これからもキリトくんをボコボコにしていきますのでよろしくお願いします。
キリトくんに希望なんて見させないんだから♡
「ふふふふっ、あっははははははは!!!」
『この空気でよく笑えるなお前』
『演出よ。黙らっしゃい』
来たぜ来たぜぇ! どうもレイン・シンセシス・トゥエニです!!
ついに原作主人公くんとの初邂逅だ。俺どう映ってる? カメラどこ? 挿絵のポーズはちゃんと描いてんだろうなぁ!?
どういう立場なのだろうか俺は。今まで伏線張りまくられた後、最終局面で現れた強キャラ的な? けどそういう奴って味方になった瞬間クソザコくなるからな。「あ、あいつがやられただと!?」みたいな感じで。
まあそれは置いておいて。
ふむ。どう動こうかな。この展開は何年も前から考えていたことだ。俺の中では何度もシミュレーションしてある、つまり結論はひとつ。
流れに身を任せましょう。何が正解か分からんし。
まあ主人公くんが頑張ってくれるでしょ。アドは殺させねぇけどね。原作崩壊待ったナシだが、ダークテリトリーの軍勢相手取るのに極論俺かアドのどちらかだけで事足りるからなぁ。ベルさんとかファナティオさん入れたらまじ蹂躙にしかならんし。
ダークテリトリーの軍勢一人一人の頭部に熱素解放したら終わりだ。何それ簡単すぎて草生える。
まあ可哀想だからしないけど。
『レイン』
『ん?』
『少しはその心意を抑えてあげなさい。アリスちゃんが死にそうよ』
ふと前を見てみると、瞳が揺れていただけだと思っていたアリスは顔色も悪く過呼吸気味になっていたために俺はすぐに敵意と心意を共に収める。
首元を締め付けていた何かから解放されたかのようにアリスは酸素を求めて息を吸い、噎せながらも確かに呼吸を行って次第に立ち上がる。
ユージオは特に敵意云々の影響は無さそうだ。はじめまして。多分俺君のこと殺します。必要ならだけどね。抗ってね?
んで、問題なのはお前だよ主人公くん。吐きそうな顔で俺の事見つめんなよ気色悪いな。誰が汚物だよ。はじめまして!!!
俺を見て吐きそうになってんのか、吐きそうになりながら俺を見てんのかで意味合い変わってくるからな。いやどっこいどっこいだわ。死刑で。
「あり、えない……」
呼吸が安定してきたアリスが俺へと問い質す。なんですか?
「レイン。貴方が任務に赴いていた場所からここまでは飛竜でも一日は確実にかかる……この二人が牢を抜けてから今に至るまで半日も経過していないのに、なぜ、今貴方がここに居るのです!?」
ああ、そうか。アリスは俺の移動手段は知っていてもその速度を知らないのか。
飛竜を使わない変わり者だという認識だけで。飛竜俺も欲しいわ。アドがくれないんだから仕方ないだろうが。
「心意と風素による飛行。五分もあれば人界を往復出来るぞ」
「なっ……」
『それは盛ってるでしょ』
『盛ってねぇよなんなら四分目指せるわあ”ぁ!? 競争してやろうかこら!?』
さっきから表の会話と念話によるものとの温度差が凄いんだが。アド絶対楽しんでるだろ。強者故の余裕を現実で見るとは思わなかったわ。俺もか。
んで、まだ吐きそうな顔続けんのかあいつマジで1回斬ろうかな? はじめまして!!!
「レイン、さん……あなたは……あなたは、公理教会の実態を、知らないっ!!」
あ、ユージオさんちわっす。なになに? 君はキリトとかいうやつと違って初対面の人にはそれ相応の態度を取れるんだね。ポイントあげる。
「あなた達整合騎士は、アドミニストレータがシンセサイズの秘技によって記憶を消去し、作り上げた仮初の記憶を植え付けた、被害者だっ!!」
『まじかよ。寝返ろうかな?』
『良く言えたわね貴方……』
ごめんね、全部知ってるんだよね? 何も響かないんだよねその説得。ざんねぇん!!
「アドミニストレータはあなた達にその事実を隠し、天界から召喚されたのだと騙して駒にしている!!」
『まじかよ。お前クズだな』
『あなたのテクニックに比べたらマシよ』
『はい戦争』
さてさて、どう返答したものか。ポーカーフェイスを意識しながら念話ではアドと馬鹿みたいな会話を繰り返し、表ではそれっぽい強キャラムーブを見せるために頭を働かせる。無駄な行動あるな、念話切ろうかな。
そうだなぁ、別に目的とかないしなぁ。最終的にアドとアリスが生き残っていればその他二名の生存はどうでもいいし、キリトは殺しても死なないし、ユージオは原作でも死んでるし。
だからまあ、ファンサしようファンサ。この世界線の大先生に配慮していい感じの演出をしていきましょう。
無表情なのがポイントだ。普段の俺は割と感情表現豊かな方だからね。この方がアリスにも不気味に映るだろう。
そして、ユージオからの問いかけの返答として、俺はアリスの顔を見る。正確には、右目に付けられている眼帯に。
「その眼帯……右眼の封印を破ったのか」
「なっ……」
遠回しに、あくまでも解釈は相手に、読者にさせるように。
直接答えを言うのではなく、アリス達に俺の発言の意味を代弁させるように。
「知って、いたというのですか……レインは……」
「知っていたってのはどれを指してる? 右眼の封印か? 自動化元老院システムか? ソードゴーレムの素材か? シンセサイズの秘儀か? それとも、この世界の成り立ちか?」
「「ッ……!?」」
いい顔してくれるねアリスとユージオ。さすがは幼馴染、リアクションが似ているね。アリスの反応が大きすぎてなんか俺が悪いことしてる気分になるけど。ああ、俺敵役でしたわ。
んで、お前はいい加減に戻ってこいや。景気付けに腕斬り飛ばしてやろうかな。はじめまして!!!
「いつ、から……」
「最初からだ」
「は……?」
「俺は最初から全て知っていた。その上で、俺はアドミニストレータの計画を容認した」
「知っていて……あなたは……今まで……あなたは……ッ」
「キリトッ!?」
見てて腹立ってきたなあいつ。
心意による不可視の斬撃。アリスにも知覚されないように絞って、薄く、最小限に、キリトの左腕を斬り飛ばす。
「敵前だってこと忘れてんじゃねぇだろうな、叛逆者」
ん〜、やり過ぎたか? でも主人公は叩けば叩くほど味出るよね。よし、ボコボコ確定で。
けど身体的にボコボコにしても精神的にボコす方法がユージオ殺すぐらいしか思いつかないんだよなぁ。そんな理由でユージオ殺したくないし、まあ殺すかもしれないけど。どうしたものかね。とりあえずボコボコにするか。
「……レイン」
片腕切り落されて、夥しい程の出血をして。
しかし苦痛に顔を歪ませることなく、キリトは何故か俺の名前を弱々しく口にする。いきなり呼び捨てかよ、陽キャか嫌われ者かの瀬戸際だな。後者に一票。
「お前、なんで……お前は……」
『なんであいつあんなに泣きそうな顔してんの?』
『腕斬られて痛いんじゃないの?』
じゃあ叫べよ。どう見ても痛みによる表情じゃないぞあれ。
あの顔は痛みっていうより、あれだ。「死んだはずの親友と敵として再会した時の絶望」みたいな顔だ。
「レイン……レインッ!!」
マジであいつキショいんだけど。なんで俺の名前2回呼んだ?
ユージオが治癒の神聖術でキリトの傷口を癒す。再生させるだけの効果はなく、切断面を防ぐだけだったが。
というか、もう話はいいだろ?
「エンハンス・アーマメント」
「「「ッ!?」」」
「あなたはこっち」
「なっ、なんじゃと!?」
あ、カーディナル忘れてた。ちっちゃくて気付かなかったわ。
俺の背後でカーディナルとアドのガールズトークが始まるらしい。何それ聞きたい。多分カーディナルが死ね死ねって言い続けてアドが見下しながら笑うだけだろうけど。
「行け────夜桜」
「「なっ……!?」」
こいつらさっきから「なっ……」しか言ってなくない? まあいいか。
俺の持つ神器、夜桜の剣。
その武装完全支配術はアリスのものとほとんど同じ。違う点と言えば俺の場合は刀身だけでなく柄まで桜へと変換される点と、アリスの方が火力が高いというものか。つまりはアリスの下位互換であり、メリットといえば刃のない邪魔な柄を持たずに済む点か。
だからこそ、俺はこの神器の武装完全支配術を使わない方が強い。ここ数年は使ってこなかったし、使う場面と言えば整合騎士との手合わせで見てみたいって言われた時ぐらいだ。使う必要性を感じないからな。
けれど、使い道くらいはある。
「花弁が集まって人の形に……!?」
説明ありがとうユージオ。めっちゃ余裕あるじゃん。
武装完全支配術を使用した際、桜は元の刀を大きく超える質量となって舞う。
それぞれに意思はなく、あくまでも操縦者は俺であるために、その花弁を集め人の形……ベースは俺として作り上げる。その数はMAXで三人。今回は二人分の形代を作り上げる。
さっきも言った通り、こいつらに意思は無い。だから人形を作りあげてもその動きは俺の意思により動いていくのだが、今回は普通に面倒なためにそれぞれに自動迎撃システムの付与と、風素による風の刀を持たせてある。これにより自立が可能となり、アリスとユージオの相手が出来上がった。
まあ普段はこんな効率悪い手段は使わないが。演出演出。
「────さて」
最初から三人同時に相手取っても良かったが、こいつの顔が腹立つから方針の変更。
無手のままに、キリトと相対する。
「どうした? 死人を見たような顔をして」
「レ、イン……お前……」
「アリスにでも聞いたか、俺の事は。気安く呼ぶなよ気色悪い」
「────」
マジでなんなんこいつ? もう既にメンタルぶち壊れ寸前なのですが??
アドとカーディナルのガールズトーク見たいのになんで俺は歪んだ男の顔を見なきゃならんのだ。アリスの相手すれば良かった。
「ちっ」
左腕切り飛ばされてメンタルやられたか? このまま戦っても何も起きないしなぁ。そう考え、俺は指を弾きキリトの左腕を再生させる。これで言い訳すんなよクソが。
「さっさと剣抜けよ」
「やめろ……」
「こっちは素手でやってやるっつってんだよ叛逆者。足掻けよ」
「やめてくれ……」
風素を足裏に展開。心意による肉体強化を拳へと集中。
「ゴハっ!?」
吐きそうな顔して棒立ち状態のキリトの鳩尾へと拳を叩き込む。骨の砕ける感触、何かが破裂した音、口から噴出された鮮血。
されるがままに攻撃を喰らい、そのままキリトは壁へと真っ直ぐに吹き飛んでいく。流石に人体の突撃で壁は破壊されないけど、僅かな亀裂ができるほどには勢いよく飛んだようだ。
アリスとユージオの声が響く。けれどそれ以上に俺の形代からの攻撃を防ぐ事に専念しなければならないために声だけしかかけられないが。
キリトは立ち上がろうとしない。この程度で気絶するはずないだろ? お前主人公だろうが立てや。
「さぁ!! 蹂躙なさいっ、レイン!!」
『急に入ってくるのやめて?』
『演出よ』
ん〜、期待外れもいいところなんだが? 別にバトルジャンキーとかじゃないけどさ。もっと熱い戦いになると思ってたわけよ。主人公らしく公理教会への不満やらこの世界への思いをぶつけるような剣戟をね。何こいつ、壁に投げたら粘着でくっついてそのままベタベタ落ちていく玩具みたいになってんだけど。
「ぶっ」
「ここに何しに来たんだお前?」
「ぅ、あ……」
倒れたままになってたからとりあえず顔面を蹴ってみた。あ、鼻折れたな。もう一回蹴ってみた。あ、歯二本折れたな。なんか虐めてるみたいになってきたけど大丈夫そ? 炎上しないかな。
「公理教会を否定しに来たんだろ? 最高司祭を殺しに来たんだろ? 不満があったからここまで来たんだろ?」
「れ、い……」
「馬鹿の一つ覚えみたいに俺の名前を呼ぶなよ」
アドさんアドさん。俺もう帰っていいですか? クソ面白くないんですけど。期待してた展開全部破綻したんですけど。なにこれ、マジで。こいつクソつまらん。
「おれ、は……きり、と……だ」
なんか自己紹介始めたぞこいつ。はじめまして!!!
「れいん……おまえは、れい、ん……だ」
え、何? 洗脳? 俺今洗脳されてる?
「知ってる」とか「当たり前だ」とかいう返事も馬鹿らしくなるほどに馬鹿みたいなこと言ってるぞこいつ。もう殺そうかな?
「なんで……なんで……ッ」
殴り飛ばした衝撃で鞘から抜けて落ちていた剣へと手を伸ばす。そうしてキリトは剣を掴み、カッと顔を上げて強く俺を睨む。
「俺を忘れたのかッ、レインっ!!!」
「いやはじめましてだろお前」
ようやく戦意を見せ、立ち上がり、そして剣を構えたキリト。肋骨が内臓に刺さっているのか、叫ぶだけ口から血が溢れている。うわ痛そう。アレやったん誰だよ。あ、俺でした。じゃあ許す。
そしてキリトからメンヘラみたいなセリフを聞かされる。どうやら俺とキリトは知り合いらしい。いや知らんわ。シンセサイズ効かないのに記憶改変もクソもないんだわ。何お前、ゲーム版の女の子のレインと勘違いしてる? 俺そんなに女々しい?
「思い出せっ!!」
無茶言うな。
「お前は!! 俺のッ、親友だろうが!!!」
アイドル好きの呪術師かお前は。
こいつこんなにイタいやつだったのか……うわ……関わらんとこ。まあ斬り合ってるからこの戦い終わるまでは嫌でも同じ空間なんですけどね。
カーディナル黙らされてますやん。もう口論負けたんかい。もうちょい粘りなさいやロリババア。
てかこいつの剣遅っ。メンタルやられてんのか知らんけど大振り選手権グランプリ取れるぐらいの剣筋なんだけど。
「誰だよお前」
「ッ……ァァァァあぁああああ!!!」
キリトのもつ剣が光る。秘奥義……ソードスキルの発動契機。技名は知らん。覚えてない。上段から来る何か。
流石にソードスキル。剣速も速まるし威力も上がっている。だから取り敢えず片手で摘んでみた。
「は?」
「油断」
掴みあげた剣を軽く引っ張る。ソードスキルの輝きが薄れていく中、俺はつま先を鳩尾に刺すようにして回し蹴りをキリトに与える。オットセイみたいな声を出しながらまたしてもキリトは吹き飛ぶものの、今回は壁までは行かずに地面をゴロゴロと転がっていく。
指三本で摘んでみたはいいものの、ソードスキルはそれだけで威力を内包しているようで指先が少し痛む。出血は無いけれど、次からはちゃんと処理していこうと決めてゆっくりと歩いていく。
「ぐっ……!!」
「思ってたより遅かったな」
キリトへと向かっていくさなか、背後に気配を感じとり振り向けば突進するように剣を突き出してきたアリスがいた。
剣には触れず、剣を握るアリスの手を取り無力化。戦闘描写でよくある至近距離での会話を実現する。めっちゃいい匂い。結婚しようかな?
「レインッ……あなたは……あなたは、なぜ……ッ」
「必要だと感じたからだ」
「な、に……」
「人界を統べるシステムとして最高司祭の政策は理にかなったものだと俺が判断した」
「そん、な……いえ、違います……あなたはシンセサイズを受けて、そして……記憶の改竄も……」
感情の吐露を間近で見て、泣きそうなアリスの瞳を見て、謎の罪悪感が心に産まれてくる。キリト相手には全く感じなかったのに。やはりアリス。アリスが世界を幸せにするんだね。俺の弟子が世界で一番可愛いです。
そんなアリスはまだ俺がアドに騙されている線を捨てきれていないようで。
縋るように俺に答えを求めてきているけれど、俺はそれをバッサリと断ち切る。
「俺は全部覚えてる」
「その認識さえ、最高司祭様の計略なのですッ」
「お前の前身である、アリス・ツーベルクとの交流も全て覚えている」
「────」
アリスなら俺の形代を倒せるとは分かっていたがここまで遅れた理由はなんだと思っていたらアリスの眼帯を見てハッとする。そうだ、この子右眼の封印破ったから片目しか見えてないじゃん。遠近感覚無い中で良く勝てたなバケモンか? と思いつつ、俺は空いた左手をアリスの右眼へと添えて治療を開始。
「俺は、全て覚えているぞ、アリス」
「…………なんで」
なんで? 何に対して? ああ、なんで俺が覚えてるのかって?
「俺にシンセサイズや記憶の改竄を含めた精神干渉に状態異常は効かない。これはアドミニストレータと確認した事柄でもある」
「すべて、わかっていて……そちらにつくと言うのですか」
「そうだ」
治療を終え、眼帯を外す。
左眼と同じく、綺麗な青い瞳が右眼にも存在していて。
「お前は間違ってないよアリス。お前はお前の信念に従ってここまで来たんだろ」
「私、は……」
「なら、最後までそれを貫き通せ。俺を殺してみせろ」
まあ負けないけど。俺がやられてもアドが負けるはず無いんだよなぁ。あいつの匙加減で人界にいるヤツら例外なくいつでも死ねるもんなぁ。
「俺は敵だぞ、騎士アリス」
「っ」
「この戦いは個人で収まる話じゃないだろ。人界を守るために戦うって言うんなら、私情は捨てろよ」
「アリスぅぅぅ!!!」
お前が叫んだら何故か笑えてくるでお馴染みのユージオさんが来た。形代倒したのか。勝つとは思わなかったな。意外であるがそれだけ。
アリスの腕を掴んだままに振り回し、飛びかかってきたユージオに投げつける。
『あんなに密着してたのに鎧のせいで全く柔らかくなかったッッ』
『念話でいちいち報告してこないで』
二人に当てていた形代がやられた。つまりは、武装完全支配術の解除であり、俺の手元に刀が戻ってくるということ。
「ッ、構えなさい!!」
剣に心意を纏わせて一閃。無動作による心意の太刀よりも威力の高い飛ぶ斬撃となるそれに、切断力を下げて吹き飛ばす力を向上。アリスを受け止めて踏ん張りの利かないユージオの代わりにアリスが剣で斬撃を受け止める。けれど空中では為す術なく、衝撃のままに二人共に吹き飛ばされた。
ユージオとキリト弱すぎんか? マジでどうやってベルさんとファナティオさん倒した?
この三人に負けた原作アドミニストレータまじか。怠慢しすぎだろ。絶対太ってるじゃん。
「「エンハンス・アーマメント!!」」
高々に、声が二重となって響き渡る。
聞き慣れたアリスの声、そしてもうそれネタだろという叫びをあげるユージオの詠唱。互いに広範囲攻撃。金木犀が無数に舞い、地面に突き刺した剣を軸に氷が拡がっていく。
二つの剣による相乗効果とかはなさそうだが、単純に地と空を潰したのは回避不可能の攻撃となり実に相性のいい連携だ。
問題。回避不可能の攻撃が来ました。どうしたらいいですか?
棒立ちで待ちましょう。心意の壁が何とかしてくれます。
「そんなッ!?」
「っ……!!」
迫り来る氷結の花と金木犀が俺の半径1メートル程で遮られるように弾かれる。ん、この世界の単位はメートルじゃないか。まあいいやめんどくさい。
普段は鎧のように纏い続けている心意だが、今回は氷という厄介なものがあったためにサークル状に壁を展開。俺を囲むようにできた氷のドームを内部から破壊すれば無傷の俺の出来上がりだ。
驚愕の声をあげるユージオとは対照的に、わかりきっていた結果に即座に動き出したアリスは武装完全支配術を解除し剣と共に熱素と風素、光素を同時に生成。
「……エン、ハンス……アーマメントッ!!」
今まで息してた? というレベルで黙っていたキリトがここに来て再起動。俺の背後で武装完全支配術を起動する。なんだ何だ、武装完全支配術のバーゲンセールかぁ?
「ディスチャージ!!」
俺の目の前で光素の解放。これは心意では防げない。正直、俺に一番効く攻撃だ。
続けて熱素と風素を掛け合わせて爆風を飛ばす。同時に背後から迫る闇の光線。いいね、やっとバトルらしくなってきた。
「舐めんな」
キリトの放つ武装完全支配術に効果の高いエレメントがどれか分からないから、とりあえず全属性を十個ずつほど背後に展開。アリスの方は水だけで充分だろう。
全てのエレメントが混ざり合い、四方1メートル程の虹色の板が生成。キリトの放った闇の光線を受けたその板は、なんの音も発することなく闇を吸収していき消滅させる。
アリスの熱風には、大きめの水玉を作り上げ、熱風を包み込むように受けると一気に凍りつき、瓦解。それで終わり。
一番近いアリスへと刀を振るう。驚愕の顔は微塵もなく、宙を舞い回転し刀を回避。そのまま回転の遠心力を持ってして俺へと剣を叩きつけてくる。
やはりこの3人の中で頭一つ飛び抜けているのはアリスだ。流石に片手で白刃取りは無理だし剣の側面を心意で叩き軌道をそらす。
アドの私室であるこの部屋の床の硬度はかなりのものだがアリスの膂力と技術により剣は深く突き刺さる。
「エンハンス・アーマメント」
剣を抜くタイムラグの発生を逃さずに俺は刃を返し斬りかかるも、アリスは即座に武装完全支配術により刀身を花弁へと変換。ノータイムで剣を抜き去り金木犀の花弁を集め俺の刀を防ぎ、物量により残る花弁の全てを俺へと向かわせる。
視界を埋め尽くすほどの
「え────」
俺とアドが有する転移。アドほど自由に使える訳では無いが、目の届く範囲内ならばマーキングなしに使用は可能。これはアリスも初見の技だ。
俺とユージオの位置を入れ替える。突然視界が変化し、もう目前に迫った金木犀を回避出来る術はユージオになく、そしてアリスも反応は出来ても急停止急転換が出来るようなタイミングでは無い。
ユージオの苦痛を含んだ叫びが僅かに聞こえる。それでも、アリスは即座に武装完全支配術を解除しユージオへのダメージを最小限に抑えた。それでもユージオは数秒動けないほどには傷を負っている。
ユージオとの位置替えによりアリスの背面へ。アリスの横腹へと回し蹴りを行い鎧から僅かに破裂音が聞こえたのと同時にアリスを壁へと蹴り飛ばす。
行動を止めたユージオの首を落とすつもりで刀を振るうが、咄嗟の反射によるものか身を逸らし、胸の辺りを浅く切り裂くに留まる。
そして気付く。あ、キリト忘れてた、と。
ユージオの後ろ、つまり俺の前から走ってきたキリト。その瞳には確かな戦意はあるけれど敵意はなく、しかもなんかめっちゃ泣きそうな雰囲気をこれでもかと発揮していた。
とりあえずウザイのでボコボコにします。
メンタルをもっと砕いてあげないとね。主人公が強くなる時っていうのは身体的苦痛も必要だけどそれ以上に精神的苦痛が必要だと思うわけなんですよ。なら、精神的苦痛を与えるためにはどうすればいいのか。初対面だから思い出使うとかもできないために俺に残されているのはユージオを殺すものと、もうひとつ。
これでもかと身体的苦痛を与えましょう。
刀を鞘へと収め、深くしゃがみ込む。
この空間にいる存在の中からキリトだけを意識の中へと映し出し、深呼吸。
そして、抜刀。
右手首、右足、左肩、それぞれをほぼ同時に切り落とす。
少し間を置き、キリトの痛覚が情報を脳へと伝えたであろう瞬間に治療を開始。切断面を繋ぎ合わせ、元の正常な身体へと元通りに。
故に、残るのは四肢を切断された激痛だけ。
「ぁ……が、ァァァあぁああああ!!?」
とりあえずこれを2回繰り返した。やっぱ痛覚は機能してるんだな。いや、マジでなんで? 外から入る分には痛覚遮断してやれよ、なんでそこリアルに近づけようとしたんだよ。名前忘れた、眼鏡の人!!
キリトもキリトだな。一介の高校生がなんでこの痛みを受けても気絶することなく叫び声をあげるだけに留まれるんだろうか。俺は無理無理。痛みに慣れてないもの。
攻撃態勢には入れてないけど、倒れてもないんだよなぁ。すげぇな普通に、剣で体支えてる。目や口から液体が零れ落ちていっているが。なんだなんだ、お前のためを思ってやってやってんのに俺が悪いみたいに映るだろうが。
とりあえずは一区切りかな。といっても、三人は既に満身創痍。対して俺は被弾ほぼゼロ体力万全。ここから負ける未来が見えないまである。
カーディナルはなにかアドに訴えているがアドは笑ってばかり。普通に可哀想だなあの人。突然だけどロリババアってラノベだと絶対一作品に一人はいるよね。
動けるのはアリスぐらいか? 動けるといっても体力は半分も残っていなさそうだが。
さて、ここからどういう展開に持っていこうか。
とりあえずキリトはもっとボコボコにするとして。
熱素で指先から炙るか? 土で槍作って腹に刺すか? ん〜、水で顔覆って溺死寸前を繰り返すっていうのも味気ないしなぁ。なんか違う気がするし。
「……どうして」
ふと、叫び声が消え、弱々しい呟きが耳に届いたために俺はその声の発信者であるキリトへと目を向ける。もう喋れるのかよ、マジでバケモンか?
「おまえは、死んで……身体も、消えて……なのに、なんで生きてて……記憶も無くして……なんで……なんで……」
『通訳』
『前の貴方と関わりがあったんじゃないの』
もっと分からん。
どうせ他人の空似だろうけど、それにしてもキリトに俺みたいな知り合いが居たのだろうか。俺の覚えている限りの原作だとキリトの知り合いなんてSAOの中か高校のモノづくり仲間かぐらいだろ。親しいといえばもうゼロ。なんだアイツ可哀想だな。
まあでも、これ使えるな。
誰か知らんけど、キリトと仲良くしてくれてありがとね。こうしてメンタルボッコボコにできる材料提供してくれてありがとね。
「キリト」
名前を呼ぶ。叛逆者やら罪人やらと呼んでいたが、ここに来て初めての名前呼び。これであいつは希望を抱く。
僅かに瞳に光が灯って、口が開いて、言葉を掛けようとして。
「お前の知り合いと俺を重ねるなよ。気色悪い」
吐き捨てるように、侮蔑をはらんで。
それだけで、ほら。
あんなにも、人は絶望出来る。
もう十分だろ。原作の流れはここまでで良いだろう。
もうこれで、終わりに────────
時を渡るという行為により生じる次元の歪み。
それはただの前兆に過ぎなくても、小さな歪みは切っ掛けを与えるだけで大きく成長を始めていく。
時を渡るというのはつまるところ、世界と世界を繋げることと同義である。
故にこそ、世界を繋げた首謀者よりも先に、
しかしこのタイミング。一種のターニングポイントと呼べる場面での介入。
これは一度目の邂逅では無い。故にこそ、アドミニストレータはこの現象を『世界の意思』と定義した。
本来あるべき道筋へと修正するような意思を感じてしまう程の偶然による介入者。
来訪者の介入を直前に感じ取ったのは。
「────アドッ!!」
「分かってるっ!! 行きなさい!!」
やはり、超越者の二人だけだった。