相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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オリ主唯一のシリアス回(一瞬)
刮目せよ!!


シリアスはゴミ箱へってお母さんに習っただろ?

 きっかけはもう覚えていない。

 そもそも、これといったきっかけがあった訳では無いのかもしれない。

 

 けれど。

 

 気付いた時には、私は彼のことが好きになっていた。

 

 SAO内では比較的頻繁に会っていたから? 間の抜けた空気で素の私を出すことが出来たから? 

 分からない。私もどうしてこの人を好きになったのか。けれど、惚れた弱みというものか、彼以外はもう何も目に映らなかった。

 

 好きだ。そう言えたならどれだけ気が楽になるか。彼は私の好意に気付くことはなくて。彼から異性に対する好意を向けられることはなくて。それがとてももどかしくて歯痒くて。

 

 何度も、何度も。彼は危ない橋を渡りたがる。

 それはもう。そういう趣味? と聞いてしまうほどには彼は危険地帯を渡り歩いているんだ。

 

 何度も傷ついて、死ぬ危険に陥って。その度に、彼はニコリと笑って何事もないように私の前に現れて。

 彼は死なない。そんな全幅の信頼。なんの確証もない信頼を寄せてしまう彼の魅力。それは間違いじゃなくて、けれど間違いで。

 

 自惚れてたのかもしれない。現実を軽視していたとでも言うべきか。その時が来た時、私は現実を否定して、否定して。それでも覆ることの無い、戻ることの無い日常に思いを馳せて、絶望した。

 

 世界の全てがどうでも良くなった。何も楽しくなくなった。世界から色が、感情が、何もかもが消え去った。

 シロクロの味気のない世界。むしろ、この世界は私から全てを奪うのだと……何回死のうと思ったことか。

 

『────幸せになれよ、アスナ』

 

 だけど、それでも。

 彼の最期の言葉がそれを許してくれなくて。

 私を縛る、私が渇望する、そして私が縋る唯一のモノ。

 

 彼からの祝福は呪いになって私の身体を蝕んでいった。けれどそれだけが、その言葉だけが私の生きる理由。

 

「……ぁ、ぁぁあぁ────」

 

 死にたい。彼に会いたい。彼が居ないこの世界から消え去りたい。けれど彼の期待を、要求を、願いを。だから私は死なない。死ねなかった。

 

「────すき、なの…………」

 

 叶わない。決して叶うことの無いと分かっている私の願い。

 SAOで不変の日常と思っていたからこそ果たすことの無かった心残り。

 

 わかっている。もう遅すぎることを。その願いを果たすために必要な相手がもう居ないと、状況証拠の全てが物語っていたから。

 

「すき……すき────だい、すき……ッ」

 

 ────だけど。

 

 もし、仮に。ほんの僅かな可能性だとしても。

 

 私の愚かなまでに傲慢で、強欲で、ただの自己満足でしかない願いが、叶うとするのならその時は……貴方に、伝えたいことがあるから。

 

「レインくん……あなたのことを……愛して、ます────」

 

 寒さを感じる季節。

 

 窓から差し込む冷風が肌を刺激し、目覚めたばかりで聴覚も視覚もロクに機能していない私が病室のベッドに一人。

 

 いるはずの無い。けれど確かにそこにいる彼を抱きしめながら、私は想いを叫んだ。

 

 ────ほんのりと、桜の香りが鼻腔を突き抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈◈

 

 はーい、血盟騎士団所属(自由)のレインです。

 

 アスナが俺達と行動しすぎとかよく分からん難癖をつけてヒースクリフがキリトに決闘を申し込んでいました。

「欲しければ剣で、二刀流で奪いたまえ」を生で聞き興奮しているところ、キリトは「いや……別に、どうぞどうぞ」という謎のスタンス。あーン? おめぇアスナと離れていいのかァ!? というイレギュラーが起こり、よもやキリトの血盟騎士団加入兼ヒースクリフって茅場なんじゃねフラグがばっきり折れてしまうのでは、という俺の懸念。それはヒースクリフが続けて俺を人質にした瞬間解決した。

 

「ならば、キリト君が決闘を断るのであればレイン君を私の専属とし、自由行動の一切を制限しよう」

 

「今すぐ闘いましょう」

 

「「早っ」」

 

 俺の衝撃はもちろんのこと、ヒースクリフにその驚きの声を出させるとはさすが16連撃は違ぇぜ。というか俺よりアスナを大切にしてあげて? キミの未来のお嫁さんが掛かってるのよ? どうぞどうぞとは? 

 

 アスナをダシにしていた時とは遥かに違う気合いの入れよう。瞳から炎が出てると勘違いしてしまうその熱気。こいつもこいつで何があった? あと、アスナさん? 時々俺の手触るのやめな? なんのお巫山戯なのかな? 

 

「それでいいかな、レイン君?」

 

「どうぞご勝手に」

 

 極論、勝っても負けても俺は今まで通り。キリトが加入するかしないかの差でしかないから俺の許可の有無なんて最初から関係ないものだろう。俺としても、自分の知っている通りに世界が動いてくれる方が終末までの道筋をなぞることが出来るため有難い。

 

「キミのような特異な存在を賭けているんだ。私も少々、本気を出さねばならないね」

 

 意味深な発言。けれど僅かな違和感しか二人には与えない遠回しな言葉。特異……血盟騎士団で唯一の特別扱いであり、ソードスキルの一切を使用しない変わり者。そう捉えているはずのキリト……そして、読者か。ファンサービスも旺盛だな茅場さんは。俺という存在の異質性を一言だけで伏線にする茅場さんには適わねぇぜ。

 

 ヒースクリフの……血盟騎士団団長の本気がどれほどのものなのか。そこに焦点が当てられるはずのワンシーン。そこを上手くついたミスリード。マジでこの世界が原作になっている世界が存在するのでは、と疑いが強まるばかりである。

 

「てやんでい!」

 

「え、どうしたの? 頭大丈夫?」

 

 とりあえず巫山戯てみた。他意はない。けれど隣に立つアスナが俺の手を握り本気で心配するような目を向けてきたことにはさすがに堪えた。羞恥心ってダメージあります? 

 

 ていうかなぁ……この子の手ちっちゃくて柔らかくて普通にドキドキするからやめな? 勘違い野郎量産機になっちゃうぞ? 

 

「大丈夫大丈夫。こう言わないとダメな気がしたから言ってみただけ」

 

「そう? ならいいけど〜」

 

 掴んだ手は離さなくて。むしろ少し密着してきてる気がしないでもない。友達との距離感バグってるなこの子。同性ばっかりだったから男との付き合い方分からないパターンか。教育しなさいよキリト君。

 

「では、すぐにでも始めるとしよう。闘技場で待機していてくれたまえ」

 

「頑張ってぇ! 団長〜!!」

 

「お前はこっちの味方であれよ!? あとその声気持ち悪いからやめろ!!」

 

 全力の萌え声でヒースクリフへと声援を浴びせる。キリトからは不評だったようだ。顔色がとても悪い。失礼な、俺の萌え声は世界に届くんだぞ。その証拠に、見ろ! 

 

「可愛い……やばい……すきぃ……」

 

 俺の隣で悶えるアスナの姿を!! 

 

 ……いや、これはこれで怖いな。リアクションが過剰だ。これからは控えるか。

 

「キリトとアスナは闘技場に向かっといてくれ。俺も後から行く」

 

「そうか? 分かった。後でな」

 

 二人が退出した後、俺はヒースクリフに対する用件を済ませる。それはほんの少しで終わるもので、ただの確認事項ではあったけれど。

 

 そして数時間もせずに訪れた決闘本番。

 

「無様に負けて来い!」

 

「お前のために闘うんだけどな?」

 

「いや〜、ほら? お前ちょっと勝ちすぎなところあるし? ここら辺でボコボコにされた方が見栄えも良さそうじゃね?」

 

「お前に負け越してるんだよこっちは……」

 

 サムズアップして声をかけるも疲れたようにツッコミを入れるキリト。負け越してるって言っても一回か二回だろ? 変わんねぇよそんなの。まあ俺が勝ち越してるんですけどね!! 二刀流とはやったことないから分かんねぇけど! 

 

 俺とアスナは参加者が通る道から会場を見守る。いわゆる特別席と言っていいだろう。観客席はいつの間にやら人が増えている。半分NPCか? それにしてもすごい数だ。こんな人数の前で勝負するとか普通に吐きそう。がんば。

 

「レイン君はどっちが勝つと思うの?」

 

「ヒースクリフ」

 

「即答だね。どうして?」

 

 片や、ユニークスキル二刀流という最高火力の挑戦者。迎え撃つのはユニークスキル神聖剣という絶対防御を誇る変幻自在の剣。それを見るただの刀使いの俺。ユニークスキル何処ですか? 

 

 茅場はSAOという世界の創造主。ソードスキルの作成に携わり、中でも二刀流は気合を入れて作ったそうだ。思い入れかは知らないが、ソードスキルのパターンは全て頭に入っているためヒースクリフ戦の鍵になるのは己の剣技のみ。ソードスキルは敗北を誘うものとなる。

 現状、ヒースクリフが茅場だとキリトは気付いていない。だからソードスキルは多用するだろうし、その勢いのままに初撃は与えられるかもしれない。

 

 それでも、原作通りに進んでしまうのだろう。

 

「まだ勝てないよ、キリトは────今じゃないってやつだ」

 

 そう、今じゃない。今は敗北のターンだから。

 システムのオーバーアシストを使わせるかどうか。その違いしかないだろうから。

 

「団長は強いからね。キリト君も十分すぎるくらい強いけど……私は正直、どっちって断言できないかな」

 

 アスナの呟きを聴きながら、俺は今後の予定を脳内で確認する。

 かなりハードだ。けれど楽しい。直近で俺が為そうとしていることは褒められたことでは無いのだろうけど、それを除いてしまえばこんなにも楽しみだと思えるものがこの1ヶ月には詰まっている。

 

 あと1ヶ月。

 

 この世界がクリアされ、そして俺が消滅するまでの時間。

 現実世界に肉体があり、ナーヴギアを介してこの世界に入っているという望みは薄い。おそらく皆無と言えるだろう。今なお行われているキリトとヒースクリフの決闘で巻き起こる土煙の粒一つ一つを認識できるグラフィックはSAOにないものだから。

 

 けれど、不思議と恐怖だとか、喪失感だとか、そんなものは感じていない。

 まだこの世界を現実と認識できてないのだろうか。それも少しはあるのかもしれない。

 それ以上に、今この時、瞬間が俺の思い出に刻み込まれていく。毎日最高を更新していくこの感覚……キリトという親友、アスナという友人。シリカ、エギルさん、クライン……この繋がりが出来ただけで、俺は満足してしまっている。

 

「……あっ! ……負けた……?」

 

 キリトが敗北し、ヒースクリフが剣を突付ける。本日の幕はこれにて終了。

 やはりキリトの攻撃速度は異常。ソードスキルを加味しても、それ以上の力を発揮しているとしか思えない。俺がキリトに勝ち越しているのはただレベル差ありきでの話だけ。

 

 そして、ヒースクリフはシステムのオーバーアシストを使用したようだ。おそらくキリトはその違和感を抱きながら最終戦に挑むはず。

 

 ここからの立ち回り。主に最終戦。俺の最後を飾る舞台。華麗に、滑稽に、満遍なく。彼らの記憶に少しでも残るように。

 

「──────クハッ」

 

 嗚呼、気分が上がってきた。ハイってやつかな。今ならなんだって出来そうだ。なんだってしたい。最期が近づいてきているのを肌で実感する。人生で一度経験するかどうかのこの感覚、しかし存外悪くはない。

 

 自分だけで完結するこの境地。外部の干渉を嫌うこの瞬間。

 手を出されては興ざめ。俺の、そしてキリトとアスナの旅路を妨げる奴は何人たりとも許す事は出来ないから。

 

 二人の隣に俺の姿は無いのかもしれない。けれど、この世界にいる間だけは、俺は二人の間に入って行けるはずだから。

 

 

 ──────だから……なあ? 

 

「ひいっ!? なんで……なんで麻痺が効かねぇ!?」

 

 俺達よりも一回り歳上だろう(ゴミ)を見下ろす。相も変わらず無様で滑稽で、目障りな姿。

 この場にいるのは俺とキリト、目の前にいるゴミと、異変を察知し急速にこの場へと向かってきているアスナの4人。

 

 クラディールとキリトの仲直り(笑)の引率に俺が立候補。原作とは異なる組み合わせによる郊外学習、そして芽ばえる強い絆……そんなものは一切ない。

 

「囀るなよ、ゴミが」

 

「ぐぶっ」

 

「ラフコフと運良く接触出来て、仲間と認められて、必要とされてると感じて嬉しくなったのか? お前なんかただの捨て石としか思われてないから自意識過剰も大概にしとけよ」

 

「グィイ!! ……ぎ、ぎざまぁぁあああ!?」

 

 俺のプレイヤータグがオレンジに変化する。プレイヤーを傷つけた際に一定のラインを超えると起こる処置。そんなものを気にするほど、俺は今の状況で冷静じゃないのかもしれない。

 

「黙って引き篭るのなら見逃したけどよ……お前さぁ。調子に乗るのも大概にしろよ、ゴミが」

 

「ッ、ダメ────!!」

 

 未だ麻痺状態が続き転がるキリトを介抱するように状態異常解除のポーションを与えるアスナからの叫び。それを確かに聞き入れ、そして意味も理解した上で十分な時間を使い、俺は刀を抜刀して目の前で抵抗を続ける男の首を撥ねる。

 

 肉を断ち切る感触。気持ちのいいほどに抵抗なく進んでいく刃。空気を切り裂く音と共にはね飛ぶ頭部。血液は一切出ることなく、切断面だけはリアルではなくぼかしが入っているのは一体どういう仕様なのだろうか。

 

 顔を歪めながら刀を鞘へ収め、目の前でポリゴンへと砕けていく男の姿から目を逸らす。けれど、自分でも驚く程に、殺人に対する拒絶感が無かった。

 

 殺害の予定は無かった。牢屋にぶち込めればそれでいいと思っていた。

 けれど、実際に出会い、会話し、そして実行に移されたところでもう俺は止まることは出来なくて。そんなものはただの言い訳だと分かっているから。

 

 キリトとアスナの顔を見れない。2人はきっと、俺に対して恐怖しているから。なんの躊躇いもなく首を撥ねた俺の行動を忌避するだろうから。そんな二人を、見たくないから。

 

 反転し、歩き出す。ストレージをスライドし、転移結晶を見つけ出し取り出そうとしたところで後ろから軽い衝撃と共に前に手を伸ばされ抱き締められる。

 

 誰が、なんて聞くほど俺も馬鹿じゃない。こんなことするのは一人くらいだろう。

 

 俺を抱きしめる腕は怖いくらいに優しくて。包み込むような慈愛を向けられているのだと感じてしまった。

 

「……私の、せい?」

 

「は────?」

 

 けれど、僅かな振動が伝わってきて、震える声が木霊して。

 思わず聞き返し、振り向いた先に涙ぐんだ彼女の姿。もう何度目だろうか。涙を流す彼女の姿を目にするのは。

 

「私が、キリト君とレイン君の跡を追ってきたから……それが分かってたから、危険だと思ったから……そうだとしたら、私……私の、せいだね……」

 

「違う」

 

 違う。アスナの言葉は見当違いもいい所だ。俺が殺した。俺がムカついたから、だから殺しただけなのに。どうして彼女は自分のせいにするのだろうか。

 どうして俺のために涙を流してくれるのだろうか。

 

「俺の独断。その理由にキリトもアスナも居ない。俺が感じ、俺が判断して殺したんだよ……だから、離して」

 

「やだ」

 

「やだ、ってお前……」

 

「やだ。離さないよ。絶対に離さない……キミを一人にしない……違う」

 

 抱きしめる力は強まって。密着した彼女の体温と鼓動が伝わってきて、冷めた俺の心を温めてくれるような感覚を覚えた。

 

「────私を置いていかないで」

 

「────ッ」

 

 それは、その言葉は。

 決して守ることを約束することは出来ないその言葉。

 

「────レイン、ごめん」

 

「お前は、謝るなよ」

 

「じゃあお前が謝れ」

 

「……言うようになったな、キリト」

 

「誰かさんのお陰でな」

 

 そうだ。俺がシリアスになってどうなる。今すぐ明るくなれとかは無理だとしても、明日からは平常運転に戻らなければ。

 

「レイン」

 

「どした?」

 

「今日は、アスナと過ごせ」

 

「……………………わかっ……………………た」

 

「溜めに溜めたな」

 

 この世界が第二の生、つまり現実だと認識する俺と、創作物の中だと認識する俺が混在している。

 それは良いか悪いか。少なくとも罪悪感を薄めたその要素はどちらとも取れるもので、きっとこの先その天秤は崩れていくだろう。

 

 この天秤が瓦解した時。

 それがSAOクリアまでに起きるとしたならば、俺はどうなってしまうのか。

 赤く染まったプレイヤーネームを見て、俺は息を吐く。

 こういうところを見ても、ゲームの要素だと思ってしまううちは、問題ないのかもしれないが。

 

 

 時を進めよう。

 いつまでも引き摺る様を見せても意味は無いのだから。クラディールについての後悔は一切ないが、二人の前で殺してしまったという懸念はそうそうに拭ってしまわなければならないだろうから。

 

 だから、少しだけ時を進めよう。

 

 

「ここ!! ここにしようよ!!」

 

「なーんで?」

 

 俺と二人で住むために探してきたという家の内見に向かった、その少し先まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パパ!! ママ!!」

 

「パパはあっちの黒いお兄さんだぞ?」

 

「おまっ……」

 

「キリトくーん……ちょっと、いいかな?」

 

「俺は悪くないだろ!?」

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