それといよいよストックが尽きたのでこれからは毎日投稿は出来なくなりました。ご理解お願いします。
それではどうぞ。
ー直葉sideー
直葉はアミュスフィアを取り外し、ベットから飛び起きるとすぐさま近くの机に置いてあったスマホを確認した。すると、やはりスマホの画面には長田から10件ほどの不在着信が入っていた。
家族や警察、病院からの緊急タグ付きの電話なら、アミュスフィアと連動し、自動ログアウトするが長田の番号はそれに含まれてはおらず、無視する形になっていた。
普段は長田から週に数回は連絡が来るが、大半はどうでもいい内容なのでその大半は無視している。ただそれでも彼はしつこく電話を掛けることなんて一回もなかった。長田からの今までにない大量コールに危機感を感じながら、1秒でも早く繋がるよう祈り長田に電話を掛ける。
「あ、直葉ちゃん!ようやく出た!ALOでは結局メッセージを送りきれなかったし、リアルで「そんなことはいいから早く何があったか教えなさい!」わ、分かったよ」
長田は息を整えてから電話越しでも分かる怒りを露わにしながら情報を伝える。
「た、大変なんだ!シグルドの奴、僕たちを……領主を──サクヤさんを売りやがったんだ!」
直葉は想像通りながらも最悪のパターンに眉をひそめ顔をしかめる。
「それで詳しいことを教えてくれる?」
「シグルドの奴、サラマンダーの戦いの時普段なら絶対しない囮役を買って出ただろう。それが気になってね、それであの後、《ホロウ》を使って後を付けたんだ」
《ホロウ・ボディ》というのは、高位の隠蔽魔法と隠密行動スキルをマスターすることで使える、自身を透明化する術で、レコンが得意としてる術だ。どうやらそれを使用することでシグルドの行動を見張っていたのだろう。
「そしたら、路地裏で透明マントを羽織って地下水道に降りたんだ。何かあると思って、そのまま後を付けたらアイツら、何と
「ええ?透明マント程度じゃガーディアンの目は誤魔化せない筈よ。…………まさか!」
「ああ、《パス・メダリオン》だよ。あいつら、それを装備してたんだ」
《パス・メダリオン》とは、通商などで訪れる他種族プレイヤーに厳しい審査の上で発行される通行証で、それがあればNPCガーディアンに襲われずに発行元の他種族の領へと入ることが出来るアイテムで、
「なるほど……シグルドなら内密に発行し、サラマンダーに渡すことが出来るわね」
「それで、そのまま聞き耳を立ててたら、今日、サクヤ様は
そこまで聞き、私は通話口に怒鳴る様に言う。
「レコン!調印式の場所は何処!それと時間は?」
「時間は1時から!詳しい座標までは……でも、山脈の内側、《蝶の谷》を抜けた先の所らしいよ」
必要な情報だけを聞き取ると直ぐに回線を通話を切り、素早くアミュスフィアを被り、再びALOに意識をシフトする。
ーソウジsideー
「あ、お帰り、レコンの奴なんだって?」
ベンチの隣に座っていたキリトにそう聞かれるも、リーファは急ぎ気味に口を開きます。
「ごめん、キリト君、ソウジ君」
「お、おい。どうしたんだ?」
「…………………」
「あたし、すぐに行かないといけない用事が出来たんだ。説明している時間も暇もないし、ここには恐らく帰ってこれない。これ以上案内も出来なそうなの、ごめんね」
申し訳なさそうに謝るリーファ。私はキリトにアイコンタクトを送ります。
「じゃあ、移動しながら話そう」
「え?」
「どっちにしろ、ここを出ないといけませんし」
そう言い、私たちは急いで《ルグルー》を飛び出しました。地底湖にかかる橋を駆け抜けつつリーファから事情を聞き取ります。シグルドが裏切ると言う話に、キリトは僅かに顔を歪めます。
「一つ聞いてもいいか?」
「どうぞ」
「サラマンダーがシルフとケットシーの領主を討った場合のメリットは何なんだ?」
「まず、同盟を邪魔できる。それが、風妖精族シルフ側から漏れた情報となれば、風妖精族シルフと猫妖精族ケットシーで戦争になるかもしれない。今はサラマンダーがALO内の最大勢力だけどシルフとケットシーが同盟を組めばその戦力はひっくり返るわね」
「なるほど、今日はシルフ領に領主は居なかったので、信憑性も高そうです」
「そしてこれが一番大きいんだけど、領主館に蓄積されてる資金の三割の入手。そして、10日間街を占領して、自由に税金を掛けることが出来るの。これだけで莫大な資金が手に入るわ」
「そんなことができるのか」
「……でしたら、急いで止めに行きましょう」
話を聞き、私はそう言い、キリトも頷く。すると、リーファが突如歩みを止めたので、キリトと私も足を止めます。
「………これは、シルフの問題なのよ。それに2人を巻き込むつもりはないし、付き合う理由もない……。この洞窟を出れば《アルン》まではもうすぐよ。最後まで案内出来なくて、ごめんなさい。2人の腕ならきっと《アルン》までいけるはずだから。それじゃあ、また何処かで」
すると、キリトが呟きました。
「………ここまで来て、リーファを他人と思える程、俺は薄情じゃない」
「それにシルフとケットシーの領主を助けたとなったら、何らかの援助をして貰うことも出来るかもしれません」
私とキリトは、リーファに向き合います。
「付き合うよ、最後までな」
「こっちは善意だけって訳ではないですし。打算も込みの話なので気にしないでください」
温かみを持った、優しい言葉にリーファも心が温かくなるのを感じた。
「2人とも……ありがとう」
「はい………っと、時間を無駄にしちゃいましたね。ユイちゃん、今から走るのでナビをお願いできますか」
「了解しました!」
「それじゃあ……」
「キリトはリーファをお願いします」
そうするとキリトはリーファの手を取りました。
「え?」
「飛ばします!」「飛ばすぞ!」
「え、ちょっと待っ──」
次の瞬間、私はギアを上げ地面を踏み込みながら更に速度を出しています。リーファはキリトに引っ張られる形で洞窟内を走り抜けました。
私がユイちゃんのナビゲートに従いながら、どうしても進路の都合上避けることが出来なかったモンスターを切り裂いて行きます。お陰で後ろにモンスターを引き連れるなんてこともなくなっています。
曲がりくねって進みにくいことも気にせず、強烈なスピードで縦横無尽に駆け抜けて行き、コーナーリングをするたびに、体にジェットコースターに乗った時のような圧力がかかります。
「出口だ!」
一条の光が見え、全員一斉に外に飛び出し、カタパルトから射出されるように飛び出すと同時に翅を出し空高く飛翔します。
「本当無茶苦茶じゃない!なんか、もっとこう「冒険」って感じで進むもんじゃないの。あんなRTAみたいな挙動は……」
「まぁ確かに言わんとすることは……」
「え、何が問題なんでしょうか?実際今は一刻を争う時です。RTAも時間を競うものですし何も間違っていないじゃないですか。それにアトラクションみたいで楽しかったですし、一石二鳥というやつです!」
「「……」」
そうしてアルヴヘイム南部の内陸部に位置する、ルグルー回廊を出た場所に広がる草原の上空を、私たちは渡り鳥のごとく雲を切り裂いて飛翔していました。私たちが目指す場所は、当初の目的地である世界樹ではなくアルヴヘイム西部にあるケットシーのホームタウンーフリーリアへと続く《蝶の谷》です。
「ユイ、目的地まではあとどのくらいだ?」
「現在の飛行速度で飛び続けて、およそ二十分の計算です」
「会議の開始までギリギリね……間に合ったとしても、サクヤ達を避難させる時間はあるかどうか……」
「最悪サラマンダー全員を斬り捨てるというのはどうでしょうか?」
「相変わらず若干……いや、まあ脳筋の節があるよな、お前」
こうしてサラマンダーをどうにかするべく頭を捻りながら飛んでいますと、不意にユイちゃんが叫びました。
「………!前方に六十八人のプレイヤー反応があります。恐らくこれが、サラマンダーの強襲部隊です。さらにその向こう側に十四人のプレイヤー、こちらはシルフ及びケットシーの会議出席者と思われます。双方が接触するまであと五十秒です」
「六十八人ですか……想像以上に多いですね」
「奴らもそれだけ本気ってことか………」
「でも、これでますますサクヤ達を逃がすことが難しくなったわね……」
前方に隊列を組んだ戦闘機のようなサラマンダーの一団が見えてきました。彼らが向かう方向に目を向けると、即席の会場で接近して来る敵にも気づかず話し合いを行っているシルフとケットシーの姿が映ります。
その姿を目にするとリーファが一息ついた後私たちに問いかけます。
「もう一度聞くけど本当にサラマンダーと戦うの?世界樹の攻略を目指すなら彼らと組むのが最善だと思うし………」
「ああ、ここで逃げ出すのは俺の性分じゃないからな」
「それにもう約束したじゃないですか。キリトがリーファに色々と世話になりましたし」
「おい、ソウジ。それじゃあリーファここは俺たちに任してくれ」
リーファにこちらの意志を伝え、キリトは胸ポケットにユイちゃんを入れた後私とともに背中の翅を力強く震わせ急角度のダイブに入ります。隕石のごとく地上へと急降下し、互いに武器を構え、今にも激突しそうな三種族の間に割って入ります。
「今回は私に任せてくれますか」
「お前がそう言うのなら頼むぜ」
──ドドーーン!!
衝突の勢いで土埃が舞い上がります。これも皆さんの気を引く演出となりますね。
「双方、剣を引きなさい!」
ーリーファsideー
ソウジの声が辺りに響き渡った時、世界が一瞬止まったかのように思えた。あんなに距離が離れているにもかかわらず、身の毛がよだち思わず動きが取れなくなるほどの殺気………一体彼は何者なの……何とか固まっている体を動かして領主のサクヤのところまでたどり着く。
「リーファ!?なぜここに…………?そしてあいつは誰だ?あんなプレイヤー、ウインディーネは居なかったはず……」
「それには色々込み入った事情があってね、簡単には説明できないのよ。あのプレイヤーについては私も凄い強い、ってことぐらいしか分からないわ………一つ言えることは私たちの運命は彼ら次第ってことよ」
「……はぁ、一体何が何やら……」
私に質問をしてきたシルフ領主ーサクヤの姿を見やった。女性としては高めの身長に前合わせの和風の長衣を身に纏ってダークグリーンの艶やかな髪を垂らし、切れ目の眼に高い鼻筋といった美貌を驚愕に染めている。怜悧な彼女がここまで取り乱すのは珍しいと思いながらも、同時に無理も無いと思う。
視線を動かすと色白のサクヤとは対称的に、小麦色の肌で、小柄な女性のケットシーのプレイヤーが眼に入る。ワンピースの水着に似た戦闘スーツに身を包んだこの少女こそが、恐らくはケットシーの領主であるアリシャ・ルーなのだろう。シルフのメンバーも確認したがやはりシグルドは確認できない。
「其方の指揮官に話があります!」
さっきの異様な気配もありソウジの要求にサラマンダーの部隊が蜘蛛の子を散らす道を開ける。奥から出てきたのは、大柄で逞しい体に浅黒い肌を持つ猛禽類のような鋭さを持つ男性プレイヤー。
取り巻きのプレイヤーとは一線を画す超レアアイテムに身を包んだその男こそが、この部隊を率いる将なのだろう。ソウジには劣るものの半端ではないプレッシャーを放つこの男を前にして、ソウジには緊張の色も見えない。
「……ウインディーネ、それにスプリガンがこんなところで何をしている。どちらにせよ殺すには変わりないが、その度胸に免じて話しだけは聞いてやろう」
威圧感たっぷりの言葉に、ソウジは臆した風は全く無い。常の感情が全く見えない表情のまま、口を開く。
「私の名はソウジ。ウインディーネ=スプリガン同盟の大使です。この場を襲うからには、私たち四種族との全面戦争を望むと解釈していいんですね?」
「俺はスプリガンの大使、キリトだ」
ソウジが放った宣言に、私は肝を冷やす。そもそも、スプリガンとウンディーネが正式な同盟を結んでいるという話は聞いたことが無い。大方ただのハッタリだろう。驚いた様子でこちらに視線を向けるサクヤとアイシャ・ルーにウインクで何とか誤魔化す。今は心の中でソウジに文句を言いながら展開を見守るしかない。
「スプリガンとウンディーネが同盟だと?」
サラマンダーの指揮官もまた、目の前のプレイヤーの放った言葉が真実なのか疑っている様子である。
「護衛の一人もいない貴様が、その大使だというのか?」
「ここにはさらなる同盟交渉の為に来ただけだですから。だが、この会談が襲われたとなれば四種族で同盟を組んで戦争を仕掛けることとなりますよ」
辺りが静寂に包まれる中、サラマンダーの指揮官だけは、ソウジとキリトを値踏みするように見る。
「………見た感じ、スプリガンはともかくウインディーネは中々の武器を持っている様だな。なぜ前衛職の武器を持っているかは知らんが、それ程の武器を持っているならそれなりに腕の立つプレイヤーなのは明白。だが、貴様らの顔やその目立つ和服に見覚えはない。貴様らの話、信じるにはいかんな」
そう言うと、指揮官のサラマンダーは、背中の巨大な両刃直剣を抜く。暗い赤に輝く刀身に龍のモチーフが見て取れる。
「──構えろ。もし30秒間耐えれたら、貴様を大使として認めてやろう」
「それは少し長すぎませんかね」
あれだけサラマンダーに喧嘩を売るような発言をしておいて急に弱気にな発言をしたソウジに空気が若干空気が白けた。ソウジの戦闘能力は私が見ただけでも相当なものだった。ソウジの態度に違和感を感じていると
「ほう、俺の眼ではそれなりのやり手と見たんだがな。俺の見間違いだ
──ソウジ、貴方なんてこと言ってるの!
辺りは再び騒がしくなっていく。大方頭がおかしい奴のふざけた発言と受け取ったのだろう。腹を抱えて笑い転げるサラマンダーまでいる始末だ。
「おい、リーファ。貴方の眼を疑うわけじゃないが本当に大丈夫なのか。それにあのサラマンダーは……まずいな…」
「私が直に見た時はかなりの腕前だったんですけど……それで?」
「あのサラマンダーが持つ両手剣は、
「……ソウジ君………」
あまりのビッグネームに息を呑む。すると会話が再開されたようだ。
「……今何と言った、もう一度言ってみろ」
「聞こえなかったんですか。貴方を倒すのにそんなに長い時間は必要ないと言ったんです」
「ほう、この俺も随分舐められたものだ。それならば相応の実力を持っているのだろうな……そのふざけた性根、口とともに叩き直してやる!」
遂に堪忍袋の緒が切れたのか恐ろしい殺気を巻き散らかしながら、顔を赤に染めて予備動作の一つもなくソウジに大剣を振り上げ襲い掛かる。流石ALO最強プレイヤーというべきであろう。怒りによって体が突き動かされようとその目から理性が失われることもなく、技術を伴った一撃を放とうとしている。
半端なプレイヤーなら成すすべなくその魔剣のさびとなるだけだろう。ただしそれは一般プレイヤーに限る話である。ユージーンに相対するのは命を賭けたSAOの中、純粋な剣技のみでラスボス──ヒースクリフに打ち勝った《神速》ソウジである。
「………これは」
突如第六感とでもいうべき謎の感覚が冷や汗と共にユージーンを襲う。ユージーンは戦士としての経験から自分の感覚に逆らうことなく振り上げた剣を体の前に中段で構える。その瞬間だった。
「なっ!クッ、ーーー!!」
ユージーンは咄嗟に何が起こったのか状況を把握しようとし、周囲を見渡す。そして眼に入ってきたのはユージーンにとって信じ難い光景だった。
「まさか、お前が………」
「ええ、貴方も中々やりますね。今の一撃を防がれるとは思いませんでした」
「貴様、あの一瞬で………だが!これはどうだ!」
あのウインディーネが恐るべき飛翔スピードを持っていることは理解した。ならば動き回られる前にこちらから仕掛けるのみ。そう判断したユージーンは目にも止まらぬ速度でソウジに衝撃を放ち長らく横なぎを振るう。それをソウジは受け流そうとするが……
──これは貰った!
ユージーンが装備する魔剣グラムには、『エセリアルシフト』という盾や剣の防御を非実体化してすり抜けるエクストラ効果がある。ユージーンは己に盾突く生意気なウインディーネを切り裂く姿を幻視し、口角を上げる。ソウジも急な出来事に感情のない目が少し見開く。しかし、目の前で起きたことにユージーンには直ぐには反応できなった。
──ギィィィィーーン!!
「は?何が……」
「視線で狙いがバレバレですよ。それにしても、なるほどすり抜けが効果ですか。確かに伝説武器に相応しい効果です」
「お、お前はどうやって………」
「おしゃべりはこれで終わりです」
ソウジはそう言い放つと上から、ユージーンを撃ち落とすかのように上空から日光を貫くかたちで攻撃を始める。ユージーンもそれに対応するべく得意の重突進を行う。二人は激突し剣を交える。魔剣は赤い光を帯びながら容赦なくソウジに襲い掛かるがソウジはその全てを受け流し、最小限の動きでもって回避する。
そして、ソウジが放つ無数の白銀の残像を伴いながらユージーンに降り注ぐ美しい軌跡は、まるで夜空を埋め尽くす流星群が如くだった。互いの剣がぶつかり合う音が流れ、火花が弧を描き宙に飛び散る。今までALOでは見ることもなかった高レベルな戦いに誰もが息を呑む。
「ぬ…………おおおおおお!」
「はっ!」
元々五割近く削れていたユージーンのHPはどんどん減り続けていく。迫りくるソウジの剣を切り払い、剣を交差させるが間に合わない。どんどんとソウジに地上へと押されていく。そしてユージーンの連撃に空いた少しの間を見逃さずソウジが態勢を崩しきる。そしてソウジの刀身が霞んだかと思うと
「がはっ!」
「これで終わりです!」
稲妻の如き速さでユージーンの胸に刀が突き刺さり背中側まで貫通していた。そのままの勢いでソウジは地上へとダイブする。ユージーンの抵抗も虚しく彼らと大地の距離はみるみる縮まり、衝突時の落下の速さもあって地震のような衝撃が辺りを駆け巡った。
やがて砂埃が収まると刀の切先が大地へと突き刺さっていた。そしてそこには浅葱色の羽織を背負ったウインディーネと、プレイヤーがデスしたことを示す《リメインライト》が小さく揺らめいていた。
誰一人身動きする者はいなかった。ALOでは近接戦では不格好に武器を振り回し、遠距離では魔法を打ち合うだけのつまらないもので、防御や回避と言った見応えのある戦闘が出来るのは一部の熟練プレイヤーぐらいである。その選手が参加する大会ですら見ることができないようなハイレベルな戦闘にこの場の全員が圧倒されていた。そんな沈黙を打ち破ったのはサクヤだった。
「見事!見事!」
「すごーい!ナイスファイトだヨ!」
ソウジの勝利を讃えるサクヤに続いて歓声を上げたのは、ケットシー領主のアリシャ・ルー。興奮は二人の背後に控えるシルフ、ケットシー幹部十二人へと伝播し、さらには敵であるはずのサラマンダーまでもが歓声を上げた。指揮官たるユージーンが敗れたことで、暴動を起こすのではと私は懸念していたが、彼らのデュエルには種族の壁は関係ないようだ。
ソウジは三種族からの拍手喝采を受けながら地上へ降り立つ。特に疲れた様子も見せずに、毅然とした足取りで地上へ落ちたユージーンのリメインライトへと向かって歩き出す。
「誰か、蘇生をお願いします!」
「解った」
刀を鞘に収めていたソウジの頼みを聞いたのは、サクヤだった。ユージーンのリメインライトまで飛んでいくと、スペルワードの詠唱を開始する。やがて、サラマンダーの赤いリメインライトがサクヤの手から迸った青い光に包まれる。複雑な立体魔法陣の中、残り火は徐々に人の形を取り戻していく。
やがて赤い炎が消滅すると、そこには片膝をついたユージーンの姿があった。リメインライトを追って地上に降り立ったサラマンダーの部隊が見守る中、ユージーンが立ち上がる。
「見事な腕だな。俺が今まで出会った中で、間違いなく最強のプレイヤーだ。あの言葉は全て事実というわけだったのか……」
「評価についてはありがたく受け取らせて頂きます。それで私の言うことを信じてくれましたか?」
「…………」
「ちょっといいかな、ジンさん」
ユージーンが沈黙していると、長槍を持ったサラマンダーが前に出てきた。
「カゲムネ、どうした?」
「昨日、俺たちのパーティーが全滅させられたのはもう知ってると思うんだが」
「ああ」
「その相手が、そこに控えているスプリガンだ」
そう言って、ユージーンはカゲムネ──リーファが襲われたサラマンダー隊のリーダーが視線を送るキリトを見る。リーファは固唾を飲んで、見守ることしかできなかった。
「あのパーティーの奴らは、性格に少々難はあるが腕は確かだ。そんな奴らを倒せる腕………護衛が1人なのも、1人でも十分だって事だと思う。あいつは二人とも間違いなく強い。それに、エスの情報でメイジ隊が追ってたのもコイツらだ。どうやら撃退されたみたいだが」
「………なるほどな」
エス……恐らくシグルドのことだろう。ユージーンは、暫し黙考し口を開く。
「ならば、そう言う事にしておこう」
軽く笑い、ユージーンは再びソウジとキリトを見る。
「現状で、ウインディーネ、スプリガンと事を構えるつもりは俺と領主にもない。ここは退くとしよう。だが、貴様とはいずれもう一度個人的に戦わせてもらうぞ。それに、そこのスプリガンの片手剣使い。貴様とも一度戦ってみたい。機会があれば手合わせ願うぞ」
「望むところだ」
「ええ、またいずれ手合わせを」
キリトとソウジの言葉に満足し、ユージーンは部隊に指示を出す。サラマンダーは一糸乱れぬ動きで隊列を組み、ユージーンを先頭にして空へと去って行った。
「はぁ、ホント何とかなって良かったわ。ソウジは無茶苦茶だし、余計なこと言うしで見てるこっちがハラハラしたわ」
「お疲れ様だな。それでソウジ、一体どうやって魔剣グラムのすり抜けを防いだんだ?」
「簡単なことですよ。アバターに触れるまですり抜け続ける武器というのはゲームバランスを著しく損うものです。ならばすり抜けは一回ないしそれに類するもの尚且つ一定時間のクールタイムがあると考えるのが妥当です。ここまでわかったなら後は、すり抜け始めた瞬間慣性を殺しきってから、すぐさま自分のほうに相手が振りぬく以上の速さで引き戻して剣を弾き返せば良いだけです。そうすれば一度すり抜けた判定となりますから」
「「「………」」」
──ホント動体視力といい剣速といいどうなってんのよ!
恐らくこの場にいる全員がいだいているであろ疑問に答える者はいなかった。
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主人公が飛行慣れしているのはジェットパックで飛行した経験があるからですね()