第一話 全ての始まりと終わり
2022年11月6日
これまでのゲームとは一線を画すと称され、全ゲーマーの期待と渇望を受けながら史上初のVRMMORPG《ソードアート・オンライン》のサービスは開始する。現在時刻は12時50分、サービス開始時刻である13時は目前に迫っておりユーザーたちは今か今かとその時を待ち望んでいる。
かくいう少年も例に漏れずその一人であり既にROMカードはソケットに挿入して準備は万全といった状態だ。用意したゲームを期待を込めながらも複雑そうな表情で見る少年は、それなりの重さを感じるナーヴギア──いくら彼が作ったとは言ってもそこまでの軽量化は行われなかったのだろう──を装着してシールドを下ろす。そして、天才量子物理学者──茅場晶彦が作り上げた仮想世界《アインクラッド》へと通ずる一言を唱える。
「リンク・スタート!」
この一言で少年の意識は異世界と旅立だった。
視覚──異常無し
聴覚──異常無し
触覚──異常無し
嗅覚──異常無し
味覚──異常無し
──システム、オールグリーン──
現実世界から仮想世界へと降り立つためにひとつひとつチェックが行われていく。すべての認証が終了し、仮想世界で過ごすための
自分という存在がこの世界に確立された瞬間──
どこまでも広がる白藍の空、どこか雄大な流れていく雲、それらを頂きに覆ういくつもの山が連なる巨大な山脈、静寂な雰囲気を醸し出す森、大地の暖かさ溢れる草原、RPGに出てくるような冒険の始まりを感じさせる村、そして圧倒的な風格を有して空に鎮座する鋼の城《浮遊城アインクラッド》といった風景が視界に広がる。
「これが仮想世界……やはり何度見ても素晴らしいですね」
どこまでリアルである風景を前に遂に仮想世界に降り立ったことを実感した少年はそのようなことを呟く。例えるなら雄大な自然が織りなす風景──目の前の風景は0と1からなるデータで成り立つ人の手で作られた仮初めのものなのだから驚きだ──に見惚れるのに近いものだろうか。
そして、このゲームでの挙動を確認するため体を軽く動かす。とくとくと小さいが確かな鼓動を感じながら、手の開閉を数度繰り返し、膝の曲げ伸ばしなどの確認動作を行っていく。
早速少年はこの世界での活動を始めるためすぐ近場にある「はじまりの街」に移動してきた。やはり冒険の始まりを感じさせるこの街には何か感じるものがある、そんなことを考えているのは自分だけだろうか、なんてことを考えつつも特に吐き出す相手もいない自分はよく知りなれた人で溢れる街中を進んでいく。
自分と同じようにサービス開始直後から始めたであろう行き交う人々、むしろやってない人などいるのだろうかと考えつつも装備を整える為店へと向かう。少しでも節約をするためなんて仮想世界に来ても変わらない自分のけち臭い部分に少し嫌気がさしつつも大通りからそれた人気のない場所にある如何にもといった店へと入る。これも特権の一つだろう、そんな仄かな優越感を感じつつ所狭しと並べられた武器を見て回る。片手剣、両手剣、細剣、盾などの様々な種類の武器が並べられているが…
「まあ私はこれですね」
そう言って少年が手に取ったのは曲刀だった。現実世界で慣れ親しんだ得物とはまた違うのだが、ないものは仕方がない。自分の最初の相棒となるのだ、と少年は時間をかけて吟味し一番手に馴染んだのものを掴み取る。
自分の望むものが手に入らず些かの不満を感じつつも店内のCPUへと話しかけ、初期所持金からコル(お金)を支払い曲刀を手に入れる。
「いよいよ冒険の始まりいや、プロローグといった感じですね」
そんなことを脳内でひとりでに流しつつフィールドに向かった。
「まぁ、そこまで上手くは行きませんか」
そう言って少年は曲刀を振るう手を止める。ゲームを始めてからどれほどの時間が経ったかは分からないがかなりの時間得物を振るっているだろう。従来のゲームと異なりコマンド入力で動くわけでなく自分の体──と言っていいかは微妙なところではあるが─を動かさないことには歩くことすら叶わない。
そんな中モンスター相手に曲刀を振るい続けるのは些か疲労するものだろう。が、少年は特に疲れてはいなかった。向こうでも武道に触れていたのだし経験者であるのだから当然と言えば当然である。自分の動きに不満があるかどうかは別として、だ。
「ソードスキルはそこまで大きな調整はないですね。この動きに制限を掛けられるような感覚は少し苦手ですが」
ソードスキルとはこのソードアート・オンラインにおける必殺技といった立ち位置のものだ。定められた姿勢をとることでシステムが補助を行い攻撃軌道を補正しつつ体がモーションに沿って動き様々な攻撃動作で戦うことが出来ると言った代物である。
ソードアート・オンラインにはこのジャンルにありがちと言える魔法が存在せずその代わりとして派手な音が鳴り響き光跡を描いて攻撃を行うことの出来るソードスキルが存在している。隙が小さく多用するようなものから、数々の連撃を繰り出すまさに必殺技といったものまであり、このゲームの目玉ともされている。
「スキル発動中はモーションに合わせて同じ方向に動くことしか、こちら側から任意的に干渉できないのも少し気になりますが………ま、些細な問題ですし」
こうして少年は一人寂しく呟く間にも剣戟を放ちまた一匹のモンスターがポリゴン片へと散る。それと同時に聞こえてきたレベルアップ音に一度動きを止める。
場所を何度か変えながらはじまりの街周辺に生息している序盤の敵であるフレンジー・ボアなどを狩ったことでレベルアップしたのだろう。少年としては序盤も序盤にこんな周回じみたことをやる予定ではなかったのだが。
「少し熱が入りましたね。それなりにコルも集まってきましたし、一度街に戻りましょうか」
そう考えていると、そうはさせんとばかりに少年の周りにかなりの数の敵が集まってくる。
「まぁ向こうから集まってきたんですしこれらを
そう判断し少年は再び得物を構える。
「よっしゃあああー!!」
ようやくクラインがソードスキルを発動してフレンジー・ボアを倒したようだ。キリトとしてはこちらの教えをかなりの効率で飲み込んでくれる出来のいい生徒であったため教えている側としても楽しかった。
インターネット上ではなかなかこういう人当たりの良い人物とは出会えない。人見知り気味な自分にも臆せず接してくれたクラインに心の中で感謝を伝える。
「おい、キリトあそこにいるやつ不味くねーか」
そう話しかけられクラインが指差す方向を確認すると、確かにかなりの数のフレンジー・ボアに囲まれている。
「確かに不味いな、この距離じゃ今から駆け出しても、」
「顔合わした訳じゃねぇが目の前で死なれるのも味がわりぃ。急ぐぞキリト!」
そうして駆け出したクラインを慌てて追いかけ走り出しだが、距離もあってか間に合わず遂に攻撃されるといった瞬間──
「え?」
想像もしない光景に足が止まった。鋭い踏み込みと共に放たれる一閃。描かれた軌跡には僅かなブレもない。様々な方向から迫る敵をまるで戯れるかのように正確に捌き切る。重心の揺らぎも全く感じられず、一切システムの補助が無い中あれだけの剣技を繰り出す者が現実でも相当な実力を持っていたことは、小さい頃に剣道を齧っていたキリトには十分理解できた。
「あいつスゲェーな!あいつもβテスターかキリト?」
「あいつは……おい、ソウジか?」
やはりあいつか、剣を扱い方が手慣れている。サービス開始からひたすら剣を振るのはどうなのだろうか。そう思いながらも少年──ソウジに声をかける。
「キリトさん。βの時以来ですね。……あ、そちらの方は初めまして、ソウジです。以後お見知りおきを」
「おう、俺はクラインよろしくな!」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」
──俺が話しかける間もなくソウジと打ち解けあっている、だと。
コミュ症気味な俺には少し眩しい光景だ、と勝手にダメージを受けるキリトであった。
「ソウジもやっぱり来てたか。これからどうするんだ?」
「……まぁ、楽しみにしていたので。ちょうどひと段落つきましたし一旦街に戻ろうとしていたのですが」
「じゃあ、俺も一旦街に戻ろう。クラインも行くか?」
「ああ……と言いてぇところが、生憎ピザを頼んでてな。んで、その後他のゲームで知さり合った奴と落ち合う約束してんだけどよ、キリトそいつらとも後でフレンド登録してやってくんねぇか?オメェみたいな強いやつがいると俺らも強くなれるしな」
「ああ、考えておくよ」
「ソウジもまた今度の機会があったらまた一緒にやろうぜ」
「……ええ、またその時は是非とも」
「ああ、じゃまた今度な」
そう言って、クラインと別れようとしたのだが……
「おい、これ何処にもログアウトボタンがねーぜ」
「見落としたんじゃないのか、そんなことあるn」
「……確かにクラインさんの言う通りログアウトボタンが存在しませんね」
「……ああ、そうだな何かアーガスでトラブルでも起こったか?」
「どういうことだ、ソウジ?」
「……そうですね。このようなトラブルが起こった場合アーガスは即刻緊急メンテナンスに入らないといけません。例えこのゲームの評判に傷が付こうとも、最悪人命に関わりかねない事態ですので。なのでこの様な場合強制ログアウトを行ってメンテナンスに入るのが一般的だと考えられるのですが………」
「なるほど、そりゃ確かにおかしな話だぜ。それにしてもソウジは詳しいんだな」
「……そうですかね。ま、だからこそこの事態は異常なのですが」
「んー、そうか。じゃ、ソウジお前もフレンド登録しねえか?」
「え……別に、そんな私なんか」
「そんなこと言うなって、お前めちゃめちゃ強かったじゃねか。な?」
「ああ、ソウジも別にそんな自分を卑下しなくてもいいだろ?」
「……まあ、そうですね。それじゃお願いします」
ソウジはフレンド申請を送りながらも思考を回していく。本来アーガスがこのような不具合を出すとは考えにくい。特にこのようなゲームではなくVR技術自体の安全性に疑問を抱かれるようなトラブルが起こりえるのを見逃すだろうか。特にこのゲームはアーガス社が温め続けてきたまさに社運を掛けた渾身の一作といってもいいものだ。
β版でもこのようなトラブルは聞いたことがない、とすれば何か外部的な要因があるのだろうか。SAOが発売される前から脳へ電子パルスを送り込むことや、外部デバイスが故障した際の危険性といったものは噂されていた。が、尚のことSAOは安全性を重視しているはず。加えてあの人が見逃すとは考えにくい。
「……ジ、ソウジ!大丈夫か?話聞いてるか」
そんな風に考え込んでいると返答がないソウジにキリトが声をかける。
「いえ、すいません。少し考え物をしていまして」
「なら別にいいが」
現状こちらからできることは何もない、とソウジは判断する。こちらがどれほど騒ごうが、公式からの動きが無いことには仕方がない。会話に加わろうとした瞬間
──リンゴーン、リンゴーン
大きな鐘のような大音量の音がフロア全体に響き渡る。
「一体何だ?」
「これは!」
それと同時にソウジたちの視界が青い光で埋め尽くされていき、何も見えなくなると感じたことのないような浮遊感に体を包まれ、そして直ぐにその感覚は消え失せた。
ーはじまりの街・中央広場ー
「何が起こったんだ?」
「恐らく強制転移でしょう。さっきの不具合の説明ですかね?しかし……」
ソウジは不具合の説明としてはこの対応にどこか違和感を感じた。わざわざ一か所にプレイヤーを集める理由がない。各自のメニューに送り付けるのが一段手っ取り早いはずだ。この不可解な状況に対して疑問を抱いていると、空に真っ赤なフォントで構成された
<Warning>
<System Announcement>
という二つの構文が現れた。多くのプレイヤーはこの事態に対してようやくかと言いたげな状況だ。ソウジも自分も彼らの気持ちには大いに共感する。やがてウィンドウは少しずつ溶けだし、空中に留まり何かを形作っていく。
そして現れたのはローブを被った巨人。ただローブのなかは闇で埋め尽くされており何かおどろおどろしさや不気味さといったものを醸し出している。プレイヤーたちからはちらほら不安げな声が聞こえてくる。
『ようこそ、プレイヤーの諸君。私の世界へ…』
――――この瞬間
――――命を懸けた《SAO》での
『私の名は、茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ。プレイヤー諸君は、すでにログアウトボタンが消滅していることに気付いているだろうが…、それはゲームの不具合ではない。繰り返す、ログアウトボタンが消滅しているのは、ゲームの不具合ではない』
「どういうことなんだよ!」
「落ち着け、クライン。しかし一体……」
『そう…現時点をもって諸君らは、この世界ソードアート・オンラインから自発的なログアウトは、不可能となった。』
──な!
突如茅場から発せられた言葉にプレイヤーたちは理解できなかった。いや、受け入れられなかった。そんな中ソウジはこの状況から一つの仮説が導き出す。余りにも受け入れがたい《現実》を。
「あなたは……」
「ふざけるなよ!」
「早く俺たちを現実へ戻せ!」
周りのプレイヤーはようやく、止まっていたおもちゃが動き出したかのように声を上げ始める。
『諸君らは、何故?と疑問に思っていることだろう…何故このゲームの開発者である私…茅場 晶彦がこのようなことをしたのか?……私の目的は既に達成されている。この世界を作りだし干渉するために私は、このソードアート・オンラインを作ったのだ…』
「どう、して………」
『まず初めにこのゲームをプレイしていくにあたっていくつかの注意事項がある。通常であればHPが0となった場合コンテニューで復活が出来るが、このソードアート・オンラインでは不可能だ。もしHP0となりゲームオーバーとなった場合諸君らのアバターは、永久に消滅し…
同時にゲーム開始時に頭部に装着した接続機器ナーヴギアの発する高出力マイクロウェーブ波が諸君らの脳を破壊し
「なっ!」
「嘘だろおい!」
『…また、外部の人間の手によるナーヴギアの停止、あるいは解除もあり得ない。しかしもし、それが試みられた場合も同様の事が行われる。……残念ながら現時点でプレイヤーの家族、友人などが警告を無視しナーヴギアを強制的に解除しようと試みた例が少なからずあった……その結果213名のプレイヤーがアインクラッド及び、現実世界から永久退場している…』
「そん、な…………」
『諸君らが解放される条件はただ1つ…このゲームをクリアすればよい。現在君達がいるのは、アインクラッドの最下層第1層である…各フロアの迷宮をクリアし…第100層にいる最終ボスを倒せばクリアだ………。そうすれば、生き残った全プレイヤーが安全に現実世界へと解放されることを保証しよう』
次々と告げられる衝撃の事実に絶句するプレイヤーに目もくれることなく茅場は語り続ける。
『これはゲームであっても、遊びではないのだ。以上でソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する…諸君らの検討を祈る……』
『それでは最後に、私から諸君らにプレゼントを贈らせてもらおう。アイテムストレージを確認したまえ』
未だ衝撃を受け固まっていた体を何とか動かし、ソウジは送られて来たアイテムを確認する。入っていたアイテムをオブジェクト化させると、特に何の変哲もない手鏡が現れた。
彼が意味のないものを渡すのはまずあり得ないだろう。突如始まったデスゲーム、ゲームであっても遊びではない…本当の異世界……鏡、頭の中に浮かぶ単語から考えを捏ねくっていると手鏡が輝きその瞬間体全体が光で包まる。
「そうですか……」
そこには特に大きく変わってはいない現実世界と同じ顔のソウジの姿があった。そして余りにも酷い顔に思わず笑ってしまう。とても人に見せられたものではない。
「お願いだ。現実に戻してくれ!こんなところで死にたくない!」
「おい、ふざけるなぁー!元に戻しやがれー!」
「いやー!約束があるのよ!かえしてー!」
そんな中キリトたちも呪縛から解かれたかのように動き始めた。
「まさかお前……キリトか?」
「その声は……!もしかしてクラインか?」
まさか、あんなことが起きるとは、キリトはそんな考えで頭が埋め尽くされる。正直これが現実だとは受け入れがたいが、起きてしまったからには仕方ない。茅場はなぜこんなことを……なんて現実逃避は一度頭の隅に追いやる。
「それにソウジは……」
「近くにいるはずだ。………あれじゃないか?」
「ん、あれか。確かにな、おーい、ソウジ!」
「……クライン、さんとキリトさん、じゃないですか」
「「……!」」
絹糸のように細く、黒に白が混ざった長髪。どこか儚い美しさを映し出し、形のいい鼻梁や、ぱっちりとしたつり目。顔立ちは精巧な人形を思わせる。かなりの目を引く容姿だが自分達はそれらに気をやる余裕がなかった。
「……これはちょっと、その……顔のほうは、アバターを作るのがめんどくさかったといいますか………」
「「……………」」
「……そんなドン引きしなくてもいいじゃなないですか。全く失礼ですよ……」
それらを覆い隠すほどにソウジの容態がおかしい。眼は一見こちらを見ているようで視線が合わず、どこか明かりを通さず曇ったようにさえ感じる。声も上擦り、顔色もSAOでは強調されるとしても決して無視できないレベルで酷いものだった。
「お前………」
「何ですか人のことを「無理するな!今のお前の顔色は明らかにやばいぞ」………え」
ようやく気付いたのだろうか、ソウジは動きを止める。そして眼を瞑り少し経つと顔色は普段と変わりないものへと落ち着いた。
「すいません、すこし気が動転していたので。お二人には心配を掛けました」
「ま、大丈夫そうならいいんだけどよ」
「ソウジ、さっきのはほんとうに」
「大丈夫ですよ、安心してください。今はもう何ともないですから」
ソウジは先ほどのことについてあまり触れられたくないのだろう。まあ知り合ってそれ程経ってもいないのだし当然のことかとキリトは自分を納得させた。
「……そうか。それにしてもお前、アバターとそんなに差がないよな」
「……てか改めてみると男だったのか……クソー、こんなに格差があるなんてやっぱ現実はおかしいだろ!」
ソウジの中性的な素顔についてクラインが言及するとソウジは眉を少しひそめた後、話題を変える。
「……で、これからどうしましょう。私としては次の村に向かいたいのですが……私は一度会っておきたい人がいるので後から向かう形になりますが」
「ああ、俺も同じことを考えていた。俺たちは危険な場所も把握しているしレベル1でも安全にいける。どうだ、クラインも一緒に行かないか?」
「提案ありがとな、キリト。たださっきも言った通りあいつらがまだ広場にいるんだ、おいてけねぇ。そんな心配そうな顔しなくても大丈夫だ。おめえに教えてもらったし、何とかするさ。それにこれがなんかの間違いですぐにログアウトできるかもしれ知れねえしな」
「クライン……」
こちらから助けるために提案したのに、心配された挙句励ましてもらったキリトはクラインの人柄の良さを改めて感じた。
「分かりました。では、またお会いいたしましょう。何かあれば互いにメッセージを送れますしね」
「ああ、ありがとよ。ソウジの顔かなりきれいだぞ、キリトのかわいい顔も結構気にいったぜ!」
「ああ、クライン、お前の野武士ヅラの方が十倍にあっているよ!」
「…ありがとうございます。無事に生きて戻りましょう」
そうしてクラインが仲間の元へと走り去っていく姿をソウジとキリトの二人で眺めていた。
「…行ってしまったな」
「…もしかして、さっきのことに責任を感じてしまったり、後悔したりしてます?」
「……まあな」
「キリトが気にする必要はそこまでないと思いますよ。極論を言ってしまえばこの世界での死は全て自分の責任です」
キリトに投げられた言葉にキリトは眉をひそめる。
「……ソウジ」
「…気を悪くしたのならすいません。ですが、ヒトは他人の生死を責任を全て請け負おうだなんてことはできません」
そう述べるソウジの目はこちらを見ているようでどこか遠くを見ていた。
「……それでは、私はこれから探す人がいるので後から向かます」
「…そうか、問題はないと思うが無事でいろよ」
「ええ、キリトさんも気を付けて」
こうしてソウジたちは別れ各自がこの世界で生きるため、想いを胸に秘め動き出した。
「まだこの辺りにいると思うのですが……」
やはりこの混乱が落ち着いた後に出てくるであろう死亡者の数を少しでも減らすには情報が必要だ。ソウジはそう考えある人物のもとに向かっている。このゲームオーバーが死に直結するこの世界において最も恐れるべきもの、それは”未知”である。
β時代との敵の挙動や生息域、注意すべき箇所などの比較を終わらして正確な情報をより多くのプレイヤーたちに共有することが重要になる。そうソウジが考えていると、特徴的な人影が視界に浮かび上がる。
「ようやく見つけましたよ」
「その声はもしかして、ソウジ、カ?」
そこに立っていたのは金褐色の髪の小柄な女性。
「…ええ、お久しぶりですねアルゴさん。こんな時にすいませんが頼みごとがありまして」
「いきなりカヨ。ただ、オネーサンほとんど動けて無いから大した情報ないゼ」
「いえ、どちらかと言えば協力の方が正しいですかね。アルゴさん、恐らく集めた攻略情報を何らかの形で皆さんに共有するんじゃないですか?」
「…!マジかよ、オネーサンそんな分かりやすい?まぁ、協力はありがたいヨ。一人でやるには骨が折れるからナ。でも何でそんなことしようと思ったんダ?」
「いえ、あくまでアルゴさんのことを信じただけですので。……たぶん彼らを見捨てたくなかったんだと思います。いや、恐らく……せめて手を少しでも差し伸べられるように、と……」
ソウジにはとある記憶が脳裏を掠る。
「少なくとも自分の命が掛かっている状況で手を差し伸べられるってダケで充分ダ」
「……ありがとうございます。では、これから私は情報を集めつつ次の村へ向かいます。最後にフレンド登録だけ済ませましょうか」
「ああ、チャッチャとしちゃおうゼ」
アルゴさんと連絡を取れるようになった私はキリトの後を追う形で進んでいく。モンスターなどのアルゴリズムも変化している可能性があるので検証が必要となるだろう。
「ソウジー、気を付けてナー、それと今後ともひいきにナ」
「ええ、アルゴさん今後ともよろしくお願いいたします」
こうしてソウジはアルゴと分かれた後、モンスターなどを倒して挙動を観察しつつ次の村へ向かう。
「やはり微妙にアルゴリズムが変化していますね。ここら当たりはβ後に最終調整が入ったのでしょうが……ま、ともかくアルゴさんにも念の為後で伝えておきましょう」
かなり日も落ちてきて夕暮れ時となり、ソウジも宿屋についても検討をつけ始める。確かあそこにはかなり条件の整った宿屋が……などと考えていると村が見えてきた。安全圏があると確認すると一気に精神的な疲労を感じる。
今日は余りにも多くのことがありすぎた。もう今日は活動を辞めて明日から動くとしましょう。そう考え宿屋のドアを開けた。
ご覧いただきありがとうございます。誤字・脱字など、読み返しながら確認しているんですが、ミスがありましたら、報告頂けると有難いです。感想もモチベーションになるので頂けたら幸いです。