86-エアプサンマグノリア共和国物語…… 作:聖女マグノリアオルタ
星歴2139年。
東方の隣国ギアーデ帝国が突如として周辺国全てに宣戦を布告。完全自律戦闘機械〈レギオン〉による侵攻を開始した。
レギオンの侵攻に追い詰められた共和国政府は大統領令第6609号に基づき戦時特別治安維持法を施行、共和国内に居住する有色種(コロラータ)を敵性市民と認定して市民権の剥奪を決定。
政府の真の目的は明白だった——有色種をスケープゴートにし、戦争による資源不足の問題を解消すること。さらに、自国民(白系種)に兵役や増税の負担を課すことなく、戦時体制を維持するための都合の良い法案だった。
本来であれば、共和国の国民は法案を容認。
政策により兵役や増税が回避されると「人道的」な措置として賞賛すらし始めるようになる——はずだった。
戦時特別治安維持法施行日当日。
レギオンとの戦闘で壊滅的な打撃を受けた軍の残存勢力が、突如クーデターを決行した。
白系種も、有色種も入り混じる国を守るために命を捧げることを厭わない軍人たちは、政府が自らの市民の権利を踏みにじるのを黙って見過ごすことができなかった。「国民の権利を侵害する政府に対して蜂起することは、国民としての最も神聖な義務である」と、彼らは立ち上がった。
サンマグノリア共和国第一区、共和国首都リベルテ・エト・エガリテ。
その白亜のメインストリートは、異様な緊張感に包まれていた。
混乱する市民たちのざわめきが、広場に広がっていく。
その中に突如として、澄んだ声が響き渡った。
———かつて偉大なる我等の先祖は、人類史上最良の政体を初めて実現しました。
その声は街中、いや、国中の全ての通信を乗っ取り、まるで人々の心に直接訴えかけるかのように響いた。
最初は疑念を抱いた市民たちも、次第にその感情を忘れ、ただ聞き入るしかなかった。
———しかし、今、その最良の政体の運営を任されている者たちが、その誇りを失い、自由と平等、博愛と正義の精神を忘れ、過ちを犯そうとしています。
ホロスクリーンの街頭テレビに映し出されたのは、一人の少女。
月のように輝く銀色の瞳が、静かでありながら力強い決意を宿していた。ツインテールの髪は、まるで白銀の絹糸のように滑らかに揺れ、彼女の全体が聖女のような神々しさに包まれていた。手には共和国の五色旗を掲げ、その旗は祝福の風を受けて高々と翻っている。
———ゆえに、私は立ち上がりました。かつて、愚かな王政によって人々が破滅への道を辿らされようとした時、立ち上がった勇気ある先達のように!
その姿を見た瞬間、共和国の人々の中にある存在が重ねられた。
"聖女マグノリア"。
かつて王政を打倒し、共和国を築いた革命の象徴であった。彼女は白銀の髪と、勇気に満ちた美少女として、共和国市民にとっての理想的なヒロインそのものだった。
———現在の政府は、大統領令第6609号に基づいた戦時特別治安維持法によって、共和国の全ての有色種の人権を剥奪しようとしています。これは、奮戦するも虚しく邪悪な帝国主義者によって壊滅させられた我が軍の代わりに彼等有色種を戦場に送り込む為です。
とはいえ、少女の言葉に惹きつけられている人々も最初から少女の言葉に全面的に賛同した訳ではない。
何故なら、市民(白系種)の大半は戦時特別治安維持法に賛成だったからだ。
現在の敵軍に追い詰められた逼塞した状況下で、誰もが不満の捌け口を必要としていたからだ。
そして、不満の捌け口として有色種は、人類史上最良の政体を初めて実現させた自分たちこそ最良の種だと信じて疑わない彼等白系種にとってこれ以上なく最適だった。
だが、画面に映し出された少女——かつて男だったプライドを全力で投げ捨てて革命の聖女という道化を演じている彼女にとっては違った。
———腐りきった政府は彼等有色種を要塞の建造と配備予定の新兵器〈ジャガーノート〉に搭乗させ、レギオンと戦わせようとしています。そして、政府はこう言うでしょう。〈ジャガーノート〉こそ、人的被害を完全にゼロにする先進的かつ人道的な兵器であると。
少女——レイラ・バーンスタインの判断基準は「自分が生き残るためにどれだけ役立つかどうか」ただそれだけだった。肌や髪の色など、彼女にとっては二の次だったのだ。
ゆえに自分たちこそ大陸で最も優れた優良種だと信じて疑わず、いつもこちらの足を引っ張る無能より、人工知能や新型動力炉、新兵器を開発してくれる有色種の方が遥かに素晴らしい存在だった。
———しかし、真実は違います。あえて言いましょう。政府が投入しようとしているジャガーノート……アレはカスであると! アレは我等共和国民の誇りを愚弄する政府や議会に巣食う者たちが保身の為に作らせた、ただのアルミの棺桶です!
むしろ、将来肉盾にもならず邪魔にしかならない現政府や議会の白豚たちこそ最も罵声を浴びせたい相手だったのだ。
———かつて人類史上最良の政体を初めて実現し、大陸のあらゆる民族に優越する誇るべき共和国の力をもってすれば、本来、最良で最強の兵器を用意することができます。実際、我等の叡智は邪悪な帝国主義者の尖兵を凌駕する人工知能を、我等の高貴な血の滲む努力によって邪悪な帝国主義者の尖兵を凌駕する兵器を生み出すことが可能です。
そこで、レイラは自身の洗脳じみたカリスマの異能を用いて、
———しかし、このままでは愚かな政府によって我等の叡智と血の滲む努力の結晶は握り潰され、我等人類史上最良の政体を初めて実現し、大陸のあらゆる民族に優越する誇るべき優良種に相応しくない兵器が配備されてしまうでしょう。我等が自由と平等の為にと収めた税金を着服することで堕落し、我等の博愛と正義と高潔に満ちた心を踏み躙る現政府は、共和国の正義の為ではなく、自己の利益の為……懐に入る裏金の額しか意識しないからです。
人類史上最良の政体を初めて実現し、大陸のあらゆる民族に優越する誇るべき優良種(笑)がレギオンに負けている全責任を現政府へと押し付けた。
———考えてみてください。人類史上最良の政体を初めて実現し、大陸のあらゆる民族に優越する誇るべき優良種である我等の軍が何故邪悪な帝国主義者の尖兵たちに敗れたのかを。それは、全て現政府が堕落し、軍事費を中抜きすることで我等の矛と盾を腐らせてたせいです!
レイラにとって現政府はクソみたいな法律とクソみたいな兵器しか配備しない足だけ引っ張る使えないクソみたいな存在だった。
———このままでは、私たち自由と平等、博愛と正義と高潔を愛する真に優れた共和国国民も堕落した現政権の愚かさによって破滅させられるでしょう。そして、私たちの父祖の地は、邪悪な帝国主義者の尖兵たちと、その後に進駐してくる邪悪な帝国主義者によって蹂躙されてしまうでしょう。
だから、レイラはせめてクソみたいな現政府に、最後に役に立って貰うことにした。
共和国市民の誇りと怒りを刺激するような言葉で、共和国市民の意識を自然と捻じ曲げるような言葉で、レイラは市民たちの怒りを見事に利用し、有色種に向けられていた矛先を現政府へと転化させた。
———どうかお願いします。現政権の横暴を止める為、共和国の破滅を防ぐため、邪悪な帝国主義者の尖兵から父祖の地を……そして、帝国主義者の尖兵によって虐げられている世界を解放する為に……どうか、私、レイラ・バーンスタインと革命軍に力を貸してください!
こうして、レイラのカリスマが人々の心に染み渡り、瞬く間に共和国国民を扇動することに成功した。
もはや一種の洗脳である。
結果———
俺たちは最良の政体を初めて実現した共和国の民!
私たちこそ大陸のあらゆる民族に優越する最良の種よ!
そんな我々が邪悪な帝国に負けることなどあってはならない!!
だというのに。
何故我々は負けている?
何故我々が追い詰められている?
そんなの決まっている。
俺たちの聖女が。私たちの革命の乙女が。
全部教えてくれたじゃないか。
邪悪な帝国主義者に我等の父祖の土地を奪われたのも。
多くの同胞が邪悪な帝国主義者の尖兵に殺されたのも。
今、苦しく辛い思いをしているのも……。
全部、現政権のせいだ!
かくして———
「革命だ……」
誰かが呟くように言った。
それが、たまたま演説を聞いていた一般人の声なのか、クーデターを起こした軍が密かに用意した扇動する為のサクラの声だったのかはわからない。
「そうだ、俺たちは革命の聖女マグノリアに選ばれし誇り高き革命の民……!!」
しかし、その微かな声は確かに共和国の人々に芽生えていた革命の意志を着火させることに成功していた。
「サンマグノリア共和国万歳! 五色旗の下に集え!」
「自由と平等、博愛と正義と高潔を表す共和国の魂……」
「そうだ! 革命の正義は我々にある!!」
瞬く間に、その革命の炎は共和国中に燃え広がった。
再び革命の意思に目覚めた、かつて最良の政体を初めて実現した自称大陸のあらゆる民族に優越する白系種たち。
彼等はクーデター軍から渡された武器を手に一斉に政府施設へと雪崩れ込んだ。
また、戦時特別治安維持法によって隔離されるはずだった有色種の人々も、自分たちの自由と権利を守るため次々と革命に参加した。
星歴2139年。
サンマグノリア共和国にて大規模な革命が発生。
本来なら革命を鎮圧する役目を担うはずの軍が全軍革命に参加していたこともあり、政府中枢は即座に革命軍によって掌握された。
その後、新たな革命の象徴であるレイラの父ジィーン・バーンスタイン共和国軍大将を暫定大統領とする第二共和制政府が樹立。
戦時体制への移行を宣言した第二共和制政府初の大統領令によって旧大統領令第6609号に基づいた戦時特別治安維持法の施行は取り消し。前大統領及び施行に賛同した議員たちは全財産を没収され、85区外に新設された政治犯収容刑務所へと移送された。
そして、議員たちから没収した資産は全て共和国製の無人兵器の開発費に充てられることとなった。
また、白系種、有色種を問わず結成された革命軍がそのままレギオンから祖国を守るべく共和国防衛部隊として軍に編入され、レギオンの足止めに尽力。
後に共和国軍がレイラ発案の試作機第一号を量産し、戦場に投入した可変機構搭載高機動型有人多脚機甲兵器〈アレクサンダ〉を操り、レギオン相手に猛威を奮った。
そして、二年後の星歴2141年。
ついに最良の政体を初めて実現した大陸のあらゆる民族に優越する共和国国民の多大なる資産と偉大なる叡智を投じて共和国軍が開発した、レイラ発案のレギオンを殲滅する為の共和国産主力自律機械無人兵器——新型動力炉と新型装甲と新型兵器を搭載した〈天使〉の名を冠する最強の完全自律無人戦闘兵器及びその無人随伴機群が満を事して実戦配備された。
エアプサンマグノリア共和国産兵器その1
可変機構搭載高機動型有人多脚機甲兵器〈アレクサンダ〉
通常の多脚機甲兵器(フェルドレス)と同じ四足歩行形態(インセクトモード)と人型形態(ファイターモード)への変形機構を備えている。
豊富な武装バリエーションと機動力が魅力。
元ネタはコードギアス亡国のアキトに出てくるナイトメアフレームの〈アレクサンダ〉。