あいあむちょび髭、画家を目指す   作:ジャーマンポテトin納豆

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前線にて

 

 

 

バウン……!バウン……!バウン……!バウン……!バウン……!バウン……!

 

塹壕陣地の、待避壕の中で思い思いの休息を取っていたところ、遠くから大砲の射撃音が聞こえた。

備え付けられているベッドから身体を起こし、耳を澄ませる。

継続して聞こえてくるその砲声は我らが頼れる15.5cm榴弾砲や、8.8cm高射砲、7.5cm対戦車砲などではなく、ソ連軍のものだった。

 

長い間、前線にいると敵味方の銃声や砲声、航空機のエンジン音まで聞き分けられるようになった小隊長は大声で叫ぶ。

 

「……Angriff!」

 

置いてあったシュタールヘルメットを被り、Stg34を引っ掴む。

砲撃音の大きさから、弾着まで10秒ちょっとしか無いだろう。

 

待避壕は小隊司令部も兼用しているから通信機器も有線、無線両方が十分に備え付けられている。

すぐに中隊司令部に情報を上げるために当直の通信兵の元に駆け寄る。

すると同時に周さ着弾し始めた。

 

ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!

 

断続的に着弾するが、精度は悪く衝撃や炸裂音が遠い。

陣地より100mか、150mは離れた場所に落下してきているようである。

塹壕の中に身を隠していればなんて事は無い距離だ。

 

「中隊司令部に通信!敵砲撃音が聞こえ、現在着弾中!口径は恐らく76mm!」

 

通信兵から離れて外に出る。

やはり精度が悪いらしく、火力は集中しているがかなり手前に砲弾は落下しているようだ。

陣地の120m手前で炸裂音と爆炎が闇夜に光っている。

 

「上級司令部からは、敵が野砲を運び込んでいたなんて情報は来ていなかった筈だが……」

 

「何日か掛けて、偵察大隊の連中の目も掻い潜って夜に運び込んだんでしょうか?」

 

「分からん。だがすぐに反撃が始まるだろう」

 

「……おっ、言ったそばから我らが砲兵隊の反撃ですな」

 

小隊付き軍曹が後ろの、陣地後方に展開している15.5cm榴弾砲の砲撃音を聞き分けて振り向く。

ドイツ軍にとっての戦場の女神が、静かな夜を破った不躾なイワン共に砲火を一斉に開いた瞬間だ。

 

ドイツ軍には主力火砲として15.5cm榴弾砲が配備されているが、軍団直属の砲兵隊には20.3cm榴弾砲が配備されている。

海軍の重巡用主砲を流用したものらしく、最大射程が35kmもあるらしい。配備数は少なく、基本的に敵の重防御陣地やトーチカ、要塞相手に運用されるらしく今まで見たことがない。

 

 

双眼鏡を覗くと、ソ連軍の砲兵がいるあたりに次々と味方の砲弾が降り注いでいる。確か、あの辺りは森が広がっていたはずだ。あの中に野砲を隠していたんだろう。

幾ら頭のおかしい偵察大隊の連中と言えど、森の中に突っ込んでいくことはしなかったらしい。

突っ込んだら四方八方から袋叩きにされるから当然か。

 

何時間か分からないが、警戒態勢を取ったまま味方の砲撃が撃ち込まれるのを眺める。

 

「いつまで続くんですかねぇ……」

 

「いつ終わるか分からないのはいつものことだろう」

 

「それはそうですが、寝ている時に叩き起こされるのは気分が良いものではありませんからなぁ」

 

先任下士官が欠伸を噛み殺しながら言う。

夜だから誰だって眠いのは当たり前だ。私だって眠い。

 

「私だって寝ていたんだ、私を含めて歩哨以外の奴は文句の10個や20個ぐらいはある」

 

味方の砲撃が始まってから、ソ連軍の砲撃は見当違いな場所に偶に飛んでくるぐらいだ。

すると、遠くからロシア語が聞こえて来るのが分かった。

 

辺りはまだ薄暗く、かろうじて夜明けとも言えなくはない時間だ。

良く見えないが双眼鏡を覗くと多数のソ連兵と10両ほどのT-34が突っ込んでくる。

何故か先頭にソ連国旗を掲げた奴がいるが、あんな目立つものを何故だろうと何時も思う。

 

「敵歩兵及び敵戦車!射撃用意!オーフェンローア、射撃準備!」

 

やたらめったら主砲を撃ちながら突っ込んでくるT-34相手に有効な火器はパンツァーファウストかオーフェンローアしか無い。

対戦車砲は配備数が少なく、上手く射程に捉えられるか分からない。

Ⅴ号戦車も後方から来るのに10分か15分は掛かるだろう。

 

幸いオーフェンローアは有効射程が150mもある。

小隊に配備されている5門で一斉に射撃すれば1発ぐらいは当たる。

 

「砲兵と迫撃砲に支援射撃要請!」

 

小隊からの連絡を受けて、すぐに中隊の迫撃砲小隊と師団砲兵隊が突撃してくるソ連兵に向かって砲撃を始めた。

敵の規模は2〜3個大隊ほどであろうか、数だけは立派だが砲兵との連携が甘いからこんなタイミングで突撃してくる。

 

曳火射撃で次々に空中で炸裂する15.5cm砲弾は半径150m内のソ連兵を次々に物言わぬ肉塊に変えていく。

 

炸裂の中心部にいた奴は運が良い。一瞬で死ねるので苦しむことがないからだ。

だが生き延びた奴は手足が千切れたり、浴びた破片の痛みや苦しみを味合わなければならない。絶命するまで苦しむのは想像すらし難い。

運良く次の砲弾で死ねるソ連兵もいるだろう。

 

それでも前進を続けるのは後ろに控える督戦隊に対する恐怖心からだと、軍から配られる情報誌には書かれていた。

ソ連兵は忠誠心や愛国心からでは無く、共産党に対する恐怖故に戦っているのだ。

後々に家族も含めて味方に殺されるぐらいなら敵に突撃する、という事らしい。なんとも哀れな事だろうか。

 

情報誌には敵の兵器の情報など、戦うのに必要な情報が山ほど載せられている。

敵兵の置かれている肉体的状況から心理的状況、鹵獲兵器の取り扱い方法、敵の陣地のパターン、攻撃パターン、陣地や兵器の弱点など様々だ。

アレさえ読んでおけば生存確率が上がるとさえ言われるドイツ将兵にとっての聖書とも言えよう。

少なくとも将校は全員が必ず読むように命令されているのだから、その重要性が窺える。

 

何はともあれ、全員が配置に付いて射撃命令を待つ。

MG34の有効射程は弾のバラつき具合などから700mとされているが、引き付けられるならば200m前後まで引き付ける事が推奨されている。

 

「オーフェンローアとパンツァーファウストは射程に入り次第射撃開始!他の火器は別命まで待機!」

 

ギリギリまで引き付けて、突出したT-34に対してオーフェンローアとパンツァーファウストが一斉に火を吹いた。

今のところ、この2つの兵器には対戦車弾頭しか無いのだが、噂によると対人榴弾の開発も進められているとか。

 

先頭のT-34、1輌にオーフェンローアが、2輌に対してパンツァーファウストが命中し撃破される。

あの当たり方では本来なら撃破にはならない筈であるが、慌てたのか、怯えたのか分からないが乗員が戦車から飛び出て逃げていく。

運の悪いソ連戦車兵が、乱射しながら突っ込んでくるT-34戦車に機銃で撃たれて倒れた。

 

戦車に対する攻撃は20分も続き、殆どのT-34が撃破されるか擱座してからようやく追い付いた歩兵が陣地正面300mに迫る。

 

「MG、Feuer!」

 

MG34が射撃を始める。

この間にも砲弾はソ連兵の頭上に降り注いでいて、ソ連兵達は正しく弾雨の中を前進してくる。

 

敵兵の距離が150mを切ったところで、Stg34も射撃を開始した。

射撃の基本は単発射撃だから狙って撃って、を繰り返す。

トリガーを引く時は極力優しく引く。でないと雑に引くと狙いがブレて命中しなくなる。

 

「弾をくれ!!」

 

「ディッカー!」

 

「Ja!」

 

「弾薬箱を機関銃座に持って行ってやれ!」

 

「弾運びですね、任せてください!」

 

小隊の弾薬庫から、弾薬箱を4つ、首に弾薬ベルトを3本もぶら下げて塹壕の中を走っていく。

弾薬箱はアルミ製であり、中には150発のベルトを2つ入れられるが1個あたり9.4kgになる。

そうなると弾薬箱4つで37kgにもなる。

それに加えてベルトを3本もぶら下げて行くなんて50kg近い重量だぞ?全く、ディッカーの力には呆れるばかりだ。

 

数分すると、ディッカーは息を切らして戻ってくる。

 

「弾薬、もっと持っていきます!」

 

「クリストフ!手榴弾箱を持って行って配ってこい!」

 

「Ja!」

 

ディッカーが弾薬箱を担いで、クリストフは手榴弾が入っている木箱を担いで走っていく。

手榴弾箱は中が厚紙で1個毎に厚紙で区切られており、M35卵型手榴弾が30個入る。

炸薬量200g、殺傷範囲は17m。

安全ピンと安全レバーの二重安全装置があり、ピンを抜いただけじゃ起爆しない。安全レバーを離さないと起爆しないからだ。

安全レバーは赤、青、黄、緑と4色あり、起爆時間が違う。

赤は10秒と長く、青は7秒、黄は4秒、緑は1秒と分けられている。

赤や青は主にパチンコみたいな道具を使っての遠距離への投擲や敵トーチカの空気孔に投げ入れたりして使う。

黄は人力で投げる時に使い、緑は主にブービートラップに使う。

指向性対人地雷より加害半径は小さいが簡単に設置出来るから我々の主な戦闘となる防御戦闘によく用いる。

陣地の手前60mぐらいにワイヤーを繋げて引っ掛かればドカン、という感じに。

ポッケの中に入れてもいいし、雑嚢の中に入れていてもいい。底の部分にリングが付いているから装備のあちこちに引っ掛けて持ち運びが出来るとあって便利だ。

基本的に各人2個か3個を携行するが、何故か手榴弾が大好きで持てるだけ持って行く奴もいる。

建物を制圧する場合や砲迫の支援が中々望めない場合、手榴弾は重宝するからあるならあるで良いのだが持ち過ぎではないか、という時もある。

重量450gと重く、投げ方に気を付けないと肩や手首を痛める可能性があるのが唯一の欠点だろう。

 

M35手榴弾以前に配備されていたM24柄付手榴弾の在庫は後方警備の2線級師団に配備されている。

 

 

敵兵がかなり近づいてきているのか、ブービートラップとして仕掛けた手榴弾の炸裂音があちこちで響く。

 

「白兵戦になるだろうか?」

 

「どうでしょう、この調子なら防ぎきれそうですが」

 

「弾薬を運んで補給させながら戦わせろ。このままじゃ弾薬が尽きるかもしれん」

 

敵の規模は大して多くはないが、油断出来る数ではない。

連隊が守る範囲に3個連隊規模の敵が攻撃を仕掛けてきているらしく、他の大隊も戦闘中らしい。

事実上、我が連隊は敵1個師団からの攻撃に晒されているということだ。今までの戦いで凄まじい戦死傷者を出しているのに、ソ連軍は何処からそんな兵力を出してくるんだか。

 

暫く戦闘が続いた後、ソ連軍の攻撃を弾き返し一息吐いていると後方から戦車がやってきた。

師団の装甲大隊のⅤ号戦車だ。

 

その戦車には大隊長車のマークが記されていた。

車長兼、大隊長がキューポラから出てこちらに歩いてくる。

 

「遅かったですね。残念ですが戦闘なら終わりましたよ」

 

「それは残念、と言いたいところだが敵の前哨陣地があの森に構築されたらしい。今からそれを潰しに行くんだ。お前達の第2大隊と第4大隊は俺達と一緒に攻撃に参加するように師団からの命令が下っている。これが命令書だ」

 

装甲大隊長が下車し、命令書を手渡してくる。

軍団司令官と師団長のサインが書かれている。

 

森や林は戦術的な観点に於いて、攻撃の起点となり、防御における境界線にもなる重要な場所だ。

しかも木々が茂っていて大抵の場合、空からも地上からも視界が遮られやすい。そこに敵が拠点を作っているというのは見過ごせる話ではない。

だから師団長は攻撃命令を下したのだろう。

 

「確かに。作戦は?」

 

「正面から我々装甲大隊主力が圧力を掛け、左右から戦車4輌づつと一緒に攻撃を仕掛ける。後方浸透は偵察大隊がやってくれるそうだから、そっちにも2輌の戦車を支援に付ける。砲兵隊の支援もあるぞ」

 

地図に各部隊が記され、その行動が矢印で書かれている。

それを覗きながら、自分の地図にも書き込んでいく。

 

「それ以上の追撃は偵察大隊に、という事ですか」

 

「そうだ。我々の任務は森の敵前哨基地の制圧と破壊だからな」

 

「分かりました。ですが準備に時間が掛かります。弾薬の配給と戦闘準備に30分ほど頂いても?」

 

「構わん。森には砲兵隊が準備砲撃を続けてくれるそうだから1時間後に前進開始だ」

 

「敵の戦力は?」

 

「さっきの戦闘の敗残兵と、もしかすると連隊規模の敵がいる。それと戦車が若干」

 

「砲迫は?」

 

「それについては砲兵隊がとっくに潰しているから、あったとしても少数だ」

 

「了解。では準備と休息に入ります」

 

「宜しい」

 

小隊の皆を集めて作戦を説明する。

すぐに消費した分の弾薬を配給し、早めの朝食も摂らせて30分ほどを休息に充てる。

余った弾薬は紙箱に入れて雑嚢に入れておく。

 

小銃と手榴弾は各人2つづつ。

機関銃は射手が装填済みのものと弾薬箱4つ、予備銃身1本づつを2人の弾薬手に持たせる。

敵戦車に備えてパンツァーファウスト1本、オーフェンローアと弾薬を3発、弾薬手に背負わせる。

それ以外の装備は、ヘルメットと水筒とガスマスク、飯盒に雑嚢とスコップ、銃剣だけだ。

分隊のほぼ全員が小銃以外の装備を持っているという中々に重武装だ。

流石に徒歩行軍となると疲れるので、近くまで兵員輸送車やトラックに乗って行く。

 

「Vorwärts!!(部隊前進!!)」

 

装甲大隊長が前進を命令すると、戦車を先頭に我々歩兵が乗るトラック、兵員輸送車が続き、更にその後ろに偵察大隊が続く。

我々が前進する間も、ソ連軍前哨陣地には砲兵隊の準備砲撃が降り注いでいた。

 

装甲大隊主力と分かれて、我が大隊は4輌の戦車と一緒に森の外苑部を走る。

装甲大隊主力には歩兵大隊からそれぞれ1個小隊づつを出し、残る部隊で側面から攻撃を仕掛ける。

偵察大隊は後方に回り込んでいる。

 

装甲大隊からの通信で、森に侵入したことが告げられた。

 

「小隊下車!」

 

トラックから降りて、戦闘態勢を取る。

コッキングレバーを引いて、弾を装填する。

森に入るのは我々歩兵と戦車、兵員輸送車だけでトラックは森に入らず待機だ。

 

兵員輸送車にはMG34が1挺、自衛用火器として備えられており、森の中での戦闘は連続したものになると予想される為、各小隊に1輌づつの兵員輸送車が付いて、それに弾薬や手榴弾を載せてきている。

 

「森に入るぞ!視界が悪いから警戒を怠るな!」

 

姿勢を低く、ストックを肩に当てていつでも射撃が出来るように構えながら進む。

森の中は開けている場所と違って見通しが悪く、隠れる場所も多い。

窪みに身を伏せているだけで分からなくなるし、木の上にだって幾らでも隠れられる。

だから警戒しながら進まないと不意打ちを食らってしまう。

戦車は通れそうな場所をエンジン音を絞りながら後ろから離れて付いてきている。1個小隊が護衛しているから大丈夫だろう。

 

暫く進むと、前方で何かが動いた気がした。

双眼鏡を取り出して覗くと、ソ連兵が何やら動いている。

 

(距離は、200mぐらいか)

 

ハンドサインを皆に送り、通信兵を呼ぶ。

 

「戦車に通信。前方に敵兵発見。匍匐前進にて接近、兵員輸送車は待機せよ」

 

「了解」

 

ハンドサインで皆に横に広がり匍匐前進で静かに進むように指示を出し、ゆっくり、ゆっくり、20分掛けて20m手前まで接近。

どうやら塹壕陣地らしいが、我々のものと比べると深さや作りはかなりお粗末だ。

 

手榴弾を投げ込むように指示を出し、各分隊から3個づつ、15個の手榴弾が一斉に投げ込まれた。

 

ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

 

ドンッ!!ドンッ!!

 

最初に10発ほどが炸裂し、少し遅れて何個かが炸裂する。

悲鳴が聞こえた。

 

「2分隊、突っ込め!他は制圧射撃!」

 

「Jawohl!2分隊、行くぞ!」

 

制圧射撃の支援の下、2分隊が敵塹壕に飛び込む。

 

「次、4分隊!」

 

同じように4分隊が敵塹壕に飛び込んで、数分で敵陣地を制圧した。

 

「塹壕制圧完了しました。クレーブスが軽症を負いました」

 

「宜しい。手当を受けさせて他の者は前進を続けるぞ。戦車にも前進再開を伝えろ」

 

「Jawohl」

 

今のは敵陣地の最外郭に位置する小陣地だ。

陣地そのものの規模も小さく、そこらに生えている木で拵えた簡易トーチカすら無い、一本の辛うじて人が入って塹壕を名乗れる程度の溝が掘られた曲がり角を設けたものだったのだから。殺した敵兵も10人ちょっとと少なかったのがその証拠だろう。

いや、これでは陣地を名乗るのもおかしな話だ。野戦野営地と名乗る方がまだしっくりくる。

 

警戒しながら前進を続けると、100mほどの横幅を持つ、今回はちゃんとした塹壕、火点、簡易トーチカが組み合わさった陣地を発見した。

他の場所でも戦闘が発生しているらしく、最初の私達の戦闘を皮切りにあちらこちらで銃声と爆音が聞こえてくる。

 

流石に敵も警戒していると思っていたのだが、何やら慌ただしく動いているだけでこちらを警戒しているような様子はない。

 

「小隊長、陽動本隊が敵の猛攻撃を受けてかなりゆっくりと後退しているようです」

 

「分かった。引き続き各部隊との連絡を密に取れ」

 

通信兵によると、どうやら装甲大隊の陽動本隊の方に敵が集中し残存兵力で総攻撃を仕掛けているらしい。

確かに規模だけで見ると向こうが間違いなく本隊であると思うだろう。戦車26両の戦車に2個歩兵小隊が砲兵の支援を受けながら前進してきているのだから。

 

だがそれは我々にとって幸運なことだ。

なんせ敵が主戦力をそっちに投入しつつあるというのならば、我々が戦う敵兵は少なくなる。

 

再び匍匐前進で敵陣地にゆっくりと近付いて、同じように手榴弾を投げ込んで混乱しているところに2個分隊を突入させる。

先程と同様にこちらを警戒していなかったからか、対応が遅れてこちらに損害らしい損害を与える前に殲滅された。

ここ最近、常々思っていたことであるが、開戦初期と比べて比べ物にならないぐらい練度が低い。

 

「小隊長、捕虜を6名得ました」

 

「宜しい。尋問をするから連れてこい」

 

捕虜を連れて来させ、話を聞く。

私自身がロシア語を喋ることは出来ないが、尋問用の手帳として必要最低限の情報を現地で得られるようにリストが作られて軍から支給されている。

 

軍から、捕虜に対して聞くように言われているのは敵の補給状況、部隊の規模、出身地、氏名、階級、原隊、上級部隊、敵指揮官の名前の8項目である。

敵の一兵卒は部隊の配置など知らないことが殆どであり、自分達がどこに配置されているのかすら分かっていないことが殆どである。なのでそれらは敵の文書を鹵獲したり、敵将校を捕らえることでしか大抵の場合、得ることが出来ない。

 

身分を偽っている場合は捕虜としての適切な扱いを受けられない場合がある、とロシア語で説明し、尋問を開始する。

 

手引きには恐怖で懐柔するよりも、多少なりとも恩を売ってから聞いた方が嘘の無い情報を得られる、としている。

なので、随分と貧相な身形をしているので水と戦闘糧食を与え、幾らかの懐柔を狙う。

 

「Откуда вы?(どこから来た?)」

 

『Хабаровск……(ハバロフスクから)』

 

「ハバロフスクか。極東じゃないか。Как тебя зовут?(名前は?)」

 

『Аким.Петренко Аким(アキム。ペトレンコ・アキム)』

 

「Хорошо, приятно познакомиться, Аким.(そうか、よろしくアキム)」

 

「Как называется ваш отряд?(君の部隊の名前は?)」

 

『Он входит в состав 4-го батальона 2-го полка 453-й стрелковой дивизии.(第453狙撃師団の第2連隊、第4大隊所属だ)』

 

「Какой ранг?(階級は?)」

 

『Частный(二等兵)』

 

粗方の情報を聞いて、重要なことを最後に聞く。

 

「Ожидаются ли поставки?(補給は来ているか?)」

 

『Они приходят не очень часто.……(あまり来ていない)』

 

「Когда вы в последний раз получали припасы?(最後に補給が来たのは何時だ?)」

 

『Последняя поставка пришла три недели назад(最後に補給が来たのは3週間前だ)』

 

補給はかなり前から滞っているらしい。

3週間も来ていないとなると、良くて最低限の食事と水しか配給されていなさそうだ。実際、捕虜達の体付きや頬のこけ具合を見るに満足に食べられていないのは明白だ。

敵の補給状況が分かれば、戦闘能力も推し測ることが出来る。

 

それに、殆どの兵は徴兵されてから碌な訓練も受けないまま最前線に投入され続けているらしい。

彼もハバロフスクからの道中で銃を渡された以外、何も訓練をしないまま、ここに到着してすぐに陣地構築を命じられたという。

これは別段珍しい事では無く、寧ろ最近のソ連兵の殆どがこうした状態で戦っている。

 

ppsh‐41やトカレフM1940半自動小銃を支給されれば幸運、大抵の場合はモシンライフルである。

しかも弾数はppsh‐41なら1マガジン分、M1940なら15発か20発。モシンライフルだと10発も配給されていれば良い方だ。

酷い時だとモシンライフルに2発しか弾が配給されていない場合もある。まぁ、武器を配られているだけマシなのかもしれない。

 

「どうだった、敵兵の動きは」

 

「緩慢で、こちらの動きに対応出来ていませんでした。それに移動の準備をしていたようです」

 

「移動?……あぁ、陽動本隊のほうに行くつもりだったのか。それなら敵の側面をなんの苦労もしないで突けるな。大隊から何か新しい命令や報告は?」

 

「特には」

 

「よし。このまま前進するぞ」

 

敵の陣地を制圧しながら前進しつつ、森の中心辺りで反対側から攻撃を加えていた味方と合流する。

無線によれば敵は陽動本隊に攻撃を加えているようで、我々にはこれを背後から攻撃を加えて包囲、殲滅せよという新たな命令が下された。

 

途中、我々に背中を向けていたソ連兵に射撃を浴びせた後、再び前進する。

連中、後方の警戒が疎かとか言うレベルではない。一切気にしていないというか、前しか見ていない。

だから後ろや側面から我々が迫って包囲されている事に誰一人として気が付いていないようだ。

敵の兵力は2個連隊ちょっと、と言ったところらしく数も練度もまるで脅威になり得ない。慢心はならぬ、とは言ってもこれではな……。

 

『小隊長』

 

偵察をしていたシュルツ達から無線だ。

 

「どうした」

 

『前方100mにT-34が見えます。どうしますか?」

 

「対戦車火器が行くまでは何も仕掛けるな。必要なら撤退してこい。他に敵は?」

 

『歩兵が若干、戦車と行動を共にしていますが大部分は先に前進して陽動本隊に攻撃を加えているようです』

 

「了解。引き続き偵察を行いバレたら撤退して構わんからな」

 

『了解』

 

すぐにオーフェンローアと共に第3、第4分隊を前進させ、敵戦車への攻撃位置に付かせる。

やはり後方、側面警戒なんてものは一切しておらず、簡単に命中した。

2発の貫通力190mmに達する対戦車ロケット弾を車体と砲塔に食らったT-34はたちまち炎上、砲弾か燃料に引火したのか爆発を起こして吹き飛んだようだ。

 

そのまま我々は敵部隊を包囲し、陽動本隊に釘付けになっていた敵を後方から一気に襲撃。

2時間ほどの戦闘で1000名もの捕虜を得て、我々は6名の死者と19名の負傷者が発生した。

 

 

 

 

「任務ご苦労。各隊は休養を取るように」

 

森には幾らかの前哨斥候だけ起き、我々陣地に戻ると温かい食事と身体を拭う為のお湯が用意されていた。

我々は温かい食事を頬張った後、石鹸を泡立てて身体を清めたら歩哨を残してベッドに潜り込んだ。

 

 

 

 






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