A 某天才「私です」
「あれが本物なのか気になる?」
その男は、俺がどういう存在なのか知っているにも関わらず狂気的にも思える笑みで近寄ってきた。
「……」
「ははっ。無口なのはSAOからなのか? ザザ」
「……オマエハ、ナンダ?」
当然のように名前を言い当ててきた男の顔は全く見覚えがなく、一方的に知られている気持ち悪さが肌を走る。
「ただの屍人だよ────」
笑って。知り合いに話しかけるように距離を詰めるその男はなんの躊躇いもなく俺の懐まで近づき胸に拳を当ててくる。
「俺と組め、死銃」
────どうせなら、綺麗に散りたいだろ?
悪魔の囁きを聞き入れる。
それは抗いようのない誘い。
決して只人から感じていい悪寒ではなく。
極上の毒林檎に、俺は無心に齧り付く。
「……楽しもうな?」
気付けば、俺の手は男に握られていて所謂握手を行い了承の意を示していた。
その時にはもう、その男の笑みは人懐っこいものに戻っていて。
それがとても、気持ち悪い。
◇◇◇◇
はい、本戦進出けってーい。どうもレインだよ。
いや〜、思ってたよりもすんなり行ったわ。転移した瞬間に人の気配がする方向に二三発ぶち込むっていうのを繰り返してたら一瞬で終わったぜ。
ていうか、試合のスパン短すぎん? 相手が終わり次第転送されてなんか疲れたわ。モニター上にはいくつもの試合映像が流れているから俺は結構早いほうかな。
あ、キリト棒立ち。やっぱザザと話した後だったか。
ザザが結構やる気に満ち溢れた感じしてたからキリト発見後だろうなとは思っていたけどやっぱそうだよな。ごめんよぉ、キリトぉ。俺ァ、ザザの相棒枠に収まっちまったぜぇぇぇ?
さて。俺のメインプランである第三者傍観ポジは大会にエントリーした時点で崩壊した。だからこれはさっき思いついたサブプラン。敵側やってみたくね? 大作戦である。
うんうん。素晴らしいね。我ながらアッパレだぜ。
本戦は明日だけど、当日にザザ見つけられるか分からんし。早めに会えて良かった良かった。
敵側やってみたいじゃん? (突然)
どうせ死んだら死ぬんだしさ。やりたいことやっときたくね? まあまだ死ぬ予定では無いよ? そんなポンポン死んだら疲れるでしょ? 次また生き返るか知らんし。
再会した途端の死っていうプランも考えたよ? けど違う……違うんだよなぁ。それは雑魚の思考だァ!!
俺という存在の生存を確認して、同じ時間をある程度過ごしていって────俺が生きていて一緒に過ごすという時間が日常化してから死ぬんだよォ。
これぞ飴と鞭ってネ!! ハッハッハ! 天才かな? 俺。
死ぬ死ぬ言っといて自分のプラン通り死ねなかった時は笑うけど。死ねるのか俺? イベント新川しか無いぞ? マジ頑張れよお前? 詩乃に手出したらマジで殺すけど、ボコボコにされるのは俺の事殺してからにしろよ?
「あ、居た」
「ん。おつかれ」
「まだ決勝が残ってるけどね」
と、俺の計画のパーフェクト具合に自画自賛腹筋崩壊てってれてをしているところにシノンと合流。トテトテと、猫か犬か分からんけどそんな感じで寄ってきたシノン。
「レインは? 順調?」
「俺はもう本戦決まったけど」
「嘘!?」
めっちゃ驚いてる。耳キーンってなったわ。そんなに驚くこと?
「ほんとほんと。Aブロックもう終わってるだろ?」
「……」
じっ、とトーナメント表を見つめたシノンはもう一度目を見開いてから息を吐く。
「……ツール使った?」
「馬鹿やめとけ」
まあツールのようなもんだけどね? その副作用で弾道予測線見えないんだからトントンだよねぇ。
シノンのジト目を受けて俺はなんのその。ただただ見つめ返して、見つめられての繰り返し。
先に音を上げたのはやはりシノン。
「……はぁ。まぁいいわ。これで私とレインが本戦進出は確定だね」
サラッとキリトのこと省いてやがる。キミよりも早く決勝決まってたからねアイツ?
と、視界の端に映るキリトの姿を今更見つけたようなリアクションを取ってシノンが俺に身体を寄せてきた。だから当たってるっての。
「ねぇ」
「胸ぇ?」
本気の鳩尾突きに悶絶。なんでセーフティゾーンだと痛覚はそのままなのだろうか。圏内で死ねる唯一の存在ですよ俺。
「アイツ、なんかおかしくない?」
「おかしいのは蹲った俺の手を踏みながら平然と話してるお前だよ」
「なんか様子が変って言うか……なんかモヤモヤする」
「恋じゃね?」
顎下を蹴り上げられた。その短パンで蹴り上げやめろ? もうちょいで見えたぞ。
「一回戦が終わってからずっとああだし……」
「俺が死んだトラウマでも思い出してるんじゃね?」
「じゃあ今私の前で蹲ってるのは誰よ」
「俺」
「今世界で一番無駄な時間過ごした気がす」
る、まで言うことなくシノンが強制転送。キリトも同時に消えたから決勝が始まるのだろう。見ないけど。
で、数分後。
「着いてこないで」
「ごめんごめんごめんっ!!」
また寸劇が始まったようだ。
「着いてこないで」
「本当にごめんって!? ほら、その場の流れみたいのあるだろ!?」
「……誰? あなた」
「記憶から消されたッ!?」
「何やってんのお前ら??」
早歩きで距離を離そうとするシノンと走らずにけれど必死に説得のような、許しを得ようとするようなキリトが追走する。
と、俺を見つけたシノンがこちらへと駆け寄ってくる。その後ろにいるキリトは俺に助けを求めるような目を向けてきた。
「あの人に腰を触られたの。ていうかあなた誰ですか?」
「本当にごめんってば!! レインッ、誤解を解くの協力してくれよ!!」
「誰お前??」
「ァァァああああああああぁぁぁ!!!」
スピーカーが寿命迎える瞬間みたいな声出しててウケる。
「レインっ、今冗談を言う流れはもう終わったから!! マジで助けてくれ!!!」
「あの、触らないでもらってもいいですか……?」
「距離感!!!」
詰め寄ってきたキリトをシノンが蹴り飛ばす。はっや。
で、何故か俺の腕にシノンの腕が絡んできて、距離がゼロに。
「本当に気持ち悪い。少しでも心配した私が馬鹿だった……死ねばいいのに」
「ゴミを見る目が痛すぎるッ」
「まだ?」
「え?」
「早く死んでくれない?」
「だから怖いんだよお前っ!!!」
とても面白い会話だけど、俺にくっつくのやめてくれないかな。周りの男どもの目が痛いのなんの。
「死ねよモテ男が」
聞こえてんぞモブ。
しれっと見てるの分かってるぞザザ。そのマントビリビリに破いてやろうか。
まあなんにせよ、キリトの調子が戻って何より。
このまま本調子に戻ってから幸せゲージを溜めてもらわなければ。
で、ピークになりつつあるところで俺が死ぬと。素晴らしいね。
────そして、翌日。
「……」
「あの……」
「……」
「シノン……さ〜ん……」
「……」
二人の仲が最悪なまま、B.o.B本戦がスタートした。
「んじゃ、場が整ったら合流しよう」
「トメナイ、ノカ?」
B.o.B本戦会場でもある絶海の孤島。銃の世界ならではの規模。対面で遭遇することは時間がたたなければないだろうと思ってはいたけれど、見知った気配が近くにいたから近づけばそこに居たのは骸骨男。
気配消して近づいてたから肩トンした時にビクゥッってしててクソ笑った。
「別にあんたが何人殺そうがどうでもいいよ。俺の周りに手を出さなければ」
「……アノ男ノナカマトハ、思エナイナ」
「その喋り方なんなの?」
ずっと聞こうと思ってたけどそれなんなん? あと声質が終わってる。ザザッてノイズ走ってるからザザなの?
「まあいいけど。先に言っとくけど、シノンは殺せないぞ」
「……死銃ニ、気ヅイテイル、ノカ?」
「気づいたって言うか、知ってるだけだがな……今俺の横で寝てるよ。シノンの家はもぬけの殻ってネ。弟さんに雑魚乙って言っといて」
「キミガ、ワルイナ、オマエハ」
「あんたの見た目には遠く及ばないけど」
さてさて。そろそろ行動に移りますかねぇ。
「別にシノンを倒そうとしてくれても良いぞ。キリトがそうはさせないだろうけど」
◈◈◈◈
「ねぇ。レインと合流を目指さないの?」
「そうしたいのは山々だ。けど、レインの姿がずっとサーチに引っかからない。まだ負けてない筈なのに……合流はかなり難しいだろうな」
B.o.B本戦が始まって一時間ほど。もうかなりのプレイヤーが脱落していて、半分も残ってはいない。
シノンと早々に合流できたのは良かったが、肝心の死銃の正体が掴めないまま、そして何よりレインの居場所が全く分からない。
早急に、レインの居場所だけでも突き詰めて合流をしたいものだ。なぜなら。
「……あの、そこまで露骨に距離を取られると流石に心が」
「近寄らないで変態。こうして行動してあげてるだけでも感謝してよね。それ以上近づいたら撃ち殺すわよ」
俺の好感度が地の底から復活しないのだから。
「俺とレインで対応の差が凄すぎないか……?」
「別に。普通の人には普通の対応をするわよ」
つまり、俺が普通の枠組みにすら入れないのだと。辛口過ぎて泣きそうになるがグッとこらえる。
シノン。
この世界に来て初めて行動を共にした少女。今では好感度がマイナスに振り切ってはいるが、最初は本当に親切にしてくれていた。それがこの子の素なのだと信じたい。
そして。
「なぁ、シノン」
「……………………なに」
俺はずっと聞きたかったことを聞く。
「レインとは、どういう関係なんだ?」
「はぁ……?」
レインとの再会。その際にレインの隣に当然のように立っていたシノンの存在。
この関係を聞くまでは怖くてアスナにレインの生存報告が出来なかった。返答次第によっては閃光の軌跡が赤に染まる可能性すら出てくる。主に俺。
親しげ……という言葉も生温いかもしれない、シノンのレインに対する距離感。
隣にいるのが当然だと言うような立ち振る舞い。その全てが俺の死を予感させる。
「別に……ただの友達よ」
ビクビクとしながら返答を待つ俺を見て、数秒溜めてからのシノンの回答は安牌なものだったけれど、それだけで表現出来るような関係では無いという直感が働く。
「彼は……私の恩人」
そしてそれは、思わぬ形での返答になって。
「恩人……?」
そう語るシノンの顔は余りにも真剣そのもので、悲愴が見え隠れする……小さな少女の姿。
「孤独で、罪悪感と自己嫌悪に押しつぶされて死にそうだった私を救い出してくれた命の恩人────」
その瞳は、余りにも────
「……私を殺してくれる、唯一の人」
恋する少女のような微笑みから発せられる言葉では無い。
余りにも、狂気的なまでの信奉。
知っている。その瞳を、その感情に似たものを、俺は知っている。
その危うさを。儚い在り方を。
些細なことで崩れ去るその感情を。よく知ってる。
だからこそ。
「────ああ」
この光景は、余りにも残酷で。
「……なん、で」
機械仕掛けの馬に跨がる死銃と、それから逃げるようにバイクにまたがる俺と、後ろに座るシノン。
そして────
「────殺しに来て、くれたんだね」
この世界最速の移動手段であろう馬に並走するように、建物の上を高速で移動する男の姿。
「……お前はっ、そっちに行くなよ……!!!」
その男の瞳は余りにも無。
冷徹に、残酷に。
その銃口は、俺たちに向けられていた。
「シノンッ!! 銃を構えろ! もうすぐ揺れが収まるからあいつを狙撃してくれ!!」
「……いい」
「シノン!!!」
「もう、いい……」
何度も触れるなと、近寄るなと言われていたのに。今では肩を揺らしても反応が全く無い。
その虚構は、もう、一人の男にしか向けられていなくて。
「ッ────レインっ!!!」
死銃なんかよりも恐ろしい敵。
「シノン、頼む!!! 撃ってくれ!!?」
俺の叫びは決して届かない。
わかってる。もうシノンの心も生殺与奪の権利も、あいつが握っているのだから。
「……何やってんだあいつ」
口を小さく動かした俺の親友は、躊躇いなく引き金を引く。
余りにも残酷に。
時が止まった俺の後ろで、シノンは恐怖ではなく喜びのような感情を見せて。
「────馬鹿が」
────リンク・スタート。
Q B.o.Bの戦闘って逐一中継されてなかったっけ?なんでレインの存在が最後まで中継されてないの?
A 某天才「面白いかなって思っちゃいました☆」