相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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あーはいはい、そういう感じね

『お前じゃ相手にならねぇよ────ガキ』

 

 パチリ、と目を開ける。

 右腕の関節、左手の手首、右脚の太腿、左脚の脹脛。

 そして、右上から左下にかけての顔面に触れる。

 

「おっ、戻りましたね、ボス」

 

 少し硬いクッションから起き上がった男、ガブリエル・ミラーは、まだ痺れを残す痛みの跡を手でなぞり、無い傷跡を無意識のうちに探していた。

 仲間の男からの呼び掛けに反応することなく、ガブリエルは一人、感傷に浸る。

 

「やられちゃったっすか? ボスが戦闘を始めた段階からこっちからの接続が切れちまいましてね。結構強かったんですかい? 向こうのNPC」

 

『雑魚が……出直してこい』

 

「……ふっ」

 

 ふと、笑みがこぼれる。

 耐えることの出来ない微笑。

 

 理性ではなく本能が込み上げてくる笑いを強制する。

 

「……頭でも打ったのか? 俺らのボスは」

 

 対峙した男の姿を脳裏に映し出す。

 一生忘れることの無いほどの出会いを。

 

 何一つ抵抗を許さない圧倒的な力。

 己の行動全てにあの男の許しがいると錯覚するほどの絶対的な存在。

 

「く……はははははっ」

 

 粉々に切り刻まれた肉体の痛みはもはや快感にまで発展していた。

 この痛みこそ、あの男が居たという証明になるのだと。

 

 ガブリエルは、自身を圧倒的な力で打ち砕いた男の存在に歓喜していた。

 

「ボス……?」

 

「────私はもう一度ダイブする。私のアカウントをアンダーワールドにコンバージョンさせておけ」

 

「えっ……あ、ちょッ!!」

 

 もう一度、あの男に会いに行くために。

 

【ALICE】という極上の獲物は既におまけ。

 至福、至上の魂を持つかもしれない男を喰らう為だけに、ガブリエルは歩を進め、もう一度現実から電脳の世界へと向かう。

 

 天使の名を冠する彼の口元は、悪魔の形相へと変化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

(……存外、呆気なかったな)

 

 どもどもレイン・シンセシス・トゥエニでででです。

 

 皇帝ベクタを名乗る男との決戦。ダークテリトリーの王と人界の王(ペラッペラ)のベストバウトは二分で終了しました。

 

 私、無傷であります。

 

 えぇえぇ、ハイハイ。クソ雑魚じゃないっすか。

 こんなこと言えばイキリトと変わらないかも知れないけど、何時でも殺せたから相手の手札を見るためにわざと隙を晒したりしてみたんだよね。

 

 結果としてはまぁ、うん。アリス達は相性悪そうだなと思ったぐらい。

 精神干渉……魂か? そんな感じのデバフで五感を奪い認識を歪ませる権能はなかなかに厄介そうだった。全部弾いたから分からんけど。

 

『とりあえず皇帝は殺しました。けど、多分すぐに姿を変えて戻ってきます』

 

『もう終わったのか? んで、また奴さんは舞い降りてくる、と……とりあえず、こちらは俺とファナティオが別の戦場へ向かってる。ちと南側が怪しくなってたからな。ぷれいやーの出現位置がかなり散々としてる。お前さんはアリス達がいる場所に行ってやれ。戦力的な問題は無さそうだが、アリスの傍にお前は欲しいからな』

 

 なるほど、ベルさんとファナティオさんは部隊から離れたのか。まああの二人は固めておくには勿体ないぐらい個の強さがずば抜けてるからな。外のプレイヤーが一箇所に集まってるはずもないし、良い判断でしょうね。

 

 俺は了承の言葉をベルさんに送り、一度、ベクタが消えた残滓を見つめてからアリス達の元へと向かった。

 

 転移は使用しない。

 飛行で戻りつつ、索敵を続ける。

 

 かなり範囲を広げているはずだが、やはりシャスターさんの気配は感じられない。本当に生きているのか怪しくなってきたな。

 ベクタから逃げられたのなら、あの人を倒せる存在はダークテリトリー側に居ないと思うけど。

 

「いや────これは」

 

 シャスターさんの気配は無い。

 けれど、索敵範囲のギリギリに弱々しく感じたもの。

 悪意無く、敵意無く、戦意も無い。

 

 ダークテリトリーでも人界でも無い、ましてや赤い装備を着たプレイヤー達のような感じでもない小さな存在が二つ。

 その傍に、モヤがかかったような気配が一つ。

 

(流石に遠いか)

 

 気配のある位置は転移外。

 向かうにしても数分かかる。その間にベクタの中身がログインしてきても困るために優先順位を下げた。

 

 索敵は止めない。

 一際目立つ生命力……恐らく女神のアカウント。名前忘れた、キリトの妹か? 

 ディー・アイ・エルと対峙しているな。

 

 イーディスは相変わらず暗黒騎士を相手取っている。

 ファナティオさんとベルさんは別々の場所でプレイヤーの一掃を。

 

 人界とダークテリトリーの戦争から、互いの共通の敵を見て戦争の形を変えつつある。いい傾向だ。

 

(この調子なら、アリスを外に逃がすまでもない)

 

 果ての祭壇を使用することは無いだろう。戦争が終わり次第、シノン達をこの世界から排除すれば終わりだ。キリトが星王になる必要も無いかもしれない。

 

 そうなれば、俺がこの手でキリトとアスナを殺せば済む話だ。

 

 ベクタと戦闘を行っていた岩山から数分。戦闘時間を考慮に入れても二桁掛かっていない程で帰還した。

 数分離れていただけでかなり戦局は変わっているようで、追加投入のプレイヤーでかなり敵の数が増えてはいるがシノンとアリスがいる分そこまで押されていなさそうだ。いやアリス起きたんかい。

 

 犠牲者ゼロでは無いが……まあ許容範囲だろう。

 プレイヤーに囲まれて乱戦のようになっている。何人か知らない奴らも混じっているけどアイツら誰? まあいいか。

 

 人界の戦力は俺を含めた整合騎士のみでダークテリトリー全軍を圧倒出来るほどの実力差があった。

 しかし戦争の最終目的であるダークテリトリーとの対等な和睦に向けて制圧は控え、外の介入が起こり共通の敵が生まれるまでは俺は戦線に出ず、ベルさん達にもある程度力を抑えてもらっていた。

 

 その条件は既に満たされた。故に、俺も動く。

 

 上空から戦場を見下ろす。

 赤い鎧を纏った悪意あるプレイヤーを対象としてその数だけ熱素を生成。

 

 人界・ダークテリトリー軍の人間に被害が出ない位置にいる奴らから順に熱素を解放。鎧ごと頭部を爆発により吹き飛ばし即死させていく。

 やはりプレイヤー。死体は残らず、ポリゴンのような青いエフェクトと共に消えていった。気持ち悪。

 

 何百人という兵士が突然の爆死により消え、静寂が場を支配する。

 何が起こったのか戸惑う兵士たちと対称的に、アリスやレンリ、シェータ、イスカーンは俺の気配を感じてか知らずか、空を見上げ俺を見つけると安心したように微笑んで息を吐いていた。イスカーン、シェータとなんか近くね? お前ら出来んの?? 

 

「余計だった?」

 

「い、いえ。数の多さに押されていた所でした。ありがとうございます、レインさん」

 

「状況は?」

 

「はいっ。外から来た赤い武装集団とは別に、アスナさんの仲間の方々もこちらへ来られたようで助力していただきました」

 

 地上へと着地した後、こちらへ駆け寄ってきたレンリから状況報告を受ける。

 レンリが言うに、アスナ側の人間がログインして来たらしい。まあお約束展開だね。アスナやシノンのような神様アカウントではなく別ゲームのデータを移した感じだろうけど、戦力が増える分、また、外にも良い人いますよ的な認識が出来上がることは喜ばしいことだ。外との交流なんて考えてないけど。

 

 そして、敵勢力を一掃して追加投入まで僅かばかりの休息時間が出来ようという今、俺は存在するはずもない敵意を複数から向けられています。なんで??? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈

 

「それで? 俺に剣を向けてるように見えるアイツらがアスナ達の仲間って認識でいいのか?」

 

 オーグマー装着者を対象として茅場晶彦が引き起こした記憶改竄。

 

「なっ……この方は味方です! 剣を収めてください!!」

 

「ちょっとクラインっ、なんの真似!?」

 

 それは、『雨宮零にまつわる記憶の消去』ではない。

 この世界の真実に到達した茅場だからこそ実現できた、『正史の記憶と差し替える』という御業。

 

 結果的に雨宮零という存在は皆の記憶から消え去り、紺野木綿季が生きているということに関してのみ記憶を残して齟齬を無くした。

 

「シノン! そこを退け! そいつから離れろ!!」

 

「く、らいん……さん……?」

 

「アスナっ、お前なら分かるだろ! あの男!!」

 

 そして、その程度の行いで茅場晶彦が満足するはずが無い。

 到達者である茅場の性根は根本的に腐っている。彼は約一万人を巻き込みデスゲームを計画・実行した快楽犯(サイコパス)である。

 

「忘れねぇよ、あいつは……アイツらはっ!!!」

 

「ち、がう……ちがう、ちがうッ……彼は……ぅ、ぁ……ッ」

 

 彼は研究者である。

 故にこそ、オーグマーによる記憶改竄に、僅かばかりのスパイスを加えた。

 

『正史』という基盤を記憶に埋め込んだだけで彼は止まらない。その程度が彼の限界では無い。

 

「アイツらが、何人の人間を殺してきたのか……忘れるはずがねぇだろ!?」

 

「ちがう……やめ、て……こんな、記憶……ちがう、のに、ぃ……」

 

『この世界』と『正史』を組み合わせ、どちらにも無い記憶を作り出す。

 

 ────造作もないことだ。

 

 彼は、嗤ってこの計画を実行した。

 

「アイツは……ラフコフの────」

 

 自分の記憶を疑う人間など存在しない。

 

 故にこそ、彼らは到達者の思惑通りに、青年へと純粋なる敵意と殺意を抱く。

 

「Pohの野郎の、右腕だった────」

 

 弾丸は戸惑う。その光景に。仲間が恩人に剣を向ける異常に。

 

 そして、世界の姫(メインヒロイン)は壊れるのだ。

 レインとの接触により戻った記憶と、事実として存在する改竄の記憶との境界に挟まれ、どちらが本物なのか分からなくなった彼女は泣くだけだから。

 

 ────キミの選択の結果だ。

 

「【Zero(ゼロ)】だ……ッ!!」

 

 クラインとは違い、SAOでラフィンコフィンと対峙したことが無い者も、クラインの言葉を全て信じ剣をとる。

 

 レインを擁護するように動く存在がいるにも関わらず、クラインの言葉が正しいと確信しているかのように。

 

 その思考が全て、一人の男の思惑だと知らずに、彼等は無実の青年へと剣を向けるのだ。

 

「お前たち……ッ」

 

「やめてよ……なんで……なんでこんなこと……ッ」

 

 彼女達の言葉が通じることは無い。これは彼らの中に刻まれた常識になってしまっているから。

 

 空に浮かぶ雲が澱む。

 赤黒い光が大地を染め、風一つ感じない地上に緊張が走る。

 

 外からの協力者となるはずだった彼ら彼女らから敵意を向けられた男は、独り。

 

「あーはいはい────そういう感じね」

 

 憂うことなく、静かに剣を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 サチが死んだ。

 

 テツオが、ダッカーが、ササマルが死んだ。

 

 そして、俺の目の前でケイタが自殺した。

 

『お前のせいだ』

 

 怨みの言葉を残して、彼等は世界から命を消した。

 

「俺が殺した」

 

「そうよ。あなたが殺した」

 

 誰かを殺した。

 

 名前も分からない、覚えていない。

 ラフィンコフィンの誰かを、俺は殺した。

 

 この手で。殺すために、殺した。

 

 鮮血が視界を汚す。血腥い、鉄のような匂いが鼻を突き刺す。

 手のひらがびちゃびちゃと赤い液体が付着していて気持ち悪い。

 

「お前は何人殺したの? 何人救えた命を救わなかったの?」

 

 ────レインが、消滅した。

 

 俺の、親友。

 俺の失敗を補うために闘い、アイツは消えた。

 

 一度目の親友の死。

 

 嗚呼、そうか。

 この、手に付着している赤い液体は。

 鼻腔を破壊するような刺激臭は。

 足元を真っ赤に染めるドロドロとした何かは。

 

 二度目。

 

 ────雨宮零の死を目撃した。

 

 動かなくなった男の姿を目にした。

 泣き叫ぶ少女の慟哭を耳にした。

 

 何も出来なかった自分の手を見た。

 

 そして、その手を拭うことなく。

 

 ユージオが死んだ。

 

 鮮血を浴びた。

 最期の言葉は無かった。

 気がついた時には、アイツは俺の隣で死んでいた。

 

 手を伸ばせば届く距離で。

 あいつは、死んだ。

 

「泣き叫ばないのね」

 

「泣いてる姿が見たいのか?」

 

「……ああ、そう」

 

 冷たくなっていく、目の光が消えていくユージオの姿と、(レイン)の動かなくなった姿が重なる。

 

 冷たい……寒い。

 俺の身体が生命の熱を失ったように。手足の感覚は消えていくのに、血の温かさだけは感じてしまった。

 

「疲れた」

 

 無限に広がる死。

 俺が殺した……救えなかった死が。

 

 冷たい死に囲まれて、先の見えない空間に独りで座り込む。

 

「────疲れたんだよ」

 

 泣き叫ぶ気力なんて無い。

 叫べば何かが変わるというのなら叫ぼう。

 

 そうでないのなら、俺はもう、何もしたくない。

 

『お兄ちゃん』

 

「消えろ」

 

 誰かの声が聞こえた。

 

 暖かい、血の温度じゃない……包み込んでくれるような優しさを含んだ声が。

 

 その声に、煩わしさだけを感じて、俺はソレを遠ざけた。

 

『さっさと起きろ馬鹿男』

 

「消えろ」

 

 冷たい声が聞こえた。

 俺のことを気遣うことの無い、向こう事情だけを含んだ、命令口調な声が。

 

 そこに含まれている僅かな心配が気持ち悪くて、俺はソレを跳ね除けた。

 

『キリトくん』

 

「消えろ……ッ」

 

 太陽のような声が聞こえた。

 

 俺を想い、憂う……偽りの気持ちを乗せた声を。

 

 最大級の嫌悪感を乗せて、俺はその存在ごとソレを消し飛ばした。

 

「消えろッ、消えろッ!! きえろッッ!!!」

 

 誰かの声が聞こえた。

 

 偽りの声だった。

 優しさを含んだ声だった。

 好意を秘めた声だった。

 

 全てが気持ち悪かった。

 

『────立って、キリト』

 

 声が聞こえた。

 

 二人目の親友の声を。

 

 鮮明に、はっきりと。

 彼の声を認識して、なお、俺は。

 

「消えろ」

 

 その男の声を否定した。

 

『起きなよ、キリト』

 

「消えろ」

 

『不貞寝が長いなぁ。色々話し足りないことがあるんだから。会話してくれないと悲しいよ』

 

「消えろ」

 

『意地っ張りだね。知ってはいたけどここまでのは見たことがなかったからちょっと嬉しいよ。キミの新しい一面を知れて』

 

「……黙れよ」

 

 嗚呼、親友だ。

 

 間違いなく俺の親友だ。

 

 誰かが偽った姿、声じゃない。間違いなく、ユージオがそこに居る。

 

 死んだ人間。救えなかった親友。

 

「疲れたんだよ、俺は。もう放って置いてくれよ」

 

『嫌だよ。挫折を良しとするキミの姿なんて見たくないからね。僕は不可能に挑むキミが好きだから』

 

「不可能に挑んだことなんて無い……挑んだところで、不可能は覆らない」

 

 俺はそれを知ってるから。

 俺は『奇跡』を信じない。

 

「『奇跡』は、起きないから『奇跡』なんだよ」

 

『じゃあ、必然にしなよ!』

 

 叱責するようなユージオの声。

 俺は顔を上げることなく身体を寄せる。

 

 どれだけ彼の言葉に意味が宿っていても、俺は聞く気も起きない。

 

 早く消えてくれないか待つだけ。

 

『あの人はキリトの親友なんじゃないの!? キミは彼を救いたいんじゃないの!?』

 

 もう何一つ俺には響かない。

 どれほど重い言葉でも、意味の籠った言葉でも。

 

 もう諦めてしまった俺は立ち上がることの愚かしさを知っているから。

 何度も後悔して学んだから。

 

『……面倒くさいなぁ……キリトは……ッ』

 

 その声は、初めて聞いた。

 心底ウザそうに声を低くした、ユージオの声。

 

『僕以外にも一人親友がいるって聞いてたけど……キリトの中じゃ、やっぱりその人よりも僕は格下なんだろ』

 

「ああ」

 

『すんなり答えるなよ!?』

 

 別に序列をつける訳じゃないけれど。

 

 俺の中では、やはり、一番に俺を救ってくれたレインが一番の親友だ。

 

 けれどユージオも、それに劣らないほどに俺の中では大切な存在。

 

 もう死んでしまった、過去の存在。

 

『キミは僕の英雄だ』

 

 だからどうした。

 

『僕の中で一番の親友はキリトなのに。そんなキリトの中で、僕が一番じゃないのは……なんか悔しい!!』

 

「……は?」

 

『悔しい! 悔しいんだよ!! なんか、こう……負けた感が凄い!!』

 

「……何言ってんだよ、ユージオ」

 

『僕の名前を呼ぶのが遅い!!』

 

 子供のような癇癪を起こした親友の声に、思わず顔を上げてしまう。

 

 ユージオがそこに居た。

 顔も、姿も、俺の知るユージオだった。

 

 ユージオだけが、そこに居た。

 

『キリトの一番は埋まってるしっ、アリスの一番も知らない間に埋まってたみたいだしっ!! 劣等感が凄いんだよ!?』

 

 煩い。なんだこいつは。本当にユージオなのか? 

 

 分からない。一人にして欲しい。消えてくれ。

 

『だから……うん、だから────一番を、ひとつは貰おうかなって思ったんだ』

 

「……」

 

 俺の事を慰めるような事をこの男はしない。

 ただ、自分勝手に、欲求を満たすためにユージオはここに来たんだ。

 

 何かで『一番』になりたい、と。

 

 それがどんなに小さなものでも。

 

『キリトの剣────【夜空の剣】って名前にしようよ』

 

「────」

 

 レインは来ない。いつまで経っても、今の俺に駆け付けてはくれない。

 それがとても有難く、そして悲しくもあったけれど。

 

 ユージオからの言葉を受けて、いつの間にか帯刀していた黒い剣が光を帯びる。

 

 剣の名前を付けられただけなのに……俺の心は、何故だか浄化されていくような気がした。

 

『ずっと言いたかったんだけどね……即死しちゃったからさ。遅くなってごめんよ、キリト』

 

「ユージオ……」

 

 何処かの学校の制服は既に消えていて、俺が身に纏うのはSAO時代のフル装備。

 

 違う点で言えば、携える二本の剣だろうか。

 

『僕の、青薔薇の剣……使ってくれよ』

 

 目線を合わせることなく、上から見下ろしてくるユージオの表情は終始穏やかなものだった。

 

『ほら。キミの剣として生きていけるのなら、僕も誰かの『特別』になれたってことだろ?』

 

 違う。お前はもう俺の『特別』だ。

 そう言ってやりたいけど、俺の口が動くことは無い。

 

 何も言わない俺になにかするでもなく、ユージオは続けて言葉を紡ぐ。

 

『キリトの親友の一番は埋まってるからさ。僕はキミの剣として、右腕として……そうだなぁ……うん、そうだ』

 

 そして、初めてユージオは、座り続ける俺に向けて手を差し伸べてきた。

 

 満開の笑顔を添えて。

 

『僕はキリトの、一番の相棒枠に収まろうと思う』

 

 

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