相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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確率収束論は存在します(ガチ)

 レイン・シンセシス・トゥエニは世界最強である。

 

 これはもはや、彼を知る者たちにとっては当たり前の共通認識である。

 アドミニストレータの実力を知らない騎士達は彼を最強だと認定し、教示を仰ぐ者も出てきている。

 

『あれは意思疎通の出来る化け物だ』

 

 その評価は人界に留まらず、暗黒界においてはシャスターという男はレインをそう評価した。

 

 騎士であり、怪物であり、化け物であり、最強。

 彼が冠する言葉は多岐に渡る。それらに共通するのはレインに対する畏敬の念。

 

 彼の心意は山を動かす。

 

 彼の神聖術は理解不能の現象を起こす。

 

 事実とは異なりながら、しかし的を射た噂話。基本的に遊撃手であり単独行動がほとんどの彼の戦闘の一部を目撃した騎士に浮かび上がる言葉がそれらだった。

 

 アンダーワールド……そしてリアルワールド。現環境において、レイン・シンセシス・トゥエニを脅かす存在は現れず、彼一人で世界を相手取ることすら可能であると言えるだろう。

 

『あいつは強い』

『あの子は強い』

 

 それは何時の記憶だったか。

 

 最初の整合騎士にして、整合騎士団団長、ベルクーリ・シンセシス・ワン。

 そして、人界を統べる女神、公理教会最高司祭、アドミニストレータの会話の一部。

 

 グラスに注がれた紅く暗い酒を揺らし、反射する光に目を細めながら双方は断言する。

 

『『そして、最弱だ』』

 

 レイン・シンセシス・トゥエニが抱える、最大の弱点。

 

 唯一と言っていいそれは、騎士であるのならば克服していて然るべきものであり、彼が最強であるが故の弊害だった。

 

 アドミニストレータは、この世界で唯一、真っ向からレインを叩き潰すことの出来る真の強者である。

 片やベルクーリは単純な戦闘能力ならばレインに劣っているだろう。心意の差が歴然なのだから。

 

 しかし。

 

 手段を選ばないのであれば、ベルクーリはレインを一瞬で葬ることが出来るだろう。

 

 たった一手。

 それだけで、最強の騎士は最弱の騎士へと早変わりするのだから。

 

 それは、二人だけが気付いた彼の弱点。

 今後その点を破られることは無いだろうと、ベルクーリはレインにそれを伝えることは無かったし克服させる気も毛頭なかった。

 

 ただ一人……アドミニストレータは、訪れるであろう未来を描き、笑って酒を飲み干した。

 

「────眠れ」

 

 そして、世界の壁を越えて全てを観測するに至った彼女は笑いながら見下ろす。

 

 かつて最強と呼ばれたその男が、ただ一人の男の手によって、呆気なく散る姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈

 

「…………」

「…………」

 

「帰っていいかな?」

 

 女同士の睨み合いほど怖いものは無い。どうもレイン・シンセシス・トゥエニですです! 

 

 シノンが降臨してから一気に時が過ぎていきまして、今に至るわけですが。

 今日明日には人界と暗黒界を隔てる門が崩壊するだろうというフェーズに突入しました。

 

 んで、今は整合騎士や一般騎士……騎士学校やら大会やらの優秀者をメインに集めて戦力を募り、ベースキャンプに招集しているのだが、もちろんと言うべきかアリスも戦線復帰したのである。

 

 それはとても喜ばしい。アリスがいるだけで俺の目が癒されるからね。問題はそこじゃないのだ。いや、そこなんだけど。

 

「部外者が。突然現れたと思えばレインの隣に立つ? 冗談も休み休み言いなさい」

 

「あら。あなたは彼から離れたんじゃなかったの? 彼が怖くなっちゃったと思ってたんだけど、それで離れたくて口実にあの馬鹿を連れて隠居したんでしょ……ああ、あっちが本命だったのね。ごめんなさい、気が回らなかったわ。私はアレに微塵も興味が無いから好きにしてちょうだい」

 

「私がキリトを? 馬鹿を言わないでください。彼に向けているのは戦友への尊敬であり恋愛感情は欠片も、微塵も、万に一つ有り得ない。私が好きなのはレインだけですから」

 

「あ?」

「あ?」

 

「わ、私の為に争わないでッ///(スラッシュ×3)

 

「お前本当に1回刺された方がいいぞ」

 

 ん〜、二人ともドロッドロですねぇ。

 当然のように俺に着いてきたシノン。今はGGO激エロファッションでは無く神様何様シノン様の制作費掛けまくりましたフォルム。相変わらず背中の部分が要らなさすぎる。

 

 流れを説明しよう。アリスの戦線復帰自体は文で送られていたために知っていて、実際に合流するのはこの地点が初めて。

 キリトはそうそうに荷車へ置いてきたのか、一人で歩くアリスを発見し声を掛ける。

 パァっと満面の笑みで駆け寄ってくるアリスが俺の目の前に来たタイミングで俺の隣にいるシノンに気付き瞳から色が消えました←イマココ

 

 流れるように二人ともキリトをディスってるのが評価高いね。ほんと原作どこ行ったの? 『馬鹿』とか『アレ』とかちょっと可哀想に思えてきたわ。思わないけど。

 

 そしてアリスは俺への好意を隠さないのね。うん、知ってるんだけどね。大っぴらに言うもんじゃないよね。

 

 んで、シノンは怖いよ。背中しか見えてないのに怖いよ。容易に想像できちゃうよね今の表情。多分眼球無いな。瞳孔開きすぎて。

 

 というか、シノンは俺の事好きなのか? なんか恋愛感情とかいう次元じゃない気がするんだけど。何したんだよ俺のそっくりさん。クソ迷惑なんですけど。

 

「レインの隣には私が立つので。お前は弓……後方支援でしょう? さっさと空の彼方に消えなさい」

 

「雨宮くんは前線で戦わないけど? 彼は殿であり遊撃手なんだから自由に飛べる私が傍に着くのは当たり前の事じゃない?」

 

「アマミヤ……?」

 

「────フッ」

 

「うっわ……」

 

 あいつ今鼻で笑いやがった。アリスが俺の名前知らないからって鼻で笑ってマウント取ってやがる。醜い戦いすぎて見てられない。

 それでも、当人同士では重要らしい。

 

「何が可笑しい……ッ」

 

「ああ、ごめんなさい……ふふ……そっか、貴女は彼のこと……なぁんにも、知らないんだ……ごめんね、分かりやすく『レイン』って言った方が良かったかな……?」

 

「〜〜、〜〜ッ、〜〜〜〜!!!」

 

「声にならない声ってこういうこと言うんだな」

 

「おい。誰かエルドリエ見つけたらそれとなく離してやれ。多分卒倒する」

 

「もう倒れてます!」

 

 地団駄を踏むアリスはまるでロリスのよう。そういえばロリスはちゃんと保管されて現実世界にアドと一緒に出たらしいな。会いたい気持ちがありまくる。

 

 ロリスとの違いと言えば、この光景が全く微笑ましくないという点に限るだろう。暗黒界なんかよりもこの現場が一番危険地帯だわ。

 

「お前ら二人とも俺とは別行動だけどな」

 

「「なん……だと……」」

 

 お前ら仲良いだろ、もはや。

 

 雷が落ちてきたような衝撃を受けたように口を開いてこちらを見る二人を放置して俺は此度の戦争における条件等を振り返る。

 敵の狙いはアリス。敵、と言ってもそれは外から来たベクタ達を指すもので厳密にはダークテリトリーは敵では無い。ディー・アイ・エルとかは除くけど。あいつらは普通に始末対象です。

 

 こちらの勝利条件に関してだが、正直迷ってる。

 世界のためを思うのであれば、果ての祭壇にてアリスを外へと送り出すことが正解なのだろう。ただ、リアルワールドとか正直どうでもいいしなぁ。俺にとっての世界はこの世界だし。普通にアリスを守りきって厄介な奴らを皆殺しにしてから休戦協定を叩き出せば良いだろうと思っている。休戦協定は通るだろうけどいつまで経っても和平は成立しないんだよなぁ。やはりキリトか。さっさと起きろやカス。アレって呼ぶぞ。

 

 敵戦力……どれだけだったかなぁ。なんか追加投入もあったんだよなぁ。というか味方側の介入者達を一目見て分かるか心配ではある。悪意で区別できるだろうか。いや、事情を知らずただそういうゲームだと思っている敵がいるとしたら本格的に区別がつかない。

 

 いっそ、全員殺せば丸く収まるか? 

 

「レインは私のものです」

 

「私が彼のものなのよ」

 

「「ぐぬぬぬぬぬ……!!」」

 

「……おい、今変な言葉聞こえなかったか?」

 

「気のせいでしょ」

 

 気の所為にしよう。

 

 しかし、二人の言い合いは止まることを知らず。会話の内容はそれ以上聞けば気まずくなる可能性が大きかったために聞かないようにしていた。

 

 結末としては、まあ、うん。シノンの圧勝と言っておこうか。

 

「巫山戯ない」

 

「「ぼぎゃっ!?」」

 

 見かねたファナティオさんの拳に二人の頭は撃ち抜かれていた。

 

 ん〜、めっちゃ痛そう。頭蓋骨吹き飛んでるんじゃね? と言わんばかりの破裂音。叩かれた頭から煙が上がっている。どんまい。ギャグパートだから多分すぐに回復するだろうから頑張れ。

 

「全く……」

 

「ナイスです、ファナティオさん」

 

「黙りなさい元凶」

 

 おっと、神器を向けないでくださいね? ファナティオさんの武装完全支配術と記憶解放術は普通に死ねるから。バグだからその技。光速は反応できるか怪しいんだから。

 

「ファナティオさん……わたし、味方……」

 

「折檻の範疇よシノン。ほら、大袈裟に痛がらない」

 

「割れた……頭割れた……」

 

 頭を押さえたまま立ち上がる様子の無いシノン。語彙力が無くなる程度には激ヤバな威力だったようだ。合掌しておくのは礼儀だろう。

 

「し、死んでない……から……っ」

 

「声が聞こえる……シノンは死んで、神になったのかもな。合掌」

 

「甘いですね。まだ倒れ伏しているのですかお前は。やはり私の方が上か」

 

「涙止まってないぞ」

 

 俺の隣に立っているアリスちゃん。

 腕を組んでシノンを嘲笑うかのように見下ろす彼女の脚はガクガク震えているし頭部が一部膨れている。そして涙が頬を伝ってぽたぽたと落ちているのが見える。結構我慢してるなこの子。騎士の誇りってやつですか? 

 

 整合騎士内ではこの程度の騒ぎは日常。そこにシノンも加わり、賑やかといえば聞こえがいいけれどまあ緊張感は皆無だよね。

 

 周りからの視線。整合騎士という、この世界の中でも頂点と言っていい地位を持つ肩書き。みんなの憧れ。

 その俺たちがこれだけ意味のわからん事をしていたら周りの剣士や見習いやらが懐疑的視線を向けてくるのは当然のことだろう。

 

「れ、レインさんっ」

 

「カオスな予感」

 

「え?」

 

 馬車に荷物を運ぶなり、剣を研ぐなりと様々に戦へ備える人達の中で、二人の少女がこちらに……走ってきたのは一人だけだが……やってきた。

 

 彼女を一言で表すのならば、女子。

 

「ひぎゅっ」

 

「お前は一々牽制するなって」

 

「き、騎士様!?」

 

 純粋無垢な女の子、ロニエ・アラベル。

 数年前にたまたま出会ってから少し交流を持ち、この間再会した少女。

 なんとも特徴のない普通に可愛い女の子なためにおそらく原作主要キャラでは無いだろう。しかし何故か懐かれている。

 

 そんなロニエが駆け寄ってくる姿を目視したアリスは俺の前に乗り出して彼女に対して睨みを利かせようとしたために頭を叩いておいた。騎士の威厳は脚が震えまくっているために全く無い。

 ファナティオさんが作ったたんこぶを軽く叩いたために痛みに悶絶している。

 

 しゃがみ込んだアリスを心配するように駆け寄るロニエ。

 

「グハッ……」

 

「え!? え!?」

 

 そんなロニエからの呼び掛けを聞き、アリスが血反吐を吐いて倒れる。

 

 ロニエの純粋な心配を受けて自分の行動の稚拙さに気づいてしまったようだ。あんなに清らかな凶器は見た事ないぜ……。

 

「レインさんっ、アリス様がっ!?」

 

「大丈夫大丈夫。シーンが変わったら戻ってるから」

 

「し、しーん……?」

 

 どうしてこの子はギャグ要因になってしまったのだろうか。どちらかといえばツッコミ要員じゃないの? 

 

「こ、このような伏兵がいようとは……」

 

「もう寝とけ、お前」

 

 ごめんね、ほんと。こんな騎士の姿見せたくなかったよ。見たくなかったよね? これ日常なんだわ。主に俺。

 

 倒れたアリスを運ぶのはイーディス。

 久しぶりに姉のようなことを出来たからなのか少し嬉しそうだ。何フェチなんだろうかあいつは。

 

 そしてそれを遠目から眺めるレンリ。先輩騎士が笑顔でアリスを運ぶ姿にドン引きしていた。

 

 そしてこの光景を見ているであろうアドはまた念話で俺にツッコミを入れ……ああ、居ないのか、あいつ。

 

「……レインさん?」

 

「────んあ?」

 

「あ、その……虚空を見つめていたので」

 

「そういう時期なんだよね」

 

「そうなんですか?」

 

 純粋無垢過ぎてネタが通用しないぜ。

 そしてもう一人。燃えるような紅い髪を伸ばした、ロニエより少し高いくらいの背丈の少女。確か名前はティーゼだったか? ディーゼルで覚えてたから普通にそう呼びそうになったわ。

 

「き、騎士様っ。お尋ねしたいことがあるのですが」

 

 ティーゼと会話したことは無かったような気がする。

 戦争に向けて戦力の増強という名目で街の剣士を鍛える機会があり、そのうちの数回参加した時に顔を見合せたぐらい。

 

 そんな彼女からの質問とはなんだろうかと少し身構えると、予想外の言葉が飛んでくる。

 

「ユージオ先輩……ユージオという方と、キリトという方のことをご存知でしょうか……?」

 

(……なるほどね)

 

 緊張した顔で両手を握ってそう言うティーゼから目を逸らしロニエを見れば、ロニエもその事が気になるのか視線を向けてくる。修剣学校に通う予定だと聞いてはいたけれど、まさかのあいつらの後輩とは。ネームドじゃねぇか。よく見れば天使だわロニエ。こんな可愛い子がモブなわけが無いだろ殺すぞ過去の俺。

 

 それはともかくとして。

 ロニエはそうでは無いけれど、ティーゼという少女から感じる気迫はまさに懇願。先に名前の出たユージオのことを想う気持ちが先行しているのだろう。

 

「こっち来て」

 

「は、はいっ」

 

 ギャグ的な展開が続いていたから違和感はあったんだよ。全ての事象はプラスマイナスゼロになるために収束するのだから。

 つまるところ、ギャグの次はシリアス。そういうルールが定められているかのような予定調和的展開。どうにかしておちゃらけムードに出来ないか考えたけど普通に無理でした。

 

 先程から感じていた心意。

 からの中に閉じ込められた何かが漏れ出ているかのような脆弱な心意は覚えがある。俺はアリスに誘導されないまでも、真っ直ぐにひとつの荷車の元へと辿り着き、二人の準備なんて気にすることなく扉を開く。

 

「────────ぁ」

 

 そこにあったのは、車椅子に座っていた一人の男だけ。

 

 二本の剣を離さないように抱きしめ、しかしそれ以外の機能を停止させた男の姿。その姿に湧き上がる不快感を抑え込み、瞳だけを俺へと向けてきたキリトと視線が重なる。

 

 以前のように発狂することなく、水分補給が十分でないのか、掠れた声が僅かに漏れ出てくるばかり。

 

 背後からは息を呑む音。足音は止まり、この領域に入り込むことを拒んでいるかのように思えた。

 

「────────ぉ、めん」

 

 外界と断絶されたかのような四方5メートルもない空間。途切れた音の世界の中で、聞こえてくるのはやはり男の声。

 

「ごめん、ごめん、ごめん────ごめん」

 

「────────あ?」

 

 自分の視界が赤く染まるような感覚。

 目の前の男は涙を流し、ただバグったように謝罪を繰り返す。

 

 その光景の、どれほど腹立たしいことか。

 

 久しく感じることのなかった、殺意に似た何か……いや、そのものが湧き上がってくる。

 

(なんでお前みたいな奴が生きてんだよ)

 

 俺は命は同価値だとは思ったことは無い。すなわち人間としての価値も必ず差が存在しているのだと。

 

 キリトという存在の価値は高いものだろう。なぜならこの世界、ソードアート・オンラインの主人公なのだから。アレ無くして世界は成立せず、正しい道へと進むことは無いだろう。

 

 けれど、俺が生きるこのアンダーワールドの中で何よりも優先される存在とはアドをおいて他にはいないのだ。

 

 別に俺はあいつの下に付いたつもりは無い。俺はあいつと対等に立っていたと思っている。

 けれど価値という観点でいえばその差は歴然だったのだから。

 

 アドはキリトを生かす道を選んだ。自分を犠牲にして。その結果がこれだ。

 

(いっその事殺すか)

 

「だめです」

 

 赤く染った世界で感じたのは、温もりではなくひんやりと冷たい何かに掴まれた感触だった。

 

 無意識的に鞘へと伸びていた手を握る何か。

 そのことに気付いた途端に世界は色付き、元通りへと戻っていた。

 

「だめ……です……」

 

 赤い少女がキリトが抱える剣に触れて涙を流していた。

 声を発さず、瞬きをせず、静かに涙を流していた。

 

 そして、その場にいるはずのもう一人の少女は俺の手を握っていて。

 冷たさを感じたその手は、時間が経つ事に温もりを発してきていた。

 

 自分の心臓の鼓動が落ち着きを取り戻したのを感じてから、その少女へと顔を向ける。

 

 顔が歪んでいた。

 悲しみでもなく、怒りでもなく。ただ、心配だという歪みを、その子は俺へと向けてきていた。

 

 顔を横に振る少女は、「私には、何があったのかはまだ分からないけど」と、さらに強く手を握ってくると俺の顔を見上げてくる。

 

「それは……だめ、だから」

 

 俺がどうしてこんな感情を発露しているのかこの子は知らない。そして聞いてくることもない。

 分からないなりにでも、ロニエは俺の行動を止めてきた。

 

 僅かな身体の震えは俺の心意を受けたからだろうか。その姿を見て、懸命な意志を見て、俺はさらに冷静に戻ってくる。

 

「……ありがとう」

 

 別に、キリトに対しての思いが変わったわけではない。アレの評価は俺の中では最低位置。シノンが語っていた俺のそっくりさんがキリトの親友ポジに立っていた話を聞いてもそれは揺るがない。

 

 それでも。

 アドが消えてから今に至るまで、シノンと関わってきても拭われることのなかったモヤモヤをロニエは僅かにでも吸い取ってくれた。

 

 身体が軽くなったかのような感覚。ここ数年の間で感じてこなかった感謝をここに。

 

 程度はどうあれ、この子に俺は救われたのかもしれないから。

 俺の守るべき存在の中に、一人の少女が加わった。

 

 安心したように笑った少女は、そのまま俺の手を握ってくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして迎えるその時。

 

「暗黒騎士の気配も感じるな……こりゃぁ、まさかだが」

 

「シャスターさんとリピアさんがやられたか」

 

「嘘でしょ。あの二人が負けるような存在がダークテリトリーに」

 

「皇帝ベクタか」

 

 これから始まるのはこの世界の行く先を定める岐路になる戦争。

 

 一人の少女を狙い、護る戦い。

 

「アリス────キミの魂は、どんな味がするんだろうか……?」

 

 各々が宿す願望。

 

 正義はなく、大義はなく。

 互いの欲求の押し付け合いが殺し合いという事象で形作る。

 

 きっと、この物語の結末は正史と変わらぬものになるのだろう。

 

 一人の剣士を救うべく世界に舞い降りた外界の存在達は主人公を起こし、彼は世界の王となる。

 

 それは変わらぬ結末。きっと迎える物語の通過点。

 

「門が……!」

 

 二つの世界の境界線が取り払われる。

 それはきっとこの世界に限った話ではなくて、世界が入り交じっての大抗争へと発展するのだろう。

 

「レインッ……!! 勝負だ!!」

 

 この物語の主人公は、一人にあらず。

 

「……………………」

 

 これは、一人の剣士が星の王へと至るまでの物語。

 

「キリトくん……」

 

 これは、会えなくなった彼へ会いに行くために、世界を越える姫の物語。

 

「はぁっ、はぁ……行こう、ユイちゃん、シャスター」

 

 これは、家族の元へと向かう、少女の物語。

 

「絶対救ってみせるから」

 

 これは、一人の男を救うために弾丸を放つスナイパーの物語。

 

「「さあ」」

 

 これは、

 

「「見せてちょうだい(くれ)」」

 

 ────一人の男が死ぬだけの、ただそれだけの物語。

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