相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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◇注意◇

レインくんはこういうやつです


まあ一件落着でしょ

「子供作ろ?」

 

「作りません」

 

「男の子? 女の子?」

 

「なんでこいつこんなことなってんの?」

 

 求婚断ったら子作り迫られました。どうも雨宮零です。

 

 一応アスナって俺より一つ歳上なわけで、年上のお姉さんから迫られるというシチュは誰もが憧れたものだろう。

 実際に体験した俺が感想を述べよう。

 

 ガチすぎて怖い。

 

 目がね。血走ってるのこの子。あの場でも周り気にせず子供子供結婚結婚と止まらなかったから仕方なしにエギルさんに頼んで別室に連れてきた。

 詩乃からは割とマジな心配の表情で見られたけど、ごめんね。今キミの出番なのにインパクト掻っ攫って。頑張れ。俺も頑張るから。

 

「ユイちゃんがお姉さんになるのかぁ。なんか時の流れも早いね」

 

「早いのはお前の妄想の進み具合だよ」

 

「私、頑張るね」

 

「頑張って現実に戻ってこい」

 

 脳内お花畑どころの騒ぎではない。脳内ピンクに染まりまくりだろ。なんだこいつ、なんでこんなことになった? 

 

 あと一生離してくれないな。力強っ。

 

「本当に……本当に」

 

 涙が枯れるほどに泣き続けたアスナは真っ赤に染まって膨れ上がった瞼を見せて、まだうるうるとしている瞳で見上げてくる。

 俺の頬に手を添えて、撫でるように俺の輪郭を確かめる動きがこそばゆくて居た堪れない。

 

「────好き」

 

 うわ気まずっ。

 

「好き、好き……愛してる」

 

 ひえぇ、逃げたい。

 

 目がどす黒いとかはなくてキラキラしてるし、通常時アスナさんではあるんだけど、ここまで露骨に好意を見せてくるのはちょっとキャパオーバー。

 

「ね、レインくん」

 

 詩乃も大概だったけど、アスナの距離感はバグってて、しかもおパイパイがでかいのなんの。柔らかいとかじゃなくてもうあれだ、エアバッグくらいの暴力性がある。パイで押されるとか初めてですわ。

 

「ずっと会いたかった」

 

 俺はちょっとこのまま会わないルートでもいいかなとか思ってました。

 

「貴方と過ごしたかった」

 

 その間、俺詩乃に押し倒されたり一緒に寝たりしてました。やべぇな俺。

 

「行きたいところ、いっぱいあるんだ」

 

 気づけば壁際まで迫られていて、俺の手とアスナの手を絡めてきて、頬に添えた手はそのまま首筋を伝って俺の胸に添えられて。

 

「何より、君と一緒に過ごしたい」

 

 アスナパパとはもうパパ活したけどね。

 

「好き」

 

 過去と向き合えってこういうことじゃないと思うんですよ。なんで詩乃のターンに俺が追い込まれてるの? 

 

「この匂い……堪らないなぁ」

 

「うっわ……」

 

 うっわ……。怖っわ……。

 

 こいつあれだ、ヤンデレの類だ。標的にされた男は可哀想にな。まあそこまで沼らせた奴が悪いんだけど、アスナを落としたやつってどんなやつなのかね。

 

「────ぁあ、好き……」

 

 ああ俺でした。何もやってないっすよ僕。なんでここまでになった? ほんと。

 

「……あの女の子の匂いが染み付いてるのはまた今度聞くけど」

 

「警察犬??」

 

「スぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……スぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

 

「息を吐け、息を」

 

 吸いきったと思ったらまた吸い出した。どんな肺してるんだ。穴でも空いてる? 肺に空気入ってハイになってますやん。

 

「ね、レインくん」

 

 俺の手をにぎにぎしてどうしたのか。あと胸の触り方が艶めかしくてゾワゾワする。

 

「私、ちゃんと生きたよ?」

 

「え? うん」

 

「何回も死にたいって思ったけどね。君に言われた通り生きたよ。幸せにはなれそうになかったけど、それでも生きたんだよ?」

 

 俺なんか言ってたっけ? 幸せになれよとは言ったか。うん、言った。

 

「頑張ったよ私。キミの居ない世界なんか生きてる価値なんかないのに、死にたくても死なせてくれない世界に絶望もしたけど、それでも生きたよ」

 

「うんうん、そうだね」

 

 考えることは諦めた。

 

「結婚しよ?」

 

「流れで言わせようとしてるんならもうちょい場を繋げ?」

 

 性急過ぎないか? 

 

「一緒に朝起きて、一緒にご飯食べて、一緒に外に出掛けて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝よ?」

 

 それ付き合って1ヶ月までしか続かない典型的な短期カップルの例だから。

 

 俺の家は既におっさんが一人同居してるようなもんだしな。

 

「キスしたい」

 

 力強っ。

 

 俺の頭に両手を添えたかと思えば思い切り引っ張って強引に唇と唇を重ねる。返事を待たない、ただの宣言。勢い余って唇貫通して歯にまで衝撃が来たけど、引き寄せる力は弱まらない。

 

 キスされたことよりも歯の痛みに悶絶している俺に構うことなく、アスナは声を漏らしながら唇の感触を堪能する。

 引き剥がそうとも考えたけど、いやこれ役得じゃね? と襲われた側だという大義名分を掲げてキスを続行。

 

 舌を入れようとしてきた時は流石に驚いて顔を離したけれど。

 

「まだ」

 

 だから毎回力強いっての。

 

 引き寄せるに加えて飛び込んできたアスナとのキスの強行。今度は最初から舌をねじ込んできて強引に俺の口の中を動き回る。

 もはやされるがままモードに入ってしまった。これがキリトだったら舌噛み切ってから股間蹴り飛ばして顎殴ってから髪掴んで地面に叩きつけるのに。アスナに対して弱くなってきてる気がする。

 

「……はぁ……終わり」

 

「まだ」

 

「ダメだっての」

 

 流石にこのままではやばい。エギルさんの店で始まってしまう。

 というかアスナの顔がやばい。角煮ぐらい蕩けてる。ヤル気マンマンだこいつ、息荒すぎだろ。

 

「もう無理、まじで無理」

 

「しよ?」

 

「あれで最後だって」

 

 もうしない。心に決めました。

 くっそ、こいつめっちゃ求めてくる。最早怖い。性欲おばけ。立場逆だろ普通、なんだこいつ。泣かれた方がまだマシだと思えてしまう現状が怖い。

 

「……痛っ」

 

 また顔を近づけてきたから顔を背ければ、首筋に突き刺さる痺れのような痛み。時々聞こえてくるリップ音と、強い吸引。鼻息が生暖かく首に当たって引き剥がそうにも剥がせない。

 

「……ぷはっ……ふぅ」

 

 三十秒程か。蚊の親戚ぐらい俺の首を吸ったアスナが満足気に離れて舌なめずりをする。ジンジンと、僅かな痒みを残して首を触れば少しの唾液と明らかに感触の違う部分があって。

 

「これで……私の」

 

 所謂キスマーク。鏡を見てないからまだ分からないけど、多分色濃く着いてるんだろうな。艶めかしく、歪に笑うアスナに若干顔が引き攣り、これで会わなかったぶんはトントンかなと己の中で完結。

 

「待つのはもうやめたから」

 

 柔らかな瞳の奥底に見える、猛獣のように鋭い炎の輝き。

 捕食者側であると主張するように目を背けず、俺の内心にまで踏み込む程の眼光。明らかにどこか吹っ切れている。リミッターどこだよ、怖い。

 

「あうっ……」

 

 デコピンだけ一発お見舞しといた。詩乃になんて言えばいいんだこれは。

 

「今あの子のこと考えたでしょ」

 

「うん」

 

 怖い怖い。なんで分かるんだよ。普通に返事してしまったし。

 

「なんで?」

 

「なんでって……」

 

「私じゃなくてあの子なの?」

 

「いやそういう訳じゃなくて」

 

「私、面倒くさい?」

 

「それはそう」

 

 あれれ〜? おっかしいぞ〜? 

 なんでさっきまで立ってたのにいつの間にか天井見上げてるのかな俺? なんでアスナに馬乗りにされてるのかな? かなかな?? 

 

「あははははははっ」

 

 なんか笑ってるんだけど。怖っ。俺「怖っ」って何回言った? 

 

「あハッ……そっかァ」

 

「近い近い近い近い」

 

 目と目が触れ合う距離ってただただ怖いだけだね。瞳孔までくっきり見える。間近で見る眼球はこんなにも怖いのか。知見知見! 

 

「ウンウン……アハハっ! そうだねェ……」

 

「誰と喋ってんの?」

 

「あー……やっぱり、キリトくんかぁ」

 

 どこをどう解釈してそうなった? 

 

「GGOのアバターを女の子にしてた時から薄々気づいてたんだぁ……やっぱりねェ……ふふ、アハハッ、どうやって消そうかなァ〜」

 

 誰かアスナのトリセツ持ってきて。多分辞書ぐらい分厚いと思うけど。

 

「レインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくんレインくん」

 

(ぎゃぁぁぁああああああああああ)

 

 コイツやっばい。瞬き一回もしてない。呼吸もしてなくね? ノンブレスまじか。流石に長期間会えてなかった反動で一時的なものだと思いたい。マジで。日常でこれだったら流石に離れるわ。

 

 何一つ興奮しないシチュエーション。恐怖が勝ったらこんな感覚になるんだぁ、そっかぁ。初体験だね〜。それにしてもこの悪夢全然覚めないな、まだ?? 

 

「うっわ……」

 

「キリト大好き」

 

「ちょおま……!?」

 

 詩乃の話し合い終わったかな? 様子を見に来たキリトにアスナを擦り付けてようやく解放。よし帰ろ。今すぐ帰ろう。

 

「ちょっ、マジで……アスナ!? し、死ぬ……!!」

 

「じゃ、おつかれ〜」

 

「あ、ああアスナさん!? レインが帰っちゃうぞ……聞こえて、ない!?」

 

 扉を開けた途端に押し寄せてくる美しい空気。美味ァ。最高だね。あの空間の空気色ついてたから。紫かピンクか分からんけど。

 

「エギルさん、お久しぶりです。お騒がせしました」

 

「……まぁ、なんだ。生きててくれて良かったぜ、レイン。また店に来てくれ、サービスするぞ」

 

「あざっす!」

 

「派手にやられてるな……」

 

 めっちゃ同情された。やっぱり大人の男性は視点が違ぇぜ。

 首元見られて言われた気がしたがどうしよ、隠す手段無さすぎんか? 

 

「あんたが噂のレインか〜。聞いてた印象と少し違うわね」

 

「人違いです」

 

「ここまで来てそれは無いでしょ!?」

 

 リズ何とかさんから声をかけられた気がしたけど気の所為かな。あなたの親友暴れてるから抑えてくださいね。

 

「ちょっ……私の番もう終わり!?」

 

 いやだって話すことないし。初対面の人怖いし。人見知り人見知り。

 

「大丈夫か?」

 

 見ることは出来なかったけど、もうあの親子との会話は終わったんだろう。椅子に一人座り込んで、眼鏡を外して目元を手で拭う詩乃はその手に一枚の紙を握っていて。

 

「……うん。平気」

 

 その涙は恐怖ではなく歓喜。奪うだけではなくて救えた命もあったのだという何よりもの詩乃への救済。

 汚れてしまった手ですくい上げることのできたものはあったのだと、意味はあったのだと思わせられた、弱き少女に巡ってきた幸福。

 

「頑張ったな」

 

「うん……ぅんっ」

 

 こんな感動の裏で俺は女の子に犯される寸前までいってたってなんだそのお笑い。何も笑えなくて爆笑。過去と向き合うというテーマは同じなのにこうも内容に違いが出てくるものなのか。

 

 流しきれてなかったのか、俺が来たから態々止めてくれたのか。再発した涙腺の崩壊。大きな紙を胸に抱き、決して壊さないように優しく包み込んで、体を丸くして涙する少女の頭を撫でる。

 

 とりあえずアスナが来るまでにこの店出たいんだけど。この様子じゃ難しそうだな。まあいいか。流石に元通りアスナになっていることを願うばかり。

 

「言っとくけど、詩乃のこと送らないといけないから今日はもう無理だぞ」

 

「……そん……な……」

 

 やったね。通常時アスナさんに戻ってる。俺の腰に触ろうとしてきた以外は元通りだわ。

 

「じゃあレインくんの家教えて!」

 

「無理無理」

 

「なんで!!」

 

「お前にだけは教えないと今心に誓ったから」

 

 こいつ絶対俺の家教えたら不法侵入してくるし。茅場さんも面白がって自動ロック解除しそう。セキュリティって知ってる? 危険人物を家に入れないためのものなのよ? 

 

 後ろをチラッと見ればキリトが命からがらの姿で這いつくばりながら部屋から出てきてた。よしよし、そのままサンドバッグになってくれ。

 

 アスナも俺に話しかけてきてはいるけど、詩乃の様子も考慮して声を小さくしているあたり育ちの良さが出てるな。そのまま自重して離れてくれないかな? 手をニギニギするな。お前に犯されかけた経験がまだ残ってんだよ。

 

「……私のファーストキス」

 

「お前から来たし。てか俺もだし」

 

「初体験……ふひっ」

 

 こいつ実は俺が死んだこと大して気にしてないのでは? 通常運転になるの早くない? これが通常と思えてしまうことが可笑しくはあるけど。

 もうダメだこいつは。詩乃に悪いからまじで離れてくれねぇかな? 俺? 俺は被害者ですよ、舌も無理やり入れられたし? 入れてきたから追い返そうとして俺の舌を絡めただけだし? 大義名分って素晴らしい言葉。またの名を正当防衛。

 

 キスしたから付き合う? 馬鹿か、どこのピュアもこみちだそれは。キスなんか付き合わなくても出来るんだよ! だから俺は別にアスナと付き合ってません。当たり前でしょうが。

 こんなこと言ったらどうせキリトは突っかかってくるだろう。あいつ童貞だな、心も身体も。俺もだけど。

 

 とりあえずは、まぁ。何とか峠を越えたかな。

 これからは詩乃次第。いつか伐採される宿り木に住み着くのか離れるのか。離れてくれないと困るけど。

 

 とりあえずキリトと仲直りさせようかな。無理か? 無理か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「生きてた……生きてて、くれた……ッ」

 

 シノンと共にレインがこの店を離れてすぐ。

 枯れ果てたように思われていたアスナの涙が決壊して崩れ落ちる。

 

 レインの前では極力見せないように努めていた弱さをさらけ出した少女は焦燥から解き放たれて安心の涙を流す。

 リズが駆け寄り、背に手を置いてあやす様にアスナに語り掛ける。

 

 泣いて、泣いて、泣き続ける。

 絶望から、喪失感からの涙を見てきた。

 痛々しく、弱く脆い少女の命の瀬戸際を何度も見てきた。

 

 アスナの涙を見て、安心したのはこれが初めてだった。

 

「ユイにも会わせてやらないとな」

 

 誰よりも家族との再会を望んでいた少女の姿。

 家族の集まりを夢見る誰よりも優しく清廉な存在を。

 

 ゲーム内でしか会うことが出来ないけれど、間違いなく彼女も家族の一員なのだと。

 兄として慕われた俺としても思う。

 

「これで全員、だな」

 

「ああ────」

 

 エギルの言葉に頷く。ようやく、ようやくだ。

 SAOクリアから一年と少し。ようやく、あの時のメンバーとの再会を果たすことが出来た。

 

 まだまだ涙が止まる様子のないアスナを見る。

 妖精国に囚われた姫は、解放されても尚過去に囚われた少女のままだった。

 ようやく、本当の意味でアスナも戻ってきた。あの世界から解き放たれたんだ。

 

「ふ……俺の胸でも貸してやろうか?」

 

「……冗談は……無駄にデカイ、身体だけ、に……しろよぉ……」

 

 視界が滲む。エギルの憎らしいニヤつき顔が上手く見えない。

 そこで……ああ、そうか、と。

 

 俺も、ようやくあの世界から戻って来れたんだなと……今更ながらに気付けた。

 

 願わくば。

 これから始まる日常が、少しでも長く続きますように、と。

 

 ────永久を願わなかった時点で、この願いが叶うはずもないのだと、深層心理で理解してしまっていたのかもしれない。

 

 ただ、今だけは。

 これからの幸福を噛み締めさせて欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね。今日は観客も誰も居ないんだけどさ────お兄さん、()る?」

 

 

「────じゃ、一戦だけ」

 

 

 




GGO編、完!

思ってたよりクソ長かったな。てなわけで、今のところレインくんのことを好き(?)なヒロインズの紹介だぜ!


エントリーナンバー1:アスナ
恋愛感情がカンストした結果生まれた狂人。現状のライバルはGGOキリト。

エントリーナンバー2:詩乃
恩人を神格化しすぎた末路。現状、レインくんに彼女が出来ても「そうなんだ」で済ませるが、それはそれとして自分から離れることは許さない。彼女と同棲すると言い出したら当然のように着いていくであろう狂人。

エントリーナンバー3:シリカ
天使。
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