最終的には発狂死するんだけど
「システムコール────エンハンス・アーマメント」
その言葉を、その文字の羅列を聞いて
「キリトっ、なにか来る、警戒を……キリト?」
「────いや、なんでもない。行くぞユージオ!」
僅かな既視感から目を背けて、初めての親友であるユージオと共に目の前の騎士へと駆け出す。
歯車なんて、既に崩壊していた。
◈◈◈◈◈
「レインさんレインさんっ」
「犯罪臭がやべぇ」
「???」
周りの視線が気になるお年頃。どうもレイン・シンセシス・トゥエニです!
この世界に来てから二十年は軽く超えてしまいました。公理教会にはカレンダーが存在しないという激ヤバ環境で月日の感覚はズレてきてしまっているが、街へ遊びに行く時の様子から何となくで計算している。あの時あんなに小さな子が剣術学校を卒業して……特に涙とかは無いけど。
さてさて。目の前でキャッキャと俺にキラキラした目を向けてくれる幼女はアリス・ツーベルクというらしい。そしてここは公理教会の中間部。騎士達が本来は立ち入ることの無い、見習いの子達が過ごす空間なのだが。
はい、アリスさんですね。もはや忘れてたわ。
下手したら三十年経ってるのでは? という月日が流れているためにアリスの顔立ちなんて思い出せなくなっていたが、人間というのは面白いもので、実物を見れば「あーそうだそうだ!」となるのである。もう鮮明に蘇ったよね。
このフロアへの立ち入りは整合騎士は許可されていないが俺は別枠。というか禁忌目録が俺には効かないために自由に行動しているわけで。
ある日……というか数週間前だが。いつもの如く暇を持て余してこのフロアまで降りてぶらついていたら何故か二度見してしまった女の子がぽつんと一人で猛勉強していたのを見つけた。
アリスやん。
あ、そうでしたそうでした。俺アリスが産まれるの待ってたんだわ、とこの世界に来てからの大前提を思い出した俺は何故か笑っちゃったよね。
そして、じとっと見つめられていることに流石に気配を感じたアリス(ロリの姿)が参考書から顔を上げて俺の姿を視認する。
『……騎士様、ですか?』
『うん、レインだ。宜しく、アリス』
くっそ堅い挨拶をした所で交流が始まり、今に至る。
まあね。ここって仲良くわちゃわちゃするようには出来てないからさ、アリスも不安だったわけよ。確か、アリスは暗黒界と人界の境界に触れてしまったために禁忌目録違反で連行されたはず。というか本人からもそれ聞いたし。
突然連れてこられた、周りに頼れる人間のいない環境で、少女はアドから告げられたように、『頑張ったら故郷に帰してあげるよ〜』という言葉を信じて努力しているのである。嘘だけどねそれ。どんまい。
まあ、それは置いておこう。
そんなゴミカスな環境でストレスを浴びながらそれでも僅かにある希望を掴むために努力しているアリスに、フランクに接する友好的な人がやってきたのだ。するとどうなる。
最初は警戒するけど、すぐに懐いてしまうのである。普通に懐かれすぎて怖いわ。コミュニケーション取っとこうぐらいの気持ちだったのになんだこれ?
「レインさんレインさんっ!」
「ハイハイどしたの」
「私ね、四つのエレメント生成を同時に出来たの!!」
「おー、やるねぇ」
嬉しそうに進捗を報告し、実際に俺の前で四属性のエレメントを一つずつ計四つ生み出して見せるアリスはとても嬉しそうだ。いや、普通に凄いな? 両手とはいえこの世界の住人にアリスと同レベルの術士が何人いることやら。俺は普通に褒めて頭を撫でて、嬉しそうにしてるアリスの目の前で空いた片手に五つのエレメントを無詠唱で生み出す。
「むぅぅー!!」
「甘いんだよ、お嬢ちゃん」
「私とレインさん、そんなに歳離れてないでしょ!」
まあね? 精神年齢は18のつもりだけどね? それでもキミ10そこらでしょうが。倍近く離れてるのよ。
「どーやってるの! 教えて教えて〜!!!」
「仕方ないなぁ。じゃあ想像してみ。今殴り飛ばしたい相手を。そいつにぶつけるイメージでエレメント生成するんだ」
「むー……した!」
「なんで俺に拳を振り上げてるの??」
今の俺は私服だし刀も置いてきてる。四六時中刀持つやつは病気です。ああ、うちの騎士全員病気でしたわ。
まあそれでも、まだ事情を知らない子達ではなくアド側の教育係達は俺を見たら敬礼してくるんだよね。ウザったらしいからやめて欲しい。
「出来ない〜」
「じゃあ方法を変えよう。今まで出会ってきた中で、一番頼りになってかっこいい、自分を守ってくれるような大好きな存在を思い浮かべて」
「………………う、ん!!」
「よし。じゃあそいつを思いっきり殴って……痛っ、え、なんで俺殴るの?」
「レインさんが言ったから!!」
この子はどうやらDVの素質があるようだ。恐ろしい子。
「まあ今すぐ片手で五個生成は難しいと思うよ」
「え〜!! レインさんと一緒がいいのに〜!!」
「俺今口説かれてる?」
「くどかれてる??」
なんだこいつ可愛いなおい。俺の妹になりませんか?
「妹は、ヤダ!!」
ぴえん超えすぎてぴえん。
とまあ、ロリスとの交流は毎日のように続いている。目に見えて成長を続けるアリスはやはり天才のようで、田舎で収まっていいような器ではないと分かる。
「アリス。そのうちダルマみたいなチビデブの怪物に会うと思うんだけど」
「えぇ……気持ち悪いね、その怪物」
「そいつはさ、自分以外見下してないと生きていけない性格してるからアリスにもマウント……ああ、『私が上ですよ』って主張してくるから、そう言われたらこう言ってやれ」
「なんて言うの?」
「『レインさんは、エレメント百個ぐらい作れてたよ〜』って」
「ん〜? ……分かった!」
分かってないけど分かったなこの子。
あー、この子もそのうちシンセサイズされて記憶封印されるんだろうなぁ、やだなぁ。まあ止めるつもりは無いんだけど。そうじゃないと物語進まないし。
というか、もうキリト参上がすぐそこまで近付いてきているのだ。そろそろ俺の身の振り方を考えるべきである。
立場的に、初期はキリトの敵は確定だろうし。俺は完全にアド側の人間だしね、敵対するだろ。
アドの考えも裏表無しに理解した上でアド側だからなぁ俺。まあ今考えても仕方ないか。その時になったら頑張れ、俺。
「レインさんレインさん!」
「はいはい」
「えへー! なんでもなーいっ」
『随分懐かれているじゃない』
「おい入ってくるなババア」
「???」
クソが、いちいち脳内に語りかけてくるなよ。今光属性マシマシのロリスとの楽しい楽しいお喋りタイムなんだわ。数年したら人格変わるんだから今だけはこの子との時間過ごさせてくれや。
「いいか、アリス。ちょっと紫入ってる銀髪の女性に会ったら問答無用でこう言うんだぞ」
「うん?」
「『え、あ……その歳になっても、そんな格好なんですね……あ、えと……良いと思いますよ!!』って」
「長いしよく分かんないよ」
「大丈夫大丈夫。効果抜群だから」
念話で血反吐吐いてる音が聞こえてきたし。やはり気にしてたのか。もう少し服のバリエーションを増やしてやろう。あれに発情してるダルマもダルマであるが。
ああ、そういえばあいつをやる気にさせるためにアドは「一夜好きにしてもいいよ♡」とか言うんだっけか。きっつ。
『それはその世界線の私であってこの私では無いことをきちんと理解しなさいいいわね?』
「よし、アリス。ディープ・フリーズの術式を教えてやろう」
「えっ、なんか凄そう!! 教えてレインさんっ!!」
『今すぐ私の部屋に来なさいっ!!!』
有無を言わさぬ強制送還。まさかの瞬間転移によりアドが居る最上階まで連れてこられた。他人に対する瞬間転移なんてこの人もしや神なのでは? 俺でも頑張って任意の場所に対する転移しか出来ないのに。後で教えてもらお。
「私は淑女ですから」
「初対面素っ裸の痴女が何言ってんだよ」
「黙らっしゃい」
ぷりぷりと怒るアドは本当に出会った当初から変わらない見た目だ。中身もそのままだろうけど。変わったことといえば服を着るようになったことか。服の機能が陰部を隠すことだけでないことを理解してくれたようだ。まあ下着は着てる日と着てない日が半々なんだが。服薄いからとんがりコーン分かりやすいんだよな。
「下着もちゃんと穿いてます」
「上の話してんですよ」
「ブラもちゃんと着て……着てますから」
「今着たでしょうが」
もはや駄女神にしか見えないアドの部屋は何故こんなにも整頓されているのか。そういう自動システムが作動していると言われなければ説明がつかないほどに摩訶不思議である。チュデルキン? あいつは出禁です。
「ああ。連絡が遅れたけれど、アリスちゃんを見つけたわよ」
「本当に遅いな。もう話しまくってるわ」
もうちょいで1ヶ月経つぞ。報連相壊滅してるな。
デュソルバートさんが統括している地域にアリスが居たために、彼が連行してきたと。絵面がグロいな。中年のおっさんが幼女を鎖で縛って飛竜に吊るして運んでるとかその画像だけで犯罪だわ。その光景を見ていたであろうアドは思い出しながら爆笑している。
デュソルバートさんの記憶はきちんと消しているようで。そこら辺はちゃんとしてるんだなぁこの人。
「分かってると思うけれど。私がアリスにシンセサイズを施すことは確定路線よ」
「分かってるよ」
異論ないし。アドの決定には従う。明らかな間違いなら正すけど。
俺の返答に満足したのか、柔らかく笑ってアドはベッドに腰掛ける。
「寝る?」
「寝ません」
お前と寝るのは一回で十分だっての。
「下手くそだものね」
「まじでぶち殺すぞクソアマが」
「妹の気配っ!!!」
「煩い」
少し話してから部屋を後にする。
整合騎士の居住区へと踏み入れた瞬間に飛び出してきたのはアタオカ代表のイーディスである。
「妹の気配がするっ!! ちょっとレイン!! 私の妹になる子は何処なの!?」
「お前もう……なんか黙れ」
「哀れみの視線っ!?」
私服のセンス終わってるし、語彙力終わってるし、なんだこいつは。
絶妙にエロいなその服。どうなってんの? 似合ってるかどうかと聞かれれば即答でクソダサいって言うけれど、謎に網やら薄いピチピチの服やら強調が凄い。
ただしイーディス。この1点で全てが無に帰す。
「俺、男女の友情なんて机上の空論だと思ってたけど、身をもって立証できるとは思ってなかったわ」
「? 良かったわね?」
ベルさんとファナティオさんペア以外で恋愛してる騎士なんて居るのか? ああ、四旋剣の人達が居たか。同性愛だっけ、罪状。この世界、性に厳しすぎるだろ。どんだけ人口増加させようとしてるんだよ。多様性認めてやれよ。ああそうか、恋愛なんて出来ないおばちゃんの嫉妬か。可哀想に。おっと、頬に切り傷が。
「ねぇ、坊や。また私の神器を使って何かしたわね?」
「え、武装完全支配術使うとか正気??」
ファナティオさんかい。
「ははは。焼き芋を少々」
「ファナティオさん! 今日もお綺麗ですね〜」
「あら、ありがとうイーディス。坊や、貴方もこの子を見習いなさいな」
「今日の香水キツいっすね」
「ちょっ……!? 今私の事本気で斬ろうとしたでしょ!?」
ファナティオさんとイーディスから同時に手刀が飛んできた。自動迎撃はイーディスだけに反応したようで、ファナティオさんの手刀は普通に頭を打ち抜いて激痛が凄い。
「副騎士長半端ねぇ……」
「序列で言えば貴方が二位のくせに何言ってるの。というか騎士長よりも強いでしょ」
いやいや。ベルさんまじで意味わからんぐらい強いからね?
試合形式ならまあ俺が勝つけど戦争中にベルさんが敵にいたら余裕で死ねるわ。なんだよ、任意の時間の過去を斬るって。そんなにチートじゃなかったでしょあの人、どうした??
MAXは制限あるけどそれ以内なら何秒前でも有りというチートオブチート。暗黒界が可哀想。
「私を労わってよ!? それか『お姉ちゃん』って呼んでよ!!」
「おばさん」
「ごハッ……」
「今私の事呼んだ??」
「叔母さん世代めんどくせぇ……ってベルさんが言ってました」
「……ん、なんだぁ、揃いも揃って楽しそ……ファナティオ、なんだその顔。な、なんで剣の柄に手を添えながらこっちに来る!?」
「アディオス」
「ちょっ、おまっ、レイン! お前のせいだろなんとか────」
はい、自室へ転移完了。ベルさんが手を伸ばして叫んでたけど気の所為だろう。
疲れた。寝ます。
『レインさん……どこ行ったんだろ……』
「今行くよっ!!」
ロリの悲しい声が聞こえた!!! 全速力で駆けつけるからねっ!!!
「────う、ぁ……?」
瞼の隙間から差し込んでくる強烈な陽射し。
けれどそれはほんの数秒で、時間が経つにつれてその光が柔らかいものであるのだと分かってきて、鼻に漂う青々しい草の香りを感じとりながら身体を起こす。
周りを見渡せど、見覚えのない世界。巨大な一本の木はALOでも珍しいほどに大きく太い。
質感も、感触も、香りも。全てが現実のものと同一でありながら、脳がそれを否定する。
「あ。起きた?」
「……?」
まだ覚醒とは程遠い頭の活性。
ぼんやりとした思考の狭間に投げ掛けられた男性の声。
何の変哲もない、しかし本物の斧を片手に携えた少年は、それが似合わないほどに清々しく、西洋のような風貌で、しかし俺でも理解出来る日本語というチグハグな存在で。
「僕はユージオ。君の名前は? 近くで倒れてたからここまで運んできたんだけど……怪我とかは無い?」
ユージオと言う少年の声は、妙に胸にスっと入ってくる、安心するような声で。
「俺は……キリト。怪我は無いよ。ありがとう、ユージオ」
咄嗟に口から出たのは現実の名前ではなくアバターネーム。けれどこれが正解なのだと直感が囁いていて。
レインを失った俺の胸の穴を埋めてくれる。そんな存在との出会い。
いずれ俺の人生で二人目の親友となり、そしてまた、俺の目の前で失うことになる。そんな大切な存在になるユージオとの出会い。
現状の騎士団(アリスを除く)の中で、ベルクーリとファナティオは別格、レイン君はバグって言う感じ。