閃乱カグラ -芽生えの少女-   作:影山ザウルス

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日影と仲間

「春花さんが何で!?」

 

陽は春花が現れた理由もわからず、春花から恥ずかしそうに視線を反らした。胸には大きなひし形の"窓"があり、今にもはち切れそうな肉体をこれ見よがしに強調している。陽だって健全な男子高校生だ。そんな格好の知り合いを見たら恥ずかしくなってしまう。

 

「あらあら、照れちゃって可愛い♪」

 

下忍の一人が春花に襲い掛かった。しかし、春花が下忍に指を差すと頭上の腕が生えたボールが下忍を殴り飛ばした。殴り飛ばされた下忍はそのまま数人の下忍を巻き添えにして、倉庫の壁に体を打ち付けた。

 

「日影ちゃん、ここは私"達"に任せて、早く行きなさい!!」

 

「頼んだで、春花さん」

 

日影は陽を肩に抱えて、海で小屋から脱出した時と同じ体制になった。

 

「ひ、日影さん!?何を!?」

 

「あんたがいると春花さんの邪魔になるんや。ほな、行くで」

 

日影は凄まじい跳躍で春花が現れた屋根の穴から倉庫を出た。陽の悲鳴が遠ざかる。

 

「さあて、そろそろ出てきていいわよ」

 

物陰から裸同然の男達が四つん這いになって現れた。猿轡や革の首輪や目隠しをして、人間としての尊厳は奪われている。しかし、彼らは現状に満足し、悦に浸っている。

 

「貴方達の学校のオトモダチのためにヤっちゃいなさ~い。頑張ったらご褒美よ~♪」

 

彼らはかつて日影を口説きに失敗して、陽をボコボコにしたら日影に返り討ちにさせられた不良達だ。

 

「「「かしこまりました~!!!!春花様~!!!!」」」

 

春花の可愛い人形と成り果てたかつての不良達は一斉に下忍に襲い掛かった。

 

「さあ、お仕置きの時間よ」

 

豊満な胸を下から持ち上げるように腕を組み、余裕の笑みを浮かべる。

 

 

 

 

日影の肩に乗ったまま、陽は放心状態だった。

 

「どないしたんや?」

 

「いやだって、知っている人が二人も忍だなんて……」

 

「二人やないで?」

 

「え?」

 

日影は陽を肩に抱えたまま夜の町を駆け抜けた。建物の屋根から屋根へ跳躍し、最短経路で蛇総合病院に向かったであろう狐面の忍を追った。陽を抱えている分、遅くなるように思うが、日影にとって他人一人抱えているぐらい問題無い。むしろ、テキトーな場所に置き去りにする方が危険だった。

日影の肩の上で揺られながら周囲を見渡した。町の明かりを眼下に、凄まじい勢いで通りすぎていく。その中に黒い点が見えた。違和感を感じた時は何かの見間違いと思っていたが、その黒い点は瞬く間に増殖して一つの群、否、一つの軍を成して日影達を追い掛けてきた。

 

「ひ、日影さん……なんか、追い掛けてきた……」

 

軍の正体は小型犬程度から大型犬程度の大小様々な大きさの蜘蛛の一群だった。その数は百を超えている。それらが日影達に追い付かんばかりの速度で追い掛けてくる。

 

「蜘蛛!!デッカイ蜘蛛!!」

 

「落ち着きぃな」

 

「でも、もう!!後ろ!!後ろ!!」

 

蜘蛛の軍団は最早日影達の目と鼻の先にまで接近していた。

 

「ヴァルキューレ!!!!」

 

叫び声と共に蜘蛛の軍団の最前列で爆発が起きた。陽は体を捻って進行方向に視線を向けた。その先にゴスロリな服装をした左目に眼帯の少女が巨大な機関銃に股がっている。

 

「行って、日影!!」

 

「頼んだで、未来さん」

 

日影達は未来の横を駆け抜けた。

 

「未来さんまで!?大丈夫なんですか!?」

 

「未来さんはああ見えて強いで。蜘蛛ぐらいどうてことない。それより、見えたで」

 

日影の視線の先には狐面の忍が病院に向かって走っている。既に日影の射程圏内に捉えている。

陽は前を日影に任せて、遠ざかる未来の後ろ姿を見つめる。

 

「蜂の巣にしてやるわ!!」

 

未来は持っていた傘をガトリングに持ち変えて、蜘蛛の軍団に銃口を向けた。しかし、蜘蛛の軍団は見事なほど綺麗に未来を避けて日影を追った。あまりの統率が取れた動きに呆気に取られた未来が動いたのは蜘蛛が通り過ぎた後だ。

 

「ちょっ!?アタシを無視するなぁぁぁ!!!!」

 

持っているガトリングの他にスカートの中から同様のガトリングが4丁現れ、計5丁のガトリングで蜘蛛の軍団を後ろから蜂の巣にした。

突然、蜘蛛の軍団の動きが止まり、一斉に振り向いて標的を日影から未来に変えた。蜘蛛が自分に意識を向けたことに少し嬉しさを覚えるも、思いの外の多さに顔が青ざめた。

 

「ちょっ……これ……多すぎるわよぉぉぉぉ!!!!」

 

蜘蛛の軍団が津波のように押し寄せた。

 

 

 

 

日影が狐面の忍の背後にまで迫っていた。時間稼ぎのための下忍と蜘蛛の軍団を用意していた上に、人一人抱えている状態でも自分に追い付かれたことに相当苛立ちを募らせているようだ。

蛇総合病院が視界に入っていた。もうすぐ到着する。しかし、その手前に金髪の少女が立っていた。ただの少女ならば通り過ぎたのだが、ふわふわなメイド服のような格好に、背丈ほどはあろう大剣を担いだ少女だ。少女が両腕に取り付けた小型大砲と手裏剣発射機を狐面の忍に向けると、何の警告も無しに砲撃してきた。突然の攻撃に狐面の忍も驚いたが、手裏剣を太刀で弾き、砲撃を避けた。しかし、全ては避けきれず、手裏剣が肩や脚を掠めていた。

 

「もやしを笑う者はもやしに泣くと言います。ここから先は通しませんわ」

 

金髪の少女は大剣を狐面の忍に向けた。

 

「詠さん、もやしは関係あらへんとちゃう?」

 

少し呆れた様子の日影が陽を担いで現れた。狐面の忍にようやく追い付いた。

 

「何を言いますか!!もやしは栄養満点!!食べて良し、見て良し、安くて家計に優しいお野菜なんですよ!!」

 

詠が一瞬狐面の忍から目を離した瞬間を狐面の忍は見逃さなかった。

 

「もやし、もやしってうるさいのよ!!」

 

狐面の忍がコンクリートの屋根に手を叩きつけると、屋根に黒い穴が広がった。得体の知れない物に詠も日影も狐面の忍から距離を取った。

その直後、黒い穴から全身が岩石でできた巨大な化物が二体現れた。狐面の忍は現れた化物の肩に乗っている。

 

「この妖魔はさっきの下忍や蜘蛛の軍団、海の化け蜘蛛、化け蟹とは訳が違うわよ!!」

 

岩石の巨兵が巨体に似合わない素早い動きで日影と詠に襲い掛かった。日影は陽を担いだまま攻撃を避け、詠も大剣を担いで攻撃を避けた。その隙に狐面の忍は蛇総合病院に向かった。肩と脚にケガを負っているせいか先程より速度は遅い。だが、岩石の巨兵にいつまでも手間取っていれば日向に危険が迫る。

 

「秘伝忍法・ニヴルヘイム!!」

 

詠が両腕の小型大砲と手裏剣発射機から連続砲撃を岩石の巨兵に加え、爆弾まで投げつけた。岩石の巨兵は猛烈な砲撃と爆撃に耐えられず、倒れた。

 

「日影さん、今です!!」

 

詠は大剣を持ち、後方下段に構えると視線を狐面の忍に向けた。

 

「頼んだで、詠さん」

 

日影は陽を担いだまま、詠が構える大剣の上に飛び乗った。

 

「え?嘘でしょ?」

 

「口閉めんと、舌噛むで?」

 

陽は嫌な予感しかしなかった。他の方法を提案しようと思った時には既に遅い。

 

「行きますわよ!!えぇい!!!!」

 

「嘘でしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!???」

 

詠は日影達が乗った大剣を前方に振り下ろし、日影達を投げ飛ばした。恐怖で酷い顔をした陽を見送ると振り向いて倒れていた岩石の巨兵に視線を向けた。岩石の巨兵はまだ十分動ける状態のようだ。

 

「さて、持たざる者の強さ、見せて差し上げますわ!!」

 

 

 

 

日影達は狐面の忍の頭上を飛び越して、そのまま蛇総合病院に直行した。しかも、詠の正確な狙いのお陰で着地地点は日向の病室だった。日影は数本の小型ナイフを病室の窓に投擲して、脆くなった窓を蹴り破って中に飛び込んだ。

 

「日向!!」

 

「グエッ」

 

担いでいた陽を乱暴に床に落とし、病室を見渡した。病室には未来が引き受けてくれた蜘蛛の死骸が散乱して、その中に日向が立っていた。

 

「日影?どないしたん?」

 

日向は病衣に毒々しい返り血を浴び、手に持っているカッターを役目を終えたように投げ捨てた。

 

「よかった……間に合ったんやね……」

 

「なんやいきなり、治療は中止や言われてな……襲ってきたから、看護婦さん返り討ちにしたったわ」

 

病室のベッドの上にお尻を突き出すように気絶している看護師がいた。

 

「一体何が……」

 

突然、日向の脚がふらつき、すかさず日影が受け止めた。

 

「日向!?」

 

「だ、大丈夫……めまいしただけや……それより、そっちの男子、誰や?」

 

「ああ……クラスメートや」

 

雑な紹介に苦笑いを隠せないが、今はそれどころじゃない。陽も日向に肩を貸して、立ち上がらせた。

 

「説明は全部後回しにしましょ!!早く逃げないと!!」

 

「せやな」

 

二人は日向を連れて病室を出た。

この騒ぎで他の患者も起きていそうだったが、病院の中は深夜の病棟のように静まり返って、耳が痛い。

 

「そこまでだ、裏切り者!!」

 

病室を出てすぐのフロアに狐面の忍が現れた。

 

「貴様に先を越されるとは想定外だった。だが、ここまでだ!!貴様ら三人と、邪魔者三人!!生きて朝日を見れると思うなよ!!」

 

狐面の忍が指を鳴らすと、フロア中の病室の扉が開き、中で寝ているはずの患者が現れた。しかし、様子がおかしい。全身、血を浴びたように赤く、黄色い不気味な眼光を放っている。

 

「ここはな、病院に見せ掛けた妖魔の製造工場だ!!」

 

「なんやて?」

 

「その日向も、鈴木家の新薬が入れば、より完成度の高い妖魔として生まれ変わるはずだった……だが、もう許さない。道元様を裏切った罪!!貴女方の命であがなわせてやる!!」

 

患者達が一斉に蜘蛛や蟹に変身して、三人に襲い掛かった。

 

「秘伝忍法・魁ぇ!!!!!」

 

三人に襲い掛かった化物達が次々と斬られていく。数秒後。日影達と出遅れたことで生き残った化物達と狐面の忍の間に、両手に三本ずつの刀を持った少女が立っていた。腰まであろうポニーテールと黒いセーラー服を着た日焼けした少女だ。

 

「私を忘れてもらっちゃ困るな……」

 

「ほ、焔さんまで!?」

 

現れたのは焔だけではなかった。それぞれの場所で、それぞれの敵を殲滅して駆け付けた春花、未来、詠の三人も現れた。

 

「き、貴様ら…………一体何者だ!?」

 

焔は三本の刀を狐面の忍に向けた。

 

「焔!!」

 

詠は大剣を狐面の忍に向けた。

 

「詠!!」

 

未来はガトリングを傘に変えて、狐面の忍に向けた。

 

「未来!!」

 

春花は腕が生えた球体の機械に腰を下ろして、優雅に座ると視線を狐面の忍に向けた。

 

「春花!!」

 

日影はナイフを空中に投げ、数歩歩いた先でナイフを掴み、その切っ先を狐面の忍に向けた。

 

「日影!!」

 

「「「「「我等、焔紅蓮隊!!いざ、悪の定めに舞い殉じる!!!!!」」」」」

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