相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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今年中に完結すると去年言ってたアホがいるらしい。ワタシデス。

どうしてもガチガチの戦闘描写しないとダメなフェーズだからなぁ……アホみたいなレインくんを提供出来ないのがとても悲しい。

いつかは暴れさせるので。


希望の星

「つまらない末路ね」

 

 ────もうお前には、なんの興味も湧かないわ。

 

 そう言って、女神(アドミニストレータ)は俺の前に二度と現れることはなかった。

 

 全てを間違えた(レインが死んだ)日。

 俺は、脳内を廻る『後悔』と『絶望』によって始まってしまった現実逃避によって、ブツブツと独り呟く。

 

「ちがう、ちがう、チガウ、違う、ちがう……ち、が……ぅ、あ……」

 

 ガブリエルを打倒し、アリスはリアルワールドへと向かった。

 全て、万事解決だった筈なのだ。

 

 星が降るまでは。

 

「キリトくん」

 

 ああ、星が瞬く。

 一番星はあんなに遠いのに。どうしてすぐ近くにあるのだと錯覚してしまうのか。

 

「……アスナ」

 

 彼女の名前を口にする。

 もうこの世界には居ない男を想い続けた少女の名前を。

 

 一度は消えたとしても、魂に刻まれた想いは消えずにこの世界へと降りてきて、そうして記憶の回想へと至った奇跡の少女。

 

 俺は彼女に告げなければならなかった。俺の過ちを、大罪を。

 もう書き換えることの出来ない過去を。

 

 それを口にするのは容易くなかった。けれど、確かにそれを伝えるに足りる情報をアスナへと伝えた。

 あいつが居るのなら、と。この世界に残ってしまったアスナに向けて、無慈悲なる言葉になるのだとしても、俺は伝えなければならなかったから。

 

「……ええっ、と……」

 

 星が輝く。俺を嘲笑うかのように。

 

 俺の手を取ってきたアスナは、そのまま両手で包み込み、胸の高さまで手を持ち上げる。異常なまでに距離を詰めてきた彼女は俺の瞳から目を逸らすことなく、首を傾げる。

 

「『レイン』って……」

 

 その日、俺は世界に絶望した。

 全ての因果を否定した。

 

 現実が俺に押し寄せてくる。これが事実だと突き付けてくる。

 目を開いて、口を開こうとして、アスナの口を塞ごうとして……そんな思考の時間を許さずに、その女は口を開く。

 

「────誰のこと?」

 

 ────嗚呼、そうだ。

 

 俺は悟った。何が悪で、何が正義か。

 現実に裏切られ続けてきた俺が何を思うのか。

 

(────星だ)

 

 天を見上げる。俺を愛する彼女(ニセモノ)を腕に抱いて。

 吐息が耳を擽る。肌に寒気が走る。その全てを俺は耐えた。

 

 流れる星は命を散らすかのようにその姿を消していき、また新たな星が胎動する。

 

(星なんだ)

 

 全ては。

 

「星が悪かったんだ」

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈

 

 広大な大地。生命の灯火を感じない荒廃した赤土の上で、寒気がするほどの静けさの中星王は語る。

 

 己の旅路。

 

 己の悲願。

 

 長い、長い一人語りだった。

 

 実際に、数分間は語り続けていたのでは無いのかというほどに。

 

 レインやアドミニストレータほどでは無いにしても、治癒術を習得しているベルクーリが、消えた右腕の治療を完了させるには十分な時間だった。

 

「……つまり……なんだ────」

 

 乾いたそばから吹き出していく汗を拭い、歪んだ顔を無理やり笑わせてベルクーリは星王へと声を発する。

 

「お前は、あの坊主の成れの果て……ってか」

 

「……」

 

 ベルクーリの記憶に新しい、立ち上がった少年の姿。

 それは目の前に浮かぶ絶対者と瓜二つであり、その男が語った話から見てもそれは明らか。

 

 すなわち、キリトという少年の行き着く先がこの男なのだと。

 

「────アスナは扱いやすかった」

 

 ベルクーリの正解と呼ぶべき解答を聞き、星王は返答とも言えないものを語り始める。

 その瞳は暗く、黒く、淀みきっていて、ベルクーリを映しているかも定かではない。そこには、諦観が詰まっていた。

 

「造られた偽の感情を信じ、王妃として俺を支えようと身を粉にしてあの世界を生きてくれた。本当に────」

 

 ────馬鹿な女だ。

 

「ガッ……!!」

 

 空間が歪む。重力の設定の変更。

 星王が有する絶対権限をもってして、ベルクーリの身体は容易く地面へと叩き付けられた。

 

 動作の必要がない権利の使用。ノータイムで行われたそれに、ベルクーリは自身の身に降り注ぐ重圧に思考を割いた。

 

(重ッ、神聖術、違う、猊下が使っていた……!!)

 

 心意の鎧で身を守り、呼吸も難しいほどに張り付けられた地面から立ち上がろうとするも更なる重圧の増加に腕が動かない。

 

(なる、ほど……こりゃあ、誰も勝てん……ッ)

 

 存在としての格。覆りようのない差がそこにあった。

 

 時間稼ぎも意味をなさないだろう。星王はいつでも、どこからでも、アリスを処理することが可能なのだと理解してしまった。

 何故、意味もない会話をしているのか。それは本当に先程言っていた通り、気分が良かったからなのだろう。

 

 事実、星王は地面に這い蹲るベルクーリに目も向けず、語り続ける。

 もはやその音はベルクーリに届いていない。彼の声を聞くことのできる存在はここに居ない。

 

 それでも、彼は語ることをやめない。

 

「それで全てが変わる」

 

「────”裏斬り”……!!」

 

 心意の腕の応用。

 心意により生み出された透明な腕はその主であるベルクーリと同義であるという解釈により実行された時旋剣の固有能力の遠隔発動。

 

 重力の檻より抜け出せないベルクーリは、培われてきた時間感覚と空間把握能力によって星王が23秒前に居た地点へと時旋剣を振り抜いた。

 

 ガギンッ、と火花を散らして起こる金属音。空間が軋むような音の感触は、やはり今まで経験したことの無い硬度。

 過去の自分への剣撃を受けた星王は僅かに身体を揺らす。ペラペラと紡がれていた口が止まり、チラッと背後を見やる星王による重力の拘束が僅かに緩み、ベルクーリは転がるように檻から抜け出した。

 

(ダメージ無し……バケモンが)

 

 完全に虚を突いた一撃だった。不完全な状態でありながらも、全力の一撃だった。

 警戒をしていた様子も、備えていた様子も無かったのに、それでも星王の身体に傷ひとつ付いていない……否、星王の身体に触れることすら出来なかった。

 

 星王が見せていた隙。それは、自身を脅かす存在が居ないが故。

 

「神器の遠隔発動、か……面白い使い方だ」

 

 星王の背後に幾千ものエレメントが生成されていく。

 単色、混ざったマーブル模様のようなもの、二色で分断されているもの。

 

 小さな光の粒に内包されているエネルギーは計り知れず、ベルクーリは剣を構えながら目を見開く。

 

 それはまさに星々の輝き。夜空に浮かぶあまねく星々の清流(ミルキーウェイ)

 

 再度、認識する。

 

「……バケモンが……ッ」

 

 悪態のようなそれを吐き出さなければ、やってられないのだと。

 

 静かに、優雅に、悍ましく……星王は語る。

 

「少しは耐えてくれよ」

 

 この世界を跨ぎ、現実世界すら含めた【ソードアート・オンライン】という世界における最高権力者に匹敵する男はささやかな望みを口にする。

 

「この世界に来られた実感をくれ」

 

 星が瞬く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 目が覚める。感覚が曖昧だ。記憶が不透明だ。

 

 現状確認。冷たい大地。俺はぐったりとダークテリトリーの荒廃した土の上で這いつくばっている。なぜこうなった? 

 腕と脚の感覚がおかしい。立ち上がろうとしても身体が上手く動いてくれない。何が起きた? 

 

『眠れ────全てが終わるその時まで』

 

「────ッ」

 

 欠けた記憶が蘇る。失った熱が全身を駆け巡る。

 そして、俺の呼吸は乱れ、もがき苦しむこととなる。

 

「が……ァギッ……!!!」

 

 歯を噛み締める。身を縮める。身体を抱き締めるように。

 五体満足だ。それは間違いない。けれど、痛い。幻肢痛か、はたまた実際に受けた痛みがここに来てぶり返したのか。

 

 痛みも感じずに一瞬で意識を失った俺を、今更その痛みが襲ってくる。

 

 熱い。冷たい。痛い、寂しい。

 喪失感が、痛みが、熱が。目ではそこにあると分かってはいるのに、腕も脚も付いていないという錯覚に陥るほどに俺の脳は混乱している。

 

 この世界に来て初めての痛み。激痛。『死』の香り。

 

 他の騎士達なら耐えられただろう。けれど、俺には無理だ。こんなもの、一生に一度も味わいたくない。

 

「ふーっ、ふーっ、フーッ……!!!」

 

 脂汗が止まらない。口から泡状の唾液が溢れる。

 剣を振るい、命のやり取りを何度も行ってきたにも関わらず全て無傷に終えていたツケが回ってきた。

 

 こんなにも情けない醜態を晒す自分自身を俯瞰的に見て思考ができてしまう程のキャパはあるのだろうけれど、それにしても本命の思考が回らない。身体が言うことを聞かない。

 

(落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着けッ)

 

 膝を拳で叩く。何度も何度も心の中で言い聞かせる。それでも身体は言うことを聞かない。震えが止まらない。

 捩じ伏せられた身体が全快したとは言えど、痛みの記憶は消えない。何度も何度も反芻されて、無いはずの痛みが永遠と繰り返される。

 

 乾燥しきっている大地に俺の体液が染み込んでは消えていく。跡にも残らない僅かな水分。けれど、俺の顔はシャワーを浴びた後のようにビシャビシャだ。

 汗の不快感とか、口に入ってくる地面の砂の異物感とか。そんなものはどうでもいい。ただ、『死』が迫っているこの現状だけが離れてくれない。

 

 敵がいなかった。

 

 俺より強いのはアドだけだった。それ以外の存在には人界もダークテリトリーも関係無く勝てる程に俺は力を有していたから。

 それによる慢心? それもあるかもしれない。けれど、根幹は違う。

 

 俺は騎士としてあまりにも不完全だったのだ。腕と脚が潰されてこうなってはいるが、きっと指の一本を切り飛ばされても同じように転がってしまうだろう。

 

 何十年と騎士をやっていても、所詮は平和な世界で生きていただけのガキだったのだ。そこから大して苦労した経験も積まず、痛みを知らず。その結果がこれ。

 

(────まて)

 

 痛みに悶え、腹から絞り出すような唸り声しか出ない俺だが、ふと一点だけ疑問点が生まれた。

 ギュッ、と力を入れているため真っ赤な顔で、俺はチラッと視線だけを動かす。

 

(誰が俺の身体を治療した……?)

 

 全自動迎撃システムを含め、俺が無意識的に起動しているシステムというものはいくつかある。何度も何度も繰り返し行使してきたために、習慣化したことからフルオートに近い形での運用が可能となったものだ。心意の鎧などがこれに該当する。

 

 しかし、今は違う。

 これほどまでに心が荒ぶり、思考が定まらない状態で、治癒術を行使出来るはずがない。

 いや、そもそも神聖術や心意もブレブレなのでは無いだろうか。今の俺は文字通りの格好の餌食である。

 

 意識して治療した覚えもない。なのに、潰れたはずの腕と脚は元通りでそこにある。もっとも、感覚は麻痺しているがそれは俺の心の問題だ。少しずつ指先の痺れなどを感じ取れてきたから時間の問題だろう。

 

 周りを索敵。精度なんて終わっているが、それでも間近ならある程度は感覚で掴めるはず。

 

 ────ポワッ、と。

 

「……ゆ、び……?」

 

 感覚の無い俺の手に触れる形で転がっている指が一本……恐らく人差し指……があった。女性のような細さに見える、けれど指一本だけが落ちているのだから比較が出来ずに断言は出来ない。そんな指が、淡い光と温度に包まれながら俺の手に触れていた。

 

 ぴく、ぴくっ、と。

 ミミズのように脈動するその指は、確かに俺の身体へと何かを送り続けていて、血色が薄れていく。

 

 その指から送られてくる暖かみが俺の心を落ち着かせていく。腕の感覚はもう少しかかるが、思考は持ち直したと言えるレベルにまでは戻った。

 

 安定を見せた思考がたたき出したその正体を、口に出す。

 

「テラリア……リーファ、か?」

 

「────」

 

 指は答えない。口がないのだから当たり前か。

 ただ、ピクリ、と指が動く。少しだけ。関節を軽く曲げるような動きが肯定のように思えた。

 

 どうして俺を助けたのか。なんでここにいたのか。なんで指だけなのか。聞きたいことは山ほどある。現状についても問い質したい。

 けれど、もう役目を終えたと言わんばかりに、光と温度を失った指はサラサラと風化するように崩れていき、風に呑まれて消えていった。

 

「……」

 

 理由はわからない。けれど、考えるのはやめた。それ以上に対応すべき議題が残っているから。

 

 感覚が戻りつつある腕と脚を使って立ち上がる。プルプルと震える腕と脚は恐怖によるものか、はたまた緊張か。

 

「っ……イーディス────」

 

 俺が全騎士に付与していたプログラム。

 瀕死の重傷を負った際に、肉体そのものの時間を停止させるディープ・フリーズプログラムを自動的に対象へと使用し、その後にカセドラルの一室に瞬間転移させて匿うという延命プログラム。

 

 開発したは良いものの、そんな機会は一度もなく効果を実感できないでいたが、イーディスに付与していたプログラムが起動していることに気がつく。つまりは、イーディスが死の手前にまで立たされたという事実。

 

 イーディスは強い。正直バケモン。ダークテリトリー側にも相手はいないし、騎士内でも状況次第だが全員に勝てる素質はある。そんなアイツがやられたとなれば、相手はただ一人。

 

 星王。

 

「────嘘だろ」

 

 呼吸を整える時間も与えられない。

 震える身体を抑えることも許されない。

 

 俺は反射的に転移を実行する。目的は当然、星王が居る地点。

 いつの間にここまで離れた地点へと来ていたのだという疑問を凌駕する光景。

 

「……ブッ────」

 

 ディープフリーズ発動契機となる白い光。淡い白で隠しきれない程の赤を纏ったベルさんの瞳に光は灯らず、胸を透明な腕……心意の腕で貫かれた彼は心臓のようなものを握り潰され大量の出血を見せてから石像へと化した。

 マジックサークルのようなものがいくつか展開され、転移し消えるベルさん。

 

「……早かったな」

 

「────ッッッ」

 

 そして残されたのは、手こずった様子も疲労した様子も見せない漆黒の男。

 

 世界を見下ろすように天へと佇む世界の王。

 

 ソイツから放たれる気配、覇気、殺気、威圧。

 なんと形容すればいいのか言葉に困るそれらを受けて、刀に手を伸ばすが刀を抜くことができない。

 

 心意で押さえつけられている? 否。俺の身体が拒んでいる。

 覚えてしまった、恐怖。刻み込まれた痛み。

 

 逃げろ、と脳が叫ぶ。

 

「お前と話をすると……時間がいくらあっても足りなくなる」

 

 星王の背後が卑しく輝く。

 

 氷の小鳥。炎の鷲。風の龍。土の虎。光の槍。闇の蝶。

 

 一瞬で展開されたそれらが、今か今かと主の号令を待つように俺を睨みつけてくる。

 

 ゾクリ、と背筋が凍る。

 見ただけで分かる。精度が桁違いだ。

 

 あのどれもが、一撃で致命傷になると分かる。

 

「手早く済ませよう」

 

 そんな俺へと、星王は無慈悲にも終わりの宣告を告げた。




裏設定として。
この世界のゲーム版では、レイン君は一切出てきません。というか存在が抹消されてます。
ユーザー達は、アスナやシノンをキリトのヒロイン枠としてハーレム形成する目的なんだろうなぁとか思って納得してますが。
ちなみに、ゲーム内ではアスナはキリトのメインヒロイン級の立ち回りを見せてますが、シノンは一ミリもキリトに好意を向けてない。
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