相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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遠征はお風呂無いから嫌いです

「遅い」

 

 ────速すぎる。

 

「軽い」

 

 ────重すぎる。

 

「下手くそ」

 

 ────技術が高すぎる。

 

「直線的な斬撃に対処出来なかったら話にならないぞ」

 

 圧倒的な剣速。

 

 理解不能なまでに極まっている心意。

 

 何度首が飛んだと錯覚したか。腹を抉られて内臓が零れていく光景を幻視したのは両手で収まるのだろうか。

 

「っ……はぁっ、はあっ……!?」

 

「ま。初めはこんなもんだろ」

 

 叔父様……騎士団長との手合わせで感じた高みの景色。

 今の私では到底手が届かないほどに洗練された騎士の姿。本気の立ち会いでは無いと分かっていても理解出来てしまう距離。

 

 なんだこれは。この方が序列二位? 

 

 意味が分からない。圧倒的だ、理不尽なまでの力の差だ。

 こんなもの、叔父様を頂点として見ていた私を嘲笑うかのような馬鹿げた話だ。

 

 新参者の私程度では、この人との手合わせで得られる経験が皆無に等しい。それは彼……レインの教えが下手だからという訳では無い。

 極まりすぎているあまり、私の理解が追いついていないからに過ぎないのだ。

 

 レイン・シンセシス・トゥエニ。

 

 二十番目の整合騎士。騎士団内の序列は二位……馬鹿な、そんなはずがあるものか。

 そして、統括地域を持たず唯一にして自由行動を最高司祭様から許されているという特別扱いを受ける男。人界の切り札。

 

 与えられた肩書きは、『人界最強』。

 

(これが……頂────)

 

 この人に勝てる自分が想像出来ない。有り得ないとすら思っている。

 

 整合騎士の切り札とも言える神器の『武装完全支配術』と『記憶解放術』は彼にとっては手を抜くことと同義。

 彼の神器の記憶解放は見たことがないけれど、武装完全支配術は一度だけ見せて貰った。

 

 私の持つ金木犀の剣と同じ、広範囲殲滅攻撃。性質はほとんど同じ、花の総数で言えば私の方が多いと言えるだろう。

 

 彼は、ただの剣技のみで最強の座を得ているのだ。

 

 異端であり、しかしそれこそが騎士としての正しき姿であるとも捉えられる。

 

 普段の彼からは想像もつかない、騎士の姿。

 

 なんて圧倒的で、なんて眩しいことか。

 

 この人の下で強くなりたい。

 

 ただひたすらにそう思った。

 

 私は、整合騎士。

 人界を守護する大義を仰せつかった。

 

 私は私の信念に基づいて剣を振るう。それが人界の為ならばと。悪を滅し、秩序を正すために。

 

 だからこそ。

 

「そこをどけ、アリス」

 

 彼と私が対峙するのは、定められた運命だったのだろう。

 

「最高司祭に仇なす罪人は死罪、当たり前だ……邪魔するならお前も斬るぞ」

 

 彼と敵対すること、彼から敵意を向けられること。

 それが、こんなにも胸を締め付けられるような気持ちになるなんて……思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

「昇降係の人ガチでナンパしようかな」

 

 昼寝中にそんなことを呟いたらアリスから腹パンされました。どうもレイン・シンセシス・トゥエニですですぅ! 

 

「意味は理解できませんが、何やら不快な響きですね」

 

「お、ま……ちょっ……いき、できないって……」

 

「風素を直接口から注ぎましょうか」

 

「そこは人工呼吸だろ」

 

 軽々と人間の限界速度超えてくるな。この世界に来てから一番の痛みだわ。まぁ攻撃を受けることがあんま無いんだけどね。基本は心意の鎧纏ってるから。

 無意識的に纏ってるはずなんだけどそれを貫通する威力のパンチ。もう教えることは何も無いぜ……。

 

「人工呼吸……吝かではありませんが」

 

 めっちゃ聞こえた。やめてやめて、ロリスの頃から知ってるから複雑な気分になるのよ。

 

 アリス(整合騎士の姿)と出会ってからそろそろ6年になるだろうか。人界歴で言えば380年。誰が言い出したんこれ? 初めにこの世界にログインしたヤツらか? もうちょいいい呼び名無かったのか? そのままが過ぎるぞ。

 

 何故かアリスに剣を教える立場になってしまった以外には特に何か起きた訳では無い。平和そのものである。特筆するとすればキリトがログインしてきたぐらいか。

 

 そう。

 

 原作突入(キリトログイン)である。

 

 いやぁ、漫画読み返してたら同じく漫画読み漁っているアドが思い出したかのように報告してきたね。2年ぐらい前だったかな? 

 

『レイン〜』

 

『ん〜?』

 

『2ヶ月くらい前に主人公君この世界に来たわよ〜』

 

『へ〜……へ?』

 

『接触しちゃダメよ〜』

 

『あ、はい』

 

 報告の仕方が日常会話すぎて耳に入ってこなかったけど。

 何はともあれ、主人公登場である。テンション上がっちゃうねぇ! 物語全然覚えてないけど! 主要人物の顔と名前位かな。あとは大まかなストーリー。キリトがアドを斬って勝てた喜びで昇天して植物人間になるんだっけか。ああ、ユージオ死ぬんだったわ。あとあのクソだるまも。殺しとこうかな。

 

「近い近い。え、なに?」

 

「人工呼吸です」

 

「どこで道間違えたんだお前は」

 

 アリスはねぇ……なんか知らんけどグイグイ来るんだよねぇ……辛い。ロリスの頃から知ってる身としてはね……辛いの一言に尽きる。『あいつ妹みたいなもんだから!』を現実で使う日が来るとは。ああ、ここ仮想現実でしたわ。

 

「あと、お前。婚約前の男女がキスしたらダメなんだぞ(ガチ)」

 

「整合騎士は例外では無いのですか!?」

 

「当たり前だろバカか」

 

 真っ青に顔を染めて崩れ落ちたアリスは本気で絶望しているのか悔しがっているのか。床に拳を叩きつけるのはやめなさい。床が可哀想。

 ウブとかじゃなくて、普通にこの世界では結婚前の男女のキス禁止されてるからね。元老院システムで一発アウトだわ。何だこの世界、ビバ少子化社会なのか? 

 

 禁忌目録定めたやつは交際したことないんだろうな。嫉妬心の塊みたいなルールしかないし。おや、前髪が斬り落とされたぞ? 

 

「図星で草」

 

『ッ、ッッ〜〜〜〜!!!』

 

 念話越しでもわかるわ。地団駄踏みすぎだろ。えげつない顔になってそうだな。

 

『私で童貞捨てたくせに……!!』

 

「おいやめろどこで知ったそのセリフ」

 

 形勢逆転。とりあえず土下座しといた。

 

「……何をしているのですか」

 

「お前は早く立ち直れ?」

 

 急に土下座しだした俺にアリスがツッコミを入れてくるが、その声はまだ震えていて顔色も悪い。どんだけショックだったんだこの子は。まぁ俺は禁忌目録に抵触しないから俺とキスしても何も起きないだろうけどこれは黙っておこう。

 

「はっ……将来に婚約することが定まっているのであればそれはもはや今婚約しているのも同義!?」

 

「イーディ〜ス!!! お前の妹壊れちゃった〜!!」

 

「お姉ちゃん参上!!」

 

 やっぱ整合騎士ってイカれてるやつの集まりだわ。

 

「大丈夫よアリス!! お姉ちゃんが来たわ!! どうしたの、言ってみなさい」

 

「私とレインの間に出来た子の名前をどうしようかと悩んでいたのです」

 

「……」

 

「「こいつヤバっ」っていう顔しながらアリスに指を向けるな。俺もそう思ってるよ」

 

「い……いいんじゃ、ないかしら……?」

 

「絞り出した言葉が薄すぎる」

 

 さすがのイーディスでも処理出来なかったらしい。うん、そうだね? こんなアリス見たの初めてだもんね? ちなみに俺も初めてです。グイグイ来てたといってもここまで明確にイカれてたことは無かったからね。

 

「んで、何か言い残すことは?」

 

「……んあ? なんだここ。レイン? どうしたそんな顔して」

 

「どうせベルさんでしょ、アリスに変なこと吹き込んだの」

 

「あ? 嬢ちゃんに……あ〜……マジか」

 

 状況を把握したベルさんがアリスを見てドン引きしていた。あんただけは擁護してやれ。

 

「嬢ちゃんがお前さんに好意を抱いてるのは見るに明らかだっただろ」

 

「まあ、うん」

 

「そうなの!?」

 

「お前は黙ってて?」

 

「それでも嬢ちゃんは立場を弁えてなのかは知らんが踏み切れてない様子だったから、「自分に正直になった方が楽だぞ」って言ってやったんだよ」

 

「「それだけ!?」」

 

「最近の嬢ちゃんは任務やら鍛錬やらで睡眠取れてなかったからなぁ。頭がおかしくなるには十分な理由なんじゃねぇの?」

 

 原作崩壊というレベルでは無くなっている。なんだあいつは、誇張しすぎたアスナか何かですか? 確かアスナも度が過ぎてたような記憶があるんだけどアリスには劣ってるよね。多分。

 

「まあ、あれだ。一時的なもんでそのうち自分の行いを振り返って叫びながらどっか行くだろ」

 

「いやいや、そんなお決まりの展開はないでしょ」

 

「フギュゥゥゥゥウウウウ!!!???」

 

「アリスが奇声を上げながら飛び出して行ったわ!?」

 

「何この茶番?」

 

 アリスって整合騎士の中でも厳格な子じゃなかったっけ? もうギャグ要因でしかないんだけど。

 それも今だけの事だと信じよう。恥ずかしさでティファールみたいになってたし。

 

「くっ殺!!!」

 

「作品間違えてますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に……ご迷惑を……お掛け……しまし、た……」

 

 息も絶え絶えの模範解答みたいなアリスが深く深く頭を下げてきた。面白っ。

 

「面白かったから全然いいよ」

 

「ぐっ……忘れてください」

 

 やったね。流石に妄想全開ヤンデレヒロインは相手に出来ないよ。キリトにバトンパスする案件だわ。アリスにはこれからもキリッとして頂きたい。

 

「あ、その……私のことは……忘れないでください」

 

 なんだこいつクソ可愛いな。もう妹とかどうでもいいわ。結婚しようかな? 

 

 肌が白くて綺麗だから赤く染まった頬が良く見えるし、潤んだ瞳の上目遣いを控えめに使ってくるあたりマジ天使。整合騎士って天界から来たんだぁ、本当だったんだぁ。

 

 何故か武装していることに目を瞑ればキュン死確定演出だ。

 

「ところでなんでフル装備?」

 

「あ、はい。どうやら殺人が起きたようで、私が捕縛の任を承りました」

 

「マジか」

 

 この世界は法によって支配されているといっていい。

 その強制力は現実世界の比にならない、ルールが身体に刻み込まれていると言ってもいい。そもそも、罪を破ろうという思考にも至ることがなく、至ったとしてもすることは無い絶対の禁忌。

 

 禁忌目録違反なんてアリスの一件以降聞かないし、殺人なんて俺がこの世界に来てからもほぼ聞いた事がない。

 

(ロニエに渡した神器の欠片が起動したのと関係あるのか……?)

 

 何年も前にロニエに渡した、俺の神器の小さな小さな欠片を入れたお守り。それが先日起動し、俺の刀へと戻ってきたことで少しばかり気になってはいたが。

 

「レインも神器を携えて……任務ですか?」

 

「そう。いつもより長めの任務になるかも知れないから憂鬱でな」

 

「貴方はどんな任務も数日で終わらせるから心配はしていませんが……ご武運を」

 

「アリスもな。仮にも殺人犯の捕縛だから気をつけろ」

 

「……ふふ、ありがとうございます。しかし心配は要りません。私が誰に師事を仰いでいるとお思いですか」

 

「ベルさん」

 

「貴方もですよ」

 

 呆れたように目を細めるアリスは、整合騎士としての顔ではなくただのアリスとして、柔らかく微笑んで俺を見上げてくる。クソ可愛い。SAOの最推しはシリカだったけどアリスに推し変します。

 

「じゃ」

 

「ええ」

 

「「行ってらっしゃい」」

 

 いつものルーティンみたいにやってるけど、全然初めてのやつです、はい。

 長年付き合ってるカップルみたいな関係になってるんですけど。師弟ですからね。

 

 でもアリス、キリトの事好きになっちゃうのかなぁ、怖いなぁ。修正力働きそうだなぁ。

 

 というかキリトってどんな見た目だっけ? アニメとラノベの挿絵でしか見た事ないから初見で分かるかな? 黒髪童顔ってことしか覚えてないし。黒くてジメジメしてて速いやつだろ? ゴキブリじゃねぇか。

 

「最高司祭アドミニストレータ猊下からの勅命を受けて一時的にお前達の指揮権は俺が預る。異論は?」

 

「「いいえ。我ら、御身に忠誠を誓います」」

 

「暗黒騎士が数名偵察に出ている。そいつらは殺してもいい。拳闘士は殺すな、欠損も許さない。数の多いゴブリンとオークは俺が出る。行け」

 

「「はっ!!」」

 

 エントキアとネルギウスからの異常な忠誠心にドン引きする。

 この二人俺より先に整合騎士になってるくせして俺に敬語使ってくるんだよなぁ。アドから指揮権を与えられているとはいえ、それ以前の問題な気がするけど。

 

「「「ゲギャギャギャギャギャ!!」」」

 

「んじゃ、まぁ────」

 

 仕事モードに入るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男性に襲われるという経験。まだ恐怖で身体が震えてしまっているのが分かる。

 

 隣にいるティーゼもユージオ先輩に抱き着いて、涙を流して。乱れた服を戻す気力もないほどに私の親友は恐怖をその身に刻んでしまった。

 

 怖かった。今も怖い。キリト先輩が不安そうな瞳で心配してくれている。

 違う。キリト先輩は私を心配してくれているけれど、その視線は私の他にも私の手元に向けられていて。

 

「────桜?」

 

 上級貴族からの抗うことの出来ない行為。

 六等爵家の私にはその苦痛を耐えることしか許されないはずだったのに、私の身体には誰にも触れられた痕跡は残っていない。

 

「レイン、さん……」

 

「は……?」

 

「ありがとう、ございます……レインさん……ッ」

 

 六年ほど前にレインさんから頂いた御守り。

 絶えず肌身離さずに持ち続けた、彼からの頂き物。

 

 ここ一年ほどはお会いする機会がなくなってしまっていたレインさんとの唯一の繋がり。

 

 会いたい、逢いたい。ただひたすらに。

 

「貴方に……会いたいッ」

 

「────まさか」

 

 御守りから飛び出て私を守ってくれた花弁が消えていく姿を、涙を流しながら私は見届ける。

 愛おしく、切なく、悲しく、寂しさを感じながら、ただその御守りを握りしめる。

 

 キリト先輩の様子に気づくことなく。

 

 ただただ、私は彼からの御守りを抱き締めていた。




そろそろキリト君には絶望して貰わないとね。
楽しい楽しい学校生活送ったんだから、大切なものはどんどん失わせていきましょう。
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