ボンバーバトル黎明期のボンガ世界に転生しました。 作:ハニボン
コーヒーは豆よりも淹れ方で味が決まる──らしい。
抽出温度だの、蒸らし時間だのと語れるほど詳しくはないが……少なくとも雑に淹れられた一杯と丁寧に淹れられた一杯の違いくらいはわかるつもりだ。
湯気の立つカップを手に取り、俺はゆっくりと口をつける。深煎りの苦みはあるが、舌に刺さるような尖りはなく、後味は驚くほど穏やかだった。
香りは強すぎず、派手さはないが、毎日飲むにはちょうどいいかもしれない……そんな評価が自然と浮かぶあたり、初来店であるこの喫茶店のコーヒーを俺は一口で気に入ったみたいである。
コーヒーを堪能しながら俺は添えられていたクッキーに手を伸ばし、深く考えずに口に運ぶ。ざくりとした歯触りは心地よく、焼き加減も悪くない……のだが。噛み進めるうちに舌の上に広がるのは甘さではなく、濃く、丸いコクだった。
バターとは違う、どこか発酵を思わせる旨味と、微かな塩気。クッキーというより、何かを塗って食べる前提の味に近い。クッキーの認識と程遠い味に一瞬、脳が味覚から与えられた情報を理解することを拒んでしまった。
俺は無言でコーヒーを口に含み、舌を落ち着かせた。すると様子をずっと見ていた店主の女の子が期待の眼差しで俺に話しかけてきた。
「ね? どうかな? 新作クッキーの味は!?」
紫陽花色のドレスとリボンで結んだ金髪ツインテールが特徴的な少女──喫茶店『ファンタジアン』の店主・マドカが、笑顔で感想を求めてきたのだった。
「う、うーん……なんていうか……とっても個性的……かな……?」
歯切れ悪く俺は感想を口にする。最初にクッキーだと思って食べて、食べてからクッキーじゃないと脳が拒絶して、やっぱりクッキーと制作者から直々に言われて絶賛脳がバグりまくったせいではっきりと言えなかった。
「一口ほおばると口に広がるクッキーのサクサク感と、クリーミーな味噌マヨネーズのハーモニー! 最近の中ではかなりの自信作よ♡」
自信満々といった様子でマドカはクッキーに使われた隠し味を明かす。この子、料理のさしすせそ*1をご存知ない……!?
正直に言えばまずいの一言なのだが……俺にとってのまずいとは本当に食べれないというものがまずいというもので、このクリーミークッキーは決して……百歩譲って食べれない、というものではなかった。きつくはあるが。
コーヒーをもう一口飲んで、今度は心を落ち着かせる。……うん。本当に美味いな、コーヒー。良くも悪くもクッキーの強すぎる個性がお互いを際立たせる、そんな相互作用が生まれてしまっている。癖になるというか……それを狙った戦略効果にさえ思えてしまっていた。
「マドカ〜? ちゃんとレシピ通りに作るべきですの〜?」
でもやっぱり流石にレシピ通りにした方がいい、と俺より先に助言したのは、対面に座っている緑髪お姫様の銀河系女神ガール・メロンであった。クッキーを一つほおばりながら隠すことなく顔を顰めていた。
「ええ〜? なーんか普通に作るとクッキーの神様が降りてこないから、あんまり作る気がなぁ〜。……あっそうだ! もう一つ新作があるから、それも食べてみてよ! これには砂肝と酢とイカを混ぜてあって────」
そんなありがたい女神の神託を意に返さず。事前に作り置きしてあったのだろう新たなクッキーの皿を持ってきたマドカの表情は、裏のない純粋さが伝わるほどの満面の笑みを浮かべていた。
メロンさん、新しいクッキーでしてよ。わたくしはこのクリーミーな方のおクッキーがあるのでそちらはメロンさんがお食べになって……好き嫌いは良くないですよメロン、皿をこちらに寄越すのをおやめなさい。お願いせめて三分の一くらいは食べて。流石に……流石にこの2種類は俺でもきついから……!
共に笑みを浮かべながらクッキーを押し付け合う俺とメロンの攻防が、店内の一角で繰り広げられていたのだった。
●~*
俺とメロンが今いる喫茶店『ファンタジアン』はツインビーシリーズのメインの舞台である有人島──どんぶり島のタンポポタウンにある個人経営店である。
なぜ俺たちがマドカの店に──どんぶり島にいるのかというと、一言でいうならメロンに連れて来られたからである。
二時間前、プリボムとパニシスのライブが終わってボンバー楽屋にて労いにいった時だ。そういえばメロンが俺に話があると言われたのを思い出してそれを振ってみたのだが──。
「それじゃあ場所を変えますの〜」
とメロンはいつの間にか手に持っていたハンドベル────レインボーベルを翳し、軽く振って鳴らした。
すると視界は一瞬で切り替わり、室内だったボンバー楽屋にいたはずの俺とメロンは、見知らぬ海の浜辺に立っていたのだ。
……こういう非現実的なことにあった時って、マジでなにも反応できないもんなんだな。ここはどことか何を言ってるかわからねえが……みたいなお決まりのリアクションすら思い浮かばかった。
「下民ちゃん、ここはどんぶり島ですの! メロメロのレインボーベルで、ワープしましたの〜!」
俺が言葉を失っていると、メロンがこの不可思議な状況を一言で説明してくれた。
レインボーベルとはメロンが回復スキルなどでよく使っている印象があるもので、元ネタはもちろんツインビーシリーズのゲームステージに流れているアイテムであるのはツインビーファンならばもちろん知っているだろうし、実装当時遊んだことのない俺でもなんとなく察していた。
ボンバーマンガの方では寒さを遮断するために使用されたり、調子に乗ったプルーンをボコボコにするために大人になろうとして顔だけデカくなって失敗したりと……マンガ内の描写こそギャグでしょーもないことにしか使っていないが。逆に言えば雑に使っている万能感とメロンのキャラ設定というカタログスペックだけで見るなら、本物の力だと俺は思っている。
宇宙の平和を司る女神・メローラの思念の一部を分裂させて生まれたメロンは、たとえ分身的存在であろうと本物の『神様』なのは間違いないのである。
とにかく女神パワーがすごい! という何ができて何ができないのかよくわからないアバウトさしか感じられないかもしれないが、メローラ姫自身も軽いフットワークでメロンに直で説教するためにワープしたりしているので、今みたいに一緒に簡単ワープできてもおかしくないのである。
とんでもないなとは思うが、狐につままれたような感じであまり実感できていないのが正直なところである。それに……大事なのはそこじゃない。
「えっと、メロン? 話があるとは聞いていたけど、どうしてこの島に……?」
「下民ちゃんに来てもらいたいところがありますの! お話はそこでしますの~!」
youは何しにこの島へ改め、なんでわざわざこの島で? と問うてみると、メロンは変わらぬ笑顔で答えてくれた。ただ要点のみの答えで少し違和感を感じたので目的地を聞いてみたが、「ひ・み・つ♡ 着いてからのお楽しみですの~」と軽く流されてしまった。
はぐらかしてる……? いや、それにしては前世と同じイメージ通りのきゃぴきゃぴした様子というか、なにか隠し事をしているようには見えない。なんだろう、重要な話なのかそうでもないのかよくわからないな……。
まあもうワープしてきてしまったし、悩んでいても仕方が無いだろう。メロンも目的地で話すと言っているので、その時にわかるはずだ。そもそもメロンの申し出を断るなんてことは、よほどのことじゃなければしないのだから、疑いを持つなど不敬になってしまうだろう。
決まり切った結論を自覚しながらさっそく向かおうかと提案してみると、メロンはにっこりと目を細めた笑みで首を横に振った。
「そこに行く前に……下民ちゃんにどんぶり島を案内してあげますの〜!」
というわけで、突発でメロンとのどんぶり島ぶらり散歩旅が始まったのがニ時間前の出来事であり、メロンの案内でどんぶり島の様々な場所を見て回ることとなった。
海辺近くにあるチューリップ村から始まり、映画やドラマなどの撮影現場として使われるリース城スタジオ、パステルたちが通っているデザート中学校、ミスコンなどのコンテストやコンクールが主催されるビガロホール、島内最大の遊園地・マドラーランドなど……とにかくいろんな所に連れていかれた。
とはいえ場所や建物を外から見るだけのもので、中までは入らなかった。マドラーランドなどはメロンがすごく一緒に行きたがっていたが……流石に時間が足りないのであえなく断念。また次の機会ということになった。
そして一時間半ほど歩き回って疲れたので少し休憩しようと、タンポポタウンという町にある喫茶店『ファンタジアン』で腰を落ち着かせていたというわけだ。
そういえば急にワープして楽屋に残されたモモコ達は心配してない? 大丈夫? と疑問に思うだろう。
もちろんメロンと散歩が始まる前に一報だけでも入れておこうスマホを起動したのだが……メロンがレインボーベルの力を使って、電源を落とされてしまったのだ。さっそくしょーもないことに神様パワーを使ったメロン曰くもう既に連絡済みであり、「偉大なる女神たるメロメロが優先ですの~」と少しわがままに言っていた。
う、うーん。それならいいのかな……? 信じるしかないし疑うとかはないが……なんていうか、メロンからの俺への好感がちょっと高いように感じるんだよなあ。
気のせいかもしれないし俺の勘違いかもしれないが、シロのような天真爛漫な近い距離感とはまた違ったものがメロンから感じられた。具体的にどこがとかうまくは説明できないけど……。
「ほらほら、下民ちゃん? この道を進むですの~」
「あっうん。こっちだね? ……一応聞くけど、大丈夫? もし体勢がキツかったら言ってね?」
「
今みたいに、抱っこしたメロンの案内してもらっている状況とかだろうか。
現在、休憩も取れたのでそろそろ目的地に向かおうということでメロンを抱っこして歩いているところである。
そう聞くとマドカの店から出てこの状態になったように見えるかもしれないが……実はこれ、島に着いてからずーっとこの状態で案内されて一緒に散歩デートしていたのだ。
最初に抱っこを要求された時はビビったし、いくら知り合いとはいえ流石にこれは事案的な意味でよほどのことなので初めは断ったのだが……涙目で「してくれなきゃこの星滅ぼしますの〜……」と訴えられてしまえば断ることなどできなかった。
滅ぼす云々はどこまで本気かわからないけど、ガールに涙は撃破絵以外似合わないぜ……というわけで了承したのだが、それを聞けたメロンはケロッと涙を引っ込めていつもの無邪気スマイルに戻って「わ〜い!」と腕を広げていた。狡猾なメスガキの片鱗を味わったぜ……。
そんなわけでメロンを抱っこしたままどんぶり島観光したわけだが、抱っこしている時のメロンがなんというか、すっごい甘えてくるのだ。
俺の胸に頭を預けて無言でじっとこちらを見つめてきたり、ふと視線を向ければうっとりとした表情で微笑んだりと。ボンガオタクの俺からすると幸せ過ぎると言いたいが、初めて会って数時間もしていないのにこの好かれ具合は流石に疑問に思う方が強かった。
いや……案外こんなものか……?
ゲームでのメロンを思い出してみると、そういえば負けた時のセリフに抱っこの要求をしていた。プレイヤーに対する好感度の高いセリフも甘々なイメージがあるので、よく考えればそんなにおかしくはないのかもしれない。
あんまり女性の年齢の話をするのは良くないが、1万と17歳(おいおい)とはいえ幼女の見た目相応の振る舞いをしている……とは思う。
考えれば考えるほど腑に落ちてはきたが……その、あんまりくっ付かれるとメロンの凶悪なメロンが押し付けられるから、距離感だけはもうちょっと考えて欲しいかな! 嬉しいけどセクハラにならないか心配しちゃうから!!!
「あっ下民ちゃん! 見えてきましたの!」
己が煩悩と葛藤に悪戦苦闘していると、メロンが身を乗り出すように見えてきた建物を指した。その指先を追うように目を向ければ――そこには遺跡があった。
石造りの入り口に、その向こうには洞窟に続く道が口を開けていた。ここからでは中まではよく見えないが、淡い緑の光が漏れているのがわかった。
「ここが……メロンが俺に来てほしかった場所?」
「そうですの。ここはメローラ神殿! 母様の祭壇がある場所ですの!」
俺の疑問に答えると、メロンが抱っこの状態からおろしてと頼んできたのでゆっくりとメロンをおろすと、メロンは俺の手を取って「中に入るですの!」と導く。
────メローラ神殿ってことは……。
入る途中、横に倒れた石柱の裏に
外からでもなんとなく見えていたが、中は思っていたよりも明るかった。淡い緑の発光の正体は神殿の壁全体から発せられるもので、その手の分野や知識がある科学者ではないので詳しくはわからないが、何か特殊な鉱石か自然現象によるものではないかと考察した。
そして神殿内部の構造は単純で、まっ直ぐに進むだけですぐに最奥へと到着することができた。
最奥は広場となっており、5本の柱が連なった場所があり……おそらくこれがメロンが言っていた祭壇なのだろう。一緒に祭壇の前まで行くと、メロンがそこに向かって声をかけていた。
「母様~メロンですの~! 下民ちゃんを連れて来ましたの~!」
メロンが祭壇に向けて高らかに声をかけると、祭壇の中心に集まるように、光が満ち始めた。
「────お疲れ様です、メロン。大分寄り道していたようで、随分時間が掛かったようですが……今は良しとしましょう」
声が響く。麗しさと優しさを帯びた声音であり、自然と肩の力が抜けるような感覚がした。
声は集う光から発せられており、その光はやがて形を結び、一人の女性──女神となって、静かに姿を現した。
蒼い宝石が埋め込まれたティアラに、純白のドレスを着こんだ姿はまさに国のお姫様の姿であり、緑の長髪がどこまでも美しく靡き、それらすべての要素が気品に溢れさせて、彼女の存在感を強く物語らせていた。
「砂色ユキトさん。初めまして、惑星メルの女王をしているメローラと申します。あなたにお話があって、メロンにお願いしてここまで来てもらいました。驚かせてしまったかもしれませんが……落ち着いて聞いてもらえればと思います」
丁寧に、優しくこちらを気遣ってくれる彼女こそがメロンの母にして女神──惑星メルの女王・メローラ姫が今、俺たちの目の前に顕現していたのであった。
・マドカのクッキー
全部は食べきれなかったのでテイクアウトした。一応正直に客に出すにはやばいからレシピ通り普通に作った方がいいとアドバイスはしておいた。なので次からは身内にのみオリジナルクッキーを振る舞うようになったと、後にパステルから青い顔でユキトに伝わるが……それはまた別の話。
・神殿とメローラ姫に対するユキトの反応
神殿の名前聞いたらそりゃメローラ姫だよね、ということでユキトはあんまり驚いていないけど、ビッグネームだしそんなお方から話があるということでちょっとビビってたりする。
次回はメローラ姫との会話回。それとツインビーRPGのネタバレありです。
毎度ガールの元ネタのゲームの話書いてると、タグ追加するべきか? って悩んでます。ガッツリ絡むのは今のところ書くつもりはないけど、必要かな……? 次回書いてから考えます。
ボンバーマンシリーズタグは中盤以降から付けるつもり。