────システムコール
記憶を全て閲覧し。
全てを理解したからこそ叩き出した結論。
キリトが、アスナが、リーファが、シノンが。
誰もが勝利の余韻に浸りつつある中、この世界唯一の理解者たる男は実行に移す。
────リリース・リコレクション
何をもって最善とするのか。
一つの世界の王と呼ぶべき存在は、全てを漂白する。
『後は君たち次第だ』
観測者へと至る男は、嗤って結末を待ち望む。
◇◇◇◇◇
門番という名のサボり。どうもレインです。
あっという間にボス攻略のお時間ですわぁ〜!
ボスの概要知らんし、会議もそんなに長くなかった。俺もその場にいたけど関係なかったしシウネーの髪の本数数えてたら出発の時間になってたし。
とまあ難なくボス部屋まで到着。俺の役割はただの道中の雑魚狩りだから大体の敵は俺が請け負ってせっせと働きましたよ。無傷です。
「強すぎね?」
ジュンにドン引きされた。黙れ赤髪。黒髪に失礼だろうがよ。いや俺茶髪気味だけど。ユウキは瞳輝かせてるね〜。お兄ちゃんって呼んでくれても良いんだよ?
(あれで隠れたつもりなのかね)
ボス部屋の前にいたどこかのギルドの知らん三人。Theモブという顔立ちで、明らかに社会人だろお前ら働けよという感想しか出なかった。
アスナのよく分からん呪文からの魔法で看破されて、道を譲ってたけどあれ確か斥候だっけか? また理解不能の文字列を口にして隠れてたけど俺からしたら半透明なだけなんだよなぁ。グラフィックの差か。
「本当に入らなくていいの?」
「いいのいいの。行ってら」
「え〜。レインとやりたかったのに〜」
「お前は深読みしすぎ。いちいち眼をギラつかせるな」
ユウキの残念がる声、その言葉を改編して受け取ったアスナから表情が抜け落ちる。こいつまじでなんなん? 面倒臭いとかいうレベルじゃなくなってきたんだけど。
他のメンバー達からも残念がる声が聞こえてきたけど、ごめんね? 君たちとあんまり話してないから仲良い印象無いんだよね? ギリ他人枠になっちゃってるわ。
門の前で座り込んで、アスナ達がボス部屋に入るところを見送る。
黒いトカゲがアスナ達の後を追うように走っていったのを発見し、まあいいかと見逃した。なんだっけ? 闇魔法とかだっけか? 視界の共有みたいな感じだった気がする。どういう感覚なのかな? 我愛羅的な? 心転身の術? まあ俺魔法使えないから知らないけど。
(暇だなぁ……)
やることない。どうせこの一回でボスに勝てないだろうし、一時間ぐらいは待たないとダメだろ? 暇すぎて吐きそう。なんかめっちゃこっちみてくるしあの三人。コソコソ話すなや全部見えてんだよ下手くそ斥候共が。俺の画素舐めんなよ。
「誰だあいつ?」
「先行パーティの……パシリ?」
「無視していいと思いますよ」
殺すぞ。
アスナからメッセージが届き、内容的にあと30分で到着するとのこと。ああもう全滅してたのね、早かったな。いいなリスタート、俺だと来世に期待だからね。
んで、続々と集まってくるおっさん達。座るのも飽きて寝転んでる俺を見てヒソヒソと笑いながら話してるのがウザイなぁ。聞こえとるわ。もうちょい声抑えろや。わざとか? わざとですか???
ていうか20人はいるだろ、余裕でボス攻略出来るんじゃねぇの? さっさと入れや気まずいんだよ視線が。友達と友達の友達とで居た時に友達が抜けたあとの絶妙な空気みたいな感じ。まああれほどではないか。あれは地獄、「名前なんだっけ?」しか言うことないし。
「なぁ、ちょっと」
それにしても……ん〜、ユウキなぁ。
他のメンバーは全員助かるんだっけ? ユウキだけが死ぬ、と。
AIDSだろ? 詳しくは無いけど俺からどうこうできる話じゃないしな。まあけど、こうして関わってある程度話す仲になって、それで死なれても後味悪いし。どうせ死んで曇らせるなら俺が死ねばいいだけだしな。
なんか手はあるかね。末期だった気もするし、打つ手なしか?
まあでもご都合主義が発揮してくれればわんちゃん。でも、ん〜。それにしても打つ手がなぁ。
────そういえば、神聖術使えるんならあれ使えるか?
「おい、あんた」
「……ん?」
考え事をしていたら、この集団のリーダー的なおっさんが話しかけてきた。なんすか? てか防具ガチガチすぎてダサい。この世界薄着の方がバフ高いのに。
「悪いんだが、次は俺たちが攻略するんでな。門から離れといてくれねぇか?」
ああ、そんな感じだったね。謎の順番ルール。
「今から?」
「いや……集まり次第って感じだが」
「何分ぐらい?」
「あ〜……一時間と少し、ってところか」
こいつほんと何言ってんだろね。大型ギルドか知らないけど自分ルールが凄いな。
え、上からの指示? お前ゲームの中でも上下関係なんか守ってんのかよ、言いたいだけだろそのセリフ。
アスナ達が来るまで……あと10分くらいか?
「まあいいか」
「ああ、すまねぇな。ちょっとだけ────」
「エンハンス・アーマメント」
暇潰しぐらいしてもいいよな?
比較的密集していた連中。
腰に携えていた刀の刀身が崩れていき、幾何学的紋様を浮かばせたあと桜の花弁に姿を変えて舞っていく。
刀だった時の質量を大幅に越えた変化。膨大な、数えることも億劫な幾千もの花々は風に靡くように散っていき、その場にいた全員をいとも容易く呑み込む。
数秒。
困惑と絶叫が響いたけれど、それは直ぐに収まり俺の視界は桜の花弁だけが舞っていて。
役目を終えたように俺の刀へと戻ってきて、元の刀身へと姿を変えた時には、目の前にいた集団は全て淡い炎へと成り代わり、何一つとして声を出すことは無かった。
(────暇)
結局暇になった。早く来ないかなキリト。
「うわぁ!? なにこれ!?」
お、来たね。
普通に寝てた。急いできたようで、力強い足音が七人分。幼く、高いユウキの声が木霊した。
「やっほ」
「これレインがやったのか!?」
「すごぉ!! レイン強すぎ!!」
なんだろ。武装完全支配術使ったから謎に罪悪感があるんだよね。
アスナは驚いた様子は無くて。何故かニコニコと腕を組んで居た。何だこの後方理解者面は。やめろ恥ずかしい。
止まってワーワーキャーキャーと言っているスリーピングナイツの皆様。しかし僅かに聞こえてくる大多数の足音。お、キリトもいるじゃん。
「準備は?」
「万全!」
「じゃあ行ってらっしゃい」
「ありがとう! 大好きだよレインくん!!」
「ハイハイ」
武装完全支配術はアスナやキリト達の前で使いたくは無いから封印、と。
あとは純粋な剣技と神聖術もどきか。一応この世界は詠唱が必要な魔法が流通しているから無言で使ったら違和感を感じられるかもしれないけど、まあそれも伏線ということで御勘弁願いたいね。
「フェンリル・シェイプ」
ハタハタと、動く様子のないユウキの頭を撫でる。なんだこいつ可愛いな本当に妹にならない? ユウキの代わりに俺が死のうかな。よしそうしよう。次はちゃーんと俺の死体見せてやるからなキリトちゃん♡
「────にいちゃん?」
「……頑張ってこい」
お兄ちゃん、頑張っちゃうぞぉぉぉおおおお!!!
数日しか関わってないのに俺はユウキの中で兄枠に収まったらしい。いいね、今まででいちばん嬉しいまである。
自分の発言に気付いていないのか、ユウキは無言で俺を見つめると、徐々に目を見開いていって口を開く。満開の桜が咲き誇るかのように、光が射し込む光景が見えるほどに笑顔を見せて「うんっ」と大きく一言。
(愛でたい)
ユイとシリカに並んでしまった。愛でる愛でる! お金も投げるー!!
────来た。
小さな小さな光。ナビゲーションピクシーであるユイが真っ直ぐに俺の方へと飛んでくる。相変わらずおでこが広いぜ俺の娘は。
そして、ドーム型の道を走ってくる大集団。複数のギルドが徒党を組んでいるのか赤やら青やら緑やら黒やら。色々な妖精のおっさんどもがガチャガチャと重装備の不協和音を響かせる中、真っ黒いゴキブリが側面を走って先頭を追い抜き滑りながら勢いを殺す。
「悪いな────」
うわでた。
「ここから先は────」
「ディスチャージ」
俺の両脇に控えた炎狼と氷狼。
意思はなく、俺の命令に従うように走る二匹の向かう先はもちろん、痛すぎる男の背中。
「つあっぶな!?」
なんで分かるんだよ。
床に剣を突き刺してキメ顔と共に決めゼリフを吐こうとしていた男を親友の情けとして殺そうとしてあげたのに。謎の直感が働いたのか寸前で身を翻し回避。標的を失ったフェンリルはそのまま真っ直ぐと駆けていきおじさんの先頭集団へと衝突。
瞬間、立ち上る焔と氷。
炎と氷の爆発がぶつかれば勢いよく蒸発して暴風が吹き荒れると思っていたけれど、意外にも氷が炎を凌駕して炎を包み込むような氷山を形成。
「お前……今俺の事狙ったろ!?」
「ちっ」
「シンプル舌打ち!?」
行ってきます! と一声残しユウキ達がボス部屋へと向かう。
氷山により道を塞げたかと思ったが内部で燻る炎が解放され、氷山の瓦解となって崩れ落ちていく。ん〜、出力制御までは出来ないしな。こればっかりはアンダーワールドで本物を見るしかないか?
「うおい!!」
ゴキブリが鳴いてる。
「ユイ」
「……はいっ」
俺の肩に乗っていたユイは何も聞かずに俺から離れて安全地帯へと向かう。なんで俺の言いたいこと分かったんだあの子?
ゴキブリ……じゃなかった。キリトが唾を撒き散らしているのを見る。おーおー荒れてますね。そんなに興奮しないでくださいよ。
「────っ」
この世界を原作とする世界のために動いてやろうかな。
SAOで俺がキリトと行ってきたデュエルは百に満たないほど。けれどそれらが原作に記載されているとは思えないし、SAO編は割と駆け足気味だろうからもしかしたら一度も書かれてないかもしれない。
だからまあ。展開的には面白いんじゃないか?
死んだと思っていた親友と再会して、ALO内にある新アインクラッド内部で、互いの現状を確かめるように決闘する。
死んでも死なないゲームだからこその本気の戦い。まあ俺は死ぬけど。
金ピカに輝く聖剣、エクスキャリバーをキリトが取り出す。
なんで二刀流のユニークスキルが存在しないこの世界で二刀の装備が許されているのかは知らんけど、スキルコネクト? 的なシステム外スキルで頑張ってくれるだろう。
まあ原作とかどうでも良くて暇なだけだが。
「────ハハッ!!」
戦闘狂が。歯茎剥き出しにして笑ってやがる。怖い。
目がガンギマリ。もう戦闘態勢になっていて、何時でも飛び出して来る気配。
(……なんで避けれるんだよ、キッショ)
とはいえお巫山戯は必要だろう。だからこそ、ユウキを一撃で倒したように同じ不可視の心意の太刀を飛ばした。あの時同様全力。こんなシステムを知らない奴なら確実に殺せる幻影の一撃。
確実に見切って躱しやがった。
驚いたように目を開いているけど、俺の方が驚いてるわ。なんで避けられるんだよこいつ、まじで。第六感てか、超感覚ってやつか? ゲーム世界に入った瞬間バケモンになるの意味分からん。
(ちょっ……速っ!?)
超低空姿勢で突撃してくる。真っ直ぐに、クソ重そうな二本の剣を携えて。
目で追える。完璧なまでに。全ての動きが理解出来る。けれど、キリトの速度は異常な程に速すぎる。
全てを逸らす。けれど剣の重みをギシギシと感じる一撃一撃。返すように刀を煌めかせても上体を反らして回避してきて、足蹴りなども交えて攻撃を浴びせてくる。
ユウキよりも反応速度が遅い? 馬鹿が、速すぎるだろ。異常だわマジで、なんなんコイツ??
「ふっ!!」
攻防一体、互いに無傷。
今まで立ち会ってきた誰よりも強い。あの時の茅場さんよりも強いかも。
「主人公補正うぜェ……!!」
「何言ってんだよっ!!」
流石に俺とキリトの戦いでモブ達の進行が止まるはずもなく。
最後方ではクラインさんがちょくちょく倒してくれてるようだけど、進軍を再開したためにキリトにバレない程度にエレメントを飛ばして牽制。
主に氷、たまに炎と土で道を塞ぎ、一蹴したいけれどそんな余裕はもはやなく。
「パパもキリトお兄さんも頑張ってくださーい!!」
めちゃくちゃ呑気なユイの声が響いてきた。俺だけを応援してくれ。そしてキリトに「死ね」って言ってよ。
「……は?」
いや、いやいやいやいや。流石に有り得ないだろ?
てかこいつ気付いてないのか? もう興奮成分分泌しまくって目がヤバい。無意識かよ、なんだよこいつマジで主人公補正じゃねぇか。
光り輝く二刀。この世界で唯一の聖剣の輝きは金を超えて白に。
二本の名刀は同様の輝きを発揮して、それは正しくソードスキルの発動契機。
────スターバースト・ストリーム。
明らかな絶技。スキルコネクトによる擬似的な、とかではない。正真正銘、二刀流の絶技。この世界で使用出来るはずのないSAOのユニークスキルのキリトの奥義。
星の輝き。星の爆発。吹き荒れる嵐。
名に恥じない……いややっぱり恥ずかしい剣技。まあ逆に捌きやすいが。
捌く、捌く、捌く。
定式化された16連撃を冷静に見極めて光の軌跡をなぞるような剣筋に刀を置いて逸らしていく。にしても速すぎる剣速、もしや茅場さんが面白半分に手を貸してるのか? いや流石にないか。
ありえないとはいえども、ソードスキル。16連撃目を防ぎきった後に残るのは硬直。その時間でキリトの目玉くり抜いてやる。
難なく、少し焦ったが防ぎきった最後の攻撃。明らかな隙を今か今かと待って、ゆっくりと刀を構える。
気付く。
ソードスキル発動のための剣の輝きが消えていない。
これはあれか。アンダーワールド編でガブリエル戦の際に見せた17連撃目の輝きか。
気付いた頃には俺の左腕は切断されていた。光の軌跡が見えた頃には重心が崩れ、次いで喪失感。あるべきパーツが無くなった感覚。久しく感じなかったダメージ。
そんなことはどうでも良くて。
「──────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────がっ」
何も考えることなく飛び退く。ただ距離をとることだけを目的として、キリトから離れようと全力で飛び退く。
(────────痛い)
左腕があった部位へ。傷跡を右手で押さえる。刀は零れ落ちたけれど、自動的に鞘へと収まっていたようだ。
(────────痛い)
チカチカと目が点滅する。思考が定まらない。
「え────────」
耳も聞こえなくなってきた。五感が機能しない。冷や汗が流れてくる。ひんやりと冷たい感覚が傷口に感じたと共に、すぐさま登ってくるように感じた灼熱。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い)
「お、おい!!」
「パパ!?」
痛い。ただひたすらに。痛みだと感じないほどに痛い。
GGOで感じた痛覚とは違う。純然たる本物の痛み。
なんでこのタイミングなのか。全く分からないが、これはやばい。
床をのたうち回る。外聞なんて気にすることなく、痛みに悶え声にならない叫びを上げる。
「ぁ────ァァァァァァァああああああああぁぁぁッッ」
不味い。死ぬ。
流血なんていう現象は起きないけれど、痛みが強烈すぎてショック死になると直感で理解する。
身体が揺れる。外部的なものなのか、痛みで震えてるだけなのかは分からない。
これはやばい。マジでやばい。
「おいレイン!! 聞こえてるか、お────」
対処法なのかは定かでは無い。けれどこれは反射的なもの。
まだここでは死ねない、死ぬなら現実なのだと。もうちょい場を整えてからだろと鞭を打ち、ALOは左腕でウィンドウを開くために心意の腕で左腕を再現しログアウトボタンを押す。
「がっ────は」
呼吸が乱れる。
視界は定まらず、けれど左腕の確かな感触を感じ取り、意識して呼吸を正していく。
痛みは残っている。絶大な痛み。
吹き出した汗でベッドはびしょびしょ。服も、髪もシャワーを浴びたように濡れていて。
「スゥ────────やっば」
落ち着いてから現状把握した時、無意識に漏れた言葉はそれだった。
いやいやいやいやいや、は? 痛すぎん?? 余裕で死ねたぞあれ。
アンダーワールド初戦で怪我したキリト割と直ぐに立ち上がってなかった?? あいつバケモンか?
普通に死ぬかと思ったんだけど、は? まだちょっと痛いし左腕動かしにくいし。普通にトラウマレベルじゃね? なんであいつ剣持てるの? 狂ってるの??
よし。ログインちょっと控えよう。
びしょびしょのシーツを交換してから不貞寝した。
そろそろ殺すか〜
【追記】
活動報告にも書いたけど、一応こちらでも。
要約したら、キリトくんを最大限絶望させる展開を考えたいので更新遅れますよという感じです。