あいあむちょび髭、画家を目指す   作:ジャーマンポテトin納豆

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4章

 

 

 

 

1942年8月4日。

既に開戦より1年が経っているが戦争が終わる気配は無く、それどころか激しさをより一層増していた。

 

「防衛線は各線線、問題無く機能しております。しかしソ連軍の攻勢が弱まる気配は今現在ありません」

 

「彼我の損害はどうか?」

 

「我が軍は100万名近い戦死傷者を出しておりますが、大部分の8割は負傷者となります。対するソ連軍ですが、少なくとも1000万人の戦死傷者を出しております。捕虜も計200万人ほどが各国軍、特に我々ドイツ軍に投降しております」

 

何故我が軍に集中するんだ……?まぁいいか。

捕虜の扱いは基本的に殺したり、などのように扱う事は無い。

 

降伏したソ連兵はまず現地部隊による尋問を受ける。

氏名階級、年齢、所属部隊、所属兵科など、基本的な情報を得た後はドイツ本国やイギリスに設けた各地の捕虜収容所に送られる。

士官や政治将校、督戦隊員などはドイツ本国でより詳細な情報を得る為に尋問を受ける。

因みに政治将校、督戦隊員はマトモな扱いを受けるのは稀である事は明記しておく。

単純に多数の情報を握っている事から、尋問による情報収集が激しくなりがちである。

 

それに加えて元同僚からの扱いだ。

基本的に政治将校や督戦隊員は後ろから味方を撃って敵に向かって突っ込ませる役割を担うが、それまでの過程で色々と兵士達に酷い扱いをすることが多い。

結果、捕虜収容所内で恨みを募らせた兵士達から散々鬱憤を晴らされることになる。看守は大抵、幾らか見逃した後にある程度したら止めに入る。そして一時的に独房に放り込むのである。

最初から別区画の収容所を用意してはどうか、という意見も勿論あるが経済的な理由と変に政治将校や督戦隊員を一緒にして結託されて反乱を起こされたら堪らない、という事情がある。

 

実際、初期の頃に降伏したはずの政治将校と督戦隊員が収容所内で結託して300名規模の反乱未遂が起きた事がある。

幸い未遂で済んだし、該当捕虜には相応の罰が降ったが、我々としては軽視出来る事柄では無かった。

というのも基本的に最前線や前線地域、敵上陸の可能性が少なからずある沿岸部を除けばドイツ本国や各国には有力な戦力が殆ど存在しない。

後方地域に駐屯するのは主に新兵が訓練や錬成を行う為の各教育師団、下士官学校、士官学校、陸軍大学を始めとした教育機関、そして前線で戦って損耗しその補充や再訓練や休養をしている部隊、そして警備用の二線級戦力だけである。

 

これら部隊は、訓練中の新兵、損耗した部隊、志願した五〇歳以上の兵で構成される二線級師団という、装備はまだしも碌に戦えない練度でしかないのである。

訓練中の新兵は実戦経験は全く無く、しかも分隊を率いる事が出来る経験豊富な兵卒や下士官は一人も居らず、新兵それぞれが週毎に変わる持ち回りの班長がいるだけ。

教育師団長から連隊長、大隊長、中隊長、小隊長、中隊以上の本部まではベテランの下士官や士官が担当するが、分隊指揮を執れるベテラン下士官や兵卒がいないのは余りにも作戦行動上制約が大き過ぎるのだ。

 

では損耗した部隊はどうかと言うとこちらも厳しい。

そもそも前線での損耗を補充し、再訓練と休養の為に後退してきた部隊だ、本来の戦闘力を発揮することは当然出来ない。

 

二線級師団も、後方地域警備や占領地警備が主任務で所属する兵士の年齢は45歳以上が殆ど。

年齢が高い者は基本的に最前線に送られることは無い。送ったところで無駄死にすることが簡単に想像出来るからだ。基本的にこういった高齢者の従軍兵士は主に後方支援部隊に配備されるが、この二線級部隊は後方支援部隊の扱いになる。

実際、この部隊は歩兵部隊と言うよりも訓練部隊という性質が強い。

と言うのも高齢者は志願し、入隊した後にこの二線級師団や部隊で訓練を受けつつ、工兵装備やトラックなどの輸送車両の操縦訓練と言った主に後方支援に直結する教育訓練を施されることになる。ここでの教育が終わると前線近くや後方地帯での物資輸送任務、貨物列車の護衛任務、架橋任務や地雷除去任務などに送り出されることになる。

 

配備されている武器などは一線級部隊と同じである。

歩兵火器はStg34やMG34、パンツァーファウスト、オーフェンローアと正規師団と変わらないが重火器が全く少ないのだ。

そもそも前線ですらもっと兵器武器弾薬を寄越せと言っている状況なのに、これら二線級部隊に十分な重火器や重装備を配備出来るような状況ではないのだ。

 

実際に戦車は師団で僅か12輛、榴弾砲は各連隊に4門づつのみ、対空火器は高射砲12門、高射機関砲は40mmと20mmがそれぞれ12基づつ。レーダーは2基だけ。

偵察大隊は10輛の歩兵戦闘車と20台のオートバイのみ。

輸送や部隊移動に必要不可欠なトラックも100台のみと重火器や車両は精々、連隊ぐらいの戦力しか保有していないのだ。

訓練は十分に施しているが、問題はそこでは無い。近代戦の実戦経験がないのだ。

彼らの中には一次大戦に従軍した者も多いが、より高度に発達した軍事技術、通信技術、戦術に追い付けていないのである。

捕虜の反乱だからと舐めて掛かると最悪、これら装備を丸々奪われかねない。信用していないわけではない。

この時代では老人に分類されるような年齢の者達が志願して軍にいるのだから、その愛国心は本物であろう。

しかし年齢というのは誰にでも平等にその牙を向き、重くのしかかってくる。

 

だからそもそも反乱を起こさせない為に、政治将校や督戦隊員には死なせはしないがある程度犠牲になってもらうという決定を下したのだ。

 

 

 

捕虜は各国の捕虜収容所に収監されると、識別番号が与えられる。

捕虜は収容後に賃金を与えられた上で労働作業に従事することになる。

降伏したソ連兵には少将や中将と言った将官クラスの降伏なども数件見られており、現在志願者を募って亡命軍人からなる部隊を編成中だ。

規模としては現時点で3個か、4個師団規模になるとされている。

 

志願してする者で多いのはウクライナ出身者だ。今も続々と祖国解放を夢に志願してくる者が後を絶たない。色々あったから思うところが多々あるのだろう。

ウクライナ出身者で構成された師団は第1〜第2自由ウクライナ師団、ロシア人で構成された第1〜第2ロシア解放師団が部隊名として与えられた。

この師団は数が増えるのは間違い無く、最終的にどれぐらいになるのかは予想が出来ないのが現状だ。

 

配備される武器はボルトアクションライフルと機関銃が主であり、Stg34はドイツ正規軍でも数が足りないので配備は見送られている。

あとは通常の歩兵師団に準じた重火器が配備される。

 

 

 

「何故攻めている側のソ連軍からここまで多数の捕虜が出るのかは甚だ疑問ではあるが……。ここまで来ると敢えて我々に捕虜を取らせて疲弊を狙う作戦か何か、と思ってしまうな」

 

「無くはなさそうですがそんな作戦を考え付くようなら共産党ではないでしょう。何せ明らかに前線に来て間もないだろうと言った若者や健康状態の良い者まで降伏して来ているのです。明らかにソ連共産党の人望の無さが理由ですな」

 

まぁ、撤退しようとしたら安全な場所から味方撃ちをしてくるような連中だから人望が無いのも納得が行く。

 

「反乱を起こそうならば、以前同様容赦はしません」

 

「構わん。起こさないのが理想だが反乱を起こすというならば叩き潰せ。そうでなければ手荒に扱うな」

 

「ですが一つ問題が」

 

「問題?」

 

「捕虜が多過ぎてそこに掛かる諸々の経費が膨れ上がっております」

 

「どれぐらいだ?」

 

「ざっくり当初の見通しの6倍です」

 

「200万人越えの捕虜ですからね……。しかも全員が全員五体満足で労働が出来る訳ではありませんし、そうなると治療などにも経費が掛かりますから」

 

「彼らの経済効果は?」

 

「工場や工事現場で志願を募り、賃金を払った上で労働をさせておりますが、そこまで大した経済効果を期待出来るものではございません。それこそ無賃無休で死ぬまで働かせるというのであれば話は別ですが」

 

「何を言っておるか。そんなもの1900年代半ばにも差し掛かった時代に存在する文明国家がやっていい事では無かろう」

 

「仰る通りです。とは言え結論としましては大した経済効果はあまりできません。捕虜収容所内での購買などもありますが、それも一般市場に比べれば限定的と言わざるを得ないでしょう」

 

「とにかく、この問題は決して見過ごせる問題ではない。ソ連との戦争が終わるよりも前に我々が捕虜に飯を食わせる金で財政破綻を起こしかねん」

 

「最初に設定した賃金が高過ぎたのが問題でしたね。まさかここまで捕虜が発生するとは……。見通しが甘かったと言わざるを得ません。申し訳ありません」

 

「最終的に納得して承認を下したのは私だ。君達が気にすることではない。それよりも現実的な解決案をどうにかして考え出さなければならない」

 

「捕虜が皆、対ソ戦に志願してくれれば話は早くて済むのですが」

 

「そうもいかんだろう。戦うのが嫌で降伏したのだ、また戦場に行きたがる者が珍しいのだ」

 

「ですが取れる解決案はそう多くはありません。まさかこの為だけに大量に紙幣や硬貨を造幣する訳にも行きません。なので多少の反発は覚悟の上で、賃金を下げましょう。2分の1に下げ、食事などの配給は今まで通りとすれば宜しいかと」

 

説明に少し頭の中で考え、幾つか算盤を弾く。

 

「……宜しい。その方向で進めたまえ。軍はこの情報が洩れて敵が大規模な攻勢を仕掛けて来る可能性もある。十分に備えておくように。関係各所もそれぞれ備えておくように」

 

「「「「はっ」」」」

 

 

 

「軍部からの報告です。先日に開発を完了した装甲兵員輸送車と歩兵戦闘車の量産に関してですが」

 

「うむ。話は聞いている。それで、どうかね」

 

「性能は申し分ありません。ですが戦時下なので既存の生産ラインの切り替えに幾らか時間が必要です。具体的にはざっくり2か月ほど」

 

「構わん。配備は各装甲師団を最優先とし、続いて各歩兵師団や戦闘団の装甲部隊だ。行き渡るのにどれぐらい時間が掛かる?」

 

「少なくとも1年半。取り合えず反攻作戦までには装甲師団への配備を完了することをお約束致しますが、それ以外の装甲部隊への全配備完了は最低でも更に1年は頂かないとならないかと」

 

「反攻作戦までに装甲師団への配備と訓練が終了すればそれで一旦構わん。あとは出来るだけ配備を進めるしかない。我々は魔法使いでもないのでな、そんないきなりポンと全ての部隊に配備は出来ん」

 

この話に出てきた装甲兵員輸送車と歩兵戦闘車は装甲部隊へのより容易に歩兵随伴を可能とし、戦場へ赴く兵士の安全な輸送や戦場での安全な移動を目的として開発していた装甲車両である。

これまでハノマークなどの装甲兵員輸送車はあったがこれを更新してより本格的な能力を付与することを目的として設計・開発が進められた。

 

装甲兵員輸送車の性能は、乗員3名、完全武装の兵士を12名載せることが可能であり、武装にMG34を1挺装備する。

ソ連で主に使われている重機関銃である12.7mm弾からの防護を目的とし、全周を3cmの特殊装甲で防護している。車体下部には対地雷用の増加装甲を施してある。車長用にMG34を取り外し可能な旋回機銃として装備し弾薬は2000発。6基の煙幕投射機を装備する。

乗員用にStg34を2挺搭載する。

8輪のノーパンクタイヤで機動する。

 

歩兵戦闘車の開発は難航、と言うより搭載する武装をどうするかでかなり紛糾した。

車体や装甲の方はすんなり設計が終わったのだが、どのような武装を施すかで軍部が中々揉めたのである。

 

第1案はMG34を連装化し、砲塔に収めて搭載する案。

第2案は新しく15mm機関砲を開発し、これを砲塔に収めて搭載する案。

第3案は20mm機関砲を単装のものを砲塔に収めて搭載する案。

第4案は40mm高射機関砲を車載機関砲に改良したものを搭載する案。

第5案は5cm対戦車砲を搭載する案。

第6案は7.5cm対戦車砲を搭載する案。

第7案は8.8cm対戦車砲を搭載する案。

 

まぁ第4案ぐらいまでは分かるが、5~7までの案はそもそものコンセプトを無視しているということで設計はされたが大口径対戦車砲を搭載する関係で重量過剰となった上、重量を削る為に装甲が薄い、そもそも対戦車戦に関しては戦車がいるし同じようなものであれば対戦車自走砲があるんだから要らないだろ、となってあっさり廃案とされた。

だが第1案~第4案までの武装は割と現実的なものであり、携行弾数と射撃速度を優先するか、単発辺りの攻撃力を優先するかで揉めたのである。

 

結果、それぞれ試作車輛が4両づつ造られて試験を行った結果、ある程度の装甲貫徹能力や制圧能力がある20mm機関砲搭載型が選ばれた。

この20mm機関砲は当初、航空機に搭載されているものを流用することが検討されたが航空機と違って射撃速度が速く銃身加熱の問題と、そもそもそこまでの射撃速度が求められなかった為、新しい20mm機関砲を設計することとなった。

発射速度は毎分150発、搭載弾薬量はベルト給弾方式で750発。

一応候補としては40mm機関砲搭載型も有力候補ではあったが、対戦車火力、対地火力とするには貧弱、対歩兵火力とするには過剰、ということで歩兵戦闘を主眼に置くことを最優先とすることとなった為、搭載される主武装は20mm機関砲に決定されたのである。

足回りはⅤ号戦車の履帯を流用した履帯式となる。

 

防御力は鹵獲されたパンツァーファウストやオーフェンローアに対する防護能力を獲得する為、装甲は空間を設け間に水を充填した3層装甲で構成されており、車体重量は28t。

武装は20mm機関砲1門、MG34を1挺、乗員用のStg34を3挺。装甲は厚さ3cmの装甲を2枚、装甲の間に6cmの隙間を設けて水を充填している。更に傾斜も設けてある。装甲が一層だけだとどうしてもパンツァーファウストやオーフェンローアのようなモンロー・ノイマン効果で装甲を破って来るタイプの兵器に脆弱となることからこのような装甲配置が決定された。

この歩兵戦闘車と装甲兵員輸送車は、主に装甲師団と各歩兵師団隷下の装甲部隊に最優先で配備され、それが済んだら歩兵部隊への配備が進められる。

 

 

 

 

幾らか話しが逸れるが、ここ最近師団の編制に改編があったので記しておこう。

 

従来の歩兵師団の編制は3~4個歩兵連隊を基幹とした編成であったが、ここ最近この歩兵連隊の数が3個と正式に定められた。

これは単純に4個歩兵連隊のうちの1個をそれぞれ3個歩兵連隊に分散して配備し1個連隊辺りの兵力を十分なものにすることが目的である。

 

編成としては以下の通りになる。

 

分隊

小隊

中隊

大隊

連隊

師団(場合によっては旅団や戦闘団)

 

以上の様な戦闘序列になる。

歩兵連隊は以下の戦力を有する。

 

4個歩兵大隊

1個迫撃砲中隊

1個対戦車砲中隊

1個高射機関砲大隊

1個工兵中隊

1個偵察中隊

1個情報通信中隊

1個輜重中隊

 

歩兵師団は以下の戦力を有することとなる。

4個歩兵連隊

1個砲兵大隊

1個迫撃砲大隊

1個対戦車砲大隊

1個工兵大隊

偵察大隊

情報通信大隊

 

後方支援部隊

輜重連隊

管理隊

師団衛生隊

獣医小隊

野戦憲兵

野戦郵便局

 

 

因みに支援部隊に位置づけられる工兵大隊であるが、障害物の除去とか地雷撤去とか構築物の設置とかをやる都合上、一応歩兵部隊の護衛を就けて貰えるとは言え、基本的に歩兵よりも先に最前線に突っ込んで行って仕事をする何かと頭のおかしい連中である。

 

 

 

装甲部隊への配備が最優先なので、歩兵戦闘車と装甲兵員輸送車が歩兵連隊に行き渡るのは何時になる事やら分かったもんではない。

それに前線では対戦車火器の不足が度々訴えられており、特に対戦車砲の数が少ない。

元々各歩兵連隊には戦車猟兵を配備して8.8cm対戦車砲を4門程度配備しているが、ソ連軍戦車の数の方が圧倒的に多く、1個歩兵連隊の防衛区域に1個師団以上の歩兵と数十両の戦車が一斉に押し寄せて来ることもある。

たった4門の対戦車砲ではその数十両の戦車を相手にするのは中々厳しいものがある。対戦車砲の性能的にはT‐34を2000m先からの撃破することが出来るが、全部撃破しきるよりも前に防御陣地に到達される。

戦車を用いての撃破などもあるが、それでも足りていない。

パンツァーファウストやオーフェンローアでも何とか補っているが、苦戦は免れない。

 

現状の最優先生産兵器は、陸軍に於いては榴弾砲と対戦車砲である。

とにかく火力で圧倒して防ぎ続けないと1944年以降の反攻作戦までに戦線が崩壊してしまう。

 

「第5次増産計画で榴弾砲、対戦車砲の数は前線部隊に取り合えず行き渡らせることが出来ましたが、新設される部隊の分の生産はまだ追い付いていませんし、前線部隊からはまだまだ対戦車砲が足りていないと報告が」

 

「陸軍の兵器不足は空軍の対地支援攻撃で補っておりますが、それでも各地で戦線を突破されることが頻発しております」

 

「それでも今すぐに防衛線の崩壊とまでは行かないでしょう。問題は何時まで防衛線を保てるかということです。補給は問題ありません。ですがとにかく重火器が不足しているのです」

 

「生産数をどうにか増やせないか?」

 

「現状でも各生産ラインはフル稼働中です。これ以上はどうしようもありません」

 

「このままでは配備は出来ても数が少なくて、薄めたジュースにしかなりません。これでは前線に送り込んでも……」

 

「同盟国への生産委託は?」

 

「スウェーデンは既に手一杯、ノルウェーも無理です。ポーランドやフィンランドも前線国家ですから余力はありません。というより我が国ですらこの状況なのに、国力で劣る同盟各国がそれ以上の生産体制や能力を出せる筈がありません」

 

その通りでしかない。

それどころか足りない兵器をドイツで生産して各国に輸出しているぐらいなのだから、まぁ期待するだけ無駄というヤツである。

 

「イギリスに打診しよう」

 

「ですが……」

 

「この際技術漏洩だとか言っていられない。アメリカは大統領が若者を戦場に送らないと言って当選した手前、どれだけ戦争に参戦したくても明確な口実が無ければ協力は得られんだろう。その点、この戦争に関してはアメリカは全くの役立たずであるということだ」

 

この戦争はドイツ対連合国、ソ連という図式ではない。

だからアメリカが直接参戦したり、兵器生産などで協力するというのはかなり難しいのである。

寧ろソ連側で参戦する可能性が高い。

 

「閣下、前線から気になる報告が」

 

「どうした?」

 

「ソ連空軍の爆撃機に見慣れない機体を最近見かけることが多くなったと」

 

「どのような機体だ?」

 

「4発重爆撃機のようです。詳細はまだ判明しておりませんが、どうやら戦闘機にも会敵報告が幾らか上がってきております」

 

「……徹底的に情報を集めろ。逐次報告するように」

 

なんだか嫌な予感がする。

 

 

 

 

「閣下、ソ連新型機の情報が集まりましたのでご報告させて頂きます」

 

「頼む」

 

「撃墜した機体の調査や諜報活動によって判明したことです。結論から申し上げますと、4発重爆B‐17、戦闘機P‐40等は共にどちらもアメリカ製のものであるということが判明しました」

 

「嫌な感ほどよく当たるものだな」

 

「とは言え、正式にソ連とアメリカが手を組んだ、というわけでは無さそうです」

 

「ほう」

 

「兵器輸出をアメリカがソ連に対して行っている、というのが正確なところでしょう。無償供与などの形跡は見られず、購入と言う形となっておりました。価格も不自然なものではありませんでしたが念の為、より入念に調査を進めております」

 

「外務省を通じて事実確認を取ることは?」

 

「既に。シラを切るどころか我々にも、アメリカ製兵器のセールスを掛けてきました。商魂逞しいのかなんなのか……」

 

「単純に戦争で美味い汁を吸いたいだけだ。兵器が売れればそれだけ儲かるしその分雇用も生まれる。ましてや直接戦争に参加しないとなれば犠牲は払わずに儲けだけが出る形になるからな。この戦争で出遅れているのだから挽回して稼ぎたいのだろう。イギリスが我々からの外注で大儲けをしているのを見て財界連中からの突き上げが凄まじかったのだろう」

 

「腹の立つ話ですな」

 

「戦争も、当事者以外からすれば大儲けが出来る商売時でしかないのだよ」

 

「回答は保留にしておりますが、如何致しますか?」

 

「拒否でいい。今我々にアメリカ製兵器の導入を行えるほどの余力は無い」

 

今ある補給線は十分に機能しているが、これにアメリカ製兵器を導入して耐えられるかどうかという冗長性があるとは思えない。

特に消耗の激しい火砲や銃火器、それらの弾薬は生産工場を新設するわけには行かず、アメリカからの輸入に頼らざるを得ない。自国内で賄えるものではないので、遥々大西洋を渡って来るのを待つしかない。

補給が途切れ途切れになっても不思議ではない。

 

「承知しました。では抗議文を送る、ということでよろしいでしょうか」

 

「それで頼む。まぁ、商売をして何が悪いと言い返して来そうではあるがな……」

 

案の定、アメリカからの回答は商売をして何が悪い、文句があるならお前達がソ連よりも沢山アメリカの兵器を買え、と言ってきおった。

そんな余裕は無いので無論断るが、問題は戦局にどれだけの影響を及ぼすか、だ。

 

少なくともソ連軍の人材は払底しつつあるようだ。

機材自体はどうやら大量生産でなんとか揃えているようだが、運用する人間がどうにもならんなら意味が無い。

航空機に関しては航空殲滅戦で敵飛行場を人員、航空機、機材諸共爆撃と機銃掃射で破壊して回っている効果は大きいらしく、最前線からロシア領内300kmまでの範囲はドイツ空軍、各国空軍が完全に制空権を握っていると言う報告が上がってきている。

迎撃に上がって来てもその練度は高が知れているようで、歴戦とも言うべきドイツ空軍のエース・パイロット達の餌食だ。

 

問題はここにアメリカから購入した航空機が大々的に出てきたらどうなるか、だ。

少なくともB‐17は史実でもドイツ本土爆撃に猛威を振るったし、戦闘機もこれから高性能機が続々と出て来るだろう。ソ連戦闘機が弱いわけでは無い。単純な機体性能だけで言えば我が空軍の戦闘機ともパイロットと戦術がしっかり揃えば侮れない敵になる。

今、余裕綽々で勝てているのは航空殲滅戦を仕掛けて徹底的に地上で叩いているからであり、迎撃に上がって来てもパイロットも戦術もお粗末、おまけに数的有利もこちらにあるという状況だからだ。

これがアメリカの工業力がフル稼働してソ連にその全てが流れればどうなるかは一目瞭然である。

アメリカの工業力は侮る事は出来ないし、それが敵方に利することになればこちらの優位も崩れる可能性がある。

 

唯一の救いは対ソ戦に注力すればいいだけで、左右に敵がいないということだ。

一次大戦や史実ドイツのように東西に敵を抱え、更にイタリア戦線と3つ、4つの戦線を抱えなくていいと言うのは戦力的にも戦略的にも大きい。なんせ全兵力を対ソ戦に向けられるのだから。

イギリスは準同盟状態だし、カタツムリ野郎は国境付近で色々と鬱陶しいがそれだけだ。パスタ野郎が若干キナ臭いがまぁ今のところは大丈夫である。スペインは特に関りが無い中立国ではあるが、義勇兵が派遣されてきていたりと味方寄りの中立国だ。

 

 

 

「とにかく、アメリカは本格的に敵に回ることは無さそうということで良いな?」

 

「はい。ルーズベルトは若者を戦場へ送らない、と言う事を公約に大統領選に当選致しましたから、こちらから仕掛けるなどでなければ参戦などは無いでしょう」

 

「では今以上に航空撃滅戦を仕掛けて敵機を飛ばさないことに注力するしかない。あとは臨検をするぐらいだが、外交的にどんな反応が返って来るかだな」

 

「十中八九、抗議はしてくるでしょうが、何かしらの武力を以てこちらを排除という可能性は少ないのでは?」

 

「……いや、海軍を出してくる可能性は高いな。連中は自分達の利益を最大限守るというスタンスを採って来る筈だから臨検の効果があるのは初期の段階だけだろう」

 

「それ以降は海軍同士が睨み合う、というわけですか」

 

「うむ。それに、米海軍の戦力を我々はマトモに相手出来るとは思えん」

 

「それは、どういう事でしょうか?」

 

「現在、アメリカの空母の数は何隻かね?」

 

「はっ。情報によれば、小型空母『ラングレー』『レキシントン』『サラトガ』『レンジャー』『ヨークタウン』『エンタープライズ』『ワスプ』『ホーネット』の8隻が戦列にあり、それに加えて海軍拡張法、及び両洋艦隊法の寄って大量建造が予定されている新造空母が計画中のものを含めると、全て合わせて航空母艦69隻の建造が計画されているようです」

 

「建造中の空母は?」

 

「現在、最新鋭のエセックス級航空母艦の建造が進められており、1番艦は既に訓練に入っており、2番艦から4番艦までが建造中とのことです」

 

「計画段階のものも含めれば、大型空母だけで我々の最低でも倍。戦時急造計画を立てて増産体制にでも入れば3倍で済めばマシだろうな」

 

ドイツ海軍の主戦力は第1から第4艦隊である。

この艦隊には空母2隻づつが配備されており、戦艦1隻づつが配備される予定である。

 

戦艦に至っては旧式だけで16隻、新造を含めれば更に最大で17隻が追加される可能性がある。と言う事は合わせて33隻もの戦艦を相手にしなければならない可能性があるのだ。

 

単純計算で3倍強の空母、8.3倍の戦艦と戦わなければならない。

しかも恐ろしいのはここに軽空母や巡洋艦、駆逐艦、潜水艦といった中小艦艇は一切含まれていないと言う事だ。

 

史実アメリカはフレッチャー級だけで175隻が建造され、アレン・M・サムナー級は58隻が建造されている。

それ以前のグリーブス級やベンソン級、シムス級なども含めれば駆逐艦だけで350隻である。

潜水艦はガトー級、バラオ級の建造された分だけで約200隻。それ以外の艦級を含めたら250隻に達する可能性がある。

 

これだけの数の差がある上に、潜水艦に至っては100隻以上を前線配備して作戦行動を取らせつつ、後方にそれと同じ数の潜水艦が待機している、という状況なのだ。こっちに勝ち目は無い。

 

政府としても、軍としてもアメリカは戦いたくない相手なのだ。

 

 

 

ここまで大きい顔でお前もウチの商品買えよ、買う数によっては向こうに商品流さんことも考えなくもないぞ、と言われてしまうとこっちとしては何も出来ない。

 

「この事実の公表はしないこととする」

 

「何故?」

 

「良く考えてみろ、敵に武器兵器を売っているとなれば国民感情としてどうなると思う?」

 

「それはそうですが……」

 

「最悪、《アメリカもソ連と同様我々の敵である!即時開戦を!》と言い出しかねない。我々にソ連とアメリカを同時に相手取って戦争をやる国力なぞない」

 

ソ連、アメリカは史実世界においても冷戦中の二大巨頭だ。

そんなのを一度に、同時に相手取る戦争なんてどうやって勝てと言うのか。そんな戦争はどう考えても負けが確定しているじゃないか。

 

「諸君がソ連とアメリカの大国を同時に相手取った戦争をやりたいと言うのなら、私は止めんよ。だがさっさとこの立場から完全に退かせてもらうがね」

 

「閣下に今、辞められたら我々は良くて空中分解です。承知しました、この事実の公表は差し控えます」

 

「頼む。まぁ、遅かれ早かれ前線兵士からの情報で洩れるだろうが……」

 

人の口に戸は立てられぬ、というのは素晴らしい諺である。

幾ら箝口令を敷いても、幾ら機密情報指定をしても何処からか情報は何時か漏れるものである。

 

「閣下、ご心配なさらず」

 

「何がだ」

 

「敵がどれだけ機体を生産して、購入して送り込んできても、片端から残骸の山にして見せます」

 

「勇ましい言葉だが、くれぐれも油断、慢心だけはするな」

 

「はっ」

 

とにかく、大きな問題がまた一つ増えてしまった。

どうにかして問題を一つ一つ潰していかないと。

 

 

 

 

 

「閣下、相談があるのですが……」

 

「何かね」

 

「それが、その……」

 

「歯切れが悪いな。そんなに言いずらいことか?」

 

「あ、いえ。ご心配なさられている戦局に影響を及ぼすような事柄では無いのですが、これを相談して良いものなのか、と迷っておりまして」

 

「迷っていると言う事は誰かしらに相談するべきことだろう。言ってみたまえ」

 

ガイスラー君やカムフーバー君達、空軍将官が何人か困った顔で訪ねてきている。

 

「その、前線で戦う一部の者に与える勲章が無くなってしまいました」

 

「?それは、どういうことだ?」

 

「戦果が多過ぎて、粗方の勲章を全て授与してしまったのです。それでも連日次々に戦果を叩き出しているのでこれ以上、同じ勲章を授与し続ける訳にも……」

 

あー、史実でも同じような話を聞いたな。

誰とは言わんが、この世界でも彼らは健在な様で、戦闘機撃墜、撃破、破壊数が4桁越えの者とか、対地攻撃で訳が分からん戦果を叩き出している者とか、まぁ大暴れしているのである。

 

にしたって早くないか?

もう一年ぐらい掛かるんじゃないのか?

 

「そこで、閣下にご相談なのですが彼らに見合う新しい勲章を作ることを許可して頂きたく……」

 

「なるほど。……うむ、良いだろう」

 

こうして新たな勲章が設けられることとなったのである。

 

この勲章は、従来の柏葉剣付勲章に、貴金属と宝石をあしらったものになることが決まった。

等級は一等、二等、三等まで設けることになった。

 

一等が最も高く、金とダイヤモンド。

二等はプラチナとサファイア。

三等は銀とエメラルド。

 

以上のようになったが、最上位の黄金・ダイヤモンド柏葉剣付騎士鉄十字章の最初の受賞者が何人も居たと言う事には取り合えず目を逸らしておくことにする。

これ以上の価値がある勲章なんて作って堪るか。もうこの勲章を何個でも渡しておけ。金とダイヤモンドがいっぱい付いてるんだから。

 

 

 

 

 

「閣下、その、空軍の方からちょっと困った報告が……」

 

「困った報告?何か重大な問題でも起きたのか」

 

「いえ、戦線に影響があるようなものでは無いのですが、そのぅ……」

 

「どうした、気にせず言いたまえ」

 

「先日、黄金・ダイヤモンド付柏葉剣付騎士鉄十字章を受章したルーデル少将なのです」

 

名前が出た瞬間になんだか嫌な予感がした。

というか私の予想が当たっていれば絶対に無断出撃とかそんなものだろ。

 

「ルーデル少将がどうかしたのかね」

 

「……えー、空軍司令部からの報告ですと、無断出撃が確認されているだけで237回確認されております」

 

「は!?」

 

「ですから、確認されているだけで無断出撃が237回です。しかも報告によればここ数か月のものなので大佐までの階級の際の無断出撃を加味すると余裕で1000回は超えているだろう、とのことです」

 

「どうなっとるんだ……」

 

「えぇっとですね、4か月前、閣下と空軍は多大な戦功と部隊指揮官の能力が十分にあるとの理由で彼を少将に任命されましたよね」

 

「そうだな。ルーデル少将は今までも度々無断出撃の報告が上がって来ていたが、少将になって部隊指揮官にでもなれば大人しくなるだろうと」

 

「どうやらルーデル少将は部隊指揮官を命じたことでその辺り、寧ろ好き勝手やり始めたようです。なんせ部隊指揮官ですから自分が無断出撃しても事実を握り潰せますし」

 

「……」

 

「空軍総司令部から、我々がいくら言っても聞かないから閣下のほうから色々と言って欲しい、との懇願みたいなものが届いております」

 

奴らは自分達の部下の統率も出来んのか!?

 

……いや、ルーデルが頭おかしいのであって他は普通なのだ。別に空軍総司令部が人心掌握が出来ないわけではない。ルーデルの頭がイカれているというだけで。

 

「彼は何と言い訳しておるのだ?」

 

「えー、

『気が付いたら爆弾とロケット弾を積んだ飛行機で空を飛んでいたので、そのまま帰って来るのは勿体無いからついでに攻撃してきた』

『飛行訓練しようと思って乗り込んだ飛行機に爆弾とロケット弾が積んであったので勿体無いから攻撃してきた』

『寝ていた筈なのに起きたら飛行機に乗っていて偶々爆弾とロケット弾がくっ付いていたので爆撃しに行っていた』

『報告書を作っていた筈なのに気が付いたら飛行機を操縦していた。偶々爆弾とロケット弾がくっ付いていたので攻撃しに行った』

このように言い訳しております」

 

爆撃機とか対地支援攻撃機とは言わず、あくまでも機種を断定せずに飛行機とだけ言っているところが余計に小賢しい。

 

というか彼の指揮下にはFw190戦闘機が36機、対地支援攻撃機が144機が存在する。これに輸送機と偵察機が加わりざっくり200機の航空機とその搭乗員、整備や管制、補給部隊、防空部隊などが諸々追加され、数千人の人員があるのである。

撃墜されたり時折爆撃を加えて来るソ連軍機からの被害で、実数としてはそれよりも幾らか少ないが、ともかくルーデル少将はこれだけの大きな部隊指揮官なわけである。

その指揮官がこんな、こんなだとは……。

 

「……少将に任命したのは失敗だったか」

 

とりあえず手紙で、《自分の立場と階級をよく理解し行動を改めるように》と嗜めておこう。

それでどうにかならなかったら?口頭で注意してそれでも無理ならもう知らん。

 

 

 

 

 

 

「閣下、戦線で大きな動きがありました」

 

「何があった?」

 

「動きがあったのはケーニヒスベルクです」

 

「どうなった?」

 

「先日、敵の兵力移動が各戦線で確認された、とご報告申し上げた事は覚えていらっしゃいますでしょうか?」

 

「うむ、覚えている。それがバルト3国、ケーニヒスベルク方面に集中しているという話もな」

 

「はい。我々はこのどちらかに集めた兵力を叩き付け、戦線に穴を開けてポーランドに北側から雪崩れ込むのではないかと想定しておりました」

「ですが、実際にはソ連軍はケーニヒスベルク、リトアニアのビルニュスに全力攻勢を仕掛けてきました」

 

「それは何故か?」

 

「恐らくですが、敵指揮官のジューコフ将軍は例え全力攻勢に出てもバルト3国とケーニヒスベルク全てを制圧するのは難しい、と判断したのではないでしょうか。なのでケーニヒスベルクとリトアニアを陥し、そこを突破口にしようと考えたのかと」

 

「なるほど。それで、両都市の状況は?」

 

「ケーニヒスベルクの防衛に付いているのは陸軍第10軍」

「戦力は第10軍から第19装甲師団、第23装甲師団、第37歩兵師団、第151歩兵師団、第183歩兵師団、第337歩兵師団、第7砲兵師団、第18砲兵師団、第3輜重師団、第6工兵師団、第12防空師団、合計20万名。それと装甲列車が2車列」

「空軍からFw190戦闘機472機、Bf109戦闘機236機、Ju77対地支援攻撃機72機です」

「こちらは問題ありません。ケーニヒスベルク周辺には多数のトーチカ、中には20cm砲などもありますし、海路からの補給が出来ます。陥落することは無いでしょう」

 

ケーニヒスベルクは開戦後も要塞化が進められていた。

ここは反撃作戦実施の際に攻勢発起点として重要な位置にあり、ここが陥落するとバルト三国が孤立化する。なので戦前よりかなりの力を入れて防衛設備を整えていたのだ。

 

国境線から始まる第1防衛線、第2防衛線、第3防衛線が突破されても問題無いように、ケーニヒスベルク市街地周辺には更に2つの強固な防衛線が整備されていた。

将軍達が言うように、あぶれていた巡洋艦用の砲身を流用した20.3cm砲を装備するトーチカも幾つか存在しており、無数のトーチカや障害物、対戦車壕が大量に整備され、キルゾーンも設定されており敵からの攻撃を防ぐのは簡単だ。

 

そして問題となる補給であるが、ケーニヒスベルクは背後に海を控えており、少なくともドイツ海軍が消滅したりしない限りは船団方式であったり、単船でも空軍のエスコートが常に望める状態で航行が可能な手筈を整えている。なので補給の問題も無い。

 

ケーニヒスベルクは第1防衛線が突破された時点で、ケーニヒスベルク在住の全国民は強制的にケーニヒスベルク市街地に避難するように法令が整えられている。

少なくともここに避難してしまえば海路からの脱出も可能だし、軍と一緒に立て籠もることも出来る。

 

「補給は安定しているか?」

 

「消費される砲弾薬や食料燃料の量が量ですので、備蓄分や前線部隊補給用を加味して、最初の補給は10日後。それ以降が週に1度の船舶補給を計画しております。反撃作戦は閣下の認可があればいつでも可能です。戦力は殆ど失っておりませんから」

 

「反撃は敵が消耗して疲弊するまで待て。国民の状況は?」

 

「戸籍上の全国民は少なくとも全員が市内への避難が完了しております。こちらも船舶の手筈が整えば本国に避難させることが出来ます」

 

「宜しい。ケーニヒスベルクは問題無いな」

 

あそこは将軍達も言うように、戦前から大要塞化を施していたところだ。

戦略上も鉄道結節点が集まっているし、何より陥落するとこちらの戦略にモロに影響が出る。

バルト3国との陸路での繋がりが無くなると言うのも見過ごせない。だから他の防衛線と同じかそれ以上に力を入れて防衛線を整備していた地域でもある。

 

 

 

「はい。ですが問題はビルニュスです」

 

「ビルニュスは現在ソ連軍の大規模な包囲戦を仕掛けられております」

「国境線の第1防衛線、第2防衛線は既に突破され、ビルニュスは第2防衛線と第3防衛線の間に位置する都市で、以前より砲弾が時折飛んでくる場所ではありました」

「ここは立地上、リトアニア中央戦線の第1、第2防衛線への補給拠点として重要な場所であるのは共通認識ですので十分な防衛設備を整えて、いざと言う時に備えてもありました」

 

「だろうな。何が問題なのだ?」

 

「ビルニュス守備隊は4000名でしたが、これに加えて中央戦線で戦っていた部隊が撤退してきて集中してしまったのです」

 

「どれぐらいの兵力だ?」

 

「我が軍から4個歩兵師団(2万名)、1個装甲師団(1万4000名)、1個砲兵師団(人員約5000名)を中心にその他部隊。そしてリトアニア軍から3個歩兵師団。スペイン人義勇兵から成る第190、第191歩兵師団。イギリス人義勇兵から成る第195歩兵師団、第196歩兵師団。戦車約600輌、火砲300門。対空戦車を合わせて高射砲324門、高射機関砲180基、兵員27万名となります」

 

「多過ぎるな」

 

ビョルニスは東西約8km南北約12kmの町だ。

戦前から補給拠点として整備していたが規模としてはそこまで大きい町では無い。

そこに27万もの兵力に1000を超えるの火砲と戦車が集まるとは不味い事態になったな。

ビョルニス守備隊と民間人を合わせればざっと30万ちょっと、と言ったところか。

問題は物資がどれぐらいあるのか、どれぐらい保つのかだな。

 

「それで物資はどれぐらい保つ?」

 

「現地の補給担当将校によれば、弾薬500t、燃料100立米(1000t)、食料180t。他を合わせて1800t。Me366輸送機に換算すると600機分になります。そして敵が大規模攻勢に出てくれば更に倍の3600tの物資が必要になります」

 

「多過ぎるな……」

 

600機も輸送機が必要となると、全戦線で配備されている輸送機1800機の内の三分の一になる。

戦闘などで戦死、負傷した者は後送されるし、重火器なども毎日破壊されたりする。なので各部隊の兵員や重火器の充足率を考慮したとしても、必要となる輸送機数が500機を下回ることは無いだろう。

それでも1000機の輸送機か……。二分の一を軽く超える機数を用意することは難しいだろうな。

 

「各部隊が放棄してきた分の補給を行った後の在庫を数えたところこのままの砲弾消費量であれば砲弾薬は1週間が限界とのことです。食料水は切り詰めれば2週間はなんとかなるようですがそうなると戦闘どころではありません。なので早急に補給をしなければ飢えて死ぬのが先か、弾薬が尽きて素手で戦うのが先か」

 

「撤退は?」

 

「今後のことを考えればビルニュスを失陥するのは避けたいところです」

 

確かに今ビルニュスを失陥すると、リトアニア戦線が第三防衛線まで後退する上に敵に前線近くに貴重な大規模拠点を与えてしまうことになる。

そうなればいよいよリトアニア全土の失陥が現実味を帯びてきてしまう。

 

反攻作戦を実施するにも、ビルニュスを奪還するという手間が加わる。

失うのを避けたい、と言うのは納得が出来る話である。

 

「なるほど。では補給についての計画は?」

 

「ビルニュス空港がまだ我々の手中にあるのでそこを利用して輸送機による補給を立案しております。これに備えて空軍の輸送機を抽出する予定です」

 

「必要物資量を満たせるのか?」

 

「各戦線から抽出しても300機が限界です。これ以上は各戦線への影響もあるので厳しいと言わざるを得ません」

 

現在、空軍での輸送機の稼働機数は1800機。

現状の輸送機の優先度は低く、戦闘機、爆撃機や対地支援攻撃機の生産が最優先となっている。

なのでビルニュスへの補給任務に彼らを充てると、各戦線での輸送機は1200機となる。整備中であったりで稼働していない機を除けば1000機を下回るだろう。

 

単純に輸送機の数が足りないと言うのに加えて、天候などの気象条件や少なからず敵機の迎撃や対空砲による損害を考慮すれば物資量を満たすことはどうやっても出来ないのである。

 

「ビルニュス守備の指揮を執っているザイドリッツ大将によれば、『現在も敵の人命軽視からなる激しい攻撃を受けている。可能な限り早急に解囲がなされるか、内側からの突破、或いは十分な補給と兵員の補充が受けられなければ我々は全滅するのみである』と」

 

「現実的な問題として、外側からの解囲、内側からの突破は可能なのか?」

 

「……いえ、難しいかと思われます。理由は幾つかあります。一つは弾薬不足。もう一つは敵兵力が少なくとも数の上では強大であること」

 

「幾らソ連軍と言えども、油断はならぬと言う事か」

 

「はい。事実最も防御が分厚い第1防衛線を突破し、第2防衛線も食い破った相手です。4倍近い敵を相手に突破を試みても大損害を食らって一部部隊の突破が成功すればまだマシ。最悪、兵力を丸々失うことになります」

 

「よろしい。ではビルニュスに部隊を立て籠もらせるという方針で作戦を計画、進める様に。必要であれば各戦線の輸送機が多少足りなくなっても構わん。しかしそれでも足りなかろう。何か解決策はあるか?」

 

「はっ。解決策としては1日2往復させるか、対地支援攻撃機の武装を全て取り外して一時的な輸送機として活用することも出来ますし、爆撃機に物資を詰め込んでの輸送任務も出来ます。それでも1800tの物資を毎日送り込むのは厳しいかと」

「ですが、一日1000tの補給は確約致します。半分程度の物資量ですが、空軍としてはこれが限界です」

 

「海軍から、対地支援攻撃機の代わりに艦載機で支援を行えます」

 

「宜しい。ではビルニュス守備隊への支援は全軍が十分に協力をして行うように」

 

「「「「「はっ」」」」」

 

こうして一年間に及ぶビルニュスの戦いが始まることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビルニュス守備隊から連日のように物資をもっと寄越せ、と連日電文が送られてきております」

 

「補給はどうなっている?」

 

「毎日輸送機と対地支援攻撃機が市内、飛行場に物資を落としておりますが、輸送機の数が少なく頑張っても1000t。必要補給量には到底及びません」

 

「空軍、どうにかならないのか?」

 

「これでも対地支援攻撃機の一部を武装を取り外した上で輸送任務に一部従事させているのです。これ以上はどうにも……」

 

輸送機の数はそう簡単に増やすことは出来ない。

寧ろ一日1000tの補給量を維持しているだけでも空軍は良くやっている。

 

「他戦線の輸送機を可能な限りビルニュスに回せ」

 

「はっ」

 

 

以下、ビルニュス司令部からのもっと補給を寄越せ(意訳)の文句を抜粋したものである。

 

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4月7日

天候 若干の雨

悪天候下、午前中に輸送機200機、対地支援攻撃機15機が飛来。

砲弾薬550t、燃料60tを受領。

負傷者1200名を後送。

 

午後に輸送機220機、対地支援攻撃機21機が飛来。

砲弾薬600t、燃料60t、食料14.7tを受領。

負傷者983名を後送。

 

砲弾薬1150t、燃料120t、食料14.7t。

合計 1284.7t

 

補給量は足りないが、天気が悪い中の輸送任務に感謝する。

 

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4月25~26日

悪天候により補給無し。

30機程度の輸送機が少し天候が回復した瞬間を狙って危険を冒しながら飛来し、砲弾薬90tを受領。

 

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5月8日

天候 晴れ

午前に輸送機211機、対地支援攻撃機8機が飛来。

砲弾薬540t、食料98.6t受領。

帰路に負傷者324名を後送。

 

午後に輸送機183機、対地支援攻撃機11機が飛来。

砲弾薬450t、食料106.7tを受領。

帰路に負傷者201名後送。

 

砲弾薬990t、食料205.3tを受領。

一日の合計 1195.3t

 

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5月19日

天候 雨と強風

悪天候の為、午前中に輸送機32機、対地支援攻撃機20機が飛来するのみ。

燃料75t、食料35tを受領。

 

砲弾薬は今までの補給分があるので幾らか余裕があるが、燃料と食料が少ない。

もっと補給量を増やして欲しい。

 

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5月29日

天候 晴天

 

晴天なのに輸送機23機、対地支援攻撃機17機しか来なかった。ふざけんな。もっと寄越せ。

食糧69t、燃料11.9t受領。

帰路で負傷者161名を後送。

 

合計80.9t。

 

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6月22日

天候 晴れ

午前 

輸送機170機、対地支援攻撃機30機が飛来。

砲弾薬110t、食料400t、燃料21tを受領

帰路で負傷者211名後送。

 

午後

輸送機140機、対地支援攻撃機27機が飛来。

弾薬60t、食料360t、燃料10.5t、嗜好品及び郵便物8.4tを受領。

帰路で負傷者128名後送。

合計969.9t。

 

飯なんかどうでもいいから砲弾と銃弾をもっと寄越してほしい。じゃないと一週間持たない内に死ぬ。

 

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6月25日

天候 晴れ

午前

輸送機221機、対地支援攻撃機15機が飛来。

砲弾薬663t、燃料10.5tを受領。

帰路で負傷者134名を後送。

 

午後

輸送機211機、対地支援攻撃機16機が飛来。

砲弾薬600t、燃料44.2tを受領。

帰路で負傷者201名を後送。

 

砲弾薬1263t、燃料54.7t。

合計1317.7t。

 

毎日これぐらいの補給があると嬉しいので、空軍は頑張ってくれ。

 

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7月13日

天候 快晴

午前

輸送機139機、対地支援攻撃機21機が飛来。

砲弾薬217t、燃料200t 食料14.7tを受領。

 

午後

輸送機144機、対地支援攻撃機20機が飛来。

砲弾薬360t、燃料86tを受領。

 

砲弾薬577t、燃料286t、食料14.7t

合計877.7t

 

最近食料が足りない。

 

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7月27日

天候 快晴

午前

輸送機56機、対地支援攻撃機36機が飛来。

砲弾薬66t、燃料25.2t。

嗜好品として果物27t、チョコレート36t、パン6t、フルーツウエハース9t、煙草と酒が合計で24t。

 

午後

輸送機61機、対地支援攻撃機27機が飛来

砲弾薬60t、燃料18.9t、パン51t、煙草9t、チョコレート30tを受領。

 

砲弾薬126t、燃料44.1t、パン57t、果物27t、チョコレート66t、フルーツウエハース9t、煙草と酒33t。

合計362.1t。

 

少な過ぎる。

もっと寄越してほしい。

 

医療状況の報告

これまでに軍、民間人合わせて負傷者1万2133名が救助され、現在ビルニュスには軍と民間人合わせて約4500名の負傷者が存在する。

現状、各種包帯、薬剤等が必要ではあるが在庫は220tほどあるので緊急では無い。

しかしながら負傷者を航空機に積んだ際にそのまま持って行った毛布と担架は予備が無いので早急に返却されたい。

 

栄養状態と健康状態

兵士、民間人共に栄養状態は今のところ良好。

ペスト患者3名、腸チフス6名が確認されたが封じ込めに成功し、それ以外での流行の兆しは無し。

 

ーーーーーー

 

8月4日

天気がクソだったので補給は出来なかったし、こんな日に限ってソ連軍が大規模攻勢を仕掛けてきたので備蓄弾薬が半分に低下。

輸送機のパイロットと搭乗員を15名救助したので砲撃等で死ななければ次の補給の時に後送する予定。

 

チョコレートみたいな少量でもカロリーを多く摂取出来るようなものは喜ばしい。

なのでそう言った食料の補給量をもっと増やして欲しい。

 

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8月17日

 

天候 晴天

午前 

輸送機27機 対地支援攻撃機13機飛来

砲弾薬60t 燃料21t パン5.6t チョコレート3.5t

 

午後

輸送機19機 対地支援攻撃機20機飛来

砲弾薬57t 燃料7t パン3.5t チョコレート3.5t

 

砲弾薬117t 燃料28t パン9.1t チョコレート7t

合計161.1t

 

天気が良いのに全く輸送機が来ないとはどういうことか?

 

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8月26日

 

天候 晴れ

午前

輸送機217機 対地支援攻撃機13機

砲弾薬600t 燃料51t パン3.5t チョコレート5.6t

 

午後

輸送機192機 対地支援攻撃機21機

砲弾薬450t 燃料126t パン7t チョコレート7.7t

 

砲弾薬1050t 燃料177t パン10.5t チョコレート13.1t

合計1250.6t

 

これぐらいの補給が毎日あれば嬉しい。

それはそうとチョコレートの補給量を増やして欲しいのと、スペイン人義勇兵がパエリア食べたいと言っていたので、士気維持の為に少量で良いのでパエリア用の米と食材を送って欲しい。

それと我々用に肉とかも補給してほしい。

 

ーーーーーー

 

9月7日

 

天候 曇り

午前

輸送機182機 対地支援攻撃機20機

砲弾薬360t 燃料90t 食糧96t 防寒着3万5千着

 

午後

輸送機171機 対地支援攻撃機19機

砲弾薬360t 燃料63t 食糧90t 防寒着3万5千着

 

砲弾薬720t 燃料153t 食糧186t 防寒着7万着

合計1130t

 

防寒着の数と冬に備えて暖房用燃料を早急に増やして欲しい。

リトアニアは9月になると日照時間が段々と短くなり、気温も下がってきている。

それとパエリア用の米と食材の補給、感謝する。義勇兵もとても喜んでいた。出来れば月に1度か、2か月に1度は送ってくれると士気高揚の観点から望ましい。

 

ーーーーーー

 

9月22日

天候 曇り

午前

輸送機183機 対地支援攻撃機21機

砲弾薬360t 燃料105t 食糧45t チョコレート39t 防寒着2万5千着 毛布1万2千枚

 

午後

輸送機172機 対地支援攻撃機13機

砲弾薬360t 燃料90t 食糧45t チョコレート21t 防寒着2万5千着 毛布1万2千枚

 

砲弾薬720t 燃料195t 食糧90t チョコレート60t 防寒着5万着 毛布2万4千枚

合計1085.8t 

 

気温がどんどん下がってきている。

先日は夜の気温が5度以下にまで下がり、防寒具の足りない兵は身を寄せ合って1枚の毛布で凌ぐ状況である。今はまだ大きな問題にならないが、10月になれば気温はより低くなり0度を下回る可能性がある。

なので暖房用の燃料と防寒具、防寒着、毛布を一週間以内に最低でも人数分、予備も配給して欲しい。

 

このままでは兵達は凍え死ぬことになる。

 

ーーーーーー

 

10月3日

 

天候 晴れ

午前

輸送機199機 対地支援攻撃機25機

砲弾薬390t 燃料150t 食糧57t 防寒着2万着 毛布2万枚

 

午後

輸送機202機 対地支援攻撃機16機

砲弾薬390t 燃料150t 食糧66t 防寒着2万着 毛布2万枚

 

砲弾薬780t 燃料300t 食糧123t 防寒着4万着 毛布4万枚

合計1231.7t 

 

砲弾薬と燃料はこの調子で補給され続ければ問題無し。

食糧も問題無く、唯一問題なのは防寒着と毛布、そして天幕が十分な数が無いことである。

 

現在、16万着の防寒着と6万4千枚だが、全員に行き渡らせることは出来ていない。

本格的な冬が訪れる前に、天候が崩れる前に各種物資と防寒着、防寒具、天幕を十分に送り込んで貰いたい。

現在兵士達は足りない天幕を補う為に、塹壕や陣地ではパラシュートの生地で代用しているが防寒性能もであるが、数も足りていない為これでは凌げない。

 

ーーーーーー

 

10月23日

 

天候 曇り

午前

輸送機221機 対地支援攻撃機21機

砲弾薬399t 燃料180t 食糧84t 防寒着3万着 毛布4万枚

 

午後

輸送機211機 対地支援攻撃機23機

砲弾薬399t 燃料150t 食糧84t 防寒着3万3千着 毛布4万枚

 

砲弾薬798t 燃料330t 食糧168t 防寒着6万3千着 毛布8万枚

 

陽が落ちると急速に気温が下がり始めている。

ちらほらと雪が降る事もある。幸い暖房用燃料や防寒着は足りているが、やはり天幕が足りておらず、3分の2以上の兵達が野晒しで寝泊まりする状況である。

民間人用の防寒着と毛布も追加で補給して欲しい。

今はまだ凍傷などに罹る兵や民間人は出ていないが、あと数日で本格的な降雪や気温低下が予想されるので、10月中に天幕、防寒着、毛布を可能な限り補給してほしい。

 

ーーーーーー

 

10月25日

天候 雪

 

午前

輸送機204機 対地支援攻撃機16機

砲弾薬360t 燃料120t 食糧92t チョコレート20t フルーツウエハース20t 

天幕300個 防寒着1万2千着 毛布1万5千枚 煙草9万8千本

 

午後

輸送機199機 対地支援攻撃機20機

砲弾薬360t 燃料120t 食糧60t チョコレート30t

フルーツウエハース27t 天幕233個 防寒着1万2千着 毛布1万5千枚

 

砲弾薬720t 燃料240t 食糧152t チョコレート50t フルーツウエハース47t

天幕533個 防寒着2万4千着 毛布3万5千枚 煙草9万8千本

 

合計1234.2t

 

雪が降っている中の輸送、感謝する。

天幕と毛布、民間人用の防寒着の数がまだまだ足りていないので、これらを次の補給で送り込んで欲しい。

砲弾薬に関してはこの量の補給では本格的な冬が到来し、激しい降雪などの悪天候下で補給が出来ない場合に足りなくなるので11月半ばまでに最低でも1300tは備蓄しておきたい。

 

食糧に関しては、少ない量でカロリーを多く補えるチョコレートが重宝する。

フルーツウエハースと煙草は兵達の数少ない楽しみなので少なくても良いから毎回補給してほしい。

 

ーーーーーー

 

11月2日

天候 晴れ

午前

輸送機231機 対地支援攻撃機28機

砲弾薬510t 燃料45t 食糧60t チョコレート12t フルーツウエハース12t

天幕150個 防寒着8千着 毛布1万5千枚 

煙草11万本 酒19.6t 不凍液54t

 

午後

輸送機228機 対地支援攻撃機32機

砲弾薬510t(170機) 燃料30t(10機) 食糧60t(20) チョコレート15t(5 フルーツウエハース12t(4

天幕200個 防寒着1万着 毛布1万枚 煙草15万本 酒15t 不凍液57t

 

砲弾薬1020t 燃料75t 食糧120t チョコレート27t フルーツウエハース24t

天幕350個 防寒着1万8千着 毛布2万5千枚 

煙草26万本 酒34.6t 不凍液111t

 

合計1419t

 

報告では明日、或いは明後日辺りから一週間以上天候が崩れるらしい。

そのため、その間補給が出来ないことを考え、その間凌げるだけの物資を送り込んでくれたこと、感謝する。

兵力に関しては22万名ほどが指揮下に存在し、5万名が負傷、或いは戦死となり後送されている。この分であれば持ち堪えられる。

 

ーーーーーー

 

11月7日

天候 吹雪

 

午前

輸送機5機 対地支援攻撃機9機

砲弾薬21.3t

 

気温は-8度を記録し、一応の予定として補給が予定されていたが有視界は数mしか無く、その上強風とあって補給は中止された。

しかしながら一瞬吹雪や弱まって天候が幾らか回復した瞬間を突いて少ないながら補給が実施された。

こんな天気の中、墜落する危険性もあるのに来てくれて本当に感謝する。

 

気象部隊によれば少なくとも同じような天気がもう数日は続くとされているので、その間我々は補給無しで戦わねばならない。

 

食糧や燃料の備蓄は多くあるので、寒さで凍え死ぬことは無いが、問題は砲弾薬である。

11月2日に補給された1020tに今までの備蓄分を加えて2800tの砲弾薬備蓄があったが、このクソ天気の中、ソ連軍は攻撃を仕掛けて来る。

中規模攻撃2回、大規模攻撃1回が加えられ、備蓄していた砲弾の内、凡そ900tを消費。

現在の備蓄は細々とした戦闘などの消耗分を加えて1700tにまで減っている。この備蓄量だと大規模攻勢2回か3回ぐらいは凌げるが、悪天候が続いてそれに乗じたソ連軍が攻撃を仕掛けてきたら不味い。最悪、白兵戦に成り兼ねない。

早急に対策を取らなければならない。

 

ーーーーーー

 

11月16日

天候 吹雪

 

午前

輸送機4機 対地支援攻撃機5機

砲弾15.5t

 

午後

輸送機7機 対地支援攻撃機7機

砲弾21t 燃料4.9t

 

砲弾36.5t 燃料4.9t

 

7日からずっと天候が崩れており、補給が中々受けられていない。

それでも時折天候が幾らか回復した隙を突いて数機~十数機が物資を運んできてくれるが、ソ連軍の攻撃は吹雪だろうが収まることは無く、既に砲弾備蓄量が1000tを下回った。

小銃用、機関銃用弾薬の備蓄はまだ余裕があるものの、これも既に1200tを下回っている。

暖房用燃料、車両用燃料は余裕があり、天候回復後も暫く保つ。

 

食糧に関しては、問題無く配給が行えているがこちらもまた余裕があるとは言い難い。

天候回復後、即座に砲弾薬と食糧を補給してもらいたい。

 

ーーーーーー

 

11月25日

天候 晴れ

 

午前

輸送機233機 対地支援攻撃機43機

砲弾薬729.1t

 

午後

輸送機228機 対地支援攻撃機24機

砲弾薬700.8t

 

砲弾薬1430.8t

 

本日、17日ぶりに天候が回復した。風速が若干強いところがあるが空に雲は一つも無く、補給を行うには最適である。

食糧はまだ幾らか余裕があるので、最優先で砲弾薬を補給してもらった。

補給前の砲弾備蓄量は235t、弾薬備蓄量は430tにまで低下しており、大規模な攻撃が一度でもあれば備蓄が尽きるほどであったが間に合ってよかった。

 

次の補給までは砲弾薬を中心に補給を行って貰い、備蓄量を可能であれば3000t以上にまで回復しておきたい。

食糧と燃料の補給はそれ以降でも問題はない。

 

ーーーーーー

 

12月5日

天候 曇り、雪

 

午前

輸送機218機 対地支援攻撃機37機

砲弾薬679.9t

 

午後

輸送機217機 対地支援攻撃機33機

砲弾薬674.1t

 

砲弾薬1354t

 

本日の補給で備蓄量は2500tを超えたので、一旦問題無い。

次回の補給からは食糧、燃料をお願いしたい

 

ーーーーーー

 

 

 

とまぁ、こんな感じである。

輸送機は連日、午前午後で数百機の数で物資を送り込んでいるがやはり物資は足りていないようである。

ソ連軍は今が好機とあって、ビョルニスに対する攻勢を強めつつある。具体的には他戦線から兵力を引き抜いてでもビョルニスに兵力と火力を送り込んでいるらしい。

事実、他戦線からの兵力移動が見られるし、他戦線に対する圧力が少なくなっている。

 

ソ連軍の対空砲や戦闘機による妨害は無いので送り込んだら全部届いているのがまだマシな点か。

なにはともあれ、現状の我々にビョルニス解囲作戦を実施する余裕は無いので敵が包囲網の形成に疲弊してくれるタイミングを待つしかない。なので航空機による補給で彼らには立て籠もって貰うしかない。

 

「閣下、ビョルニスに輸送機の多くを割かれてしまったので、その分を補充する為の輸送機と対地支援攻撃機増産計画をご承認頂きたいのですが……」

 

「何機ほどか」

 

「150機の増産を予定しております」

 

「戦闘機や爆撃機の生産に影響は?」

 

「多少は出ますが戦線に影響が出ないように采配致します」

 

「宜しい。書類を」

 

ビョルニスへの補給を行う為、各戦線から引き抜いた輸送機や対地支援攻撃機を補充する為の書類にサインと印鑑を押す。

この引き抜きの影響は意外にも大きく、偵察大隊などによる敵地後方浸透によるソ連軍補給線の破壊作戦に大きな影響が出ているのである。

この偵察大隊によるソ連軍補給線破壊作戦はソ連軍前線部隊への補給を大きく妨害しており、それにより物資欠乏に悩みながら我々と戦うことになる。

だが輸送機からの空中投下による物資補給が輸送機数の関係で制限されることがある。

こうなるとソ連軍補給線破壊作戦は十分な効果を得られないのである。

輸送機の任務はこれだけではないので、専任させる訳にはいかないのだ。

 

その為に、輸送機の数を増やす必要がある。

少なくともビョルニス解囲作戦はどれだけ早くても1944年になるだろう。

これは反攻作戦の一環として行われるものであり、ビョルニス守備隊はそれまで耐えなければならないのである。だから我々は如何なる手段を用いてでもビョルニス守備隊を耐えられるようにバックアップしなければならない。

 

ーーーーーーーーー

 

 

時は暫く戻り、ビョルニスの戦いが始まってから3ヶ月経過した頃。

 

「ビョルニス守備隊は頑強に抵抗しております。ですが幾らか北と東の防御陣地への侵入を許した模様です」

 

「大丈夫なのか?」

 

「すぐに反撃を行い、追い出したとのことですが陣地が未完成なので再び来られるとまた侵入されるだろう、と」

 

「北側と東側の争奪戦になる、か」

 

「はい。東側と北側は敵正面となる位置であったので元から整った防御陣地と兵力を配置しておりましたが、予想以上にソ連軍の攻勢圧力が凄まじく、油断出来ない状況です」

 

「現状、東側と北側での戦いが主軸です。ここを抜かれると戦況的にかなり危うくなります」

 

「ビョルニス守備隊からは何か言ってきているか?」

 

「物資の補給は勿論ですが、兵力補充も随時必要であると報告が」

 

「守備隊はどれぐらいの兵力を有しているか?」

 

「現在、5万4000名ほどの戦死傷者を出しており、戦死者は6457名。重傷者は1万4311名。軽傷者が3万4223名となっております。戦死者と重傷者は航空機で後送。軽傷者は現地で治療後に部隊復帰となっております」

 

「とすると、2万1000名の損耗という事だな」

 

「はい。軽傷者を除いてざっくり8〜10%の損耗となります」

 

「ビョルニスの戦いが始まってから3ヶ月で10%か。あまり良い状況ではないな」

 

「特に損耗が激しいのはスペイン人義勇兵師団です。第190歩兵師団は27%で5940名、第191歩兵師団が31%で6820名の損耗となります」

 

「義勇兵師団は師団内でやりくりさせざるを得ない。言語の問題もあってドイツ人を配属するわけにもいかん」

 

義勇兵師団は各国の人間で構成される。

士官こそ英語、スペイン語を話せるドイツ人が幾らか配置されているが、これの問題は部隊内での公用語がスペイン語や英語であるという事だ。

だから英語やスペイン語を話せないと意思疎通の問題がある。

なので人員補充が中々難しい。

 

今でもイギリスやスペインから義勇兵が来ているが、武器兵器の適合訓練を施さなければならない。それに義勇兵自体人数が多い訳でもない。2個師団規模を編成出来たこと自体が割と驚くところなまであるからだ。

ビョルニスに立て籠もるイギリス人義勇兵師団、スペイン人義勇兵師団への補充人員は出来たとしても、2〜3個大隊ほどの人員が限界だろう。

 

なんにしてもビョルニスは悩みの種だな。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

ビョルニス攻防戦が始まって半年。

立て籠もる部隊は頑強に抵抗し損害を被りながらも同地を維持している。彼らの戦いぶりは凄まじく叙勲者や感謝状の授与が後を経たない。

例えばとある対戦車砲や高射砲は1日の戦闘で60輌を超えるソ連軍戦車を撃破したり、ソ連軍機を高射機関砲が多数撃墜したとかで勲章を授与されたり。

映像記録も多数残されており、戦意高揚に大いに役立っている。

 

問題視されていた補給だが、これはビョルニスから損耗の大きい部隊順に10万名を脱出させ、残る10万名を守備に充てさせる事とし、必要物資量を抑える作戦で解決した。

元々、ビョルニスはそこまで大きい町ではなく、20万を超える兵力を収容するにはかなり無理があったし、これだけ数が居ても全てが同時に戦線に出て戦える訳でもない。

そこで補給問題の解決と多過ぎる部隊数を整理する目的で半数を脱出させ、ビョルニス守備隊の補充、予備兵力として後方に配置することを決定した訳である。

これで補給問題が解決し、十分な物資がビョルニス守備隊に行き渡り、兵数は減ったが戦闘力自体は変わらないという良い結果に結び付いた。

 

ともかくビョルニスが陥落する可能性は無くなった。あとは反攻作戦まで耐えればよい。

 

 





フリードリヒ・パウルス将軍
この世界でも指揮する部隊と共にソ連軍に包囲されちゃった人。




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