当作品は、樽見京一郎先生の著作『オルクセン王国史 ~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~』の二次創作品です。ネタバレになる部分がありますので原作本編読了後に読んでいただけますようお願いします。

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第1話

「アスカニアの地上に、太陽が出現した。それは二度に及んだ。」

 

ディネルース・アンダリエル女王が述懐するように、2度の核兵器の使用を以って第二次世界大戦は終結を迎えた。

だが、その太陽は星欧諸国の恒久的な平和への曙とはならなかった。

 

オルクセンの身から出た錆ともいえる、ヴルカン半島の混乱。

共産主義国と資本主義国の対立による永きにわたる冷戦。

 

その中でオルクセンはまさに「ハリネズミのように武装」し続けなけらばならず…

軍備の増強維持、戦術の研究と研鑽に明け暮れることになる。

 

その研究と研鑽には…

 

第一次大戦後から延々と、「オーク族の機械化歩兵への転換」が含まれ続けていたが…

 

今宵も、その発案は幾数十度目の挫折を迎えようとしていた。

 

内燃機関の発達により、ガソリンエンジンはより小型に、より大きな馬力を発揮するようになったが、それでもやはりオーク族の巨漢ぞろいの兵員を十分数、戦場に運ぶには車格が大型にすぎ、他の軍用トラックと規格が合わなかった。

 

かとって従来の軍用トラックにオーク族を乗せれば、台数が膨大に膨れ上がり、車列が長くなり…かつて、空軍幕僚のコボルト族がもらしたように「的に過ぎない」状態になってしまう。

 

…だが…戦闘能力の高いオーク族を前線に素早く送り出せない、となれば、いわばオルクセン軍そのものの損失ともいえる。

 

「M七八」会議室におけるオルクセン軍の自由討論の場で、暗澹たる雰囲気の中、とあるオーク族が自棄を起こしたように発した冗句が空気を変えた。

 

「いっそ、空でも飛ばしてみますか!」

 

苦笑と失笑が漏れる会議室の中…

 

「なるほど、それは盲点でしたな…早速具体的な検討に入りましょう。」

 

にこりともせず、真顔でそう応えたのは…

 

ベレリアント戦争の折、大鷲軍団に所属した現場叩き上げの元航空兵のコボルト族・シュナウザー種の空軍大佐であったと伝えられている。

 

まず、候補に挙がったのはエルフ族・コボルト族で実験的に編成されていた、航空機から落下傘で降下する空挺部隊へのオーク族の編入だった。

 

エルフ族・コボルト族だけでも落下傘降下は手探りの状態であり…オーク族が安全に降下できるための落下傘はどれほどの面積を要するものか、そのような大型落下傘では横風により、目的地までの到達ができないのではないか、降下しての展開に至るまでの訓練にどれほどの時間を要するものか…

 

そのような検討が軍内で行われていた矢先…

 

「オーク族の自重を支えられる資材を開発できるかわからない」

「国民であるオーク族の兵士の命を預かる以上、生半可な可能性で開発ができる、とは返答いたしかねる」

と、落下傘の主要資材であるパラコードを生産する国内の化学繊維メーカーから辞退が相次ぎ、空挺部隊への編入は早速暗礁に乗り上げた。

 

オーク族の兵員を空に飛ばすためには、落下傘を使用せず、いかなる戦場に対応するため、滑走路もできるだけ使用しないような航空機が望ましい。

 

そのような好都合の塊のような、夢のような航空機が…

 

 

…隣の国、アスカニアで産声をあげた。

 

回転翼機である。

 

オーク族の空挺部隊化のために回転翼機に一縷の望みをつなぐオルクセン軍と、回転翼機の汎用性に目を付けたヴィッセル社との間で利害が一致。特許を買い取り、合同出資によるオルクセン連邦初の回転翼機メーカー「カンパナ社」が誕生する。

 

この回転翼機、生産してみれば瞠目するほどの汎用性を秘めており、遊覧・気象観測・報道・富裕層の都市間移動などなど…作れば作るほど需要を生み出し、またオルクセンの国民性ともいえる「凝り性」なところを発揮し、高められた安全性と、顧客のニーズに事細かに応えることで、あっという間にカンパナ社は星欧諸国を代表する回転翼機メーカーに成長する。

 

そして、その利益を大幅に開発費に費やし…ついに、オルクセン軍の要求スペックを満たす大型軍用輸送回転翼が完成する。

 

CN9Z大型回転翼機、「フリーデンシッター」。

 

最新式の過給機、スーパーチャージャーを搭載したエンジン4基で大型ローター2つを回転させ、オーク族の兵員数を十分輸送しえ、さらに馬力に余裕を持たせた設計思想により、30mm機関砲2門の搭載さえ可能にした。

 

キャメロット語で「ピースメーカー」と名付けられたこの機体だが…オルクセン国内ではその名で呼ばれることはほぼなく、後継機も含めて愛称「ディッカーマン(太っちょ)ヴルスト」として親しまれた。

 

…あまりに形状が酷似していたためである。

 

「…まったくよ、オレらオーク族を空に飛ばそうなんざ、いったどこの馬鹿がかんがえたんだろうなぁ?」

 

その「ディッカーマンヴルスト」による初めての実践出撃の直前…空挺隊隊長のオーク族の牡の大佐が電子無線を通じ、緊張を解そうと発した冗句は…回線がオープンとなっていたため、操縦席に座っていた機長のコボルト族・ピットブル種にも聞こえていた。

 

「…そのために大鷲族に引き合わされた我々の先達もそう思っていたと思いますよ。」

 

 その言葉は皮肉めいてはおらず…どこか「改めてようこそ、空の世界へ。」と歓迎するかのようでもあった。

 

「ディッカーマンヴルスト」はその後も活躍を続け、機械化歩兵となったエルフ族兵員より素早くオーク族兵員を前線に展開させ、制空権下では機銃掃射による地上軍への痛打も行った。

それはまさに…かつての騎兵の花形「騎兵突撃」の威力そのものといえた。

 

「戦場にいち早く駆け付け、一番槍をつける。」

 

アウグスト・ツィーテン上級大将の、オーク族騎兵という夢は…

 

回転翼機という天馬を得、ここに完成したのである。 


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