ソードアート・オンライン ー浅葱の剣聖ー   作:狂華翠月

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本作ではキリト君とアスナさんは一層から何だかんだありつつもペアを組み続けているという設定にしています。


第六話 圏内事件

 

 

 2024年4月22日

 

 

 私は現在第57層のマーテンの主街区にあるレストランに来ています。最前線に近いこの階層でキリトとアスナに誘われて食事をとっているわけですが

 

「ん、うまいなこれ!アスナも食べるか?」

 

「ええ、頂くわ……ん、確かにこれは美味しいわね」

 

 …これをいーつまでも見続けるために来たわけじゃないんですけど。確かに甘いもの好きであることは自覚してますけど糖尿病になるのは勘弁ですよ?

 

「で、別に二人が仲睦まじいのは構わないですよ。それで、このソウジさんに話すことがあって誘って貰ったって認識間違ってないですよね?」

 

 そう言ってジト目──じぶんでもかなり冷たい目になっていると感じるで話しかけます(苦言を呈します)

 

「「………」」

 

 どうしたんでしょうこちらに目を合わせてもらいたんですけどね。……さっきの無意識だったってことですか。などともう色々疲れた少しの間天井を見上げた後小さく息を零しつつ二人に向き直る。

 

「別に無視されて拗ねたわけじゃないですよ。別に」

 

「い、いやすまないな、ソウジ。それで最近どうだ」

 

「まあその態度なら許しましょう。最近はまたレベル上げですかね。……もう気にしてないですから、水がぶ飲みして誤魔化さなくてもいいですよ」

 

 そうしてぐだぐだしながらも話が動き始める。キリトが飲み干した分の水をNPCのウエイトレスに注文する。その間に私はアスナとの会話を弾ませていく。

 

「……………ってことがあって!それで最近あんなにぐっすり眠ってなかったからね。キリト君の膝で寝ることもできちゃったし」

 

「そうですか、もう少しテンション下げてもらってもいいですか………そういえば最近新しい調味料ができたと聞いたんですが」

 

「ええ、今回のは自信作よ。胡麻ドレッシングが完全再現できたのよ!」

 

「凄いですね。私としては、そうですね……日本人として醤油がほしいですね」

 

「分かるわ、その気持ち」

 

 と、何気ない会話を繰り広げていると

 

 ──きゃぁぁああああ!!

 

 外から女性の悲鳴が聞こえてきました。その瞬間、先程まで話し合っていたソウジたちは、一瞬で険しい顔つきとなり席を立ち上がる。各々武器を手に取り、SAO内でもトップクラスの俊敏値を活かして店を飛び出し、先の悲鳴の聞こえた方向を目指す。そうしてレストランからそう遠く離れていない場所にある広場に見えてきたのは衝撃的な光景だった。

 

 広場の北側に建つ教会。その二階の飾り窓からは、一本のロープが垂れ下がっています。そしてその先端には、首をロープで巻かれて吊るされた、全身フルプレートのを着込み頭には大型のヘルメットを被った男性プレイヤー。その胸には、一本の槍が突き刺さっていた。

 

「……!」

 

「あれはっ!」

 

 《圏内》ではデュエル以外にHPを減らす方法は存在しない。故に《圏内》ではHPが全損し、死ぬことはないし、そもそも《圏内》ではどんな攻撃もシステムによって阻まる。だが、そんな常識から有り得ない事象が今、目の前で起こっている。

 

「ソウジ!教会へ行ってくれ!もしPKなら、犯人はまだそこに居るはずだ!」

 

「了解です」

 

 すぐに教会の中に入り気配を探ります。しかし、一切人影が見当たりません。それにしても、さっきのエフェクトどこか………

 

「アスナ!俺が縄を斬る!下で受け止めてくれ!受け止めたら、回復を!」

 

「分かったわ!」

 

 と、広場はざわついいていますねあのプレイヤーは恐らく……キリト達と一旦合流します。

 

「すいません、人影や気配は特にありませんでした」

 

「こちらもあと一歩が間に合わなくって……」

 

「死を悼むのも大切ですがいまは犯人を見つけるのが先決です。皆さんにデュエルのウィナー表示を探してもらいましょう」

 

 そうしてシステム外スキル《壁走り》を使用して教会の上に登り注目を集めます。

 

「皆さん、デュエルのウィナー表示を探してください!!」

 

 私の言葉に、その意図を察したプレイヤー達が、周囲を見回し始めます。圏内でのHP全損となれば、現状デュエル以外に有り得ません。ですから、先の全身フルプレートの男をデュエルで殺したプレイヤーの頭上には、『WINNER』という形式の巨大なシステムウインドウが30秒表示されます。それを探せば、すぐに犯人を特定できるのですが……

 

 やはりいませんか。

 

「一体どうやって透明化かしら、それとも新手の手法?どちらにせよこの事件が解決するまで迷宮区の攻略は一旦止めるわ」

 

「ああ、圏内でのPKが可能なら、放って置くのは危険過ぎる。対策を取る必要もあるしな」

 

「二人ともこの調査に協力してもらいたいのだけどいいかしら」

 

「ええ、別に構いませんよ。幸い予定も入っていませんし、さっさと解決しちゃいましょう」

 

「俺もだ。《圏内PK》なんて……放って置けるかよ」

 

 圏内PK事件の捜査を行う名目でチームを組むこととなり、ひとまず事件発生時の様子、および被害者の男性プレイヤーについての詳細を調べるため、未だ広場に屯していたプレイヤー達が私たちに注目する中、キリトが一歩前へ出て呼びかける。

 

「すまない、さっきの一件を最初から見ていた人、いたら話を聞かせてほしい!」

 

 キリトがそう呼び掛けると、一人の女性プレイヤーが怯えながら前に出てきました。そんな女性に、アスナが優しく声を掛けます。

 

「ごめんね。怖い思いをしたばっかりなのに。あなた、お名前は?」

 

「あの……私、ヨルコっていいます。」 

 

「先程の悲鳴は、君ので間違いないか?」

 

 キリトの質問に対し、ヨルコさんは涙を浮かべてながらも受け答えします

 

「は、はい………私、さっき、殺された人と……一緒にいたんです。彼の名前はカインズっていうんです。昔、同じギルドに所属していて、今でも結構仲がよくて。人が多い広場で見逃しちゃったんです。それで、辺りを見渡してたら、ここの窓からカインズが落ちてきて、宙吊りに…!」

 

「そのとき、誰かを見なかった?」

 

「……一瞬でしたけど、後ろに誰か……いたような気が、しました……」

 

「その人影に、見覚えは?」

 

 ヨルコさんは首を横に振ります。現場には騒ぎを聞きつけたのか攻略組を主なメンツとした、二十人弱が残っており、アスナが一連の出来事を未知のPKの可能性があると言うことも踏まえ細かく伝えたようです。

 

「この一件に関しては、血盟騎士団副団長のアスナと俺とソウジが調査を行う。さっきの圏内PKの手段や、犯人の正体等、新しい情報が入り次第、随時ギルドの幹部を介して情報を開示する予定だ」

 

「そんな訳ですから当面は十分警戒してください。それと、この情報を中層・下層のプレイヤーたちにも広めて、警告しておいてほしいです」

 

「分かった。情報に関しては情報屋の鼠あたりに持ち掛けてペーパーに載せてもらう様に手配する」

 

 現段階で出来ることを終え、その場は解散となりました。

 

「まずは、手持ちの情報を検証する必要があります。ロープは一般のショップで売られているものですが、スピアに関しては、プレイヤーメイドの可能性がありますね」

 

「となれば、鑑定スキルが必要ね。私の友達で、武器屋やってる子が持ってるけど、今は一番忙しい時間帯だし……」

 

「俺は一件ほど当てがあるな………ソウジ、エギルのとこってもう空いてるよな?」

 

「なるほど、エギルさんのところですか、この時間なら開いていますよ」

 

「そうか、じゃあ俺とアスナはエギルのとこへスピアを鑑定しに行く。ソウジは《黒鉄宮》まで行って、カインズの死亡日と原因、時間の確認を頼む」

 

 こうして《圏内事件》解決のため私たちは分かれて行動を始めました。

 

 

ー黒鉄宮にてー

 

 

 はぁ、いつ来てもここは静寂で荘厳な空気が漂っていますね。まさしく墓場といったところですか。

 

 そんなことを考えつつ足を進めていると、金属製の巨大な碑《生命の碑》にたどり着く。ここではSAOに参加した1万人のプレイヤー名が記されており生死の確認をすることが出来る。

 

「えー、カインズ、カインズ……とありました。日付も今日のものですね。死因も貫通継続ダメージで一致していますね」

 

 だが違和感を感じる。何かがずれているような……そもそも本当に今回の圏内PK事件は行われたのでしょうか。

 

 ま、詳しいことは取り敢えず明日キリト達と合流してからにしましょうか。

 

 

 2024年4月23日

 

 

 事件の翌朝九時。私とキリト、アスナは打ち合わせ通りに五十七層の転移門にて合流しました。

 

「《グリムロック》……ですか。すいませんそのプレイヤーは知らないですね」

 

「いえ、別に確認のためだから問題はないわ」

 

 それにしても今日のアスナは気合が入ってますね。ピンクとグレーのストライプ柄のシャツに黒のレザーベストを重ね、下はレースのフリルの付いた黒のミニスカートを着ており、脚にはグレータイツで、靴はピンクのエナメルに、同色のベレー帽を被っています。

 

「キリトももっと服装を選ぶべきじゃないですかね?」

 

「うるさいぞソウジ!俺だって気にしているんだ」

 

「で、これからどうしますか?アスナ」

 

「そうねぇ、今はカインズさん殺害手口の詳しい検討したいわね……こういう時は詳しい人に聞くべきでしょうね」

 

 

ーとあるアルゲードの小料理屋にてー

 

 

「……ふむ、圏内殺人事件か。確かに不可解だ」

 

 そこに、私達はヒースクリフさんにこの事件について意見を聞くために席に着いていました。

 

「そうだろう?そもそもこの圏内ではHPバーを1ポイントも減らすことは元々出来ないはずなんだよ」

 

「そもそも私はこの事件で本当にPKが起こったのか怪しいと思っているんですよね、昨日の夜に考えついたことですが」

 

「な、ソウジ一体どういうことだ?あれは」

 

「……その前に、ソウジ君。君の推測から聞こう。君は今回の事件について、どう考えているのかな?」 

 

 ヒースクリフさんは私の答えを促します。まるで学校の教師のようですね。

 

「先ず現時点でカインズさんが本当に殺されていると仮定した場合考えられる方法は三つです。1つ、デュエルによるもの、2つ、既知の手段を組み合わせたシステム上の抜け道。3つ……犯罪禁止区域(アンチクリミナルコード)を無効化する未知のスキル、またはアイテムですね」

 

「では、三つ目の可能性については除外して良い」

 

 私が三つの可能性を言った直後、彼は即座に三つ目の可能性を否定しました。

 

「一応どうしてそう思ったのか聞いてもいいでしょうか」

 

「よく考えるといい。君たち自身がこのゲームを作るとしたら、そのようなスキル、武器を作るかね?」

 

「まあ、無いでしょうね」

 

「理由は?」

 

 なぜこんなにも私にしゃべりたがらせるのでしょうか、別に構いませんが。

 

「…あの人(茅場晶彦)はこのゲームが始まったあの日からこのSAOのルールは基本、フェアネスを貫いてきています。犯罪禁止区域(アンチクリミナルコード)という、世界の理に干渉するスキルやアイテムが、認められるとは思えません。第一そんな場所を作っておきながらPKを行える武器を作るなんて矛盾もいいところじゃないですか」

 

「ああ、概ね私も同意見だ」

 

「流石に今の段階で3つ目の可能性について討論するのは無理があると……で、ソウジ君PKが起こってないってどういうこと」

 

「アスナ君落ち着きたまえ、ソウジ君の話を全て聞いてからにしようじゃないか……しかし、この店は料理が出てくるのが遅過ぎないか?」

 

 やはりヒースクリフも気になったようだ。料理を頼んでかなり時間が経っています。

 

「俺はここのマスターがアインクラッドで1番やる気のないNPCだと確信してるね」

 

「………そうか」

 

 そんなキリトとヒースクリフの気の抜けた会話が行われつつ話が進んでいく。

 

「圏内でプレイヤーが死んだなら、それこそデュエルの結果、ってのが常識だ。ただカインズが死んだ時、WINNER表示はどこにも出てなかった。そんなデュエル、あるのか?」

 

「そもそもあの広場でウィンドウを見た人はいなかったですし、私も教会の中でWINNER表示を見ませんでした」

 

「じゃあ、デュエルの結果……とは言いづらいよな。ってことは…」

 

「ねえ、キリト君。店の選択を間違ってない?注文してから10分は経ってるわよ?」

 

「………まぁそういうこともあるだろ」

 

 真面目な話の最中に行われるコントに少し笑うヒースクリフさん……楽しそうですね。

 

「残るは2つ目……システム上の抜け道、ですね。まあ、これも…」

 

「俺が少し試してみたんだが、貫通継続ダメージが圏内で続かないのは分かっているな」

 

「でも、あれを転移結晶や回廊結晶で試したらどうなるのかしら…?」

 

「無論、ダメージは止まるとも」

 

 アスナの疑問に素早くヒースクリフさんが答えます。

 

「徒歩や回廊などのテレポートであろうと、あるいは誰かに投げ入れられたとしても……つまり街の中に入った時点でコードは例外無く適用される」

 

「……じゃあ、例えば上空から…プレイヤーが落下ダメージで即死する高さからテレポートとした時でもコードは発動するのか?」

 

 キリトの疑問に今回は少し考えるような仕草を見せましたが、ものの数秒で答えました

 

「………厳密には《圏内》は街区の境界線から垂直に伸び、言うなれば空の蓋……つまり次層の底まで続く円柱状の空間を指す。その三次元座標に移動した瞬間、《コード》はその者を保護する。それが例え即死に値する高さからのテレポートであったとしても落下ダメージは発生しないことになる」

 

「ま、例え圏外でHPを削って広場まで連れてくるとしても時間や人の目、レベルなどの問題から不可能ですし」

 

「で、君はどうやってこの事件が引き起こされたと考えたのだい?」

 

「ま、簡単な話PKに見せ掛けたんじゃないかと考えているだけです。カインズさんが死んだ際に体が崩壊するのとポリゴン片が破裂するのに微妙な差ですがタイムラグがありましたし、何か別の光が混ざっているのも確認できました。恐らくダメージエフェクトは本人ではなく装着していたアーマーからでは発せられたものじゃないですかね。そしてアーマーがポリゴン片へと破裂するタイミングで転移結晶で離脱。これでおおよその筋道が立ちます」

 

「な、あんなに離れていたのに見えたのかよ」

 

「でも、それじゃあおかしいじゃない!ソウジ君も黒鉄宮で確認したんでしょ」

 

「ええ、ですがそれも他者のものなら話は別です。日付が去年のものなら誤魔化せます。スペルもヨルコさんから提供されたものですので彼女が協力者ならこのトリックは成り立ちます。なのでカインズさん達が何か目的を持ってこの事件を引き起こしたと考えているのですが、動機の方が掴めないんですよね」

 

「確かにその方法なら圏内でPKされたようにしか見えない……」

 

「実際やろうと思えば実行可能だろう。問題点も特に見当たらん」

 

 すると店の奥からおぼんに丼を4つ乗せて運んできた、この店の店主が奥から現れました。

 

「おっ、ようやく来ましたね」

 

「15分もかかるってどういうことなの…?」

 

「なぜこんな店が存在するのだ……」

 

 そして私たちは一斉にラーメンのような何か……通称《アルゲードそば》を啜る。味は………なんとも微妙な味です。なんでしょう、例えるならタコを抜いたたこ焼きでしょうか。常に表情が崩れず底の読めないヒースクリフさんも流石に顔をしかめています

 

「これは…」

 

「……ラーメン、なの…?」

 

「正確にはラーメン、のような何かだな」

 

 食べれないわけでは無いですが決して食べたいとは思わないアルゲードそばを胃に収めます。ラーメン擬きを完食したヒースクリフさんにこの事件についての見解を伺う。

 

「どうでしょうか、何か見解などはありますか」

 

「……これはラーメンではない。断じて違う」

 

「そうですか……圏内事件についても聞かせてもらいたいのですか」

 

「……恐らく事件の手法は君の言った通りだろう。事件を解決して攻略に戻ってきてくれたまえ」

 

 少し返答がずれましたね。

 

「よし、詳しい話をヨルコさんに聞きに行きましょう」

 

「ああ、そうだな。ソウジ行くぞ!」

 

「すいません、少しヒースクリフさんと話したいことがあるので先に向かっておいてください。私は後ろから追いかけます」

 

「了解だ、アスナ行こう」

 

「ええ」

 

 二人はヨルコさんのもとへ向かって行きます。私は彼らを見送りつつ、目線をヒースクリフさんへと向けなおします。

 

「おや、何の用だいソウジ君?血盟騎士団への加入ならば是非とも歓迎するよ」

 

「いえ、今日は少し話したいことがありまして……ヒースクリフさん、貴方はこの世界についてどう思いますか」

 

 世間話も兼ねて雑談する体で私は話しかける。

 

「……私は現実世界のあらゆる枠や法則を超越した世界を欲しいたのでね、ここはまさに私が望んでいたものがある。君を筆頭に素晴らしい人物もいる。中々気に入っているよ」

 

「そうですか、ただ何も知らされずこのゲームに捕らわれ、あるかどうかも分からない光を求めて藻搔き続けねばならない……余りにもこの世界は残酷だと、理不尽だと思います」

 

 そこで言葉を区切ったソウジは「……ですが」と再び口を開く。

 

「この世界に来たことでキリトやアスナたちと出会えましたし、ここでだからこそ得ることの出来たものもありました。ここで過ごした得難き日々、この世界のすべてを否定する気にはなれません」

 

「……そうか」

 

 私の考えを聞きヒースクリフさんはどこか納得のいった表情を浮かべる。

 

「ですが私たちが生きているのはあくまで《現実》です。いつまでもこの世界には留まれません。絶対に攻略法は存在する、これは兄の受け売りなんですけど。……尊敬出来る兄()()()

 

「……君のお兄さんは君にとって大事な人だったかい?」

 

「はい、不器用でしたけど優しい人でした。私のことをなんだかんだ気にかけてくれて……私にはもったいない兄です」

 

「…分かった、手間を取らせて申し訳ない。事件の解決、是非とも頑張ってくれ」

 

「いえ、こちらこそすいません。了解です。あ、それと一つお願いがありまして───」

 

 

ーキリトsideー

 

 

 俺たちは宿にいたヨルコと無事合流することができた。そして、ソウジが推理したこの事件の手法を話すこととなった。

 

「………という風にカインズは生きていると思うんだ。本当にカインズのスペルはKainsであっているのか?貴方も彼と何らかの関わりがあると思っているんだが…後《グリムロック》って名前についても聞きたいことがある」

 

「……ごめんなさい、周りを巻き込んでしまうことはわかっていたんだけど、彼女のためにもどうしても必要で……全てが終わったらお詫びに伺うつもりだったんです。本当です!」

 

「ちょ、ちょっと落ち着いて。真相は話してもらうだけなんだから。息を吸ってー、吐いてー」

 

 軽くパニック状態に陥るヨルコをアスナが落ち着かせる。幾分か気持ちが落ち着いたのかゆっくりと話し始めた。

 

「………すいません。なぜ私たちがこんなことをしたかというと過去に入っていたギルドが関係してくるんです。……あまり思い出したくない話ですけど…お話しします。……あの事件のせいで、私達のギルドは消滅したんです。ギルドの名前は、『黄金林檎』っていいました。総勢たった八人のギルドです。ある日、たまたま倒したレアモンスターが、敏捷力を20も上げる指輪をドロップしたんです。ギルドで使おうって意見と、売却して儲けようって意見で割れて……でも、最後は多数決で決めて、結果は五対三で売却でした」

 

 ぽつりぽつりと自分やカインズが所属していたギルドに纏わる話を口にするヨルコ。俺ととアスナは真剣な面持ちで聞き入る

 

「それで前線の大きい街で、競売屋さんに委託するために、ギルドリーダーのグリセルダさんが一泊する予定で出かけました。でも……帰ってこなかったんです。嫌な予感がして、何人かで、黒鉄宮の『生命の碑』を確認にいきました。そしたら…………グリセルダさんの名前に、横線が……死亡時刻は、リーダーが指輪を預かって上層に行った日の夜中、一時過ぎでした。死亡理由は……貫通属性ダメージ、です………カインズのスペルも同名の人を利用するためで、正しいスペルはCaynzです」

 

「なるほどそれであんな武器を……」

 

「……仮にもギルドのリーダーが圏外に出るとは思えないな。考えられるのは……睡眠PK、いやポータルPKだな」

 

「半年前なら、両方ともまだ手口が広まる直前だわ。確かにポータルPKによる殺傷の可能性が高いわね。ただあれは特定の標的を暗殺するための手口だったはずじゃ」

 

「それでギルド内で疑心暗鬼になったと……犯人の可能性があるのは、売却反対派の三人か?」

 

「はい、そのうち二人は私とカインズなんです。なので最後の一人であるシュミットがグリセルダさんを殺害したと考えて……彼は彼女の死後急に装備のレベルが上がったんです。指輪を売ったお金でステップアップしたと判断したことも根拠です」

 

「それで今回の事件で何らかの形で自供させようとしたと」

 

「……はい、そういうことです」

 

 なるほど、大まかな動機は理解できた。彼を殺したいだけなら他にも方法はあるからな。シュミットに罪悪感や《ギルティソーン》といった名前などで恐怖心を煽って真実を吐かせると……情報も攻略組に広く出回っているからな。シュミットは確か聖竜連合の隊長だったはずだ。

 

「一応念のために聞いておくのだけどグリムロックさんは……」

 

「彼は、グリセルダさんの旦那さんでした。いつもニコニコしてる優しい鍛冶屋さんで……二人とも、とってもお似合いの夫婦でした。」

 

「で、カインズは何をしているんだ?」

 

「彼はこの後私に同じトリックをする予定だったので外で待機しているんですが……呼びますね」

 

 会話を打ち切り彼女はウィンドウを操作して彼を呼び出す。そうしてカインズが合流した。

 

「本当にすいませんでした!」

 

「もう、理由はわかるけどね。詳しいことはまた今度話すわ。それで……」

 

「アスナ、今は彼らを行かせてあげよう。決着は今しかつけれないからな」

 

「私たちは……グリセルダさんのお墓に向かってもいいですか?」

 

「私たちがあなたを拘束する権利なんてないわよ」

 

「ただ事件を起こしたことについてはしっかりと反省してもらうからな」

 

「そうか…すまない。礼を言うよ、二人とも」

 

 こうして二人は彼女の墓がある19階層の主街区であるラーベルクの近くの丘へと向かっていった。

 

「にしてもシュミットが本当にグリセルダさんを殺したのか?」

 

「一応他のギルドメンバーも候補には入るけど状況的にシュミットさんじゃないかしら。他の人は違うらしいし」

 

「ただ俺はあの人が人を殺すとは思えないんだよな。義理に厚いところもあるしな……」

 

「二人ともすいません。遅れてしまいました」

 

 出ていった二人と入れ替わりのように遅れていたソウジが到着した。

 

「そんなに話が長引いたのか?まー確かにあの人少しめんど「キーリート!」ご、ごめんよ」

 

「シュミットさんに会いに聖竜連合の本拠地である56階層に行ってたんです。さっき顔色変えて出ていったと門番の人に教えてもらったので引き返してきました」

 

「な、お前どうしてシュミットのことを………」

 

「アルゴさんのお陰です。昨日から怪しいと思っていたので調査をお願いしてたんです。ギルトのことも大体把握しましたよ……その代わりめっちゃ取られましたけど

 

「な、……昨日からか。こりゃ敵わないな。流石《浅葱の剣聖》といったところだ」

 

「なんで教えてくれなかったのよ。情報の共有は朝に出来たじゃない!」

 

「ついさっき情報が入ったんですよ。仕方がないじゃないですか。……あと、その二つ名は私にはいささか荷が重いですね」

 

「そうなのか……まぁ、アスナ落ち着け。それにしてもソウジ、シュミットが人を殺すと思うか?」

 

「いえ、グリセルダさんを殺した犯人は恐らくk……ちょーっと待ってくださいね」

 

 誰かからメッセージが送られてきたのだろう。ソウジは口を閉じ内容を読んでいく。しかし、急に顔を険しくさせると俺たちに向かって声を上げる。

 

「二人とも急いだほうがいいみたいですね。ヨルコさんやカインズさん、シュミットさんが危ないです」

 

「な、どういうことだよ!殺し合いをするような人じゃないだろ」

 

「たった今アルゴさんから情報が入ってきました。グリセルダさんを殺した真犯人と殺人ギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》が一緒に動いています」

 

「な……!!」

 

「《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》、ですって」

 

「急ぎましょう!彼らの命が危険にさらされます。アスナはヒースクリフさんに連絡を!」

 

 

ー第19層にてー

 

 

 主街区・ラーベルグにある、十字の丘とよばれる寂れたフィールド。特定の人間しか知らないその場所に、「黄金林檎」のリーダーだった女性、グリセルダが眠る墓標がある。そして現在、その場所を三人の男女が囲んでいた。一人は重厚な鎧に身を包み、墓標に跪いている男性――かつては黄金林檎所属、現在は攻略ギルド聖竜連合所属のプレイヤー――シュミット。その向こうには、同じくかつての黄金林檎の元ギルメン――ヨルコとカインズが立っていた。ヨルコの左手には、音声を記録する録音結晶が握られている

 

「そう……だったのか……お前等、そこまでグリセルダのことを……」

 

 昔の仲間にして、つい最近起こった圏内殺人事件で殺害されたと目されるカインズが目の前に立つ理由を悟ったシュミットは、座ったままの状態で脱力した。

 

 かつての指輪事件で暗殺されたグリセルダの怨霊が、自分を狙っていると疑わなかったシュミットは、亡きグリセルダの墓標に懺悔をしに来ていた。そして、待ち伏せしていたヨルコとカインズが、かつてのグリセルダが纏っていたのと同型のローブを着て登場し、恐怖に駆られたシュミットから事件に関した自白を引き出したのだ。

 

「あんただって、同じだろ。指輪への執着はあっても、彼女への殺意まではなかった、それは本当なんだろう?」

 

「も、勿論だ!信じてくれ!」

 

 シュミットが自白したのは、指輪事件にてグリセルダが暗殺される前日、彼女が寝泊まりしている宿の部屋へ忍び込み、転移先を部屋の中へ設定した回廊結晶を起動して、ギルド共有ストレージに放り込んだというものだった。何者からの指示かは分からなかったが、報酬として指輪売却の上前の一部とのことだった。欲望の誘惑に負けてしまったシュミットは、短慮にもその指示に従ってしまったのだ。結果、自分は高額の報酬を得ることができたが、それと引き換えにグリセルダは命を奪われてしまったのだ。

 

「シュミット、本当にメモの差出人に心当たりはないんだな?」

 

「ああ、俺とカインズ、ヨルコにグリムロック、そしてグリセルダを除いた3人の内誰かだとは思うが……あれ以来一度も連絡は取ってないし……目星は付いてないのか?」

 

「他の3人も調べたけど、3人ともギルド解散後に同じ規模の中堅ギルドに入っていても、家を買ったり、装備を買った人はいなかった。いきなりステップアップしたのは貴方だけよ、シュミット」

 

 犯人に心当たりがない三人が推測を行う。他の三人もシュミットのように大金を手に入れた様子はない。いうことは、目的は金ではなかったということだろうか。だとするならばと話し合っていた時だった。

 

「えっ……?」

 

 そこまで考えたところで、シュミットの思考は途切れた。気づいたときにはシュミットの左肩にナイフが突き立てられていた。そして、それを確認すると同時に、体に力が一切入らなくなり突っ伏すこととなった。鎧の隙間を狙って投擲された《鎧通し》によるナイフの一撃。この場にいる誰にも気付かれずに近づいた。そして、身体が言う事を聞かないのは、ナイフに塗られた麻痺毒によるものだ。攻略組として高い防御力と状態異常耐性をもつシュミットに麻痺を浴びせるとなれば、その毒性は並みのものではない。そんなことを冷静に判断していると三人のもとへ歩み寄る、新たな影が現れた。

 

「ワーン、ダウーン」

 

 穴の空いた頭陀袋としか思えないマスクで顔を隠しており、子供っぽい言動が目立つ男。更に

 

「デザインは、まあまあ、だな。俺の、コレクションに、加えて、やろう」

 

 途切れ途切れで歯切れの悪い言葉で喋る髑髏のお面に血のような怪しく輝く赤い目男。そして

 

「Wow……確かにこいつはでっかい獲物だ。聖竜連合の幹部様じゃないか」

 

 森を包む靄の向こうから現れる、三人目の影。ほぼ全身を包む黒いポンチョに目深に伏せられたフード。そして、右手には魔剣クラスのドロップ品である《友切包丁》が握られている。

 

 彼らの服には死の代名詞たる狂気的な漆黒の笑みのエンブレムが垣間見えた。

 

「まさか………《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》か!」

 

 

 

 

 

 

 





改めてこの作品を読むと10年以上前から続いてる作品ってことに驚きます。

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