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私は雪が降り積もる中、祠の中で壁にもたれる姿勢を取りつつ、外に注意を払っています。周囲は雪という防音壁によって雑音は取り除かれ、神秘的にも感じる静寂を保っていました。それでもいつ邪神級モンスターが襲ってくるとも限りませんし、私は周囲に気を配ります。すると小さな足音が聞こえてきました。
「お疲れ様、私のせいでこんなところまで落ちてきちゃって……私が見張りを代わるからソウジも休んだらどう?」
「お気遣いありがとうございます。ですが私は疲れている訳でもありませんしこのままで大丈夫です。それにここに落ちてしまったこと自体リーファだけの責任ということではありませんから、気にすることはありません」
「……ありがとう。辛くなったらいつでも言ってね、ソウジはあの
「そうですね、その時は頼りにさせて頂きます」
そうして会話が途切れると再び雪に覆われた沈黙の時が訪れます。
ここに入ってからそれなりの時間が経ちましたが近くに邪神級モンスターがいる気配もありません。そろそろここから抜け出す為にも行動を取りたいんですが未だにキリトが目覚める気配はありません。いい加減起きていただきましょうか。ゲームシステムにやって勝手にログアウトされるのも困りますし。そう考えていると
「あの寝坊助さんは私が起こしてくるわ。見張りはお願いね」
「ん、了解です」
そうしてリーファはドラゴンのモチーフが施されあまり趣味の良いとは言えない祠の中を歩いて行き、ユイを膝に乗せつつ寝言を呟いて気持ちよさそうに眠っているキリトの前でしゃがみこむ。リーファの方もキリトが起きるのも時間の問題と思い、外に気を配ろうとするとリーファの小さい叫び声が聞こえてきた。
慌てて駆け寄ってみると寝惚けたキリトがリーファを手繰り寄せ膝枕で眠ろうとしていました。
「リーファ、ホントすいませんね。キリトが散々迷惑をかけて……早く起きてください!」
「……ふがっ!」
思いっきりキリトの鼻を引っ張ると鼻を抑えつつキリトが飛び上がります。眠気を飛ばしつつ、キリトはこちらを睨んできました。
「あのなー、もう少し起こし方ってもんが………」
「キリトには自分の今の状況を見てから発言してもらいたいのですが」
「は?一体俺が何をしたって……」
「キリト君、いい加減どいてくれる……」
「え?……あ」
今自分が置かれている状況に気づくと直ぐに立ち上がり、拳を握り締めつつプルプルと震えているリーファから距離を取ります。
「いい加減理解してもらえました?ちゃんとリーファに謝ってください」
「す、済まなかった、リーファ。寝ぼけてたせいで……お詫びとしてリーファも俺の膝枕で……」
「要らないわよ!」
リーファに対して戯言をぬかすキリトに呆れつつもジト目で睨みつけます。
「で、キリトは寝ている間に何か脱出方法でも思いついたりしたんですか?」
「夢……そう言えば、あともうちょっとで食べれたところだったんだけどな……巨大プリンアラモード……」
「はぁ、そもそも誰もキリトの夢の話なんか求めてないんですが」
ただキリトが眠ってしまうのも仕方ないと言えば仕方ないん。スイルベーンをリアルでの昨日の夕方に出発し、生い茂った森林地帯を抜けて鉱山トンネルを駆け巡り、襲いかかってきたサラマンダーを撃退した後、領主の会談でリーファ達シルフに助太刀して同じくサラマンダーの襲撃を退けた時点で午前一時過ぎ。
そこから休憩を挟みつつもぶっ通しで進み続けてきました。それでも未だアルンには辿り着きそうにない為、一度近場の宿屋でログアウトしようということになったのですが………あの時は面倒でもマップを確認するべきでしたね。
「その様子だとソウジもあの時のことを思い出しているみたいね。はぁ、まさかあの村が丸ごとモンスターの擬態だったなんて……」
「ま、そうですね。もう少し私も早く気付けたら良かったんですが……」
「ソウジはあれに気付いただけでもおかしいと思うけどね……ホント誰よ、アルン高原にはモンスター出ないって言ったの」
「リーファなんだけどな」
「記憶にございません」
「御二人で漫才するのは後にしてもらってそろそろ今後の動き方を決めませんか?」
その後、宿屋に泊まるべく私たちは村に降り立ったのですが、住民──NPCの気配がありませんでした。それでも店主であるNPCぐらいならいるだろうと、キリトとリーファの意見で村の中でも大きな建物を目指して歩いていた瞬間、村を構成していた三つの建物が一瞬にして肉質のこぶへと変化していきました。
予め警戒していた私は二人に空に飛んで逃げれたものの、二人が飛び立とうとした瞬間には強力な吸引力によって二人ともモンスターに飲み込まれてしまいました。結局私も二人を見捨てることができずに三人纏めてモンスターに丸呑みされる形となり、うねる消化管に大した身動きも取れず成されれるがままの状態となりました。
そして、数分ほど消化管によって運ばれた末に胃に合わなかったのかミミズ型のモンスターに放り出された場所が巨大な邪神が闊歩し、ALO最難度を誇る地底世界フィールドの《ヨツンヘイム》というわけです。
「それでヨツンヘイムについてどれ程知っているんですか?知識の擦り合わせが必要な場合もありますし」
「俺はこのフィールドについての知識はゼロなんだよな。正攻法としての脱出方法は何かあるか?」
「私も初めて来るんだけど……確か、央都アルンの東西南北に大型ダンジョンが配置されてあって、その最深部にヨツンヘイムへ通じる階段があるっていう風に聞いたわ」
「なら、そこを目指すというのはどうなんだ?」
確かに今の私たちにはナビゲーションピクシーであるユイちゃんもいますし、迷わずにアルンに向かうこと自体は可能なのですが……
「そこまでも大分厳しいんだけどね。一番の問題は階段のあるダンジョンは全部、そこを守護する邪神がいるのよ」
「そもそも邪神って何なんだ?聞いてみる感じ倒すことすら厳しそうな感じだが」
「ええ、邪神級モンスターっていうのはこのヨツンヘイムでしか確認されていないバカみたいに強いモンスターのことね。少なくとも、三人でまともに相手できる強さじゃないわ。ソウジ君が戦ったユージーン将軍も、ソロで挑むとなると十秒と持たなかったらしいわ」
「…………」
「現実的な方法としては邪神級モンスターを狩りにきた大規模パーティーに合流させてもらうってところですかね。まぁそれも……」
「このヨツンヘイムは最近地上のダンジョンに代わる、最難関マップとして実装されたばっかりでパーティーなんて殆ど存在しないようなものだし……砂漠の中から一粒の宝石を見つけ出すようなものよ」
廃ゲーマーであるキリトの闘争心に火がつけられそうな言葉です、なんて八方塞がりの現状から若干目を背けて考える。同時にここから動かないことにはどうしようもないということを実感していますとリーファが閉じていた目を開き力強く声を張り上げます。
「ま、いつまでもここでいるわけにはいけないもんね。私たちだけで地上への階段へ到達できるか試してみないと」
「そうですね、ことを始めないことには成功することもしません。邪神級モンスターの行動パターンを見極めて近づかないようにすればいいだけですし」
「リーファさん、ソウジさん、お二人ともカッコイイです」
やはり褒められるというのは悪い気はしませんね。早速外へ向かおうとしたところでキリトが立ち上がろうとしたリーファを引き留めます。
「リーファはここでログアウトしてくれ」
「な……き、急に何なのよ」
キリトの突然の言葉に
「もうリアルの方だと2時半を回っている。君はリアルだと学生だって言ってただろう?俺たちのために八時間以上ダイブしているのにこれ以上つき合わせるわけにはいかない」
「……別に平気よ、私だって一夜ぐらいなら徹夜だって……」
「リーファ本当に今までありがとう。君がいなければ俺たちは……」
「キリト」
その言葉は”私”が認めるわけにはいきません。
「今の言葉は聞き捨てなりません。彼女は私たちのために付いてきてくれたのですよ………ここで彼女を切り捨てて私たちだけで進むと言っているようなものです」
「だがな、ソウジ……」
「彼女を……一緒に戦い抜かずに置いていくことを容認しろというのですか……彼女の気持ちを踏み躙ってまで!!」
私の剣幕に二人とも押し黙ります。私も思わず感情的に動きすぎたことに少し気まずくなってしまい、謝罪の言葉を口にしようとしたところで異様な気配に気づき刀に手を添えます。
「…………!」
「おい、ソウジ」
突如雷鳴のような辺りを揺るがす大音響が響き渡る。
「……すいません。私が考えもせず声を出してしまったせいで……私がタゲを取っておくので二人はその内に…………!」
直ぐに邪神級モンスターの方へと駆け出すと邪神級モンスターの姿が目に入りますが、邪神達の行動がどこか不自然に見えます。
「あれは………邪神が二体!だが……」
「それなら尚更ここから離れなくちゃいけないじゃない!」
その異様な光景にキリトも眼を鋭く光らせます。リーファは現状について声を荒げたところで
「いえ、邪神二体は互いを攻撃しているようです」
「え……でも、どうしてMob同士が戦闘を!?」
ユイちゃんから伝えられら情報にリーファは驚きの表情を見せます。それもそのはず、通常ならモンスターはプログラムに定められた行動アルゴリズムによって、同士討ちを行うことは有り得ません。例外としては主に三つほど方法があり、テイミングが得意なケットシーのテイムモンスターである《ペット》による戦闘。
二つ目として
幻惑魔法にかかっていることを示すエフェクトが表示されているわけでもありません。私も想定外の事態に対する驚きを押し殺し二人に呼び掛けます。
「一方が潰されれば、もう一方がこちらへ向かってくるとみて間違いないでしょう。ご迷惑をお掛けしますが、今のうちにこの地帯から離脱しましょう」
「ああ、そうだな」
「…………………」
邪神同士の戦いは今もなお激しく行われている。両者共に全高は軽く二十メートルを超えており、体格差はあれどちらとも邪神特有の青みを含む灰色の体表が特徴的だ。
大柄なギリギリ人型に収まっている方は、縦に三つ連なった顔の横から鉄骨のような無骨な巨剣を握る四本の腕が飛び出したフォルムをしている。
一方小柄な方はもはやキメラとすら言い難い代物だ。巨大な耳と長い口吻を備えた象のような頭部に、饅頭のように扁平で円形の胴体とそれらを支える二十本程度の鉤爪がついた肢が付いた何と形容すればいいか戸惑うフォルムとなっている。
戦闘は終始、大柄な邪神の優位だった。象の頭部を持った水母………とでも言うべきだろうか、それが繰り出す鋭い鉤爪付きの触手をものともせず、巨人の邪神は四本の巨剣を暴風のように叩き付け、水母の邪神に見るに堪えない傷を刻みながら胴体を抉り取っていく。
「もうそろそろで決着が着きそうです。リーファもここから離れ……」
「ソウジ君。あの邪神、助けよう」
「…………」
リーファの口から出たきた極めて非合理的な提案に、思わず硬直してしまいます。私としては邪神など放っておいて今すぐにでもダンジョンに向かいたいのですが……
「虐められてる方よ。見捨てたくないの」
「………私としては……」
「いいじゃないか、ソウジ。それにあのフォルムに意味があるなら………」
キリトは未だ決心がつかずにいた私の肩を叩きつつ、リーファの意見に賛同します。そして邪神を見て少し考え込むとユイちゃんに問いかけます。
「ユイ、この付近に水場はあるか?川でも湖でもいい!」
「はい、パパありました!ここから北へ二百メートル程移動した場所に、氷結した湖があります」
キリトがユイちゃんに問いかけた内容から行動の意図を察した私は直ぐに、ウインドウから短刀を取り出しSAOで鍛え上げた投剣スキルでもって勢いを付けながら短刀を投げつけます。
「ハッ!」
「え、何してんのよ!」
青いエフェクトを伴いながら短刀は一直線に飛翔し、巨人の三つある顔のうちの一つの眼に突き刺さります。
──ぼぼぼるるるぅぅうう!!
巨人の邪神はターゲットを目の前の邪神から私たちへと移します。同時に私とキリトは邪神に背を向けて駆け出します。
「ちょ………ひぃぃどぉぃぃぃ!」
リーファが悲鳴を上げながら必死で足を動かしているのが見えますが、今は申し訳ないですが我慢してもらいます。
「ソウジさん、パパ、もうすぐ湖です!」
ユイちゃんの目標地点への到達を告げる言葉に私たちはブレーキをかけ、湖の中央に立ち止まります。後ろからは凄まじい気迫を放ちながら邪神が私たちのことを追い、湖の上を歩き後数歩というところで迫ったところで
──バキバキバキ ドボーーン!!!
積雪に覆われていた足場である氷が邪神の体重に耐えきれず、割れていきました。派手な水柱を噴き上げて水没していく邪神の姿を眺めます。
「このまま沈んでくれるといいんですが……」
そんな願いも虚しく水面から邪神が頭を突き出して、四本ある手の半数を使うことで湖を泳いでいます。あんな岩みたいな質感しているんですから大人しく沈んでいて欲しいんですが……
「ねぇ、何してるの!結局あいつは倒せてないしここから……」
「大丈夫です。もう直ぐで来ますから」
「そんなこと言ったって……」
──ひゅるるるるる!!
目の前の巨人の邪神が放ったものとは別の咆哮が響いてくる。そして次の瞬間には、巨人の邪神が水母の邪神から伸びる二十近い肢に巻きつかれる。水中で動きが鈍る巨人の邪神は肢を振り解くことができない。水母の邪神は勢いそのまま巨人の邪神に圧し掛かり水没させた後、体を輝かせ二十の肢からスパークを放つ。
「これは……」
「よし!」
巨人の邪神のHPは見る見るうちに溶けていき、やがて強烈な爆風エフェクトが巻き起こり水母の邪神が勝利の雄叫びを上げます。苛められていた水母の邪神の勝利にリーファは緊張のあまりすることを忘れていた息を吐き出します。
「それでリーファ」
「ん?」
「これからどうするんですか?」
「えー…………」
目の前のいる饅頭か象か分からない邪神を見ながらリーファに問いかけます。
「まさか邪神級モンスターの背に乗ることがあるだなんて……何かクエストでも始まったんでしょうか」
「そうね、もうどんな目に合うかも分からないけど最後まで付き合うしかなさそうね」
「ここから飛び降りようにも高さ的にダメージがな……ユイが言っていたように敵意はなさそうだしな」
あの後敵意も無く近づいてきた邪神に鼻で巻き取られたかと思うと、そのままフワフワとした心地の良い背中の上にぽいっと投げられました。そうして現在私たちは水母の邪神の背中に乗ってヨツンヘイムを移動しています。
「………お二人ともすいません。私が声を荒げたばかりにこんなことになってしまって」
「まぁ結果的には誰も被害を被らなかったし気にしなくていいんじゃないか。それと今更かもしれないが……リーファ、君の気持ちを軽んじるようなことを言ってすまない。リアルだろうがバーチャルだろうが感じたことや考えたことは変わりないってこと、俺はそれを知っていたはずなんだけどな……」
「ううん、大丈夫。キリト君がこの世界を単にゲームだと見てたら私やシルフを助けたりなんかしてくれないしね………ソウジ君にも色々助けてもらったし。はい、それじゃあこれで皆仲直りね。それに私はもう学校は自由登校だし心配しなくても大丈夫」
互いの謝罪による気まずい空気も無くなり、このまま邪神の背中で揺さぶられるだけかと思いきや
「ねぇ、この子に名前をつけよ!可愛い名前」
──確かにいつまでも邪神で呼び続けるのは味気ないですが……
この状況の中で現状敵対していないとはいえモンスターに名前をつけようとするリーファに感服の念を抱きます。
「んーこのフォルム………カツオ、なんてどうでしょう」
「「………」」
おや、あまり反応がよろしくありませんね。
「何でこの姿からカツオが出てくるんだ、ソウジ。正直他のものが思い浮かぶんだが」
「いや、さっきの触手から出す電撃のような攻撃が毒撃に見えまして。そこで猛毒を持つクラゲといったらカツオノエボシじゃないですか」
「思ったよりちゃんとした理由だった………ただ何でそこを選んだのかしら」
自分ではなかなかいい案だと思ったんですが。評判はイマイチのようです。かなり自信のあった渾名なんですが………
「じゃ、トンキーなんてどうだ」
「……あんまり縁起のいい名前じゃないね」
「確かに戦時中に死んでしまったゾウのお話、でしたか」
「……まあ、いいんじゃない?おーい、邪神君!君は今からトンキーだからね!」
「トンキーさん、はじめまして!よろしくお願いしますね!」
キリトとリーファによってあっさりと決まった邪神の名前──トンキーにキリトの肩に座っていたユイちゃんも手を振ります。
道中トンキーと同じような異形型の邪神と何度かすれ違ったり。トンキーを狩ろうとしてきたウインディーネの部隊には私のポケットマネーで撤収して頂おたり。お金は偉大です。
彼らが撤退した直後にトンキーが羽化(?)によって飛行が可能になったりと様々なことがありましたが私たちは一人も欠けることなく全員揃ってトンキーと共にアルンまで近づいてきました。
「それにしても上空から眺めるヨツンヘイムがこんなに綺麗だったなんて………」
「そうですね、薄暗いことも相まって神秘的な美しさがあります」
この残酷ながらも幻想的な美しさを放つヨツンヘイムの光景を眼に焼き付けます。すると視界に突如入ってきたものに眼が移ります。それは天高く聳える世界樹の根が地下まで突き抜けて出来た網に抱え込まれる幾つもの層を連なって形成された逆円錐型の氷塊でした。
「何あれ……もしかしてダンジョンかな?」
「多分そうなんじゃないか。だが、あんな場所にある以上
「おや、あれは………ダンジョンの報酬でしょうか、先端部で何か光っていますね」
私の指摘に、逆ピラミッド型の巨大な氷柱ダンジョンの最下層に視線を向ける二人。何が置かれているのだろうか気になったらしいリーファは、
「うばっ!」
「どうしたんですか?」
リーファから突如発せられた悲鳴に、一体何が見えたのだろうと疑問符を浮かべる。当のリーファは未だ驚きに口をぱくぱくさせながらも、どうにか言葉を紡いだ。
「レ、
その言葉を聞いた途端、キリトは驚いて息を呑み込みます。私は特にエクスキャリバーが欲しいわけでもありませんがキリトにとっては相当興味が惹かれるものなんでしょう。
「聖剣エクスキャリバー……ユージーン将軍の魔剣グラムを超えるたった一つの伝説武器……でしたっけ。確か、知られていたのは武器の存在のみで、所在は不明の筈でしたが………」
「まさかこんな所にあるなんてね。入手方法が分からないわけよ」
興奮した様子でリーファが言葉を紡ぎます。私も自分で遠見水晶を生成しレンズを覗き込んみました。ピントが合い映し出されたのは、透き通る黄金の刀身をもつ、壮麗な一振りの剣でした。確かに伝説武器と称されるに相応しい武器だと思いますが……
「あれちょっと使いにくそうじゃありません」
「そりゃお前刀しか使ってこなかったしな。ソウジのスタイルに沿うものではなさそうだ」
「何でソウジは興奮しないのよ。ALOでの最強の剣よ!……もしかして、トンキーはあのダンジョンまで私達を運んでくれているのかな?」
「幾ら武器の性能が高かろうが結局は使い手の話ですし………恐らくはそうでしょうが、今の私たちにはあそこに向かう準備も時間もありません」
私の意見に項垂れるリーファとキリト。リーファはともかくキリトはしなければならないことがあるでしょう!この世界に一つしか存在しない伝説武器を手に入れたいというゲームプレイヤーの大部分に当てはまるであろう気持ち自体は否定する気はありません。
目の前の至高の武器を手に入れるチャンスを逃したくない気持ちも理解はしますが、そもそも私たちの最終目標はアルンへの到達であって、エクスキャリバーの入手ではありません。
トンキーはやがて氷柱ダンジョンから伸びる広いバルコニーに沿う形でゆっくり飛行しています。ダンジョンの入口へ飛び移る事も今なら可能でしょうか。最悪二人を押さえつけることも一つの選択肢として脳内の候補に上げながら二人を見やると、どちらもダンジョンを前にして体を震わせながらも飛び降りることはありませんでした。
「……また来よ。今度はもっと仲間いっぱい連れてきてさ」
「そうだな、生憎俺には誘える仲間が殆どいないが………このダンジョンはきっとヨツンヘイムの中でも最高難易度だろうしな。今はソウジの言うように時間もないし」
「二人とも気持ちを切り替えてください。気持ちは理解出来ますが」
不満たらたらの二人の顔を横目にしつつ、リーファによって生まれた奇跡的なトンキーとの関係に思いを馳せます。私だけなら苛められているモンスターを助けようなんて発送は絶対に考えつきませんでしたし、ヨツンヘイムの天蓋へと辿り着くことも不可能だったでしょう。
邪神級モンスターの中でもトンキーのような異形型と巨人型に分かれて敵対しており、プレイヤーの運搬を担う役割を果しているトンキーたちをダンジョンの守護を始めとする巨人型が殺そうとしたのでしょうか……などと推測を巡らす間に、いよいよヨツンヘイムでの冒険も終わりを迎えます。
トンキーが減速し始めるとその先には階段の付いた世界樹の根が垂れ下がっています。恐らく、あそこから地上に通じているのだろう。階段に寄せつつ滑空し、鼻を根に絡みつかせて停止したトンキーの乗り心地の良いフワフワな背から飛び降りた私たちは、こちらに向き直ったトンキーの鼻と順に握手していきます。
「また来るからね、トンキー。それまで元気でね、もう他の邪神に苛められちゃ駄目だよ」
「またいっぱいお話ししましょうね、トンキーさん」
「トンキーのお陰でここまで来れました。ありがとうございます」
「ホント助かったよ、礼を言う」
それぞれが別れの言葉を告げ終わるとトンキーは折り畳んでいた翅を広げ、ヨツンヘイムの地底へと飛び去っていきます。トンキーの姿を見送ると、踵を返して階段を上り始めた。
私たちはどこか寂しい気持ちを振り払い、アルンへと続く螺旋階段を駆け上がります。ってか何キリトとリーファ、手を繋いでるんでしょうか。目の前の光景を見なかったことにしつつキノコに照らされた階段をひたすら駆け上がること約十分、木の壁に開いたうろへと辿り着きます。
リーファを先頭としてうろに体を突っ込むと飛び出した先に広がっていた光景は、魔法光によって煌びやかに浮かび上がる、古代遺跡を思わせるあまりにも美しい積層都市の夜景でした。そして、何より存在感を放っているのは、アスナが捕われているであろう、街の中央に聳え立ち最高部は見ることすら不可能な程巨大な大樹でした。
「私たちようやく辿り着いたんだよ、アルヴヘイムの中央都市──《アルン》に……」
「あれは……」
「ええ、間違いないありませんね……世界樹です」
ウインディーネとの戦いは急いでいるならソウジがやり過ごすだろうということで描写なしとなりました(筆者がしんどかっただけとも言う)
時間があったら基本的に敵は切り捨てがデフォのソウジは殲滅にかかります。あくまで今回は時間が無かっただけなので