相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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レインがキリトに過剰に当たってるのは八つ当たりです。

現時点でのレインからのキリトに対する好感度はマイナス振り切ってるので


やることなんてもう鍛錬ぐらいしかないんだよなぁ

 ダークテリトリーにて。

 

「それは────夜桜の剣か?」

 

「ちがっ、う……よッ!!!」

 

 固い大地に栄養はなく、資源は無く。

 あるのは広大な土地と人界を上回る人口。

 

 何も起きなければ滅びてしまうことは見てわかるほどに廃れた大地。家屋が多い訳でもなく発展が遅れているようなその土地で繰り広げられる剣戟。

 

 深紫の外装に包まれた中年の男は衰えることを知らない剣圧を持ってして突如現れた存在へと軽く剣を振りかざす。

 

 対するは、これまた紫のドレスとも言える装備に身を包んだ少女。

 男のように、剣に注いだ年月を感じないながらにも十分強者の領域へと到達しているその少女の剣舞に僅かに騎士シャスターは瞠目する。

 

「このっ、剣はね! イルミテッド・ブロッサム────にいちゃんからの贈り物!!!」

 

 ────このおじさん、強すぎ!? 

 

 声を上げ、最初から全力で挑んでいる少女は自身の剣の全てを軽く受け止めてくるシャスターの技量に圧倒されていた。

 

「ユウキさんっ!」

 

「だい、じょうぶだよっ、ユイちゃん!!」

 

 ユウキと呼ばれた少女の背後に浮かぶ小さな妖精は心配そうな表情を浮かべているものの自身が介入出来ない戦いであるために動かずに見守る。

 

「────お前、レインの知り合いか?」

 

「────うんっ」

 

 無数に鳴っていた剣戟が収束する。そうして、先の戦闘による既視感からの疑問を解消するべくシャスターは目の前の幼き剣姫へと問い掛ける。

 

 その問いかけに対する回答は、少女からの満面の笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「世界の意志────いや、これは」

 

 どもども、レイン・シンセシス・トゥエニです。

 

 アドが消えてから三ヶ月ほど経過したか。俺の担当する事務作業なんてほぼ無い、というか整合騎士に事務作業は無いんだよなぁ。

 

 アドが居ないから話し相手も減ったし漫画とかも読む気失せたしでもう何もすることねぇ……と思っていた今日この頃。世界の揺らぎを観測した。

 

 揺らぎ、と定義していいのかも分からない微々たる違和感。

 微かな既視感の源は何度も経験してきた『世界の意志』の出現。けれど、それとは決定的に違う何かを感じた。

 

「レインさんレインさん! 鍛錬してよ!」

 

 何かの介入は間違いない。世界の意志では無いとするのなら、これは……外から入ってきたのか。

 思っていたより早いな……いや、俺が忘れているだけか? 確か、暗黒神ベクタのスーパーアカウントを使った……ルシファー? なんか天使の名前みたいなやつだった気がする。そいつとヴァサゴが先に降りてくるはずだ。なんで俺ヴァサゴだけ名前覚えてるんだろう。カサゴみたいな名前だからかな? 

 

 それはさておき。確かに感じた世界の揺らぎと明らかな異物の気配。外からの介入なのは間違いないとして、しかし邪気というか、害を感じないのは何故なのか。

 一度ダークテリトリーに行ってシャスターさんに確認を……いや、今俺が人界を離れるのは、というかダークテリトリー側と接触するのは不味いか。外からの介入と言ってもたかが知れているし、ダークテリトリーに落ちたということはあちら側なのかもしれない。俺の探知機能は完全じゃないし、思い違いという可能性だってあるだろうからな。

 

「ねーぇ!! レインさん〜!!」

 

「飴あげるからあっち行ってて」

 

「やった〜! わぁーい……ってちがぁうう!!」

 

「ちっ」

 

「舌打ち!?」

 

 さっきから俺の周りでギャーギャー騒いでいるロリはフィゼル。クソガキである。

 リネルと共に前任の整合騎士を殺して番号を略奪した彼女達は最初こそ他の整合騎士を舐め腐ってはいたがファナティオさんが無表情で格の差を見せつけてからは向上心旺盛なクソガキにジョブチェンジした。

 

「ファナティオさんに教えて貰えばいいだろ。あの人今教鞭叩きまくってるぞ」

 

「ふぁ、ファナティオ様は……最後、かなぁ……」

 

 そのおかげもあってか、ファナティオさんにトラウマを植え付けられてはいるが。

 

「怖い……鞘怖い……」

 

 神器じゃなくて鞘なんだ。

 

「レインさんレインさん」

 

「どうした敬語ロリ」

 

「その呼び方やめてって言ってるじゃないですか。稽古付けてください」

 

 アワアワとトラウマに頭を悩ませて目を回しているフィゼルを置いてトコトコとやってきて俺の服を摘んできた長髪の敬語ロリことリネル。

 もうこの子らについてはさっき語ったからそれ以上のことなし。

 

「だからファナティオさんのとこ行けって。俺指導者向いてないんだよ」

 

「アリスさんの師匠じゃないですか」

 

「成り行きね。ほとんどベルさんだし」

 

 だって俺、毎日アリスの修行に付き合ってた訳じゃないし。ベルさんがいない期間を俺が補充するぐらいだしなぁ。

 

「でも、レインさんの話をする時のアリスさんの顔が本気すぎて怖いんですよ」

 

「何それ」

 

「しかも早口で聞いた事以上のこと言ってくるし、謎の牽制もしてきますし」

 

 あいつ俺の事好きすぎでは? どこでそんなイベントあったの? 好感度稼いだつもり無いよ? 

 

「という訳で、私にも剣を教えて欲しいんです。私にはまだ、神器を握れるだけの力が無いから」

 

 ああ、そういえばそうだったなと納得。

 この世界の武器には使用するための要求レベルのようなものが存在している。俺はそういうのが見えないのだが、神器は他の武器に比べて要求レベルが高いのだ。そしてそのレベルというものは、握り手である人間の戦闘経験等に依存するわけで。

 

 俺は最初から夜桜の剣を持ってたし使えたしであんまり意識したことがなかったが。

 リネルの武器は毒剣。上物ではあるが神器では無い。些かの不安を抱いているのだろう。

 

 ファナティオさんの一件で、こいつらは整合騎士に対しての尊敬の念が生まれている訳だが、だからこその焦りと言うのもある。

 

「ファナティオさんとこと俺とで半々で鍛錬することが条件」

 

「……………………………………わかり、ました」

 

「渋りすぎだろ」

 

 他の騎士達も戦争の可能性を聞いてか、鍛錬に励んでいる。

 エルドリエ然り、レンリ然り。デュソルバートさんやベルさんファナティオさんのもとで今まで以上の研鑽を積んでいるだろう。

 鞭とか投擲とかあんま分からんから俺はパスしたから、せめて剣ぐらいは俺が教えなければならないのかもしれない。

 

「ちっ」

 

 それだけに、思ってしまう。

 やはり、アドは消えるべきではなかったのだ。あいつの性根がどれだけ腐っていようとも、あいつは人界の未来を見据えれば無くてはならない存在だったのだ。

 

 アドが消えたのは自らの意思だというのは分かっている。正規の流れに沿うべきだと判断したのだろうという推測も出来る。

 

 だからこそ。

 アドが消えた理由であり、この世界の希望とならなければならない主人公の体たらくに苛立ちが募ってしまう。そんな考えはダメだと分かっている。そうなるように俺も動いたのだから。

 

 けれど、けれどだ。

 あんな男のためにアドが消えたのが最善だったのだろうかと、何度も考えてしまう。もう過ぎた話であることなのは分かっている。

 

(さっさと起きろよカスが)

 

 あとアリスと擬似的に同棲してるのが腹立つ。アスナに怒られろゴミカスが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈

 

『キリト』

 

 声が聞こえた。

 

 ずっと俺の傍に居てくれた親友の声が。

 剣の世界を共に駆け抜けた相棒の声が。

 

 この先ずっと共に歩いていくんだと信じて疑わなかった。

 あいつの最大の理解者は俺なのだと当然のように思っていた。

 

『侵入者』

 

「────────ぅ、ぁ」

 

 俺の親友。俺の相棒。小さな世界に塞がり込んでいた俺を引っ張り出してくれた恩人。

 

 繰り返し蘇る温かな日常。アスナを交えた穏やかな日々。

 笑い、怒り、そして笑う。そんな日々が繰り返し映し出される。

 

 それ以上に、俺に剣のように鋭い瞳を向けてくる親友の姿が何度も浮かんでは消えていく。

 友好なんていうものはどこにもなく、そこに映し出されていたのは殺意と敵意のみ。

 

 それが誰に向けられているものなのかは、理解したくなくても理解させられたから。

 

 ────諦めさせてくれないから? 

 

 いつか言ったような気がする言葉を思い出し、中身の無い言葉に笑うことも出来ない。

 何度俺は大切な存在を手から零してきたのか。何をもってしてハッピーエンドと定義してきたのか。

 

 死んでいなかったのだから万事解決? 記憶は蘇るはず? 

 

『誰だよ、お前』

 

 何を甘く考えているのか。アスナ達の記憶は戻らなかったというのに。

 あいつが別人なのではないかとも考えた。俺の親友の形をした、声を持った、ただの空似なのだと。何度も、何度も、そう洗脳するかのように繰り返し考えたというのに。

 

 あいつが本物かどうかだけは、一目で分かってしまったから。

 

 ユージオの死。

 血を噴き出し、手を伸ばしてきた彼の姿。瞳から光を失い、命の脈動が消えていく感覚が染み付いている。

 

 重なる。二人の死。

 今まで関わり、そして救えなかった命の全てが俺へと襲いかかってくる。

 

 深い、深い水の中を沈んでいく俺は、端の見えない世界でただただ小さく縮こまり目を瞑る。

 

 もう俺は────立ち上がりたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 何度か言っているだろうが、俺のSAOに対しての知識はあまり残っていない。

 もちろん、キリトやアスナなどの主要人物についてはだいたい覚えているのだが、それ以外の人物や話の展開などについてはかなり曖昧になっている。

 

 二十年ほど前、暇を持て余した俺が記憶の中から作り出した小説や漫画の数々の中には当然SAOが含まれていたが、何故かSAOの単行本に関してだけが処分されていたために俺は改めての知識の確認ができない現状にある。

 

 尤も、SAOに関してはこの世界に来てから一度も読んでいないために二十年と言わず三十年以上知識が衰えている訳だが。

 

 だからこの先の展開としては、ルシファーみたいな人がベクタとなって降臨して、なんか戦争になって、アスナ達も来て、キリトが遅すぎる復活を果たして、アリスが外に出て完結ぐらいしか分からんのだ。

 

 つまりは戦争の内容、誰と誰が戦い、誰が戦死して誰が勝ち星をあげるのかは全く覚えてない。

 

 そして俺は、整合騎士の中でも特別枠の遊撃手としてアドに起用されていたわけで。基本任務は一人。つまりは軍での戦闘に対する知識は皆無なのだ。

 

「だから全部ベルさんに任せます」

 

「ちょっとぐらい手伝え」

 

「悪いな。俺はソロだ!!!」

 

「何をしたり顔で言ってやがる」

 

 全然関係ない話だけど、元老院システムが実質停止してるのに犯罪行為が起きてる気配が微塵も無いのはこの世界の異常さを如実に表してるよね。

 

「お前さんの知識がありゃ有利に戦闘も進むだろう」

 

「なんにも覚えてないです」

 

「使えねぇな」

 

「それ今一番刺さる言葉」

 

 ベルさんには以前、俺の出で立ちやらを軽く説明していたためにこうして話を聞きに来てくれたのだが、生憎と俺の脳ミソは賢めのニワトリ状態である。キリトがゴキブリでアスナがクソ可愛くてシリカが天使なことしか覚えてない。

 

 とまあ、そんなことはどうでもいいわけで。

 軍の指揮に関して俺は毛ほども役に立たない。奇抜な意見なんてあるはずもないために全てベルさんに委ねるのが俺にとっての最善。ベルさんも俺の指揮能力の経験不足から来る低さを知っているから特に何か言ってくることは無いが。

 

 俺が考えるべきなのはもっと別の話。

 原作のベルさんたちがどれぐらい強いのかは比較できないために分からないけれど、この世界の方が力の向上が見られるだろうとは推測している。だからこそ、単純に同じ流れの戦争ならば人界有利にことが進むだろう。

 

 懸念点は介入者。

 アドが消え、管理者権限が俺へと移行したために特定の感覚が鋭くなったからこそ感じ取れた気配。

 

 今まで俺たちが『世界の意思』と呼称していたものの原因が時空の歪みであり、それは恐らく時を越える類のもの。

 今までの全てはただのおまけであり前兆。時を越えるなんて神の御業だ、俺に出来るはずもない。アドでも不可能だろう。

 

 その大元が、この戦争時に介入してきた時の影響は想像が付かない。

 だからこそ俺は、今回の戦争において中心地に向かわずに必要な場面だけ出向き、それ以外は襲撃に備えなければならない。

 それが誰なのかは皆目見当もつかないが、まず間違いなく、アドよりも強い。その事実だけで、ことの重要性がわかってしまう。

 

「騎士団団長なんて肩書きは俺が一番目の整合騎士だったってだけなんだがなぁ」

 

「ベルさんならみんな付いてくるでしょ。ファイトファイト」

 

「リアルワールドの言葉を使うなよややこしい。分かるように言え」

 

「がーんばれ♡が〜んばれっ♡」

 

「こういう時のお前さんの気持ち悪さは群を抜いてるな」

 

 褒められた。嬉しい。

 

「褒めてねぇよ」

 

「お前が言うな」

 

 まあ、見えない介入者について今考えても仕方がないのは事実。なので俺はすることが無いから寝ようかな。え、稽古? あ、はい。

 

「よろしくお願いします!」

 

「あ、はい」

 

 レンリ達整合騎士の稽古だけじゃなくて一般の騎士達も纏めて俺の管轄に加わってしまった。なんでやねん。そして女の子が多いな。男どこ? 

 

「え……レイン、さん……!?」

 

 若干一名、知っている女の子に身バレをしたのは割愛しておこう。

 

 少し忙しくなってきた日常が過ぎていく。まだベクタの降臨は感知していないが人界とダークテリトリーを隔てる果ての山脈の門の天命が数ヶ月しないうちに尽きるのは確認できている。

 

 着々と、その日は近付いてきている。

 あの日感じた外からの介入者については何も分かっていない。けれど、人界に来ていないということはダークテリトリー側のモブか、それとも捕らえられたか殺されたか。大して気にすることでは無いだろう。

 

 そうして俺は、この世界で何度目かも数えられない朝を迎えた。

 かつての俺の私室では無く、アドが使っていた最上階での目覚め。特にどちらを使うとは決めていないから気分で場所は変えている。何となくそういう気分だったからこの部屋で寝ただけ。

 

 一人で寝るにはデカすぎるベッドでの目覚め。柔らかすぎるシーツは起き上がる気力を奪っていき、瞼が重く開くことを阻害する。

 それでも、ステンドグラスから射し込む虹の光が二度寝を許さないと俺の顔を照らして。

 

「良いベッド使ってるのね」

 

 毛布からでは到底感じられない温もりを肌に感じて。

 モチモチとして、スベスベで。人肌よりは少しひんやりしているけれど、生の鼓動を感じるその感触は間違いなく人間の素肌。

 

 ここ、公理教会に入れる人間は鍛錬に励むために一時的解放をしているとはいえ最上階となれば話は別。エアリーが動かすエレベーターを使わない限りここには来られないし、わざわざ俺を起こしに来る人なんてアリスくらいのものだがあいつは今はルーリッド村に居るはず。

 

 何より、耳元で囁かれた女性の声は今まで出会ってきた誰とも一致しなかった。

 

(自動迎撃は反応していない。少なくとも敵では無い……?)

 

 ゆっくりと目を開く。

 

「────また記憶失くしたんでしょ」

 

 俺の使っている枕に顔を埋めた少女がそこに居た。

 まず目を惹かれたのは薄い水色の髪と瞳だろうか。決して長くなく、ショートカットとも言えないその髪はサラサラとしていて、吸い込まれるような水色の瞳は呆れたように細められていて。

 

「はじめまして────なんて、絶対言わないわ……久しぶり」

 

 ああ良かった、お互い服着てた。いや、そこじゃないんだけど。

 

「……どちら様?」

 

「……なるほどね。アドミニストレータが言ってた通りか」

 

 その子の口から出てきた名前に少しばかり虚をつかれた俺は、いつの間にか横向きの体勢から上を取られて押し倒されるような体勢になっていた。

 

「朝田詩乃……シノンよ。雨宮くん」

 

 懐かしいなんて気持ちにもならないし、何故彼女が俺の名前を知っているのかは分からなかったけれど、率直な感想としては────俺はこの子に、強く出られる気がしないということだけだった。

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