過去改変は未来に影響を及ぼすのか。
未来で死ぬ原因となる存在を過去に遡り殺したところで、死ぬという運命が変わることはあるのだろうか。
『死』が普遍の概念なのであれば、原因がすり替わり死の結果は変わることがないのかもしれない。
もしくは、過去に戻り原因を取り除いても、既に通り定まっている過去を変えることは出来ず、現在へ戻った時に原因は何事もなく存在しているのかもしれない。
分からない。だからこそ、これは俺の自己満足。
俺は頑張ったのだと。そういう理由付けをしたいがために。
「システム・コール」
変わる変わらないの話ではない。
期待もしない。
失う物の無い空っぽの俺だから、機械のように殉じよう。
守ると決めた世界を破壊する程度、何も感じないのだから。
◈◈◈◈
「お前さん……ちょいと強すぎじゃねぇか?」
「俺も驚いてる」
転生特典最高! どうもレインです!
休暇中(サボり)のベルさんから俺の実力が見たいとか何とか言われていやいや連れてこられた修練場。
整合騎士同士の戦いに木刀はもはや失礼なのかは知らないけど木刀が何処にも見当たらなかったために互いの神器で真剣勝負をすることに。ベルさんはなんの躊躇いもなく剣を抜いてたけど。
なんだかんだで、初めて見た俺の刀の刀身。
桜色のようで、しかし少し暗い。黒にも見えるし桃色にも見える。何となく目を奪われる美しい刀身だった。
素人目でも分かる斬れ味。握ったことなんてないのに扱い方が分かる。やはり転生特典か。
そして行われた手合わせ。結果は俺の勝ち。まあ僅差と言えるものだろうけど。ヒヤッとさせられる場面は何度かあったが、立っているのは俺で膝を突いているのはベルさんだ。勝利と言っていいだろう。
呆れた顔で見上げてくるベルさんからの言葉に、俺もそう思うと同調する。
身体が勝手に動いた、とかでは無かった。どう動けばいいか分かる、相手の動きも読める。その場その場の最適な行動が頭の中で駆け巡る。
無意識ではなく、全てが思った通りの結果に。説明のできない感覚だ。他人の技術をインストールして結合しているのか?
「これでも、騎士の中じゃ一番強いから団長務めてんだけどなぁ。代わるか?」
「冗談。ベルさんだってただの手合わせだったんだから、本気の殺し合いじゃ分からんでしょうが。それに、団長なんて俺が出来るわけないでしょ」
組織のまとめ役なんて大役なりたい訳ない。
「仮に俺とお前が本気の殺し合いをしたとしたら、もっと圧倒的な結果になっただろうさ」
まあ、うん。それは何となく分かる。相手の力量を理解出来てしまう感覚もなんで備わっているのだろうか。ただの新米騎士だけどチート特典のせいで勝ってしまって申し訳ないがいっぱい。
「んじゃ、もう一回やっとくか!」
「戦闘狂かよ」
「はっはっは。久々に昂ってんだわ! 付き合え!」
「俺ノーマルなんでちょっと……」
「のーまるってのはよく分からんが、そういう付き合えって意味じゃねぇよ」
その日はベルさんとの立ち会いだったり呑みだったりで潰れてしまい、酔いつぶれたベルさんを引きずり部屋へと持っていって終わり。
「あなたが新しい整合」
「もうそれ三回目だからスキップで」
「はぁ〜!?」
これまた厄介な人に捕まった。
外見の説明? ん〜、実物見た事ないからあれだけど、色素薄いアスナ。
「なんか雑な扱われ方された気がする」
「気のせいじゃないよ」
「ああ、そうなんだ。良かった気のせいじゃ……は?」
初対面だけど、俺の中でこの人は雑に扱うリストに加わった。反応が面白いね。なんて言うか、真面目に話したら疲れそうだけど適当に話せば楽しい相手って感じ。
「あ」
「レイン・シンセシス・トゥエニでっす」
「名前聞こうとはしたけど最後まで聞いてよ!」
仲良く出来そうだなこの人。何となく。
「私あなたの先輩なんだけど!」
「身長俺の方が上なんで」
「だから何!?」
いいね。弄りがいがあるなこの人。
「私はイーディス。イーディス・シンセシス・テン。色々教えてあげるわよ!」
「じゃあスリーサイズから」
「言葉の意味は分からないけどなんか意味深ねその言葉」
「『綺麗ですね』って意味だよ」
「え、あ、そうなの? ありがとっ」
「て言うのは嘘で胸腹尻のサイズのこと」
「それ知って何かあるの?」
この世界の性教育は遅れまくっているのだろうか、逆に発達しているのだろうか。ファナティオさんは女性であることを不要なものだと斬り捨てているし、この世界の女性は恥じらいが薄いのだろうか。
「ねっ、私の弟になりなさいよ!」
違った。こいつが馬鹿なだけだった。
光のエレメントを二つ生成。イーディスの目の前で爆発させる。
「め、目がぁぁぁあああ!?」
目を押えて天井を見上げ、苦しむ声を存分に叫ぶイーディスさん。この人古参の騎士だよな。精神年齢俺より下では?
ぎゃぁー、と叫びながらロックもビックリするほどの首振りを見せる。どうしよう、他人のフリしたい。誰も通らないのが幸いか。
『……あなた、結構やるわね』
声だけしか聞こえてこないけれど、アドのドン引きした声だけで表情すら容易に想像出来る。声低すぎ震えすぎ。いやいや鬼畜じゃないですよ俺?
「よしよし。眩しかったね」
「全部あんたの仕業だけどね」
ちょっと可哀想に思えてしまったイーディスの頭を撫でに行ったら首を鷲掴みされた。んー、ミシミシ鳴ってるね。ここが死地かな?
「言い訳は?」
「ガガガゴガギゴ」
「適当に話してるでしょ」
何故バレた。
「あんた、本当に召喚されたばかりの整合騎士……?」
「召喚なんてされてないけどね」
「じゃあ部外者じゃない。ここで何してるの?」
「整合騎士なんだからここに居るのは当たり前でしょうが」
「じゃあ召喚されてるじゃない!? ややこしいこと言わないでよ!」
召喚されてないんだけどね、本当に。まあいいか。言う気もないし。
アド……アドミニストレータの政策、シンセサイズによる整合騎士の作製。
半ば誘拐のような手法であり、その人の周りの人間の了承を得るものでもない。仲を引き裂く、非人道的な行為。
それを止めようとは微塵も思わない。なぜなら俺に実害が無いから。
俺的には、身一つでこの世界に投げ出されるよりも、整合騎士という超安定の職に就き、衣食住も揃っている最高の環境。
「ところで貴女は何方ですか?」
「イ・ー・ディ・ス!!! これ二回目!!」
「『私はイーディス。イーディス・シンセシス・テン』って、聞いてもないのに二回名乗ってたから三回目だよ」
「どうでもいいわよ!?」
ていうか俺さっき神聖術の行使に詠唱したっけ? 詠唱知らんけど。アドヒアだかアヒージョだか忘れたし。割と無意識に使ってたけど、剣技とは真逆だな。これも特典ってやつか。割と多いな。
俺TUEEEE系なぁ。転生特典だけで本人の努力皆無なのに誰よりも強いとか面白くないと思ってたけど、当事者になったら申し訳ないが勝つな。
ある程度、というか誰よりも努力したという背景欲しいよね。そんな記憶ないから俺は前者なんだろうけど。
「お姉ちゃんと呼びなさい!」
まだ言ってんのかこの人。
「っ、二十番!! あの御方に気にぼギャべぼっ!?」
何故だか突然脚を振り上げたい衝動に駆られて思い切り振り抜いたらボールにしては随分と柔らかく重い何かに当たったけど気にすることなく振り抜いた。
汚い声が聞こえた気がするけど何も目に映ってないし気の所為だろう。イーディスが爆笑しているが無視無視。
「だっ……だるま落とし……ブフォッ!!」
壁から足が生えているという不気味なモニュメントにアドの感性を疑いながら、呼吸出来なくなるほどに笑い続けるイーディスを放置して宛てがわれた部屋へと戻った。
「どうかしら」
「どうかしら???」
部屋で横になって数分。扉をノックされたために鍵が開いてますよと声をかける。どうせイーディスが着いてきたのだろうと思っていたらそこに居たのは軽装のファナティオさんだった。
よくよく顔を見たら初対面の時とは違い、薄らと化粧をしていたようで。した方がいいよとは言ったけれど、一日二日でどういう心境の変化? と普通に固まった。
「新人から初対面で『化粧しろ』って言われた時は普通に殺意が湧いたけれど、そこまで言われたら引けないわよね」
「いやそんな高圧的に言ってな」
「なぁに?」
「なんでもないです」
なんで俺がこの人の化粧を採点しないといけないんだ……化粧の善し悪しなんて知らないんですけど。綺麗以外出てこないです。
「あら、ありがと。本音は?」
「口紅付けすぎでちょっと怖い。あぁ、慣れてないなこの人って感じ」
「思ってたよりも言ってくれるわね……うん、また採点お願いするわ」
もう来ないでください。
「ところで……今時間、空いてるでしょ?」
その目が。口角が。
(ベルさんそっくりだな……)
整合騎士はバトルジャンキーしかなれないのか。選定条件をアドに聞いてみようか。
寝るので忙しいです、と言った瞬間首根っこ掴まれて引きずられていく俺。
ちょうど俺の部屋を訪ねようとしていたであろうイーディスは、巻き込まれないように無言で消えていった。クソが。