幸運薬オーバードーズ少女、ホグワーツに行く   作:天宮雛葵

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サプライズ☆ハロウィンパーティー!

 ホグワーツの日々は目まぐるしく過ぎていく。特にハリーの周辺には、尽きることなくラッキーとアンラッキーが交互に押し寄せていた。

 

 飛行訓練の授業でスリザリン生たちの挑発に乗せられて箒を乗り回し、あわや退学かと思えばマクゴナガルの手でオリバー・ウッドと引き合わされ、そのままクィディッチ・チーム入りが確定。

 

 かと思えば次は()()()()()の果たし状が届き、ロンと一緒に……それから成り行きでハーマイオニーとネビル・ロングボトムも一緒にトロフィー室へ向かい、生きた心地のしない大冒険の末になんとかグリフィンドールの談話室へと帰還。

 

 さらにマクゴナガルから箒を贈られ、クィディッチの練習に邁進しながら魔法を学ぶ日々。授業や友人との生活を含めて、少し前の自分自身にここしばらくの体験を語っても絶対に信じないだろう、という確信がハリーにはあった。

 

「おっはよ〜ハリー、それにロン! 今週もきっちり頑張ってこーね☆」

 

 そう、友人との生活。これまでのハリーが得られなかったもの。グリフィンドールの1年生男子とは全員仲良くやれているが、最もよく話すのは明らかにロンだ。そして女子の方で言うならば、それがフェザリナであることは間違いなかった。

 

「月曜の朝をそんなウキウキで迎えるのは君くらいだぜ、フェザリナ……」

「というか、フェザリナがウキウキしてないタイミングがそもそもないよね」

 

 朝から勘弁してくれと言わんばかりのロン、そして同調するハリーだが、決してフェザリナを邪険に扱う雰囲気ではない。彼女は相手の懐に潜り込むのがとことん上手いのだ。

 

 誰を相手にしても……それこそマクゴナガルやスネイプを前にしても態度は変えず、授業ではバラつきこそあれど程々に優秀で、頼まれごとにも嫌な顔をせず、占いを頼めば百発百中。そうして日々会話を交わしていると、いつの間にかフェザリナが友人になっている。

 

 恐るべきはこれがグリフィンドールに限った話というわけではなく、他の寮生に対しても彼女は完璧にそうしているということだ。なにせスリザリン生すら、特に低学年の女子生徒にはフェザリナに頼る者がいるのだから驚きである。

 

 グリフィンドールとスリザリンが犬猿の仲だということはホグワーツで過ごしていれば嫌でも理解できるが、フェザリナがその場にいるだけでスリザリン女子の半数ほどが味方とは言わずとも中立に回るのだ。おかげで多少なりとも寮の対立が中和されている、というのはフレッドとジョージの言である。

 

『あとついでに言うと』『マルフォイ家のおぼっちゃまが大人しいな』

『ありゃフェザリナが苦手だからだ』『いっつもやりにくいって顔してやがる』

 

 当然、スリザリンからグリフィンドールへの嫌がらせがないわけではない。特にどうしても目立ちがちなハリーとフェザリナがしばしばその標的となったが、最初の印象ではいかにも厄介そうに思えたドラコが全く動こうとしないのだ。

 

『フェザリナに絡まれたくないんだろ』『ハリーを狙っても巻き込まれに行くのが目に見えてる』

『そしたら賢明なスリザリンガールズからの白い目さ』『グリーングラスとかデイビスとかな』

 

 純血を大事にするスリザリンのことだ、ドラコが集団の中心で我が物顔をしていても不思議ではない。そんな彼すら持ち前の明るさで間接的にどうにかしてしまっているのだから、フェザリナのムードメーカーぶりは大したものだった。

 

 ともかくスリザリンからの嫌がらせは一貫性を欠き、ハリーの悩み事はおおよそスネイプの魔法薬学のみ。それすら宿題に関してはフェザリナがいくらかカバーしてくれるおかげで、ハリーはまさしく順風満帆と言えるホグワーツ生活を送れていた。

 

「そんなに落ち込まないで、木曜にはお待ちかねのハロウィンなんだし! 楽しみだね~、ホグワーツのハロウィンなんてすっごいに決まってるよぉ!」

「別に落ち込んではないけど……ハロウィンに関しては異議なしだ」

「ふふん、そうでしょ〜?」

 

 フェザリナとロンが笑いあうのを見て、ハリーも自然と笑顔になった。季節のイベントを楽しみに待つのも、ハリーにとってはホグワーツだからこそできることだ。

 

 そしてちょうどそのタイミングで、女子寮の階段から誰かが下りてきた。

 

「あら、おはようフェザリナ。早いわね」

「おっはよ~ハーマイオニー! あとで魔法史の宿題見せてね☆」

「ダメよ。自分でやってこそ意味があるんだから」

 

 フェザリナのお願いはきっぱり断りつつ、ハーマイオニーはにこやかな顔を見せる。しかしハリーとロンに挨拶を投げようとはしなかったし、二人の方もそれは同じだった。そのままハーマイオニーはすたすたと談話室を出ていく。

 

「あんまり言いたくないけど、よくハーマイオニーと付き合えるよね。フェザリナはさ」

「んふふ~、ふたりともハーマイオニーのこと嫌いなの?」

「まあ、好きか嫌いかで言えば……」

「好きになる要素がないよな?」

 

 ロンの言い方は乱暴だったが、ハリーも同意せざるを得なかった。

 

 果たし状が届いたときには無理矢理くっついてきて、箒を手にしたときもわざわざお小言を言いに来て、それ以来お互いに口を開いてすらいない。授業ではグリフィンドールの得点を毎度のように稼いでいるが、それは頭カチコチのガリ勉優等生と親しくできる理由にはならなかった。

 

 しかしここでハーマイオニーの悪口を並び立てるのは、誰に対しても分け隔てなく接するフェザリナからすれば面白くない話かもしれない。そう思ってハリーはフェザリナの顔色を窺ったが、彼女は相変わらず人懐っこい笑みを浮かべたままだ。

 

「あれ、どしたのハリー。わたしの髪、跳ねたりしてる?」

「う、ううん。なんでもないよ」

 

 小瓶の液体を一本二本と口に流しこんでから問うフェザリナ。そんな彼女の笑顔をどこか不気味に感じたのは、これが初めてのことだった。

 

 


 

 

 三日後、ハロウィン当日の夜。事件は起きた。

 

 大広間での夕食、豪勢なご馳走に生徒たちも教員たちも舌鼓を打っていた最中のことである。大きな音を立てて扉が開いたかと思えば、クィリナス・クィレルが顔面蒼白で駆けこんできた。

 

「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと、思って」

 

 息も絶え絶えにそう告げるなり、クィレルは気絶してばたりと倒れる。

 

 必然と言うべきか、大広間に集った生徒たちは恐慌状態に陥った。全員が落ち着くまでに、ダンブルドアが杖の先から紫色の火花を幾度か飛ばさなければならないほどだった。

 

「監督生よ。すぐさま自分の寮の生徒を引率し、寮に帰るように」

 

 ダンブルドアの指示にいち早く反応したパーシーを筆頭に、監督生たちが寮生に指示を飛ばす。一団となったグリフィンドール生の列に入りながら、ハリーが首を傾げながらロンに聞いた。

 

「一体どうやってトロールは入ってきたんだろう」

「僕に聞いたって知らないよ。トロールってとってもバカらしいし、勝手に入ってこれるとは思わないけど」

「うーん、じゃあ誰が……ちょっと待った」

 

 ハリーはふと重大なことに気付き、ロンの腕を掴んだ。

 

「ハーマイオニーだ」

「あいつがどうかしたかい?」

「トロールのこと、まだ知らないはずだ」

 

 ちょうどこの日、ロンとハーマイオニーは派手に喧嘩をしていた。呪文学の授業で浮遊呪文を練習するときにコンビを組まされ、ロンは間違いを声高に指摘され続けて散々な結果に終わった挙句、ハーマイオニーは一発で成功させてみせたのだ。

 

『だから、誰だってあいつの悪夢みたいな嫌味ったらしさには我慢できないって言うんだ。わざわざ付き合ってやってるフェザリナがスゴいだけさ』

 

 授業後にロンは悪態を吐いたが、それをハーマイオニーが聞いてしまっていた。泣きながら足早に去っていった彼女は、結局その後の授業に出てこなかったし、ハロウィンパーティーにも顔を出していなかった。パーバティとラベンダーが話していたことを信じるなら、ハーマイオニーはトイレで一人泣いていたらしい。

 

 責任感と嫌悪感がない交ぜになった顔でロンが口を開く。

 

「わかった。だけどパーシーに気付かれないようにしなきゃ」

 

 監督生たちの目線が外れた瞬間を狙って、ハリーとロンはさっとグリフィンドール生の列から離れた。寮へ帰ろうとする他の集団に紛れ、なぜか単独行動をしているスネイプから隠れ、とりあえず近場のトイレからしらみつぶしにハーマイオニーを探そうと決めた、ちょうどそのときだった。

 

「お待たせ〜、ふたりとも☆」

 

 その声の主をハリーとロンは当然知っている。知っているが、どうして彼女がここにいる? 恐る恐る振り返ろうとする二人だったが、それよりも先に彼女は目の前に回り込んでくる。

 

「どーしたの? そんなビックリしちゃって、ほら行くよぉ!」

 

 こんな状況でも、フェザリナの輝きに満ちた瞳と笑顔は普段通りだった。

 

「え、いや、なんで……ここに?」

「というか、お待たせって……」

「そう言った方がいいんでしょ、こういうときって! さ〜行くよぉ、向かうべき場所へ!」

 

 ハリーとロンは顔を見合わせる。ここしばらくは比較的まともだったが、そういえばフェザリナはこういう人間だった。理解できない言動をしているときの彼女にその意味を問いかけてみたところで、納得できる答えは返ってこないのだ。

 

 二人はそんな学びを再び噛みしめながら、スキップでも始めそうな軽やかさで先に進み始めたフェザリナを慌てて追いかけていった。

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