「あの……あなた」
「照れながら言うな気色悪い」
どうもレイン・シンセシス・トゥエニです。
戦争二日目に突入です。昨日の夜は俺用のテントが何故かあったのでありがたく使わせてもらおうとしたらアスナが突撃してくる気配がしたために消去法でアリスのところで一緒に寝た。
ロニエが良かったんだけどね。ティーゼが気まずかったからナシ。
ベルさんは思い詰めたようなこと話してきそうだったから消去。シノンは安全そうだったけどアスナを受け入れそうだったのでなし。
初めてアリスと一緒に寝たかもしれん。寝巻き姿いいね。いい匂いしました。
結局アスナ来たんですけどね。何あいつ? 怖いんだけど。
「名前を思い出せなくてごめんね。でも、あなたと過ごした時間は覚えてるからっ」
「ナチュラルに指を絡めてくるな」
んで、もちろんアリスはアスナに対して剣を抜く勢いでとおせんぼしてくれてたんだけど、なんか知らんけど俺の思い出合戦に発展しまして。
アリスとの思い出はまあ、うん。俺の知ってる内容だから良かったけど、アスナに関してはナニソレ?? しか出てこなかったわ。俺君と同棲してたの? キリトじゃなくて? とんだ原作クラッシャーじゃねぇか。
まあアスナの話を寝ながら聞いてて分かったこともあるけど。こいつ全部思い出してるわけじゃねぇな。いや、アスナやシノンが言ってるレインやら雨宮零ってのが俺なのかはまだ疑いの余地ありだけど、アスナの話す思い出話は所々虫食いがあるように思える。
スラスラ言ってるアリスと比べて、たまにつまりながら話してたし。ほぼ誤差といえばそうだけども、よく分からん状態になってんだねこの子。顔の良さで耐えてるな。
「スゥ────……スゥ────」
「息を吐け、息を」
「あ〜……最高」
『最高』というより『ざいごう〜!!!』って言い方だね。おっさん臭が凄い。厄介ファンか何かですか?
「まじで無理なんだが。キリトのとこいけよ」
「どうして?」
キョトンとするな。キリト目的でここに来たんでしょうが。
「キリトくんは……ん〜……うん、そうだ。助けに来たんだった!」
「こいつ怖い」
なんだこいつ。俺と会って記憶が改変したのか知らないけどそれまではキリトLoveだったんだろ? もう既にキリトを居ないもの扱いしてるよこの子。あいつ可哀想だなマジで。俺が友達になってやろうか? やっぱやめとくわ。
ニコニコ笑うアスナの姿は万人を魅了するモノを秘めているけれど、残念なところを知ってしまった今となっては何も響かないんだよなぁ。
「お前は最前線で戦うと決まったはずです。さっさと行きなさい」
ぷりぷりアリスちゃんが現れた。鎧重そうだね。眩しくないのそれ?
それで言うなら君も前線に出るんだけどね?
「私は後方支援だけどね」
「俺も」
今日から戦局は大きく変わるはず。
外からの来訪者。もう覚えていないけれど、不特定多数の人間がログインしてくるだろう。
死者は少なくしたい。だから出し惜しみはなし。
その一件でダークテリトリー側と共闘とか出来れば和睦に繋がるだろうけどな。あり得るとしたら拳闘士とかオークあたりか。暗黒騎士団は頭二人が抜けてしまったから信用ならん。
シャスターさんの気配は相変わらず感じない。何処にいるのやら。
「ねえ」
「はよ行け」
「うぅ……はい……」
シノンとアリスも今回からは参戦。俺もじわじわと交ざっていこうと思う。
シノンは弓またはライフルだから俺と同じく後方待機。弓って言っても範囲が桁違いだからまじチート。
ベクタの狙いはアリスだからアクション仕掛けて来そうだけど、まあその時に対処すればいいか。
「レイン」
「分かってます」
「「「?」」」
アスナやアリス達と同じく前線部隊のベルさん。
わざわざこちらに来て確認を取ってきたのは共通認識としてあるというもの。
────近い。
「俺が対処します」
「まあ、お前で無理ならもう勝てるやつはいないからな……頼むぞ」
「ウス」
どこから来るのかも分からない相手に頭使ってても意味無いか。
とりあえずは目の前の事柄から解消していこう。
前衛部隊はベルさん、アリス、アスナ、レンリ、シェータを中心としたほぼ奇襲部隊。
ファナティオさん、エルドリエ、デュソルバートさん、イーディスは他の部族の動向の監視・対処のために部隊を預けて散らばってもらってる。
前衛部隊が向かう先は、拳闘士と暗黒騎士団がいる崖。
イスカーンなら飛び越えられるだろうその穴はアスナが作り上げたもの。
ロープを繋ぎ、えっほえっほと綱渡りという原始的な移動方法を試しているようだ。そこへの奇襲。まじ戦争だね。
俺個人の意見だけで言えば、拳闘士はあまり殺したくない。
脳筋の集まりだが、話が一番通じると思っている。長があいつだしな。見た目はあんなだが物事の分別はハッキリしている。話しやすい相手ではある。
暗黒騎士はバラバラだな。いいやつもいるけれど悪い奴もいる。当たり前な構図だが、まともな統率者を失った以上、陰で燻っていたゴミカス共が勢い付くだろう。殺していい。
最低限の準備を終えた前衛部隊は、ベルさんの号令と共に静かに行進を開始した。
そして、その先で行われた戦闘を目にして、俺はやはりソードアート・オンラインという世界の住人ではないということを再認識する。
ベルさん達はともかく。
アスナが拳闘士や暗黒騎士を斬り殺している姿を目にして、俺はいっその事寒気すら感じていた。
俺がこの世界に初めて降り立ってから騎士の仕事をこなし、初めて生命を斬り殺したのは五年ほどが経ってからだ。
別にそれまで機会がなかったわけじゃない。今にして思えば殺しておいた方がすんなりと終われた任務もあっただろう。けれど、俺は殺すという行動への忌避感を当時は感じていたから。
人間として当たり前に備わっているそれ。創作物の世界だと分かってはいるけれど、こうして意思疎通を図り世界の一員となった俺はゲームのように剣を振ることが出来ずにいた。
しかし。
アスナを見る。馬に乗り、神器と同等の権限を秘めた剣を薙ぎ払い、敵を斬殺していく彼女の姿。
アスナはこの世界をただのVR空間だと思っていない。この世界の住人は正しく同じ生命だと認識もしているはずだ。
その上で、彼女は剣を相手に向け、殺している。当たり前のように。
彼女の中では葛藤があるのかもしれない。けれど、俺にとってはその行動を収めるまでが早すぎたために思ってしまうのは、やはりソードアート・オンラインという世界の登場人物の価値観は俺のそれとは異なるのだろうということ。
だから彼女が嫌いだ、という訳では無い。遠ざけようとも思っていない。
ただ漠然と、俺はちぐはぐな存在なんだなと思っただけ。
「────来た」
少しナイーブになっていた感情を、シノンのつぶやきで現実へと戻される。
蹂躙とも言っていい戦場の真上から、無数に降りてくる赤い線。
ジジジッ、とシステム音とカクカクとしたエフェクトの後に現れた赤い兵士たち。その姿は暗黒騎士の赤版と言えばわかりやすいか。
恐らく、英語。遠すぎて聞こえにくいが、そんなニュアンスの単語が聞こえたために、やはり外から来たなと納得する。
「シノン」
「任せて」
来訪の報せを示す赤い線が天から降りてきたタイミングで、既にシノンは固有の浮遊により空へと浮かんでいた。
神様モードのシノンは背負う弓を左手に持ち、ゼロから生み出した光の矢を携えると力強く引く。
武装完全支配術を使用する際に似た模様が展開。
矢と言うよりも光の玉のようなものが射出され、ある程度飛んでからその玉は無数に分裂。
直線上にいるプレイヤー達を寸分違わずに射抜き、その衝撃の余波でも巻き込んで大部分を消滅させた。
久しぶりのネイティブイングリッシュが一瞬にして怒号に変わった。何言ってるかわからん。
「イスカーン」
「っ……レイン」
「状況を見定めろよ」
プレイヤー達は他のゲームから引き継いでいるのか、ある程度の装備とステータスを持っているために、一般兵では勝ちの目は薄い。
シノンの一撃である程度減らしたが、再装填まで少しばかりの時間がかかるため、今は兵士たちでの対処が必要。割合にして、こちらが相手の倍ほどの人数か。まあ、ほぼ誤差だろう。
ここで拳闘士や暗黒騎士側と揉めるのは愚策。俺でもそれは分かる。
今がチャンスだ。イスカーンの選択次第で和睦への道は確実に生まれると言っていいだろう。
右目が僅かに赤く染っているイスカーン。
世界からの警告による激痛が襲っているだろう。けれどあいつなら選べるはず。長い時間関わったわけではないけれど、あいつはそういうやつだと知っているから。
……ただ、その前に。
『アリス。わざと捕まれ』
『分かりました』
一際輝く黄金の鎧を纏い、プレイヤー達を倒し続けるアリス。
そんな彼女を狙って空からわずかな認識阻害を纏い降下する飛竜に乗った黒い男……ベクタ。
敵の狙いがアリスなのは明白。今ここで対処してもいいが、余波で犠牲者が出そうなためにアリスには一度捕まってもらう。
俺の意図を理解してかしていないのか、しかし疑問を示さずに了承を示したアリスの信頼に少しばかり笑みがこぼれる。
そして狙い通りと言うべきか、アリスは飛竜の鉤爪に掴まれ、形ばかりの抵抗を見せるアリスに向けてベクタは手をかざし、なんか気持ち悪い煙を出したかと思えばアリスの意識が落ちた。いやガチで気絶してますやん。精神干渉系は相性が悪いのか。
「レイン! アリスが……ッ」
「俺が出ます。この場の指揮は引き続きベルさんが。シノン、アリスの介抱頼んだ」
「任せて……気をつけてね」
ぐんぐんと進み、小さくなっていく飛竜の背中。
薄暗い暗黒界の明かりでさえ、アリスの輝きは目立っている。
星の輝きのようにも見えるアリスを見て、俺は右手の親指と中指を合わせる。
グッ、と僅かに力を込めて、離れていく飛竜から目を離さず、手の甲から小さな幾何学模様が浮かび上がってくる。
パチン、と。
決して大きくない、そばに居るシノンにだけ聞こえるほどの指の弾き。
一瞬にして視界が変わり、次いで左肩を鋭い何かが掴んでいるような感覚を感じる。
常時心意の外装を纏っているために痛みや傷はなく、上を見上げれば先程まで眺めていた飛竜の腹。
『グギャァァアアアアッッッ!!』
心意の太刀で飛竜の胴体を両断。アリスとは置換転移をしたために気を使う相手はおらず、手応えは飛竜だけにとどまっていたために飛竜の出血を避けて上へと短い転移を行う。
「何者だ、貴様」
無駄にイケボの皇帝様。
鎧も正直そんなにいらないだろ、というゴツさ。マントも絶対いらないし、なんか顔老けてません? といいたくてたまらないがグッとこらえる。
お互いに自由落下していき、都合よく大地の支柱のようなステージに着地したベクタと、5メートル程上で静止した俺。
良いシーンじゃないのここ? 一応ラスボス様でしょ君。じゃあちょっとカッコつけちゃおっかなぁ!
俺は僅かに真剣味を帯びたような顔を作り、ゆっくりと剣を抜く。
そして、飾ること無く、ただ思っていることを口にした。
「お前じゃ相手にならねぇよ────ガキ」
苦戦も善戦もしない。
ただ一方的に……殺すだけだ。
◈◈◈◈
GGOでお前を見た時、俺はお前が■■■だと確信した。
その顔が、体格が、声が、仕草が。
全てが俺の思い出の中にいたお前と合致していたから。
嬉しかった。怒りが沸いた。悲しかった。
生きててくれてありがとう、と。
なぜア■ナや俺に何の連絡もなかったんだ、と。
けれどやっぱり、■■■が生きててくれたことで俺は救われた。
償えない罪を背負った俺をお前は救ってくれた。
SAO時代での■■■との思い出は鮮明に覚えている。
毎日が色濃く残っている。
あの時、■■■は笑っていた。
あの時、■■■は怒っていた。
あの時、■■■は悲しんでいた。
小さなことも、大きなことも、全て。俺は思い出せるからこそ。
GGO内で再会し、会話して、そして決勝で戦った時。
────俺は、お前が本当にレ■■なのか、分からなくなっていた。
【■■■】
「何をしている。早く作業に取り掛かりたまえ、桐ヶ谷君」
「……あ、すみません」
ふと、目を開ける。
眠気が残る瞼を細め、肩を軽く回して前を向く。
モーターや電線。単三電池などが置かれた机。
ああ、今は実験の時間だった。
曖昧な意識を、少し時間をかけて覚醒させる。そうして、今俺に課せられたタスクを処理するために、俺は目の前に置かれていたパーツを手に取り説明通りに組み立てていく。
カチャカチャと、プラスチックの部品と机とが擦れる音が響く。
こういった単純な作業は性に合っていた。
他のことを考えなくていいから。自分だけの世界を作り上げるような感覚になるから。
誰かを頼らないで良いから。
パーツの組み立てに没頭する。
ドライバーを手に取ってネジをはめ込み、固定させていく。
プログラミングや溶接などの技術の要らない、プラモデルを組み立てていくような簡単な作業だけど、始めてみれば楽しいものだ。
【キリトくん……助けに来たよ、キリトくん】
軽い音が響く。
まるで教室に俺一人しかいないような、そんな感覚になって。
「あれ……なんだこれ?」
ふと、かなりの量があった部品が全て無くなっていることに気が付いた。
かなり集中していたのだろう。窓から差し込んでくる陽光が橙色を僅かに帯びていた。
【キリトくんを助けに……あれ、? 私はキリトくんを助けに……来た、の?】
説明書は何故か手元から消えていて。
ほとんど無意識的に完成させていた製作物を見る。
「ヘルメットか……?」
重厚感のある、暗い色をしたヘルメットのような何か。
どこかメカメカしく、プラグのようなものが刺さっていたりと、プラスチックのパーツやモーターだけで作れるとは思えないようなものがそこにあった。
頭部の半分ほどを覆えるほどの大きさ。
用途は全く分からないけれど、何故か目を惹かれる。
「思っていたよりも遅かったな。作ったものは、持ち帰って構わない────下校の時間だ。帰りたまえ」
そのヘルメットのような何かに目を奪われている俺の耳に、男性教論の声が響いてきた。
終業の報せとともに電子的なチャイムの音が校舎中に鳴り響いた。
周りを見れば、誰も座っていない椅子と机ばかり。
俺と先生以外に誰もおらず、授業時間を大幅に超えてしまっていたのかもしれない。
こんな時間になるまで気づかなかった自分の集中に失笑しつつ、こんな時間まで付き添ってくれていた先生に申し訳なさを感じて少しばかりの謝罪を口にした。
「気にする事はない。早く準備をしたまえ、間に合わなくなるぞ」
白衣を着た先生の言葉遣いに少しの違和感を覚えながら、俺はその教室を後にした。
俺の手には、先程作ったモノを携えて。
一人、廊下を歩いた。
誰も居ない、擦れ違わない、人の気配すらない廊下を。
同じような教室の横を通り過ぎ、何枚あるのかも数えられない窓の反射に目を細めながら、下を向いて歩いていく。
雨が降っていた。
さっき教室から見た夕焼けはどこかへ消えて、薄暗い空には分厚く黒い雲が一面に広がり、大粒の雨が大地を濡らしていた。
傘は手元にない。他人のものが置いてはあったけれど、それを手に取る気にはならず、下校時間ではあるけれど雨宿りという名目で立ち寄ったのは図書室。
ガラガラと、やけに立て付けの悪いドアを横に動かして図書室へと入る。
どの教室でも感じることのない、図書室の匂い。
少し安心するような匂いに、俺は息をついてカバンとヘルメットを近くの机に置いた。
「まだそんなことをしているのね」
学校のどの場所よりも静かな空間で、小鳥の囀のような女性の声が響いた。
その声を聞くだけで心休まる、スっと耳に入ってくる綺麗な声。
長い、長い髪だ。
キメ細やかで、サラサラしていて、一切の澱みが見られない、芸術のような髪だった。
「司書さん?」
その人に見覚えはなかった。図書室自体にあまり来なかったからだろうか。本の貸し借りをするカウンターの奥の椅子に脚を組んで座っている彼女は恐らくこの図書室の司書なのだろう。
自然と口に出ていた問いかけに対して、彼女は一切笑うことなく、女神の彫像のように整った顔をこちらに向けてため息を吐く。
「面倒な段取りとか要らないわ。さっさとソレを被りなさい」
「ソレ……?」
「……はぁ。分からないフリはやめなさいな。本当にお前は面倒な男ね。もうソレがなんなのか、どう使うのかは分かっているのでしょう」
瞬きを一つ。
瞬間、図書室にいた俺達は景色を変え、見覚えのある部屋へと移り変わっていた。
何度も見た、毎日使っているベッドと勉強机。
知っている。この部屋は正しく、俺の部屋。
図書室で立っていた俺はいつの間にかベッドに腰かけていて、彼女は俺の椅子に座って俺を見下ろしている。
「見つめ直しなさい。お前の罪を」
彼女は俺に何を求めているのか。
けれど。
思考とは裏腹に、俺の体は既にベッドへと寝ていた。
天井の模様をボーッと見つめ、自分が何をしたくてこのような体勢になったのかを考える。
「────もぉ〜!!! 早くこれ読んで! 行きなさーい!!!」
狭い俺の部屋に突如響いた少女の声。
酷く懐かしく感じてしまったその声の元へと目を向けると、目を奪われるような金の髪を持つ少女がこちらにグイッと向けてくるプラカードに書かれている七文字のカタカナ。
「煩いアリスちゃん。耳がキーンってするでしょ」
「だって! いつまでもキリトがいじいじ……うじうじ? してるから!」
「私もいるって事忘れないでって言ってるの。周りの迷惑は考えなさい。お姉さんでしょ貴女」
「むっ。最高司祭様、おばさんみたいなこと言いますねっ」
「おらガキ。そこに直りなさい」
「────リンク・スタート」
「「今!?」」
瞬間、世界が暗転した。
最終回までにやらないといけないこと
・キリトくんを立ち直らせる
・裏ボスにレインくんをボコボコにしてもらう
・アンダーワールド大戦を終わらせる
・レインくんを殺す
・アスナ・シノン・ユウキ・ユイを泣かせる
・キリトを発狂させる
・キリトくんを絶望させる
etc,
結構多いことに気がついた。まあ今年中には終わるでしょ