閃乱カグラ -芽生えの少女-   作:影山ザウルス

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日影と忍務 中編

陽は気が付くと毎日何度も日影の姿を探してしまい、その度に自己嫌悪した。告白直後の反応を見れば、答えなんて一目瞭然だった。だが、諦めきれないでいた。

 

「一週間……学校に来てないし……」

 

夏休みが明けて一週間が経っていたが、日影は登校していない。だから、陽が日影の姿を探していても、そこに日影はいないのだ。春花にも聞いてみたが、最近、日影とは連絡を取っていないようだ。MIYABIでのバイトも既に辞めている。完全に音信不通だ。

「日影が学校に来ないのは自分のせい」という思い込みもすることがある。だが、それはおそらく自惚れという物だ。

陽は大きいため息を漏らす。どうやら末期のようだ。

 

「なんや、えらいため息ついてんな?どないしたん?」

 

胸が高鳴った。聞き覚えがある気だるい関西弁。視線を上げると放課後の教室に差し込む夕陽で赤みを帯びて見える青白い肌の少女が立っていた。

日影だ。

 

「どないしたん?今度は顔が赤くなっとるで?」

 

「あ、いや、これは……夕陽のせいですよ」

 

どうして放課後なのに学校に来たのか。この一週間どうしていたのか。そんな疑問なんてどうでもよくなってしまった。陽は自覚していたが、改めて自分がどうしようもなく日影のことが好きなのだと再認識させられた。

 

「えっと……帰るところなんですけど、一緒に帰りますか?」

 

「せやね。ちょうど、あんたに話があったんや」

 

日影は立ち上がり、中身が少なそうな鞄を肩に乗せた。陽も机の脇に引っ掻けている鞄を持ち、日影と並んで、教室から出た。出るとき、日影は教室を振り向き、自分の席を見つめるが、すぐに歩き始めた。

 

 

 

 

二人はいつもの帰り道とは違う道を歩いていた。駅に向かうには逆方向だ。

 

「えっと……その……話ってなんですか?」

 

気持ちが浮わついている陽はにやけそうな顔を必死に堪えている。海での反応を見た限りでは、もう二度と話をすることもないと思っていた。それが日影から話しかけられたのだから、嬉しくない訳がない。しかし、日影の話の内容がわからない。改めて断られる可能性も否定できない。

 

「こないだ、日向の話したやろ?」

 

海で二人で夕陽を見た時だ。陽はあの時、聞きたいという気持ちを飲み込んでいた。その後の告白や襲撃の一件で記憶の片隅に残っている程度だが、確かに話していたのを覚えている。

 

「今な、日向は入院しとるんや。もう何年も手術を待っとったんや。せやけど、もうすぐ準備が終わるんや」

 

陽は驚いていた。日影が身の上話を自分から話していることも驚きだが、それよりも驚いたのは日影の口調だ。いつもの平淡な口調と違って感情が籠っている。それだけ日向という人が日影にとって大事な存在で、手術の話が嬉しいのだろう。

 

「良かったですね、おめでとうございます!!」

 

「……おおきに」

 

日影は続けて、日向との関係を語った。

日向と出会ったのは、日影が8歳の頃だそうだ。日向のお陰でなんとか学校に通い、貧しくも幸せそうに生きてきたのが話から聞き取れた。だが、数年前に日向は病に倒れ、手術をずっと待っていたようだ。

 

「でも、もうすぐ手術なんですね。本当に良かったですね」

 

「せやね。…………せやけど、足りんもんがあるや」

 

日影が身の上話をしている間、わずかに表情があった。しかし、再び日影の顔から表情が消えた。

 

「足りない……物?」

 

「あんたんとこの病院で作っとるっちゅう新薬や」

 

この空気が変わる感じるのを最近何度も経験している陽だが、変化を予知したり、察知するのは遅い。気が付いた時にはもう手遅れだった。

今さらだが、自分が化物に襲撃されて、死にかけたのは、ついこないだのことだ。いつまた襲撃されるかわからないから警戒していたはずだが、日影に会えてすっかり忘れていた。

日影が陽の正面からゆっくりと迫ってきた。陽は蛇に睨まれた蛙のように動けない。

 

「ひ、日向さんを助けたいんですね?」

 

「せや」

 

「そのために僕が一人になるのを?」

 

「せや」

 

「あ、あの薬はまだ開発途中で、どんな副作用があるかわからないんです!!」

 

「そんなんどうだってええ…………日向を助けるためなら……」

 

陽は逃げ出した。運動音痴で体力測定は常に最下位の陽の全速力で逃げた。

 

「遅いで」

 

その全速力をいとも簡単に追い抜き、陽の目の前に立ちはだかる日影。そして、腹部を貫く鈍痛。意識が遠退いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誘拐される経験はほぼ皆無だろう。だが、陽は誘拐された。しかも、クラスメートの女子生徒に。

両手は細い柱に縛られ、身動きが取れない。周囲を見渡すと埃が堪っていることからもう何年も使われていない倉庫のようだ。目の前には海で襲撃された時に助けてくれた"彼女"がいた。しかし、襲撃の時のようにゴーグルのような物で顔を隠してはいない。素顔のままの彼女がいた。

 

「なんとなく、そんな気がしたんだ…………日影さんだったんだね」

 

目の前にいるのは紛れもなく日影だった。

 

「なんや気付いとったんか。せや、ワシは忍……悪忍・日影や」

 

悪忍。悪徳政治家などを依頼主とし、違法行為も厭わない現代に生きる忍集団の総称。

日影は片手でナイフを弄びながら、もう片手で陽のスマートフォンを操作している。操作し終えると陽の耳元にスマートフォンを押し付けた。どうやら電話のようだ。

 

『もしもし、陽か!?』

 

相手は陽の父、晴也だ。

 

「あ、お父さん……」

 

『お前、今どこにいるんだ!?』

 

「いや、えっと……なんて言ったらいいんだろ……今、どこかの倉庫の中……誘拐された」

 

『なっ!?まさか本当に誘拐されるなんて……』

 

陽の知らない所で鈴木家には脅迫状が届いていた。内容は「息子の命が惜しければ、大人しくして、言うことを聞け」というものだ。下手に警察に相談したことがバレれば、陽に何があるかわからない。そのため、本人にも脅迫状のことは伏せていた。

日影がポケットから紙を取りだし、陽に見せた。

 

「あ、要求が出たから読むね。

明日、蛇総合病院から商談を持ち掛ける。内容は新薬とその特許製法、及び、その販売と使用の諸権利の譲渡。要求が承諾頂けない場合は……息子共々、社会的に抹殺するって……」

 

日影は電話をすぐに切り、スマートフォンを地面に叩きつけた上で、踏み潰して破壊した。恐らく逆探知などでこの場所が露見されるのを恐れたのだろう。

倉庫を見渡すと窓は無い。だが、恐らく外は夜だろう。日影は相変わらずナイフを弄び、時間を食い潰していた。

 

「日影さん……」

 

沈黙に耐えられず、陽は声をかけてみた。日影は鋭い眼差しで陽を睨み付けた。

 

「あんた……今、どんな状況かわかっとるん?」

 

「まあ、一応……」

 

少なくとも呑気に話し掛けられる状態ではないはずだ。だが、あまりに非日常的な現状に陽はある種の興奮さえ感じていた。

 

「…………あんたな…………ワシは商談の結果に関わらず、あんたを殺すように言われてるんや」

 

日影は少し呆れた様子で忍務の内容を明かした。

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