「焔紅蓮隊……だと?焔紅蓮隊だと!?ふざけるな!!よくも……よくも道元様の邪魔をしてくれたな!!全員生きて帰れると思うな!!」
病院中の病室という病室から妖魔化した患者達が現れた。既に日向以外の患者達は妖魔化されていたようだ。
「道元様は妖魔の力で以て、世界を支配される御方!!その野望を邪魔させない!!殺れ!!」
狐面の忍の号令で妖魔達が紅蓮隊に襲い掛かった。
「相手は既に妖魔化した人間だ!!容赦無く斬り刻む!!」
紅蓮隊の面々は各々の武器を扱い、次々と妖魔達を撃退した。焔は六刀を駆使して、次々と妖魔を斬り捨てる。詠は大剣で妖魔を両断し、両腕に装備した小型大砲と手裏剣発射機を連射した。未来はガトリングを乱射して蜂の巣にした。春花は頭上の機械に命令を出して妖魔達を蹴散らした。そして、日影はナイフで妖魔を切り刻んだ。これには狐面の忍も驚きを隠せなかった。
「ふざけるな……たった五人に……こんなことがあってたまるか!!」
「ぬるい……ぬるいぞ!!もっと私を燃え上がらせる敵はいないのか!?」
「こんなことでは腹ごなしの運動にもなりませんわ」
「アタシを無視するからこうなるのよ、バァカ!!」
「こんなんじゃ、実験材料にもならないわ」
「これで、終いや」
日影が最後の妖魔を脳天から串刺しにして、抜き取ったナイフから血を振り払った。
「もう容赦も手加減も出し惜しみも無しだ!!」
狐面の忍が懐から小瓶を取り出した。小瓶の中には丸々と太った赤黒い芋虫が入っている。海でMURASAMEの二人のビールに混入した妖魔と同じ物だが、狐面の忍が持つ物の方が何倍も強力な妖魔だ。この妖魔を体に取り込むことによって、妖魔の力を得ることができるのだ。
狐面の忍は小瓶の妖魔を丸呑みした。もちろん、すんなり呑み込めるはずがなく、妖魔が呑まれまいと口の中で暴れ、呑み込まれた後も喉や腹の中で暴れている。やがて、体内の妖魔が落ち着くと狐面の忍に異変が起きた。爆発のような鼓動。滲み出る禍々しい空気。
「ハァ……ハァ……これが妖魔の力か……素晴らしい……素晴らしいです!!道元様ぁぁぁぁぁ!!!!」
狐面の忍が太刀を構え、物凄い勢いで日影に迫った。日影は先程の大量の妖魔との戦闘からずっと日向と陽を守りながら戦っていた。そのため今も日影の後ろには病人の日向と、足手まといの陽がいる。日影だけなら攻撃を避けることもできるのだが、二人がいてそれもままならない。
「制裁ィィィィィィィィ!!!!!!!」
狐面の忍が太刀を振り下ろした。しかし、焔と詠が日影の目の前に現れ、六本の刀と大剣で狐面の忍の太刀を受け止めた。続いて、未来のガトリングの射撃と春花の機械の打撃で吹き飛ばされた。
「こっちは最初から手加減も出し惜しみも無しだ。やっと面白くなってきたな!!」
「もやしを侮る貴女には私達は必ず勝ちます!!」
「アタシ達を無視したらどうなるか教えてやるわ!!」
「日影ちゃん、ここは私達に任せて貴女の決着を付けてきなさい!!」
日影達を守るように紅蓮隊の四人が狐面の忍と対峙する。
「……わかった。頼んだで、みんな」
日影はその場を他の紅蓮隊に任せ、道元がいる医院長室に向かって走り出した。
日向は病人と言えど、少なくとも自分の身を守ることは出来るだろう。しかし、陽はこの場にいるのがおかしい人間だ。自分の身も自分の力では守れない脆弱な一般人だ。だから、勝手に動く危険性を一番理解している。しかし、陽は何故か日影の後を追って走り出した。いや、理由はわかっている。決して日影に加勢出来るような立場ではない。追えばきっと足手まといになる。だが、陽にはこの"決着"を見届ける責務があると感じた。だから、陽は日影の後を追った。紅蓮隊も日向もそんな陽を止めることはしなかった。
狐面の忍が道元を信仰し、人間でいることを捨ててまで道元に忠誠を誓うのは、かつて道元に救われた過去があるからだ。道元にとっては、狐面の忍もただの実験材料や駒の一つとしてしか見ていなかったかも知れない。だが、彼女にとっては恩人であり、忠誠に値する主人である。だから、日影が現れたことに嫉妬した事実もある。何より、信頼し忠誠を誓った道元に対する裏切りはどう転がっても許しようのない事態だ。
「だから、私は日影から全て奪ってやる!!そのためなら人間であることだって止める!!それが私の忍の道だ!!」
狐面の忍が再び襲い掛かった。未来がガトリングで牽制するが、狐面の忍はフロアを縦横無尽に走り回り、避けきれない僅かな弾丸は太刀で弾いた。妖魔の力を得たことで身体能力が格段に上昇している。中距離戦闘に向いているガトリングでは狐面の忍の相手は不向きだ。
「面白い!!だが、他人が引いた忍の道で私達に勝てると思うなよ!!」
焔と詠が迫り来る狐面の忍に立ち向かった。未来と春花は後方からの支援。
焔は六刀を駆使して連撃を浴びせ、その背後から詠が飛び出すと強烈な斬撃を叩き付けた。狐面の忍にはそれらを太刀で捌かれたが、反撃には至らない。未来がガトリングで牽制したからだ。続いて、春花の機械が殴りかかる。狐面の忍はたまらず腕でその攻撃を防御してしまった。小枝が折れるような音がして、そのまま狐面の忍は病院を縦に貫いている吹き抜けのエントランスまで吹き飛ばされた。
「皆、追うぞ!!」
焔に続いて、全員がエントランスに飛び降りた。
エントランスには春花の攻撃で狐面を割られた狐面の忍が立っていた。割れた面の端から素顔を見え、腕は骨折しているようで、両腕が力無く垂れている。
「まるで、勝ち誇ったような顔をしているな……」
現れた紅蓮隊は狐面の忍の様子を見て、戦闘出来るような状態ではないと判断していた。しかし、狐面の忍は未だに戦意を失わずに笑みを浮かべている。
「追い詰めたつもりかも知れないが、追い詰められたのは貴様らだ!!」
折れた腕で狐面を剥いだ。その下には過去に受けたであろう火傷の跡が顔を覆っていた。
「見よ!!これが妖魔の真の力だぁぁぁ!!!!」
折れた両腕が瞬時に治癒し、右腕は右手に持っている太刀と一体化した。左腕は黄金色の体毛に覆われた獣の腕になった。全身も左腕同様の黄金色の体毛に覆われ、口先が尖り、歯は牙になった。腰の辺りからは尾も生えて、その姿は二足歩行する狐だ。変わったのは姿だけではない。滲み出る禍々しい空気が濃さと"鋭さ"を増した。
「かつて、私は金色狐と呼ばれていた……だが、今は違う!!
我が名は金色妖狐!!
闇夜に舞い駆ける!!」
金色妖狐が四人に襲い掛かった。しかも、先程の何倍も速い速度だ。エントランスを縦横無尽に走り回り、腕と同化した太刀と鋭い爪を四人に浴びせた。
「くっ……速い……!!」
「皆!!背中を合わせるわよ!!」
春花の提案で四人は四方向を向いて、互いに背中を合わせた。これでどの方位からの攻撃にも対応出来るようになった。しかし、身動きが取れず、反撃が出来ない。詠の手裏剣発射機と未来のガトリングが金色妖狐を追うが、追い付かない。目の前に現れたと思えば消え、攻撃を受ける度に服が少しずつ破けていく。
「ハハハハハ!!!!さっきまでの威勢はどうした!?」
金色妖狐が四人の周囲を走った。あまりの速さに金色妖狐の姿が複数に見える。
「喰らいなさい!!」
詠が残り僅かな手裏剣を全て発射した。しかし、その全てが弾かれてしまう。
「ハハハハハ!!!!無駄よ!!そんなもの私には当たらないわ!!今度は貴女達が終わる番よ!!」
金色妖狐が四人に襲い掛かる様子はまるで、分身が全方位から襲い掛かるようだ。
しかし、突然頭上から銀色に煌めく雨が金色妖狐に向かって降り注いだ。突然の攻撃に金色妖狐の対処が遅れ、降り注いだ銀色の雨が身体中に刺さった。雨の正体は何十本ものメス。それを投擲したのは日向だった。
「あとは任せたで」
金色妖狐の動きが止まり、意識がほんの一瞬、頭上の日向に向けられた瞬間を四人は見逃さなかった。
「「「「秘伝忍法!!!!」」」」
「魁!!」
火炎を帯びた焔の六刀が金色妖狐を斬り刻んだ。
「シグムンド!!」
詠の大剣がさらに巨大化して金色妖狐に叩き付けた。
「ヴァルキューレ!!」
未来のスカートの下から巨大な機関銃が現れ、金色妖狐の四肢を吹き飛ばした。
「ハートバイブレーション!!」
春花の頭上の機械が警告音を放ちながら、金色妖狐に抱き付き、彼女を巻き添えにして爆発した。
爆煙が晴れると金色妖狐が元の人間の姿に戻っていた。体内の妖魔が四人の秘伝忍法に対応しようとしたが、対応しきれずに妖魔の力を失ってしまったのだ。狐面の忍は辛うじてまだ生きているが、満身創痍だ。今度こそ戦う力は残っていない。
「へ……へへ…………へへへへ……ハハハ……ハハハ!!アッハハハハ!!こんな!!こんなことが……クククッ……アッハハハハハハハ!!」
狐面の忍が笑う。体を数ミリでも動かせば激痛が走り、体の一部が崩れ落ちる状態の体で笑っている。そして、静かに呼吸を整え、仰向けに倒れた。
「お役に立てず申し訳ありません、道元様……」
狐面の忍は奥歯に仕込んでいた毒薬で自害した。