相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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黙っていれば世界で一番可愛いのに

「────────────────は?」

 

 無機質な白い空間。

 一面が白、白、白。無機質で、無感動で、温度が感じられない薬品臭が僅かに香る住み慣れてしまった空間。いわゆるVIP、個室にしては広い病室に座り込む少女は瞳を揺らして対面に立つ栗毛の女性を見上げる。

 

「……どうしたの、ユウキ?」

 

「……ぃゃ、いや、いやいやいや……え…………は?」

 

 春を迎え少し暖かくなりつつある季節。けれど一定の温度を保つ病室ではそれも風景でしか感じられず、美しい緑の葉を見ることで春を思う。

 

 木綿季は、自身の見舞いにやってきた明日奈の言葉を理解が出来なかった。

 

「なに言って……はは、冗談にしてはヘタクソ、だなぁ……」

 

「ユウキ……?」

 

「何も面白くないよ……何言ったのか分かってるのアスナ!!」

 

 怒りが込み上げる。いいや、それよりも困惑が大きいか。それよりも悲しみの方が強いのかもしれない。

 未だ身体は弱く、リハビリを始めて1ヶ月経ったかどうか。

 急な大声に身体が悲鳴をあげて、思わず咳き込んで俯いてしまう。焦ったように明日奈は近寄り身体に触れようとして木綿季はその手を振り払った。

 

 困惑。ただひたすらに、明日奈は木綿季がこうなった理由が分からないでいた。

 

「頭打っちゃったの?」

 

「打ってない、けど……」

 

「じゃあなんで……なんでッ……」

 

「ユウ、キ……?」

 

「訂正は……しないんだね……アスナ」

 

「訂正って……わ、私何かまずいこと言っちゃった、かな?」

 

「もういいよ────今日は帰って。今は、アスナの顔見たくないかも」

 

「え、あ…………」

 

「帰ってッ!!!」

 

 白いベッドの上で、白い布団を全身に纏い隠れるように縮こまる少女。少しして荷物を持ち上げ、ドアを開いて外に出ていく明日奈の気配と謝罪の声が聞こえてきて、そんな言葉を聞きたくないと耳を塞ぎ目を閉じる木綿季は想いを馳せる。

 

「なんで……なんでッ……アスナは、そんなこと言っちゃダメ、だろ……ッ」

 

 絶剣と呼ばれた幼き少女は病室に一人。

 風に揺れる窓の音も聞こえることはなく、暗闇に一人閉じ篭る。

 

 消えてしまった兄と呼べる存在を思い描き、一人涙を流し続ける。

 

『ユウキさん……貴女は────』

 

 その様子を目撃した電子の姫は、弱々しい絶剣の姿に希望を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「レインくんのこと……随分と気に入ってるんだね、貴女」

 

「え? うんっ。レインはねぇ、今まで出会ってきた男の人の中でダントツで凄かったんだよ!!」

 

「凄っ……へ、へぇ」

 

「激しかったり、優しかったり……気持ちよかったなぁ〜」

 

「ふふ、ふふふふふふふふふ」

 

「だから今度はね、ボクがレインのこと満足させてあげるんだ!!」

 

「今度は二人でイこうな!!」

 

「お前は乗っかるなよ!?」

 

 燃えてるのならいっその事燃料投下すれば逆にいいんじゃね? どうもレインです。

 

 いや〜、帰りたい。

 ユウキとアスナの試合でしょ? まあ見たいっちゃ見たいけどね? 空気が終わってる。周りの女性陣の視線が痛いし。俺じゃなくて二人見てね? あとアスナのオーラが凄いな。上昇限界も超える勢いで立ち上ってる。

 

「負けたって言ってませんでした……?」

 

「勝ってないとは言ってない」

 

「なんて巧妙なミスリード」

 

 リーファとリズ何とかさんは呆れたようなジト目を向けてくる。お前らそこまで仲良くなったつもり無かったけどすごい馴染みようだね? 

 詩乃は現在帰省中。まあ数日で帰って来るとか言ってたし。すぐ来るでしょ。その時は俺と交代してもらおうかな。

 

「絶剣に勝ったんですね!! 凄いですっ、レインさん!!」

 

「ごハッ」

 

 何だこの小動物兼大天使兼小悪魔は。

 純粋にすごいすごいと飛び跳ねて伝えてくる大天使シリカエルの口撃に思わず昇天しかけてしまった。危ない危ない、次は現実で死ぬ流れだと言うのにALOで死ぬところだった。

 

「だ、大丈夫ですか!?」と、倒れ込んだ俺に駆け寄ってくる天使。ああ迎えが来たわ。死ぬのね俺。シリカエルが天使すぎて辛い。この子と結婚しようかな? 

 

「ひやっ!? め、目の前に短剣が通って……!!」

 

「うわあいつやば……」

 

 シリカと俺の間を縫うように投擲してきたアスナさん。今の速度投擲スキルの限界超えてなかった? 一撃で殺せそうな威力ありそうだったけど? 大丈夫そ? 

 

 ニッコニコで光が点ってないアスナは俺を見つめてきて。流石のユウキも異変に気付いて若干引いてた。

 

「おい、レイン……アスナのことどうにかしてやれよ」

 

「ユウキに勝ったらデート」

 

「言質取ったからねッッッッッッッッッ!!!!!」

 

「勢い凄っ」

 

 スーパー地球人になったアスナはやる気に満ち溢れているようだ。まあデート相手が誰かとかは宣言してないからユイとデートしよう。

 

「あ、あはは……じゃあ、やろっか」

 

 ほんとごめん。不審者の相手をさせてしまって。

 めっちゃユウキが可哀想に見えてきた。大丈夫かな? 流石に後でもう一戦するか。

 

「お前……あいつと戦ってたのかよ」

 

「まあ。周りに人居なかったしちょうど良かったよ」

 

「用意周到なやつ……どうだった?」

 

「お前の思ってる通りだろ」

 

 1回立ち会っただけでユウキが仮想世界で人生を過ごしていることにほとんど気づいたキリトは本当に気持ち悪い。なんだよVRMMOの申し子だのなんだのと。表現がいちいち厨二臭いんだよな。

 

 俺としては、仮想世界もクソもないし。現実とこの世界の境界が曖昧で、最たる違いと言えば身体能力の向上程度。俺に近いのかもな、ユウキは。

 

 カウントはゼロへ。地上戦を選んだアスナとユウキがぶつかり合う。

 剣戟が酷く響く。俺の捌くスタイルとは対極の鍔迫り合い、脳筋。バーサクヒーラーとはよく言ったものだ。

 

「どっちが勝つと思う?」

 

「ユウキだろ」

 

「……即答だな」

 

「アスナじゃ無理だよ。前提から違う」

 

 この試合は力関係に左右されるものでは無い。

 所謂負けイベ。ユウキが勝つことは確定しているのだから。

 まあ普通に戦ってもユウキが勝つだろうし、謎の闇パワーが発揮されてアスナが覚醒するかもしれないけれど、今ではない。

 

 この試合は、ユウキが勝つ。月夜の黒猫団が壊滅したように、ヒースクリフ戦で死者が出たように。

 数少ない確定事項ってやつだ。俺の中では。

 

「────はぁぁぁああああ!!!」

 

 マザーズ・ロザリオ。

 絶剣、ユウキが有するこの世界における最強のソードスキル。

 アスナが初見でこれに対応出来るはずもなく、やはりユウキの勝利で幕を下ろす。

 

 割とユウキの体力がギリギリだったのは焦ったけど。記憶通り、寸止めで終わらせたようだ。

 

「……うん! お姉さんに決〜めた!!」

 

「え……え?」

 

「レインも!! 一緒に来てよ!!」

 

 アスナの実力に満足したのか、ニコニコとして俺の方に手を振ってくるユウキ。手招きにも見えるその動作に、まあいいかとユウキの方へと歩いていく。

 

 まだ困惑状態のアスナ。

 視線が右往左往してあたふたと落ち着きのない彼女の手をユウキが取って羽根を広げる。

 

「あれ? レインって妖精のアバターじゃないの? もしかして飛べない?」

 

「飛べる飛べる」

 

「お、おーっほほー!! スゴーイ!!」

 

 かなり自由に扱えてきた心意によって浮遊。流石にユウキ達スリーピングナイツの拠点なんて知らないからユウキ先導の下あとを続く。

 

「ぇ……」

 

「お兄ちゃん!?」

 

 置き土産として心意の太刀でキリトの首を跳ね飛ばしといた。

 

「あ! 今のってボクの首を切り飛ばしてたやつ!? どうやってるのそれ!!」

 

「心意の太刀。整合騎士の必須スキル」

 

「せいごうきし?? しんい?? なにそれ?」

 

 知らなくていいよ。その時を迎えれたらまたね。

 あと整合騎士の必須スキルなんて嘘ですね。確かベルクーリしか使ってなかった気がする。あとはド新人のユージオか。記憶いじられてるんだから使えそうなものだけどね心意なんて。

 

 思い込みが激しければ強いんだろ? 厨二病が最強って訳だ。つまりキリトが主人公なんだね。

 あんなにキザったらしいイタイセリフ量産して恥ずかしげもなくドヤ顔できるんだから大したやつだ。現実にいたら絶対関わってないね。親友なんですけど。

 

「まあいいや。また今度ボクと戦ってよ! 次は勝つから!!」

 

「勝ってたじゃん」

 

「キミが降参したからだろ!!」

 

 まあそうね? とりあえずアスナがぽかんとしてるから説明してあげて? あと俺も一応知らないていだから俺にも説明して。

 

 あ、と思い出したように止まったユウキは振り返り、滞空して俺とアスナの二人に深く頭を下げた。

 

「アスナさん、レインさん! お願いします、ボク達に力を貸してください!!!」

 

「おっけー」

 

「即答!?」

 

 とりあえず拠点にいかない? 話進めようぜ。今暇だからなんでもいいよ、手伝う手伝う。

 

「と、とりあえず……内容を聞いてもいいかな?」

 

 お隣の明日奈さんは慎重派なようです。

 一本書けそうなタイトルみたいになっちゃった。まあ普通の反応か? 

 

 てなわけで来ました、スリーピングナイツの拠点〜。

 

「この人がユウキの言ってた強い人かー!」

 

「良かったなアスナ、強い人だって」

 

「絶対レインくんのことでしょ……」

 

 メンバー紹介だぜ!! 

 

 ジュン! 赤い! 種族分からん! 多分サラマンダー! 赤いから! 

 

 タルケン! 弱々しい! 本気で種族わからん!! 

 

 ノリ!! 多分キリトと同じ何とか種族! タルケンとデキてる気配あり!! 

 

 シウネー!! ウンディーネ! わかりやすい! 怒ったら怖いタイプ!! 

 

 テッチ!! 多分ラスボス!! 細目!! 以上!! 

 

 全員キャラが違うってのが良いよね。スリーピングナイツ。結構好きよ。

 とまあ、自己紹介と目的をユウキ達が説明してくれたところでアスナが手を挙げる。

 

「あの〜……パーティの上限って七人までじゃ……」

 

「「「……あ」」」

 

 ユウキとジュンとノリが馬鹿なことが発覚した。

 

「どっどどど、どっどっどどどどっど、どうしよう!?」

 

「刻むねビート。守りが薄くなる?」

 

「何言ってんのさ!?」

 

 右サイドが抜けるとかそんな話じゃなかったっけ? このネタに着いて来れないとは……。

 まあガチな話。八人だと二パーティになってユウキ達の目的である全員の名前を刻むことが出来なくなる。マジレスすると俺はプレイヤー枠に含まれてないだろうから七人プラス空気で俺以外のメンバーの名前が刻まれそうではあるけれど黙っておこう。

 

 ワーワー、キャーキャーと阿鼻叫喚。

 何してんだよユウキ、とか、やっばーい、とか叫びまくりで見てられない。

 隣に座るアスナが俺の腕を軽く突っついてきた。

 

「どうしたらいいのかな……?」

 

「まあ、この六人とアスナが攻略するのは確定だし。俺はボス部屋の前で適当に遊んどくわ」

 

「私は確定なんだ」

 

 なんだこいつマジで顔整いすぎでは? 光アスナさんの時はマジで可愛いが大優勝だわ。これが進化するか退化するかしたら闇になるのだから人間って面白い。

 

「てことで。ボス攻略自体は俺を除いた七人でやって貰って、俺は道中護衛として参加してボス部屋には入らないってことで。以上」

 

「え〜……ここまで呼んじゃったのに申し訳ないなぁ……それでいいの、レイン?」

 

 ボス攻略興味無いから大丈夫です。

 

「本当に宜しいんですか、レインさん?」

 

 ビビるくらいボスに執着ないんで大丈夫です。

 

「レインさんとアスナさんは恋人ですか!!」

 

 うんうん、急に何の話?? 違いますけど?? 

 

「結婚を前提のお付き合いを前提に猛アタック中です!!」

 

「「「お〜!! ……お?」」」

 

 何言ってんだこいつは。

 ちょっ、抱きついて来ないでっ、恥ずかしいから!! 

 

「はっ!? 続きは二人きりの部屋で……ってこと!?!?」

 

「こいつやっぱ外した方がいいと思うよ」

 

「そ、そんなことは、ない……ですよね?」

 

 吹っ切れすぎだろこの子。ヨダレ、ヨダレ拭きなさい。顔近い近い可愛い怖い。

 

「やっぱ二人を選んで正解だよ!!」

 

「どこが???」

 

 ユウキの謎の確信に思わず突っ込んでしまった。くそ、ツッコミはキリトの仕事なのに!! 

 

 そうして、翌日。

 ボス攻略が決行される。




アスナママは雨宮くんの情報を入手しようとして失敗してたりする。
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