ダンジョン生活記   作:ジャーマンポテトin納豆

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強さ

 

 

 

 

暫くして家の中に戻ると質問が飛んでくる。

一応見せて貰ってるスマホに流れる様々な文言の中には、というかその殆どが俺に対する質問だ。

 

「別に質問すんのはいいが、対価は払ってもらうからな。一つに付き一千万」

 

「いっ……!?」

 

「ダンジョン内の情報、俺の記憶が正しければ探索者協会とかが金銭で買い取ってたよな?ってことは俺が知ってる情報の殆どはお前達が持ってない情報ってことになる。その価値を分かってるか?」

 

嬢ちゃんは言われると黙った。

そりゃ探索者やってるのなら知ってる事だ。

 

配信のコメントは、大荒れだ。

やれ情報を提供しろだの、卑怯者だの、好き放題言ってくれる。

 

「払う気が無いなら答えんぞ。知りたいなら自分でダンジョンに潜って調べるんだな」

「そもそも、既にダンジョンの階層数を教えて、しかもその先にあるモノの存在も教えた。これだけでも数十億は貰えるような情報だ。にもかかわらずこれ以上善意だけで俺に情報を提供しろと?冗談じゃない」

 

コメントが俺への批判になっていたところを、ド正論を叩き付けてやると途端に黙った。

多分これを見てる奴の殆どがダンジョンに潜ったことが無い一般人だろう。

 

探索者は、少なくともダンジョンが一般に開放されて俺達が入れるようになった頃の話になってしまうが、少なくともあの時は確かに国や探索者協会からの手当ても手厚いし成功すれば億万長者になれるが、命の危険と常に隣り合わせだ。

それに探索者にならなくても地上世界には数多くの仕事が溢れているからな。別に探索者にならなくても問題無いのだ。

 

だから国や各種企業、機関が大々的にバックアップしているものの、実情は大多数の人間がダンジョンに入ることは無いというものだ。俺がまだ地上にいたときは、探索者協会に所属していたのは日本全国でも1000人いるかどうかってところだった。

あれから十年以上経っているから増えているとはいえ、精々十万人とかそこいらだろう。態々命の危険を冒してまでダンジョンに潜らなくても生きていけるわけだし、そうなると殆どの人間は探索者なんてモンを選ばない。

 

ましてや今はどうかしらないが、俺が潜り始めた頃は手厚いと言っても分からない事だらけでバックアップ体制も不足気味、整っていなかった。

だから安全に稼げる狩場ってのは誰も話したがらないんだ。そこさえあれば探索者として大成功とは行かずとも食っていける、生活していけるわけだからな。

だから探索者はダンジョン内の情報を渡したがらない、広めたがらないってのが一般的だ。

 

「情報ってのは、あらゆる物事に於いて最も重視されるべきものだ。それを、対価も何も払わずに寄越せだと?冗談じゃない」

 

情報を手に入れるのに、俺がどれだけの時間と労力を使ってきたと思ってる?それをなんの手伝いも何もせず、安全地帯からモノを言うだけの連中に無償で提供しろと?本当に冗談じゃない。

 

 

 

暫くすると気まずそうに声を掛けてくる。

 

「えっと、あの……」

 

「ん?」

 

「質問、良いですか?」

 

「変な事じゃなけりゃ構わんよ。それに君からの質問ってより、配信のコメントで色々せっつかれてんだろ」

 

そう言うとごめんなさい、と言いながら頭を下げる。

多分、この子自身は悪い子じゃないんだろうが、周りがそうじゃないなら付き合いを考えなけりゃならない。

 

 

「で、質問って?」

 

「おじさんの強さって、どれぐらいなんですか?」

 

「というと?」

 

「ここがダンジョンではない別の世界かもしれない場所、というのは何となく理解しました。ですがダンジョンは下層に潜って行けば行くほど強いモンスターが湧いてくる、で合ってますよね?」

 

「そうだな。少なくとも153階層全部でそれは言えるし、多分下の方と君らが潜ってる上の方だとモンスターの強さも桁違いだな」

 

「それで、そんなダンジョンを全部踏破したってことは、物凄く強いってことですよね?」

 

「まぁ、君ら基準で行けばな」

 

「でも想像が付かないんです。だから、実演はしなくてもいいので、どれぐらい強いのか少しだけ説明して頂けませんか」

 

「そんぐらいならいいよ」

 

 

 

「で、俺の強さってどんぐらい、ってことだけど」

 

「はい」

 

「うーん……、つっても口で説明するのも難しいしなぁ……。君らの中での最前線って何階層になる?」

 

「えっと、27階層ですね」

 

「27階層か。ってことは25層か26階層のボスまでは判明しているわけだな?」

 

「はい。25層のボスは確か、アンデット系の死神?みたいなモンスターだったと思います」

 

「あー、思い出したわ。確か物理攻撃が効かないとかそんな感じじゃなかったっけかな」

 

「そうです。魔法攻撃、それも一定以上の火力がある魔法攻撃じゃないと効果が無いって言われてます」

 

「ほーん……」

 

おかしい。

アンデット系のモンスターは必ずどこかに核があって、それを破壊すれば簡単に倒せる筈だし、物理攻撃が効かないと言っても全く効かない訳では無い。

魔力を武器に纏わせて攻撃するだけでいいんだけど、知られていない感じか?

 

「26層はまだ公表されてない感じか?」

 

「そうですね、最前線攻略組は知ってると思います。確か情報だと最前線攻略組が10人パーティを組んで討伐したらしいです」

 

「なるほどな」

 

うーん、微妙。

アイツら別に強くないし、なんなら最弱クラスだぞ。あれで例えるのもなぁ。

 

「まぁ、そいつらに一切苦戦しないって思って貰えればいいんじゃねぇかな。ぶっちゃけこのダンジョン内のモンスターならボスだろうが関係無く倒せるし」

 

「えっと、25層ボスって物理攻撃が効かないんですよね?おじさんって魔法使いなんですか?」

 

「魔法も使えるが、殆ど近接戦だよ」

 

俺の戦闘スタイルは基本的には剣、刀、槍、短剣などの接近戦武器を用いたものだ。魔法も使えるが、魔法じゃなきゃ倒せない相手にしか使わんし。

 

「なんで接近戦なんですか?魔法使えるならそれだけでパーティーメンバーとして価値があるし、楽に敵を倒せる筈じゃ……?」

 

「魔法よりも接近戦の方が楽しいから」

 

「え?」

 

「接近戦のが楽しいから」

「接近戦の方が、肌がヒリつく感覚をより強烈に味わえる」

「そして勝った時の、あの他では味わえない高揚感や、あらゆる正の感情を味わえる。あれがたまらないんだよ」

 

「……」

 

なんだ、そんな微妙な顔して。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

私の体力が回復してから地上に送ってくれるそうで、おじさんの家に滞在して5日目になった。

その間、配信は一切切っておらずずっと流したままだ。

基本ドローンは私の側にいるから家から出て行くことも稀だし、皆に心配されながら体力回復に努める。

 

私は勿論おじさんに恩を感じているし、運営さんとかメンバー達もそう思ってくれてる。

でも、流れていくコメントを見ている感じ、そうじゃない人達はおじさんの事を知りたいとか、ダンジョンの情報を聞き出せとか好き勝手言ってる。

昨日、あれだけ釘を刺されたのに。

 

でも、そろそろ抑えが効かなくなりそうで、爆発する可能性がある。

心苦しいけど、おじさんに何か聞けることはないだろうか。

 

 

 

 

昨日の今日で気まずいけど声を掛ける。

 

「えっと、あの……」

 

「ん?」

 

「質問、良いですか?」

 

「変な事じゃなけりゃ構わんよ。それに君からの質問ってより、配信のコメントで色々せっつかれてんだろ」

 

どうやらおじさんにはお見通しらしい。

 

「で、質問って?」

 

「おじさんの強さって、どれぐらいなんですか?」

 

「というと?」

 

「ここがダンジョンではない別の世界かもしれない場所、というのは何となく理解しました。ですがダンジョンは下層に潜って行けば行くほど強いモンスターが湧いてくる、で合ってますよね?」

 

ダンジョンの中に出現するモンスターは1層から下に行けば行くほどどんどん強くなっていく。何処かの階層のボスが、下の方の階層で通常モンスターとして存在していることも普通にあるぐらいだ。

 

「そうだな。少なくとも153階層全部でそれは言えるし、多分下の方と君らが潜ってる上の方だとモンスターの強さも桁違いだな」

 

「それで、そんなダンジョンを全部踏破したってことは、物凄く強いってことですよね?」

 

「まぁ、君ら基準で行けばな」

 

「でも想像が付かないんです。実演はしなくてもいいのでどれぐらい強いのか少しだけ説明して頂けませんか」

 

「そんぐらいならいいよ」

 

おじさんは割とあっさり頷いた。

手の内を全部見せるわけじゃないから、あっさり頷いてくれたんだろうか。

 

「で、俺の強さってどんぐらい、ってことだけど」

 

「はい」

 

「うーん……、つっても口で説明するのも難しいしなぁ……。君らの中での最前線って何階層になる?」

 

「えっと、27階層ですね」

 

今のところ最前線でダンジョン攻略に挑んでいる面々は、27階層の攻略中だ。

彼らの実力はトップ・オブ・トップで、ボス以外は基本ソロで潜るという、それなりの実力がある私達からしても頭がおかしいと思うぐらいの強さだ。

おじさんのことは頭がおかしいとかは思ってないけど。

 

 

「27階層か。ってことは25層か26階層のボスまでは判明しているわけだな?」

 

「はい。25層のボスは確か、アンデット系の死神?みたいなモンスターだったと思います」

 

「あー、思い出したわ。確か物理攻撃が効かないとかそんな感じじゃなかったっけかな」

 

「そうです。魔法攻撃、それも一定以上の火力がある魔法攻撃じゃないと効果が無いって言われてます」

 

「ほーん……」

 

なんだか微妙な顔してる。

 

「26層はまだ公表されてない感じか?」

 

「そうですね。最前線攻略組は知ってると思いますけど。確か情報だと最前線攻略組が10人パーティを組んで討伐したらしいです」

 

「なるほどな」

 

やっぱり微妙、って顔してる。

 

「まぁ、そいつらに一切苦戦しないって思って貰えればいいんじゃねぇかな。ぶっちゃけこのダンジョン内のモンスターならボスだろうが関係無く倒せるし」

 

「えっと、25層ボスって物理攻撃が効かないんですよね?おじさんって魔法使いなんですか?」

 

25層のボスは物理攻撃を無効化し、魔法以外ではダメージが通らないって聞いてるんだけど、ってことはおじさんは魔法使いってことなのかな?

 

「魔法も使えるが、殆ど近接戦だよ」

 

「なんで接近戦なんですか?魔法使えるならそれだけでパーティーメンバーとして価値があるし、楽に敵を倒せる筈じゃ……?」

 

「魔法よりも接近戦の方が楽しいから」

 

「え?」

 

「接近戦のが楽しいから」

「接近戦の方が肌がヒリつく感覚をより強烈に味わえる」

「そして勝った時の、あの他では味わえない高揚感や、あらゆる正の感情を味わえる。あれがたまらないんだよ」

 

「……」

 

理由を聞いてみたら接近戦の方が楽しいからって。

 

あぁ、今分かったけど一人でダンジョンに潜って完全攻略してる時点でおじさんも最前線攻略組の人達とおんなじで、ちょっと頭がおかしいんだ。

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「おじさんはダンジョンを完全攻略したってことですか?」

 

「まぁ、そうなるな」

 

「本当に一人でですか?」

 

「そうだよ」

 

「おじさんはずっとダンジョンに居るんですか?」

 

「いるってか、住んでるんだよ。ダンジョンかどうかは怪しいところだけど」

 

「どれぐらいの間、ダンジョンに住んでるんですか?」

 

「どうだろうな、多分十年ぐらいじゃないか?一応日数は数えてメモしてるんだがちょいちょい数え忘れたりダンジョンに長期間潜ったりして飛んでるから正確な日数は分からないんだよな」

 

最初の頃は怪我やら病気は日常茶飯、その療養中やダンジョンに長期間潜って色々やったりしてる時は日数数えなかったりしたから下手すると年単位のズレがあるかもしれないんだよな。

 

「なんで、戻ろうとしないんですか?ダンジョンの完全攻略だなんて、偉業なんてレベルじゃないですよ?一番攻略が進んでるアメリカとかヨーロッパでも35層ぐらいが精々なのに」

 

「別に名誉とかに興味が無いってのもあるし、ここでの暮らしのほうが誰かに気を遣う事とかもなくて気楽だ」

 

「寂しくなったりしないんですか?」

 

「そうでもないな」

 

本当は新世界の方でちょっとした交流があるってのは黙っとこう。

今でも面倒なのに、それを喋ったら余計に面倒なことになりそうだしな。

 

「それに犬たちもいるし。あいつら中々騒がしいから結構楽しいんだよ」

 

「家族とか、友達とかは?」

 

「さぁ?そもそも友達の人数もそこまで多い訳じゃなかったし。今なにをしてるのかも分からんよ。急死とか事故死とかしてなければ全員元気に生きてんじゃないかな」

 

両親は勿論いるが、もう70とかになるから隠居暮らしのはずだ。実家に住んではいるんだろうが実際のところは全く分からない。

親友、みたいなやつも4、5人いたけどダンジョンに住み始めてからは一切連絡を取ってない。あいつら元気にやってっかな。

てな訳で地上世界の人間関係は多分、無いに等しいと思う。

 

 

 

翌々日。

嬢ちゃんの具合もかなり良くなった。

 

「傷口も完全に塞がってるし跡も無い。ま、完治って事で良いだろ」

 

「ありがとうございます」

 

「体力とかは低下してるはずだから1ヶ月ぐらいは無理するなよ」

 

「はい」

 

「じゃ、さっさと上まで送り届けるか」

 

「お願いします」

 

犬たちは留守番だ。

連れてってもいいが上で待ち構えられてるだろうしそうなると面倒だ。

 

「お前達は留守番だ。大人しくしとけよ」

 

不満そうだが、渋々承知してくれたようだ。

別に俺が居なくても勝手に獲物を仕留めて食えるし、問題は無い。

 

「じゃ、行くぞ」

 

「はいっ」

 

嬢ちゃんを連れてダンジョンに入る。

ここは一番下の階層だから、転移陣トラップを踏めば確定で上の階層に飛ばされる。

最下階層から最上階層を目指す場合、転移魔法より転移陣トラップを踏む方が楽だ。

 

「最初は転移陣トラップを踏んで上に飛ばしてもらう」

 

「それって大丈夫なんですか?」

 

「平気平気」

 

転移陣トラップは基本的にはトラップがある部屋から、トラップがある部屋にしか転移しない。

しかし極稀に転移陣トラップ部屋以外の場所に飛ばされてしまう事がある。

俺も10年ダンジョンに住んでいるが、その現象に遭遇した回数は4回だけだ。確率で言うと7万分の1とかの確率だ。だから基本的には気にしなくていいんだけどな。

その極稀な確率ってのがかなり厄介で、適当な通路ならいいけど、酷い時はボス部屋の中に転移させられる時もあった。

だから踏むべきじゃないのは確かだな。

 

「あ、一応警告しとくが基本的には上層付近でトラップを踏んだら下に飛ばされる可能性のが高い。だから踏むのはオススメ出来ないぞ」

 

「転移陣トラップって召喚獣とか妖精が踏んで飛ばされたらどうなるんですか?」

 

「転移陣トラップは踏んだ奴相手にしか起動しないし、効果を発揮しないよ。だから召喚獣や妖精が踏んでも術者や契約者側には何も起きない。転移した先で召喚獣や妖精がやられて同調とかしてなければ問題は起きない。だから気にしなくてもいいんじゃねぇかな」

 

「おじさんは、召喚とかも出来るんですか?」

 

「出来るよ」

 

あんま使ったことねぇけど。

だって自分一人で事足りちゃうしさ、わざわざ妖精を召喚する必要なくね?って。

 

「そうなんですね」

 

「ま、確実とは言えんからやるなら自己責任でよろしく。同調してなくても召喚獣や妖精にダメージ与えると術者側に強制的にダメージ与えるなんてモンスターとかもいるしな」

 

「なんでもアリなんですね……」

 

「まだマシだよ。召喚獣や妖精を頼りに術者側に瞬間移動してくるようなのもいるからな。そんなのが上層とかに出てみろ、皆殺しにされるぞ」

 

それを聞いて嬢ちゃんは青ざめてる。

ま、そらそうか。自分達じゃどうやっても勝てない存在が、自分達がようやく生き抜いて行く領域に来るんだから。

 

 

 

 

「じゃ、行くぞ」

 

嬢ちゃんと一緒に部屋に入って、発動させる。

なんとも言えない不思議な感覚を一緒味わいながら、その次の瞬間にはもう別の階層にいた。

 

「ちょっと外出て見てくるから待ってろ」

 

「あ、はい」

 

一言言ってから部屋から出てどこの階層か確かめに行く。

ここは……、多分70階層辺りじゃねぇかな?

うん、まぁ成功だな。

 

もっと上の階層に飛ばして欲しかったけどしょうがねぇか、こっから歩いて上を目指せばいいか。

 

「出てきていいぞ」

 

「大丈夫ですか?」

 

「成功だな。欲を言えばもっと上の階層のが良かったけど」

 

嬢ちゃんを連れてダンジョンを歩く。

この70〜80層辺りのモンスターは植物系と虫系が殆どだ。だからそれ以外のタイプのモンスターが出たら、ソイツはかなりヤバいヤツって事になる。

 

 

「モンスターに出会わないですね」

 

「だな」

 

不思議そうに聞いてくるが、まぁ俺の魔法なんだけどな。

モンスター避けの魔法は自分よりレベルが10以上下のモンスターに効果がある魔法だ。とは言えめちゃくちゃ好戦的だったり、興奮状態にあるモンスターは普通に寄ってくるんだけどな。

別にそこまで教えてやらんでもいいだろ。

 

ダンジョン内を歩きながら別の転移陣トラップがある部屋を目指す。

 

基本的にダンジョン内には様々なトラップやトラップ部屋が存在するが、一か所だけじゃない。

階層にもよるが、多いところだと数十個もあるような、確実にこっちを殺しに来てる、対人殺意マシマシな階層もあるぐらいだ。しかも意地が悪いのがモンスター相手には発動しないのだ。だから基本的には犠牲を出しながら進むか、或いは盗賊系の探知スキルで探しながら進むか、の2択になる。

 

「あ、そこトラップスイッチあるから踏むなよ」

 

「え!?」

 

嬢ちゃんにトラップスイッチの場所を教えながら進む。

 

話を戻して、トラップ部屋は基本常に同じ位置に存在するから、場所さえ把握してしまえば問題はない。

で、転移陣トラップはトラップ部屋以外には存在しないってのは有難いところだ。

 

俺は全階層のマッピングを済ませているし、どこにどんなトラップがあって、どこにトラップ部屋があるのかを知っている。

トラップ部屋と言っても、モンスターハウス、転移陣トラップ、状態異常など、かなり多種多様だ。

 

「ん……、こりゃぁ、ちょっと面倒だな」

 

「え?」

 

「ちょっと後ろ下がっててくれ」

 

「あ、はい」

 

うーん、こりゃ運が悪い。

ここの階層は虫系、植物系のモンスターが殆どだが、今接近してきてるのはそれに該当しないモンスターだ。

 

「ひっ……」

 

「あー、まぁ、腰抜けるのは分かるけどそんなビビんなくても平気だから」

 

「で、でも……」

 

「前に俺の強さを聞いてきただろ。それを実際に見れるいい機会だって思っとけばいいんじゃねぇかな」

 

今接近してきてるモンスターは、間違いなくこの辺りの階層でもボスを差し置いてトップクラスの強さを持ってる。

多分、騎士系だな。

 

 

「お、おいでなすった」

 

ガシャン、ガシャン、ガシャンと甲冑の音を立てながらこっちに近付いてくる影は、予想通り騎士系のモンスターだ。

所謂、ユニークモンスターやら変異種やらと呼ばれるタイプに近いが、似て非なるものだ。

 

ちらっと後ろを見ると、嬢ちゃんは蒼褪めて震えてる。

まぁ、精々20層ぐらいに潜る程度の実力で、アレを前にしたらそうなるか。

腰に下げたロングソードを抜く騎士。

 

「ま、安心して見といてくれよ」

 

一声掛けてから俺もロングソードを抜く。

どうせなら、同じ土俵でやったろうじゃねぇの。

 

騎士がぐっ、と左足を踏み込む。

その瞬間に一歩で俺の目の前まで進んでくる。

俺から見て左下から逆袈裟切りを仕掛けて来るのを、ロングソードで弾く。このぐらいの相手なら身構える必要も無い。

 

弾かれてもそのまますぐに2撃目、3撃目、4撃目を仕掛けてくる。それを踏み込んで避けて、弾いて、受け流して。

5撃目を振るう前にこっちから一撃、首の付け根にあるコアを貫く。

 

5撃目を振るおうとした姿勢で騎士が止まる。

そして崩れた。

 

「ま、こんなもんか」

 

このテのモンスターは大体核やらコアやらがどこかしらにある。

だからそこを正確にぶち抜けば楽に倒せる。

130層辺りのボスにも騎士タイプのボスモンスターがいるんだがアイツはマジで強かった。

初戦闘の時に倒したが、アレは本当に大変だった。なんせ戦闘時間が丸々3時間ぐらい掛かったわけだし。

 

ドロップアイテムを回収しつつ、嬢ちゃんのところへ。

 

「ほ、本当に強いんですね……」

 

「まぁな。アレぐらいもう2手ぐらい早く倒せたけどな。まぁ見せプってやつだ」

 

とりあえず、戦闘は終わったわけだし転移陣トラップ部屋を目指して歩く。

3時間ぐらい歩くと転移陣トラップ部屋に辿り着く。

 

「さて、上に行けっかな」

 

嬢ちゃんと一緒にトラップを踏む。

一瞬、身体が不思議な感覚に包まれた後に視界が開ける。

 

「ヤベッ!」

 

「キャァッ!!」

 

後ろで嬢ちゃんの高い悲鳴が聞こえる。

あぶねぇあぶねぇ、まともに食らってたら嬢ちゃんが蒸発してるとこだった。

 

「お、おじさん、あれは……」

 

「いやぁ、運が悪りぃなぁ。ボス部屋に飛ばされちった」

 

「ボス部屋!?大丈夫なんですか!?」

 

「ま、そんな強いわけでも無いし、さっきみたいに後ろで観覧してな」

 

俺達が飛ばされたのは150層のボス部屋である。

ここのボスは早い話がアンデット系モンスター、エンシェントエルダーリッチーって名前のいかにも、なモンスターな訳だが、こいつがちと厄介であらゆる物理攻撃を完全無効化するパッシブスキルを持っている。

だから武器による攻撃が全く効かない訳だ。

 

まぁ一応魔力で作った剣とかなら攻撃が通るんだけどダメージ効率がかなり悪い。

普通のモンスターが一撃で倒せるなら、100回ぐらいは攻撃しないとコアを破壊出来ない。

倒し方は単純、魔法攻撃で叩くしか無い。

それも馬鹿みたいに硬くて分厚い魔力障壁をブチ抜くぐらいの高火力高威力じゃないとならないっていうね。

初見殺しもいいところだし実際初めて戦った時は苦戦した。まぁ最後は虎の子の魔法スクロールをブッパして勝ったけど。

魔法スクロールってどんな相手からでもドロップするんだけど、とにかくドロップ率が低い。

どんぐらいかって言うと、今俺が所有しているスクロールは3枚だけ。十数年もダンジョンで暮らして、戦い続けて数多のドロップを見てきているのに、使ったやつを入れても4枚しかドロップしていない。

何かしらの特殊な倒し方とかでもないので多分、純粋なドロップ確率なんだろう。

 

アイテムボックスから一本の杖を取り出す。

俺の身長が180cmぐらいだから、多分2mぐらいはあるデッカくて無駄に凝った装飾が施されたやつだ。

使う機会は少ないんだけど今みたいな相手には重宝するし、偶に気分転換に使ったりしてる。

 

「その杖は……?」

 

「大賢者の錫杖って装備。どっかの階層のボスを倒した報酬でゲットしたんだけど、性能も良いし使い勝手も良いんだよな」

 

どこのボスだったかな?確か100層とかその辺だった気がするけど、まぁいいや。

 

「よく見とけ。これが魔法を使った戦い方ってやつだ」

 

この杖にはデフォルトスキルとして詠唱簡略化、威力強化、それと魔法を撃つ時に手数を5倍に増やすとか言う弾幕至上主義みたいなスキルが付与されている。

 

「全部防いでみな」

 

10個の氷槍を浮かべると5倍になって現れる。合計50個だ。

それを一斉に撃つ。

物理的に高質量、高速な物体がぶつかると凄まじい炸裂音のような爆発音と衝撃が発生するが、それが50回ボス部屋に響き渡る。

 

「あれ」

 

カッコ付けたくせに仕留めきれんかった。まだ生きてやがる。

とは言えボロボロだからコアへの致命傷を防いだって感じか。

 

「じゃ、これで終いだな」

 

追加で極限まで絞って密度を上げた炎槍を1つ。勝手に5本になったのを見て、コアを目掛けて叩き込む。

 

爆炎が立ち上り、煙が晴れるとそこにはドロップ品があるだけだった。

 

「お、レアドロップじゃん」

 

外套が1枚。

この外套はレアドロップ品だが、ここのボスモンスターを数百回は倒してるが今回のドロップを合わせても未だに3枚しか見たことがない代物だ。

因みにそれぞれ性能が違うらしく1枚目は物理攻撃完全無効化、魔力消費量減少(大)って性能だったが2枚目は物理攻撃完全無効化、魔力障壁自動展開だった。

今回は物理攻撃完全無効化と対魔法防御性能(大)になっている。

中々いい感じだと思うし、3枚あるなら鍛治裁縫スキルで合成してもいいかもしれない。

鍛治裁縫スキルはスキルレベルと本人のレベルによって成功率がかなり変わってくる。

他にも調合、調薬、調教スキルなどがレベルやスキルレベルの高低で成功率や調合物の完成度に関わる。

 

俺はそれらスキルをレベル上げする為に、数多のドロップアイテムやレアドロップアイテムを生贄に捧げてきたからな……。中々の苦行だったよ、あれは。

 

「なんか、凄いマントですね……」

 

「だな。多分、地上でオークションに出したら数十億とか付いても不思議じゃないんじゃねぇかな」

 

「え"っ"」

 

「ま、君ら基準だとね」

 

適当に流しながら魔石も回収。ボス部屋を出て、一個下の階層に降りる。

転移陣トラップを踏んで上階層へ。

 

 

 

 

3日後、だいたい50階層あたりに飛んだところで歩いて地上を目指す。

この辺りで転移陣トラップを踏むと高確率で下に戻されるから歩いて登った方が早いんだ。

ギャンブルとか博打が好きって奴は踏むかもしれないけど。

 

何はともあれ、嬢ちゃんの仲間が10階層まで迎えに来ているらしいから合流を目指す。

配信では仲間が迎えに来てくれる事だけは伝えているらしいが、日時や場所は俺に迷惑掛かるかもって事で公表はしていないらしい。

 

嬢ちゃんの体力も怪我も完全に治っているし、まぁこの辺で別れちゃってもいいけど面倒見るって言った手前、ちゃんと引き渡してからだ。

 

 

「晴風!」

 

「潤ちゃん、皆も!!」

 

「じゃ、再開したって事で」

 

「おじさん!」

 

「ん?」

 

「助けてくれて、ありがとうございました!」

 

「いいよいいよ」

 

どうせもう関わり合う事なんて無いだろうし。

それよりこんな有名人にそう何度も関わりたくねぇよ。のんべんだらり、とダンジョンで暮らせりゃそれで良い。今回は特例中の特例だよ。

 

「このお礼は絶対に、絶対に返しますから」

 

「だから良いって。ま、おんなじ事にならないように気ぃつけろよ」

 

ひらひらと適当に手を振って場を後にする。

俺はやりたい事があるというか、まぁ、地上世界で調味料とかを山ほど買いこまなければならないのだ。

ダンジョン内で調味料って、ぶっちゃけあんまないし。精々トウガラシみたいなやつと胡椒と塩。

それ以外はなんもない。ミネラル、ビタミンがないのだ。

 

俺は醤油や味噌、ソース、ドレッシングが久しぶりに食べたい。

あれがあるだけで食生活は充実する。それはもう充実する。

ただでさえ美味いモンスターの肉が調味料でより美味しくなるって考えたら買い込まない訳にはいかない。

その為に、わざわざマジックバックを4つも持ってきてるんだから。

米から始まり、小麦粉などなど手に入れたいものは山ほどある。

 

 

楽しみだ。

 

 

 

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