ダンジョン生活記   作:ジャーマンポテトin納豆

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遥か奥の世界

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……っ!!」

「皆、ごめんね……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

2020年以降、何かと騒ぎに事欠かなかった。

世界的なパンデミックが起きたり、どっかの国がどっかの国に攻め込んで、世界を実質二分した戦争が起きたりでかい地震が起きたり。

まぁしかし、それらも決定的に自分自身に関わる範囲で何かが変わるなんてことは無く、結局のところ同情はすれども他人事だったのだ。

 

それがまるっきり覆されたのは十数年も前になる。

 

 

 

 

2025年、突如として世界各地のあらゆる地点で謎の建造物が発生した。

建造物と言っても、古代ギリシアみたいな神殿に似たもの、寺社仏閣みたいな明らかに人工物と分かるものから、ただの洞窟にも見える自然物と見た目は様々だった。

 

なぜ現れたのか?何のために?共通する事項は?人為的なもの?超自然現象?

さまざまな憶測と仮説が飛び交ったが結局何一つ分からなかった。

 

 

 

日本に現れたのは北から帯広、千歳、仙台、東京、名古屋、京都、大阪、熊本、長崎、鹿児島。

世界で一番出現数が多い。

各国にも複数出現している国はあるがここまで多いのは日本以外だとアメリカだけだ。

 

勿論政府も黙って見ている訳もなく、実害があるか否かを確かめるために調査団を派遣した。

第一陣は学者だけで構成されていたが、当初一週間の期間を予定していたのにも関わらず、二週間以上一切音沙汰無し。

 

第二陣は早々に救助隊になった。

第二陣は超法規的措置として自衛隊が、それも無反動砲を含めた比較的強力な銃火器を多数携行していく事になったが、第一陣同様突入直後から通信途絶。

三日後、ズタボロになった状態の自衛隊員十名が辛うじて帰還した。

 

曰く、見たことのない化け物が沢山湧いて出てきた。

曰く、一切の通信が取れない。

曰く、銃火器が使えない。

 

彼らは自衛隊の中でも間違い無く、選りすぐりの精鋭であるにも関わらず百名の内たったの十名が辛うじて帰還し、しかも五体満足だったのは、ただ一人だけ。

いずれにせよ彼らが持ち帰った数少ない情報は貴重なものだった。

 

 

それ以降、多くの犠牲を払いながら挑み、徐々に解明されたことがある。

第一に内部で使用可能な武器は弓、剣、槍と言った、古めかしいものだけ。

銃火器は極々例外を除いて使用不可。

 

出入りは自由だが、内部では常にモンスターがドロップを繰り返し、倒されると一定時間後にドロップする。

しかもドロップする場所はランダムで、モンスターは好きなように徘徊をしている事と、構造が迷路のようになっていて複雑だから少しでも奥に入ってしまうと出るのは困難。

更には罠、罠部屋、モンスターが大量に現れるモンスターハウスなどなどこちらを殺しに来ている仕掛けが満載だ。

 

内部には未知の力、エネルギーがあり、これを魔力と呼ぶがこれを用いることによって通信機器が使えるようになる。

ダンジョン内部限定で空中にステータスが投影、表示される。

 

 

分かったのはこれぐらいで人々はこの分からないづくしの、突然現れたものをダンジョンと呼んだ。

 

 

 

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ダンジョン出現から二年後。

日本政府は個人の責任である事を条件にダンジョンを解放した。

 

当初は馬鹿な連中が無為無策のままに突っ込んでいってそのまま死ぬなんて事も多々あったが、政府が探索者協会を立ち上げて、会員制にしたことがきっかけでそう言った事例は無くなった。

まぁ探索者でもダンジョン内部でモンスターに殺されるとかは良くあるがそれは危険を承知の上で挑んでいるんだから仕方が無いな。

 

探索者協会は登録制で、年に一回の更新が必要になる。

 

ダンジョン内部でドロップする素材は高い利用価値があり、鉱石系からモンスターの素材まで多岐に渡る。

素材は探索者が個々に売り先を見つけて直接取引をするか、或いは探索者協会を介して売買される。

特に日本は一般的には資源に恵まれないと言われる国だから他国に比べればより恩恵にあやかりたかっただろうな。

 

とまぁ、世界各地に現れたダンジョンは、確かに混乱は齎したが恩恵も齎した。

どうやらダンジョンそのものから多量の魔力が放たれているらしく、世界は魔力に包まれた。

とは言え誰でも扱えるようになるとは言っても魔力を扱うのはちょっとばかり難しく、探索者志望でもなけりゃ使う奴はいない。

 

だから普通に生活する分には特に何ら影響は無かった訳だ。

まぁ魔力が溢れたお陰でダンジョン内と外界の通信機器を一々別にしなくて良くなったぐらいだろうな。

 

探索者を目指す奴は多い。

物語に憧れてだったり、一攫千金を狙ったり。

しかしゲームやらみたいには行かない、残酷過ぎる現実を叩きつけられて死ぬか、辞める奴もまた多い。

 

 

 

 

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ダンジョン出現から十数年が経った。

今じゃ十年以上もダンジョンの中で暮らし続けているが、まぁ果たしてここが本当の意味でのダンジョンなのかは疑問だ。

 

初めてダンジョンに潜ったのが、ダンジョンが一般解放されてすぐだった。

最初の一年ぐらいは他と同じように毎日朝から晩まで潜って家に帰って飯食って風呂入って寝る、を繰り返していたが今やダンジョンから十年は確実に一度も出ていない。

 

日がな一日、ダンジョンで生活しているから日数感覚も曖昧。

一応Gショックを腕につけているから日数は数えてるんだが、どうも一日の時間が二十四時間よりも長いらしく、曖昧なのだ。まぁアテにはならんな、目安程度だ。

それに一応一日ごとに印は付けているが怪我をしたり病気になったり家を空けた期間が長かったりで付けてない日がかなりあるから確実にズレているんだよな、これ。

下手したら数年以上ズレがある可能性もある。

 

長い時だと二か月ぐらいは帰ってきて居なかった筈だから、まぁうん、一応だ。

 

 

 

ダンジョンでの暮らしも中々悪くない。

人との関わりは殆どないから特段対人関係で何か気を使う必要も無い。

好きに、自由に生きている訳だな。

 

それにダンジョンのどこにでもいるウルフ系のモンスターとは比べ物にならないぐらい馬鹿デカくて強いウルフの一家と一緒に暮らしているし、他にも色々いるから寂しいとかとも無縁だ。

紆余曲折あった結果、彼らのボスになった。

 

デカさは一番小さいので車のハイエースより一回りぐらいデカい。

一番でかいやつは大型のダンプトラックぐらいになるからまだまだこいつは小さい方だな。

 

 

「アゥアゥァァァウッ」

 

「そうだな、そろそろ飯にするか」

 

六匹いるうちの一頭が昼飯はまだかと、前足でちょいちょいとやりながらシベリアンハスキーみたいな感じで訴えてくる。

最初は警戒していたがこうして一緒に生活していると中身は犬と変わらんと分かった。

見た目は馬鹿でかい車ぐらいの狼で凶暴っちゃ凶暴だが、牙を剥くのは敵相手だけ。

でかい図体の割には以外とかわいいもんだ。

意志疎通も出来るし、細かい事は出来ないが物を運ぶぐらいなら指示を出すとやってくれるかなり頭の良い連中なのだ。

 

 

 

今日の昼飯は先日仕留めたボア系モンスターを味付けしてから丸焼きにする。

ダンジョン内だと調味料は、塩とか香辛料なら手に入るが発酵食品、醤油やら味噌は手に入らんからな。

酒も自分で作ったやつが瓶一本だけあるにはあるが、不味くて飲めたもんじゃ無い。だから棚の肥やしになっている。

 

食料はモンスターだ。

味に差はあれど基本的に食える。

クソ不味い奴や毒持ちもいるがウルフ達が食わないやつは食わなければいい。あとは幾らかの実体験だ。

即死しない限りはなんとかなる。

 

魔法で串焼きにしたボアをしっかり丸焼きにして、うずうずとしている犬達の前に出していく。

だがすぐにがっつく訳じゃない。

 

こいつらもオオカミと同じで序列があり、俺は群れのボス。

だからボスが食べ始めるまで我慢しているのだ。

俺の分の肉が焼き上がり、食べ始めると少ししてからがっつき始めた。

あんな勢いで食うくせに、綺麗に食うんだよな。

 

骨までペロリと平らげ、体内に残っていた魔石だけは残して出してくる。

拳二つ分ぐらいのが六個。

 

使い道はよく分からんが、湯を沸かしたりと意外と使えるから山ほどストックしてある。

 

「ほら風呂だ風呂」

 

でっかい桶に魔石を使って沸かした湯を注いで呼ぶ。

でかくて毛が長いから洗うのは大変だが、中々に楽しい。

こいつら四六時中泥まみれになるまで遊んだり狩りをしたりするから洗わないと臭いし汚いしで、堪ったもんじゃない。

 

一頭づつの乾かしも入れたら六頭洗い終わるのに二時間掛かった。

魔石を使っているから手放しで乾かせるのはかなり楽だ。

乾かし終わったら武器の手入れだ。

俺は防具はあんまり身に付けない。

身に付けるのは精々チェストプレートぐらいなもので、後は精々膝当てと肘当てだけだ。

全身鎧なんて重いし邪魔だしいらん。俺は身軽な方が良い。

一通り手入れや作業が終わったら、眠りに着く。

 

 

 

翌日、直剣を一本、予備に日本刀みたいなやつを持ってダンジョンへ戻る。

 

「さて……。行くぞ」

 

「ワゥフ」

 

ハチ、と勝手に呼んでいるオオカミを連れてダンジョンに繰り出す。

他五匹は留守番である。

別に俺が居なくても勝手に狩りをして腹を満たすし平気だからな。

 

ハチは二番目に身体がデカく、強い。

こいつらのボスなのか母親なのかは分からないが、そいつに至ってはダンジョン内のあらゆる存在に勝つことが出来るぐらいの強さを誇る。

唯一力量が同じぐらいなのはダンジョンの一番下の階の、ボスであるドラゴンぐらいだろうか。

俺も初めてこいつと戦った時は良く勝てたなって思うよ。

 

 

今日の目的は食材を調達することだから楽と言えば楽だ。

 

ダンジョンの下の方に行けば、食えるモンスターや植物はわんさかいるし、それを適当に狩って魔石を使った冷蔵庫にぶち込んでおけばいいだけの簡単なお仕事だ。

それにボス討伐報酬で貰った転移魔法で食材が得られる階層に標を付けて飛べるようにしてあるからパッと行ってパッと帰ってくるだけでいい。

 

ハチの背中に食材やら何やらを入れておくための荷鞍を左右に二つづつの四つ。その中には一週間分の食糧と水。俺が装備する小さなポーチの中には万が一に備えてのエリクサーを何本か。

装備自体は動きやすさと軽量を重視したプレートメイル、あとは膝宛てと肘宛てぐらい。暖も取れる毛皮の外套にロングソードと予備の刀。それと刃渡り15cmぐらいの解体用ナイフ。

あとは地上世界で生活していた時から使っていたゼンマイ式腕時計ぐらいだな。

 

それ以外は防具を身に着けることは無い。

身軽なのが一番なんだよな、結局。

 

 

 

 

新世界に建てた家から出て、ダンジョンの入り口に向かう。

入口は中世風というか、石造りのドーム状の建築物だ。

その一軒家ぐらいの大きさの入り口に、何かよく分からん変なたゆんたゆんしてる膜?みたいなのがある。

それを通るとダンジョンの最深層153階に行けるというわけである。

しっかしダンジョンにしても、その先にあるこの世界にしても、なんで存在しているのか全く分からないってのがまた、冒険心を擽る。

 

 

 

転移魔法で指定した最下層104階に転移する。

因みに言っておくとこの転移魔法、万能だと思うかもしれないがんなことはない。

というのも転移先を魔法陣で固定しないと転移出来ないっていう欠点があるんだな、これが。

だから最下層以上の階層には転移陣を置いてないので転移出来んという欠点がある。

 

なんせこの特殊攻略条件で転移魔法を貰ったのが深層の、確か122階だったっけかな?

だったから態々上の階層に転移陣を置きに行くのが面倒くさくてなぁ。

 

しかも食材が取れる階層以外には転移陣を置いていないっていう怠惰の極みみたいな状態だ。

まぁ別にそれで不便はないし何かあれば別に自分の足で行けるし。

転移魔法、ちゃんと下準備すれば便利っちゃ便利なんだけどな。

 

この階層には美味い野菜だったり、美味いモンスターが多く生息している。だから食料調達には持って来いの場所だ。

 

 

 

「うし、こんなもんだろ……。そろそろ帰るか」

 

「ワッ」

 

一週間掛けて食材を集め終わり、帰る準備をする。

ドロップしたアイテムや、解体して得た肉、採取した野菜は全部アイテムポーチに突っ込んでおく。

このアイテムポーチもダンジョン内で手に入れた超貴重品だ。容量がどれぐらいあるのか実際のところ分からないんだよな。少なくとも俺が普段入れるレベルの物量だと簡単に収まるし。

 

今回の食材は結構レアなもんで集めるのに結構時間が掛かるんだよな。

その代わり美味い。滅茶苦茶美味い。

フキノトウみたいなやつで、甘味と苦みが良い感じに合っているんだよな。これを揚げたりして塩をちょっと付けて喰うと最高なんだよ。拳二つ分ぐらいの大きさの、野菜?山菜?が今回の主な目当てだ。

だが食うのは俺だけ。

オオカミ達は食わないからな。

それ以外にも肉やら魚やら、野菜類やらをしこたま採取して討伐してアイテムポーチに突っ込んである。

これで暫くは食い物に困ることは無いだろう。

ついでに偶々ドロップしてた牛型モンスターの変異種、しかも滅茶苦茶美味いヤツが居たからそいつも今回の戦果だな。こいつは俺が食ってきた肉の中で一番美味いヤツだから、食べるのが楽しみだ。

 

 

 

転移陣まで歩いていると、ハチが顔を上げてスンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいる。

ハチ含めてオオカミ達は確かに嗅覚が優れているし、ダンジョン内のどこにどんなモンスターが居るのかってことを把握出来るぐらいだが、匂いに興味を持つこと自体はかなり珍しい。特にダンジョン内での匂いに関しては殆ど初めてなんじゃないのか?

 

「なんかあるのか?」

 

目で何かある、と訴えている。

案内するように目で言うとすぐに走り出した。

 

二十分ぐらい走って、ある部屋に辿り着いた。

 

「この部屋、ランダム転移部屋じゃねぇか」

 

この部屋はランダム転移トラップがある部屋だ。

この転移トラップ、そこらの通路だとかにポンと置いてあるわけではなく、あたかもお宝がありますよ、と言わんばかりの小部屋とか、宝箱みたいなもののところにある。

だから結構引っ掛かる奴が多いらしく、年に何度か転移トラップ付近で恐らく探索者の所持品らしきものが散乱していたりすることがある。

 

ダンジョンだとモンスター、人間に関わらず死体は暫く放置しておくとダンジョンに吸収されるから死体は残らない。

その時に身に着けているものは一緒に吸収されてしまうので、剣とかでない限り残ることは無い。

 

回収する気も無いから、確実に身元が分かる探索者証明書とかがある場合は回収して、もし地上世界に戻ったら遺品として提出するぐらいだな。

一応、四人分の探索者証明書があるだけだから、そのためだけに地上に戻る気は全然ないけど。

 

 

で、このランダム転移部屋にハチが案内してきたってことは、まぁ、恐らくそう言う事なんだろう。

点々と血がダンジョンの通路に続いているからそれを辿る。

 

「さてさて、死体の原型が保ってるかどうかだな」

 

原型を保ってるなら探索者証明書と、ちょっとした遺品の回収ぐらいはしてやろう。

地上世界に戻る予定は今のところ無いから死体を保存しとくのも難しいんだよな。魔石を使った冷蔵庫はあるけど人間の死体を入れて置けるデカさでもねぇし、普通に食い物いれておくところに人間の死体なんて入れときたくないし。

 

血を辿っていくと、その終着点には想像とは全く違った奴が転がっていた。

俺の時はむさ苦しい野郎共ばっかりってのが探索者だったんだが、部屋に転がっていたのは精々20歳か、下手するとまだ10代後半のかなり若い女性だ。

 

「若いのに運が無いな」

 

しかも飛ばされたのが最下層ってのがよっぽど運が無い。

見た感じ実力も装備も精々最上層でなら問題無く通用するかってぐらいだ。防具や武器も最上層で採れる鉱石とかモンスターの素材で作られているっぽいし、ここじゃどうやったってこの装備じゃ生き残れない。一撃食らえば原型すら留めないだろうよ。

 

傷を見た感じ、モンスターにやられたのは明らかだな。

詳しく見ないと何にやられたかは分からんが、多分変異種のドロップに遭遇しちまったんだろう。

つくづく運の無い……。

 

 

「いてっ、なんだこいつ」

 

運悪く死んじまった奴を見ていると頭を小突かれる。

見てみるとカメラのレンズがくっついたような球体というか、スライムみたいな柔らかいもので覆われた機械が少女の周りを忙しなくふよふよしている。なんだこれ?

 

まぁ、いいや。

探索者証明書は回収しておいてやろう。この機械は、まぁ重要じゃないような気もするからどうでも良いか。

 

「ん?」

 

ふと首からぶら下げている筈の探索者証明書を取ろうと首筋に手を伸ばすと、まだ息がある。

動脈も動いている。

だが傷を見た感じ、放っておけば十数分で死ぬだろうな。

 

「生きてんのか」

 

いやめんどくせぇ~……。

 

今の俺の顔、絶対めんどくさくて仕方が無いって表情なんだろうな。

 

死んでてくれた方がまだ有難い。

死んでるから面倒なことなんて無いんだが、生きてるとなると地上世界まで送り届けなきゃならなくなるじゃねぇか。見た感じの実力じゃ自力で地上にまで戻れないのは確実だし、運が良ければただ殺されるで済むけど、ダンジョン内にはゴブリンとかコボルト、それらの上位種もいる。

連中は運良く他種族の雌を得ると死ぬまで苗床にする習性があるから、そうなったら彼女にとっては死んだ方がマシ、という生き地獄を数か月、下手をすると数年送らなければならくなる。

 

だけどなぁ、心ばかり残っている良心がなぁ……。

なんだってこんなもんが残っているのやら、分からん。いっそのこと全く無くなってくれていれば見捨てるのも簡単だったろうに。

 

「仕方無ぇか……。ハチ、モンスターが来ないように見張っててくれ」

 

一応モンスター除けの魔法を張っておくが確実じゃない。

見張りをさせておいて、応急手当だけはしてから連れて行こう。

 

 

身体の前面には傷は無く、背中にある大きな3本爪のモンスターに引っ掛かれた傷があるだけ。だが傷はかなり深手だ。

いつも使ってる適当なポーションだと効果は無いな。

 

茣蓙として使っていた毛皮の上にうつ伏せに寝かせる。

身体の前面には傷が一つもないから、運悪く変異種のドロップに遭遇して逃げているときに背中に一撃を食らったってことだろう。

防具を脱がせ、インナーをナイフで切って脱がせてしまう。

 

「防具もインナーもこりゃ使い物にならねぇな」

 

防具の状態はパッと見ただけで分かるぐらい酷く、これを修理するぐらいだったら新しいモノをオーダーメイドした方が良い。

中に来ていたインナーや下着も駄目になっている。

 

前部脱がせて取り合えずエリクサーを傷口にぶっかけて治す。

シュウシュウ言いながらすぐに塞がっていく。

ものの一分程度で傷口は綺麗に無くなり残ったのは乾き始めた血だけだ。

 

まだ開けていない水筒を取り出して、綺麗な布に水を浸して血を拭ってやる。

若い女性相手だから若干気が引けるがこの際もう良いだろ。死ぬよりかは良い筈だし。

 

ある程度綺麗にして目につくのは拭った後にどうするか、と考える。

エリクサーは確かに四肢欠損ぐらいなら完璧に治るし、試したことは無いが多分心臓とかを抉られても治るような代物なんだが失った血は戻らないという、万能なのか万能じゃないのかイマイチ分からないところがある。

しかも増血剤は無いから自然回復するのを待つしかない。

 

この女性もかなりの血を流したっぽいし、しかも助けた手前ここに放って行くわけにもいかない。

なので考えたところで結論は一つしかない。

 

「連れ帰らにゃならんか……」

 

なんだか面倒事に関わっちまったような気もするが、助けたなら最後まで面倒見なきゃなぁ。

 

「よっ」

 

外套を羽織らせて横抱きにして転移陣まで移動する。

っと、転移する前に回りをウロチョロフヨフヨしているスライムボールをとっ捕まえて鞄に放り込む。

多分この子の持ち物だろ。

 

「転移」

 

ハチが転移陣に乗ったのを確認して転移、と唱えるとすぐにダンジョンの一番最下階層に到着した。

 

 

 

ダンジョンからでてさっさと家に戻って、ベッドに寝かせる。

増血剤が無いから寝て食って休むぐらいでしか対処出来ないんだよな。

 

取り合えず、オオカミ達の飯を作ろう。

じゃねぇと美味い飯の味を覚えてる奴らが何しだすか分からん。

 

狩って来た牛モンスターと、オオカミ達が留守にしている間に狩って来ていたボアを丸ごと焼く。

ちょっとだけ味付けをしておく。

こいつらがどうかは分からんが、味が濃かったりするとイヌとかには害になるらしいから本当に少しだ。

 

でそれを食わせといて俺も俺用に味付けしたのをかっ食らう。

やっぱりあの変異種牛モンスター、本当に美味いな。

脂が乗ってるってわけじゃなくてしっかり赤身の肉なんだが美味いのなんの。

 

 

 

「で、こいつはなんなんだ?」

 

飯を食い終わって、さっきからずっと鞄の中で暴れている球体カメラはなんなんだと、むんず、と捕まえてからまじまじと見る。

俺が地上世界に居たときはこんなもん無かったから分からん。

 

ただ一つ言えるのは魔力で動いてるってことぐらいだ。魔力を辿るとダンジョンで拾った少女と繋がってるし、やっぱり魔動機械とかそんな感じなんじゃねぇのかな。害は無さそうだし邪魔しなきゃほっときゃいいか。

カメラっぽいのが付いているが、仮に顔が映ってても髭が伸びてて分からんだろうし。

手を放すと一目散に少女のところへ飛んで行った。

 

 

 

 

スライムボールは少女のところでずっと張っているようで俺のところにくることは無かった。そっちの方が楽だしそれでいいんだが、まぁスライムボールの態度がデカい気がしなくもないがそれぐらいだ。

 

適当に日課を熟しつつ、時折スライムボールが俺の手元とかを覗きに来ては、という感じの3日間を過ごして。

どうやら拾った子が起きて来たらしい。寝室のドアが開く音がする。

 

「あ、あの……」

 

「ようやく起きたか」

 

「よ、ようやく?」

 

「俺が助けてから丸々3日間も寝てた。今日は4日目だ」

 

「あ、えっ、すみませんでした……」

 

「いい。助けたからには最後まで面倒は見る」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「それより、腹減ってるだろ。寝てるだけじゃ失った血は戻らないから取り合えず飯を食え」

 

イマイチ現状が分かっていなさそうだが、こっちはさっさと回復してもらって帰って貰わないと困るんだ。

一応、数日胃に何にも入れてないってことを考えて消化の良い、卵を落とした麦粥だ。

 

「悪いが麦粥で我慢してくれ。こっちには米が無いし、育てようにも種籾すら手に入れられないんでね」

 

「い、いえ、全然問題ないです。いただきます。……あ、美味しい……」

 

「そりゃ良かった」

 

暫く無言の食事時間が続き、食べ終わる。

余程腹が空いていたのかおかわりを二回して、ペロッと平らげた。

 

ここじゃ誰かに飯を振る舞うどころか、会う事すら極々稀だ。

居ないわけじゃないんだが、会いに行くとなると結構面倒臭くて行ってないんだよな。

 

「食い終わったら口濯いで寝ろ」

 

「あ、はい」

 

食ったら寝て、体力を回復してもらう。

治療を受けた後の怪我や病気の一番手っ取り速い治し方は、食って寝ることだ。

暫くして様子を見に行ってみるとぐっすりらしい。

 

覗く趣味は無いのでさっさと扉を閉じる。

あの様子じゃ明日か明後日辺りには地上世界に送り届けられそうである。

ここよりも地上世界のが幾らか気分は楽だろうし、さっさと送ってしまいたい。

下手に長く接していると絶対に面倒なことに巻き込まれる気がする。面倒事は勘弁だ。

 

溜息を吐きながら家のソファで、今日は特にやることも無いので昼寝することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

死んだ。

 

絶対に死んだ。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」

 

必至に走る。

後ろにモンスターの気配が迫ってきている。

 

:なんでこんな浅い層にユニークモンスターが出て来るんだよ!?

:あいつ速過ぎる!

:ハルちゃん逃げて!

:うわぁぁぁ、見てられない!!

 

なんで今日に限ってユニークモンスターがドロップしたのだろう?

今日は他のメンバーがいないから、私一人で初心者向け講座、みたいな配信をやろうって第3層に潜って、スタッフさん達と配信やってただけなのに。

特に今日はユニークモンスター出現確率も0%だったのに!

 

必至に逃げて、でも逃げ切れない。

モンスターの足が速過ぎるんだ。何時もだったら20層ぐらいでもない限りは追い付かれるなんてことは無いのに!

 

「ガァァァッ!!」

 

「ッッ!!」

 

後ろから飛び掛かって来たネコ型のモンスターの一撃を辛うじて防ぐ。

その一撃は重くて、食い縛った歯や全身が軋む。それでもカウンターを入れようと剣を振るう。だけどその剣はいとも簡単に避けられてしまった。

 

:ユニークモンスターって、ハルちゃんでも倒せないの!?

:ハルちゃんの攻撃を避けるって……

:ユニークモンスターは上層で出現するなら、最低でも下層クラスの強さだから、ハルちゃん単独だと厳しい

 

実力にはそれなりに自身があった。

最前線攻略組ほどでは無いけど、15~17層ぐらいまでならソロで潜ることも出来る。だけどこいつはそんなレベルじゃない。

下層なんてもんじゃない、深層レベルだ。

 

どうやっても私がソロで勝てる相手じゃない。

なんでよりによって今日、他の皆が予定あって、私一人で潜っているときにユニークモンスターのドロップに出くわしてしまったのか。

 

必至に走って逃げて。

縦横が50cmぐらいの小さな人一人が通れるぐらいの扉を見付けた。あそこに逃げ込めば、助けが来るまで耐えられるかもしれない。

ネコ型ユニークモンスターは3mぐらいはあるからどうやったって通れない筈だ。

そんな必死の思いで走って。

 

「グゥゥゥッッ!?!」

 

背中に激しい痛みを覚えた。

余りにも痛すぎて、そして攻撃された衝撃で小部屋の中に弾き飛ばされる。

 

その瞬間に光が私を覆った。

 

そこから先のことはよく覚えていない。

痛みに耐えながら、小部屋から出て、幾らか歩いたのは覚えているけどそこから先の記憶が無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

「……ここ、どこ」

 

目を覚ますと、強烈な空腹感を覚えながら見覚えの無い木で出来た天上が視界に入った。

どこか温かみがある。

 

「私、ユニークモンスターに追い掛けられて……」

 

確かに死を覚悟したし、受けた傷も確実に致命傷だったはず。

背中に手を伸ばすと受けたはずの傷は綺麗さっぱり消えていた。

あれだけの大きな傷なのだから、仮に助かっても一生傷跡が残る筈なのに……。

服も来ているし何かされたって訳でも無さそう。

 

誰かが助けてくれたんだ。

 

そう思うのに時間は掛からなかった。

 

あ、でもお腹は凄く空いてる。

 

外から良い匂いがする。凄くお腹が空いていたからそれに釣られるように、ベッドの脇に揃えて置かれていた私のじゃないサンダルを履いて外に出る。誰かが何か、お鍋?を混ぜている。

 

「あ、あの……」

 

「ようやく起きたか」

 

おずおずと見知らぬ人に声を掛ける。声はどうやら男の人のもの。

それよりもようやく起きたか、ってどういう事だろう。

 

「よ、ようやく?」

 

「俺が助けてから丸々3日間も寝てた。今日は4日目だ」

 

「あ、えっ、すみませんでした……」

 

思わず頭を下げて謝ってしまう。

四日間も寝ていたってことは、多分この人が四日間面倒を見てくれていたってことなんだろうか。

 

「いや、いい。助けたからには最後まで面倒は見るからな」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「それより、腹減ってるだろ。寝てるだけじゃ失った血は戻らないから取り合えず飯を食え」

 

差し出された木椀には、スプーンと白いご飯?と多分卵が溶かれて入ってる。

彼の言う通りなら私は四日間何も食べてなかったってことなので、匂いを嗅いだだけで……。

 

「いただきます。……あ、美味しい……」

 

「そりゃ良かった」

 

恩人がふっ、と笑ったのが分かった。

寝ている間に何かされたかもとは考えなかったわけじゃないけど、多分この人は何もやってない。

何となくだけど信用出来る。

 

作ってくれたおかゆはとっても美味しくて、思わずおかわりを二回もしてしまった。

暫く無言の食事時間が続いて、食べ終わる。

 

「食い終わったら口濯いで寝ろ」

 

「あ、はい」

 

ぶっきらぼうにそう言われる。

言われた通りに従って口を濯いだらさっきまで寝ていたベッドに潜り込むと、少ししてすぐに眠ってしまった。

 

 

 

 

どれぐらい時間が経っただろう?

目を覚まして窓の外を見てみると辺りは真っ暗になっていた。

部屋を出るとさっきの人がまた何か料理をしていた。

 

「あ……」

 

「起きたか」

 

「はい。あの、助けて頂いたようで、本当にありがとうございます」

 

「あぁ、たまたまだ。気にするな」

 

手をひらひらと振って答える。

ふと気が付くと、配信用ドローンが彼の周りを飛んで回っている。

 

ずっと見なかったから壊れたりしてたのかと思ったけど、そうじゃなかったみたい。

あれ、でもさっき起きたときは飛んでなかったな。

 

それよりもあの様子からして配信は私がユニークモンスターに襲われたときから付けっ放しだったと思うんだけど、あの人は映る事を許可したのかな?

 

「あの、それ……」

 

「あん?これ、お前さんのだろ?俺の周りずっとついて回ってるんだよ。邪魔はして来ないから良いけど、どうにかしてくれ」

 

どうにかしてくれって言っても、好きにさせてる辺り優しいんだろうか。いや、というかそもそも彼の話通りなら許可を取っていなさそうだ。

 

「あの、一応聞きたいんですけどこれ、なんだか分かりますか?」

 

「知らん。カメラが付いているからそっち系の、魔導機械かなんかってぐらいしか分からん」

 

「あー……」

 

「どうした?」

 

不味い事になったかもしれない、と顔を顰めたのは私だけじゃないと思う。

 

 

 

その後、これがなんなのか、何をしているのか、私が誰でどういったことをしていたのかをしっかりと説明した。その時の彼の、恩人の物凄く面倒臭そうな、嫌そうな顔は多分一生忘れることは出来ないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

やっぱり俺の感は正しかったらしく、とんでもなく面倒なことになった。

 

どうやら彼女はダンジョン内での活動を配信している、まぁ一昔前の配信者みたいなものらしい。

最初から俺の周りをウロチョロしていたあの球体は配信する為の魔力カメラらしく、ダンジョン内の魔力をエネルギーとして変換しているらしく、魔力を吸収して電気替わりに浮遊したり配信したりしているらしい。

 

別に彼女がどれだけ配信しようがなんだろうが構わないんだが一番最初、ファーストコンタクトで俺が彼女を助けたときからずっと配信し続けていたそうでバッチリ俺の顔とか、オオカミ達が映り込んでしまっているらしい。許可を得ずに撮り続けてしまったことを彼女から必死に頭を下げられた。

メール越しとは言え、彼女のマネージャーだかなんだかからも謝罪の文面が送られてきていた。

 

これで視聴者が少なかったら別に、言い方は悪いが配信探索者の一人が死んだとか、助けられたぐらいで良かったんだがどうやら彼女は大手事務所に所属している配信探索者だそうで彼女の荷物の中にあったスマホで配信を見せてもらうと、同時接続数が百万人などという訳の分からない人数が視聴していた。

 

「百万!?」

 

「普段は一万人とか、二万人ぐらいなんですけど今回の一件があってここまで視聴者数が伸びているらしいです」

 

「……あ~、クソ面倒臭ぇ……」

 

「あの、本当にすみません……」

 

頭を下げて来るんだが、かといって彼女にどうにも出来るような状況じゃない。そもそも非があるわけでもない。

 

「いや、もうこの際だから別に今回の件はいい。それよかおたくの運営さん?事務所のお偉いさん?と話を付けたいんだがいいか」

 

「あ、はい。文字でのやり取りしか出来ませんけど……」

 

「それでいいよ」

 

スマホを借りて彼女が所属する事務所のお偉いさんと話を付ける。

こっちは面倒なことに巻き込まれるのは御免なのでその辺の話し合い、下手な詮索はしないこととか、俺の引き抜きだとか、そういう行為は一切しないように言っといた。

 

それと別に金を必要としちゃいないが、タダで助けてくれる、情報を得られると勘違いされても困る。

 

「今回の一件、彼女の安全の為とは言え勝手に配信し続けていた事に対する慰謝料と救助そのものに対する対価として5億円を支払うこと。これを飲んでくれれば今回のことは全て流す」

 

「にじゅっ……!?」

 

「タダで何でもやってくれると思われちゃ困るんだよ」

 

隣で驚いているが、そう言うとどこか納得したようだった。若いのに理解と呑み込みが早くて何よりだ。

彼女やその運営がそうとは言わないが、世の中には同調圧力で協力させようとしてくる奴だったりがわんさかいるわけで、そう言う輩は99.9999……%ロクでもないというのが相場だ。だからそう言う奴らに絡まれたりしたくないんだ。

 

運営はこれを認めて、無事に地上世界にまで送り届けてくれればその時点でお渡しする、と返答してきた。

まぁ所属している事務所というか、ギルドはかなり儲けているらしく、割とあっさり頷いた。

話を聞く限り、どうやら彼女が所属するギルドは最前線攻略組とまではいかなくとも実力者揃いだとか。

本当かどうかは分からんけども。

 

「契約成立だな」

 

「宜しくお願いします」

 

面倒には変わりないがまぁ、何もしないよりはマシだろう。

 

「そう言えば自己紹介していませんでしたね」

 

「あぁ、別に良いよ。これから先送ったら関わることも無いだろうし」

 

「でもそれまでの間呼び辛いですよ?」

 

「おっさんでもなんでも好きに呼んでくれりゃいい」

 

できるだけこっちの個人情報を与えたくない。

彼女には悪いが、彼女が信用出来ても彼女の事務所とか、他のところが信用出来るかどうかは分からないし、まぁ普通に考えたら信用出来ないって思う方が当たり前なんだよな。だから個人情報は出来る限り与えたくない。

 

「えっと、おじさんで良いんですか?お若いんじゃ……?」

 

「多分二十歳か下手すると未成年だろ?」

 

「あ、はい。そうです」

 

「なら俺はおっさんだよ。もう三十超えてる」

 

「えっ!?」

 

驚いているが、そこまで驚くことか?

別に俺は特別若く見えるような容姿って訳でもないし、それどころか無精髭が生えてるから寧ろ老けて見えると思うんだがな。

最後に髭を剃ったのは多分、何か月か前だった筈だ。ここじゃ別に誰に見られるってことも、別に全く無い訳でもないが気にするようなもんでもない。

 

「あの、一つ質問良いですか?」

 

「ん?」

 

家の中で寛いでいると、おずおずと聞いてくる。

武器と防具の手入れも終わらせているし別にやることは無い。

 

「ここってどこなんですか?」

 

「ここ?」

 

「はい。ダンジョン内で家を建てて住んでるなんて聞いたこともないし、それにダンジョンの中にしてはかなり明るいと言うか……」

 

「明るすぎるってか?」

 

「はい」

 

まぁ、確かに新世界のことを知らなけりゃ仕方ねぇわな。

空を見上げたりしてる様子も無かったし。

 

ダンジョン内部は特に灯りがあるって訳でもない場所でも割と明るかったり、松明とか何なのかよく分からん照明器具が等間隔に配置されていて意外と明るいんだよな。

それを考えても新世界をダンジョンとして考えてしまうと余りにもここは明る過ぎるって思うのも仕方ない。

だがなぁ、これ口で説明するのすげぇ面倒なんだよな。

 

まぁ、それぐらいなら答えてやるか。

 

 

「ついてこい」

 

「え?」

 

「百聞は一見に如かず、だ」

 

彼女を連れて家の外に出る。

外は寒くも無く暑くも無い、過ごし易い気候だ。

冬になると雪が降って面倒なんだがな。

 

 

「空、見てみろ」

 

「空?……星?」

 

「そうだ。ダンジョン内で空がある階層は一層も無い」

 

「えっ、あれって本当に空なんですか?」

 

「そうだ。少なくともここで十年ぐらい住んでるが、地球と同じ星、オリオン座とかを見たことは一度も無い。だから地球上の何処かって訳でもない」

 

そう言うと言葉を発していなくても驚いているのが分かる。

まぁ、そうだろうな。

 

俺もここに来た時は半端じゃないぐらい驚いたもんだ。

 

「ここって、ダンジョン何階層なんですか?」

 

「俺が潜ったのは東京ダンジョンだが、俺が踏破したのは一番上から全部合わせて153階層。そしてここはダンジョンじゃない。ダンジョンを完全踏破したその先にある、未知の新世界だ」

 

今度こそ彼女は余りの驚きに一言も発さなくなった。

 

 

 

 

 

 

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