閃乱カグラ -芽生えの少女-   作:影山ザウルス

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芽生える日影

天井を突き破った穴から道元が降ってきた。その姿は妖魔の力を使い果たして人間に戻っている。どうやら道元は筋弛緩剤の作用や日影から受けた傷を治癒するのに妖魔の力を全て使い果たしたのだろう。パンツ一丁の姿ということ以外は体に目立つ外傷は無い。

床に横たわり、思うように体が動かない様子の道元を見て、日影は今度こそ確実に道元を葬るためにナイフを構えた。道元に向かって歩く足取りはふらついていて、今にも転びそうだ。

 

「今度こそ、確実に……仕留めたる……」

 

しかし、道元の下に辿り着く前に日影の体は大きく傾いた。体制を整える力も残っていない。そんな日影を後ろから誰かに抱き抱えられた。

陽だ。

 

「日影さん……もう終わりです……」

 

「まだ終わってへん……」

 

「終わりです!終わってください!!」

 

相手がどんなに極悪人で、人を道具か玩具か実験材料としてしか見ていないゲスだとしても、だからこそ、ちゃんとした裁きを受けさせる必要がある。少なくとも陽はそう思っている。だから、今、陽が日影を抱き抱えているのは倒れそうな日影を支えているだけでなく、日影がこれ以上手を汚さないためだ。これは単純に陽のエゴだろう。

 

「くっ……こ、これで終わりだと思うなよ!!」

 

道元が痛む体に鞭打ちながら逃走した。だが、日影も陽も道元を追おうとはしなかった。医院長室には日影と陽だけが取り残され、静寂の向こう側から何事もない日常の騒音が聞こえてきた。

 

「陽さん……そろそろ手ぇ放してもろてええか?」

 

「手?」

 

陽は自分の手がどこに触れているか辿った。手は何か柔らかいものに触れていた。大きくて弾力があって、触り慣れていないもののせいか、ずっと触っていたくなる温かい"それ"。陽は日影の胸がガッシリと鷲掴みにして彼女の体を支えていた。

陽は声にならない叫び声を挙げて、後退り、すぐに土下座した。

 

「すすすす、すみません!!!!本当にすみません!!!!」

 

「ええよ。陽さんも悪気があった訳や無いやろ?気にせんと。ワシには感情っちゅうもんがあらへんからな」

 

陽は顔を上げて、日影を見つめた。日影の言葉に違和感を覚えたからだ。

 

「陽さん、どないしたん?変な顔してるで?」

 

「いや、日影さんから名前で呼ばれるの久しぶりな感じがしてさ……」

 

「嫌なん?」

 

「いえ!全然!!そ、それよりそんな格好じゃ風邪引きます。貸せるのはYシャツしかないですけど……」

 

陽は日影に自分のYシャツを貸した。

 

「日影、無事か!?」

 

医院長室に焔達が現れた。四人も服のあちこちが破けていて、激戦を物語っている。

焔が周囲を見渡して道元の姿を探した。どうやら、医院長室に来る途中ですれ違わなかったようだ。

 

「日影、道元は?」

 

「逃げた」

 

「何!?今なら間に合う!皆、追うぞ!!」

 

「待って、焔ちゃん」

 

道元を追跡しようとした焔を春花が止めた。この中で一番日影との付き合いが長い春花には、日影の気持ちを察したようだ。

 

「もうええんや、焔さん。忍務終了や」

 

焔は弱冠不満そうだが、追うのを止めた。

 

「では、もう夜も遅いことですし、帰ってご飯にしましょう!!」

 

「賛成!!詠お姉ちゃん、アタシ、鍋が良い!!」

 

「さっ、焔ちゃんも行くわよ」

 

「あ、ああ……行くぞ、日影」

 

「わかった……陽さん、ほな、また学校で」

 

焔紅蓮隊は天井に開いた穴から夜の闇に飛び込んだ。しばらくして、外からサイレンの音が聞こえ、陽と日向は警察に保護された。

 

 

 

 

道元は自宅の隠し金庫に保管してある現金をボストンバッグに詰め込んだ。道元のビジネスには確かに需要があった。しかし、今回の失態は大きい。実験材料は全て消失し、自分の力まで消失した。現状では"出資者"から命を狙われる可能性もある。"出資者"にとって道元は数ある商品の一つでしかないのだ。

 

「どこへ逃げるつもりだ?」

 

背後に何者かが現れた。振り向くと紫色の髪を後ろで束ね、顔をマスクで隠した女の忍が立っている。両肩には巨大な手裏剣がカラスの翼のように広がっている。

 

「な、何者だ!?」

 

「貴様が知る必要は無い。まったく……うちの学校の生徒はトドメもさせないのか?」

 

侵入者はあきれた様子でため息をついた。

道元の自宅には侵入防止の罠や警報が設置されている。相当の実力者であることは間違いない。

 

「貴様、運がいいぞ!!いずれ世界を牛耳る男の駒になれるのだからな!!」

 

道元は侵入者に傀儡の術を使おうとした。しかし、道元の術は侵入者に届かなかった。

否。術が発動する前に道元は侵入者が持つ巨大な手裏剣で体を両断されていた。

 

「私の辞書に情けと容赦の文字は無い……」

 

侵入者は自分がいた痕跡を一切残さずに姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道元との死闘を繰り広げた夜から2週間が経った。

陽は何事もなく学校に通っている。もちろん、2週間前はそれなりに騒ぎになったが、今は以前と変わらない日常を送っている。学校では焔紅蓮隊の人達を見掛けることもあるが、あまり接点は持たないようにしている。また違う理由で誘拐されでもしたらたまらない。接点があるのは春花と、たまに日向のことで日影と話す程度だ。

日向に関しては約束通り鈴木家の病院で手術が行われることになった。治療費も後払いということでなんとかしてもらい、現在は検査入院中だ。体調が急変するようなことは無いそうだが、日影は放課後に毎日見舞いに行っているそうだ。父の話では日向が"以前"の体調に戻ることは無いそうだ。だが、日常生活には何ら支障は無いそうだ。

陽が日影とあまり話せないのは道元との戦いの中で恥ずかしいことを言ってしまったせいだ。本音とはいえ、この2週間ろくに日影の顔を見れないのが現状だ。

 

「そういえば、告白の答ってどうだったんだろう……イライラするって言ってたけど……」

 

「告白がどないしたん?」

 

「ウェホォイ!?」

 

陽は不意を突かれてしまい、変な声を挙げてしまった。

「さすがは忍」と言うべきか、それとも単純に陽が鈍いだけなのか、一人でぼんやりしていたはずの放課後の教室に日影が現れた。

 

「いえ、なんでもないです!!それより今日は日向さんのところに行かないんですか?」

 

「せやね」

 

「そんな日もあるんですね。あ、そう言えば聞きましたよ!日向さんの手術の日程!!来週中だそうですね!!」

 

道元の所で数年掛かっていた準備を数週で用意出来たのには訳がある。単純に道元が施そうとしていた手術と来週中に行われる手術の主旨が違うからだ。前者は日向を完成度の高い妖魔にするための手術であり、日向の病気の治療は二の次だった。しかし、後者は純粋に日向の治療を目的としている。準備期間が異なるのは当然である。

 

「せやね」

 

「なんかいつもと変わりませんね。もっと嬉しそうにすると思ったんですけど……やっぱり感情が無いからですか?」

 

「それはちゃうで」

 

日影は真っ直ぐ陽を見つめた。いつになく鋭い視線で見つめられているせいか、少し居心地が悪い。

 

「日向の手術の話を聞いて、嬉しいっちゅう感情がわかったんや。それとな、ワシが陽さんを見ててイライラしとる理由がわかったんや」

 

教室に差し込む夕日のせいか、日影の頬が紅く染まって見える。普段無表情な日影だが、何か言いたげな表情をしている。しかし、上手く言えなくてイライラしているようにも見える。

 

「日影さん?」

 

「やっぱ、イライラするわ。……つまり、こういうことや」

 

電光石火の素早い動きで陽の首を捉え、陽の動きを封じた。そして、そのまま陽が抵抗する間も無く日影は彼の唇を奪った。

 

 

 

 

 

 

ワシもな、陽さんのこと好きやで……

 

芽生えた少女の口付けには、そんな思いが籠められていた。

 

Fin




最後まで愛読ありがとうございました。
本作品は感情が無い日影が、主人公の鈴木陽と関わる中で感情が芽生えるという物語を描いたつもりですが、上手くいったかどうかは不明です。ただ、自分が満足する作品が書けたと思います。
裏設定というわけではありませんが、海で陽に小屋の場所を教えた老人は実は半蔵様でした。書いてて半蔵様らしさを出すのが難しかったので、ただの釣り好きの老人になってしまいました。お気づきの人もいるとは思いますが、最終話に凛が登場していましたが、実は1話で既に名前だけ登場しています。
こういう感じで小ネタを折り込んだ作品に仕上がったので、満足する作品が書けました。

物語の構成上、描かれていないエピソードがありますので、番外編として1話は書こうかなって思っています。

最後になりますが、読者の皆様から間違いのご指摘を受けながらも、無事に完結することが出来ました。皆様の応援があったから、この1ヶ月は本当に楽しかったです。
本当にありがとうございましたm(__)m
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