ソードアート・オンライン ー浅葱の剣聖ー   作:狂華翠月

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第四話 月夜の黒猫団

 

 

 

 あの第1階層攻略からおよそ半年が経った。現在アインクラッド攻略は33階層まで完了し、全体のおよそ三分の一を攻略したこととなる。

 

 クォーターポイントと呼ばれる第25層のボスはかなりの強さを誇ったが、キリト、そして血盟騎士団などを中心とした活躍によって、なんとか犠牲者を出さずに倒すことができた。

 

 一度方法が確立されると、メソッドが蓄積されより効率的に攻略を進めていけるようになっていく。攻略へ参加する人も増え、複数のギルドも設立されアインクラッドの完全クリアも夢ではなくなってきた。やはり、ターニングポイントはあの第1階層攻略だったのだろう。ソウジがそんなことを考えてると、不意にアルゴの言葉が頭をよぎる。

 

 『ン?キー坊はギルドに入っているゾ、ソウジは知らなかったのカ?』

 

 最近キリトを見かけることが減ったこともあって、ソウジがアルゴにキリトが何をしているのかを尋ねた時にアルゴから帰ってきた台詞だ。

 

 ソウジとしては情報料を取られるかと思っていたが、意外にも無料で教えてくれたので驚きもあった。

 

 ──いや、こんなことを言うのは失礼ですかね。でも、あのアルゴさんですし……問題はありませんね。

 

 ソウジが訳を聞くと、どうやら前のダンジョンでの情報収集に護衛として同行したことへのお返しらしい。若干対価としては安いような気もするが彼女以外に雇われたことなど無いので妄想の域を出ない。

 

 ──護衛はあの人が一番優れているでしょうががそもそも頼める人がいないでしょうし

 

 ただ、ソウジとしてもあのキリト(ボッチなソロ)が入るギルドと聞くと気にならないと言ったら嘘になる。

 

「それじゃ、明日覗きに行ってみますか」

 

 そうしてソウジはメッセージを消し、第22層にある小さな拠点のベットで寝転びながら、目を閉じて眠りについた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 翌日

 

 

 アルゴに伝えられた場所へ行くと、キリトは何人かのプレイヤーと共に第27層の迷宮区の入り口にいた。周りにいるプレイヤーがおそらく、キリトが入ったギルド『月夜の黒猫団』のメンバーなのだろう。ソウジはキリトの索敵スキルに見つからないように、隠蔽スキルを使い、さらに距離を取って覗いていた。

 

 ──これなら、キリトに見つかる心配もないでしょう。私は剣士(セイバー)よりも暗殺者(アサシン)の方が向いて、いやそれは……

 

 頭に沸いて出た突飛な思考を振り払い、ソウジはキリトたちメンバーを観察すると、なんとなくキリトが入った理由が理解できた気がした。

 

 ソウジとしては黒猫団のメンバーの雰囲気は攻略組とは、どこか違う雰囲気を感じた。例えるなら攻略組のギルドはルールなどが厳しく決められた様々な人が所属する会社、黒猫団は親しい間柄の人だけで構成される部活といった感じだろうか。

 

 ソウジがそうこうしている間にキリトたちは迷宮区に向かっていく。あのキリトが入ったクランを興味本位で覗きにきたソウジはわざわざついていく必要もなく、頼まれていたことを果たすため近場のフィールドへと向かった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 全部自分のせいだ。俺がいるからと油断してこのざまだ。何で嘘なんかついた。どうして彼らを止められなかった。目の前の光景を受け止めきれず過去の自分の行為を悔いることしかできない。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「きゃああ!」

 

 俺の目の前では、大量のモンスターが俺と黒猫団のパーティメンバーを襲っていた。この部屋で宝箱を開いた直後、大量のモンスターがポップして来た。いわゆるモンスターハウスと呼ばれるトラップのたぐいだ。

 

 最悪なことに、この部屋はプレイヤーが普段回復や転移のために使う結晶系アイテムの効果発動を阻害する「結晶無効化エリア」であり、圏内への避難もできなかった。一人一人が(Game Over)を目前に声を上げて取り乱し、冷静さを欠き武器を振り回す。

 

 そして、モンスターの放った一撃が一人のHPバーを削りきる。そいつは俺に怨嗟に染まった絶望の淵を思い起こす真っ黒な目を此方に向け_____()()()()()()()()()()()

 

 ──俺のせいで……俺なんかの……何で………自分なんかが………

 

 頭の中がどす黒いもので埋め尽くされる。いっそのこと頭とは切り離されたように必死に剣を振り回すこの手を止めるべきなのだろうか。自分のために嘘をついてそんな自分に優しさを、温もりを与えてくれた彼らを、心地よさから偽り続けたのは………殺したのは自分だ。生きるべきは彼らで死ぬべきは自分じゃないのか、そんな考えが首をもたげる。

 

 だけど、あの死を恐れながらも確かに仲間と共に歩き続けた彼女だけは。あの夜、いつしか訪れるであろう死に怯えていた彼女との間で結んだ約束だけは。そんな考えだけが今の自分を突き動かしていた。

 

 だがそんな自分で事態を引き起こしておきながら責任を感じてもがく嘲笑うためだろうか、目の前の彼女に岩石エレメンタルの一撃が振り下ろされた。

 

 ──やめろ、お願いだ。彼女だけは!

 

 理性が無駄だと告げるのを無視して、ひたすらに剣を振るう。目の前が起きていることが本当のことだと信じたくなかった。少しでも速く、このどうしようもないリアル(仮想世界)を自分の手で否定したい。ただ不格好でがむしゃらに、それでもと彼女に手を伸ばした。

 

 なのに、目の前の出来事は何も変わらない。目の前で起きている光景がスローモーションとなって流れいく。

 

 死に怯え、恐怖に身をすくませ、そんな自分が仲間に置いて行かれることを恐れ、自分の悩みを打ち明けることに苦悩していた普通の女の子。こんな恐ろしい世界を捨てて二人でどこまでも逃げよう(行こう)と告げた少女。お互いの心の内を吐露しあい弱さを抱えても尚、前を向いた勇気のある彼女。

 

 彼女との思い出が脳の中でフラッシュバックする。脳の中は説明のしようがない激情に飲まれ、

ただ思いのままに体を突き動かす。

 

 

「サチィィィーーーーーーーー!!!」

 

 最後にこちらを向き、寂しげで、それでも儚くも美しい笑みを浮かべながら何かを告げようとする。

 

「キリト君、私ね、君に会えて本当に──」

 

 その言葉は俺の耳には届くことはなくただ空気を揺らすだけだった。サチのHPバーは底を尽き、彼女は赤いエフェクトを伴ってこの世界(SAO)から消え去った。伸ばしてた手は宙を彷徨うだけでそこには何もない。

 

 

「キリト!伏せてください!!」

 

 そんな突然の指示に未だに考えが追いつかない頭とは裏腹に、動きが染みついた体が咄嗟に従うと同時に、敵の群れが現れた煌めくエフェクトと共に切り伏せられた。

 

「無事ですか、キリト」

 

「……ソウジ」

 

「話は後です。私は敵を倒します。キリトはトラップの解除を」

 

 ソウジの底冷えするような感情のない声に頷くことしか出来ず、宝箱に突き進んでいく。どうやってたどり着いたかはあまり記憶に残っていない。

 

 

 部屋一帯を埋め尽していたモンスターを増援に来たソウジと切り払い、何とか部屋から出ることが出来たが今の俺にそれを喜ぶことは到底出来なかった。

 

「……一体あの部屋で何が起こったのですか?」

 

「…トラップだったんだ。結晶が無効化されて逃げることもできずに……俺、何も守れなくて…」

 

 これまでの彼ら(黒猫団)と過ごした日々が頭の中で思い返される。一階層攻略後も続くビギナーとベータの確執を埋めるために半ばヒールとして振る舞っていくうちに自分の心は確実に疲弊していった。

 

 勿論一階層の時の面々をはじめとした自分の考えを理解してうえで接してくれ人物もいる。それでも彼ら(黒猫団)と過ごした日々は癒しとなった。自らを偽りながらも、互いに対等に向き合って喜怒哀楽をともにする、ありもしない夢見心地のような時間だった。そんな関係が崩れるのを恐れて、足踏みしていたせいで全てぶち壊してしまったのだから本当に自分は救えない。

 

「……そうですか、すいません私がもう少し早く合流できていれ」

 

「ソウジは黒猫団と何も関係が無かっただろう、今言っても仕方がないじゃないか!」

 

 違う、悪いのはソウジじゃなくて俺なんだ。それでもどこかぐちゃぐちゃになった心のせいか、どす黒い気持ちが溢れ思ってもいないことが口から零れる。

 

「放っておいてくれ!ソウジは何もわからないだろ!自分のせいで、自分の大切な、守るべき人を失う気持ちは!……俺は、彼女との約束を何も果たせなかった!」

 

「……いえ、配慮が足りなかったのは私でしたね」

 

 そして、こんな俺をソウジは責める様子は一切なかった。今はそれがただ苦しい。お前なんか、と切り捨てて貰った方がいくら楽になっただろうか。

 

「…私は町に戻ります」

 

「…………………………」

 

 そうやってソウジが街へと戻った後、俺は言葉を発さず、自分の無力さを呪っていた。

 

 

 

 2023年12月24日

 

 

ー第35階層「迷いの森」にてー

 

 

 あの事件から更に半年ほど経ち、このデスゲームが始まってから約1年が過ぎ去った。あの事件を機にキリトは表情に影を落とすことが多くなった。

 

 未だにあの事件がキリトの心に傷として残っている。そんなことが頭をよぎりつつソウジはクリスマス限定イベントが行なわれるこの階層に向かう。今回のイベントのボスの名前は背教者ニコラス。そのボスが落とすドロップ品《還魂の聖晶石》が今回のイベントの目玉となっている。

 

 この《還魂の聖晶石》には死んだプレイヤーを復活させられる力があるとされている。目的の場所に辿り着き待機していると、黒い人影がこちら側に向かって来るのが見えてきた。

 

 

「クラインは失敗してしまいましたか。キリト、申し訳ないですが一人ではここから先に通すわけにはいきません」

 

「……ソウジか」

 

「一人で行こうとするなんて自殺行為ですよ」

 

「すまない、通してくれ」

 

「いいえ、ならばせめて私もついていきます。今の精神状態で貴方だけ向かわせるわけにはいきません」

 

「…………駄目だ。ボスは俺一人だけで戦う……お前は手を出すな」

 

「考え直してください、キリト。彼らも」

 

「……うるさい!!そこをどけ、ソウジ!!第一お前は彼らに関係ないだろ!」

 

「……ええ、そうです。実際彼らと私には関係はありませんでした。貴方が軽々しく触れて欲しくないことも理解しています。貴方や彼らの気持ちが全て把握できるなんて思いませんし。ですが、今のあなたを一人で向かわせることだけは間違いです。なので──

 

 

 

 

 

 

 

私は貴方のためではなく私のために、貴方を止めさせてもらいます。貴方にも私を止める権利はありません」

 

 

 ──一人で行かせるわけには行きません。

 

 ソウジは腰に差していた刀を引き抜き構える。

 

「……………ッ」

 

 ──なんだこの異様な圧は。この場にいるだけで押しつぶされそうだ、……()()を使うべきか?

 

「安心してください。殺しはしませんから。ただし暫く暴れられないように多少の怪我には目をつむって頂きますよ」

 

「……っは、尚更のこと止まれないじゃないか」

 

 そう言いキリトも片手剣に手をかけ、互いの殺気がぶつかり合い空気が軋む。まさに一触即発となったその時、近づいてきた気配に反応する。

 

「……邪魔が入ったようですね」

 

「何を言ってるんだ、ソウジ……!」

 

 キリトの後ろから10人ほどのプレイヤーが足音を立てこちらに向かってくる。あのプレイヤーたちの装備からソウジはプレイヤーたちが何者かを理解する。

 

「軍ですか……!」

 

「悪いが、蘇生アイテムは我が軍がもらい受ける!」

 

 ──このままではキリトが……これだけはしたくなかったのですが

 

「……キリト、貴方は先に行ってください」

 

「……ソウジ…?」

 

「…ただし、絶対に死なないでくださいよ……もし死んだら、例え貴方が死んでいようが切り刻んで、地獄の底から引きずり出します」

 

「………ああ、分かったソウジ、頼む」

 

 そういってキリトは駆け出していった。軍は慌てて、駆け出していったキリトを追いかけようとしたが彼らの前に一人の剣士が立ち塞がる。

 

「ま、待て!」

 

 キリトを追いかけようとするプレイヤーの前にソウジはいつの間にか、首に剣を添えながら立ちふさがる。

 

「申し訳ないのですが貴方たちを止めるよう頼まれましたので。あんなこと言ってしまった手前、絶対一人で行かせたく無かったんですけどね……すいませんが倒れてもらえます?」

 

 そうしてソウジは彼らを相手に刀を振るう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ふぅ、これで終わりですか。ま、いい運動にはなりましたね」

 

 軍というでだけあって個人の練度はそれなりにあるが、連携がそこまで習熟していない。そこを付けばソウジにとって大した敵ではなかった。レベル差を考慮した上で斬り掛かるのには気を配るのは少々疲れたが。

 

「はぁ!はぁ!ソウジ!……キリトは!?」

 

「すいません、こちらも軍に横槍を入れられまして。どうしても行かせたくなかったんですが…まぁ、かわりに軍のプレイヤーたちにはサンドバッグになってもらいました」

 

「……お、おう。そりゃ随分おっかねぇな」

 

 さらっとエゲツナイことをかましているソウジにドン引きしつつもキリトのことを尋ねる。

 

「恐らく今から行っても間に合わないでしょうし、ここで待っているんですが」

 

 向こうから息を切らせてきたクラインにそう尋ねられ、ソウジが失敗したことを告げた。そうしてキリトのことを待っているとキリトがこちらへ歩くのが見えてきた。

 

「キ、キリト、無事だったか!?」

 

「……クライン…」

 

 しかし近づいてきたキリトにはいく前に見られた覇気も感じれず力がない。

 

「……蘇生アイテムは手に入ったのですか?」

 

「……ああ、一応な……だけどこんなもの……」

 

 そうしてキリトはそう言って、手に持っていたアイテムを地面に投げつけた。ソウジはそれを拾い、クラインとともにアイテムの効果を眺める。

 

「HPがゼロになってから、10秒ですか……期待を高めるだけ高めておいてからどん底へ突き落とす……本当にこの世界は

 

「……なるほどな……」

 

 クラインと私はその効果を見て、キリトの様子に納得がいく。そしてそのまま、キリトは歩き出した。

 

「キリト、一つだけ言っておきます」

 

 ソウジの言葉にキリトは動き出した足を止める。キリトからソウジの顔は見えないがそれでもソウジが

 

「あなたがどれだけ深い傷を負ったのかは私にはわかりません。それでも、すべての物事の原因が自分にあったと考えるのはあまりにも傲慢なことです」

 

 ソウジはただただ責任を全て背負い込み今にも押しつぶれ、闇の中に溶け込んでしまいそうな背中に語りかける。

 

「そして、どれだけやけになっても命だけは粗末にしないで下さい。それは貴方を想う人にも彼女に対しても」

 

「ったく、遠回しないい方してよぉ。キリト………お前は死ぬんじゃねえぞ!!頼りねぇかもしんねぇけどよ!いつでも頼ってくれよ!」

 

 涙ながらにクラインがそう叫んだが、キリトはこちらを振り返ることもせず迷いの森から去っていく。

 

 結局、私では彼の心に寄り添うことが出来ない。キリトの寂しげな背中を見ながらソウジはそんなことを考えることしかできなかった。

 

 

 

ー数日後ー

 

 

 ソウジはアルゴと一緒に新しい迷宮区の情報を集めるため護衛と助手を兼ねて、言葉を交わしながらも軽快な動きでダンジョン内を駆け抜ける。

 

「そうか、キー坊がそんなことになってんのカ………」

 

 ソウジからのキリトの詳しい現状を聞き、アルゴは顔を若干曇らせる。

 

「流石に大丈夫だと思いますけどネタにして売りつけたりしないでくださいよ」

 

「そりゃプライバシーに関わることは無闇に取り扱ったりしないサ、オレっちの信頼問題に関わってくるからナ」

 

 アルゴも眉を顰めたまま、本人もどこか思うところがあるのか苦い顔をする。

 

「まぁ、結局本人が立ち直るのを待つしかありませんし」

 

「マ、キー坊のことを信じるしかないナ。それにしてもソージってめちゃくちゃに速いよナ、幾らレベル差有るからって余裕持って追走されちゃったらAGI全振りしてるオネーサン泣いちゃうヨ」

 

 そこは流石鼠というべきなのだろうか。互いに湿っぽい空気となったことを察して、表情をコミカルなものにし話題を変える。

 

「そうですね、アルゴさんは情報集めのために逃走能力と回避能力を高めていますけど、ある程度は耐久も上げるべきじゃないですかね?VITも最低限振りませんと掠っただけで死にかねませんよ?」

 

「ワーオ、マジレスで返されちゃったヨ、今度こそホントにオネーサン泣いちゃっていいカナ?」

 

「で、今回の調査はあとどれくらいで終わりますか?別に私以外にも手伝ってもらってもいいんと思うんですけど?」

 

「遂に反応すらされなくなっちゃったヨ………まぁ、あと1時間もしないうちに片付くゼ。で、それについては単純に人がいないからダ。攻略組のヤツらは大抵何らかの予定でスケジュールが埋まってんのサ、それにソージだってなかなか仕事のできるヤツだロ」

 

 理由としては、まず第一に私のレポートは読みやすいと言う事。第二に、実力あるものはほぼ全員が攻略組に参加してしまっていると言う事らしい。攻略組以外のプレイヤーもレベリングはしているうえ、おまけに攻略組はボス戦の為に基本的に何かしらの予定を入れている事が多く、なかなか予定が合わせづらいと言うのが大きな理由だ。

 

「……そうですか」

 

「そんなに照れなくてもいいんだゼ?」

 

 消去法とはいえ自分を選んでくれるということにどこかソウジはくすぐったいものを覚える。そういった感情を向けられること自体がほとんど記憶にないせいだ。

 

「リップサービスとして受け取っておきますよ。実際他の人でも替えが利くでしょう?」

 

「そう言わずにナ。これでもオレっち助かってるんだぜ」

 

 神妙な顔をしてソウジに感謝を告げた後、そんな雰囲気を吹き飛ばすかのように顔をにやけ面に変えてソウジに絡む。

 

「ま、時間が空いてるってのは確かにあるナ。ソー坊はやることないのカ?オレっち心配だゼ」

 

 言外にこんなことに付き合うソウジは暇人だと告げているわけである。ソウジとしてはどこか釈然としないものがある。感謝された直後にこの仕打ちをされてはありがたみもどこかへ吹き飛ぶというものだ。

 

「余計なお世話です。レベル上げはこのお仕事以外の時間でちゃんとやってますので。それとギルドに入っていないのも大きいですね。ギルドに入るとやはり自分の行動に制限がかかっちゃいますから」

 

「確かにナ。まぁ、今時攻略組でギルドに入っていないの何て数えるぐらいしかいないしナ」

「まぁ、そりゃギルドに入ったほうが楽ですもんね。ソロだと色々めんどくさいとこありますし」

 

「ま、なるほどナ。ソージこれからも頼むゼ」

 

 一種のじゃれ合いのような話をしながら、目だけは互いを見据えた真剣なものだった。

 

「ええ、お任せください。それであの情報については……勿論無茶だけはやめて下さいね」

 

「ああ、オイラだって引き際ぐらい見極めてるサ。それをいうならソージのほうが……「私はなんら問題ありません」そうかい、無茶だけはよしてくれナ。またこれが終わってから伝えるヨ」

 

 アルゴからの心配にそんなものは必要ないをソウジは話を遮る。風にたなびく髪を揺らしながら二つの影は言葉を発さず走り去っていく。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「えぇ、了解です」

 

 こうしてアルゴとの調査も終わりを迎えた。そしてソウジが拠点へ戻ろうとしていると装備が白と赤で固められた集団が目に入りる。

 

 

「おや、ソウジ君じゃないかい、どうだい、例の件は考え直してくれたかい?」

 

「………ヒースクリフさん、お久しぶりですね。前にも申し上げました通りお断りさせて頂きます。やはり私は自分の時間を過ごすのが好きなので」

 

「いやはや残念だ、振られてしまったよ。是非とも君のような人材は欲しいのだが……」

 

「勘弁してくださいよ、その代わりといっては何ですが外部的な存在として協力するって言ったじゃないですか。これでも結構役に立ってるんですよ、ヒースクリフさん」

 

「ええ、そうですね団長。彼はいつもボス戦やアイテム収集など様々な場面で役に立ってくれています。ホント大助かりですよ」

 

「しょうがないね、今はこれで我慢するしかないか。それで前のような無茶な攻略はしていないかい?」

 

「ええ、そちらの副団長にしっかりと釘を刺されたので」

 

 ヒースクリフさんが言う無茶な攻略とは以前……

 

 


 

 

ー第44階層ー

 

 

 

「この層のボスは落ち武者の姿をした一目の幽霊のようなモンスター、トダシ・ザ・サムライマスター、ですか……」

 

 このSAOというゲームは西洋風ファンタジーということも相まって基本的には片手剣や両手剣なんかが主流となっている。ソウジやアスナのようにいくらでも例外は存在するんですが……それは置いておいておこう。

 

 つまりソウジは何が気になったかというとこのボスは刀を使うという点である。この世界で刀を使うプレイヤーはそう多くないため、マンネリ化していたところに同じ得物を扱う者として出てきたボスに興味が湧いたのである。

 

「善は急げといいますし早速向かいましょう」

 

 そうして、ソウジはボス部屋まで向かい戦いが始まったわけだが……

 

「まぁうすうすわかってはいたんですけが、実際相対すると……」

 

 このSAOにはシステム外スキルの一つに《見切り》というものがある。NPCの目線の動きで攻撃される場所を特定し防御や回避を行うといったもので、これを使用することで太刀筋をかなり避けやすくなるというものだ。ソウジは別にこのスキルが無くても敵の動きの起こりから先の動きまで読み取れるため()()()()()()()()()()

 

 つまり、ぶっちゃけるとそこまで強くないのである。ただでさえブレス等の範囲攻撃をせず近接攻撃しか出来ないということで対策しやすいのに下手に人型なせいでソウジにとってはただの大きな的と化しているのである。溜めや隙も他のボスと比べたら少ないが、ソウジとしては隙を丸出ししているようなものだ。

 

 

 

 

「ゴァァァーーーー!」

 

 

 

「もうそれもいい加減見飽きました、そろそろ終わらせましょう」

 

 敵が放った逆袈裟で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はぁぁ!」

 

「ギャャゴァァーーー」

 

 流れるように空中でモーションを取り目玉をカタナ上位連撃スキル《霧氷》で衝撃を伴いながら切りつける。視界を潰されたボスはたまらず咆哮を上げてのたうち回る。

 

  ──それでは片をつけましょうか

 

 姿勢を整えて着地をし、再びボスに風を切りながら駆け寄っていく。ボスも自分の命の危機を感じたのか、倒されまいと手負いの獣のように破れかぶれになって衝撃をまき散らし、剣を横なぎに振るうがソウジは全く異に関さず、地を蹴り飛翔する。

 

 体を宙に泳がせながらこの戦いを終わらせるため、ソウジは体を独楽のように回転させ勢いをつけつつとどめの一撃を放つ。生まれた捻転力を剣先へ余すことなく注ぎ込みカタナ横なぎソードスキル《斬月》を白いエフェクトと共に鳩尾に叩き込む。HPバーを全て削りきられたボスは浄土へ昇天していくような演出の中、ポリゴン片となって消え去った。

 

「倒し終わりましたか。LAもいい感じですね。ボスの名前負け感は否めませんが」

 

 ポリゴン片が砕け散って無事ボスも倒し終わり、LAを確認していたところ多くのプレイヤーたちが近づいてきていたところで──

 

「――へ?」

 

 と、アスナの間抜けなこえが聞こえてきた。ただそれも考えたら当たり前のことだろう。見当たらないボスの姿。部屋中に降り注いでいたポリゴン片。開いた次の層への扉と明るい部屋。そして一人佇むソウジ。ソウジは取り敢えず手を挙げて挨拶する」

 

「お久しぶりです、アスナ」

 

「え、ソウジ君どうしてこんなことしてるんですか?まさか、キリト君と同じようにボスを一人で討伐しですか?本当に?………私から告げたいことがあるんだけどいいかな?まず――

 

 


 

 

 といったことがあったのだ。その際ヒースクリフにギルドに誘われたがソウジは断った。

 

「じゃあ今度のボス戦でまた会おう」

 

「ええ、お互い頑張りましょう。しつこい勧誘はお断りですよ」

 

 そう言って、このヒースクリフとソウジは言葉の上では穏やかだが、感情を映すことのない冷たい瞳が互いを突き刺していた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

ー50階層にてー

 

 

 

 サチのおかげで気持ちにも踏ん切りがついた。そうなると、まずはあいつに謝らなくちゃならない。俺のことを思って動いてくれたあいつには感謝しかない。そう今までのことを振り返っていると見慣れた姿であるソウジがやってきた。

 

「いつ見ても浮いてる感じがするんだよな。その格好」

 

「周りが西洋ファンタジックな格好のせいで目立つことにかんしては否めませんね。…立ち直れたみたいですね、キリト」

 

「……ああ、サチに励まされてな。こんなままじゃいけないってな、喝入れられたよ。俺は」

 

「そうですかキリト、ちゃんとアスナやクライン、エギルにも伝えといてください。皆さんあなたのことを心配していましたよ。貴方は自分が思っている以上に大事に思われているんですから、周りもちゃんと頼ってくださいね」

 

「ああ、そうだな。すまない、お前には心配かけた。それに関係もないのに辛く当たったしな」

 

「あんなことがあったらしんどくならない人なんていませんよ。気にしないでください」

 

「ありがとな……それにしてももう50階層まで来たのか、折り返しだな」

 

「ええ、ようやくですよ。………そういえば貴方は使うんですか?アレを」

 

「……な、お前!俺はてっきり……」

 

「ええ、確信できたのはクリスマス・イブのイベントの時です。明らかに切って勝てるか、ということを考えず使うべきかどうか、といったことが表情に出ていましたから。てか、ぶっちゃけると直感です。ま、ちゃんと顔にも気をつけてくださいね」

 

「マジかよ」

 

 相変わらずコイツはどこかおかしい。なんだよ、表情に浮かんでいたって。流石にそこまで俺の表情は分かりやすくねぇよ。……直感は嘘だよな?

 

 クリスマスイブの夜から五日後。攻略組は遂に、第二のクォーターポイントである五十層ボス攻略を果たした。二十五層同様に強力なステータスを持つ強敵を相手に、しかし攻略組は一切の犠牲を出さずにこれを倒したのだ。そして、この戦いを契機に、第二と第三のユニークスキル使いが現れた。全身黒で固められた装備に両手に片手剣を持つ《二刀流》──キリト、そして、白い半襦袢の上に浅葱色のダンダラ羽織をかぶって、髪を耳上で結い上げ黒袴を同色の腰巻で引き締め首には黒い襟巻き。そんな姿の《神速》──ソウジ

 

 彼らは新しいユニークスキルの使い手としてSAO攻略の光となっていった。

 

 

 

 

 

 







ソウジさんは既にあの格好になっています。若干あの人もまじってるかも



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