てられたの』
『なんだそれ……そいつの特徴は?』
『えっとねぇ。すっごく強いよ。不意打ちしたのに一瞬で腕切られちゃったし。刀使いで……薄い桃色? 桜色って言った方が良いのかな? そんな刀持ってた……どしたの? そんなに目を開いて私の事見て』
すぐにALOに潜って、探し回ったけどついぞ人間のアバターは見つからず、そういう話も聞かない。
本当にそれがレインなのかもわからないし、どうしてスグの名前を知っていたのかも気にはなるけど、GGOがなにかの手がかりになるのかもしれないと、ログインしようと思っていたところだった。
確信めいたものを感じていた。
理由なんかないけれど、GGOにレインに繋がる何かがあるのだと。薄く敷かれたレールに従って、俺は道を進んでいく。
その先に待ち構えているであろう親友を求めて。
銃の世界。魔法の世界とは全く異なる、リアルを追求した血腥い世界。
夢も希望も全てを打ち砕かれる、火薬が舞う世界に俺は飛び込む。
そこにあいつがいるのかは分からない。けれど俺は一欠片でもあいつに繋がるものを求めて細く垂らされた糸を握る。
俺にとって、もはや馴染みがあると言えるほどにお世話になった病院の一室。そこから俺は新たな世界へと意識を潜らせた。
「……リンクスタート」
やはり変わらない言葉。現実から仮想空間へ意識を切替える一種のお呪い。
今までで最も熾烈な攻防になるであろう世界へと俺は一歩踏み出した。
「遅か……おっほ……」
「……は?」
一年近く探し求めた存在は、呆気なく見つかった。
レインがいる世界線の原作ではレインの心情描写は無いです。レイン視点で語られることもないし、SAO終盤まではアスナ関連以外ほぼ空気。
カヤバーンの一件から最重要人物に変わるわけですが。