考査の勉強や病気、モチベーションの低下などが重なり筆が全く進みませんでした。これからはもう少し早く投稿したいと思います。それではどうぞ。
あの
「……お兄ちゃん……なの……?」
「………スグ……直葉、なのか?」
世界樹の根元に広がるアルンの賑やかな空気や喧騒も遠ざかり、二人がいる空間だけ切り取られたかのような静寂さが感じられます。
「どうして………そんな……」
「………」
「なんで………お兄ちゃんは私を頼ってくれないの。確かにお兄ちゃんが大事なことしてるのは分かったけど、家族皆心配してたんだよ……どうしていつも一人で行って私を置いて行くのよ!」
「スグ………」
リーファ──恐らく以前述べていたであろう妹の直葉さんでしょうか……が感情を露にして激情をぶつけます。それにキリトは口を開けず身動きすら取れていません。
「………私、好きだったんだ。お兄ちゃんのこと…………でもこの気持ちに気づいちゃった時には……自分でこんな気持ちは間違ってるんだ、捨てなきゃって………だからお兄ちゃんへの気持ちを裏切ってまでキリト君のことを……」
「え………好きって……だって、俺たち……」
「知っているの。私ももう、知ってるんだよ」
「…………え………?」
その言葉を聞いた瞬間キリトの時間が止まったかのように固まり、瞳から感情が失われていく。
「私とお兄ちゃんは本当の兄弟じゃない。そのことを私は二年前から知っているの!」
キリト──和人を非難している側である直葉もどこか痛みを伴うように、声を張り詰めながら悲痛な面持ちで言葉を続けます。
「お兄ちゃんが剣道を辞めて私を避けだしたのも、その時に私が妹じゃないって知ったからなんでしょ?本当の妹じゃないって………結局蟠りが解けないままだったよね。だから、私……お兄ちゃんがSAOから戻って来てくれて嬉しかった!昔みたいに一緒に仲良くして……それで、今度こそ関係を打ち明けて本当の家族になりたいと思った!私のこともようやく見てくれたって……」
「でも……こんなことになるんだったら、お兄ちゃんに冷たくされたままのほうが良かった。それだったらお兄ちゃんを好きになることだって………あんな私の前じゃ見せたことのない、すっごく幸せそうなお兄ちゃんを見て諦めることも……その代わりにキリト君を好きになることだってなかったのに!」
持ちうる全ての気持ちを出し切った直葉は肩で息をする。表情が凍り付いたかのような和人は数秒経った後、顔を俯かせながら一言だけが発せられた。
「……ごめんな……」
その言葉を聞いたリーファは顔を悔恨で歪ませると、左手でウインドウを呼び出しそのままログアウトしていきました。それを呆然と眺めて未だ固まっているキリトに状況の把握も兼ねて声を掛けます。
「キリト、少しお話聞かせてもらっても……?それに両者一度頭を冷やす意味も含めて一度時間を置くべきです」
「………そうだな、ソウジになら話しても大丈夫か。ちょっと聞いてくれるか」
そうして手頃な店に入った私たちは席に着き、キリトがポロポロとリーファーー直葉とのことを口にしました。
ーキリトsideー
本来リアルでの話を
「直葉のことはSAOの時少し話したよな」
「ええ、確か都内の剣道の大会にも進んだ腕前の持ち主だとか………」
「ああ、そうだ。よく覚えてたな……どこから話すべきか……」
──まずさっきリーファ──直葉が言っていたように本当の妹じゃないから避けてきたってことはおおむね正しい。ただ、そのことに気づいたのは住基ネットの戸籍表示に抹消記録印があるのに気づいて今の両親にそれを問い質したからでな……当時の俺は十歳だったんだ。
キリトは当時のことを思い返すように口を開く。
──何か明確な意図や意志をもって直葉を遠ざけた訳じゃないが………心のどこかで裏切られた気持ちや、気まずさといったものが全くなかったかと言われると自信はないな。それと同時に俺は他人との距離というものが解らからなくなったんだ。
──実の両親との記憶は何も残っていないし峰高・翠夫婦、今の俺の両親だな。彼らはそれらの事実を伝えた前も後も変わらず俺を愛してくれた。だから心理的なショックを負っただとかそういったことは一切なかった。
──ただ、他人と接する際の、この人は誰なんだろうか、といった疑問が頭から離れなくなったんだ。浅い付き合いから親しくしている人、果ては家族に対してまでこうしたことを考えるようになった。本当に俺はこの人を知っているのだろうか、って。
──当然、他人は他人で自分は自分だ。自分のことでさえ分からないことがあるのに他人のことなんて完璧には理解出来ない。だから、今考えると俺はネットゲームにのめりこんでいったんだろうな。
キリトは自分に確かめるような口調で話を続ける。
──ネットワーク越しに接する人たちは誰も彼もアバターを被って、嘘の自分を演じて……ある意味最初から全ての存在が偽りとして割り切った世界で、誰もが異なる内面を持っていることを前提として接することがおれは心地よく感じたんだ。だからこそ俺は直葉から目を逸らす意味も含めてネットの世界へとますます向かっていって、直葉は爺さんからのことや寂しさを振り払うためにも剣道に熱中して……悪循環だな。
──そして俺はソウジらと一緒にあの
それでもキリトはあの世界に出会って確かに変わったのだ。
──だが、SAOは俺に一つの結論を促した。それは仮想世界は現実世界と本質の部分は全く同じということを……勿論あのSAOの完成度があったからこそ出てきた言葉だが。あの世界で失われた二度と戻ることのない命、自分の命を賭けて本能と理性のまま駆け抜けた階層攻略、こんな自分と関わり合ってくれた人たち。
──そして何より互いに愛を誓い合った俺にとってかけがいのない存在であるアスナ………全ては自分が感じ取り、認識した現実世界と何ら変わりないものだ。電気信号の伝達によって認識される世界……これは現実世界を説明するものと同じもの、そう気づいた。
結局彼が気づいたのは有り触れたもので、それゆえ気が付きにくい大切なもの。
──結局俺の悩みは極めて単純なものだった。人は完全には理解し合えない。自分の認識する人がその本人なのだと………そして、互いを信じあって受け入れて、手を取り合う………そんな簡単な答えだったんだ。
──だからこそ直葉とは出来るだけフィルターを取り除いてやり取りをしよう、って思ってたんだけどな。結果としては直葉が俺を兄でなく従兄として関係を作り直そうとしていることにも気づかず、直葉の前でアスナへの気持ちを露わにし、彼女のために直葉の前で泣きさえしたんだ。
──直葉の気持ちを慮れば深く傷つけてしまったことが容易に想像できる。機械全般がそれ程得意ではなく、ゲーム嫌いだった直葉がALOを始めたのも恐らく俺のためなんだろうな…
「ホント、俺は直葉に……どうすれば………ソウジなら、どうしていた?」
自分が直葉にどれだけ傷つくようなことをしていたのか、振り返れば数えきれないほどの行動が脳裏に浮かんでくる。事の重大さに押しつぶされそうになった俺は焦っていたのだろう。
こんな独白じみた独り言を眉一つ動かさず、真剣に相槌を打ちながら聞いてくれたソウジについ問い掛けてしまった。少し考えればあいつに振るべき話題ではなかったことは想像に難くないというのに……
「キリトが聞きたいのは”これまで”のことではなく”これから”のことでしょう?既に過ぎてしまったことは過去に戻れでもしない限り覆りません。それに………私も家族との関係、距離……これらの問題に踏み込めなかったわけでして……」
「……!すまない……」
「いえ、私も自分の中で区切りはつけていましたし、私の方からこの話題を振ろうと思っていましたから」
そう言ってソウジは一拍置いた後口を開く。
「そうですね………質問に答える前に私の話を少し聞いていただけますか?」
「ああ、全然構わないぞ」
そうしてソウジは口を開く。
──晶彦義兄さんの初対面の印象は気難しそうな人って感じでしたかね。そうですね、あまり感情を表に出さない仏頂面が多かった人なので……キリトも想像がつくでしょう。
──年齢差もあって私とどう接するのかを手探りで探りながら関わろうとしてくれたのが記憶に残っています………あのSAOでのゲームマスターの姿を見ていたら想像も付かないでしょうが彼、かなり天然気味なところがあってそこも私が馴染めた要因ですかね。
ソウジにとって過ぎ去ったものである──過去を確かめる意味もこめて当時のことを振り返る。
──その時に晶彦義兄さんから色々と教わったりもしましたから。そんな感じで関係についてはそこまで悪くなかったと思います………何でじゃああんなことにって顔してますね。まあ当然ですよね。
──キリトも聞いたと思いますがSAOでデスゲームを行った義兄さんの目的は現実ではない異なる世界、そしてその世界のシステムを上回る人間の意志という力を見たかった……といったものだったんだと思います。これらが意味することはある種、義兄さんは現実に対して諦めを持っていたんだと思うんですよね。
あの頃の私は義兄のことを何も見ていなかった。
──彼は他の人とは異なる視線を持っていましたから嫌でも目に入ってくるものがあったんだと思います。義兄さんはそのことに気づいて現実という檻の中ではなく
──端的に言えば義兄さんと私は互いに本当の意味で向き合えていませんでした。義兄さんからしたら自分の夢をかなえるための技術に興味を持つ”ただの親戚の子”に必要な対応をしただけ。私も私で人と触れ合うのに臆病になって”理想的な弟”を演じてよく言えば負担を掛けないため、悪く言えば心を開かないでいました。最終的にはそれなりに馴染むことが出来ましたがそれまでの過程は互いに相手を見ないで偽っての表層だけの触れ合いでした。
別に嫌っていたわけではない。ただ、お互いが良くも悪くも相手に必要以上に向き合わなかった。
──手を伸ばせば直ぐ届く位置にいたのに、義兄さんの悩みに気づける立場だったのに、どんな人よりも遠かった………結局他人に殆ど興味がない義兄と他人に向き合うのを恐れた私の形を成しているようで成していない歪な関係。なまじ外から見たら全く問題がないので、修正のしようもないですから関係が悪いのよりもたちが悪いですね。だからこそ私は義兄さんの抱えているものに気づきませんでしたし、気づいたときには既に手遅れでした。
これはただの事実確認、それだけです……
そうして話し終えたソウジはこちらに向き直って言葉を続ける。
「私もそこまでキリトの家について詳しく知っている訳ではありませんが、すれ違いによって互いに傷つきあったとしても、今までの二人の過ごしてきたことまではなかったことにはなりません。だから私からもひとつだけ言えることがあります。……まだ二人は互いが手の届く位置にいます」
「ソウジ…………」
どこか自嘲気味に浮かべた笑みが余計に痛々しく感じてしまう。俺も直葉を失っていたら……そんなことを考えるだけで背筋が凍る。そんな想像が顔にも表れていたのだろうか。ソウジは俺に気を使うかのように慌てて口を動かす。
「キリトが考えているようなことは起こりませんよ。ぶつかり合いが起こるということはそれだけ相手に何かしらの熱意を持っているということですし。私たちは結局相手を見ていなかったわけですから……ともかく”自分の思っていることを相手に伝える”、キリトがすべきことはこれだけです」
「それだけって………」
「相手には自分の思っていることなんて案外伝わっていないものなんですよ、キリト。それにキリトはそれ以外に出来ることはありますか?」
「それを言われると……確かにな」
「でしたら直葉さんを迎えに行ってあげて下さい。お互い落ち着いたでしょうし彼女も待っています」
「ああ、そうだな……済まないが直葉のところに行ってくる」
「さっきも言いましたように過去に起こったことは変えれませんが、これからのことは私たちが掴み取って形づくられていくものです。和人なら大丈夫です」
そうソウジに見送られた後、俺はリーファの後を追うようにこの世界からログアウトした。
ベットの上で目覚めた俺は乱雑な手つきで端末を外し、未だに言いたいことが纏まらない頭を稼働させつつ直葉の部屋に向かう。たどり着いた部屋の前には、今の俺と直葉の関係を表すかのようにドアが固く閉じられていた。いつも以上に冷たく感じるようなドアに手を当て直葉に呼び掛ける。
「………まさかスグがALOをやっているとは想像しなかったな」
「………」
──違う!そうじゃない!
直葉に掛けようとしていた言葉もいざ口から出そうとするとつっかえて障り当たりのない話題が滑り出る。改めて自分の情けなさを感じしまう。それでも今は反省よりも先にすべきことがある。
「………その、ごめんな。スグには余計な心配をかけたくなかったんだ。確かに俺が小さい頃スグが本当の兄弟じゃないって知ったことで距離感が生まれたのは事実だ。ただ、そこにスグを避けようという意図はなかった………その時の分も埋め合わせるつもりがかえってスグを傷つけたことに関してはあまりにも俺が短慮だった。スグ、本当にごめんな」
「……お兄ちゃんに酷いこと言って……ごめん。誤らなきゃいけないのはお兄ちゃんじゃなくて私なのに………」
「いいや、スグが思うことは当然だ」
「……それでお兄ちゃんが言ってたアスナっていう人は……」
「ああ、スグも昼間に病院で会った明日奈で違いない。詳しいことは言えないが今はアスナのために動いてる」
「そっか……その人はやっぱりお兄ちゃんの大切な人なの?」
「俺の全てを賭けても救い出したいと思ってる………そんな人だ」
部屋の向こう側から息を呑むような声が聞こえると同時に会話が途切れ、時計の針が時間を刻む空白の間が生まれる。そして、針の音は次第に一人の少女がすすり泣くものへと移り変わっていく。
「スグ………」
「ううん。いや、本当に違うくって。私たち、結局すれ違ってだけなんだなって。ほーんと兄妹揃って馬鹿だよね、私たち……あれ、おかしーな。涙が止まるまで少し待ってくれない?」
……俺は直葉に言葉を返すことが出来ない。今直葉が行っていることは自分で気持ちの折り合いをつけ、納得していることだ。そこに踏み込むことは直葉の覚悟を踏みにじることに他ならない。ただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。
ー直葉sideー
──ああ、やっぱり………
お兄ちゃんの口からそんな言葉が出てきた時私が感じたのは胸を裂くような苦しみでも心が悲鳴を上げるような悲しみでもなく、そういったものなんだと初めからそうであるかのような当たり前という気持ち。何ならある種の安堵感さえ感じてしまった。
私とお兄ちゃんが関わることのなかった
私が付いていった日に見せたあの表情は長い間家族として過ごし来た私ですら見たことのない幸せそうな表情だった。その時無意識にも私はアスナさんに勝てないことを悟ったのかもしれない。あの自分から進んで人に関わることはあまりないお兄ちゃんにあのような表情をさせる彼女こそお兄ちゃんの隣に相応しいと。
──いや、自分を誤魔化すのはもうやめよう
認めるしかないのだろう。あんな表情を見せつけられて、兄の彼女への気持ちを聞いて、それでも私は自分の気持ちを諦めることが出来ない愚か者だと。突き付けられた
引き離された差はまるで夜空に浮かぶ星の如くとても遠くて、届きそうにもない。それでもやると決めたからにはもう立ち止まってはいられない。足踏みするのも今日までだ。きっと今自分の顔はとてもじゃないが人に見せられたものじゃないだろう。それでも自分が留まる理由にはならない。
「お兄ちゃん」
「その、大丈夫か」
「うん、取り敢えず。ただお兄ちゃんが私に何も相談がなかったのは納得できてないよ」
「それは……すまない」
「ホントに私のこと家族だと思ってくれてる?」
「ああ、勿論だ」
「なら
──これも問題ないよね」
律儀に私が泣きやむまでドアの前で待っていてくれたお兄ちゃん。いきなり勢い良く部屋から出てきた私に驚いているがそれも今の私には都合がいい。勢いそのままお兄ちゃんに飛びついて
──ちゅ
触れるようなバードキスをする。あちらの世界でキスを交わしていようがいまいが、こちらのお兄ちゃんのファーストキスは渡さない。
「な、スグ」
「お兄ちゃん、私のこと大切な家族として見てくれるっていったもんね。今のも家族同士のスキンシップのうち」
恥ずかしさで真っ赤になる顔を精一杯押さえつけながらも必死に言葉を続ける。
「お兄ちゃんがアスナさんを好きなのは分かった。でも私が諦める理由にはなりやしない。絶対にお兄ちゃんを振り向かせるから!」
それじゃ
おかしい、こんな筈じゃ…………(愕然)
筆を進めていたらいつの間にか直葉が…………(驚愕)
一応言い訳としまして、今作のキリトは原作以上にアスナへの想いが重いのでそのことを考慮して直葉のことを書くとこうなっていました。
中々キャラを思いように動かすのは難しいですね。