相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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整合騎士ってブラック企業なのか

 剣の世界で孤独だった私に、彼は手を差し伸べてくれた。

 

 反発もした。ただ我武者羅に、存在価値を証明するために剣を振るう私に寄り添い、いつしか彼は私の生きる意味になっていた。

 

 この想いを自覚したのはいつだったか。圏内事件? クラディールが暗躍した時? それとも、初めて出会った第一層から? 

 

 考えてみる。私の気持ち。

 いつからこの胸が熱くなる、気持ちのいい感情が芽生え始めたのか、と。

 

 ────分からない。いつなのだろうか。

 

 けれど、この気持ちは本物のはずなのだ。

 だって、私の記憶がそう語っているのだから。

 

 貴方と過ごした日々を私は忘れない。半ば強引にパーティに誘い、貴方からのプロポーズを受けてゲーム内とはいえ夫婦になって、ログハウスで同棲し、ユイちゃんという娘まで出来て。

 

 ALOに囚われた私を、君は救ってくれたよね。ユイちゃんと一緒に、君はあの世界樹を駆け上り、鳥籠に囚われていた私を嫌な顔せずに救ってくれたよね。

 

 現実世界でもSAO生還者の支援学校に通って、学年は違うけれど毎日一緒にお昼ご飯を食べたり、休日にはお出掛けもして……いつでも思い出せる、楽しい毎日を過ごしたよね。

 

 君のくれた温もりを私は忘れないよ。

 君に与えられた生きる意味を私は無くさないよ。

 

 君と過ごす毎日が幸せで。

 私は、君の隣を歩いていくために生まれたんだって、そう思えるほどに居心地がいい世界。

 

 本当に幸せ。

 絶望を軽く凌駕するほどに、私は満たされている。

 周りに女の子が多くても、私に一番の愛情を向けてくれる貴方だから。

 

 たとえそうじゃなくても、私は。

 

 私は、貴方を……

 

「別れてくれ」

 

 わたし、は………………

 

「俺は……諦められないから────諦めさせて、くれないから」

 

 わ、たし、は…………

 

「俺は、キミに……明日奈にそんな顔、向けられたくない」

 

 ……………………

 

「ごめん……けど、言わせて欲しい」

 

 最愛の人(キリト君)からの別れの言葉。

 

 差し出した手を跳ね除けられて、戸惑う私に容赦なく飛ばされる彼の気持ち。

 

 私の想いに対する拒絶。

 

「二度と俺に、『好き』だなんて言わないでくれ」

 

「────」

 

 想いの否定とも言える強烈な一言。

 今までの思い出の全てを否定するような、予想もできなかった言葉。

 それはナイフなんかよりもよっぽど鋭利で、その刃先は容易く私の胸元へ定められ、勢いそのままに心臓を貫くもので。

 

 足を止めた私を置いて歩いていく彼の後ろ姿を見る。

 

 私の中に浮かび上がる感情は困惑。ただ、それだけ。

 

『悲しい』とは、微塵たりとも思わなかった。

 

 可笑しい。そんなはずはない。

 

 私にとってキリト君は生きる意味であり、世界で一番愛する人。

 そのはずなのに、どうして私は彼からの拒絶に対してここまでドライになっているのか。

 

 分からない、分からない。

 

 ────私は、どうして彼を好きになったんだっけ……? 

 

 ……いや、違う。そんなはずは無い。有り得てはならない。

 

 だって、ほら。

 

 目の前で誰かに刺されて倒れていくキリト君に、私は焦ったように駆け寄っていく。

 心配と困惑、悲しみが入り交じってキリト君に声をかけ続ける。

 

 こんなに親身になって接するのは、彼を愛しているからに他ならないはずだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈◈

 

「昨晩、寝てる貴方の記憶を弄ろうとしたのだけれど失敗してしまったわ。やっぱり貴方に精神系の干渉は無理ね」

 

「ちょっと待って今なんて???」

 

「麻痺毒も致死性の毒も効かない。ディープ・フリーズも効かない……傷自体は負うことを考えると……ねぇ、線引きは何処までだと思う?」

 

「俺はお前にドン引きだと思う」

 

 契約結んだ夜に命狙われてました。どうもレイン・シンセシス・トゥエニです。

 

 紫やらどす黒い何かやらバチバチ爆ぜる何かやらを手に生成しては消していくを繰り返すアドの純粋な顔に普通に恐怖した。なんだこいつ、サイコパスか? 

 

「どうせ効かないんだし良いじゃない。減るものじゃあるまいし」

 

「結果論な?」

 

「ところで、最高司祭である私に敬語は?」

 

「炙り殺すぞババアが」

 

 おっと、鼻先に何かが通って行ったぞ。

 

「今詠唱した??」

 

「心意の太刀よ」

 

「使えるんかい」

 

「貴方の影響よ?」

 

 おっと、ラスボスを無意識に強化してしまったようだ。ベルさんも心意が使えるらしいが見た事ないし、サンプルが無いから比較できないが、俺の心意の太刀より精度高くね? チートより強いってなんだそれバケモンか? 

 

「もう何年も前に使えるようにはなってたけど。貴方の心意の太刀を見て学んだの。どう?」

 

「キリトどんまいって感じ」

 

「きりと?」

 

 ああ、そこら辺も言わないといけないのか。まあ後々話そうか。今はめんどくさい。気持ち的に。

 

「孤独と孤高を履き違えてる痛いヤツですよ」

 

「何それ。関わりたくないわね」

 

 報告することもないし、側近(仮)のような立場だけれど四六時中アドの傍にいることは無い。というか、アドと接触する頻度なんて一日に一度あるかないかだ。

 

「二十バブべっ!?」

 

「学習しないわね」

 

 アドが住む最上階から下へと降りていく。途中で大きめのサッカーボールがあったからとりあえず思いっきり蹴り飛ばしといた。変な音したけど気にしないでおこう。

 

 今の公理教会に整合騎士はほとんど居ない。

 俺が最新であることから二十人。内、半分弱はディープフリーズされており活動不可能。さらに半分は暗黒界と人界を隔てる『果ての山脈』の警備のために常駐している。

 

 残る五名程もそれぞれの統括地域があるために基本飛び回っているし、暗黒界との戦闘に派遣されることもある。実質、ここに残るのは俺と数名のみ。普通にブラック企業である。

 

 あんなにおちゃらけたイーディスも、酒呑みのベルさんも、実はクソ忙しいのだ。

 

「働け、デブ」

 

「ぶ、ふひっ……」

 

 そう考えれば、この世界を監視する元老院システムは理にかなっていると言っていい。あれが無ければ俺たちは四六時中空を飛び続けることになっただろう。『警察』のような職業……天職か。それが増えることになるかもしれないが、組織の人間が増えると統率がややこしい。そのための禁忌目録だが、抜け道はあるために仕事が増えるのは必然だ。

 元老院システムが道徳フル無視の所業だとしても、俺としては助かっているから目を瞑ろう。必要な犠牲というやつだ。クソチビダルマももう少し働けや。今のところ、俺の仕事はほとんど無いんですけどね。その内戦場にも出されるだろうけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎ、ぎゃ……」

 

「────」

 

 この世界にやってきて、十年ほどが経過した。

 

 身体の成長は身長が少し伸びたあたりで停止し、全盛期の体を保つかのように成長が止まっている。

 精神面では、身体の成長の停止に伴うように少年心をそのままに留めてくれている。青年心か。

 

 最近、暗黒界の侵略が活発化し始めているためにアドから俺へ対処の命令が下されることが多くなってきていた。

 

 この世界に来てから初めて命を奪ったのはいつだったか。

 整合騎士なのだから、敵勢力を殺すのは当然。それについてなにか思うことは無いし、実際にゴブリンを斬り殺した時も特に罪悪感なんかはなかった。

 

 相手が明確な殺意を向けてきていたからかもしれないし、とても人間には見えない姿の相手だったからかもしれない。

 

 自覚はあるが、やはり俺にとってこの世界は創作物だったのだろう。今は違うが。

 

「ギギャギャギャ!!」

 

 ゴブリンの繁殖力は人間のソレを優に超える。

 個の強さはそれほどでは無いが、軍を成して行動する彼らはその数で一つの存在を殲滅する動きを徹底している。

 

 だからこそ、今回も俺の前にいるゴブリンの一隊は偵察隊だとしてもその数は百を優に超える。

 

 不揃いの武器を片手に持ち上げ、士気をあげるように叫び、振り回し、威嚇してくる。

 何度も見た光景。恐怖も何も感じたことがないのは転生特典に含まれていたのだろうか。

 

「ぎ────」

 

 敵勢力の全てから声が消える。これで俺の仕事は一旦終わり。

 数日ぶりに公理教会へと帰還する。ここまで期間が短い騎士は俺ぐらいだろう。アドの政策でもあるが。

 

 それにしても、俺にだけ飛竜が与えられていないのは色々と文句を申したいところだが。

 

 百の血飛沫が一斉に吹き出す光景を背景に、薄暗い世界から青空が広がる人界へと帰還した。

 

「んー。おつかれー」

 

「うわ……」

 

 そんなシリアスは許さないと言わんばかりに、帰還した俺を出迎えたのはバカでかいベッドで寝転びながらポテチ片手に漫画を読む駄女神兼駄目司祭。

 

「え……ベ〇トルト、ラ〇ナー、あんた達巨人だったの……?」

 

「エレ〇死ぬぞ」

 

「はぁぁああ!? ちょっ、ネタバレよ!?」

 

 十年少しでどうしてこうなってしまったのだろうか。この御方こそ、俺の上司で人界の女神的存在であるアドミニストレータ猊下である。

 

 数年前。娯楽が無さすぎて飽き飽きしていた俺が適当にシステムを作りあげ、自分の記憶を元に生成した漫画の数々。知っているものしか投影出来なかったために読み返すことしか出来なかったが、それに興味を持ったのがそこに居るラスボス様である。

 

 この世界の外の、さらに外から来た俺の知識の中にある娯楽に興味が湧いたのか、私にも読ませろという御命令を受けたために短めの漫画を渡したらこの有様である。

 ちなみにポテチは初めは俺が作っていたが、その後はアドが自分で作った。

 

「その食べ方してたら太るぞ」

 

「ふん。心配いりません。体型維持なんて神聖術でどうとでもなるもの」

 

「でも最近贅肉増え」

 

 おっと、自動迎撃が反応した。意識外から攻撃してくるのやめろ? 俺じゃなかったら普通に死ぬぞ。

 

 あ、ちょっと細くなった。

 

「気にしてて草」

 

「あんた、ほんと……はぁ、まあいいです」

 

 最高司祭としての威厳は何処へやら。アドの部屋は基本的に俺しか入らないから油断しているのか、本棚には今まで読んできた漫画の数々がストックされている。普通にオタクだろ。五つぐらい本棚あるんだけど。

 

「とりあえず報告」

 

 業務連絡といってもそれほど無い。いつも通りの状況、大して敵勢力が活発化したとかもあまりないし、動きの変化も見られない。「いつも通りでした」って言うだけだし。

 

「変化無し」

 

「ベルクーリでももう少しまともな報告するわよ……」

 

 この後は雑談タイム。最高司祭としての顔はこの空間の中では消え去っていて、俺とアドの関係を言い表す言葉は上司と部下ではなく友人。

 

「レイン。貴方最近街に降りているそうね」

 

 最近じゃなくて十年前からちょくちょく降りてるけどそれを言えば面倒になりそうだから黙っておこう。

 

「別に、貴方の行動を制限する訳では無いけれど、関わるのなら騎士であることは隠しなさいよ」

 

「刀も持たずに出てるから安心しなさい」

 

「それはそれでどうかと思うけれど」

 

 友人というか、もはや相棒なのでは? と思い始めているけれどそれは違うな。

 アドの性根は変わっていない。趣味に漫画が追加されようが俺に感化されようが、最終的にはアドミニストレータなのである。

 

「ラーメン食べたいから作ってよ」

 

「作れる訳ねぇだろ馬鹿か」

 

 アリスもまだ確認出来ていないし、キリトも来ていないし。

 だから今俺がすることは、公理教会で暇を謳歌することぐらいなのだ。

 

「服のバリエーション増やしたら?」

 

「……作ってよ」

 

「はいはい」

 

 原作開始はいつになることやら。

 時間が経ちすぎて細かいところは忘れ始めているけれど。

 

「これとか」

 

「よくそんな真剣にビキニ渡せるわね」

 

 とりあえず今は、ゆっくりとしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綺麗にされている台所に、料理のやる気が向上する。

 

 素早く野菜をカットしていき、冷蔵庫に入っていた豚肉を一口サイズにカット。

 各種調味料を混ぜて、それらを一気に炒めていく。

 

 火の通りにくい野菜から、最後に豚肉を炒め調味液を絡めていく。ぱちぱちと油のはねる音と食欲の唆る香りが昇ってきて鼻腔をくすぐる。思わず鼻歌でも歌いたくなるような気分だ。

 

 食器棚から皿を用意して、二人分の皿に料理を盛り付けていく。我ながら色使いも完璧という他ない。

 炊きたての米を盛り付け、完璧な配分の食事が完成した。

 

 やはり、若い体というのは素晴らしいな。

 

 身体が軽い、という感覚を覚えたのは初めてだ。今までも不調などは無かったが、一気に若返ったような状況ではその変化の影響は大きい。

 

「────そうは思わないかね、朝田詩乃くん」

 

「…………どこから突っ込めばいいのか分からないけど」

 

 この家にあるカメラからいつも見てきた少女。

 電子空間の中での二度の邂逅を果たした少女は頭が痛いと手を額に添えてこちらを見やる。

 

「……ここ、雨宮くんの家よね?」

 

「そうだ」

 

「ここ、現実の世界よね」

 

「私たちからすれば、そうだと言えるね」

 

「また変な言い方……それで、雨宮くんの身体に入っている貴方は、何処の誰?」

 

「茅場晶彦。SAOの開発者にして、雨宮くんの次にこの世界の真理に到達した存在さ」

 

「……はぁ、まあいいわ」

 

 コップには麦茶を注ぐ。そして箸は二色のものを準備。

 彼女には、白色の箸を。

 

「……どうして知ってる訳?」

 

「見ていたからね」

 

「気持ち悪い」

 

「ははは。中々に刺さるものだな、未成年からの侮蔑は」

 

 野菜炒めを一口。我ながら素晴らしい出来だ。

 目の前に座る少女からは訝しむような瞳を向けられているが、気にせずに食事を続ける。

 

 久しぶりの食事に舌鼓を打ち、すこし。

 料理に手をつけない少女は、諦めたように息を吐き箸を手に取り肉と野菜を口に運ぶ。

 

「味まで同じ……どういうことな訳? というか貴方はどうして雨宮くんの身体に入れてるの? 彼は何処?」

 

「簡単な事さ」

 

 シャキシャキとした野菜を噛み締め、飲み込んでから麦茶を一口。

 

 一息ついた後、彼女からの当たり前の疑問に、簡潔に答える。

 

「所詮……この世界も、創作の世界なのさ」

 

 桐ヶ谷和人は『鍵』足り得ない。

 

 朝田詩乃こそが、私の用意する最大のピースなのだ。

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