文化祭エピソードになりますので、そんなイメージで読んでいただけると幸いです。
陽が通う高校で文化祭が開催された。数々の模擬店やお化け屋敷、文化部の展示が行われる中、陽は暗い体育館のステージ脇に立って、出番を待っていた。
「どうして、こんなことに……」
舞台の幕が上がる。
昔々、ある所に"春花様"と呼ばれる女王様がおりました。春花様は"お人形"と遊ぶのが大好きで、目隠しと猿轡で拘束した城下町の若い男を弄んでいました。そんな春花様には特別なお人形がいます。ピンク色の髪と華のような形の不思議な瞳が特徴的なそのお人形の名前は雲雀と言います。雲雀だけには特別に可愛らしいお洋服を着せて、毎日のように朝から晩まで過ごしていました。
ある日、雲雀にはどんな質問にも答える不思議な力があることがありました。春花様は早速質問してみました。
「雲雀よ、雲雀。私は綺麗?」
雲雀は嘘無く答えます。
「うん!!春花さんはスッゴく綺麗だよ~♪」
「あ~ん♪可愛いわ~♪食べちゃいたい♪」
「食べちゃダメ~♪」
毎日、朝、昼、晩と春花様は自分が綺麗か雲雀に質問しました。
ところがある日、春花様は気まぐれに聞いた質問の答に驚きます。
「雲雀よ、雲雀。この世で一番美しいのは、私かしら?」
雲雀は少し言いづらそうに答えます。
「う~ん……ごめんね、春花さん。春花さんは世界で一番綺麗じゃないよ。でもでも、凄く綺麗だよ!!」
春花様は雲雀の答に驚きませんでした。女王様と言っても、そこまで自信過剰ではありません。
「いいのよ、雲雀。そんなこと私もわかっているわ。じゃあ、この町ではどうかしら?」
一気に範囲を絞れば一番くらいになれると春花様は思っていました。しかし、雲雀は悲しそうな顔をして言います。
「ごめんね、春花さん。春花さんはこの町では二番目に綺麗だよ」
「ホゲ!?ワタシ、ニバンメ!?」
春花様は驚きのあまり言葉が片言になってしまいました。
「ダレヨ!?イチバン、ダレヨ!?」
「一番はね……町外れに住んでる陽っていう人だよ」
町外れにある家には凛と大道寺という女性の他に、住み込みで働いている陽という"メイド"がいました。
意地悪な凛と大道寺は毎日のように陽を虐めて楽しんでいました。
「我らをいつまで待たせる気か!?」
「遅いぞ!!」
「は、はい!!只今お持ち致します!!」
陽は毎朝二人よりも早く起きて朝食の準備をしています。しかし、すっかり作り終えて待っていれば「うぬは我らに冷えた飯を食えと言うのか!?」と言われ、今朝のように少しでも遅くなれば、早くしろと急かされます。
「うぬは我が好みを熟知しておらぬのか!?肉はどうした!?量も足りんぞ!!」
「今朝も不味いな……私の辞書には情けも容赦も無い。料理の感想も同様だ」
陽は今朝も二人に散々言われました。
朝食を食べた後、二人は狩りに出掛けます。静まり返った家で陽は一人、涙を流しながら掃除と洗濯を行います。こんな辛い毎日ではありますが、いつか王子様と綺麗なお城で暮らすことを夢見ていました。
ある日のことです。夕方に陽が家中の掃除を終わろうとした時、恐ろしいことが起きました。突然、食器棚の皿が床に落ちて割れてしまったのです。しかも、1枚だけではありません。食器棚の戸棚が全部開いて、食器という食器が飛び出し、音を立てて割れてしまいました。それだけではありません。二階の二人の寝室にあるクローゼットの服までクローゼットから飛び出し、家中に散らかりました。陽はその様子を怯えて、ただただ眺めているだけしか出来ませんでした。
全部の食器が割れて食器棚が空になって、クローゼットの服も全部飛び出して空になって、ようやく家が静かになりました。しかし、陽はすっかり怯えてしまって動くことが出来ません。目の前で起きた出来事もですが、もうすぐ帰ってくる凛と大道寺がこの有り様を見た時の反応を恐れていました。
その時、家の扉がゆっくりと開きました。外には熊を担いだ大道寺と十数匹の兎を両手に持った凛が鬼の形相で陽を睨み付けていました。
「貴様……何か言い残すことはあるか?」
担いでいた熊を下ろして、大道寺が指の骨を鳴らしながら近付いてきます。
「お、お待ちください!!僕は何も!!」
「問答無用!!」
凛が兎の血が乾いた大きな手裏剣を構えます。
陽は逃げました。きっと二人にとって陽は邪魔者でしかありません。二人が望むような家事が出来ていないだけでも二人は陽に対してイライラしています。そこに追い討ちをかける今回の怪奇現象です。二人の堪忍袋は完全に切れてしまいました。
陽は日が暮れた暗い森の中を逃げました。森は暗くて寒くて凍えてしまいそうでした。後ろを振り向いたら二人に追い付かれてしまうと思って、陽は一心不乱に走ります。木の根っこに躓いても足が縺れても、陽は体力の続く限り深い森の中を走り続け、遂に力尽きました。
「大丈夫ですか~?」
外に跳ねた短いポニーテールの少女が立っていました。