A.ヒロインレースはキリトが独走
BLは決して無いのでBLを求める人達はごめんなさいです
やあどうも、転生者(仮)です。
いやはや、SAOの世界に来てから廊下で寝そべるなんて経験はなかったんですがとてもひんやりしてて気持ちがいいですね、はい。そして馬乗りで胸ぐら掴まれてるのも初体験ですわ。ははっ、今日はとてもいい日になりそうだねハ○太郎!
いいや、オイラはそうは思わないのだ!
ということで現実を見ますか。
「痛い痛い痛い締まってる締まってる!!」
「ねぇ、あのメッセージなに? なんでフレンド登録解除したの?」
ハイライトが仕事をしてない、だと!?
やっばい、息出来ない!! なんで俺だけこの世界で呼吸が必要なんだよ巫山戯んな!! あと戦闘で痛み感じないのにこういうところでは普通に痛いのなんなん? 俺仕様にすんなよクソ神がぁ!
「とりあえず離して……!! 鼻塩塩!!」
「この場面で巫山戯られるお前の胆力には驚きだぞ」
「ねぇ、あのメッセージなに? なんでフレンド登録解除したの?」
「無限ループ入りやがった!? き、キリトォー! お前の監督不行届だぞ!!」
「なんで俺……シリカ、部屋に戻ろう。巻き込まれても困る」
「え? は、はい……あの、あれは大丈夫なんでしょうか……?」
「まあ、精々が拉致監禁くらいだから大丈夫だろ」
「それは問題では!?」
シリカはチラチラとこちらを見て不安そうな顔をする。度々アスナにも視線を向けて俺へと向けるのを繰り返していたが、キリトの誘導に従い部屋へと戻り扉を閉めた。裏切り者どもめ!!
というか全く身に覚えが無い。なになに? メッセージ? フレンド登録解除? そんなことしてないだろ、と空いた右手でウィンドウを開きフレンド一覧を見る。
無い……だと!?
「手違い……!! 俺が意図的に消したとかは無いから!! マジごめん! メッセージについては覚えてないなんて送った!?」
「『今までありがとう』ってクリスマスに」
あれかッ!!
「なんの冗談だと思って何回もメッセージ送ったのに既読がつかないし通話も取らない。かと思えばフレンドから君の名前が消えて何が起こってるのか分からなかった」
「いやほんとマジごめんなさいッ……あの、息出来ないぃぃ」
「怖かった────本当に怖かった。生命の碑に君の名前があるのを確認するまで、本当に生きた心地がしなかった」
ぽた、と俺の頬に落ちてくる雫はアスナのもの。冷たくない、少しの温度が混じったそれは彼女の心をそのまま写していて。
本当に怖かったのだと。身体を震わせる彼女に俺はなんと口にすればいいのか。
(────SAOでの死因が窒息死になりそうな今の状況がいちばん怖いッ!!)
そんなアスナの悲痛な叫びなど、酸欠状態の俺の耳に入る訳もなく。
ぼやけていく視界。ポー、と思考が疎らになっていき、耳鳴りが鳴り止まない。
あっかん。これあかんやつや。
あ〜、ここで死ぬんだ俺。まじか〜。ダサすぎて草も生えないんだが。除草剤撒きすぎな?
「────良かったッ」
「……ぶはぁっ!! うエッ、ぶぉっ!?」
握り締められ、完全に締まっていた首元が突如解放。すかさず空気をめいっぱい吸い込む。ゼロからの深呼吸であり、当然噎せて涙目になりながらも意識して呼吸を続ける。あっぶねぇ、マジで死ぬかと思った。
気づかなかったが、今俺はアスナに抱きつかれているらしい。そのまま勢い余って倒れるところを寸前で空いた右手を床に付いて支える。鼻をすする音、嗚咽、それらが耳元で聞こえてくる。よく分からないが、泣かせてしまったらしい。多分俺のせいですね、はい。
左手を迷わせながらも、アスナの背中まで手を持っていく。思いとどまるように手の動きを止めるが、しかしやがてゆっくりとアスナの背中に掌をつけ小さく擦る。
そして俺は、やっぱりな、とハラスメント警告の通知が俺とアスナに届いていないことを確認。
この世界では結婚システムを利用していない男性が女性に対し無遠慮に触れた時、ハラスメント警告が表示される。街中限定ではあるが、ワンタッチで牢獄行きとなるやっべぇシステムである。
俺はこのシステムに適用されることがなかった。
これだけでは無い。いくつかのシステムの対象に俺が含まれないことがある。
フレンドシステム、ステイタスウィンドウ、プレイヤータグ。それらは俺にも当然備わっているプレイヤーの機能だ。NPCとは違う、プレイヤーと識別が可能なもの。けれど、一部機能が作用することがない。
NPCでは無いだろう。プレイヤーという認識は間違いない。けれど俺は他のプレイヤーとは要所要所が異なっている。これらの事実が、より俺のこの世界での立ち位置というものを勘繰らせるものになる。
やはり肉体は存在していないのか。ならばゲームクリアと同時に俺は死ぬと。そう仮定すると、俺のこれからの立ち回りが限定されてくるが……ふむ、とアスナをあやすように撫でながら考えていると、不意に耳元で語りかけてきた。
「だからね────もう、待たないことにしたの」
ASMRかな? という囁き。ゾワッと耳から身体全体に流れていくアスナの声。彼女の声はとても好きだ。けど今はとても怖い。なんだこれ。
「……なにを?」と聞いてみる。違う。それは最適ではない。獲物を前にした肉食動物のような眼光のアスナを前にした俺が取るべき行動は今すぐどうにかして気絶することだったのだ。無理か。
「……ギルドに入れば、ずっと一緒だもんね」
「いやそれはもう断っ」
「拒否権なんてあると思ってるのかな? かなあ?」
「あ、はい」
ぎゅっと俺の身体を抱きしめ、胸元に頭を置くアスナの声はとても澄んでいて……そう、恐ろしいくらい澄んでいた。
顔と声は合っているが、雰囲気と声が合っていないことで脳がバグりそうだ。
とてもNOとは言えない圧を感じ、俺はすかさず肯定してしまう。
俺に顔を填めたアスナが少し嗤った気がした。
「────もう離さないから」
なぜこんなことになってしまったのだろうかと今までを振り返る。けれど俺とアスナが会ったのは両手で収まることは無いが、数えられるほどしか会っていないはず。
彼女の中で俺がどう言った立ち位置にいるのかは不明ではあるが、少なくともキリトと同じくらいには俺の事を大切に思ってくれているらしい。
けれど、何故だろう。
今のアスナは、些細な行動でどんな姿にも変化してしまいそうな、そんな予感がする危うい存在に見えてしまう。
というか怖い。女の子に抱きしめられて嬉しくないのは初めてだ。
ちょっと待て、力強いなこの子? 全然離れないしむしろ強まってるなこれ。背骨折れそうなんだけど?
窒息死の次は骨粉砕かぁ、とどこか他人事のように思いながら俺は思考を放棄する。時間よ、進め〜。
とまあ、このままシリカに着いていきピナを蘇生することなんて今の俺に出来るはずはなく、翌日シリカはキリトと共に47層へと向かった。今頃無抵抗に斬られ続けそれでも死なないとかいうラスボスも涙目の実力差を見せつけイキっているのだろうかと考えると涙が止まらない。
そして俺はアスナに引き摺られて血盟騎士団のギルド本部へと向かった。文字通り引き摺られるとは思わなかったな、しかも足掴まれて。相場は首じゃないかい? 後頭部守るために顔を上げていたから腹筋バキバキだぜ?
というわけで来ました、第55層。血盟騎士団ギルド。
以前見たことがある建物だが、その時とは比べ物にならない程の規模になっていた。既に大型ギルドとして名を挙げているのだろう。ギルドと言えば、と聞かれれば血盟騎士団と答えるものは多い。
「ほら。団長と会うんだからピシッとして!」
「今の今までお前に引き摺られてたんだが」
最上階にある一角。団長室と言ったところか、その大きな扉をアスナがノックして目上の者の部屋へとはいる口上を述べる。さっきまでのアスナのやばい雰囲気はもう消えていたために内心ほっとしながら、開かれたドアと入っていくアスナに続いて俺もラスボスの間へと入室。
そこに居たのは、面白いくらいに碇ゲンドウスタイルで待ち構える白髪のおっさん。こんな人がリアルに入れば「いやお前日本人じゃねぇな?」となる程に長い髪。まあアバターなんですけどねこの人の場合。
「やあ、アスナ君。用件があるとは聞いているが、何用かな?」
血盟騎士団団長ヒースクリフ。カヤバーンである。
アスナを見つめていたヒースクリフは、流れるように俺を見る。実際俺はヒースクリフとは初対面ではある。彼は俺を見るや、初めましてというような反応を見せて少し目を丸くする。芝居に見えないなぁ、俳優になれますぜ?
「見たことがない顔だ。入団希望者かい?」
「いや俺は「そうです」俺の発言権どこいった?」
「────なるほど」
何がなるほどなのかさっぱり分からないが、どこか納得した様子のヒースクリフさん。実際に見れば、この人筋肉エグイな。本物もっとひょろひょろだろうがおい。白衣着てくれないと困るよ。
「以前、アスナ君がどうしてもギルドに入りたいと言っている子がいると言っていたが、なるほど。君か」
「何それ言ってない」
「はい。そうです」
「俺のターンなんですけど」
会話のキャッチボールって知ってる? お前俺を壁に見立てて壁あてしてるだろ?
それで、どうでしょうか。そう言いヒースクリフを見つめるアスナさん。彼女の中ではもう既に確定路線なのだろう。団長様が断るとは考えていないようだ。事実、ヒースクリフは悩む様子を見せていない。
「私のギルドは来る者拒まずが基本スタイルではあったが……なにぶん、規模が大きくなってしまっていてね。そろそろ入団制限を設けようとは考えているのだよ」
しかし打って変わって今度は悩ましげに「やれやれ」と首を振る。この茶番はいつまで続くのだろうかと、さっさと本題に入ってしまいたい気を抑える。
ヒースクリフは即決で入団を受け入れてくれると思っていたのだろう。アスナは一歩前に出て俺の有能性を説き出した。いや恥ずかしいな、やめろやめろ。
「副団長たる君の推薦だ。無下には出来ないが……アスナ君、少し席を外してくれないかい? 一度彼と1対1で話してみたい」
────来た。
ようやく本題に入ることが出来る。そんな俺の内心も、そして俺と同じようなことを考えているであろうヒースクリフの企みも理解出来ていないアスナは少し迷った後に引き下がる。
去り際、「ギルド前で待ってるから」といつもの抑揚で告げられ退出していくアスナを見送ることなく、ヒースクリフと視線を交わし続ける。扉の閉まる音を背後に、さて、とヒースクリフから切り出してきた。
「キミの話はアスナ君から耳が痛くなるほど聞いているよ」
「なんかすみません」
「ははは。気にしないでくれたまえ。私も、キミという存在には興味があった」
部屋というには広すぎるこの空間に俺とヒースクリフの二人きり。静かなこの空間が実に不気味だ。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。私はヒースクリフ。ギルド、血盟騎士団の団長を務めている。よろしく頼むよ」
「レインです」
「ふむ、レイン君か」
ポーカーフェイスが上手いなこの人。それが率直な俺の感想。駆け引きじゃあ逆立ちしても俺はこの人に勝てない。
「キミはあの『黒の剣士』と行動を共にしているそうだね。かなりの実力者だと睨んではいるが」
「茶番は終わりでいいんじゃないですかね。本題に入りましょうよ茅場さん」
だから、相手から探られる前に俺の方から切り込む。意表を突くとか、そんなことは考えていない。ただ、無駄に俺の事を探られる前に守りを固めるために攻める。
「茅場? なにを言っているんだいレイン君」
この程度ではこの人は揺れない。俺という存在を認識していたからこそ、イレギュラーに対応出来てしまう。
「俺のことはシステムのログから観察していたんでしょう? 管理者なら容易なことだ。そこから俺という存在に興味を持ったのでは?」
「なにを言い出すんだい。私はただのプレイヤーだ」
もう分かっているはず。俺のこれが揺さぶりではなく確信からの追及なのだと。分かっていても、はぐらかすことをこの人は辞めない。会話を楽しんでいる節がこの人にはある。
だから俺はそれに乗る。けれど長々と話を続けるつもりは毛頭ない。部屋の雰囲気が変わった。完全防音に切り替わったのだろうか。
「俺に興味がある。そう言いましたね?」
「ああ。先程も言ったが、アスナ君からは君の話を」
「それだけですか?」
詰める。詰めていく。もとより俺の勝ちは既定路線。ヒースクリフは負ける前提の話し合い。このくだらない定式化された話し合いはそうそうに終わらせる。
「俺のプレイヤーIDが参照出来なかった、あるいは存在しなかった。だから興味が湧いた。違いますか?」
これは俺の想像。
これが誤りならば、俺は現実世界の肉体を介してこの世界にログインしていることになる。これは俺から茅場晶彦にできる唯一の探りである。
否、と答えられればそれでいい。ゲームクリアが果たされても俺はこの世界で生きていけるのだろう。
しかし、肯定が返ってくるのなら、その望みは限りなくゼロに近づく。
「────ソードアート・オンライン延べ一万本のソフトにはそれぞれ識別番号が割り振られている」
そして、その返答はあまりにも俺の予想通りのもの。
「こういったゲームならば当たり前のことではあるがね。そのIDで私はプレイヤーを識別、管理、運営をしているんだ」
「その中に俺は含まれなかった、と?」
「見つけたのは偶然さ。私を倒す資格のあるプレイヤーのログを眺めていた時だ。彼の近くにバグが生じていてね。調べていくうちに、キミに辿り着いた」
楽しそうに、それでいて頭を悩ませる素振りを見せる茅場晶彦は笑いながら、そして値踏みするような目を向ける。
「────キミは、何者だい?」
「────さぁ? 俺も教えて欲しいぐらいですよ」
少しの睨み合い。視線の交差。目を逸らした方が負けだと、決まっていないルールを暗黙の了解として流れる時間は数十秒。先に折れたのは茅場さん。目を瞑り背もたれに体を委ねたことを合図に、俺も呼吸を再開する。無意識に止めていたようだ。
「まあいい。キミの正体について考察するのもひとつの楽しみと言ったところか。だが困った。私の正体に気づいていることは計算外だったよ」
「心配せずとも、言いふらすつもりは毛頭ありません」
「ほう? キミにメリットが存在しないその言葉を私に信じろと?」
「メリットならあります。まあ言っても理解できないと思いますが。逆にデメリットは数え切れない。俺は俺のために貴方の正体を隠す」
「極論は口約束でしか無いが……まあいい。こういったイレギュラーな介入も、RPGの醍醐味と言えるだろう。ならば、君の言うことを信じる他はない。それに対する報酬でも与えておかなければね」
表情の変化は見られない。けれど雰囲気が茅場からヒースクリフへと変化した。今からの言葉は血盟騎士団団長としての言葉なのだろうと察する。
「血盟騎士団は基本パーティ行動だ。新人なら当然、上の立場の者と共に行動してもらうのが常。だが、それはキミにとっては歓迎しないことだろう?」
「そうですね。その条件だとしたら、たとえアスナから強要されたとしても俺は貴方のギルドには入らない」
「そこで、だ。キミには血盟騎士団の特別席を設けようと思う。具体的には、血盟騎士団に所属し、ボス攻略などやむを得ない事態には招集をかけるが、それ以外は自由行動を認める、と言ったものだ。如何かな?」
それは破格の待遇。ヒースクリフとしてはボス攻略での戦力増強、茅場としては俺というイレギュラーを同ギルドという近い位置に置いて目の届く範囲に留めること。自由行動は認めているが、それでもギルドメンバーという肩書きは変わらないからな。
俺としては、血盟騎士団のバックアップがあるのはでかいと考える。搾り取れるだけ金を巻き上げよう。
それで問題ないと、引き受けることを伝えるとヒースクリフは笑ってギルドの招待を俺に送る。そして俺はそれを承諾した。
「貴方は俺をどう言った存在だと認識しているので?」
「NPCの線を考えなかった訳では無いが、それはまず有り得ない。NPCとしての要素が皆無と言えるからね。プレイヤーではあるのだろう。こうしてギルドに加入もできる、プレイヤー特有の機能は作動している。しかし腑に落ちないのもまた事実。つかぬ事を聞くが、キミにはこの世界はどう見える?」
「現実と遜色無く感じます」
「ほう。具体的には?」
「視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。五感の全てが現実と同等です。グラフィックも現実そのもの、あなたの目には角張って見えるエフェクトも、俺には肌のシワも、植物の産毛まではっきり見えます。痛覚に関して、戦闘におけるものは感じませんが」
「……興味深いな。こんな状況でなければ、今すぐキミについての解剖と研究を進めたいところだ」
マッドサイエンティストな部分が浮かび上がってくる。ヨダレを垂らしそうな勢いの好奇心。思わず身を引く。
「ははっ。冗談さ」
「嘘つけ」
そこでメッセージの受信を告げる通知音がなり、確認するために開く。キリトからで、ピナの蘇生が完了したらしい。つまりイキリトモードも発揮し終えたのだろう。一件落着だな。
と、俺は忘れていたことを思い出す。
それは1度はやってみたかったこと。この状況を言い出すなら今しかないと、俺はそれをヒースクリフに伝える。一瞬面食らったように目を丸くしたヒースクリフだが、フッと微笑を見せると承諾してくれた。やったぜ。
「……あっ! レイン君! ……と、団長? どこか行かれるんですか?」
「アスナ君、ちょうどいいところに。今からギルドを留守にするんだ。その間ギルドの運営を任せてもいいかな?」
「はい!?」
「いや何。すぐに戻る。レイン君とラーメンを食べに行くことになってね」
「はぁ!?」
「行くぜ! ヒースクリフっち!」
「ちょちょちょ!! 何がどうなってるの!!?」
この世界のラーメンは、俺からすればラーメンそのものだった。その件について、ヒースクリフからはとても羨ましがられたが。俺としては、その味も知っておきたかった。