閃乱カグラ -芽生えの少女-   作:影山ザウルス

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日影と決着 中編

下の方から爆発音が聞こえてきた。どうやら下の決着は付いたようだ。結果は見なくてもわかる。それだけ仲間の実力を知っている。相手が妖魔の力を駆使しようと四人は勝っている。

だから、日影は目の前にいつもと変わらない様子で椅子に深々とふてぶてしく座る道元との決着に専念出来る。

 

「裏切りか……面白いことをしてくれるな」

 

「おもろいかどうかは知らんけど、あんたにはこれでも感謝しとるんや。ワシに"怒り"っちゅう感情を教えてくれたからな」

 

「感情か……つまらん女になったな」

 

日影はナイフの切っ先を道元に歩み寄った。

 

「純粋に、無慈悲に、無感情に忍務を遂行していたからこそ、お前は強かったのだ」

 

「そうかも知れん。せやけど、感情があったから出来ることもあるで」

 

「ほう?例えば?」

 

「あんたを自分の意志で殺すとか」

 

日影は一気に道元との間合いを詰めた。しかし、ナイフは道元の首に刺さる寸前で止まった。

今まで日影はこの医院長室で道元を間近で見ることは無かった。だから、そこに座っているものが道元だと思っていた。しかし、そこにあったのは精巧に造られた人形だった。

今まで自分は人形と会話をしていたのかと思考を巡らせた。だが、日影には確かに道元の気配、存在感を感じていた。今も確かに感じている。日影は全方位に意識を向けた瞬間、背後に殺気を感じた。

日影は背後からの殺気に気付いたが、避けることが出来ず、咄嗟に体の右側を防御した。直後、強烈な力で殴り飛ばされた。日影はそのまま医院長室の壁に体を打ち付けた。

 

「さすがは日影。今の攻撃をよく防御したな」

 

日影は視線を声のほうに向けた。視線の先には身長2メートルはあろう大男が立っている。灰色の肌。常人の何倍も膨張した筋肉。瞳が血のような紅い眼光を放つ妖魔化した道元だ。しかも、これまで倒してきた妖魔化した人間とは違い、体内で妖魔が無理矢理人体に作用している雰囲気ではない。

 

「長年妖魔の研究をしてきた中で、ようやくここまで妖魔との融合が可能になったのだ。どうだ?素晴らしいだろ?だが、まだ完成とは言えない。私以外では上手く適合せず廃人化してしまう。そこで、例の新薬で人体を活性化し、妖魔との同調を……」

 

小型ナイフが道元目掛けて飛んできた。ナイフは寸分の狂いも無く、道元の口に飛び込んだ。しかし、道元がナイフを歯で受け止め、そのまま噛み砕いた。

 

「人が話している所にナイフを投げ込むとはな」

 

日影は立ち上がり、口に滲んだ血を吐き出して、手首で口を拭った。

 

「あんたの話はようわからん」

 

「そうか?なら、簡単に言おう。この忍務終了後、日向とお前を完成度の高い妖魔衆として一生私のモノとして使い潰すのだ!!」

 

道元が両拳を床に叩きつけると、衝撃波が日影に向かって一直線に走った。

日影は衝撃波の直撃寸前に避けた。衝撃波が壁に到達すると、壁に亀裂が走った。凄まじい破壊力ではあったが、その威力に見向きもせず、日影は道元に向けて三本の小型ナイフを投擲した。一本は頭。一本は脚。最後の一本は心臓を狙った。狙いこそ正確だが、道元が巨大な腕で振り回すとその風圧でナイフの勢いが殺された。

日影は舌打ちをして、道元との間合いを詰めた。道元が巨大な腕を振り回して攻撃してくるが、日影は道元の股を潜り抜け、背後に回るとナイフで背中を切りつけた。しかし、強靭な筋肉の前にナイフの刃は浅く傷付ける程度だった。

 

「ハハハハハ!!!!どうした!?その程度の攻撃は私には通じないぞ!!」

 

道元が振り向いて、鉄球のような拳を振り下ろした。日影は後方にバク転をして、道元と間合いを取った。標的を失った拳は床に激突し、床に亀裂を入れた。

 

「なるほど……こうして力を使うのは初めてだが、やはり素晴らしい!!この妖魔の力で私は世界を牛耳る!!……お前にはその手伝いをしてもらうつもりだったのだがな……欲しくはないか?この力」

 

「そんなもん、いらんわ」

 

「だろうな!!この力の素晴らしさがわからぬ小娘にはな!!」

 

道元が再び衝撃波の攻撃をしてきた。日影は道元の攻撃を避けて、道元に攻撃をしようとするが、既に道元が間合いを詰めていた。

道元が黄ばんだ歯を見せながら嘲笑った。

強烈な打撃が日影を捉えた。日影は風に揺られる木の葉のように宙を舞い、床を転がった。うつ伏せに倒れる日影は身動き一つしない。

 

「むっ?もう終わりか?」

 

道元がゆっくりと日影に歩み寄る。

 

「もう少し楽しませてくれると思ったのだがな。まだ力を上手く制御出来ていないようだな。しかし、それにしても……」

 

道元が横たわる日影に視線を向ける。くびれた腹に無駄な脂肪の無い引き締まった脚。攻撃を防いでいた腕すらどこか艶かしい。そして、胸に実る二つの果実。道元の嫌らしく下卑た視線で日影をなめ回す。

 

「妖魔の力で甦らせるとするか……忍としては使えなくとも、"玩具"ぐらいにはなるだろう」

 

道元が日影の首を掴み、その体を軽々と持ち上げた。しかし、違和感に気付いた。体は力無くうなだれているが、ナイフだけはしっかりと握られている。無論、死後硬直ではない。

突然、日影は目を見開いた。その瞳は普段の黄色い鋭い瞳ではなく、紅い狂気に満ちた眼光を放っている。そして、ナイフで空を薙いだ。そのたっぷり三秒後、道元の肩に深い傷が走り、紫色の血液が吹き出た。

 

「なっ!?バカな!?」

 

「ヘヘヘ………ヘヘヘヘヘヘ……アハハハハハハ!!!!」

 

思わぬ深手に道元が日影を放した。切られた腕が力無くうなだれ、血液が止めどなく流れている。

日影はナイフに付いた血を振り払った。その時、ナイフの刃が複数に分かれた。刃同士は細いワイヤーで繋がれていて、その動きはまるで蛇のようだ。先程の一撃はこの蛇のように動くナイフで切りつけられたものだ。

日影は今現在"狂乱"の状態にある。身体能力を格段に上昇させ、痛覚さえ遮断する状態だ。無論、受けた攻撃が無効化されるわけではない。一時的に痛みを感じないだけで、ダメージは蓄積される。だが、狂乱の日影はそんなことも厭わない。

 

「行くで……行くでぇぇぇぇ!!!!」

 

日影は床も壁も、天井さえも縦横無尽に駆け抜けた。その速さに道元はついて行けず、防戦を強いられた。しかも、先程とは違い、日影の攻撃一筋一筋が致命的な傷を与えた。

 

「こ、こんなことが……あって、たまるかぁ!!!!」

 

道元が半ば捨て身で日影に向かって拳を突き出した。日影も応戦するように正面から突撃した。しかし、接近する拳を紙一重で避け、道元の腕の腱を切りつけた。両腕が力無くうなだれる道元のアキレス腱も切りつけ、完全に道元の動きを封じた。

 

「エヘヘヘヘヘ!!!!終いや!!

秘伝忍法!!ぶっさし!!!!」

 

日影は既に凄まじい速度ではあるが、さらに速い速度で道元の全身をナイフで切りつけた。傷口からは毒々しい血液が噴き出た。

 

「バ、バカ……な……」

 

道元が仰向けに倒れた。それに遅れて日影が膝を付いた。道元から受けた攻撃を抱えたままでの狂乱状態。身体への負担は大きい。

 

「せやけど、終いや」

 

「何が終わりだと?」

 

日影の背後で道元が何事も無かったように立っていた。

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