相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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無自覚ハーレム物は嫌いだけど、実際にその立場になったら恐怖でしか無い

 鶏肉の照り焼き。

 

 少しばかりの焼き目、輝く照り焼きソース。

 ナイフを入れた箇所から上質な脂が滲み出てきて肉々しい風味が鼻腔をくすぐる。

 

 上品に、フォークを刺して小さな口を少し開けるとそこに一口サイズにカットした鶏肉を運び咀嚼する。

 

 誰も居ない一軒家。しかしその女性は咀嚼音を一切出さず、一人で昼食を楽しんでいた。

 

 十数回の咀嚼、次いで飲み込み、口の中に残った鶏肉の味を噛み締める。

 ナイフとフォークを一度皿の縁へと置き、左手を虚空へと突き出すと突如としてナプキンが生み出され、驚くことなく当たり前のように口元を拭う。

 

 空だったコップに虚空から水を注ぎ、右手で持って喉を潤す。

 

「……ふぅ」

 

 吐息をひとつ。

 静かな空間で、誰にも見られない空間で、一人。

 

 宝石すら霞む程の髪を後ろで一つに括り、耳に髪をかけた女性は己で作った料理を前に、感想を述べる。

 

「普通ね」

 

 続けて、彼女の興味は空間に浮かぶモニターへ。

 質量の無い、現代技術では到底不可能な、浮かび上がるモニターに映る光景を一瞥し、口角を上げる。

 

「アスナちゃんもログインしたのね────なら、もう少しかしら」

 

 かつて、ひとつの世界を統べた女神は嗤う。

 観測される側から観測する側へと繰り上がった彼女は、もはや確定された未来をこの目で見ることを楽しみに待った。

 

「そろそろ……ね」

 

【雨宮】と書かれた、家主の居ない家の中で女神は立ち上がる。

 

「────システム・コール」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 それぞれの飛竜に乗り、地殻変動を起こした首謀者であり外からの来訪者がいるであろう地点へと各々が向かっている中で、ベルクーリとアリスが感じ取ったのは強烈な殺気だった。

 

「「ッ」」

 

 間に合わない。

 断定したそれを否定するため、アリスとベルクーリは愛竜の背から身を投げ、自身の心意と風素の解放により限界を超えた跳躍を起こした。

 

 見知らぬ女性に抱き着かれた、冷たい目をしたレインを見る。

 既に右手は刀の柄を握っていた。僅かに見えた刀身。

 

 涙を流し見上げる少女へと抜き放ったレインの抜刀を、寸前でアリスとベルクーリは神器にて防ぐ。

 狙われた少女をベルクーリは襟元を掴み後ろへと放り投げる。

 

((本気で……!!))

 

 一人の男から放たれた斬撃を受け止めた両者は、刀身の衝突により引き起こされた剣戟の音と手の痺れからレインの抜刀が本気のものだったと悟る。

 

「どけ」

 

「「ッ!」」

 

 それは、向けられたことの無いものだった。

 かつて、カセドラルの最上階で相対した時でさえこれほどの敵意を感じなかったと言うのに。

 

 あの時を超える圧力を受けたアリスは膝がガクりと曲がりそうになるのを寸前で堪えた。

 

「ッ……止まりなさい、レイン!」

「馬鹿野郎っ、良く見ろ! あの嬢ちゃんは、お前が言ってたヤツじゃねぇのか!!」

 

「どけって言ってんのが────」

 

 心意の解放に伴う、風圧。

 至近距離にいる二人の身体を仰け反らせるほどの暴風を巻き起こし、虚空を見つめるレインの瞳に、不意に光が宿った。

 

 パチパチと。

 何度か瞬きを繰り返し、自分の手と相対する二人の姿を見つめ、刀を握る手の力を弛める。

 

「…………何してんの俺?」

 

「「怖……」」

 

 首を傾げた強者の姿に、アリスとベルクーリはドン引きした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 無意識って怖いね。どうもレイン・シンセシス・トゥエニです! 

 

 いやぁ、気付いたら目の前にアリスとベルさんがいて、しかも俺の刀を受け止めてた。俺いつ抜刀したの? 怖い怖い。記憶がありませーん。

 

「あの女を斬るのは貴方ではなく私です」

 

 いつの間にか剥き出しになっていた刀を鞘へと収め、二人に謝罪する。

 後頭部を掻きむしり息を吐いたベルさんの横で、アリスは意味のわからんことを言い出した。何言ってんのこの子? 

 

「なんで不機嫌なの君?」

 

「あの女……レインの唇を穢した……羨ましい(許すまじ)!!!」

 

「唇……あ」

 

 朗報。俺、アスナさんからキスされる。

 

 おいおいおい、なんか思い出したわ、さっきの記憶。俺、会ったばかりのアスナから抱き着かれてキスされたんだったわ。なんだそれ、もっと堪能すれば良かった。

 

 違う違う、普通に怖い。

 なんで? 初対面だよね君? キリト大好きストーカーちゃんじゃないの? ぽっと出のキャラに一目惚れしたの? 俺の知ってるアスナさんと全然違うんだけど。朗報じゃなくて悲報だわ。

 

 というか、俺、アスナに斬りかかったのか? 状況的にそうだろう。なんで? 

 

 当のアスナといえば、ベルさん達を挟んで向こう側で尻もちをついて、唖然としながら俺を見つめている。え、泣いてるじゃん。そんな怖かったですか? 気まずっ。

 

「レイン、お前……いや、なんでもねぇ」

 

「知ってますかベルさん。そういう曖昧な言い方するやつはだいたい死ぬんですよ」

 

「くそ、意味は分からんが妙に納得出来ちまうなソレ」

 

 安堵したかと思えば剣を抜こうとしているアリスの肩を掴み止める。この子本気じゃん。アスナを殺すのはやめときな? キリトが起きる要素減るから。

 

「アスナ!!」

 

「ぅ、あ……し、ののん……?」

 

 アカウント特有の能力なのだろう。飛翔により飛んできたシノンが心ここに在らずという様子のアスナへと駆け寄る。アスナもシノンがここに居るのは予想外だったのだろうか。疑問の抑揚を言葉に付けていたが、それ以上に何やら震えが止まっていない。

 

「どうしたの、アスナ……顔色が」

 

「しの、のん……わたし……わたし、思い出した、の……」

 

「……」

 

「あの、人の……彼のこと……大好きな、彼のこと、思い、出したのに……名前が、分からなくて……だから、なのか、なぁ……?」

 

「落ち着いて、アスナ」

 

「わたしが忘れちゃってたから……嫌われ、ちゃった……のかなぁ……もう、あの人と一緒に居ちゃ……ダメなの、かなぁ……?」

 

 やばいやばいやばい。なんかスイッチ入っちゃってるよあの子。

 会話の内容は全くもって理解できないものだが、なんか俺がやらかしてそうな空気を感じ取る。逃げようかな。ロニエとお喋りしてこようかな。

 

「わたし……なんで……わたし……ぁ、あぁ……」

 

「大丈夫だから。息を吸って……アスナ」

 

 よし、逃げよう。

 何やらマズイ気配がする。勘が冴えてんだね俺は。

 

「お前さんが言ってたステイシアはあの嬢ちゃんだろ?」

 

 こっち来んなベルさん。逃げられないでしょうが。

 

「まあ……俺の知ってるのとは随分違う様子ですけどね」

 

「ほー……まあ、お前の話は難しくて理解出来んところもあるが、観測者側だったお前が入ってきてる時点で大筋からは逸れてるんじゃねぇの?」

 

 顎に手を置き難しそうに唸るベルさん。悩みたいのは俺の方なんだよなぁ。

 

 キリトといいシノンといい、遂にはアスナまで俺を知ってるような口ぶり。しかもキスしてくるとかなんですか? 愛人枠ですか僕? NTRは良くないと思います。

 

「ぽっと出の女が……まだ私もシていないというのに!!」

 

「ほら見ろ。お前の知ってるアリスもこんなのだったか?」

 

「こいつは一番バグってます」

 

 何がやばいって、この子の発言全て本気だからね。どれだけ俺の事好きなんだよ。もう結婚しようか? ダークテリトリー全滅させて結婚しようか?? 

 

 これで俺が童貞じゃないって知ったらどうなるんだろうか。黙っておこう。ヤったと言っても一回だけだし。ベルさんもしてたりして。兄弟だね! なんか嫌だわ。

 

「あの……大丈夫、ですか?」

 

「俺の癒しはお前だけだよ」

 

「え……と……?」

 

 本当にロニエは癒し枠ですね。普通に可愛いし純粋だし。黒いところが無いもんね。この子のそばが天然の回復エリアだわ。月何万で借りれます? 生涯契約結びましょうよ。

 

 そんなやり取りをしていたら、少し離れた位置からシノンの焦ったような声とともに何かが倒れたような音が聞こえてきた。

 

 うわ、気絶してるよあの子。もう怖いんだけど。

 

「とりあえず────中に入りましょうか」

 

 若干カオスな空間。周りの剣士たちもどうすればいいのか困惑している状態で、遅れてやってきたファナティオさんがイーディスと共にやって来て、この空気をバッサリと断ち切ってくれた。

 

 流石っすファナティオさん! おいら、一生着いていくっす!! 

 

「女の子を泣かせた代償は高く付くわよ」

 

 俺の味方はロニエだけでした。

 

 というわけで、主要人物だけが集まり作戦会議&本日の総評をしようの会を行う仮設テントへとやって来ました。ロニエ達は外です。味方が居なくなりました。

 

 整合騎士達が集まってはいるが、そう人数は入らないほどのサイズ感なために少数での開催。シノンは当たり前のように交ざっていた。気絶しているアスナも。

 

 アスナはシノンの膝の上で眠っていて。そんな彼女の姿を疑いや戸惑い、あとは嫉妬を向ける方々。最後絶対アリスだろ。そんなにキスしたかったらします? ディープにしようぜ。ディープフリーズ!!! 

 

 そして、唯一事前情報を与えていたベルさんを中心にして、今後の方針を決めていった。

 

「次からは、シノン嬢とアリスも戦線に出るってことでいいな?」

 

「「はい」」

 

「レインもそれでいいか?」

 

「はじめからそのつもりでしたよ。俺が出るのは、外から一気に入ってきた時か、ベクタが本格的に動いた時か……世界の意志の本命が来た時ですかね」

 

「ま、お前が動くような状況になったら俺らのうちの誰かが死にかねんからな。そうならないように祈るばかりだ」

 

 世界の意志は必ず作用している。亀裂が大きくなっている様子は無いけれど、俺というイレギュラーがいる以上、俺を排除しようとする動きがあることは明白だから。

 この戦争中に、確実に現れる。それが何なのかは、分からないが。

 

「そこの嬢ちゃんにも、期待したいところなんだがね」

 

 そうして、ベルさんの視線はシノンの膝元で眠るアスナへと向けられる。それに合わせるかのように、みんなの意識はそちらへと向かい、居心地の悪そうなシノンは代理を務めるかのように話し始めた。

 

「えっ、と……この子、アスナの使用しているスーパーアカウントは、【創世神ステイシア】というものです。有する能力は、簡単に言えば地形操作」

 

「やっぱり、ステイシアなんだな」

 

「女神様ねぇ……こんな短期間に二柱も降臨するなんて思いもしなかったわ」

 

「正確には神などでは無いのでしょう。リアルワールドという世界から来ただけの、我々と同じく人間なのですから」

 

「地形操作なんて簡単に言うけれど、あの子が来た時に起きた地割れをぽんぽん出せるっていうのなら破格の力よ」

 

「なんか、一人くらいダークテリトリー側に着いてやった方がいいんじゃねぇか……って思うくらい、戦力差がありそうだな」

 

「じゃあ俺が向こうで王様ムーヴ楽しんできます」

 

「「「お前は大人しくしてろ」」」

 

 にしても、この世界はまじでどうなってんだ? 

 アスナの好きな人がキリトじゃないという時点でこの世界終わりじゃね? と思わずにはいられない。どこで間違えたんだよこの世界、どうやって修正すんの? 正史が正解だって言うつもりは無いけれど、アドが消えた以上不確定要素が多すぎるんだよな。圧倒的統治者を失ったために、本筋を逸れて動いているのは怖い。カーディナルも死んでるし、キリトが王になったとしてもアスナは王妃にならんでしょ? なんだここ世紀末か? 

 

「……ぅぅん、あ……」

 

「っ……アスナ、大丈夫?」

 

「う、ん……ありがとう、しののん」

 

 ある程度の議題も終わり、話し合いの内容がアスナに関するものになってからしばらくしての覚醒。なんて都合のいい女なのかしら。作者の意図が見て取れるぜ。挿絵どのシーンにするんだよ、いつでも決めポーズ作っとかないとじゃねぇか。

 

 ていうか声可愛いっ。声優みたいな声してんな。声優でしたわ。

 

「…………あ」

 

「近寄るな。それ以上レインに近付けば斬りますというかもう斬ります」

 

「やめろ馬鹿」

 

「ふギュッ!?」

 

 わずかな時間とはいえ、寝起きで髪の毛ボサボサにならないという地味に凄いものを見せられ、起き上がった彼女は予定調和のように俺の姿を目視するとやはり目を開き目元が潤む。

 そして、手を伸ばし俺の方へと身体を近づけてくるアスナを牽制するアリスちゃん。冗談じゃなく剣を抜こうとしてたので頭を叩いておいた。ややこしくなるからやめなさい。

 

「えっと……あの……ら……れ……くん……なんで、名前……っ」

 

「【レイン】よ。アスナ」

 

「え……?」

 

 俺の名前を知らないアスナさん。言動的に思い出せない、というのが正しいのか。一方的に知られている気持ち悪さを抱えつつ、シノンがアスナに俺の名前を教えている姿を見守る。

 確かに俺の名前を教えたシノン。それを聞いた上で、アスナは泣きそうな顔のまま、シノンへと疑問の声をあげる。

 

「なんて……?」

 

「だから、【レイン】」

 

「えっと……なんて言ってるの?」

 

「────聞こえない、の? 彼の名前だけ……?」

 

 ん〜、何言ってんだろ? 理解はできないが状況整理だ。と言っても一瞬で終わるけど。

 

 俺のことを好きなアスナさん。俺の名前を思い出せず、俺の名前を聞き取ることも出来ない。以上。ナニソレ?? 俺にとっても罰ゲームなんですけど? これから俺はアスナに「あの」とか「ちょっと」とかで呼ばれるってこと? 絶妙な距離すぎんか? 

 

 まあ別にアスナと話さなければ良いだけなんだけど、と思いながらも、そんなこと出来るわけないよねぇと思ってもいる。

 

「……ッ」

 

 だって、俺の名前を思い出せない、聞き取れないってだけで、あの子は心の底から絶望して悲しそうにしてるし。ちょっと申し訳ないね。俺何も悪くないんだけど。あ、俺悪くないじゃん。申し訳なくなかったわ。

 

「先に言っとくけど、俺はあなたのこと知らないからね」

 

「「「えげつな……」」」

 

 面倒な会話を回避するべく、俺は先手を打っておく。だって事実だし。

 整合騎士の皆様からゴミを見る目で見られているけれど、考えてみて欲しい。

 

 アリスからの好感度が高い理由も分からない俺だぞ? アリスとは数年ともに過ごしてきたからまあ、うん。わからんけど有り得るとは思ってるけど、シノンとアスナに関しては普通に恐怖だから。

 

「はじめまして、大好きです」みたいな状態だぞこの子ら。いや、シノンに関しては恋愛感情ではなさそうだけども。アスナはゴリゴリじゃん。恋に無自覚とかじゃなくて、知らないところで発生している恋心向けられるのマジできついから。というか怖い。

 

「っ……う、ん」

 

「知らない、記憶に無い。懐かしいとも思わない」

 

「そう……なんだね……」

 

 だからこそ、私は貴方のことを知ってます、みたいな態度が普通に気持ち悪いんだよね。キリトとかマジでそう。あいつ何回俺の名前呼んできたよ。はじめまして!!! 

 

 と、散々言ってみたものの、アスナの様子を見てみる。

 俯いた顔、震える肩。そして僅かに見える瞳は輝いていて、潤んでいた。

 けれど涙は流れておらず、見えてはいないが拳をぎゅっと握る音が聞こえてきたから。

 

「ごめんね。迷惑だよね。知らない人から好意を向けられて気持ち悪いよね。こんな、今まであなたのことを忘れてたのに今更都合がいいよね」

 

 謝り、自虐を交えて、そして顔を上げた少女。

 

 それを見て、俺は悟る。

 

 ああ、こいつは────

 

「ごめんね。大好き」

 

 どうしようもないほどに、狂っていて、壊れているんだ、と。

 

(ひえええぇぇえええええッッッッッ)

 

 狂気的なまでに淀んだ瞳。

 何があって、何を受けて、どんな経験をすればそんな感情に辿り着けるのだろうか。

 

 ディー・アイ・エルの闇蟲なんかよりもよっぽど気持ち悪いわ。なんだこいつ、狂人か? 

 

 イーディスが息を呑んでるとか相当だからね? あの目を見ろ。理解不能の怪物を前にした時の震えだぞ。イーディス、アスナを君の妹に推薦するわ。だからちゃんと手網を引いてね。

 

 無言で首を左右に高速で振っていた。首もげるぞ。

 

「好きなの。大好きなの。胸が張り裂けそうなくらい愛してるの」

 

『マジで気持ち悪いんだけど。え? まさかとは思うけどこれ俺に向けて言ってる? 違うよね? キリトだよね?』

 

『諦めろ』

『頑張りなさい』

『初めてあんたが可哀想だと思ったわ』

 

 俺の人生が終了のカウントダウンを刻み始めたようだ。

 

 くそっ、顔は正直どストライクで家事も出来るんでしょ? そして尽くしてくれるとかいう最高の物件なのにまさかの事故物件かよ。現在進行形の。誰が住みたいんだよそんなとこ、金貰っても嫌だわ。

 

 好意の押し付けって気付いてないのかこいつは……違うか。気付いた上で止められないのか。狂ってますねハッハッハ。笑えないが? 

 

 ああ、この子かなり心削られてんのな。

 普通、何人もいる場所で想い人への想いつらつら話せねぇよ。そうであって欲しいし。

 思い付いたことそのまま口にしてるんだな。自制ができてないようだ。気絶させてやることもできるけど、ここで爆発させた方が良さそうか。よし、聴覚遮断。

 

「ダメよ」

 

 鼓膜に張った風素の障壁が砕け散った。説明できない力をこんな場所で発揮しないでシノンさん? 

 

 そこからはアスナの独壇場。呪詛を撒き散らす姿は壊れた乙女。

 永遠に続きそうな唱えを聞いて、シノンとアリス以外の人達がテントから出て行った。

 鼓膜を塞ぐ度にシノンからの謎の力が働き音の通りが良くなり呪詛が入ってきて、初めこそアスナに対して敵対心剥き出しにしていたアリスは狂気的な姿が続いている中で諦めたのか俺の隣で黙って座っていた。おい抵抗しろよ。

 

 そうして小一時間ほどお経を聞く時間が続いた。

 

「俺ずっとお前とお茶会してたいわ」

 

「え、ええ……嬉しいですけど……ん〜……」

 

 痛んだ耳と心をロニエとのお茶会で癒した。やっぱ女神だねこの子。セーブポイントかな。ポケセンポケセン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い、長い道だ。

 何分、何時間、何日、何年。

 

 どれだけ経過したのだろうか、どれだけ進んだのだろうか。分からない、けれど走り始めた時の記憶がついさっきに感じられる。

 

 進め、進め。

 止まるつもりなんて毛頭ないけれど、更なる一歩を求めて自身の身体に鞭を打つ。

 

 やめろ、と誰かが言った。

 無駄だ、と誰かが言った。

 

 知ったことか、と俺は言った。

 

 もう、あと一歩だ。

 願いが叶う、その瞬間を求めて、俺は走る。

 

 俺の願いを。

 

 桐ヶ谷和人とアリスを殺す。

 

 その為だけに、俺は────

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