最終話、「芽生える日影」の後日談になるため、日影のキャラクターが崩壊しております。ご了承ください。
朝。温かい陽光が差し込み、目覚めへと誘うが、陽は陽光を避けるように背を向ける。
慣れない柔らかさと温かさが陽の顔を包んだ。その気持ち良さが陽を再び眠りへと誘う。しかし、陽は眠気でぼんやりする思考で自分の顔を包んでいる"これ"が何なのか考えた。クッションでも枕でも、布団、毛布でもない"これ"は一体何なのだろうか。陽には皆目見当も付かない。だが、寝ぼけながらも"それ"にもっと顔を近付けたいと思い、自分の方に寄せようと手を伸ばした。
触れたのは柔らかい手触りのシャツ。シャツ越しに体温を感じる。僅かに飛び跳ねるような鼓動が聞こえる。陽は恐る恐る目を開けた。
「おはようさん。よう寝れたか?」
そこにいたのはYシャツ1枚身に纏い、胸を大胆に開いた日影が横たわっていた。陽は日影の胸に顔を埋めていた。
眠気が一瞬で吹き飛び、目覚めた脳がフル回転して、現状を把握しようとした。しかし、急激に回転させたために、逆に混乱して、思わず叫んだ。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
陽は叫びながら起きた。しかし、日影の胸からではない。ちゃんと自分の枕から起き上がった。
「ゆ、夢?」
陽はどうやら夢を見ていたようだ。冷静に考えれば当然だ。隣にYシャツ1枚身に纏った日影がいるはずがない。
「ん……」
脇で小さく呻く声が聞こえた。陽が恐る恐る視線を向けると、Yシャツの半分がはだけて露になった日影が横たわっていた。その露になった胸を陽は大胆に鷲掴みにしていた。
「陽さん……意外と大胆やね……」
日影が恥ずかしそうに視線を反らす。
陽、思考停止。
真っ暗な思考の海で陽はどこまでも沈んだ。僅かに稼働する思考が今起きた出来事を"夢"だと結論付けた。現実な訳がない。海に行く日の朝も似たような夢を見た。だから、これも夢だ。
「夢なら起きないと……」
陽はゆっくりと目を開けた。起きればそこには自分一人しかいない部屋。目覚まし時計のアラームより少し早めに目が覚めているに違いない。陽は覚醒しつつある思考でそんなことを思いながら目を開けた。
視界に飛び込んできたのは緑色の髪の少女の顔。あまりに近いが、日影だとわかる。そして、"あの日の放課後"と同じ感覚が唇と口の中を蹂躙している。
「お目覚めのキスやで」
日影のキスで陽の思考は再び停止した。停止する瞬間、陽は思ってしまった。
『こんなに気持ちいい夢なら覚めなくていいや……』
目覚まし時計のアラームが部屋に鳴り響いた。騒がしい電子音が陽の思考を無理矢理睡眠から引きずり起こした。
重たい瞼を開け、アラームを止めると部屋を見渡した。いつもの部屋。適度に散らかり、適度に整頓された自分の部屋には自分以外誰もいない。
「ああ、やっぱり夢か……」
最初は胸に顔を埋め、次は胸を鷲掴み。最後は日影からの熱烈なお目覚めのキス。思考が停止する程の"夢"ばかりだったが、こうしてちゃんと目が覚めてしまうと"夢"であることを実感し、少し残念に思う。
「さて、今日も張り切っていかないとな」
陽は"夢"の内容を振り払い、部屋から出ていった。
陽がいなくなった部屋に天井裏に隠れていた日影が現れた。その姿はYシャツ1枚身に纏った、陽が"夢"だと思っている出来事に出ていた姿と同じだった。
「ほんま、陽さんはおもろいわ」
日影は小さく笑うと、着ていたYシャツを陽のベッドに脱ぎ捨て、自分はいつもの忍装束に着替えた。
「次はどないしよかな」
日影は陽の部屋から姿を消した。