相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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それでも、君に

 やっと。

 

 やっとだ。

 

 待ち望んだ。

 

 私の、死神。

 

 私だけを見て、私だけにその刃を向けて。

 

「────リンク・スタート」

 

 その手で、私を殺して。

 

 

 世界が、変わった。

 

 ここは何処なのか。分からない、分からない。

 

 何も見えない、何でも見える。

 

 何も無い、一面が花畑だ、焼け野原だ、砂漠だ。

 

 黒くて、白くて、青くて赤い。

 

「記憶の結合」

 

 ふと、声が聞こえた。

 

「それに伴う追憶」

 

 何処だろう。何処から聞こえてくるのだろう、私の死神の声は。

 

 分からない、分からない。

 

「中々に動いたっぽいな、俺」

 

 広い、どこまでも続く闇、光。

 

 この空間の広さが分からない。ただただ広い。

 

 なのに、チャカっ、と。

 

 聞き馴染んでしまった、脳に焼き付いて離れない音が響いた。

 

 反響して、小さくなっても決して消えない、消えてくれない音。

 

「まあ腐っても俺か。行動指針のすべてが理解できるし、俺でもそうしてる」

 

 どこを向いているのだろうか、私は。

 分からない、分からない。分からないから、上を見上げる。

 

 歓喜した、恐怖した。

 私に向けられる銃口に笑みが浮かぶ。

 

 知っている。その銃を、知っている。

 

 私が殺し、私を殺す唯一の凶器。死神の鎌。

 

「理解した上で……分からないな」

 

 銃口が見える。引き金にかけられた指が見える。けれど、それだけ。

 

 そこに居るはずの死神も、何もかもが見えない。あるのは私を殺す銃口だけだ。

 

「なんでそこまで狂ったんだろうな」

 

 私を救ってくれた死神。

 私を殺してくれる恩人。

 

 貴方だけ。

 

 貴方だけが私を裁いてくれる。

 私を解放してくれる。

 

 待った、待った。

 やっと報われる。

 

 死ねる。

 

「俺に殺して欲しいのか?」

 

 迷わず、首を縦に振る。

 

「死にたいのか?」

 

 ────迷わず首を横に振る。

 

「生きたいか?」

 

 何を言っているのだろう、この人は。

 

 迷わず、首を縦に振る。

 

「俺に殺して欲しい」

 

 首を縦に振る。

 

「俺に助けて欲しい」

 

 首を縦に振る。

 

「俺に守って欲しい」

 

 首を縦に振る。

 

 何度も、何度も、何度も。

 

 数えるのも億劫になってきた問答。早く殺して欲しいのに、どういう意味があるのか分からないこの時間を耐えて、私は来たる裁きの時を待つ。

 

「俺はお前に生きて欲しい」

 

 ……。

 

「お前が死ぬことは許さない」

 

 …………。

 

「『その時』まで、お前と一緒に過ごしていきたい」

 

「ねぇ」

 

 そこでようやく見えた彼の顔は。

 

「まだ殺してくれないの?」

 

「────」

 

 感情も動揺も感じない。

 まるで木に話しかけているかのように。

 

 私もまた、首を傾げて語り掛ける。

 

「その銃で私を殺してよ。その手で私の首を握りしめてよ。その足で私の体を踏み潰してよ」

 

こいつやっば

 

「髪をちぎって。目をくり抜いて。爪を剥がして。歯を砕いて。耳を切り裂いて。指を捻りとって。喉をさいて。骨を粉々にして。お腹を貫いて。心臓を握り潰して。肺を破裂させて。脳髄をぶちまけて」

 

 ああ、そうだ。

 

 余りにも、この世界は……眩しくて、残酷だ。

 

「私の事を、殺してよ」

 

「殺さねぇよ」

 

 どうしてなのだろうか。

 彼は私の言葉を拒否する。

 

 その手に握っている銃の引き金を引けばいいだけなのに。

 

 理解が、できない。

 

「俺は近いうちに死ぬ」

 

 ────────。

 

 理解が、できない。

 

「そして、雨宮零という存在をお前達は()()()

 

「……なに、いってるの」

 

「ここでの会話を、()()()()()

 

「あなたは────」

 

 確かに姿を現した彼は、私の思い描いていた通りの人物で。

 

「────誰、なの?」

 

 色の宿っていない瞳。比較的整った顔立ち。

 

 知っているのに、知らない。

 器と中身が釣り合っていないような違和感。

 確かな気持ち悪さに後ずさる。

 

 ────何処、ここ……。

 

 途端、冷静になった思考。

 

 周りを見渡しても何も無い。ただ、真っ白な空間に私とその男は居た。

 

「────ふむ」

 

 声は明らかに彼のものなのに。抑揚だとか、雰囲気だとかがガラッと変わった。

 

 変わらず見下ろす男は表情を変えることなく、握られていた拳銃もいつの間にやらどこかへ消えていて、腰に手をあてると思考に耽ける。

 

「上手くいかないものだな。ロールプレイングはあの世界でやってきたつもりだが。やはり他人の真似の才は無いらしい」

 

 少しの微笑。僅かに口角をあげたその男は、雨宮くんの声のままに一人つぶやく。

 

「記憶のインストールを行って。果たして、いつから気付かれたのか参考までに聞いておきたいが」

 

「桜……?」

 

「時間も無いようだ」

 

 白く、ただただ白い空間に。

 一枚の桜の花弁が舞い降りて。

 

『あんたに頼んだのはこんなことじゃないぞ』

 

 空が、罅割れる。

 

「なぁに。少し、私にも思うところはあるのでね」

 

『人の記憶勝手に見やがって。何、神様かなんか?』

 

「私もおいそれとそのような御業を出来る訳では無いさ。性質上、親和性の高い君だからこそ出来たこと……もう一人可能性があるとするなら、星王となった彼くらいか」

 

『────そこまで見たのか』

 

 割れた空は破片が落ちてきて、それが桜の花びらとなって次々に私の視界を埋め尽くす。

 

『あんたが何話してたのかは知らねぇけ……ど────まじかよ』

 

 その声はどんどんと近づいてきて。

 

『中々に動いてたっぽいな、俺』

 

 それは、どこかで聞いた言葉。

 

『まあ腐っても俺か。行動指針のすべてが理解できるし、俺でもそうしてる』

 

 私の前に立つ、白衣の男。その顔は覗き見ること叶わず、降り注ぐ桜達が視界を埋めつくした後に耳元で聞こえてきた愛しい声色。

 

「これだけは覚えとけ、詩乃」

 

「ぁ────」

 

 唐突で、激しい眠気。クラクラと頭が揺れてまぶたが何よりも重い。

 

 朧気になる五感。けれど、確かな温もりに包まれて私の体を抱き寄せた彼の匂いは変わらない。

 

「俺が生きてる間は、死ねると思うなよ」

 

「────ぁ、ぇ」

 

 ゾクゾクと全身を駆け巡るこの感覚はなんなのか。

 

 それがなにか考えるのも束の間、私の意識は外へと放り出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────シノンっ!!」

 

 呼ばれてる。目を開ける。

 

 随分と乗り心地の悪いバギーに跨がって、耳元から煩わしい男の声が響いてくる。

 

「頼む、シノンっ!! 撃ってくれ!!!?」

 

「────五月蝿い」

 

 長い、長い夢を見た気がした。

 

 ────俺が生きてる間は、死ねると思うなよ。

 

 その言葉だけは覚えていて。

 

「────それでいい」

 

 揺れて照準が定まらない中、私はまず建物の上を走る雨宮くんに向けて引き金を引く。その後すぐに銃弾の装填。死銃へと次弾を放つ。

 

「■■」

 

 雨宮くんの体にまっすぐと放たれたへカートの一撃は一刀の下に切り伏せられて、死銃への一弾も雨宮くんが駆けつけて切り飛ばした。

 

 けれど、両断された銃弾は騎馬を撃ち抜いて脚が吹き飛び、雨宮くんは死銃の体を抱えて離脱。そのすぐあとに引火した騎馬は壮大な爆発を見せた。

 

「シノン……キミは────」

 

「……一度態勢を立て直すわよ。この先に洞窟があるわ。そこをめざして」

 

「お前も銃弾ぐらい斬れよ、ザザ」

 

「一緒ニ、スルナ、カイブツ」

 

 爆煙から垣間見える彼の姿は、いつも通りで。

 

 私を安心させてくれる微笑みを一瞬向けてくれたからこそ、安心した。

 

 それが、それこそが停滞なのだと……考えないようにして、私は進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈

 

 

「1VS1の構図はちゃんと作ってやるよ。次が最終決戦だ。行けるか?」

 

「問題、ナイ。オマエコソ、ヤツラニヤイバヲ、ムケラレルノカ?」

 

「当たり前だろ────これはゲームであって、遊びだぞ?」

 

 

 ◈◈◈◈

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────は?」

 

 思わず漏れた声。

 何を言ってるのか分からないと。シノンにもう一度繰り返すように尋ねる代わりに出てきたたったの一音。

 

 シノンに指定された洞窟で休息を取る俺達。

 今後の行動、対策。正気に戻っているシノンとの話し合いの中、俺はレインとの関係性をシノンへと伝えた。

 

「だから……それは有り得ないわよ」

 

 けれど、シノンから返ってきた言葉は俺たちの関係性の否定。

 確かな根拠にもとづいた、真実の拒絶。

 

「SAO事件って確か2022年から2024年の冬あたりまでの二年間、ゲームの中に閉じ込められてたってことでしょ? 私とレインが出会ったのは高校の入学式で去年の春……2024年の4月よ? そこから今まで、学校でずっと会ってたのに……有り得ないわよ」

 

「いや……そんなはずは無い。レインは確かにあそこに居た。あいつは本物だ、間違えるはずがない……」

 

「けど、彼はSAO事件中にも私と現実で過ごしていたのよ……間違いじゃ、ないの?」

 

 シノンが嘘をついているとは思えなかった。

 それほどまでに、当たり前のことを言っているという表情をしていたから。

 

 何故か喉が渇く。それはここが荒野だからなのか。病室の暖房を効かせ過ぎたからなのか。

 確かな違和感。見落とし……では無い。ただ、知らない。俺は重大なことを知らないのだと。

 

 そうだ。

 SAOの中で過ごした二年に迫る時間を共にすごしたレインのことを、俺は知ったつもりでいただけだった。

 何も知らない。俺は、レインの上辺しか見れてなかったんだ。

 

『────半年前か。君が私の正体を言い当てたのは』

 

 あの世界でレインのことを一番に理解していたのは、俺でもアスナでも無い。茅場晶彦だった。

 

 やつの口ぶりを今更に思い出せば、その内容は理解の追いつかないもので。

 レインについて調べたのではなく、本人から直接伝えられたのだということが分かる……俺達には、何一つ開示してくれなかったのに、だ。

 

 そして……今度は、死銃か? 

 

 俺は? 

 

 俺は一体なんなんだ? 俺はあいつの親友だろ? 

 レインが真に俺を頼ったことはあったか? 俺はレインにずっと寄りかかってただけだ。サチの時も、全部。

 

 俺とシノンとの中にいるレインの時間軸の相違はもうこの際どうでもいい。あいつが俺にとってのレインだということに変わりはない。そこはまた今度問い詰めればいいだけ。

 

 SAOのクリアが、レインの死に直結する。

 

 そんな情報が茅場晶彦にだけ伝えられ、俺たちに……俺に伝えられなかったのは何故なのか。

 

 ────全て、俺の弱さが原因だ。

 

 力も、精神も。何もかも。

 レインが消滅した時もそうだ。俺はその事実を受け止められなくて動くことが出来なかった。それを見越して、あいつは俺にそのことを伝えなかったんだ。

 

「キリト……?」

 

 何を慢心しているんだ、俺は。あの世界で何を学んだ。

 生と死は隣り合わせ。さっきまで笑いあってたやつが今では命を散らしているというのは有り得ただろうが。

 

 ────そんなことは、究極的にはどうでもいい。

 

 何を苛立っている。何が俺を苛立てている。何が引っかかっている。

 

 ────そいつ(デスガン)を選ぶんだな。

 

 そいつの隣に立つのか、お前は。

 俺じゃなくて、そいつを。

 

「────────」

 

 ……そうか。

 

 そうだよな。

 

 俺が弱いから、そいつを選ぶんだよな? 

 

 俺に任せられないから、お前は死銃の隣に立ってるんだろ? 

 

 分かった。

 

 証明するよ。

 

 お前が選んだ死銃を倒して……証明してやるよ。

 

 俺が。

 

 俺こそが。

 

「────お前のアイボウ(シンユウ)だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんか寒くね?」

 

「ムシロ、暑イクライ、ダガナ」

 

「なんか、ゾワゾワって来たわ。ちょいと身体寄せて……全身フルメタルに温もりを求めたのが間違いだったわ」

 

「……コレデモ、キテイロ」

 

「え? コートくれんの?」

 

「決戦デ、ヘマヲサレテモ、コマルカラナ」

 

「……お前、やっぱ殺人向いてねぇな。敵キャラの中じゃわりと好きだよ、ザザのことは。弟は死んでもいいけど」

 

「────人殺シニ情ヲカケルトハ、バカナ男ダ」

 

「馬鹿なのはその喋り方を徹底してるお前だよ────さあ、始めよう」

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