ソードアート・オンライン ー浅葱の剣聖ー   作:狂華翠月

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 アスナの現状説明とソウジたちが世界樹に向かっていく話となります。



第十四話 ティターニア

 

 

 

 

 ALOの舞台たる妖精郷、アルヴヘイムの中央に聳え立つ世界樹の上。そこに吊るされた鳥籠の中に、ある純白の豪奢なベッド。そこにアスナは居た。先ほど鳥籠に入ってくるなり、ベッドの上に腰かけていたオベイロンが、横たわりながら隣に座っているアスナを呼び寄せ、彼女の左手に指を這わせている。

 

 ──ホントに気持ち悪い………でも、我慢しなきゃ

 

「どうだい?いい加減諦める気になったかな……ティターニア」

 

「その変な名前で呼ぶのは止めて。私はアスナよ…………須郷さん」

 

「興覚めだなぁ。この世界では、僕は妖精王──オベイロン。そして、君はその妃にして女王ーティターニア。多くのプレイヤー共が羨望を込めて見上げるアルヴヘイムの全てを納めし支配者………それでいいじゃないか?」

 

「……………」

 

「やれやれ、頑なな女だね、君も」

 

 やがて、何の反応も示さないアスナに失望したのか、オベイロンはベッドの上に寝転がる。一先ず、これ以上の不利益を被る事態は免れたようだ。

 

「どうせ偽物の体じゃないか。何も傷つきゃしないよ。一日中こんな所にいて退屈するだろう?少しは楽しもうって気にならないのかねぇ……」

 

「……あなたには分からないわ。体が生身か仮想かなんてことは関係無い。少なくとも私にとってはね」

 

「心が汚れるとでも言いたいのかね?」

 

 くっくと下卑た笑みを向けるオベイロンに、アスナはさらに苛立ちを募らせる。

 

「どうせこの先、僕が地位を固めるまでは君を外に出すつもりは無い。今の内に楽しみ方を学んだ方が賢明だと思うけどねぇ。実験も進んできたし研究結果ももう少しで出せそうだ」

 

「……いつまでもここにいるつもりは無い。きっと……助けに来るわ」

 

 現実世界と異なる昼夜のサイクルに、体内時計も崩れ何日経ったか分からない──体感では60日以上経っているなか未だ自分に屈服しないオベイロンは醜悪に顔を歪めながらアスナに話しかける。

 

「へえ?誰が?ひょっとして彼かな?英雄キリト君」

 

 その名前を聞いた途端、アスナは驚いた様子でオベイロンの方を振り向く。先程よりも顕著な反応に、オベイロンはいよいよ口元を歪ませ、アスナを甚振るように喋る。

 

「彼、キリガヤ君とか言ったかな?先日、会ったよ。向こう側でね」

 

「…………!」

 

「いやあ、あの貧弱な子供がSAOをクリアした英雄とはとても信じられなかったね!あ、あとオキタ君……だっけ、人斬り包丁とかなんとか。全く物騒だよねぇ。それに確か彼は茅場先輩の義弟だったはず。何しても不思議じゃないね。全く義弟に裏切られる先輩も、義兄を殺すソウジ君もイカれてるとしか思えない!とんだ英雄がいたもんだ!」

 

「…………」

 

 

 アスナが反応を示した人物、キリト、そして友人であったソウジを貶める発現を次々重ねるオベイロン。その言葉に込められた侮蔑にアスナは憤りを覚えるが、これ以上反応を見せれば、さらに弱みを見せる事となるので、それを顔に出さないよう最大限努力する。

 

「それでキリト君と会ったの、どこだと思う?君の病室だよ。寝ている君の前で結婚するんだ、と言ってやった時の彼の反応は、傑作だったね!僕を君から遠ざけるために、必死になってたよ!本当に笑いを堪えるのに苦労したよ」

 

「…………」

 

「じゃあ君は、あんなガキが助けに来ると信じているわけだ!ただ残念だろうが、あのガキにもう一度ナーヴギアを被る根性なんてありゃしないよ!君のいる場所さえ掴める筈が無いんだしね。そうだ、彼に結婚式の招待状を送らないと。きっと来るよ……君のウエディングドレス姿を見にね。擬似英雄君とはいえ、それくらいのおこぼれは与えてやらないとね」

 

 和人を馬鹿にして憚らないオベイロンの言動に、アスナは顔を俯けるばかりだった。やがて、和人をダシに散々アスナを嬲って満足したのか、オベイロンはベッドから降り、立ち上がった。

 

「ではしばしの別れだ、ティターニア。明後日まで、さびしいだろうが堪えてくれたまえ」

 

 相も変わらず不快な笑みを浮かべて立ち去るオベイロン。和人の存在を利用して、アスナの心を折る接点を見つけた以上、彼女が自分に屈服するのは時間の問題だろうと考える。仕事で二日程この場所に来ることができないが、帰って来てからが楽しみだと思いつつ、ドアに向かって歩いていく。一方のアスナは須郷にバレない為に、落ち込んでいるかのように見せているが、その心には見た目とは裏腹にほのかな希望が宿っていた。

 

 ──キリト君は……和人君は、現実世界に帰っている!

 

 アスナがこの世界に閉じ込められて以来、絶対的な心の支えとしていた人物こそが、キリトとソウジだった。あの世界で頼もしかった彼らは今でもアスナの頼れる存在だ。だが、彼らまでもが須郷に囚われてしまっていては、自分の帰還も叶わない。アスナの懸念は、彼らの帰還が行われているのかどうかだった。しかし、須郷が変なプライドにこだわって告げてくれた言葉のお陰で彼の現実世界の帰還に確信が持てた。

 

 彼らが現実世界に帰っていたのならば、まず間違いなく未帰還者の存在に関して何らかの違和感を感じるはず。そして、ALOを隠れ蓑に違法研究を行っているのならば、やがて黒幕に行き着き、再びこの仮想世界へダイブしてこの世界樹を目指すだろう。彼らにはナーヴギアを被る勇気は無いと言ったが、その認識は愚かな判断と言わざるを得ない。アインクラッドで常に命を懸けながら戦い抜いてきた彼らならば、どんな危険があろうと飛び込んでくる筈だ。

 

 ──きっと……きっと、助けに来る!だから、私も……!

 

 今も囚われになっている私たちを解放するために戦い続けている自分の想い人や友達に報いるためにも、自分は自分の出来ることをしなければならない。決意を新たにしたアスナは、力を込めて目線を僅かに上げ、部屋に備え付けられた鏡に視線を向けるのだった…………

 

 

 

 

 シルフ領の北東に広がる《古森》で、羽根が生えた巨大な蜥蜴《イビルグランサー》に襲われた。シルフ領の初級ダンジョンのボス級の戦闘能力を持ち、《邪眼》と呼ばれる呪いカース系の魔法攻撃でステータスを大幅に下げて来る厄介なモンスターだ。

 

 だが、そんな敵もお構いなしにソウジは、視認することすら難しい速度で敵を攪乱しつつ手に持った刀で切り裂いていく。敵が攻撃を行うときには既に軌道から外れており、一方的にHPを削っていった。五体も居たモンスターはあっさり倒され、残りの一体もソウジががホーミング系の水魔法を使い倒した。

 

「彼、一体………あんなウインディーネのプレイヤーがいるなんて聞いてないわよ。未来見てるみたいに攻撃全部避けちゃうし………それにあのスピード私でも出せるかどうか……」

 

「な、だから言っただろう。ソウジは俺より速いって」

 

「そんなのは見なきゃ分からないじゃない!」

 

 ──それにしても無茶苦茶じゃ無い!少しでもズレたら被弾していたものもあったし、本当にどうなっているのかしら?太刀筋も私が見てきた誰よりも綺麗、現実でも相当な腕前をしているに違いないわね……

 

 リーファは私を不思議そうに見つつ進んでいきます。まぁ魔法が主体のこのALOにおいてここまで剣技を極めているのプレイヤーは殆どいないでしょうし。

 

「ま、俺だったらさっきの戦いはごり押してたかなー」

 

「キリトさっきのような場合ならともかく、近距離と遠距離の複合やプレイヤーのパーティーの戦いの場合範囲魔法やホーミング魔法があるので回避にも意識を割いてくださいよ」

 

「一応聞くがお前はどうなんだ?」

 

「そんなの避けながら斬り続けるんですよ。二つの行為の同時に行うだけです」

 

「そんな処理能力持ってないんだよ!」

 

「キリトも目は良さそうだし、いけるようになるよ。ソウジは訳分かんないけど」

 

 そんな会話を繰り広げつつ森を翔んで駆け抜けて行きます。そうして進んでいくと、うっそうと茂った森を抜け前方に巨大な山脈が見えてきました。飛翔時間も限界を迎え、一旦着陸することとなります。

 

「疲れた?」

 

「いや、まだまだ」

 

「頑張るわね。でも、空の旅はここでおしまいよ」

 

「どうしてだ?」 

 

「キリト、あの山ですよ。高さが飛行限界高度を超えているため、山越えは洞窟を使って行うんです。」

 

「洞窟って長いのか?」

 

「ええ、かなり長いですね。短時間で通り抜けるのはかなり厳しいでしょうし。一応、途中に中立地帯の鉱山都市があるので、休むことは出来ますよ」

 

「えっと、リアルだと今は夜の7時ね。私は大丈夫だけど、2人は?」

 

「俺は問題ないぜ」

 

「私も特に問題はありません」

 

「じゃあ、もうちょっと頑張ろう。ここで、ローテアウトしよっか」

 

 聞きなれない言葉にキリトが首を傾げる。私は少し呆れつつキリトの疑問に答えます。

 

「ローテアウトっていうのは、交代でログアウト休憩することですよ」

 

「中立地帯だから即落ち出来ないのよ」

 

 私とリーファが答えます。キリトは納得がいった表情で頷きます。

 

「なるほど。だから、交代で残った人が空っぽのアバターを守るって訳か」

 

「そういうことですよ。もう少し勉強しといてくれても良いんですよ」

 

「なるほど、なら、先にリーファとソウジから落ちてくれ。俺は後でいいから」

 

「はい、それじゃあ留守を頼みます」

 

 そうして私とリーファがログアウトします。仮想現実から現実へと戻ってくる感覚を感じ、徐々に視界が広がっていきます。頭に装着していたナーヴギアを外します。ベットから起き上がりながらシャワーを浴びるため浴室に向かいます。

 

 ──慣れましたけどやっぱ寂しいですね

 

 私の今の心情をそのまま映し出しているような、誰も居らず静寂で、日も暮れ照明も着いていない真っ暗な廊下を進んで行きます。仮想世界での戦闘は緊張で汗を掻くので長時間ダイブした後は無性に汗を流したくなってきます。

 

 冷たい水を浴びて頭を冷やしつつ、体を拭いてダイニングへと向かいます。いつもなら何か軽食を作ったりしているんですけど今日はそんな気分じゃないですし。キリトを待たせる訳にも行きません。冷蔵庫からエネルギー補給のゼリーを取り出し胃に流し込みます。そして再びナーヴギアを被りALOへとダイブします。

 

「待たせましたかね?」

 

「いや、随分早かったな」

 

 暫くするとリーファも合流しました。

 

「ただいま。何咥えてるの?」

 

「出発前に雑貨屋で買ったんだ。茎パイプ、スイルベーン特産だって」

 

「あたし、知らないわよ」

 

「俺も今から落ちるし、吸ってみなよ。ソウジもこの体頼むぜ」

 

「……はぁ、分かりました。了解です」

 

 そう言ってキリトは自分が吸っていた茎パイプをリーファに手渡しそのままログアウトしました。そして茎パイプを受け取ったリーファは顔を赤くしています。

 

「気にしないでくださいね。彼あれでも無自覚なんで」

 

「な、別に気にしてなんかないわよ」

 

「そうですか、ユイちゃんキリトの行動はアウトですよね?」

 

「ええ、浮気はダメです!後でパパにも注意です」

 

 そんな会話をしているとキリトが戻ってきました。

 

「もう、パパ浮気はダメですよ!」

 

「なっ!」

 

 そしてキリトの反応を横目に見つつ、翅を広げ飛び立とうとした時気配を感じました。

 

「これは!………プレイヤーではありませんし、トレーサーでしょうか?しかしこの場所では………」

 

「リーファ、トレーサーってのは何だ?」

 

「トリーサーってのは、ちっちゃい使い魔なんかを使って術者に対象の位置を教える魔法のことよ。もし術者のレベルが高かったら距離が離れるし、この場所では解除は難しいわね」

 

「撃ち落とす時間も惜しいですし、先に進みましょう」

 

 こうして薄寒い洞窟の中を進んでいきます。

 

「そういえばこの洞窟の名前は何なんだ?」

「《ルグルー回廊》って言う名前です。ルグルーは鉱山都市の名前ですね」

 

「にしても暗いなー、殆ど何も見えないぞ」

 

「そうだ。キリト君、魔法スキルは上げてる?」

 

 リーファがキリトにそう尋ねる。

 

「ああ。一応、初期設定のヤツだけなら」

 

「スプリガンの魔法に、暗視効果のある魔法があるはずだからそれ使って」

 

「分かった。えーと………魔法ってどうやって使うんだ?」

 

 ここまでずっと物理戦闘しか行ってこなかった為、魔法の使い方が分からずキリトは首を傾げます。

 

「キリト、気持ちは分からなくも無いですけどスペルぐらいは確認しておきましょうよ」

 

 私が苦言を呈しますと、キリトは罰が悪そうな顔をします。

 

「パパ、マニュアルぐらいは見ておいた方がいいですよ」

 

 見かねたユイちゃんがキリトに魔法の使い方と暗視能力付加魔法のスペルを教えた。キリトはユイが教えてくれるスペルをたどたどしく言い、魔法を使うと、仄白い光の波動が広がり、ソウジ達の体を包む。すると、全員の視界が急に明るくなった。

 

「暗視能力付加魔法か。しょぼい影妖精族(スプリガン)の魔法も捨てたもんじゃないわね」

 

「まぁ確かに使い所は限られていますね。ただどんな魔法にしろ習得しておいて損はありません。その魔法が生死を分けることもありますしね。上級ワードは20単語はありますが覚えたら簡単ですよ」

 

「どうやって覚えるんだよ」

 

「そうでもないですよ?スペルの意味を覚えて、後は効果と関連付けて記憶すればいいだけです」

 

「そんな英語の勉強みたいな………俺、ピュアファイターでいいよ」

 

「だからって魔法を使わないのは良くないと思いますよ」

 

 私がキリトを諌めていますと

 

「あ、レコンからメールだ。ちょっと待ってて」

 

 スイルベーンで別れた友人からのメールに、一度立ち止まるリーファ。どうせ大した用事ではないだろうと思いつつも、一応確認のためにメニューを開く。メッセージの内容は、以下の通り。

 

『やっぱり思った通りだった!気を付けて、s』

 

 ──……何これ?

 

 意味不明の内容に、疑問符を浮かべるリーファ。文末を見るに、どうやらまだ先があったようだが、肝心な部分が切れていた。メッセージを見て首を傾げるリーファを訝り、キリトが声をかける。

 

「何が書いてあったんですか?」

 

「何か変なメッセージでね。「やっぱり思った通りだった!気を付けて」って書いてあって、最後に「s」ってついているのよ……」

 

s(エス)、ですか……」

 

 幾つか思い当たる節がありますが、今は特定出来ません。すると今度は唐突に、ユイちゃんがキリトのコートのポケットから頭を出しました。

 

「パパ、接近する反応があります」

 

「……プレイヤーか?」

 

「はい。それも、かなり多いです。数は……十二人」

 

「………十二、ですか」

 

 十二人という人数は、通常の戦闘パーティーにしては多すぎます。大型ギルドか、或いはどこかのボス等の討伐に挑む際に結成される部類の規模ですね。このルグルー回廊やその近辺においてそのような大掛かりなクエストがあるという話は聞いていません。交易用の商隊がアルンへ向かっているとしても、ルグルー回廊を利用する種族は主にシルフです。これもスイルベーンので確認した情報には存在しませんでした。

 

「……ちょっと嫌な予感がしますね。ここは少し様子を見ませんか」

 

 幾つか検討をつけたうえでパーティーの接近に様子を見るべきと考えた私は、一度どこかに隠れてやり過ごす事を提案します。二人が無言で頷いたことを確認すると、三人は通路の窪みに入りこみます。

 

「それじゃあ、私に任せて」

 

 そう言うと、リーファは呪文を唱え始めました。三着の衣装が出来ると、私たちの目の前に半透明の岩壁が出現します。リーファの発動した隠蔽魔法によって作られた幻の壁です。

 

「喋るときは最低のボリュームでね。あんまり大きい声出すと、魔法が解けちゃうから」

 

「了解です」

 

 隠密をしつつ私たちは近いづいてくる存在に気を配ります。

 

「あと少しで視界に入ります」

 

 ユイちゃんの言葉に、通路の向こうをじっと見つめる私たち。果たして、向かってくるのは敵なのか。それを見極めるべく、気配を探って待ち構えます。だが、視界に映ったのはプレイヤーとは別のものでした。

 

「……まさかあれは!」

 

「……プレイヤーじゃない?赤いコウモリ……」

 

「いや違う……あれは、高位魔法のトレーシング・サーチャー!」

 

 そう叫ぶや否や、リーファと私はそれぞれ風と水の魔法を放ち、それは空中をふわりふわりと飛んでいた赤いコウモリに命中し、ポリゴン片と共に消滅しました。

 

「走りますよ、二人とも!」

 

 私の言葉と共に、続けて幻の岩壁を抜けて姿を現す二人。三人は、ダンジョンを駆け抜けて行きます。

 

「今の使い魔って、火属性よね?ってことは、追ってきている相手は……」

 

「サラマンダー、だな」

 

「古森の地帯から尾行されていたんでしょう。理由は恐らく……」

 

「今はルグルー地下都市へ急ぐぞ!」

 

 サラマンダーの放ったトレーシング・サーチャーを撃破してから走ることしばらく。三人と一人のパーティーは、洞窟内の地底湖、その中央にある鉱山都市へと続く石造りの橋へ差し掛かっていた。

 

「どうにか、逃げ切れるかしら?」

 

 そう思った時一筋の光が私たちを追い抜き街の入り口のところで光を放ち、たちまち地面が隆起して巨大な岩壁が生成され行く先を塞ぎました。キリトがすぐさま大剣を叩きつけますがびくともしません。

 

「コレは土魔法で作られたものだから魔法じゃないと壊せないわ」

 

「向こうは時間をくれる様子もありませんね」

 

 後ろから鎧同士が擦れる音がしてきます。

 

「湖に飛び込むのはありか?」

 

「ここには超高レベルの水竜型モンスターがいるの。水妖精族ウンディーネのソウジがいれば行けるかとしれないけど………」

 

「したこともない水中戦を三人で行うよりも彼らを倒す方が簡単ですしね。キリト行けますか?」

 

「つったって作戦はどうすんだよ」

 

「いえ、先程見えた装備だと重戦士隊(タンク)とメイジ隊に別れていました。恐らくボスなどで用いられるフォーメーションで、前衛の盾隊が防御を引き受けつつ、後衛となるメイジが援護のための回復と、ダメージを与えていくといったものでしょう」

 

「じゃあ尚更無理じゃない!土魔法を使える程の手練れのサラマンダーだっているのよ」

 

「いえ、盾隊の人数は三人で後はメイジだけです。接近して戦えば味方を巻き込むような魔法は使えないでしょうし。キリト、盾隊を相手して貰えますか」

 

「……!分かった、お前はどうせ回復魔法使えるだろ。リーファ、後方からの支援と回復を頼む」

 

「何でこんなに無茶するのよ!死に戻ってもう数時間掛けてくればいいだけじゃない!」

 

 その言葉にキリトは少し考えた後力強く言い放ちます。

 

「今は少しでも時間が惜しいんだ。それに俺が生きている間は、パーティーメンバーを殺させやしない。それだけは絶対に御免だ」

 

 その真剣な表情に少し面食らった後、渋々といった感じでリーファは頷きます。

 

「はぁ、分かったわよ。あなた達に賭けるわ。その代わり絶対に勝つからね!」

 

 そうして話し合いが済んだ後キリトは盾隊に向かって走り出します。剣を限界まで振り絞り辺りを揺るがす振動を発しながら、強力な剣撃を放ちますが全て三人の重戦士の盾に受け止められ、全て後方から回復されてしまいます。そして後方から発せられていたスペル詠唱音が響き火球が次々と発射されキリトに命中するかというところで

 

「「「なっ!」」」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして相手の視界を奪ったところで

 

「よし、行けるか!」

 

「ええ、いつでもOKです」

 

 キリトが振り回す大剣を足場に文字通りサラマンダーの部隊に()()()()()()()。私の脚力とキリトの遠心力を利用して想定外であろう上からの奇襲を仕掛けます。

 

「そんなに重装備だとすぐには盾の向きを変えれませんよ、ね!」

 

 ──キィィィーーーーーン!!

 

 前衛の横を通り過ぎる一瞬で刀を走らせ周囲の空気を震わせつつ三人の首を一気に撥ねます。

 

「後衛も混乱しています!今のうちに!」

 

「ああ、了解だ」

 

「ええ!」

 

 こうしてキリトとリーファも加勢し、あっという間にサラマンダーの部隊は総崩れとなり、全滅となりました。

 

「結局さっきの連中は一体何だったのかしら?撃退できたけど、あたし達を狙った理由は完全に分からず終いじゃない。こんな人と手間をかけるなんて何かあるって言ってるようなものじゃない。一人くらい生かしておいて吐かせた方が良かったわ……」

 

「仕方ないだろ。手加減できる相手じゃなかったし。本来なら、こっちが全滅させられていたんだ」

 

 敵は撃退したものの、その目的や誰の差し金かを明らかにすることができず、心にもやもやを抱えるリーファ。キリトはそんなリーファを宥めています。

 

「いえ、情報を手に入れる手段ならあります。私達にサラマンダーの襲撃を知らせようとした人間がいましたから」

 

「え?……それって、どういうこと?」

 

 私の言葉に疑問符を浮かべるリーファとキリト。サラマンダーの襲撃を私を達に知らせようとしてきた人物に心当たりの無いリーファに、キリトが思いついたように口を開きました。

 

「もしかして、レコンのことじゃないか?」

 

「レコン?……確かに、メッセージを飛ばしてくれたけど……どうしてアイツだって分かるのよ」

 

「はい、そうです。そもそもリーファに相当肩入れしているレコン君がリーファと一緒にパーティーを抜けないのがおかしかったんです。この襲撃と「気を付けて」というメッセージのタイミングがほぼ同一である以上彼は事前にこのことを察知していたんでしょう。恐らく彼は何かを探ろうとしていたんだと思います。具体的にはシグルドのサラマンダーとの密通による裏切りといったところでしょうか。その際に襲撃を察知しリーファにメッセージを送ろうとしたところで捕まってしまった。そんなところでしょう」

 

「だから文章が「s」で止まっているのか。サラマンダーにしろシグルドにしろイニシャルはローマ字だと「s」だしな」

 

「な、そんなこと………でも、どうやってその内容を確かめたら……レコンは返信しないし……」

 

「リーファはレコンと知り合いなのでしょう?なら、一度ログアウトして現実世界で彼と連絡を取ればいいのでは?彼のアバターが捕まっているのならば、彼も何らかの連絡手段を得るために現実世界にログアウトしている筈です」

 

 私がそう言うと彼女は慌ててゲートからログアウトしました。私はキリトに声をかけます。

 

「これから一波乱起きそうです。いつでも動けるように準備を」

 

 こうして嵐の前の静けさといった状況の中で私たちはリーファの帰りを待つこととなりました。

 

 

 

 

 

 

 

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