原神ヤンデレ短編集   作:バーバラ親衛隊第12号

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初めまして


グンヒルド①

「俺さ、騎士になりたいんだよ」

 

 とある年の夏。少年は、幼馴染である少女にそう告げた。

 正義感が強く、剣の才もあり、尚且つ神の眼も所有している。厳しい訓練を厭わず、その向上心たるやモンド一とも呼び声高い。

 正しく騎士団も喉から手が出るほど欲しがる逸材であり、少女もまた、彼と同じく騎士として並び立つことを。いつの日か、モンドを危機から守り抜くことを願っていた。

 

「お前も騎士志望だっけか。一緒に頑張ろうな」

 

 そう告げると再び少年は立ち上がり、手に持つ木剣を振るう。鋭く空気を切り裂き振り抜かれるソレに少女は目を奪われ、また、自身も彼と同じ領域にたどり着いて見せるのだ、と。強く決意し、再び木剣を握る。

 が、しかし。人間、如何に気合を入れようととも、物理的に体力が切れてしまえばどうしようもない。ふらつく彼女だが、再度剣を握りしめた。

 

「無理はやめとけよ? 手の皮が捲れでもしたら大変だからな」

 

 が、少年の次の言葉で、少女は握った剣を手から離した。

 思わず自分の手を見つめてみれば、すでに赤く変色しており、所々いつ捲れてもおかしくないような部分もある。

 少女は赤面した。尤も、その理由は手の痛みに気づかない自身の未熟さゆえではなく、自身の手を注視して、身を案じ忠告してくれた少年の心遣いが理由であるのだが。

 

「……んー、よし。今日はここら辺で終わっとくか!」

 

 いいのか、と。少女は少年にそう尋ねた。

 少年の振りを見る限りまだまだ余力はあるように思えるし、門限を破るほど時間が遅いわけでもない。

 互いにそれなりの身分を持つ身として、剣ばかりに没頭してもいられない日々。こうした休日ぐらいにしか、思う存分それを振るうことは許されない。

 

「いいんだよ。お前一人で帰らせるわけにもいかないしな」

 

 自由の国・モンド。夜間も西風騎士が見回りを行っていることもあり、郊外にさえ出なければ基本的に治安は保たれている。

 が、常日頃から酒飲み、酔っ払いで溢れている、という欠点がある。それ故に多少なりとも喧嘩等は発生し、それに巻き込まれ幼年の者が怪我を負う、という事態も、少なからず起こってしまっている。

 

 それ故のこの提案。少女は、少年が自分の身を案じてくれていることに嬉しさを感じ少し頬を赤く染めながら、その提案を受け入れた。

 

 そうして、数年後。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……良いのか、ジン。相手が俺で」

「ああ。というよりも、むしろ君以外との婚姻など、とてもではないが考えられない」

「随分と往生際が悪いじゃないか、我らが次期団長様は。乙女の一世一代の告白なんだ、スパッと返事をしてやると良い」

「……どこから入り込んだんだガイア!?」

 

 ガイアの背中をグイグイと押して、部屋から追い出すジン。焚き付けることだけが目的だったガイアはそれに抵抗することもなく、むしろこれ以上は邪魔になるとばかりに自ら進んで歩を進めていた。

 グンヒルド家の傑作であり、現在騎士団代理団長を務めるジン。大団長ファルカの愛弟子であり、その実力は彼と競るとまで言われる、次期団長候補の男。

 

 実際、家から見た場合、彼らの婚姻を拒む理由はどこにもない。惜しむらくは妊娠の都合上ジンが戦列を離れざるを得ないところだろうが、その時には遠征に出かけたファルカ率いる大戦力が帰還している頃。数年経てば、ジンも騎士として復帰するであろうことから、そう悲観する必要もない。

 そして、本人たちも。

 

「はぁ……わかった。宜しく頼む、ジン」

「……い、いいのか? 改めて、私は仏頂面で、女らしいこともできず、家事の能力などお前にも劣る───」

「いいや」

 

 男は、強い口調でジンの言葉を制止する。

 

「俺は、お前がいい」

「───」

「一人の男として、お前を愛している。どうか、俺と結婚してくれ、ジン」

「───ああ、喜んで!」

 

 外から二人の会話を聞いていたのか。まずはクレーが突撃し二人にまとめて抱きつき、後ろから拍手をするガイアとアルベド、ニヤニヤ笑うリサ、感極まって涙を流すアンバーが次々と入室してくる。

 知らず知らずのうちに大きな声を出していたことを今更自覚した二人は一瞬顔を見合わせ、次の瞬間、二人揃って顔を真っ赤にした。

 

「……今日は帰るぞ、クレー。どうやらこの二人には暫く、二人だけの時間が必要なようだ」

「うん! お祝いにドッカーン! ってしてあげるから、また明日会おうね、二人とも!」

「…………」

 

 普段であれば鬼の形相になりクレーを止めるのだろうが。生憎、今のジンにそんな余裕はない。

 ニヤニヤ笑うガイアに手を引かれて退出するクレーに、曖昧な表情で手を振り返した。

 

「おめでとう、二人とも。何か気の利いたプレゼントでも用意できれば良かったんだけど……」

「いいや、祝いの言葉だけで十分だ」

「すまないね。また後日、何か贈らせてもらうよ」

 

 先に起動した男がアルベドとにこやかに会話を済ませ、彼も部屋から退出していく。

 

「うううう! おめでとう! 私、君が一生結婚できないんじゃないかって心配で心配で……!」

「ナチュラルに失礼だなお前」

「お姉さんも心配だったのよ? 西風騎士団の次期団長は堅物だ、って、噂が広がってたもの。尤も、杞憂だったみたいだけれど」

「リサもか……」

 

 軽い挨拶を交わしたのち、二人は退出した。結局のところ皆彼らを心から祝福したいと言う意志を持ち合わせており、それを遂行するには二人だけの時間を作ってあげるのが最適だと判断したが故の行動である。

 そもそも部屋に入ってくるな、と言うのが正論ではあるが、それはそれ。西風騎士団の絆、とでも言うべきであろうか。

 

「ジン」

「?」

「これから、よろしく頼む」

 

 男から向けられた言葉に、ジンは一瞬きょとんと呆けた顔を晒し。しかし、直ぐにその表情を一変させ。

 

「ああ!」

 

 この場限りでは、ただ一人の女性として、喜びを全面に表現するように。朗らかに、満面の笑顔でそういった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変! 早くバーバラのところに運んで!!」

 

 アビスの詠唱者。強力な力を持ち、並の騎士では傷を与えることすら叶わない。神の目を持ったとて、先頭に明るくなければ一体と互角に戦えるかどうか。極めて強力な力を持つ彼らを複数同時に相手取れば、いくらモンド最強格といえど無事ではいられない。

 氷の元素力に晒されたのか、重度の霜焼けのような状態にある皮膚を見たシスターは、運んできた騎士にバーバラの元へと向かうよう指示を飛ばす。

 

「───!?」

「バーバラさん、どうか、団長を……!」

「……任せておいて。私が絶対に治してみせるから!」

 

 仲の良い男の悲惨な有様を見れば、動揺してしまうのが常であろう。悲痛な表情を浮かべたバーバラに同情的な視線を向ける騎士。

 バーバラが行う治療は水の元素力を用いてのもの。通常の施術であればいざ知らず、元素力に明るくない騎士がいたとて、邪魔にこそなれど力になることはありえない。

 

 敬愛する団長を他者の手に委ねることしかできない自信に歯痒さを覚えつつも、バーバラの力強い言葉に多少なりとも安心感を持ち、部屋から退出した。

 

「ジン副団長!」

「彼は!? 彼は無事なのか!?」

「……素人の私の目では判断しかねます。ですが、バーバラ様に」

「……バーバラ様?」

「バーバラさんにお預けした為、次には元気な姿で再会できるものかと思われます!」

「───そうか、良かった」

 

 ジンは、安堵からか体の力が抜け、思わずへたり込み、気を失う。

 女性の身体を、ましてや人妻の体を勝手に触るわけにもいかず、騎士はオロオロとその場で挙動不審な動きを繰り返す。そのうちシスターが駆け寄りジンを長椅子に寝かせた。本来であれば風神様の前でこのような姿を晒すなど不敬も良いところであるが、モンドを守るために日々奔走する彼女。偶には、許されるだろう、と。

 安堵の笑みを浮かべて眠るジンのさらさらした金髪を優しく撫でながら、シスターは一人、微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───翌日。男の死亡報告が、泣きじゃくるバーバラから大衆に伝えられた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガイア臨時団長! ヒルチャール集落一つ、掃討の任務が完了致しました!」

「ああ、お疲れ。この後は確か休暇だったか。酒でも飲み、ゆっくり休むといい」

「───しかし、ガイア臨時団長は」

「まぁ、如何に俺たちがジンとアイツに依存していたか、ということだな」

 

 苦笑するガイアの片目には隈が見られ、明らかに疲労の色は隠せていない。それもそのはず。臨時団長の任に置かれた彼は今までジンや男が捌いていた書類を一手に引き受けている状態なのだから。

 時折リサやアルベドが手伝いをしているが、それでも到底追いつく量ではない。必然、彼自身が休暇を削る必要があった。

 

「…………」

「そんな顔をするな……いや、そこまで驚かれると困るんだが。俺は意外と、やる時はやるタイプなんだぜ?」

 

 ガイアが肩をすくめるが、どうやら騎士の視線は外にあるようで。正直一時たりとも無駄にするのは惜しいが、席を立ち上がり様子を確認する。

 次の瞬間。ガイアが目の前の騎士のように固まってしまうのもまた、仕方のないことなのだろう。

 

「───ジン」

「すまない、迷惑をかけたな、ガイア」

「……大丈夫なのか?」

「ああ。いつまでもウジウジしていては、アイツに愛想を尽かされてしまうだろう?」

 

 笑うジンの表情が完全に晴れているとは言い難いが、それでも一時の悲壮感あふれるそれと比べれば雲泥の差。

 騎士には休暇を楽しむよう告げ、固まるガイアに、ジンはさらに続ける。

 

「───声が、聞こえたんだ」

「声?」

「おかしな話だろう? 死人に口なし、死んだアイツの声が再度聞こえるはずがないのに。風に乗せて、アイツの声が聞こえたんだ」

「…………」

「俺の代わりにモンドを任せた、とな。全く、愛した女に伝える言葉がこれとは、風情に欠ける」

「───だが、どこかアイツらしい」

「それもそうだな。さて、ガイア。喋っている暇はない。書類を片付けるぞ」

「待ってくれ。俺は少し仮眠を」

「ガイア?」

「───やれやれ、全く。団長様は人遣いが荒いな」

 

 諦めたような。しかしどこか嬉しさを滲ませた表情で席に座るガイアを他所に、ジンは棚の上に一つの写真を置いた。それには、腕を組む二人の男女が写されている

 普段は仏頂面であることが多い二人だが、この時ばかりは二人とも、カメラに満面の笑みを向けていた。写真を愛おしそうに一撫でしたジンは、その前に蒲公英の花を一輪添える。

 

「お前が。私が。私たちが愛したモンドは。必ず、守り切ってみせる」

 

 復帰して早々、最初に握るのが剣ではなくペンなのが締まらないところではあるが。そう強く決意し、ジンは、目の前の書類に取り掛かった。




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