鬼を滅するは呪いの刃   作:トロピス

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3話

それから耀哉の父を埋葬したあと、今後の方針について本格的に話し合った。

 

その結果、鬼殺隊の隊服を着ずに鬼狩りをすると他の隊士に混乱させてしまう可能性があるため、可能な限り隊服を着用することが決定した。また、世那がいた世界の事や世那自身の力についても耀哉だけには全てを打ち明けた。

 

そして世那には新しく屋敷が与えられ、基本的にはそこで衣食住をすることになった。

そして現在、世那は自身の屋敷の居間で自分の身体に起きている変化について調べていた。

 

 

「…術式が使えない、か。というよりもまるで栓がされているような状態だな。この世界に呪力がないからこそ身体がまだ馴染んでいないということか。そうなるとまず最初にやるのは術式の回復。呪力は練れるから反転術式も問題ない。なら、疑似【()】でも作るかね」

 

やるべきことが決まった後の世那は早かった。

屋敷の離れにある小屋へ向かうと簡単に作った呪符を用いて簡易的な穴と周囲に結界を張った。

続けて自身の持っている刀を抜いては呪力を流しこむ。

 

黒喰(こくじき)、斬り落とせ」

 

世那がそう唱えると黒喰という刀はまるで意思を持ったかのように浮かび上がると、そのまま刀は世那の四肢を全て斬り落とした。

本来なら血しぶきが周囲に飛び散るはずが、その血は規則性を持って穴の中に全て吸い込まれていく。

 

「うーん、これなら意外とすぐ終わるか」

 

それから世那は反転術式を使って斬り落とした四肢を再生させると、また黒喰に斬り落とすよう指示を出した。

回復して斬り落としての繰り返し。それを数百回程度行うと日が沈むころには穴が大量の血と四肢でいっぱいになっていた。見る人が見れば確実に失神するだろうその地獄の光景は、世那にとっては慣れたものだった。

 

世那のいた柊木家はもともと呪術界に大きな権力を誇る御三家を陰で支える四柱家の一つ。その四柱家の中でも柊木家は呪具の作成に精通している。

そしてこの呪具作成に置いて、【浴】というのはとても大事な役割をしている。

浴とは簡単に言うと質の高く濃い呪力液に呪具化させたい器物を十月十日漬け込むことで完成するもの。

柊木家もこの浴を使って様々な呪具を作っている。

そしてその浴を作る際に使う呪力液、それが自信の肉体なのである。

もともと、柊木家に生まれてくる子には必ず天与呪縛がある。呪力を使う際に身体が焼かれるような痛みを伴う代わりに、膨大な呪力量と反転術式の使用が可能となっている。

その結果、世那は幼い頃からよくこうして四肢を斬り落とされては呪具作成の糧にされてきたので、今の彼には痛覚というものはない。

だからこのように躊躇なく自身の四肢を淡々と斬り落とすことができるのである。

 

四肢と血だまりで出来た満杯のその穴に世那は大量の呪力を流し込む。

それを数日かけて行う。定期的に鬼を絞め落とし、この疑似浴に血を流し込んでは殺しての繰り返し。定期的に四肢をすりつぶして体積を減らしたりと行いながら。

世那がこの世界に来て約一週間が経っていた。

 

「大体俺の血が4、呪力が4、鬼の血が2の割合になったかな。後はこれに入っていけば術式も回復できるだろ」

 

世那は服を脱ぐと疑似浴に入る。ぬるりと血が身体に纏わりつく嫌悪感を感じながら、肩までどっぷりと浸かる。

 

「…漬物になった気分だな。せっかくだし、他の呪具も浸けておくか」

 

世那は指にはめていた指輪に呪力を流し様々な呪具を出現させては一緒に穴へぶち込んだ。

それから世那の一日の流れが決まった。

 

5時頃に鬼狩りから帰ってきてまず身体を風呂で流してから疑似浴しながら仮眠をとること5時間、10時半ごろに朝食を取り、そのあと町などを探索し、夕方ごろに屋敷へ帰宅。ご飯と風呂を済ませて鬼狩りへ。

こういったルーティンで過ごしていると、月日があっという間に経ち、気づけば世那がこの世界に来て一年が経とうとしていた。

あまりの時間の速さに世那は少し驚きつつも、回収できる情報は着実に集まっていたことに良しとしていた。

 

「…もう一年か」

 

疑似浴に浸かりながらこれまでの一年間を振り返る。

と言っても、あまり変わり映えしない日々を過ごしていたためか、振り返る内容が少ない。

しいて言うなら術式が完全に回復したことと、耀哉が13歳になって結婚したことだろうか。

どうやら、耀哉にかけられた呪いを軽減するために神職の家系から妻を貰うことで少しの呪い耐性が得られるらしい。

そして短命だからこそ、なるべく早くに子どもを作らなければいけないらしい。

 

大変だなお館様、そう思った世那

 

そんなことは世那にはどうでもよかったので、耀哉が結婚した時、せめてものお祝いにと手料理を耀哉とその妻であるあまねに振る舞ったところ、二人の口に合ったらしく、それからは定期的に三人でご飯を食べるようになった。

他にも耀哉の呪いに関しての診断や出かける際の付き添いなど、三人で活動することが増えた。

 

世那の暮らしだけで言えば、最近屋敷が耀哉によって拡張され、だいぶ広くなったことを良いことに世那は視覚阻害系統の呪符などを使って新しく温泉を構築。反転術式を流して耀哉の呪いに対して回復効果もしくは抵抗効果を得られるかの実験を行っていた。

 

そして今日も耀哉に呼ばれ会いに行くと、どうやら行きたいところがあるらしく、耀哉と少し遠出することになった。

 

 

 

 

 

「それで、どこに向かってる?」

 

「実は前に鬼を素手で殺した者がいたらしくてね。今日はその者へ会いに投獄されてる場所に行きたいんだ」

 

「投獄?鬼が崇拝でもされてたのか」

 

「その者は小さな寺に複数人の孤児と一緒に暮らしていたらしいんだ。だけど、ある日にその寺が鬼に襲撃され、孤児は一人を残して全員殺されてしまった。なんとか鬼は今回会う者に殴り殺されたのだけれど、鬼は死体が残らない。混乱した孤児の子はその者を殺害者と村の人たちに誤って伝えてしまい、そのまま投獄されてしまった」

 

「なるほど。言い方は悪いが、不運が重なったんだろうな。それで、今回耀哉はそいつを助けようとするわけね」

 

「そうだね。私の勘だけど、今から会う者は近い将来鬼殺隊を引っ張ってくれると思うんだ」

 

「そっか。まあ俺は鬼殺隊じゃないし、耀哉のやりたいようにやればいい」

 

「ふふ、そうだね。世那は私の親友なんだもんね」

 

耀哉はにっこりと世那に笑顔を向ける。

隊士たちの前では決して見せない純粋無垢な年相応の笑顔。

耀哉はよく世那の前ではこのような顔をする。

世那は耀哉のこの顔に弱い。

呪われた運命に負けじと抗い、責務を全うしようと未来を生きるその姿。

他の人とは違う強い意思を持った耀哉はどこか共感できる部分を感じていた。

だからだろうか、世那は耀哉に弱いし、なにより甘い。

 

世那は溜息を吐くと少し乱雑に耀哉の頭を撫でた。

サラサラなその黒い髪が指の間を綺麗に梳き通った。

それを気持ちよさそうに目を細めて受ける耀哉はクスクスと笑っていた。

しばらくその二人の時間は続いて、行動を再開すると目的地にはすぐについた。

 

「こいつが例の?」

 

「ああ、彼が鬼によりあらぬ疑いをかけられてしまった、悲鳴嶼行冥だね」

 

世那と耀哉の目の前にいるのは頭に包帯を巻いた白眼の男だった。

年齢は今の世那の肉体よりも1歳上の18歳、身長は190ある世那よりも高いことから200は超えているだろう。

 

「世那、この牢を壊すことはできるかい?」

 

「できるけどいいのか?」

 

「もう町の人たちとは話が済んでいるからね。この牢も取り壊しが決まっていることも聞いているからいいよ」

 

「…さいですか。それじゃ手っ取り早く」

 

世那は刀に手を添えると、いつの間に納刀の音が心地よく耀哉と悲鳴嶼の耳に響いた。

その瞬間、牢に複数の線が走るとそのまま綺麗に切断された。

その一瞬の早業に耀哉は眼に見えて喜んでは拍手を送り、目が見えない悲鳴嶼は音だけでその世那の強大な力の片鱗を感じ取った。

冷汗が頬を伝う。この者たちは一体何者なのだろうかと。

 

「ここで話すのは君も辛いだろうからね。後日また話の場を設けさせてもらうから、今日のところはしっかりと心身共に休めてほしい。それじゃ皆、よろしくね」

 

耀哉はそう言うと手を二度叩く、すると隠の者たちが目の前に3人現れて悲鳴嶼へと話しかけていた。

それから世那と共にその場を離れ、せっかくの遠出だからとゆったり産屋敷邸に向かいながら色んな町を見て回ったのだった。

 

 

 

そして後日、藤の花が満開に咲く幻想的な場所で世那と耀哉と悲鳴嶼は出会っていた。

 

「疲れは取れたかな」

 

「は、はい。その節は誠にありがとうございました。」

 

「いいんだ。君はなにも悪いことをしていないのだから。むしろ君は一人の少女を助けた(・・・・・・・・・)んだ。彼女の未来を守った君には当たり前の権利だよ」

 

その耀哉の言葉に思わず心臓が跳ねた悲鳴嶼。彼が言ったその事実は、本来その場にいた者しかわからないはずだからだ。

 

知るはずもなく、ただ自分は罪なき罪を受けて罰せられるかと諦めていたのに。

 

「君が人を守る為に戦ったのだと私は知っているよ。君は人殺しではない(・・・・・・・・・)

 

一番欲しかったその言葉は、今まで自分が我慢して諦めていたものを吐き出させるには十分だった。

思わずその場で崩れて零れる涙が地面を濡らしていた。

自分のお召し物が汚れてしまうにも関わらず、地に膝をつけて優しく抱きしめてくれる。

ああ、なんて慈悲深く、暖かい人なのだろう。

 

 

それから耀哉は悲鳴嶼にこの世に鬼がいることや、自分たちがその鬼を滅する鬼殺隊その存在を打ち明けた。

世那はずっと綺麗に咲き誇る藤の花を眺めている。

耀哉の話を聞いて自身も鬼殺隊に入ることを決めた悲鳴嶼は、その後その体格と腕力を活かした戦い方をする鬼殺隊最高戦力たる柱の一人に話を通し、今は鬼と戦う上で必要な呼吸法を取得するために修行をすることになったのだった。

 

 

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