幸運薬オーバードーズ少女、ホグワーツに行く   作:天宮雛葵

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 ※本文にミスがあったため、投稿直後に多少の描写修正を行いました(組み分けの順番)。原作と映画でごっちゃになっちゃった……



どこでもラッキー、どこがハッピー?

 マクゴナガルがエントランスホールに戻ってくると、フェザリナは先程までと同じような静かな笑顔で黙りこんだ。どうやら、彼女にとって模範的な新入生を演じるのは造作もないことらしい。

 

 とはいえ今のハリーからしてみれば、フェザリナにそういった二面性があることを不思議だとは感じられなかった。ハリーの抱く疑問と興味は、むしろ先程彼女の発した言葉の方に強く向いていた。しかし、マクゴナガルは今ここでゆっくり考える時間を与えてはくれないようだった。

 

「さあ、組み分けの儀式がまもなく始まります。私の後ろについてきてください」

 

 マクゴナガルの言葉に従い、新入生たちは移動を始める。大広間はすぐそこだったが、中に広がる光景はハリーの想像を大きく超えていた。

 

 空中に浮かぶ何百何千もの蝋燭。四つある長テーブルには金色の食器類が鎮座し、上級生たちも勢揃いだ。その奥には教職員であろう大人たちも並ぶ。天井を見てみれば、黒々とした空に星がいくつも輝いていた。

 

「本当の空に見えるように魔法がかけられているのよ。『ホグワーツの歴史』に書いてあったわ」

 

 ハーマイオニーの得意げな言葉がハリーにも聞こえた。

 

 新入生たちが美しい光景に気を取られる中、マクゴナガルは彼らの前に一脚の椅子を用意し、そこにボロボロのとんがり帽子を置く。大広間が自然と静まり、その帽子に視線が集まる。

 

 それは突然だった。帽子がピクピクと動き出し、裂けた部分をさながら口のように開き、そして歌い始めたのだ。

 

「私は綺麗じゃないけれど、人は見かけによらぬもの────」

 

 帽子はそのまま、ホグワーツ四寮の特徴を歌いあげていく。内容はだいたいロンから聞いた通りだったし、やはり自分はどの寮が求める資質も持ち合わせていないような気がして、ハリーの気持ちは沈む一方だった。

 

 やがて歌が終わり、大広間は拍手喝采に包まれた。拍手の音が消えるのを待って、マクゴナガルが羊皮紙片手に進み出る。

 

「これより組み分けの儀式を始めます。ABC順に名前を呼んでいきますから、呼ばれた者は前に出て、椅子に座りなさい。……アボット・ハンナ!」

 

 新入生たちの中から一人の少女が前に出てきて、マクゴナガルに促されるまま椅子に座った。帽子を被らされて、一秒、二秒────

 

ハッフルパフ!

 

 組み分け帽子が叫び、右側のテーブルから歓声と拍手が上がる。その様子を緊張と共に眺めながら、ハリーはふと気づいた。新入生の数はそう多くない。ABC順の最初がハンナ・アボットで、次に名前を呼ばれそうな人物といえば。

 

「アークライト・フェザリナ!」

 

 やはりだ。それまで澄ました顔で佇んでいたフェザリナは、いきなり満面の笑顔になって皆の前に進み出る。その表情の変わりようにマクゴナガルは一瞬驚いたようだったが、それ以上の動揺は見せず、フェザリナにさっと帽子を被せた。

 

 一秒、二秒、三秒。組み分け帽子は何事か唸っているが、寮の名前は叫ばない。どうやら全員が全員すぐに組み分けされるわけではないらしい。できれば自分の番はすぐに済んでほしいなと願いつつ、ハリーはフェザリナの組み分けを見守る。

 

 一分が経った。何も起こらない。二分が経った。新入生たちが騒めきはじめる。

 

 三分が経つころになると、上級生のテーブルからも囁き声での会話が聞こえてくるようになった。教職員の中にも、興味深そうにフェザリナの様子を観察する者が現れ始める。

 

 その間も組み分け帽子は変わらず唸り続け、かと思えばフェザリナの方が何か帽子と言葉を交わしているようにも見えた。ハリーの体感ではもう四分か五分を過ぎている。隣のテーブルから誰かの声が届いた。

 

「ハットストールだ」

 

 ここまで組み分けが長引くのは、どうやらその現象にわざわざ名前が付く程度には珍しい現象らしい。ハリーは自分の番でこうなることがないようにと一層強く願った。そして組み分け帽子が寮の名前を叫んだのは、実に七分を過ぎたころだった。

 

グリフィンドール!

 

 グリフィンドール生たちから爆発的な歓声が湧いた。焦らしに焦らされた組み分けの結果が自寮だったのだから、ある意味当然の成り行きだった。

 

 フェザリナはにこにこと笑いながらグリフィンドールのテーブルへと歩いていったが、その直前に一瞬だけハリーの方へ目配せしていたことを、ハリーもロンも見過ごしてはいなかった。

 

「……ますます底知れなくなった気がする」

 

 ロンの言葉に、ハリーは緊張も忘れてゆっくりと頷いた。

 

 


 

 

 その後、組み分けはつつがなく継続された。ハリーも無事グリフィンドールに組み分けされた瞬間にはホッとしたが、テーブルで彼を待ち構えているフェザリナの姿が目に入ると、安堵の気持ちを笑いと呆れが押し流していった。

 

 なにせフェザリナときたら、先程までの優等生ぶりを完全に投げ捨てての大はしゃぎを見せていたのである。その騒がしさたるや、フレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリーの双子と並ぶレベルだった。

 

「ポッターを取った!」「ポッターを取ったぞ!」

「わ~いハリーおめでと~! わたしからもお祝いしてあげる!」

「おやおや、ノリのいい新入生がいるな?」「ピカピカのハットストールちゃん、名前は……」

「フェザリナ! わたしのことをピカピカ呼ばわりだなんて、良い度胸してるんだね~?」

「おっと、気に障ったなら謝るさ」

「ううん、褒めてくれてありがと☆ わたしよりピカピカしてる人、どこにもいないもんね!」

「こりゃ一本取られたな」「実に手強い新入生だ」

「でも、あなたたちだって結構ピカピカしてるよ? そうだね~、この金食器くらいかなぁ」

「お褒めに与り光栄です」「何か困り事があれば」

「我らウィーズリーの双子にお任せを!」

「ふふ、そんなこと言われたらわたしは無茶ぶりしちゃうよぉ!」

 

 フレッドとジョージ、そしてフェザリナ。一か所に固めてはいけない人材であることは明らかだったが、こうして出会ってしまったからには最早誰にも止める術はなかった。

 

 後からグリフィンドールのテーブルに合流したロンは、ジェスチャーで『どうしようもないさ』とハリーに示していた。しかし正直なことを言うと、あの三人がやたらと目立ってくれるのはハリーにとってもありがたいことだった。

 

 そして全員の組み分けが終わったのを見届けてから、教職員テーブルの中央にいたアルバス・ダンブルドアが立ち上がる。

 

「おめでとう! ホグワーツの新入生たちよ、おめでとう! 歓迎会の前に、二言三言だけ言わせていただきたい。そーれ! わっしょい! こらしょい! どっこらしょい! 以上!」

 

 何かの冗談かとハリーは考えたが、ダンブルドアはそのまま着席し、周囲の上級生たちや教職員は皆拍手喝采していた。ハリーは思わず、隣でぽかんとしているロンに問いかける。

 

「……あのさ、やっぱり魔法界ってこれが普通なんじゃないの?」

「いや、フェザリナとダンブルドアがちょっとおかしいだけだよ。本当に」

 

 ハリーはいまいち釈然としなかったが、目の前の大皿が美味しそうな料理で一杯になっていることに気づき、そんな感情はすぐに吹き飛んでしまった。グリフィンドール寮の面々と交流しつつ、ダーズリー家では食べたこともないようなディナーに舌鼓を打つ。当然、ハリーが経験した中で最高の食事だ。

 

 その最中でふとフェザリナの方に視線を向けると、この短時間ですっかり仲良くなったフレッドとジョージに両隣を挟まれつつ、ゴブレットから水を飲む彼女の姿があった。

 

 どうやら、懐の中の小瓶やらボトルやら以外からの飲み物を飲めないわけではないようだ。しかしそれはそれとして、デザートとして取り分けたバニラアイスに小瓶の液体を振りかけてはいた。

 

「なんだそれ? 金色をしてる」

「それに良い香りだ」

「よくぞ聞いてくれましたっ! これはね~、ハッピーなアイスクリームをラッキーにするおまじないなんだよ☆」

 

 双子にそう訊かれたフェザリナの返答は、おおむねハリーの予想通りだった。つまり、その液体の正体に関する具体的な情報は何もなかった。

 

 そのまま楽しい時間が過ぎ、とうとう食器の上から料理もデザートも消えてしまってから、ダンブルドアが再び立ち上がった。

 

「全員よく食べ、よく飲んだことじゃろうから、また二言三言ばかり言わせていただこう。新学期を迎えるにあたってのお知らせじゃ。一年生に注意しておくが、ホグワーツからの外出には許可が必要じゃ。特に、禁じられた森に入ってはならない。これについては、上級生の……何人かに対しても、改めて注意しておかなければなるまい」

 

 ダンブルドアの瞳が、主にフレッドとジョージに対して向けられた。

 

「さらに、授業の合間に廊下で魔法を使わないように。魔法薬についても、校則で禁じられているものを調合、または使用することのないように」

 

 そう語るダンブルドアの視線は、やはり主にフレッドとジョージの方を向いていた。この双子は校則違反の常習者なのかもしれないとハリーは思ったが、残念ながら彼はひとつだけ重要なことを見落としていた。

 

 すなわち……双子に挟まれたままのフェザリナが、場の空気に似つかわしくない笑顔をやたらめったらと振りまいていたのだ。

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