相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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お久しぶり

自分の考える星王が強すぎて困ってきた




全て儚き夢の終わり

「雨宮くん? 雨宮くんっ!?」

 

「レイン!! 何が……何と戦ってるのですか!?」

 

 冷気が漂う跡地。

 

 欠けた支柱に付着している霜。

 地面には白い冷気が未だに残っていた。

 

 人の顔のような模様が浮かび上がっている樹木。それはキリトがヴァサゴを封じ込めたもの。

 既にキリトはこの場におらず、ここにいるのは赤い兵士を除いた人界側の騎士とクライン達プレイヤー。

 

 千に迫る兵士の全てを一瞬にして殲滅したキリトの、既に彼方へ消えた背中を見つめる者たちは、アリスとシノン、そしてアスナの様子を訝しげに見る。

 

 星が瞬く。

 

「おい! 誰か此奴を治療してやってくれ!!」

 

「叔父様……?」

 

 それは運命にあらず。

 人為的に定められたルート。

 

「えっ、みんな!?」

 

「ユウキ! あんたこっち来てたの!?」

 

「ユイ、ちゃん……?」

 

「ッ……ママ!!」

 

 二人の少女の気配を隠し、再会を遅らせる。

 

 ここに、条件は揃った。

 

「────嘘だろ」

 

 ただ一人。

 ベルクーリだけがそれを感知した。

 

 神器の性質上、時間と空間認識に長けていたからこその気づき。

 

「アリスっ、お前さん、レインから何か言われちゃいねぇか!!」

 

「は、果ての祭壇に行け、と……外に逃げろ、とは先程言われましたが」

 

「何やってやがる、さっさと行け!!」

 

 ベルクーリという男を知らない者も、知っている者も、その緊迫した現場に視線が集まる。

 シャスターの治療を行う妖精は、未だモヤがかかった記憶に疑問を抱いていた。

 

「レインがやられた」

 

「「「な……!?」」」

 

 レイン・シンセシス・トゥエニを知る騎士たちは、一様に驚愕に口を開いた。

 

「────────────は?」

 

 そして、彼に師事を受けていた少女にとって、その事実は、あまりにも。

 

「そんな……わけが……なに、を……」

 

「ちっ……シノン嬢!」

 

「……っ、はい!」

 

「な……シノン!?」

 

 有無を言わさぬように、シノンはアリスの脇腹に腕を差し込むとそのまま抱えて空へと飛ぶ。

 女神たるその身が許す限りの最高速度で、彼女はアリスを果ての祭壇へと運ぶために空を駆けた。

 

「離しなさいシノン!! レインが……あの人が負けるはずが……!!」

 

「黙ってよ!!!」

 

「ッ────」

 

「……黙って、よ……」

 

 瞳を濡らす少女は、弱々しく言葉を漏らす。

 

 彼を救うと誓った。それは今も変わらない。彼が死んだとは思っていない。

 

 それでも。

 

(茅場晶彦が言っていたことが、現実に────)

 

『アドミニストレータがキミのことを【撃鉄】と称する由縁を知りたまえ』

 

 それはかつて、到達者たる男から告げられたもの。

 自分が果たすべき役割。曖昧な表現を自分なりに解釈したシノンは、それが正解なのか分からず、けれど確かにしなくてはならないアリスの護送の役に徹する。

 

「レイン……にいちゃんは……にいちゃんは何処!?」

 

「は……あいつ妹が居たのか」

 

「答えて!! にいちゃんは何をやってるのっ!!」

 

 純白のドレスに身を包む剣神は騎士へと掴みかかり、探し人の安否を想う。

 

「ママ、ママ……」

 

「ユイちゃん……」

 

「……思い、出せてはいないんですね」

 

 歯車は廻る。

 全ての終着地点へ向けて。

 

 全ては運命。人為的な根回しも相まって、それらは予想できない方向へと向かっていく。

 

「ここらが、潮時か」

 

 自身の行動の過ちに気づかない者は、きっと後悔するのだろう。

 

 ソレに気がついた時、直面した時。

 

 その時が、愚者が死ぬ瞬間なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 レイン・シンセシス・トゥエニの戦闘スタイルは、簡潔に言うのであれば『初撃決殺』である。

 

 意図せず行ってきたそれは、圧倒的なまでの戦闘能力により実現されてきたもの。

 騎士になってから数十年もの間、レインが負った傷は片手で足りるほどにしかなく、そのどれもがかすり傷程度の軽傷。

 

 故にこそ、最強たる騎士に痛みへの耐性は全くと言っていいほどに付いておらず、レインは腕と脚の重傷による激痛を脳が処理出来ず、意識を落とした。

 

「……」

 

 数秒ともたずに決着が着いてしまった、この世界最高のマッチングバウト。

 

 その勝者たる星王は、しかし移動を開始することなく虚空を見つめていた。

 

 感情の失われた瞳に映し出されていたのは、何の変哲もないただの空間。

 

「結界を、張ったか……気絶する直前に」

 

 ローブにより見えなかった右腕をゆっくりと掲げ、体の前へと手を伸ばすと空間に波紋が生じた。

 四方百メートルを囲う球状の結界。

 

 それはレインが星王からの攻撃を受ける直前に無意識的に展開した鳥籠。

 

 対面した瞬間に理解した実力差によって、レインは星王との戦闘が時間稼ぎにしかならないと踏んでいた。

 

 瞬間的なものとはいえど、この結界を壊せるものは数えられるほどであり、破壊にかかる時間は膨大なものになるだろう。

 

 事実、この結界の完成度を見て、星王は感嘆の吐息を漏らす。

 

 星王は、触れた箇所から感じるシステムの複雑さに舌鼓を打ちながら、撫でるように右手を横へと移動させる。

 

 瞬間、無色透明だった結界が崩壊した。

 

「良い……結界だ……」

 

 表情の変化はなく、言葉の抑揚もまるでロボットのよう。

 そして、星王は視線を二点に向けた。

 

 何も無い、何も見えない箇所を見つめて。

 星王は、一人、宣言する。

 

「────桐ヶ谷和人と、アリスを殺す」

 

 世界への意思表明を。

 何より……真下で眠る男へと向けた言葉。

 

「リリース・リコレクション」

 

 その声が聞こえてきたのは、星王が顔を上げた時だった。

 

 ダークテリトリーの赤い大地、暗い空……その全てが、闇へと呑み込まれる。

 星王の視界には何も映らず、そして触覚の機能が停止した。

 

 闇が世界を侵食する。

 イーディス・シンセシス・テンにのみ許された絶技。【闇斬剣】の記憶解放術。

 

 敵味方の区別無く、自身以外の全ての対象を闇で包み込むという、説明するならばこの一文で完結する能力。

 

 しかしながら、その効果はアドミニストレータをして、「怖……」と言わしめた御業。

 

 淀みない闇は前後左右上下の景色を統一させ、平衡感覚を奪い、数秒と経たずに対象は地面をのたうち回る。無音の空間は聴覚を奪い、自分の身体すら見えない世界では触覚も意味を成さない。

 

 この記憶解放術を発動した後、約4.59秒で闇に呑み込まれた者は発狂を始め、トドメを刺す必要も無く命を落とすこととなる。

 

「ご……ぁ……」

 

 筈だった。

 

「正直……ベルクーリよりも、お前を脅威だと感じてはいた」

 

「ぶっ……が、ぁ」

 

 整合騎士たる紋章が刻まれた鎧を不可視の腕が貫通する。何かを握りつぶすかのような音が響くのと同時にその腕に貫かれた騎士、イーディスの口から大量の血液が吐き出された。

 

「ぅ……な……で……」

 

「自動迎撃システムは、あいつの専売特許じゃない」

 

 口に留まらず、両目から赤い涙が溢れ、神器は手から落ちて宙を舞う。

 

 無慈悲に、無情に、無感動に。

 星王は、心意の腕をイーディスの胸から引き抜いた。

 

 塞き止められたダムが決壊したかのように、イーディスの胸に空いた風穴から大量の血が噴き出す。

 不慣れな治療の神聖術の行使をするも、激痛と失血により脳が働くことはなく、視界が闇へと引きずり込まれていく。

 

 イーディスの奇襲に始まり、命を刈り取る一撃を叩き込んでから今に至るまで十秒と経たず、命の鼓動が消えていく騎士の姿を宙から見下ろしている星王は一人、感嘆の吐息を零す。

 

「『凍結延命(ディープフリーズ)』……死の間際で発動するようにプログラムされたもの、か」

 

 出血と共に大地へと身を投げ出したイーディスの身体が白く輝き、瞬きの間に靡く髪の毛すらも固まり、石像のような姿になるとその姿が消える。

 

 その仕様を、星王は一目見るだけで理解した。

 

 レイン・シンセシス・トゥエニが、整合騎士全員に施した措置。

 それは騎士達の同意を得ず、一方的に、知られることもなく施した延命術。

 

 術式を刻まれた対象が死の淵に立たされた時に発動されるディープフリーズ術式。瞬間的に肉体の機能を停止させ、時を止め、その身体をセントラルカセドラルの一室へと転移させるというものだった。

 

「本当に────」

 

 ドス黒い心意がまとわりつき、表情を隠す星王は何かを思い出すかのように一人つぶやく。

 あまりにも自然に、元々そこにいたかのように。星王はこの世界へと、完全なる顕現を果たした。

 

「────()()()()

 

 それは、星王が初めて見せた……この先、一度たりとも目にすることの出来ないであろう、明確な隙だった。

 

 その一瞬を、狩人は逃さない。

 

「裏斬り……!!!」

 

 レインとの研鑽にあてられ、昇華したベルクーリ・シンセシス・ワンの保有する時穿剣の『裏』。

 それは、任意の秒数の過去を斬るという、初見も既知も問答無用で断ち切る反則級の能力。

 

 ベルクーリと対面して一秒が経過すればそれは最早弱点の露呈となり、時間が経つにつれ、ベルクーリに対しての勝率は無へと近づく。

 

 アドミニストレータでさえ、回避不能の権能。決殺の一撃。

 

(────斬れねぇッッ!!)

 

 ベルクーリの心意は極まっていると言っていい。

 心意の鎧を纏うレインでさえ、無防備な状態であれば容易に切断される程にその斬れ味は極まっていた。

 

 故に、これは単純なる『格』の違い。

 

 星王が無意識的に垂れ流し、纏っている心意に、ベルクーリの全力が適わなかった……ただ、それだけの事だった。

 

「無駄だ」

 

 悪寒。そう形容してもなお生ぬるいと言えるほどの、死の予感がベルクーリを襲う。

 

 心意の太刀……整合騎士の一部が使うそれとは比べ物にならない程の、絶対切断の概念そのもの。

 空を覆う赤黒い雲が断ち切られた。その奥からこちらを除く宇宙。

 

「転移には、正確な位置情報の取得と計算が必要だ」

 

 たった一合。

 それだけで、整合騎士団長であるベルクーリは息が切れていた。

 この一瞬で、何度死の淵に立たされたのか。

 

「見様見真似で使ったのは賞賛に値するが……デメリットを受けるのは必然」

 

「はァ、はぁ……はっ。随分と口数が多いんじゃねぇのか……」

 

 レイン、そしてアドミニストレータが使用していた『空間転移』の使用。

 確実に命を刈り取る斬撃から逃れる手段として唯一の方法を、一か八かの状況でベルクーリは成功させて見せた。

 

 しかし、転移というものは緻密な計算の上に成り立っているチートである。

 故にこそ、使用経験のないベルクーリは、右腕が彼方の空へと消え去るという代償を、甘んじて受止めなければならなかった。

 

「────今は気分が良い……少し、話すか」

 

 ただの一度も剣を抜かない男は声色を変えることなく、そう告げた。

 

 一瞬たりとも警戒を緩めないベルクーリと対照的なまでに自然体で宙に浮かぶ星王は語る。

 

 一つの星の王にまで至った、憐れな男の人生を。

 




リーファちゃんはまだ生きてます
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